◇◇◇◇◇
山を1つ超えると、次の町『ツンベルク』が見えてきた。
開けた平野のど真ん中に作られたターフィッシュとは打って変わって、周囲を急峻な山に覆われた土地にあるその町は、傍から見ると山間に作られた日本の集落に見えなくもない。そんな風景がレイトには何故かひどく懐かしく思えた。
土地柄か、壁もターフィッシュに比べて高く、その周囲には幾重にも拒馬柵が設置されており、町というよりも要塞か何かの様だった。
と言っても、物々しい見た目とは裏腹に、町へ入る方法はあまり変わらない。門横の検疫所で検査を受け、入る許可をもらうだけだ。検査結果は特に問題なかったが、アイリスの肩に描かれた紋章を見遣った衛兵たちが深々と傅き、検疫所全体に騒ぎが伝播しかけた為、アイリスが慌てて鎮める事態には陥った。
「どこに行っても人気者だね?パラディン様は」
「もうっ…レイトまで…。あまりその名で呼ばないでってば…」
アイリスは恥ずかしそうに頬を赤くし、足早に検疫所を後にする。
少し前まではフーデッドケープを着て紋章を隠していたのだが、先の戦いで紛失してしまった為、現在は右肩に浮き上がった紋がはっきりと見えてしまっている。なるべく人の目に留まりたくないのか、町中を歩くアイリスの足は心なしか速い。
それにしても…と、街の様子をキョロキョロと見回しながら思う。
「何かさ…ターフィッシュと比べると、随分賑やかって言うか…。言い方は悪いけど…なんか柄が悪そうな人が多くない?」
「…確かにそうね…。ギルドの先遣隊が来てるのかも」
「先遣隊?」
「そう、先遣隊。“開拓部隊”とも呼ばれてるわね。未開地域の開拓のため、デブリスの討伐や物資の輸送、マッピングなんかを請け負う人達の事よ。危険度の高い仕事だから、何かと荒くれ者が多くなるって噂があるんだけど…」
話が話なので、レイトとアイリスの声のトーンも自然と小さくなる。
飲食店や露店は賑わっているが、客層となっているのは誰も筋骨逞しく、何らかの武器を引っ提げている者たちばかりだ。
テンプレートな物語だったら、荒くれ者同士の
「な、舐めてなどおりません…!ただ…これ以上の金額をお支払いする事は、我らにはとても…」
「それが舐めてるって言ってんだよっ!コカトリス一匹にたったの4アンリルか⁉そりゃゴブリン退治の相場だろうがっ!そんな額で命を張れるかってんだ‼」
「で、でしたらお断り頂いても…」
「あぁっ⁉いいのかよ?コカトリスを倒せる手練れなんて、俺たちの他にそういないぜ?それに、こんな報酬額で引き受ける奴なんて、どこ捜してもいやしねぇよ!」
「大人しく俺達に頼むのが賢明ってもんだぜ、町長さんよぉ?」
初老の男性が、4人のガタイのいい男たちに絡まれている様だった。状況は分からないが、剣呑な気配だけはヒシヒシと伝わってくる。
「あれは、さすがに…」
「放っておく訳にはいかなそうね…」
アイリスも同じ気持ちらしい。周囲の人混みをかき分け、アイリスは躊躇いなく前に進み出て、初老の男性に声を掛けた。
「すみません。不躾ではありますが、何かお困りごとですか?」
「あ…いえ…これはその…、……っ!あ、あなたは…!」
初老の男性がアイリスの方に目を向ける。申し訳なさそうに伏せられていた目が、その肩の紋章を捉えると、途端に驚愕に見開かれた。
「ぱ、パラディン様でしたか…!いやはや…この様な辺境の町にようこそ。私、町長のウィークスと申します。何やらお見苦しいところをお見せいたしまして…」
「いえ、お構いなく。それよりも、何かトラブルでしょうか?確か先程、『コカトリス』と聞こえたのですが?」
「あ…はぁ、その通りでございます。実は…」
「おいこら!」
アイリスとウィークス町長の話を遮り、一番大柄な男が声を張り上げた。
「なに話に割り込んできてんだ小娘が!てめえらにゃ関係ねぇ話なんだよっ!どっかへ失せやがれ!」
大男が遠慮なく、アイリスへと怒声を張り上げる。他の男たちは流石に慌てた様に、「お、おい…!やめとけって、エドガー!」「相手はパラディンだぞ?」と大男を諫めるが、エドガーと呼ばれた大男は怯む様子もなく、「うるせぇ!」と叫んだ。
「パラディンだろうが何だろうが、こっちはこの町長さんと仕事の話をしてんだ!口を挟まれる謂れはねぇ‼」
「仕事の話?とてもそうは見えませんでしたけど?」
だが、アイリスは大男の威迫にも怯んだ様子もなく、凛然と佇んでいる。そして意に介した風もなく、ウィークス町長へと向き直った。
「それで、一体何があったんですか?」
「は、はぁ…。実は…」
町長はまだ恐れ入った様に、ゆっくりと口を開いた。
「実は…町の北部にまだ未開の森林があるのですが…4日前、そこから巨大なコカトリス鳥が現れ、破壊の限りを尽くしたのでございます…」
ウィークス町長が北の方角を指差した。確かに北側の防壁が破壊され、家屋も多くがなぎ倒されている。
「いやはや…実に大きゅうございました。身の丈5ハンズはあるのではないか、という大きさで…。その時はなんとか追い払う事に成功したのですが…」
「まだ倒せてはいない、と?」
「…その通りでございます。あれからというもの、夜中になると森の中からコカトリス鳥の甲高い叫びが響き渡り…町の者たちは、またいつ襲撃があるのかと、恐々としているのでございますよ…。そこで討伐の依頼を申請したのですが…彼らがやってきて…その…」
町長は、男たちの方に視線を送りながら言うが、その声はどこか言い辛そうに歯切れ悪くなる。だが、アイリスは大体の事情を呑み込み、大きく頷いた。
「…成程。大体理解できました。それで、そのコカトリス討伐料について…彼らと揉める事になったのですね?」
アイリスが4人の男たちの方を見遣って言った。だが、エドガーは臆した風もなく、ふん、と不遜な態度を崩さない。
「言っとくがな、俺たちは無茶な要求をしたつもりはないぜ?全高5ハンズのコカトリスって言ったら、『銀級』相当のデブリスだ。ギルドが指定してる討伐料に従うなら、ざっと40アンリルは下らないぜ。それをこの町の連中はたったの4アンリルしか払わねぇとぬかしやがったんだ。バカにするにも程があるぜ」
「…例え、それ以上払うことが難しいってわかっていても?」
「あぁ?そんな事ぁ俺らには関係ねぇよ。兎に角、俺達ギルドのハンターはそれ以下の額じゃ仕事はしねぇ。大切な町と民草の為だろ?出せねぇとは言わせねぇさ!」
ギャハハハハッ!とエドガー達が笑いを上げた。周囲を取り巻く町民達の中から、
アイリスがどう思っているのかは分からない。いつもの凪の海の様な静けさで、男達を見据えると、やがて口を開いた。
「…確かに…。ギルドの取り決めがそうであるというなら仕方ありませんね…。わかりました、ウィークス町長。その依頼は私たちが引き受けます」
有無を言わさない、強い宣言に、ウィークスやエドガー達、周囲の町民達から驚愕の声が上がる。
「バカ言ってんじゃねぇ‼」
エドガーが吠える様に叫んだ。
「手前みてぇな小娘が、たった1人でコカトリスと戦うだと⁉バカも休み休み言いやがれってんだ!」
「正確には2人、です。彼も含めてね」
アイリスがレイトを指し示す。エドガーが更に訝しそうにレイトを睨み据えてくるが、ここで舐められる気はない。レイトもエドガーの強面から目を逸らさずに、じっと見据え返した。
やがて、ハンター達がチッと聞こえよがしに舌打ちを放ち、
「出来るわけねぇだろ、そんなこと。2人纏めてあの化け鳥にローストにされて来るがいいさ」
それだけ言い捨てて、立ち去って行った。
町人達の間から、快哉の様な、安堵の様な声がそこかしこで上がり始める。だが、町長は未だ不安そうな表情でアイリスたちに尋ねてきた。
「…ぱ、パラディン様…ありがとうございました…。しかし…良いのですか…?正直、報酬に関しては…彼らの言う事も一理あるのでございますよ…。あれだけの額で、パラディン様の貴重なお命を危険に晒して頂く訳には…」
「心配いりませんよ、町長。私たちなら大丈夫です。ね?」
少女が悠然と、どこか不適ともいえる笑みを浮かべる。その姿はやはり誇り高く、レイトには少し眩しかった。
◇◇◇◇◇
「さっきの連中が話してた事だけどさ…『ギルドが指定してる討伐料』ってどういう事?」
その後、町長宅で僅かな小休止を挟んだのもそこそこに、レイトとアイリスはコカトリスの捜索に乗り出すことになった。全高5ハンズという位だから、かなりの大きさなのだが(大体5メートル位だ)、周囲に聳え立つ更に高い木々の所為で視界が碌に効かない。おまけに地を覆うのは低木や苔類であり、足跡を捜すのも難儀だった。
大型のデブリスだからと言って、すぐ見つかるだろうと高を括っていたのが間違いだ。山という広大なフィールドで、1体の怪物を捜す事がこれほど困難である事をレイトは早くも実感し始めていた。その点ギルドであれば、人海戦術で捜索範囲を広げる事も出来るだろう、と考えたのが、先の問いにつながる。
「えっとね…デブリスとの戦いが、非常に困難だっていうのはわかるわよね?」
レイトは頷く。それは何度も聞かされた。
デブリスは非常に凶暴な性質と増殖力を持つ、非常に危険な怪物達だ。更に『デブリス病』という病をばらまく特性もあり、その対応をより困難にしている。一応、デブリスの弱点を突く為にライドラッグが存在しているが、これもデブリスの種類によっては効くものとそうでないものがあり(尚、効果の度合いを順に『
アイリスは頷く。
「そう。デブリスとの戦いは一朝一夕で身に付くものじゃないし、危険度も高い。ギルドのハンターは特に何の資格もなしになれる職業だけど、例えば新人のハンターがいきなり強力なデブリスに遭遇した場合、為す術もなくやられてしまう事もあり得るわけよ」
実際、それで昔新人のハンター達が大量死した事があったみたいだしね、と不穏な事をサラッと言った。
「そこで、ギルドはそうした不慮の事故を防止する為に、いくつかの対策を立てたの。その1つがデブリスとギルドのハンター達をランク分けする事」
「ランク分け…?…あ、それがさっきの連中が言ってた『銀級』ってやつ?」
「ご名答。確かデブリスもハンターもそれぞれ5ランク位に分けられて、その危険度や実力なんかが可視化されてるの。『銀級』と認定されたデブリスには同じく『銀級』以上のハンターが対処する。そうしたルールを徹底させる事で、不測の実態が起こる事を防止しているわけ」
「なるほど…。因みにこの前の上級吸血鬼は?」
「あれは分類不能、ね。一応『将星級』って呼ばれてるけど、現場の人間がそう呼んでるだけで、ギルド本部の分類項目には載ってないわ。…何しろ、今まで存在自体が不確かだったから…」
「え~と…それってつまり、今まで遭遇した人は誰も助からなったって事なんじゃ…?」
「……まぁ、そういう事ね…」
アイリスが重々しく頷いた。そう聞かされると、今更ながら身震いが襲ってくる。よく助かったものである。
「…それでも、昔に比べて確かにハンターの死亡者数は減っているらしいわ。死者が減れば持ち帰れるデブリスの情報も多くなるし、それを基にして霊薬や新素材の研究も進む。ギルドがデブリス研究に齎した功績は計り知れないんだけど…」
アイリスの口調が言い
「ギルドはデブリスをランク分けすると同時に、それらの討伐報酬も一律に決めているの。当然上位クラスのデブリスが相手となると、金額も上がっていくんだけど…中にはその指定額を払えない、足腰の弱い町もあるのよ…。ツンベルクもそうでしょうね…」
「そんな…⁉報酬を支払えない町はどうなるんだよ…?」
「…ギルドと言ってもピンからキリまであるから…。中には支払いを待ってくれる組織もあるけど…評判の良くないギルドだとそのまま知らん顔…って所もあるみたいね…」
絶句する思いだった。こっちに来てから何度も理不尽に直面する事はあったが、命を金の有無で選別しようとする輩もいるとは。ツンベルクにいたハンター達の横柄な態度を思い出す。改めて異世界の———否、レイトが生まれた世界も含めて、世の中の不条理さを突き付けられた気がした。
「……なんか、ギルドに入るのが嫌になってきたな…」
「そうね…。でも、人はそういう制度がなければ生きていけない。そして、制度も完璧ではないから、どうしたってその穴に取り残されてしまう人も出てくるものよ」
少女の口振りはいつも通り淡々としている。しかし、その口調には決然とした思いが込められているようにレイトには感じられた。
「制度が完璧でないなら、せめてその穴に取り残された人々を救い出す事がパラディンの使命…。…まぁ、受け売りだけどね。さぁ、腐ってないで続けるわよ」
そう言って、アイリスは再び草木をかき分けて再び痕跡を探し始める。泥臭くとも、そんな彼女の姿こそレイトには眩しく、同時に自分はどうなるべきなのか、という問いが頭を横切った。
◇◇◇◇◇
探索の成果は程なくして上がる事となった。
コカトリスは岩場に巣を作る性質がある、という事から岩場が多いエリアを中心に捜索したところ、案の定そこでコカトリスとその巣を発見する事となった。
ただし、それは既に死体となっていたのだが。
「…死体の損壊と腐敗状況が激しくて、詳しい事は分からないけど…恐らく死後10日近くは経ってるわね…。頭部のトサカがないから、恐らくメス…。抵抗した形跡は殆どなし…。恐らく周辺を取り囲まれて、短時間で殺されたのね…。産卵直後で体力が落ちてるところを狙われたのか…」
発見されたコカトリスは全高が3.5ハンズほど。巨大な翼と太い脚を携えた、ヒクイドリの様な威厳のある姿だった。最も生前は、の話であるが。
岩場に横臥するコカトリスの遺体はひどいものだった。全身の皮と羽毛を毟り取られたのか、皮下組織がほぼ剥き出しの有り様で、その筋繊維にも深々とした刃物の痕が刻まれていた。そして、どういう訳か、胸の辺りが切り裂かれ、一部の内臓もごっそり持ち出されている様だった。
コカトリスの死骸が横たわる、枯れ木や草類を積み上げた構造物が、恐らくこの怪物の巣なのだろうが、それも見る影もなく荒らされ、おまけに産み落とされていたであろう卵も、漏れなく全て破壊されていた。
相手が凶暴なデブリスであったとしても、思わず目を覆いたくなる様な、そんな惨状だった。
レイトはこみ上げる吐き気を懸命に堪えながら、検死に当たるアイリスに声をかけた。
「死後10日近くって…それじゃ…こいつは町を襲ったコカトリスじゃないって事?」
「ええ…大きさが全然違うし…。恐らく町を襲撃したのは…このコカトリスのつがいの個体よ」
アイリスが断言し、巣の周囲を指差した。
「見て。これは人の足跡よ。そして、このコカトリスの体表に刻まれた傷…凍傷の様になってるでしょ?これは恐らくウォーターライドラッグによって付けられたもの…。恐らく、つがいと子どもを殺したのが人間だと気付いて…」
「…町を襲って復讐したって事か…?でも、そんな事が…デブリスにわかるの?」
「わかるでしょうね。コカトリスは賢いから…」
アイリスの口調には、怒りの様な、または哀切の様な、複雑な感情が込められている様だった。レイト自身、どこかやりきれない気分になってきた。
だが。
「…それでも、やらなきゃダメだよね…」
「…そうね。なまじ知能が高い分、怒りもそう簡単に忘れないわ…。誰だか知らないけど、厄介な事をしてくれたわ…」
そう言って、いくつかのライドラッグを小袋から取り出し、直ぐに使える様にベルトの脇にセットしていく。
「コカトリスはきっとここに戻って来るわ…。今のうちに準備を進めておきましょう」
〈SPEAR LOADING…〉
くぐもった音声と共に、少女のベルトから一振りの槍が出力された。全高は2ハンズほど。自身の身長よりも長い槍を、だがアイリスは頭上でクルクルと振り回し、華麗に構えて見せる。
「今日は槍なんだね?」
「うん。リーチが欲しいし…それに、コカトリスに銀素材はあまり効かないから。…レイトもこっちを使って」
そう言って、角柱型のマテリアルライドラッグを一本、投げて寄こす。シルバーライドラッグより色の濃い、鉄灰色のカラーリングで〈IRON〉のラベルが貼られている。
「ありがと。エレメントの方は?」
「コカトリスに特効なのは、『水』か『風』ね。私は水を使うから、レイトは風の方を———」
使って、と続きかけた言葉が中断されたのは、何とも形容し難い、異様な気配を背後に察知したが為だ。
ザスッ…、という巨大な質量が地面を踏み抜く音。
土と血が混じり合った様な、獣臭い体臭。
そして肌に刺々しく突き刺さる、この異様な感覚———これはタ―フィッシュの町で突き付けられた経験がある。
それは、殺意だ。
レイトとアイリスは恐る恐る背後を振り返り、その気配の主に目を向けた。案の定、そこには先程まで探し求めていた存在が、その姿を現しつつあった。
2人の2.5倍はあろうかという、巨大な体躯。全身を赤色の羽毛で覆いつつも、その下に幾重にも折り重なった筋肉が、体の大きさを更に強調している。頭部に聳えるトサカはまるで火災の如く赤々と輝いている。長くピンと伸びた首や鋭い嘴、鋭利な爪が生えた鱗組織の脚など、確かに『コカトリス鳥』の名が示す通り、その姿は巨大なニワトリの様に見えなくもないが、何より異様なのは体の両側から生える「腕」だ。
通常、鳥類の翼が生えているであろう位置には、一対の巨大な腕が備え付けられ、4本の巨大な爪がギラついている。腕の下から長い羽毛が伸びている為、確かに翼が生えている様に見えなくもないが、その骨格は鳥類というよりも、寧ろラプトル等の肉食恐竜に近いのではないかと思わせる。
何にせよ、レイトの知る「常識」という奴では測りようがない、『コカトリスデブリス』の姿だった。
キシャアァァァァッッッ‼とコカトリスが頭を前にもたげて、金切り声を発した。どこか悲痛な叫びにも聞こえるその声、そして炯々と輝くその目に、怪物の悲哀と憎悪を感じてしまうのは、センチメンタルが過ぎるだろうか。だが、やり場のない怒りに身を焼かれている様に、コカトリスの全身の赤色の羽毛が総毛立ち、次の瞬間にはその巨体がレイト達目がけて躍りかかって来た。
「レイト、避けて!」
レイトとアイリスはそれぞれ左右に飛び退り、その強襲を回避した。コカトリスの巨大な脚が着地した地面を抉り飛ばし、周囲一帯の空間をビリビリと激震させた。獲物を仕留め損ねたコカトリスがまた悔しそうに、つんざくような声を上げた。
アイリスは最初の攻撃を回避した後、取り出したアーククロスから鉄矢を数発、コカトリスに浴びせかけた。勿論、コカトリスの巨体に釘ほどの矢が効くはずもないが、少なくとも注意はアイリスの方に向いた。コカトリスは猛る様に飛び上がり、アイリスへと襲い掛かった。アイリスは相変わらずの身の軽さで、不安定な岩場の上をヒラリヒラリと飛び退りながら、攻撃を回避していく。
そして、アイリスが注意を引き付けてくれているお陰で、今のレイトはノーマークの状態だ。レイトは素早く腰からベルトのバックルを引っ張り出し、腰に押し当てた。
〈ディライトドライバー!〉
ガイダンスボイスと共に、バックルからベルトがシュルシュルと伸び、レイトの腰へと結びつく。レイトは先ほど渡された2つのライドラッグを取り出すと、素早くドライバーのソケットに装填した。
〈ウィンド!アイアン!〉
「変身!」
レイトが叫ぶと同時に、ベルトのスイッチを押し込む。次の瞬間、レイトの体が光に包まれ変化していく。体は鋲が撃ち込まれた様な鉄灰色の鎧に、そしてその上に風のエレメントを宿した緑色のアーマムエレメントが装着されていく。
〈オールセット、ディライト!ウインドアイアン‼〉
変身が完了した。これまで披露したミスリックナイツとも、ファイアシルバーとも異なる形態。鉄のボディーに風の力を宿した、『仮面ライダーディライト ウインドアイアン』である。
〈トランスラッシャー!〉
ディライトは腰背部から剣を引っ張り出す。刀身を錬真術で縮小させると、刃の部分を折り畳み、丸みを帯びた幅広の刃が出現した。〈トランスラッシャー アックスモード〉である。ソードモードに比べてリーチは著しく低下するが、一撃の威力はこちらのが大きい。コカトリスの様な、巨大な敵にはこちらのが有効だ。
攻撃を幾度も躱し続けるアイリスに業を煮やしたのか、コカトリスが威嚇するかの様に両手を広げた。折り畳まれていた翼が展開し、体の大きさが2回りほども広がる。そして手先の鋭爪、そして両脚と嘴の全てを総動員して、怪物がアイリスを追い詰めていく。
トランスラッシャーを頭上で構え、ディライトは怪物に目がけ、勢いよく跳躍した。シルバーマテリアメイルよりさらにパワーが強化された鉄の体と、風のエレメントの効果によって、ディライトがコカトリスの全高よりも更に高く跳躍する。そしてそのまま流星の様な勢いでその巨体に向けて、手斧を叩き付けた。
「ギヤアァァァッッッ!」
背中の真ん中へと攻撃を食らったコカトリスが甲高い悲鳴をあげた。弱点である風のエレメントが怪物に激痛を齎し、深い傷を刻み込む。だが、その一撃で更に怒りを爆発させたのか、コカトリスは怯むどころか体を激しく振り回し、背中上のディライトを振り落とそうとした。
ディライトは傷口に更に刃を押し込み、傷口を広げようとしたが、急にロデオの様に暴れだしたコカトリスの勢いに抗しきれず、背中から振り落とされてしまった。
「レイト⁉」
「大丈夫!」
岩場に叩き付けられたディライトをアイリスは案じるが、鋼鉄製のボディーはレイトの身をしっかり守っていた。大したダメージも感じさせずにディライトは立ち上がり、再びアックスモードを構え、臨戦態勢をとる。
「う~ん…やっぱりファンタスティックヒットでないと、いまいち力が出ないな…」
「ぼやいてないで!来るわよ」
地を鳴らし、コカトリスが2人に向けて蹴りを繰り出してきた。下手すれば岩をも砕く威力を持つキックだ。如何に鋼鉄のマテリアメイルであってもただでは済まないだろう。だが、ディライトは逃げずに真正面から迎え撃った。
風のエレメントは、風属性の付与だけでなく、スピードも強化してくれるらしい。鉄の体の重さに比して、ディライトは素早く蹴撃を避け、相手のがら空きの股下に向けて、素早く掌底打ちを放った。
掌打と風のエレメントが巻き起こす衝撃によって、コカトリスの巨体が大きくよろめく。だが体が大きければ、当然生命力も高い。この一撃でどうにかなるとは思ってない。
「なら…何度でも叩き込むだけだ!」
拳撃、手刀、蹴撃…と連撃がコカトリスの体にヒットしていく。絶え間のない攻撃に晒され、コカトリスには悲鳴を漏らす暇すら与えられない。ディライトはこのまま一気に勝負をかける気になった。
〈エブリッション!ヴァリアントストーム!!〉
腕のアーマムエレメントに備え付けられた、鮫の背ビレの様な
腕から放たれた風のエレメントが、ギロチンの様な幅広の刃と化して、コカトリスに迫りくる。それは、筋骨逞しいコカトリスの体で弾け、怪鳥の体を数ハンズほど一気に吹き飛ばした。
「…何が調子がでない、よ…。十分非常識じゃない…」
仮面ライダーディライトの途方もないパワーに、改めてアイリスは戦慄した。
今回はここまで。
ご意見・ご感想など頂けると励みになります。それではまた次回。
次は新形態登場かな。