◇◇◇◇◇
本当にこれでよかったのだろうか?
ここ半年の間に何度もそんな問いが脳裏を過ぎる様になった。そんな時、妙に足元が覚束ない感覚に支配され、ハンナは思わず足元へと目をやって立ち止まってしまう。そんな姿を祖母が見たら「一族の
ハンナは視線を上げて再び歩き出した。そうだ。あの時に“彼”と誓ったではないか。嘆きの涙を浮かべる一族を救い出す為に、必ず我々の『みなもと』を作り出すのだ、と。その為にもここで立ち止まってはいられない。
ハンナが向かったのは、怪我人たちを収容している病院だ。病院といっても木の骨組みを布で覆っただけのものだ。アネスタやシドニアの人間達からすればさぞ粗末に映るだろうが、自分たちに与えられた物はこれだけなのだ。
入り口を潜り抜け、中に入ると地面に直敷きされた薄縁の上に何人もの人々が横たわっている。中には病気で連れ込まれた者もいるが、大半が怪我人だ。特に先日の坑道の崩落事故では死者こそ出さなかったが、多くの怪我人を出してしまった。一生ものの大怪我を負ってしまった者だっている。軟膏の鼻につく刺激臭を嗅ぎながら、ハンナはまたしても奮い立たせた意気込みが萎みかけていくのを感じた。
これでも昔に比べればマシになったのだ。先代領主のフロリアンはアダマンタイトの販路開拓で大儲けしておきながら、その大半を吸い上げ、自分たちには僅かな賃金しか寄こさない。そのくせ少しでも採掘量が減れば、街の衛兵達を差し向けて暴虐の限りを尽くさせ、生きていくのに必要な食料や医薬品も高額な値段で売り付けてきたのだ。
当主が今のローゼンタールに代わり、待遇は相当改善された。だからこそこうして今は全員に治療を施す事が出来る様になったが、今度は肝心のアダマンタイトの採掘量が減少してきている、という問題に直面する事となった。確かにローゼンタールの言う通り、ここで採掘を行っていくのはもう限界なのだろうか?
「サイラスさん、怪我の様子はどうですか?」
「…よぉ、ハンナか…。見回りご苦労さん…」
湧き上がってきた不安を打ち消すかの様に、手近な男性に声を掛けた。サイラスは採掘隊の責任者も務める男で、ずっとツルハシを振るい続けてきたその体つきはとても屈強だ。病弱なハンナの父ロシュエルとは何かと正反対だが、2人は昔から仲が良かった為、ハンナも子ども頃から実の娘の様に可愛がって貰った。
…否、彼に限らず、この一族で生きる者全員が、互いを家族の様に思い、支え合って生きてきた。ハンナにとってこの一族全てが大切な家族だ。こうして病院を訪れ、1人1人に声をかけていくのも、決してそれが巫女の使命だからだけではない。
「明日には退院できそうだわ。…結局6番坑道は潰れちまったから、また別の場所を掘っていかないとな…」
「そうですね…。この後、“神”に尋ねてみようと思います」
「そうか、頼むよ…。…だが、なぁハンナ…」
サイラスが周囲をキョロキョロと見渡すと、不意に小声で囁いてきた。
「我らが“神”は…本当の事を言っていると思うか…?」
「えっ…?」
唐突な問いにハンナは二の句を継げなくなった。神託を疑うかの様なその発言は下手すれば不敬ともとられかねない。だが、サイラスは構うことなく「最近よ…ちょっと思ったんだ…」と不安そうに続けた。
「5番坑道も、6番坑道も…どれだけ掘っても掘ってもアダマンタイトは僅かしか出なかった。“神”はそこを掘れば間違いなく出るって言ったんだろうがよ…本当にこんな場所でこの先も生きていく事が出来るのかね…ってよ…」
「サイラスさん」
男の言葉を遮る様にハンナは口を挟んだ。巫女の立場から無礼である、と言う事は出来るが、そんな事では人々の不安が癒える事はないと分かっている。第一…ハンナ自身そんな事を言いたくはない。だからあくまでも冷静に「大丈夫ですよ」と語りかけた。
「大丈夫です…。ヨセフは…“神”は、私達を見捨てたりしません。それは私達が一番わかっている事でしょう?」
「あぁ…そうだった…そうだったな…。すまん…どうも弱気が出てな…」
それきりサイラスは布団に包まり、何も言わなくなってしまう。彼の疑問には何1つ答えられていない。本当に不安を取り除く事が出来たのだろうか?とハンナにはわからなくなってしまう。
その後も、病院内で何人かの患者と言葉を交わし、ハンナは直ぐに祭洞へと向かった。これから“神”と言葉を交わし、今後の道行きを尋ねなくては。
祭洞はこの地に来た時に最初に掘り進めていた坑道の1つだ。今は崩落で崩れてしまっているが、“神”と謁見する際はこの場所と決まっている。入り口に立て掛けてあるランプを持ち、暗い洞穴の中へと侵入した。足元の奥深くで何かが
「ヨセフ…いる?」
——ああ、いるよ。
ハンナの呼びかけに“神”の声が答えた。足元から這い上がって頭蓋内に直接響く様な声。子どもの頃よりよく聞き知った声の筈なのに、この感覚は未だに慣れない。
——あの領主とパラディン達は自分たちの場所に帰ったよ。衛兵にもたっぷり脅しをかけておいたから、当分は近付いてくる事はないと思うよ。
「…そう。ありがとう」
“神”の声は自分にしか聞く事が出来ない。一族の巫女の血筋が成せるものだという者もいるが、正直なところ分からない。“神”はこちらの考えは大体理解できる様なので別に声に出して会話する必要はないのだが、癖はどうしても抜けきってくれない。
「ヨセフ…6番が崩落を起こしたの。地下水も汲み上がってきて、もうあそこは掘り進めない…。…教えて、これから先はどうすればいいのか…」
そうか。分かった、少し待ってね。
僅かな沈黙。ハンナには分からないが、“神”は自らの力を使って地下深くの様子を探っているのだという。アダマンタイト鉱石が埋まる場所、崩落が起きやすくなっている所…それらを総合的に判断し、次に掘るべき場所を“神”は示してくれる。それを尋ね、皆に伝えるのがここでのハンナの仕事だ。
——見てきたよ。7番と8番はもうダメそうだね。でも、9番坑道をもう少し掘り進めば、アダマンタイトの大きな鉱脈にぶつかるよ。明日からはそっちを掘ってみるといい。
「え…?でも…9番はもう1サウド近くも掘り進めて何も出なかった場所でしょう?それに…サイラスさん達もあそこは崩落の危険性があるかもしれないって…」
——あまり大きく広げなきゃ大丈夫だよ。それとも…サイラスさんが言っていた事、気にしてる?
「…っ⁉違っ…、あれは…!」
弁解の言葉を口に出しながら、ハンナは同時にひどく背筋がゾッとするのを感じた。先程サイラスが口に出していた、“神”を疑う様な言葉。まさかあれが聞こえていた——否、
「ヨセフっ…違うの…。あれはきっと…サイラスさん達も不安が強くなってて…きっとそれで…」
——分かってるよ。何をそんなに慌ててるの?
——僕は皆を見捨てたりしないよ。ここが皆の
——だから僕を信じて。また皆を脅かす者が現れたりしたら。
——僕がまたちゃんと殺してあげるから。
「…うん…わかってる。…ありがとう…ヨセフ…」
満足そうに笑った気配だけを残して、それっきり“神”は地面のそこに沈んでいった様だった。それ以上はハンナにもその存在を探知できない。
だが、本当にそうだろうか?もしかしたら“神”は自分たちが想像する以上に、地上で起きている物事を見聞きしているのかもしれない。そう考えだしたら、どうしても怖気の様な感覚を感じてしまう。
いけないとは分かっている。“神”は自分たちの救い主。迫害され、ただ尊厳を踏みにじられるだけだったカラバの為に立ち上がってくれた、地の世界の王。そして、ハンナにとっても他の人々にとっても、誰よりも見知った大切な仲間———。
…なのに、何でこんなに震えが止まらないんだろう?
光も声も届かない石室の奥底で、耳が痛くなるほどの冷たい静寂がハンナを押し潰していく様に感じられた。
◇◇◇◇◇
「…『カラバ』というのは…トンプソールの言葉で『みなもと』を表す言葉なのね…」
静寂に満ちた書斎の中。ふと気になった文の一節をアイリスが読み上げた。対面に座ってローゼンタールとボードゲームに興じていたゼオラが「みなもと?」と頭に疑問符を浮かべる。
「みなもとと言うのは…例えば水源とか源泉とかそういう事ですか?」
「う~ん…もっとふわっとした意味じゃないかしら?例えば、『心の拠り所』『自分のルーツ』とか…?」
「あとは『故郷』であるとか『魂がかえる場所』とか…まぁ、色々な意味がある様ですね」
ローゼンタールが細かく解説を入れてくれた。彼はトンプソールの言語にも相当詳しい。
マディバレーの訪問から、既に3日が経とうとしていた。あれから領内で問題ばかり起こしていた古参兵達を退職させたりと色々バタバタしている内に、外が大雨に見舞われ、外出が出来なくなってしまったのだ。
今、彼女たちがいるのはローゼンタール邸の領主の書斎だ。彼がカラバ達への理解を深めようとしていただけあり、そこにはトンプソール関連の書籍が山の様に置かれていた。何かの切っ掛けになればと思い、アイリスはずっとその書籍を読み漁っていたのだ。
「カラバ族は『大地神ゴーレム』を神と崇め、トンプソール武族の中でも特に生まれ育った土地への信仰を強く持つ一族…。なるほど、彼らがあの土地に拘るその一端が見えた気がするわ…」
「『ゴーレム』…というのは、あのデブリスのゴーレムですか?」
ゴーレムというのは
「デブリスのゴーレムを信仰しているのではなく、彼らが進行していた神の名前があの土人形に名付けられた、というところでしょうね」
「しかし…あの地で見たものは間違いなくゴーレムだったのですよね?」
「そうなのよねぇ…。でもゴーレムが人の言う事を聞くなんて事は聞いた事がない…。下手をするとまた…」
「どっちにしろ、あの土地にはデブリスがいる可能性が高いという事ですね…。ならば一刻も早く彼らをあそこから遠ざけねばならないと思うのですが…。はぁ…どう言ったら伝わるのやら…」
ローゼンタールが困った様に気怠そうに頭を掻くと、扉が勢いよく開いて「おーい!見つけたよ」と声が響いた。
マヤとレイトだった。何故かレイトの方は腰にディライトドライバーを装着している。
「見つけたって…何が?」
「アダマンタイトに対応するファンタスティックヒット。あと2つ残った霊薬の内、どっちかが対応するんじゃないかと思ってたんだけど、案の定だった」
レイトがキラキラした水色のマテリアライドラッグを掲げて見せる。そう言えばレイト達はアダマンタイト鉱石をいくつか買い取ってディライトの変身に利用できないか試すと言っていた。
「そう。あのゴーレムとの戦いには使えそう?」
「うん。しかもこの形態の能力だったら、他にももっと色んな事ができるかも———」
その時だった。扉の向こうでドタドタろ走る音が響いたかと思うと、「ローゼンタール様!」と1人の衛兵が飛び込んできた。
「どうしたのかね?そんなに息せき切って」
「それが…あのカラバの長の娘が面会を求めておりまして…」
「なにっ?分かった、すぐに行く!」
領主に続いてレイト達も部屋を飛び出した。今まで頑なに関わり合いを拒んできたカラバの少女が尋ねてくるなど一体どういう風のふきまわしか。一階の応接間に辿り着くとかくしてそこには確かにハンナがいた。全身が雨と泥で濡れそぼり、血の気の失せた顔で俯く少女はローゼンタールが入って来たのを見止めると、「領主様…」と倒れ込みそうな勢いでその場に跪いた。
「突然の来訪をお許し下さい。こんな事をお頼みする筋合いがない事は百も承知しているのですが…どうか、手を貸して頂けないでしょうか…⁉」
「まぁ待て、少し落ち着きなさい」
焦った様に早口で捲し立てるハンナを領主が制した。近くの衛兵に毛布と何か温かい物を持ってくる様に命じると、少女の前に跪いた。
「聞かせてくれ。一体何が起こったのか…」
◇◇◇◇◇
まるでバケツの底を突き破ったかの様な土砂降りの中を、ローゼンタール家の馬車が疾駆していく。なるべく急がせている為、大雨でぬかるんだ地面の上では今にも車体が横倒しになりそうだが、構ってはいられなかった。やがて馬車が侵入できないマディバレーの入り口に辿り着くと、レイト達は急いで飛び降り、その先のカラバ達の居住区へと走り出した。ローゼンタールが行く事は多くの衛兵達が止めたのだが、いざという時には領主自らが陣頭指揮を執らなければいけない事態も考えられると聞かなかった。事態は確かにそれほど急を要するものだった。
ハンナの話によると、アダマンタイトの採掘中にかつてない規模の大きな落盤が起こり、採掘員50名以上が生き埋めとなってしまったらしい。必死の救出作業が行われているが、坑道はまたいつ崩落が起きてもおかしくない状況であり、救助の手もとても足りない。軋轢の残るローゼンタール家に飛び込む事が一体どれだけ危険かハンナだって分かっていただろう。だがそれでも、多くの仲間たちが生き埋めになってしまう事態を避けたかった彼女の思いを汲み取り、ローゼンタールは衛兵達に出動を命じたのだった。
マディバレーの内部に踏み込めば、ゴーレムが襲い掛かってくる可能性がある。その際はハンナが止める事になっているが、幸いにしてあの砂の腕が出現する事はなかった。だが、ハンナが「…やっぱり…“神”は私達を、見捨てたというの…?」と震える声で呟いていたのが印象に残った。
ハンナの話によると、掘り進めていた第9坑道は彼らが“神”と呼ぶ存在の指示で掘り進めていたらしい。“神”は崩落の心配はなく、直ぐに大きな鉱脈にぶつかるだろうと太鼓判を押したにも拘らず、今回の落盤事故が起こってしまった。
「…いけないと、分かっているんです…。でも今回閉じ込められたのは、最近“神”への不信を表す様になった人たちばっかりで…それを考えだしたら…」
震えながら話すハンナの口調からも、ありありと今の事態への恐れや不審の念が感じられた。
それほどまでに彼らに畏怖の念を抱かせる“神”とは一体何なのか。そんな存在への不信感を抱きつつも、何故あの土地から離れようとしないのか。問い質したい事は山の様にあったが、今はカラバ人達の救出が先だ。彼らが暮らす居住区を抜け、レイト達は坑道へと辿り着いた。
「またいつ落盤が起こるか分からないぞ!そっとやれ、そっとだ!」
「しかし…!そんな事してたら、中の奴ら皆死んじまうぞ‼」
坑道に入り口付近には多くの人々が集まり、声を張り上げていた。戻らぬ夫や子どもを案ずる女性たちも多く集まっている。これはうかうかはしていられない。ローゼンタールは直ぐに衛兵達も救助作業に当たる様に命じた。突如としてやってきた彼らに何人かのカラバ達は噛みつく様な声を上げたが、「今はそんな事を言っている場合じゃないだろっ‼」と若き領主がかつてない剣幕で一喝した。
「確かに私達には多くの不幸な行き違いがあった。それを忘れるつもりは毛頭ない。だが、今だけは関係ない!君たちの大切な者たちを助ける為に、やれることをするだけだろ⁉」
貴族である領主が全身を泥水で濡れそぼらせて叫ぶ姿を、多くの者たちが驚きを持って見つめていた。そして何人かがカラバ特有の礼を返し、中へと入る様に促してきた。長らく降り積もった互いへの不信感がこれで払拭された訳ではないと思うが、今は取り敢えず1つの目的に向かって共に走る時だ。ビルハミルの衛兵やアイリス達は直ぐに坑道へ降り、塞がっている入り口に三々五々取り付き始めた。
「ダメだ、完全に塞がってる…!こりゃぁ、取り除くのに手間がかかるぞ…」
「どうしますか、お嬢。爆弾で吹き飛ばしますか?」
「ダメでしょうね…。更に落盤が起こるだけよ…」
いっそのこと錬真術で岩1つ1つを分解していくか…?とも思ったが、背後から「それならさ!」とマヤが声を張り上げた。
「いい方法があるよ。レイト、さっき試したヤツ!」
「え…?あっ、そうか!確かにあの形態の能力なら…」
レイトは腰にベルトをシュルシュルと巻き付けると、2つの霊薬をベルトへと装填した。
〈ランド!アダマント!ファンタスティック!豪傑のレシピ‼〉
「変身‼」
〈オールセット、ディライト‼〉
レイトがベルト脇のエブリッションスターターを押し込み叫んだ。途端、レイトの体が眩い光に包まれ、その形を大きく変化させていく。周囲の人間達はただ圧倒された様にその光景に見入っていた。
〈シェイキングチャンピオン!ランドマンナイツ‼〉
光が晴れると、そこにはまだ見た事ない新しいディライトの姿があった。恐らくアダマンタイトの性質を秘めているのであろう、宝石の様な多面的な表面構成を持つ水色に輝くマテリアメイル。そして岩の様なゴツゴツした形状を成す、土色のアーマムエレメントはとにかく大型でこれまでのどの形態よりも体が大きくなった印象を与える。特に両腕には通常よりもずっと巨大なガントレットが嵌まっており、細かい動作は出来ないだろうが、その分パワーは凄まじいのではないかと思わせる。
誰の目から見ても明らかに絶大なパワーを持つと分かる、『仮面ライダーディライト ランドマンナイツ』の威容がそこにあった。
「おっと…意外と、重いな…」
明らかに重量級な体に慣れないのか、ディライトが少しヨタヨタしながらゆっくりと歩いていく。そして塞がった入り口に近づくと、それを吹き飛ばさんとばかりに拳を振り上げた為、アイリスは慌てて「ちょ、ちょっと待ってレイト!」とそれを制した。
「力任せに崩すと落盤が起こる。時間がかかってもここは慎重にやらないと———」
「でも…大丈夫なんだなぁ、この形態なら」
ディライトは少し不敵に笑い、岩の壁に向かって拳を突き出した。ズガァン!と音がして、周囲の岩が纏めて吹き飛び、一気に道が開通するが、落盤が起きそうな様子はない。不思議そうに目をパチクリさせるアイリスに「ね?言った通りでしょ?」とディライトが言った。
「この『ランドマンナイツ』の特殊能力は『ランドマンセンス』…もの凄い高精度な超感覚を使えるんだ。だからどう掘り進めば落盤が起きないか…それが手に取る様に分かる!」
ディライトが再び拳を振るい、岩壁を吹き飛ばす。力を繊細にコントロールしつつも、アーマムエレメントの力で壁を補強して崩壊が起きにくくなるようにするのも忘れない。この後、採掘員達を引き連れて戻って来なければいけないのだ。途中で崩れてしまっては元も子もない。
あっと言う間に入り口を塞いでいた土砂が取り除かれてしまった。ディライトは開通した暗がりの奥底をランドマンセンスで見通す。そして遥か先に多くの人々の気配を発見した。
「いた…!よし、ちょっと行ってきます‼」
言うが早いか、ランドマンナイツが駆け出していく。直ぐに坑道内は陽の光も差さない暗闇に支配されるが、この形態には関係ない。また道が塞がっていれば超パワーで破壊し、土中を掘り進んでいく様はまるでモグラだな、とレイトは仮面の奥で苦笑した。
岩を崩しながら恐らく数百ハンズほどの坑道を掘り進んだ。如何にランドマンナイツの腕力が強靭であろうとも、流石に拳が痛くなってくるし、疲労も蓄積してくる。だがこの暗闇の中で恐怖に震えているのは、坑道内に取り残された人々だ。ランドマンセンスの通りなら、もう少し掘り進めば坑夫たちが取り残された場所に辿り着くはず。これ以上グズグズしていたら、有毒ガスが発生する可能性も高い。「なにくそっ‼」と心を奮い立たせながら、岩盤を掘り進み続けた。
やがてディライトの拳が石壁を貫くと、大きな空間が目の前に広がった。ランプの明かりがチラホラと灯る中、狭い空間に何十人もの男たちが蹲っていた。突如壁が崩れた音に何人かがビクッと顔を上げた。驚かせたのは申し訳ないが、生きていてくれて何よりだ。
「よかった…皆さん、無事ですか?」
「ひ、ひぃっ!なんだこのモグラゴリラ⁉」
「モグラでもゴリラでもありません!助けに来たんです‼」
薄暗がりの中で複眼をギラつかせている仮面ライダーの姿はさぞ不気味に見える、という事は分かった。次からは気を付けよう…と悔恨しつつ、何とか騒ぎを静めて全員を外へと連れ出す事が出来た。だが、結果的に巻き込まれた坑夫57名のうち8名が死亡、36名が重軽傷を負うという大きな事故となってしまった。武族全体での結びつきが強いカラバにとって何よりも大きな打撃となっただろう。
「…教えてくれませんか?どうしてあなた達は…そこまでしてこの土地に残ろうとするのか…」
アイリスが口を開いた。地の神を信仰し、生まれ持った土地への信仰を強く持つカラバ族の事情は理解しているが、どうもそれだけではないような気がしてならない。彼らに進むべき道を指し示し、だが同時にこの地へと縛り付けているあの石塊の“神”。全てはその存在が中心にあるとアイリスには思えた。
「あれは神ではなく、デブリスです…。もしあなた達があれに脅されてこの地を離れる事ができないと言うのであれば———」
「…そんな事では、ございませんよ」
ハンナに連れ添われた1人の男性が声を上げた。痩せて顔色も決して良くないが、鷹の目の様な鋭い強さの眼光が印象的だ。ローゼンタールが「ロシュエル殿…」と頭を下げた。つまり、彼が当代のカラバ族の長に当たる人物なのだ。
「…今まで多大なご迷惑をおかけしたにも関わらず、此度のご厚意…誠に感謝致します。これ以上の隠し立ては不敬というものでしょうな…。…お話致しましょう、我らの“神”の正体を…そして…我らに纏わる秘密を…」
止める者はいなかった。自らの古傷を抉りださんとするかの様に顔を歪め、族長は一族が抱えるものを吐き出していった。それは確かに瞠目に値する内容だった。
Saga6は次回で完結です。
次回の更新は火曜日となります。
ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
それでは。