仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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今回でSaga6が終了です。


Saga6  みなもと~泥の谷のカラバ~④

◇◇◇◇◇

 祭洞と呼ばれる“神”の住まう坑道は、カラバ達が暮らす居住区から少し離れた広場の中心にある。かなり水捌けの悪い土地で、今日の様に雨が降り続くと辺り一面が泥の沼となってしまう為、居住地とはなり得なかった場所らしい。ぬかるんだ地面に足跡を残しながら、レイトは薄暗い谷底を見回した。

 周囲一帯を急峻な谷に囲まれ、そのためか空が異様に狭い。碌に陽の光も差さない場所だからこそ、尚更地面の乾きも悪いのかもしれない。周囲に1本の草木も生えないのはこの土地柄か、それともここが怪物の住まう土地だからなのかは分からない。かつて坑道だった場所だからか木組みの建物やトロッコの路線跡などが残ってはいるが、半ば泥濘の底に沈み、その形を崩れさせている様はどこかうら寂しさを強調している様でもあった。

 

 こんな何もない場所で半年以上も…?もし自分だったら…と思うと、背筋に冷たいものが走る様な感覚を覚える。

 自分の道行きを振り返り、ここまでやって来られたのはいつも傍にいてくれた少女たちのお陰だと思う。自分は1人ではない、1つの目的に向かって共に走る他者の体温を間近で感じてこられたから、見知らぬ異世界でも生きてここに立つ事が出来ている。

 

 だがもし、それすらも感じられない世界に行ってしまったら、人はどうなってしまうのだろう?

 

『最近の“神”——いいえ、ヨセフはずっと様子がおかしかったんです…。だんだん呼びかけにも答えなくなっていって…みんなの様子を知らせても興味をなくしたみたいに…。…まるで…本当の怪物になっていってしまう様で…』

 

 ハンナはそう泣きながら訴えていた。巫女の血筋の影響なのか、一族の中で“神”の声を聞きとれるのは彼女だけらしい。ただの人間であるレイトにはその声は勿論聞こえないし、地下の気配も感じ取れない。だが3日前、自分たちを執拗に消そうとしたあの土塊の怪物が現れなくなった、という事は既に急を要する事態になっている可能性が高い。レイトは腰にドライバーを装着し、2つのライドラッグを装填した。

 

〈ランド!アダマント!ファンタスティック!豪傑のレシピ‼〉

「…変身」

〈オールセット、ディライト!シェイキングチャンピオン!ランドマンナイツ‼〉

 

 レイトの体が土のファンタスティックヒットへとチェンジする。この形態に備わった超越感覚でディライトは泥地の真下、カラバの“神”がいるであろう場所を探っていく。

 

「そこかぁっ‼」

 ランドマンナイツが勢いよく地面を殴りつけると、その衝撃が土中を伝わって確かに目標へと到達した。ディライトの超パワーによって生み出された強力なエネルギーに当てられ、休眠状態から目を覚ました目標は勢いよく地面の底から飛び出してきた。

 

 それは砂でできた巨人だった。全身が流砂の様に蠕動し、その形状は一定しないが頭や手、体の比率はやはり人間のものに近い。眼窩の嵌まっていない無貌が頭上からディライトを睥睨してきた。

 

「…ようやくお出ましか。対面するのは初めてだね?」

 ——去れ。ここはカラバの土地。去らねば“神”の鉄槌が下る事になる。

「悪いけどその脅しには乗らないよ。君の正体はもう分かってる」

 ——へぇ…僕の声が君には聞こえるんだ?

 

 ディライトが頷いた。この“神”が発する声は、正確には一種のテレパシーの様なもので、今まではその意思を読み取れるのはハンナだけだったという。だが今はランドマンセンスによってディライトにもその声を聞きとる事ができた。

 

「カラバの人々から話を聞いたよ。君の名前はヨセフ…。そしてかつて、フロリアンの圧制から皆を守る為に…デブリーターとなった事を…」

 ——………。

 ディライトの言葉を“神”——否、『ゴーレムデブリーター』は黙って聞いていた。そう、この目の前の砂の巨人は、かつて人狼に変化したカランと同じ、元は人間の少年だったのだ。

 

『我らがアダマンタイトを掘り起こした事で、フロリアンの締め付けは更に強くなりました。僅かな賃金で危険の多い採掘の仕事を続けさせられ、逆らおうものなら衛兵達に力で押さえつけられ…彼らの圧制から我らを守る為に、立ち上がったのがヨセフだったのです』

 

 早くに両親を亡くしたヨセフは武族の者全ての子どもとして育てられてきた。家族同然の人々に降りかかった暴意を放っておけなかったのだろう。己らを虐げ、その尊厳を踏みにじるフロリアン家に報いを受けさせる為に———彼は人を怪物化させる禁断の霊薬に手を出したのだ。

 

「半年前のフロリアン一家の変死事件…あれは君の仕業だったんだね?」

 ——…そうだよ。あいつらに思い知らせてやったんだ。僕らの()()()()を侵せば、どんな目に合うかって事をね。

 

 『ゴーレム』———彼らカラバの神と同じ名を付けられた怪物の霊薬を使い、ゴーレムデブリーターとなったヨセフはあっと言う間に領主一家を始末してしまった。地中を自在に潜行し、刺しても斬っても死ぬ事がないゴーレムの力の前では、如何に傲慢なフロリアン家も全く無力だった。人知を超えた力で地の底に引きずり込まれた彼らは、一切の外傷もなく事切れる事となり、誰にも死因を特定できない。正しく完全犯罪という奴をこの少年はやってのけたのだった。

 

 だが、たった1つだけの、しかし致命的なイレギュラーが発生する事となってしまった。

 

『ヨセフは…我らの為に怪物となったのです…。しかし…しかし、彼は…』

「…君は、怪物の姿から人間に戻れなくなってしまった…。そして、この土地から離れる事も…」

 

 僅か12歳の少年に人を怪物化させる霊薬の効果が大きすぎたのか、それとも霊薬の不具合か。ヨセフに差された霊薬はあっと言う間にオーバードーズ状態となって制御不能となり、土地から離れられず、誰と言葉も交わす事が出来ない怪物へと変えてしまった。彼にその霊薬を売りつけた者はその結果だけを知り、もう二度と現れる事はなかったという。

 

「…ヨセフ、よく聞いてくれ。俺のこの力なら君を元に戻す事ができる。少し痛いかもしれないけど、少しの間そこでジッとして———…っ⁉」

 だが、言い終わる前にディライトに向けてゴーレムデブリーターの拳が振り下ろされた。間一髪で躱したが、先程までディライトが立っていた地点はもの凄いパワーで抉り飛ばされていた。明らかにこちらへの敵意を向けてきたゴーレムに「なにするんだっ⁉」とディライトが叫んだ。

 

「俺は敵じゃない!元に戻してやるって言ってるんだ!」

 ——勘違いしないでよね、お兄さん。僕は…元に戻るつもりなんてないんだ!

 

 今度はゴーレムの左腕が平手打ちの様に横薙ぎに払われた。範囲の広い攻撃を何とかスウェーバックで躱す事に成功するが、直後右拳が猛烈な勢いでディライトへと降りかかってきた。咄嗟に腕をクロスさせて攻撃を受け止めるが、ディライトの身長くらいはあろうかという拳撃を防ぎきる事は出来なかった。ディライトの体が一気に吹き飛ばされ、絶壁へと叩き付けられる。全形態中最強の防御力を誇るランドマンナイツでも消しきれない衝撃がレイトの全身を打ち据え、思わずカハァッ!と声が漏れた。

 

 ——そうやって甘い言葉で僕たちを騙そうと…あなた達ブランクスはいつもそうだ!僕はもう…この“神”の力を手放したりなんかしない!

「だからって…!このままじゃ君はヤバいんだぞ!」

 

 迫りくる巨人の鉄拳にディライトは慌ててランドアーマムエレメントの地形操作能力で岩壁を出現させる。それでも拳は止まらないが、少しばかり勢いを殺す事はできる。ディライトは岩塊を殴りつけ、腕に向けて射出する。土のエレメントの影響を受け、岩の塊が巨大な杭状に変化し、ゴーレムの拳へと突き刺さっていく。砂の拳が砕け散り、ゴーレムが苦しむ様に悶えるのが見えた。どうやら痛覚はそれなりにあるらしい。

 

「君はその体になってから何も食べていないだろ⁉それにいつまでもデブリスの成分を体内に抱えているのは危険なんだ!最近、急に意識が消える事はないか?それは君の体が既に限界を迎えようとしてる証拠な———」

 ——それがどうしたって言うんだ‼

 

 ゴーレムの口部に相当する部分に穴が開き、そこから無数の岩塊が発射された。以前、同じライドラッグをオーバードーズしたカランは殆ど理性を喪失した怪物となってしまった。恐らく、今はヨセフにも同じ事が起きているとレイトは推測していた。最近ハンナの呼びかけにも応えなくなったり、正確なアダマンタイトの位置を教える事が出来なくなったのもそうしたデブリドラッグの副作用なのだろう。このまま行けばいずれヨセフはただ人を害するだけの怪物となってしまう可能性が高い。

 早いところ体内のデブリドラッグを破壊し、彼を元の人間へと戻さなければいけないのだが———こうも攻撃が激しくては反撃の糸口が掴めない。

 

 次の瞬間、ゴーレムが地中へと姿を消した。ディライトはランドマンセンスを起動させ、その位置を探る。次の攻撃がくるのは———足元!ディライトが横飛びに躱すとそこに腕が姿を現す。ディライトを掴み損ねた腕は空しく空を切り、また再び地面へと沈んでいく。こちらからは攻撃できない場所で安全に攻め立てる気なのだろうが、ランドマンナイツの超感覚なら攻撃される場所は正確に把握できる。これは泥仕合になりそうだな…と内心で嘆息した瞬間、脳内中にけたたましい危機感覚が鳴り響いた。

 

 攻撃が来る———全方位から⁉

 

 地面を突き破り、10本近い腕が波濤の様な勢いでディライトへと殺到する。谷地と完全な融合を果たしたゴーレムに最早人間の形など関係ないという事か。ディライトは岩壁を出現させ、攻撃を防ごうと試みるが無駄だった。壁を突き破り、ついに1本の腕にディライトが捕らえられてしまった。

 

 ——見たか!この地を脅かす者は何人たりとも生かして返さない。この地が僕たちの本当の()()()()になるまで…僕が皆を守るんだ‼

 

 ゴーレムが腕に力を込める。強大なパワーに押し潰されれば如何に強靭なディライトの装甲と言えども保たない。やがて全身にビシビシと亀裂が走り始め、その体がバラバラに崩れ落ちていった———。

 だが、そこでゴーレムは唐突に気付いた。

 

 ——なっ…⁉これは…!

「『守る』…だって…?バカも休み休み言え‼」

 

 転瞬、地下から猛烈なエネルギーが吹き上がり、地面を突き破り無数の岩の剣山が精錬された。その勢いに押される様に、ゴーレム本体が地の底から引きずり出された。針山が体中に突き刺さり、その動きを封じられた所に、地面の中から何かが飛び出してきた。

 

 ディライトだった。あの時、攻撃を躱す事は不可能だと判断したディライトは地中へと退避していたのだった。先程ゴーレムが握り潰したのは、岩で作られたディライトのダミー人形だ。

 

〈エブリッション!ヴァリアントクエイク‼〉

 

 エネルギーをチャージしたディライトが拳を振り上げてゴーレムへと突進した。ゴーレムはそれに向かって岩塊を発射するが、ディライトのエネルギーに触れると全てがランドマンナイツの拳へと取り込まれていく。やがてゴーレムのものにも劣らない巨大な岩の腕が形成された。

 

「ヨセフ、なんでカラバの人たちがここを離れようとしなかったのか知ってるか⁉それはここを()()()()にしたかったからなんかじゃない‼」

 

 

『…全ては、我らの責なのです』

 ロシュエルを始め、全てのカラバはそう漏らしていた。

 

『故郷を追われたのも、フロリアンの圧制に屈してしまったのも…全ては我らの弱さが招いた事…。怪物となり、人を殺めてしまったヨセフの罪は、我らの罪でもあります…。だから…あの子がこの地に縛られておる限りは…』

 

「この地から離れられなくなったお前を1人にしない為に、カラバの人たちは…この地に残り続けるって決めたんだ‼」

 

 いつまた虐げられるか分からないシドニア人達の膝元で。

 常に危険と隣り合わせの採掘の仕事を続けていくとしても。

 たった1人の少年の為に、彼らはこの地で生きていく事を決めた。

 

 一族に生きる者全てが、彼らの家族だから。

 それこそが彼らにとっていつも不変の———本当の()()()()だったから。

 

「守られていたのはお前の方だ!彼らをこの地に縛り付けていたのは…お前だったんだよ、ヨセフ‼」

 ——…うぅ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ………!!!!

 

 ゴーレムの体が波の様にうねり、その形状が崩れ始める。厚い岩盤の体が崩壊し始めると、先程までは見つけられなかった物が見え始めてくる。ランドマンナイツの超感覚がその体内をスキャンし、砂礫の巨人の内部に息づく少年の姿を捉えた。安全を考えればミスリックナイツに戻りたいところだが、あの巨大な怪物を打ち貫くにはパワーが足りない。ランドマンセンスをフル活用して、力を制御するしかないだろう。

 

「いい加減…そこから出て来やがれぇぇっっっ‼」

 

 ディライトの拳がゴーレムの体へとめり込み、浄化のエレメントエネルギーが流し込まれていく。ピンポイントに対象を破壊する様に調整されたパワーはヨセフの体内に残留したままのデブリドラッグの成分だけを見事に破壊した。ゴーレムの体はまるで操り糸が切れた人形の様に崩れ落ちていき———後には少年を抱きかかえるディライトの姿だけが残されていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 いくらデブリスが超常的な力を持っていようとも、デブリーターの核となっていたのは1人の人間——しかもまだ大人にもなり切っていない少年だったのだ。栄養を摂取できず、半年間も薬の毒素に晒され続けたヨセフは何とか一命を取り留めたが、その体は激しく衰弱していた。それを見越してアイリスとローゼンタールが医療設備を整えてくれなかったら危なかったかもしれない。

 地の巨人が消失してから2日が経とうとしていた。少年だったとはいえ、彼が領主を殺したのは紛れもない事実なのだ。本来であるならばシドニアの法で裁かれるのが筋というものだが、順わぬ民が公正に裁かれるとはとても思えない。ローゼンタールも彼らの処遇を決めかねていた折の事だった。

 

 カラバの民達がマディバレーから姿を消したのは。

 

 人々が暮らしていた集落から、多くの人々が働いていた坑道から、そして病人・怪我人が詰めかけていた病院からも、彼らの痕跡は綺麗に消え去っていた。まるで全てが幻だったのではないかと思える様なあっという間の失踪。だが、谷の入り口に残されていた1つの書き置きが彼らの真意を語ってくれた。

 

パウル・ローゼンタール様

 いくつものご厚情をかけて頂いたにも関わらず、重ね重ねの忘恩をお許し下さい。

 優しいあなたのことですから、きっと今頃我らの処遇を巡って思乱れている事と察します。そこまで心を砕いて頂いたあなたに我ら一族は心より感謝致しております。

 ですが、いつまでもその懐の深さに甘えるわけにもいきません。我らの者が負った罪は我らで清算しなければならない。それが掟です。だからこそ我らはここを旅立ち、次なる()()()()を探します。厳しい季節の到来も目前ですが、どうかその心の温かさを絶やさぬように、領主様もご自愛ください。

 あなた方のみなもとに精一杯の幸があらん事を。

ハンナより

 

「…ハンナ…もっと、違う形で…出会えていたら…」

 書き置きを読み終え、ローゼンタールが崩れる様にその場に座り込んだ。彼があの民達と共に生きたいと願ったその一端が、レイト達にも見えた気がした。

 

「…私が、間違っていたのでしょうか…。あの時、彼らをきちんと追及していればこんな事には…」

「そんな…ローゼンタールさんのせいじゃないよ…」

「ええ…きっとそれでもどこかで…同じ事は起こったと思います」

 

 何の慰めにもならないかもしれないが、今はそうとしか言えない。

 他者を見下げて、暴威で支配しようとする力の論理が消えない限り。

 そして———そこに忍び寄る何者かの悪意が果てない限りは。

 

「デブリーター…人の運命をこんなに狂わせて…一体何が目的なんだよ…」

 

 まだ姿の見えない、だが確かな実態を持つ“敵”の名前。

 1つの一族の運命を弄び、悲しみを刻み込ませた存在への怒りが、マディバレーの乾いた大地にしみ込んで消えていった。

 

 




次回予告
遂に辿り着いた、城塞都市『セルフック』。
ギルド入団の為の試練を受ける事となったレイトは、その地に根付くある過去へと対峙する事となる。
雷のファンタスティックヒットが今、霧に包まれた明日を照らし出す!

Saga7 『ゴースト~在りし日の幻~』

…明らかになるのは、それだけじゃない。

※次回の更新は土曜日です。また週1回投稿に戻ります。
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