仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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宣言通り、早めに投稿しました。


Saga6  みなもと~泥の谷のカラバ~②

◇◇◇◇◇

 ドランバルド連合三国の東、ステラスフィア山脈を超えた先にある『トンプソール部族連合』は連合傘下国の中でも最大の面積を誇る国家だ。その大部分が砂と岩に囲まれ、陽星からの熱気が強く照り付ける過酷な環境だからか、武勇を何よりも誇りとする屈強な民族性が出来上がったのもむべなるかな、という話だ。

 トンプソールでは数年に一度、およそ50からなる国中の武族達の代表が集まり、武闘会と呼ばれる闘技試合が行われる。それらに勝ち残った5つの武族が『族柱会議』と呼ばれる国家の代表に選ばれ、国の運営に関わっていく事となるのだ。シドニアやアネスタでは、そうしたトンプソール人達の在り様を野蛮であるとか前時代的あるとか揶揄する向きもあるが、彼らのデブリスですら恐れない屈強な精神性と高い戦闘能力は、この危難の時代に際して何よりも頼もしき力である事は疑いようもない。

 

 だが、中にはその流れの中で生きていけない者達も当然ながら存在するのだ。

 

「『カラバ族』と呼ばれる彼らは、元々トンプソールの少数民族の1つでしたが、他の武族達との抗争に敗れ、故郷を追われた者達だと聞いています。彼らは旅の果てにシドニアの地まで辿り着き、このビルハミルに辿り着いたのだそうです」

 ローゼンタールが訥々と事情を語りだした。尚、「聞いている」「~だそうだ」とやけに曖昧な表現が多いのは、全ては彼の先代の領主の代に起こった事であるかららしい。

 

「先代の領主———フロリアン家はしかし、彼らが街に入る事を認めず、すげなく追い返してしまいました。カラバ達はその後、街の近くにある谷地へと住み着いたのだそうです」

「何ソレ⁉ひどい話‼」

「マヤ、気持ちは分かるけど抑えて抑えて」

 

 マヤが憤るのは最もな話だ。トンプソールに暮らす少数民族達への差別的感情は未だに各国に根強く残っている。リンクス族として人間からの蔑視に晒されてきたマヤには思う所もあるだろう。だが、そのフロリアン家の決断に関してはそれだけとも言い切れない側面がある様な気もする。

 

「壁の外で生きる流浪の民たちだ。もしかしたらデブリス病を罹患している可能性だってある。おいそれと街に入れるという真似もしにくかったかもしれないな…」

「ああ…そうか…。そういう話もあるよな…」

 ゼオラの説明にレイトが頷く。だがやはりその顔は納得し難そうな複雑な表情をしている。無理もない。こればかりは簡単に答えが出せない問題の1つだ。

 

 怪物とそれらがばら撒く病原体の影響で、世界はどこに行っても危険が付き纏う。世の危険から逃れる為に人々は安全な場所を見つけ、そこに壁を作り、その中に逃げ込む事でデブリスの脅威から逃れてきた。だが、当然ながらこの世の全ての人間が壁の中へと入れた訳ではない。デブリス病に感染し、異形となり果ててしまった者や身分が低い者、そして国外から流入してきた者たちなど———。そうして壁の中へと入れて貰う事も出来ず、常に死と隣り合わせの地で生きていかなければ者たちもこの世界にはまだ多く存在している。

 

 全ての人間達が恩恵にぶら下がれる訳ではない———。レイトの脳裏にかつてジェイクから言われた言葉が過ぎった。

 

「壁の外に追いやられ、それでも何とか生きる術を確保しようとしたカラバ達はやがて谷を掘り始めまして——元々掘削を生業として生きてきた民族だった様ですな——そこで彼らは見つけたのです…アダマンタイトの鉱脈を…」

「それは…とても貴重な発見ですね」

 アイリスが少し身を乗り出し気味に言った。アダマンタイトは主にトンプソールで採掘される金属である為、国内ではとても高値で取引される。それを掘り当てたとなったら、それこそ国家事業レベルで金が動くだろう。そうであるならこの屋敷の豪勢さも、なるほどと頷けるものがある。

 

「ええ、ですから先代のフロリアン家は真っ先に彼らに接触し、取引を持ち掛けたそうです。アダマンタイトを採掘してくれるならそれに対して賃金を支払おう、必要であるなら衛兵をデブリス達への護衛として付けさせるとも…ですが…」

 若き領主の顔にまた苦いものでも飲み下そうとする様な色が混じる。アイリスは手を上げその先を制した。この先の話は何となく想像がついている。

 

「…わかりました。その約束が守られる事はなかったんですね?」

「…ええ、その通りです。フロリアンはアダマンタイトの採掘で財を成す一方で、カラバ達に支払われる賃金というのはごく僅かなもので…1日5ファーブルにも満たなかったそうです。おまけに採掘作業で怪我人が出たとしても一切関知する事なく、それで彼らから不満が出ようものなら…衛兵達に暴力で鎮圧させたとも…」

「何なのソレ‼本っ当に最低‼信じらんない‼」

 ついに我慢も限界だと言わんばかりにマヤが椅子を蹴立てて立ち上がった。顔中を憤怒の色に染めながら、テーブルに置かれていた食器を振り上げた。

 

「そのフロリアンってのはどこにいるの⁉私が蠟で固めて内臓抜いて愉快な人体模型にしてやる~~~~~っっっ‼」

「落ち着けって!そのナイフとフォークで何する気なんだよ!」

「というか、本当にやりそうで怖いな…」

 

 今にもローゼンタールに突撃していきそうな勢いのマヤをレイトが押さえつける。彼女の激憤は理解できるが、それを今の領主に当たっても詮無いことだ。アイリスが再度「いいから、落ち着いて」と冷静に言い聞かせた。

 

「マヤがそんな事しなくても、フロリアンはもう亡くなってる…。そうですよね?」

「…ええ、その通りです」

「…亡く…?え?あぁ、そうなの…?」

「当たり前だ。領主が変わってる時点で気付け」

 

 通常、大きな街に置かれる監督領主というのは1つの貴族家によって統括される。領主が亡くなればその地盤を受け継ぐのは、普通ならばその子どもだ。フロリアン家とは関係ないローゼンタールが継いでいるという時点で事情は推して知るべし、というべきだろう。

 

 ローゼンタールが重々しく頷いた。

「約半年ほど前になりますかな…。フロリアンの領主とその家族が“泥塗れの谷(マディバレー)”の近くで変死体となって発見されました。それでフロリアン家は断絶してしまった為、私が新たな領主として派遣されたのです」

「あの…でもそれでカラバの人達は疑われなかったんですか?」

 横暴な領主とその家族が、彼らと因縁ある土地で変死体となって見つかったのだ。そこで暮らしていた異国の民達なぞ真っ先に疑われそうなものだ。レイトの問いにローゼンタール氏は「まぁ…そうなのですが…」と肩身狭そうに言った。

 

「…遺体に大きな外傷はなく、土に塗れていた程度…。死因は窒息死と判定されました。何者かの作為が働いたとしても、人の手によるものではなかろうと…。まぁ、『疑わしきは罰せず』という奴です。私はそれ以上、追及しない事に決めました」

 

 それは何というか随分剛毅な決断だな、とアイリスは思った。貴族たちは婚姻関係などでの結びつきを重要視する為か、仲間内での結束はそれなりに強い。下手をすれば他の貴族たちから非難が集まりそうなものだが、この領主はそれでも必要以上の追求をしない事に決めたという事か。

 無意味な慣習に縛られない若さの賜物か…とも思うが、それ以上にローゼンタールも断ち切りたかったのだろうと思う。カラバとビルハミルに住む者たちとの間に繰り広げられてきた差別と搾取の歴史を。

 

 トンプソール人や壁の外の民への差別的感情は未だに各地に根強く残っている。だが、そうした負の感情が蠢く場所は必ずや新たな悲劇の温床となる。だからこそ誰かが勇気を持って断ち切らなければいけないのだ…。アイリスにはそう思える。

 

「…カラバの人たちは、その後どうなったの?」

「それなのです。あなた方にご相談したい事、というのは」

 ローゼンタールが僅かに身を乗り出して言った。

 

「アダマンタイトの採掘は危険も多く、彼らの中には大きな怪我を負っている者もいます。…正直、私は彼らにそんな事を強いてまでアダマンタイトの採掘で儲けようとは思いません。私が領主に就任してからというもの、そんな危険な仕事はやめて壁の中に入る様に何度も言っているのですが…彼らは一向に聞き入れようとしなくて…」

「カラバの人たちは、今でも谷でアダマンタイトの採掘を続けてるんですか?」

「ええ、今でも買取の打診があります。ただ昔と比べれば採掘量も減っており…彼らがあそこに住み始めてそろそろ8年ですか…そろそろ限界ではないかと思うのです。でも彼らは谷から出る事を拒み続けています。寧ろ今では外部の者達が侵入してくるのを拒否してさえいるのです。…『あの地には、我らの神が住み着いているから』…と」

「なるほど…信仰の問題って訳か…」

「う~ん…確かにトンプソール人って自分たちの住んでいる土地を神聖視する向きがあるけど…10年も暮らしてない土地にそんな風に思うものかね?」

 マヤが疑問を呈するが、何せ信仰上の事ではいまいち確信が持てない。信仰はこの世で一番デリケートな問題の1つだ。他者がおいそれと口を挟めるものではない。ローゼンタール氏も確信はなさそうに「さぁ…そこまでは…?」と首を傾げている。

 

「議論は平行線のまま、半年以上経ちます。私もそれ以上は無理強いできないので、暫く静観していたのですが…先日、谷でこれまで以上に大きな崩落事故が起こりました。…やはり、これ以上は限界だと思うのです…」

「私たちに頼みたい事、というのは…彼らを説得する事ですか?」

 アイリスに疑問にローゼンタールは「その通りです」と首肯した。

 

「何も彼らの信仰を否定する気はありません。私はただ、彼らと共に生きていく道を模索したいと思っているだけなのです。ですから…どうか彼らとの説得の糸口を探って頂けないでしょうか。もしかしたら、パラディン様に対しては彼らも事情を話して頂けるかもしれませんし———」

 

 そこまで言いかけた途端、コンコンとダイニングのドアをノックする音が響いた。「入りなさい」とローゼンタールが声を掛けると「し、失礼します!」と1人の衛兵が慌てた様に飛び込んできた。

 

「申し上げます。また古参兵たちとカラバとの間に小競り合いが発生いたしました。しかも…既に古参兵側に死者が出た様で…谷は一触即発の状態となっております」

「…な、なんだと!…わかった、私も直ぐに行く!」

 

 ローゼンタールが顔を青くして立ち上がった。レイト達も「死者が出た」という言葉に思わず身を固くする。

 曰くつきの土地でまた死者が出る。これはきっと何か大きな事態になるという確信があったのだろう。「私達も行きます」とアイリス達も席を蹴立てて、外へと飛び出していった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 カラバ達が暮らす急峻な谷地は、周囲一帯には緑すら生えず、ただ土色の地面が露出しているだけの不毛な土地で、そこを“泥塗れの谷(マディバレー)”と呼ぶ様になったのは、先代領主であるフロリアンの代からだ。

 

 ローゼンタールが領主を継承するに当たってフロリアン家から引き継いだものはいくつもあるが、街の防備に当たっている衛兵たちもその1つだ。特にフロリアン家の代から街を守っていた衛兵たちは「古参兵」と呼ばれている。

 放辟邪侈(ほうへきじゃし)な性格で知られたフロリアン家当主に負けず劣らず、この衛兵達もとにかく振る舞いが横暴である事で有名で、街のあちこちでいざこざを起こしては現当主の頭を悩ませていた。そんな彼らも好き放題にさせてくれた先代領主に対してはそれなりの忠義心があるのか、それとも暴力という麻薬の味が忘れられないのか、主家の敵討ちとばかりにカラバ達へと喧嘩を吹っ掛け続けているらしい。道すがら、ローゼンタールがそこまでの事を説明してくれた。だとすると、尚更物事がマズい方向に傾く可能性が高い。マディバレーに辿り着くやいなや、アイリス達はそれこそ矢の様な速度で馬車を飛び降りた。

 

「離せてめぇらっ!あいつら…ぶっ殺してやらぁっ!」

「落ち着け!争いは起こすなと領主様から——」

「知るかっ!こっちは仲間を殺されたんだぞっ‼」

「ストラドどもを庇う腰抜け領主の命令なんぞ、聞いてられるかってんだ!」

 

 谷の入り口では既に剣呑な空気が立ち上がっていた。怒鳴り散らしながら暴れているのが恐らく古参兵。そして彼らの抑え役に回っている衛兵達が所謂ローゼンタール派なのだろう。古参兵達が睨みつける先にいるのは、粗末な生成りの服装に身を包んだ浅黒い肌に数人の人間達———トンプソール人だ。恐らく彼らがカラバ族なのだろう。

 

「…早急に立ち去れ、シドニアの民よ。ここから先は我らが神がおわす地。武力を持って立ち入れば命の保証はできない」

「うるせぇ、この不法居住者のストラドどもが!もう我慢ならねぇぞ。今日こそ谷から叩き出してやるからなっ‼」

 衛兵の1人が腰の剣を抜き放ち、そのまま勢いよくカラバの男達へと切り掛かっていった。「マズい…!」と隣でゼオラが呻くのが聞こえた。この距離では恐らく制止も間に合わない。しかし、衛兵の長剣が1人のカラバの胸を捉え、そこに抉りこもうとしたその刹那の事だった。

 

 ズガァン!と音がして、地面が抉り割れたかと思うと、そこから1本の巨大な“腕”が飛び出してきた。全体が土気色を帯び、岩の様にゴツゴツと節くれだった見た目の巨大な腕は、しかし生物のそれの様に滑らかに動くと、武器を持った古参兵を鷲掴みにした。

 

「なっ…⁉あれは…?」

「まさかあれが…カラバの神…?」

「…いいえ、あれは———」

 アイリスが何か口にしかけたが、その直後、腕がギシギシと音を立てて衛兵を握りつぶそうとした。鋼の鎧すら割り砕きそうなパワーに衛兵が堪らず悲鳴を上げる。あのままでは圧死は確実だろう。レイトは迷わずベルトを装着し、2つの霊薬を装填した。

 

〈ウインド!オブシディアン!ファンタスティック!飛揚のレシピ‼〉

「変身!」

〈オールセット、ディライト!ブロウアップニンジャ!ウィンディアナイツ‼〉

 

 レイトの姿が風と黒妖石の力を宿したウィンディアナイツへと変化すると、一気に巨大な腕の手首付近まで一気に跳躍した。スピードとジャンプ力に優れた風のファンタスティックヒットは即座に腕のカッターを展開し、巨大な手首を切り落とした。切断された手首から先がまるで砂が崩れるかの様にバラバラと霧散していく。落ちそうになった兵士を抱え、ディライトは地面に着地した。

 

「…なんだ?妙に手ごたえがなかったな…。まるで土でも切ったみたいな…?」

「レイト、後ろ後ろ!まだ動いてる‼」

「なっ…⁉」

 

 マヤの叫びに背後を見遣ると、なんと腕が切り落とされた拳を再生させ、ディライトに向けて襲い掛かってきた。慌てて兵士を遠くへ放り投げ、ディライトはその場から跳躍した。巨大さに違わず腕のパワーは凄まじかった。装甲の薄いウィンディアナイツではひとたまりもなかっただろう。

 

「レイト、それは『ゴーレム』よ!体を切ってもいくらでも再生するわ。本体の核を破壊して!」

「核って…そんなのどうやって見つけるんだよ…⁉」

 恐らく今地面から露出しているのは、あくまでもその『ゴーレム』とやらの一部分なのだろう。本体が土の中にいるとすると、困った事にディライトには攻撃する術がない。

 

 くわっ!と開かれた指がディライトを握り潰さんと迫ってくる。ウィンディアナイツは即座に風のエレメントを全開にし、上空高くへと飛び上がった。ウィンディアナイツの固有能力であるウィンディアジャンプで腕が届かないはるか上空まで退避すると、再度ベルト横のエブリッションスターターを押し込んだ。

 

〈エブリッション!ヴァリアントストーム‼〉

「せぇりゃぁぁぁぁぁっっっっっ‼」

 

 エレメントの暴風を纏ったディライトの蹴りが、腕に向って繰り出された。必殺技の破壊力と高高度からの落下エネルギーを加えた飛び蹴りならもしかしたら土中の本体まで届くかもしれないと思ったが、しかしやはりそう甘くはなかった。

 土塊の腕は容易に貫けたが、地面の固い岩盤は流石にディライトのパワー如きではどうにもならなかった。そして破壊された箇所からまたしても腕を再生させたゴーレムが再びディライトへ向けて襲い掛かってくる。

 

 だが、その直後の事だった。

 

「神よ!どうかお静まり下さい!」

 凛然とした若い女の声が響き渡ると同時に、腕の動きがピタリと止まった。見ると谷の方からトンプソール人の少女が1人歩み寄ってくるのが見えた。

 

「カラバの守護神よ。この問題は我らが解決致します。貴方のお手を煩わせる事はありません。ですから、ここは一度お静まり下さい」

 手を広げ、まるで歌を吟じるかの様に少女が腕に向って語り掛ける。土塊の腕がそんな事を解するのかは甚だ疑問だったが、なんと次の瞬間、腕は土の中へとその身を沈ませていったのだった。アイリスが「ゴーレムが…人の言う事を聞いた…?」と驚いた様に呻くのが聞こえた。

 

「…やぁ、ハンナくん…。久しぶりだね…」

 おずおずといった風にローゼンタールが口を開いた。ハンナというのは目の前のカラバの少女の事なのだろう。ハンナも、ローゼンタール氏を始めこの場に集った人間全員へ目を向けると、胸の前で手を交差させる独特の姿勢でペコリと頭を下げた。

 

「お久しぶりです、領主様。そしてそちらは…神聖教会の騎士様とお見受けします。初めまして、カラバの長・ロシュエルが娘、ハンナと申します」

 黒人の少女が丁寧に、だがどこか近寄りがたい硬質な色を滲ませて語りかける。その様子にどこか気圧された様にたじろいだが、アイリスは直ぐに姿勢を正して「…初めまして。アイリス・ルナレスです」とシドニア流の礼で返した。

 

「…ハンナくん、早速で悪いのだが…聞かせてくれ。君たちが我らの兵を死なせてしまったと聞いたのだけれど…事実なのかい?」

「…全ては我らの神が成した事ではありますが…元を正せば彼らが我らのみなもとに割り込み、狼藉を働こうとした結果の事です。それであるならば…彼らの因果が招いた結果であると回答します」

 「なんだとコラァ‼」と後方の古参兵達が怒声を上げるが、アイリスがそれを片手を上げて制した。いきり立った兵士達の声に反応するかの様に、地の底で何かが蠢いた気配がしたのだ。これ以上事を荒立てれば、恐らくあの腕は再び姿を現すかもしれない。

 

「…我らが神は力を強めています。カラバ以外が踏み入れば命はないでしょう…。領主様、我らの要求は変わりません。この地に干渉せず、我らがここで生きていく事を許して頂きたいのです。それさえ守られれば…我らが神もあなた方に牙をむきません」

「しかし!先日も大きな崩落事故があったのだろう。ここはもう危険すぎるんだ!これ以上、アダマンタイトの採掘など続けなくとも———」

「大丈夫だ、と我らの神は仰いました。私たちは…その言葉を信じるだけです。…それでは、あなた方のみなもとに幸があらん事を」

 そう言い切ると、ハンナと周囲のトンプソール人達も背を向けて立ち去っていった。呆然と残されたローゼンタール達へ何かを警告するかの様に地面が小さく鳴動し、やがて消えていった。

 

「どうして…共に生きていけないんだ…?」

 力なく項垂れた若き領主の言葉に応える者はいなかった。

 

 




今回『ストラド』というワードが登場しました。『怪物図鑑』にも先行して登場させましたが、この世界で「壁の外の人間たち」を示す蔑称の様なものです。
恐らく今後何度も登場するワードの1つとなります。この『昏迷世界編』がそもそも『ストラド編』と言い換えてもいいくらいだと思ってます…。

今回はここまでです。次回は通常通り土曜日の10時に更新です。

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それでは。
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