今回でSaga1が終了となります。
長々とありがとうございました。
◇◇◇◇◇◇
「俺は、仮面ライダーディライト…ミスリックナイツだ!」
白銀の戦士が宣言する。静かでいて、だが高々とした声色だが、その声は間違いなくレイトのものだった。
その言葉に真っ先に反応したのは、暗星のノクターヴだった。
「仮面ライダーディライト…?あなたガ…勇者ディライトだと…⁉ふざけるのも大概にしなさイ‼」
かつてデブリスの王を打ち倒したと言われるその名前に激昂したノクターヴが、鋭爪を振りかざし、仮面ライダーディライトへと躍りかかった。
何ということはない。ただ見た目が変わっただけで、中身は先程まで情けなく震えていたあの少年なのだ。名前や姿を取り繕ったところで、上級吸血鬼であるノクターヴが負ける道理などありはしないのだ。
ノクターヴはそれこそ、風の様な速度で突進していく。人間を遥かに超える力から生み出される爆発的な脚力で、ノクターヴは一気にディライトへと肉薄し、その爪を振り下ろした。石材すら切断する、精強な爪だ。例え鎧を纏っていても人間が喰らえばただでは済まない。人間には視認すら困難な速度で迫りくる爪の一撃がディライトへと吸い込まれていき、アイリスは思わず、「レイト…‼」と悲鳴に近い声をあげる。
しかし。
ディライトの動きはそれ以上に早かった。神速で迫りくる爪撃を、ディライトは一瞬で空中へと飛び退り、回避した。獲物を確実に仕留めたと思ったその寸前で躱されたのだ。それによって生じた隙をディライトは見逃さない。ディライトは空中でそのまま身を翻すと、ノクターヴの顔を思いきり蹴り上げた。
「ぐおォォォォッッッ!!!」
ノクターヴの巨体が吹き飛ばされ、石畳の上を何度もバウンドする様に叩き付けられた。アイリスは驚愕に目を見開く。相手は不滅に近い再生能力を持つ、将星級のデブリスなのだ。それがただの蹴りの一撃で、無様に石畳の上をのたうち回る事になるとは。だが、その事実に最も驚いているのは、ノクターヴ本人だろう。
「バ、バカなァァッッ…!認めヌッ…!この私がっ…たかが人間如きに良いようにやられるなどっ…⁉」
怒りと恥辱に表情を歪ませ、ノクターヴが叫んだ。
「貴様ァ…、一体何者だァ!まさか、勇者ディライトの生まれ変わりだとでモッ…⁉」
「いいや…違うよ。お前が下等と見下す人間の中でも、とりわけどうしようもない、ただのオタクなガキさ」
ディライトが———否、レイトが静かに告げる。だが、堂々としている様でも、その声色には荒い息遣いが滲み、隠しきれないあの少年の真っ直ぐさが覗く。アイリスは確信した。あの仮面の下に息づいているのは、間違いなくレイトなのだと。
レイト———仮面ライダーディライトが地に伏すノクターヴへ、ゆらりと指を突き付け、決然と宣言した。
「オタクの意地を見せてやるよ、暗星のノクターヴ…。ここから先は…俺の
「ぐッ…!人間ガ…調子に乗ってんじゃネェッ‼」
ノクターヴの怒りも頂点に達した。唐突に爪で自身の胸元を切り裂く。当然傷口から滝の様に血が溢れ出てくるが、次の瞬間、それが無数の杭に変化した。
一部の吸血鬼が使用する、自らの血を様々な武器に変質させる技だ。吸血鬼の血はその強靭な生命力の源ともいえるものであり、人間は触れるだけでその体を破壊される程のエネルギーを帯びているのだ。それが鉄杭の流星となってディライトへと降り注いでいく。
だが、ディライトの動きは想像以上に素早かった。血の雨の中を縦横目まぐるしく飛び退り、ただの一撃たりともその身に食らう事はない。ただの人間、とレイトは言っていたが、跳躍力・反射神経、どれをとっても人間業ではない。ただ鎧を纏っただけ、というのは本質的に違う。紛れもなくあの少年が超人的な力を持つ戦士に変身したのだろう。
だが、躱すだけでは勝負には勝てない。レイトはアイリスから託された純銀剣をその手に持ち、それにエネルギーを流し込んだ。ディライトのパワーが流し込まれた刀身はその形状を大きく変化させた。形状は一回りほど大型化し、グリップ部分にもナックルガードの様なものが追加されている。
〈トランスラッシャー!〉
トランスラッシャーと呼ばれた、剣の刀身がキラキラと黄色の輝きを帯びる。ディライトは剣を素早く左右に振り、襲い来る血杭を叩き切りながら、ノクターヴへと一気に距離を詰めてきた。あまりの素早さに防御する暇すらない。
だが、ノクターヴは焦ることなく、両方の爪を振り上げ、ディライトを迎え撃った。
「無駄ですヨ!私には人間の斬撃武器など通用しなイ‼」
自身の再生能力は並の物ではない。例え、首を胴体から切り離されたとしても再生してみせる上級吸血鬼の命はほぼ無限だといってもいい。どれだけ珍妙な力を身に着けようとも、物理での勝負において自身の優位が覆る筈が———。
だが、この傲慢な優越感こそがノクターヴにとって命とりとなってしまった。刀身がまた一段と激しく輝きを放ち始めたトランスラッシャーが、襲い来るノクターヴの両腕をあっという間に切り飛ばしてしまった。
「ギアァァァァァッッッッッッッ!!!!」
かつて経験した事のない痛みが、切り落とされた両腕からノクターヴの全身へと駆け抜けていく。先刻、アイリスとの戦いで彼女を油断させる為に、嘘の悲鳴を放ったが、あれとは根本的に違う。上級吸血鬼がその長い生の中で初めて上げる、心からの絶叫だった。
加えて、
「な、何故ダァッッッ⁉何故、傷口が再生しなイィィィッッ⁉」
いつもなら瞬く間に再生する傷口が、何故か焼け爛れた様に溶け出し、一向に再生する気配がなかった。まるで切られた部分から細胞が次々と壊死していく様な感覚に、ノクターヴは普段の不遜さもどこへやら、みっともなく地面をのたうち回った。
何が起きているのか、アイリス自身にも完全にはわかっていない。だが、ある1つの仮説があった。
「やっぱりあれは…光の霊薬…『ライトライドラッグ』なの…?」
光の霊薬。ライトライドラッグ。それは、まだ生成方法が分かっていない、未知の霊薬の名前だった。
先程、レイトが見せてくれた未知のライドラッグ。あれは今、ディライトのベルトに挿入されている。つまり、あのライドラッグに込められた未知のエレメントをディライトは纏っているのだろうと考えられる。
暗星のノクターヴは既存のエレメントエネルギーが一切通用しない様な口振りだった。だがディライトが今纏っているのが、全く未知のエレメントだと言うのであれば、傷口が再生しない理由も説明がつく。本当にライトライドラッグなのかはともかく、あれは間違いなく目の前の上級吸血鬼にとって特効となり得るものなのだ。
だとするなら、勝機も見えてくる。そうだと言うのであれば、自分もこんな所でいつまでも倒れ伏している訳にはいかない。アイリスは再び剣を握りしめ、体の各部に力を込める。体の各部が痛みに悲鳴を上げるが、今戦場に意地を見せて踏ん張る少年がいる。ならば、立ち上がる理由はそれだけで十分だった。
◇◇◇◇◇
ディライトとノクターヴの戦いは大筋で決したと言っても良かった。両腕を切り落とされ、加えて自身の再生能力すら発動しない状況にノクターヴは完全に恐慌に陥っていた。その隙を見逃すディライトではない。トランスラッシャーの斬撃が、そして繰り出される拳や蹴撃が、確実にノクターヴの体力を削いでいく。跳躍し、背後へ回り込むとトランスラッシャーの刃がノクターヴの両翼を切り裂いた。これでノクターヴは上空へ舞い上がる事も出来なくなった。
だが、上級吸血鬼もそう簡単に諦める程、安いプライドは持っていない。
「クソ人間ガッ…!調子に乗ってんじゃねぇゾォォッッ‼」
絶叫と共にノクターヴも口内から奇妙な音が発せられた。強化されたディライトの感覚だからこそ捉えられる程度の音でしかないが、それに明らかに反応したのは、ずっと周囲を取り囲んだまま、微動だにしていなかったカブーラ達だった。
「殺せッ!そのクソガキを殺セェェッッ‼」
やけくそ気味のノクターヴの命令に従い、20体ばかりのカブーラがディライトへと殺到していく。
「くっ…!流石にこの数は、ちょっとなぁ…!」
ディライトに変身し、超人的な力を身に着けた今のレイトにとって、下級吸血鬼の相手など造作もないが、流石にこの数で来られると対処が追い付かない。幸い、相手はそこまで統制のとれた動きをしてはこない。一体一体確実に倒していくのがベストだろう。
背後から寄ってきたカブーラを胴薙ぎに切り払う。鋭い傷がカブーラの胸に刻み込まれ、怪物が絶叫を上げる。だが、それでも倒れる事はなかった。先程ノクターヴを切りつけた時よりも、何と言うか「手ごたえ」が薄い様な気がするのだ。
「効いてない…って、訳じゃなさそうなんだけどな…」
「キシャァァッッ‼」
「…おっと⁉」
背後からディライトへとカブーラが3体程、躍りかかってくる。完全に不意を突かれ、思わず身構えるが、
「させない!」
次の瞬間、切り裂かれていたのはカブーラ達の方だった。
下級吸血鬼を切り捨て、ディライトの傍に1人の少女が降り立った。
「レイト、無事?」
「アイリス…⁉もう大丈夫なの?」
「誰かさんの
アイリスが何かを放り投げて寄こした。赤い薬液が充填された円柱の薬瓶。
「ファイアライドラッグ。カブーラにはこっちのが効くから」
「…ありがとう。使ってみる」
ディライトはドライバーから黄色のライトライドラッグを抜き取ると、代わりにファイアライドラッグをスロットに装填した。
〈ファイア!〉
「エレメントチェンジ!」
〈オールセット、ディライト!ファイアシルバー!〉
エレメントライドラッグをドライバーに装填する事で精製されるグローブやブーツ、胸甲、仮面といったパーツ群は、総称して『アーマムエレメント』と呼ばれる。それらが装着される事でディライトは己の攻撃や手持ち武器にエレメントを付与する力を得るのだ。
装填されたファイアライドラッグに反応して精製されたのは、赤色の炎属性のアーマムエレメントだ。それらが白銀のボディへと装着されていき、ディライトは新しい姿へとチェンジした。
聖銀の鎧に燃え盛る炎のエレメントを宿した形態、『仮面ライダーディライト ファイアシルバー』である。
「うおおおおおっっっっ!!」
気が昂るのは炎のエレメントの影響か、それとも新形態の登場という
やがて、カブーラ達も殲滅され、戦場にはノクターヴ1人が取り残される事となった。辛うじて両腕は再生できたものの、その所為でほぼ体力を使い果たし、使える手駒は全て失ってしまった。正しく満身創痍、という状態だ。
「馬鹿ナ…!何故私が…こんな所で、地に伏さねばならないのダッ…⁉」
だが尚も往生際悪く、敗北を認めないノクターヴにアイリスは剣を突き付け、言った。
「あなたの負けよ…暗星のノクターヴ。最後に魔王ディアバルの事、しっかり説明して貰おうかしら?」
「…ッ⁉ふっ、ふざけるんじゃネェ‼誰が負けたダァ⁉口を慎みやがレ小娘ガッ!我らはエルシングス…ディアバル様の側近だゾ!我々がッ…たかが人間如きに負けるなんテ…あり得ねぇだろうガァァァッッッ!!」
雑言を撒き散らしながら、ノクターヴがディライト達に向けて躍りかかってきた。とても弱っているとは思えない程の尋常でない気迫が満ちたその姿に、ディライトはアイリスを守る様に立ち塞がった。
「そうか…。なら…ここで終わらせてやるよ…!」
最早、口で何を言っても止まる相手ではない。ディライトは素早くファイアライドラッグを交換し、ミスリックナイツへとチェンジすると、ベルト側面のスイッチを再度押し込んだ。
〈エブリッション!ヴァリアントフラッシュ!〉
ベルトがコールすると同時に、ライドラッグのエネルギーが再チャージされ、ディライトの右足へと収束していく。全てのエネルギーが充填されると、ディライトは目も眩むような閃光と共に、上空髙くへと飛び上がった。溢れかえるエレメントエネルギーに触れたノクターヴは固まった様に動けなくなる。ディライトは彫像が如く動けなくなったノクターヴに向けて、右足を突き出す。所謂“飛び蹴り”の姿勢となったディライトを、背中のマフラーが大きく躍動し、その体を加速させた。
「はああぁぁぁぁぁっっっっ‼」
固まったまま動けないノクターヴの体に、光のエレメントを纏ったディライトの必殺キックが炸裂する。彫像の様に固まったノクターヴに今際を感じる瞬間があったのかは、わからない。だが、閃光にの中に消えゆくノクターヴの肉体から、「そうカ…これガ…」と呟く声が聞こえた気がした。
「そうだ…。それが死…命が消えゆく痛みだ…」
ディライトの言葉に応える者はいない。膨れ上がる閃光に呑まれるように、ノクターヴの肉体は消滅していった。
◇◇◇◇◇
戦いは終わった。
2本のライドラッグをベルトから引き抜くと、ディライトの変身は解除され、元のレイトの姿へと戻った。変身を解除すると、途端に力が抜けた様にレイトは地べたにへたり込んでしまった。
腰のドライバーと、両手に握りしめたライドラッグをジッと眺める。こうして戦いが終わり、変身を解くと、どこか夢を見ていた様な感覚がしてくる。
いや、もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。自分の様な人間が、まさか仮面ライダーに変身し、あの恐ろしい怪物を倒して、街を救ったなどと———。
「お疲れ様…レイト」
ともすれば、地面に倒れ込みそうになる体を、1つの体温が支えた。柔らかく耳障りのいい声、ふわりと漂う少女特有の甘い匂いがレイトを包み込む。確かめる迄もない。誰よりも失いたくない、と思った少女の姿が———アイリス・ルナレスの姿がそこにあった。
「勝ったよ、レイト…。怪我した人もいたけど、皆無事だった。全部、あなたのお陰…」
「そっか…良かった…」
目を転じると、アイリスも傷や土埃にまみれて、結構ボロボロだった。だが、それでも生きている。生きていてくれた。その瞬間、自分の行動が確かな実感となって、レイトの胸に降り積もっていった。
何故一度死した筈の自分が、この世界に転生する事になったのか。それはまだ分からないが、少なくともこの世界でしなければいけない事が見つかった気がした。
「アイリス…。俺を…君の旅に…付き合わせて欲しい…」
「…いいの…?厳しい旅になるわよ?」
「わかってる…とも言えないか…。正直、戦いの怖さも、厳しさも…全部分かった訳じゃないと思うけど…。それでも…思ったんだ…。こんな俺でも、誰かの…この世界の光明になりたいって…」
切れ切れで、まだ纏まっているとも言えない自分の願い。だが、アイリスはしっかりと受け止めて、聞いてくれている様だった。
「どこまで出来るか…分からないけどさ…君の使命を…手伝わせて欲しい…」
「…わかった…わかったから。もう少し休んでなさいって。夜が明けたら、直ぐに出発するわよ」
呆れた様に、でもしっかりと笑みの色を含めて、少女が言う。その瞬間、緊張が解けた様にレイトの意識と体が重みを増した。
目を閉じると、その分だけ様々な事象を、五感とは違う何かで捉えられる気がする。
誰かを捜す声や、再開を喜ぶ人々の歓声。
まだ街に残る火の温度や焦げ臭い空気の匂い。
そして、微かに漂い始めた朝の訪れの気配。
それは間違いなく、この世界に血が通い、命が息吹いているという確かな証である様に思える。せめてその重さを忘れる事はすまい、と心の奥底で誓いながら、レイトの意識は微睡みの中に沈んでいった。
◇◇◇◇◇
そこから出発までの慌ただしさと言ったら、ちょっと筆舌に尽くし難い。アイリスに少し休んでろ、と言われたのもむべなるかなと思えた。
幸い、アイリスの怪我はそこまで大したものではなく、表面的な傷を治療するだけで何とかなった。レイトに至ってはほぼ傷もない。戦闘後に倒れ込んだのは、恐らく疲労や緊張からくるものだろう、との事だった。
噴水に人々を押し込めていた、あの行いが何をしようとしていたのかは今となってはわからない。恐らく何か儀式的な事をしようとしていたのではないか、との推測は立つが、ノクターヴがいない今はどれだけ考えても詮無きことだ。重要なのは、あそこに囚われていた人々も含めて、1人の死者も出さなかった、という事実だろう。
街も北側の門扉や相当数の家屋が火災などの被害を受けたが、それ以外のエリアは比較的僅かな被害で収まった。これはアイリスの奮闘も勿論、彼女の指示で息を吹き返したタ―フィッシュの衛兵たちがよく戦った、という方が大きいかもしれない。
確かにノクターヴは侮りすぎていたのだろう。1人1人がどれだけ弱くとも、束ねられた人の意思は思いがけない力を発揮するのだとレイトには思えた。そういう意味では、最後まで希望を捨てずに1人戦い続けたアイリスの功績、と言えなくもないのだが、彼女に言っても絶対に否定するだろう。事実、民衆や衛兵たちから寄せられる万謝の声を浴びていた彼女は、終始気恥ずかしそうにしていた。
夜が明ける頃には、火災も一応の落ち着きをみせ、近隣の街からも救援が到着し始めていた。ここまで来れば、これ以上留まる理由もない。レイトとアイリスは人々からの謝辞や惜別の声に付き合うのもそこそこに、街を離れる事にした。せめてのお礼に、と店長が何日分かの食料を手渡してくれる。アイリスは最初は固辞しかけたのだが、「子どもが遠慮なんかしてんじゃねぇ!」と店長から一喝され、受け取る事になってしまった。その店長が今度はレイトの方に近づくと、その手に10枚程の銀貨を握らせた。
「釣銭だ。…と言っても搔き集められたのはこれだけで、まだ全然足りてねぇんだが…」
「そんな…大丈夫ですって。なんなら踏み倒してもらっても…」
「商売人として、そんな恥知らずな真似ができるか…。残りはいずれ必ず返す。だから、それまで絶対に生き残れよ」
「…わかりました。それまで、店長たちもお元気で」
受け取った銀貨は、まだ微かな体温を宿して、その分だけじんわりと重さを増している様にも思えた。他にも降りかかる、いくつもの温かい謝辞の声を浴びながら、レイトとアイリスはタ―フィッシュを離れていった。
◇◇◇◇◇
「レイトは…あれで良かったの?」
「…?なんの事?」
歩き出して直ぐに、アイリスが尋ねてくる。
「あの上級吸血鬼を倒したのは私みたいに言われているけど…本当はレイトがやった事でしょ…。せめて街の人達だけにでも、本当の事を言っても…」
「ん~…でも、未知の錬真術の使い手だって思われると、後々面倒だし…。それにディライトの力について、俺もまだ全部把握できてる訳じゃないから」
何もスカして正体を隠してる訳じゃない。勝手な錬真術の研究が許されていない以上、未知数の力について、吹聴するのはあまり得策でないと判断したからだ。その為、街を救ったのはアイリスである、という事にして貰ったのだ。
アイリスはまだ納得し難そうな顔をしているが、そんな彼女に「いいんだよ」とレイトは声をかけた。
「ディライトとして戦っていこうと思ったら、きっと極力目立たない方が都合がいいし。それにさ———」
「おにいちゃん!」
言葉を遮る様に、背後から聞こえてきたのは、やや舌足らずで無邪気な声。背後を振り返ると、小さな少年が手を千切れんばかりに振っていた。
「おとうさん助けてくれてありがとう!旅、がんばってっ!」
ノエルだった。その背後には彼の母親と無事に救出された父親も一緒だ。溢れる様な笑顔で手を振る少年に手を振り返しながら、隣のアイリスに言った。
「それにさ、たった1人だけわかってみたいだから。俺はそれで構わない」
「…そう…。それならいいか」
隣のアイリスが諦めた様に、それでもどこか満足そうに微笑んだ。
そうして2人はまた歩き出した。この先に待ち受ける世界の過酷さを自分はまだ想像もできないだろう。だが、せめて『仮面ライダー』の名に、そしてあの満面の笑顔に背く事だけはすまい。
内心でそう決意しながら、レイトは遥か東へ伸びる道に足を踏み出した。
お疲れ様です。
重ね重ね言いますが、お付き合い頂きありがとうございました。
最初に宣言しました通り、以降投稿ペースを落とさせて頂きます。
なるべく早くお届けできる様に執筆を続けておりますので、暫しお待ち下さい。
ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
それではまた。
次回
Saga2『パラディン~神聖騎士~』