久しぶりに“アイツ”の出番です。
◇◇◇◇◇
「『
セルフックの宿屋の一室。ナースプリングから命からがら逃げのびたレイトはアイリス達に事の次第の全てを説明した。幽霊が放つ瘴気の様なものを吸引した影響か、それともユニオにしこたま蹴られた所為かわからないが、妙に意識が朦朧としている。そんな有り様での説明はさぞ拙かったと思うが、アイリスは流石の博識ぶりでレイトが遭遇した敵の正体を見事に言い当てて見せた。
「今回はユニオの判断が正解ね。ゴーストクラスタのデブリスは簡単に勝てる相手じゃないもの」
「うん…。実際あいつ、斬っても斬っても全く効いてないみたいで…煙かなにかを相手にしてるみたいだった…」
「そういうところよ。…まぁ、あまり気にしないで。依頼の場所に情報のないデブリスがいたなんて、完全にギルド側の調査不足だわ」
ギルドが発給する依頼に関しては、調査専門員が事前に確認を行い、それに伴ってランクの設定が行われる。今回は精々銅級相当の依頼であったにも関わらず、現場には明らかに高ランクのデブリスがいたのだ。先程までギルドの女将であるジョアンナが尋ねてきて、平謝りしていった。
「どうする?ギルド側に不手際があった以上、今回の試験は実質無効。ジョアンナさんが言ってた通り、降りても問題ないけれど…」
「…冗談だろ。ここで降りる気なんてないよ…」
レイトが依頼に挑んだのは、何もギルドに入る事だけが目的ではない。依頼者のモニクの——家族の元を離れた悔恨を抱え続ける女性の願いを何としても叶えたいと思ったからだ。アイリスもその答えを予想していた様に「そう言うと思った」とニコリと笑った。
「レイス討伐に必要な霊薬と道具の準備はマヤにお願いしてるから。レイトの回復が済み次第、再攻略に取り掛かりましょう」
「…しかし…いいのですか?」
疑義を挟んだのはゼオラだった。精一杯平静を装っているが、幽霊と聞いた瞬間から部屋の隅っこに体を押しつけるだけ押しつけて一歩も動こうとしない。いつもの冷厳さもどこへやら、明らかに「全力で行きたくない!」とその目線が訴えていた。
「…幽霊の棲み処を荒らす様な真似をして…下手をすれば祟られるのでは…?」
「…厳密に、“幽霊”…とは違うわ。相手はデブリスよ」
しかし、アイリスが冷静にそう切り返した。
「死者の無念や未練がデブリス細胞の影響で形となって表れた怪物。死者の世界なんてものがあるのかは分からないけど…アレがいる限り、この世に遺されたままの思いがきっとある。早く討伐してその思いを開放してあげないと」
あのレイスの姿や村に施されていた、祝い事の花飾りを思い出す。『
今回に限った事ではない。既にこの戦いはレイト1人のものではなくなっているのだ。
「負けて…いられないよな…」
「そうね、でも焦りは禁物。…役割に引っ張られ過ぎて、それに押し潰されたらおしまいだもの…」
アイリスが小さく呟き、窘める様にレイトを布団に押し戻した。
◇◇◇◇◇
それから2日。レイトの体調が回復するまでにそれ位の日数がかかったのだ。だが、2日間ただ無為に過ごしていた訳ではない。その間に対レイス用の装備の作成やゴーストクラスタのデブリスとの戦い方をみっちりレクチャーして貰っている。しかも今回は、ギルドの試験が実質無効になったため、アイリス達も一緒だ。何とも現金なものだが、これなら負ける気はしない。
「それじゃ、改めて作戦を確認するわね」
ナースプリングを目前にして、アイリスが一同に振り返って告げる。
「レイスの特徴は主に2つ。1つは実体と非実体を使い分ける事で、物理的な攻撃を無効化してしまう事。そしてもう1つは不死性。つまり、倒しても倒しても死ぬ事はない」
ゴーストクラスタに分類されるデブリスは多くいるが、とりわけ厄介なのが『レイス』と呼ばれるタイプだ。死んだ筈の者が半透明で脚のない姿で現れる、という幽霊のイメージは大体がこれだ。
「そこで使用するのが、このパワーストーン。特定のエネルギーに強く反応する性質を持つこのマテリアルをばら撒く事で、レイスの透過能力を封じる事ができる」
「つまり…斬る事も吹き飛ばす事もできる、という訳ですね…。よぉし、それなら…」
ゼオラがナックルガードに包まれた指をバキバキと鳴らす。攻撃できるとわかった途端にこれである。こっちもだいぶ現金なものだ。
「そしてもう1つ。レイスには『霊遺物』と呼ばれる本体がある。レイスの不死性を封じるには、これを封印するしかないわ。その為には…徹底的に攻撃して表面のデブリス細胞を一気に霧散させる」
「ま、つまりは力技ってことね」
「そういうこと。…いい?時間との勝負よ。私とレイトがアタッカー。マヤとゼオラはなるべく距離を取ってあちこちに『
仲間たちが応で答える。レイトとアイリスは正面から、マヤとゼオラが柵を乗り越えてそれぞれナースプリングへと踏み込んでいく。崩壊した村は相変わらず不気味な静けさに包まれていた。
「まさか…逃げたって事はないよね?」
「レイスは土地に縛られているから大丈夫よ。それ故に…自分のテリトリーに踏み込む者には容赦しない」
アイリスの言葉通り、またしても村の中央の井戸から昏い瘴気が立ち込め初め、怨声を上げながらブライドレイスが姿を現した。鬼火の様に光る目で2人を睨みつけると、恐ろし気な呻きを上げた。
だが、レイトはもう恐れる事はしない。充分に対策をしてきたからというのもあるが、それ以上に今は多くのものを抱えている。それは依頼人の願いを叶えたいという思いであり、デブリスとなって縛り付けられる人の無念を解消したいと欲する心でもある。この悲しみが絶えない世界で、僅かでしかなくても、人々の嘆きを取り払いたいというのが、今の自分自身の願いだから———。
〈ディライトドライバー!〉
腰にセットしたドライバーに、今回の為に用意した2つのライドラッグを装填した。
〈サンダー!パワーストーン!ファンタスティック!神変のレシピ‼〉
レイトの思いに応えるかの様に、ファンタスティックヒットのファンファーレが響き渡る。深紫色のアーマムエレメントと琥珀色のマテリアメイルが降り注ぎ、レイトの周囲を旋回し始めた。
「変身‼」
〈オールセット、ディライト!デンキショックウォーロック!メイジングナイツ‼〉
レイトの体が、ディライトの新形態へと変わった。両肩から噴き出したエレメントタービュラーがケープの様に上半身を包み込む。パワーストーンの力を内包した不可思議な色合いのマテリアメイルと併せて、正しくその姿は
『仮面ライダーディライト メイジングナイツ』。雷のエレメントの力を内包するこの形態は、即ちディライトにとって最後のファンタスティックヒットというわけだ。
「マヤ、ゼオラ!今よ」
「はいよ‼」
「承知‼」
アイリスの叫びに、2人が握っていた爆弾をありったけ投げつけた。レイスを取り囲む様に周囲一帯に投擲された爆弾は、爆発と同時に周囲にキラキラと輝く粒状物質を撒き散らした。レイスには特にダメージが与えられた雰囲気はないが、元よりこの爆弾はその目的ではない。
「行くわよ」
「ああ‼」
レイトとアイリスがブライドレイスへと突進を仕掛ける。ブライドレイスは体を非実体化させ攻撃を避けようとするが———果たせなかった。パーラケインの突きとメイジングナイツの掌底突きがレイスの胸板へと叩き付けられていた。レイスの口から初めて苦悶の声が漏れた。
「よし、効いてる!」
「当然よ。このまま一気に削り切る!」
パワーストーン。『奇跡の石』とも呼ばれるこの鉱石は長い年月をかけて地や陽星の力を受け、その身に力を蓄えてきたと言われている。研究が始まったのはつい最近の事であり、その全容はまだ解明しきれていないのだが、この石は固有のエネルギー———主にエレメントや錬真力に強く反応し、その力を増幅する性質がある事が分かっている。先ほど投げた『火室』と呼ばれる爆弾は、爆弾の中に粉々に砕いたパワーストーンを入れる事によって、周囲一帯をパワーストーンの影響下に置く事が出来る、結界弾と呼ばれる種類の爆弾だ。体中が不定形なエネルギー物質の塊であるゴーストクラスタデブリスはこの領域内において、その透過能力を封じられる事となるのだ。
パワーストーンはその他にも、武器などにはライドラッグのエレメントを制御する増幅器として。そしてマヤのツールド・ファミリア達にも錬真力に反応し、自立制御させる為の触媒としても使用されている。正しくこの錬真術の世界を根幹から支えている、奇跡の産物と言えるだろう。
そして、その奇跡の力を宿すこのメイジングナイツの力はただ霊体に干渉できるだけではない。ディライトがブライドレイスに向けて腕を構え、その指をパチリと鳴らす。その瞬間、指先から紫電が迸り、レイスに直撃した。
「なるほど…。雷のファンタスティックヒットは、魔法特化形態って訳か」
「それ正確には魔法じゃなくて、レイトの錬真力を増幅させてエレメントの形状を制御しているだけなんじゃ———」
「わかってるって。こういうのはロマンだよロマン」
ディライトが仮面の奥で苦笑する。だが、錬真力———即ち思い描く力を増幅させるというのならば、文字通りこの形態は人のロマンを具現化できるスペックを秘めている事になる。使いようによってはディライトの全形態の中でも最も自由度の高い戦闘択を持てるかもしれない。
試してみるか。先ずは雷の矢のイメージ———。レイトが思い描いた通りに、ディライトの腕の周りにエレメントで形成された矢が10本ほど出現する。それらは「行け!」というディライトの叫びに乗って、レイスへと放たれた。全ての矢が突き刺さり、レイスが悲痛な声を上げた。
「よし…。このまま一気に本丸を!」
雷の鎖で滅多打ちにし、回転鋸をぶつける。上空から落雷を降り注がせ、その直後大波の様な雷のエネルギーで吹き飛ばす。度重なる連撃にレイスの表面を構成するデブリス細胞が削れていく。不利を悟ったのか、ブライドレイスは驚く程のスピードで上空高くまで飛び上がる。村の範囲からは逃げられない為、恐らく攻撃の届かない高所まで逃亡する気でいるのだろう。
だが。
「させるか…!」
〈トランスラッシャー!ガンモード!〉
「ソーちゃん。レイトを助けてあげて」
マヤの命令に従い、ソーちゃん———カエル型ツールド・ファミリアの『ソーガンフロッグ』がレイトの元へと跳んでいく。ディライトの手の中に収まり、双眼鏡型へと変形したソーガンフロッグにディライトは更に錬真力を流し込んだ。
ソーガンフロッグの体が中央部で縦に分割し、前後に伸展する。それをガンモードの銃口部分に合体させる事で、トランスラッシャーが新たな形態に変化した。長い銃身と高倍率スコープを装備する〈トランスラッシャー ロングライフルモード〉である。ディライトはスコープを覗き込み、上空のブライドレイスを照準した。
「行けぇっ‼」
トリガーを押し込むと、銃口部分から雷のエレメントが勢いよく迸る。まるでレーザーよろしくどこまでも直線に、光速で放たれたエネルギーは狙い違わず、ブライドレイスの胴部を打ち抜いた。ダメージに耐えかねたブライドレイスはきりきり舞いしながら地上へと落下し、音もなく地面へとひれ伏す事となった。
「やったわね…。もう少し表層を削っていけば…」
「了解。このまま一気に———…っっ‼」
だが、転瞬。
ディライト達の足元にいくつもの小爆発が発生した。ブライドレイスが動いた様子はない。つまり別の何者かの攻撃だった。
「この攻撃…まさか…」
「きゃぁっ‼」
「…っ!マヤっ⁉」
壁際で待機していたマヤがアイリス達の足元に転がってきた。彼女が飛ばされた方向へ目をやると、何者かが悠然とこちらへ歩いてくるのが見えた。
銀色の鱗の様な意匠が施された素体に、赤黒い甲殻類の様な装甲。生物的なそれらに対して、そこだけ人工的な作りの全身を駆け巡るケーブルと左腕に取り付けられた銀色のレイピア。エレメイルともデブリスとも違う、その存在は…。
「…お前は…⁉」
「…ワールドラーグ‼」
「よぉ、また会ったな!」
かつてベアカンファーでレイト達の前に立ち塞がったデブリーターの戦士『ワールドラーグ』がレイピアを煌めかせ、ディライトへと襲いかかってきた。ディライトは素早く指を鳴らしてワールドラーグへ電撃を放つが、相変わらずのスピードでワールドラーグは攻撃を搔い潜り、再びディライトの懐へと飛び込んできた。刺突剣の一撃をディライトはトランスラッシャーを引き上げ、その銃身で攻撃を受け止めた。
「ぐっ…‼」
「いい反応だ。少しは腕を上げた様だな」
加工されていながらも、こちらを嘲笑する様な声色でワールドラーグが囁く。レイピアがトランスラッシャーの表面にぶつかり、バチバチと火花が飛ぶ。押し負けまいと力を入れるが、今のメイジングナイツはパワー面ではディライトの中で最も低いらしい。ディライトの方が徐々に押され始めるが、突如アイリスが両者の間に飛び込み、ワールドラーグのレイピアを弾き飛ばした。
「ほう…なかなか勇敢だな、パラディン様よ」
「茶化さないで。答えなさい!あなたはデブリスなの?」
ワールドラーグの行動はブライドレイスを庇った様に見えた。だが彼は「は!バカ言え‼」と嘲弄で返してきた。
「あんな怪物共と一緒にするんじゃねぇ。お前らがプラントを荒らしてるって聞きつけたから、出向いてやっただけだ‼」
「プラント…?一体何の事…⁉」
「訊けば何でも答えてくれると思ってんのか?思い上がるな!」
ワールドラーグの右腕に赤き炎の爪牙が出現し、そのままアイリスの胴体へと振り下ろされる。だが、アイリスは腰のウェイビングローブでそれをいなすと、ウォーターライドラッグを装填したパーラケインを突き立てる。炎と水のエレメントがぶつかり合い、その相殺反応で衝撃波が広がる。アイリスとワールドラーグは後方に飛び退り、剣先と剣先、目線と目線をぶつけ合わせる。
「炎の爪…。『ドラゴン』ね、あなたの力は」
「ほう、気付いたか。…ご明察だ。ドラゴンの『
やはり…と思う一方で、驚愕がアイリスの体中を駆け巡る。相手の言葉を信じるなら、これまで相対してきたデブリーター———ワーウルフやゴーレムはデブリスの成分を基にして、その力を使える様になった存在であるという事で間違いはないだろう。言葉にすると単純だが、錬真術の世界に身を置いていれば、それがどれ程困難な事なのかよく分かる。「そんな…」とアイリスが唇を戦慄かせた。
「そんな技術があるなんて…聞いた事…」
「この世にはあんたの知らない裏の世界があるんだ。よく覚えておきな、パラディン様」
「ふざけるな!」
怒声を上げて、ワールドラーグへディライトが挑みかかっていった。両手に出現させた鎖状の雷撃を振り回し、ワールドラーグの懐へと肉薄していく。
「そんな訳の分からないものバラ撒いて…!お前らは一体何が目的なんだよ⁉」
「おい、勘違いするな。俺は何も強制しちゃあいねぇ。全部買った奴らの責任だろうが」
「人をモルモット扱いしておいて、よく言う‼」
「それがどうした‼」
横合いからワールドラーグの蹴りがディライトへ繰り出される。ディライトは屈んでそれを躱すと、電撃を纏わせた掌底突きをワールドラーグの腹部目がけて繰り出す———が、すんでの所で手首を掴まれ、攻撃を封じられた。
「っ‼」
「だから…見え見えだって言ってるんだ‼」
ワールドラーグの蹴撃がディライトの顔面を打ち据え、数ハンズの距離を一気に吹き飛ばされる事となった。
「貴様っ…‼」
ディライトに変わり、今度はゼオラが愛用の双剣『
「くっ…!やはりダメか…⁉」
「ドラゴンの皮膚組織を基にした装甲材だ。お前程度の力じゃどうにもできねぇよ。ただの人間で俺に挑みかかってきた度胸は褒めてやらぁっ‼」
ワールドラーグがゼオラの胸元を掴み、そのまま恐るべき膂力で投げ飛ばした。咄嗟に受け身をとりダメージを最小化したが、ゼオラはやはり今の自分でどうにかできる相手ではないと理解した。
「長い年月をかけて開発された『デブリーター・システム』だ。お前らに倒せるほど、ヤワじゃないんだよ」
ワールドラーグが悠然と歩み寄ってくる。ディライトとアイリス、ゼオラの3人が束になってかかったとしても、崩せる気がしない。一体何者なのだ、コイツは…?
「『プラント』…錬真術で言うところの『精製施設』の事ね…。まさか…」
デブリスの体組織を素に作られるデブリドラッグ。そして、この場所がプラントと呼ばれた意味。それらを総合すると、アイリスの脳裏に1つの仮説が閃いた。
だが、それは言葉にするのもおぞましい仮説だった。
「まさか…あなた達……。答えなさいっ!この村に何をしたの…⁉」
身の内に抱える怖気を悟られたくなくて必死に感情を抑制しようとするが、それでも口唇は戦慄き、剣を持つ手が震える。何かを悟ったかの様にワールドラーグが「へぇ…」と感心した様な声を漏らした。
「…気付いちまったか…。うわさ通り、聡明なお嬢さんの様だ…」
「…っ⁉…なんて……なんて事を…」
「…アイリィ…どうしたんだよ…?」
ワールドラーグへ剣先をしっかり突きつけつつも、アイリスの視線がレイトへ向けられる。彼女の表情は、怒っている様でもあれば泣いている様でも、または何かに縋りつきそうにしている様でもある。彼女がここまで取り乱したのをレイトはおろかゼオラですら見た事がなかった。
やがて、アイリスが抱えきれなくなった様に、ゆっくりと口を開いた。
「…10年前の、ナースプリング襲撃事件を引き起こしたのは彼らという事よ…。目的は恐らく…ゴーストを生み出すため…!」
Saga4以来のワールドラーグの登場でした。
そして、作中で書かれている通り、今回登場のメイジングナイツでディライトの初期フォームは全て揃い踏みとなりました。
まぁ、武器やその他のアイテムなど色々あるので暫くネタには事欠きませんが。
次回でSaga7が終わりです。
ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
それでは。