仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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今回でSaga7が終了です。
最後の衝撃展開まで目を離さずに———。


Saga7 ゴースト~在りし日の幻~③

◇◇◇◇◇

 10年前のナースプリング襲撃事件を引き起こしたのは、デブリーター達?

 そしてその目的は、ゴーストクラスタのデブリスを生み出すため?

 未だかつてない程、狼狽したアイリスの口から放たれた言葉。その意味を理解した時、レイトの全身にも衝撃が奔った。

 

 レイスデブリスは確か、死者の無念や未練がデブリス細胞に触れる事で出現する怪物だった筈だ。10年前、ナースプリングは盗賊たちの襲撃を受け、住民たちは全滅した。その無念からか、この地にはあのブライドレイスが生まれたのだと思っていた。

 

 だが、もし襲撃が仕組まれたものであったとするならば?

 この村が滅ぼされたのは、決して不運によるものなどではなく———!

 

()()()()()()に…()()()()()()()()()()だけに…!この村の人たちを殺したって言うのか⁉」

 

 ワールドラーグが大仰なため息を吐いた。

「悪趣味な事を考える奴ってのは、どこにもいるもんでな…。なかなか自然発生しないゴーストタイプのデブリスを探すくらいなら、作っちまえばいい。その方が、デブリドラッグを作る上でも効率がいい、と…まぁ、そう考えたらしいぜ」

「なにが…なにが効率だっ‼」

 

 込み上げる怒りを抑えきれず、ディライトがワールドラーグへ殴り掛かった。ワールドラーグはそれを捌きつつ、「おい、言っておくがな」と口を開く。

 

「指示したのは俺じゃねぇぞ。10年前なんて下っ端もいいところだからな」

「加担している時点で一緒だ!許されると思ってるのか…!こんな理不尽な…人の命を、ゴミみたいに奪う行為が———‼」

「…理不尽、ねぇ…。確かに理不尽だ…。だがなぁ‼」

 

〈DRAGON FIRE…INFUSING…!〉

 

 左腕に装着されたブレス型の機械が吠えると同時に、赤熱化したワールドラーグの足がディライトを蹴り上げた。全エネルギーを込めたキックがディライトの胸板をもろに貫き、その体を一気に吹き飛ばす。レイトが叫びを上げた気がするが、爆発的な衝撃音やガラスが砕け散った様な音にかき消され、聞き取れなかった。

 

「理不尽がどうした?人の命がゴミみたいに消えていく事がなんだ?この世ってのはな、元々理不尽に満ちてるんだ。デブリスや無法者どもに殺されて、命を散らしていく人間が毎日どれくらいいると思う?壁の中の連中に吸い上げられて、明日生きていく事も覚束ない…そんな奴らが、この世界にどれだけ溢れてると思う?」

 淡々と語るワールドラーグ。だが、その声にはどこか——抑えようのない怒りが覗いている風に聞こえた。

 

「デブリーター計画はその理不尽を正す為に、必要なサイクルの1つだ。これ以上邪魔をしようって言うなら———」

 

「…大きな理不尽を正す為に、小さな理不尽を見逃せって言うのか?」

 

 だが突如、遮る声が響き渡る。なに⁉とワールドラーグが振り返った転瞬、指を鳴らす快音と共に目が眩むほどの雷の奔流が襲い掛かり、その体を吹き飛ばした。

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」

「ご忠告どうも。でもそんな世界は…こっちから願い下げだ!」

「…レイト‼」

 滞留する濃霧を破り、全身から紫電を迸らせたディライトがそこに立っていた。再び指を鳴らすと、ワールドラーグの周辺にいくつもの雷球が出現し、閃光と共に爆発した。

 

「…お前っ…!確かに致命傷を負わせた筈なのに…⁉」

 強度に乏しいパワーストーン製のマテリアメイルはデブリーターの必殺技で十分貫ける筈だった。ワールドラーグの疑問に答える様にディライトが指をパチリと鳴らすと、彼を取り囲む様に紫色の球形エネルギーが姿を現した。

 

「メイジングナイツの特殊能力『メイジングフィールド』だ。自分の周囲に展開すれば、絶対不破の盾になる。そして展開している間は———」

 

 パチリ!と音が空気を圧して響く。

 放たれた電撃波が、矢の様な形に精錬され、ワールドラーグを三度奔流の中に包み込んでいった。

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁ————————————っっっっっ‼」

「…攻撃力を上げる、おまけまでつく」

 度重なる攻撃を受け、ついにワールドラーグが膝をついて倒れたのだった。

 

「…この世界には…確かに理不尽も不条理も、悲劇もある。だけどそれは、幸せを諦めていい理由にはならない」

 静かな、だが確たる決意を秘めてディライトが宣言した。

 

「俺はあんた達のやり方を認めない。どんなに小さくても人の幸せを、笑顔を、積み重ねて世界を変えていく。そんなサイクルだってあっていい筈だ!」

「…ふざけるな!そんな綺麗事を…押し通せると思ってんのか⁉」

「通す!押し通して見せる‼それが俺の…仮面ライダーディライトの(サーガ)だ‼」

〈ヴァリアントブリッツブラスト‼〉

 

 ロングライフルモードのトランスラッシャーのトリガーを長押しし、必殺技を起動させる。限界までチャージされたエレメントエネルギーが銃身から解き放たれ、光のシャワーとなってワールドラーグを———そしてその背後のブライドレイスへ殺到する。ワールドラーグの堅牢な生体装甲はその攻撃になんとか耐えたが、レイスはそうはいかなかった。雷のレーザーが幽霊の表層部を削り取っていき、遂に限界を迎えたレイスの姿が泡の様に消滅していった。

 

「マヤ、今だ‼」

「任して!」

 消滅していくレイスに向けてマヤがウイスキー瓶程の大きさもある、大型の空瓶を向ける。虚空に四散していくところだったレイスの体がその中に吸い込まれると、マヤは急いで厳重に蓋をした。「よし、封印完了!」とマヤが快哉を叫ぶ。それは同時に勝利宣言でもあった。

 

「チッ…、任務失敗だな…。仕方ねぇ…」

 ワールドラーグがブレスから煙幕の様なものを放出する。どうやらこのまま撤退する気らしい。レイトが「待て‼」と追い縋ろうとするが、手を伸ばした先にはもうその姿はなかった。

 

「クソッ…!逃げられたか…」

「…仕方ないわね。また相対する機会もあるでしょう。それより今は…これを依頼者に届けないと…」

 

 アイリスがレイスを封印した大瓶を大事そうに抱えて見せる。覗き込むと、中には藍色のドレスを纏った古い人形が封じられていた。

 

「…これが、『霊遺物』なんだ…」

「そう…。これに秘められた人の思いが、デブリス細胞と結びついてゴーストへと変わるの…。不思議なものよね」

 ゴーストの基となる霊遺物は、思いが残りやすいもの———即ち生前最も思い出深い物品である事が多いのだそうだ。人形は何も答えない。これに秘められた思いを読み取れるのはこの村唯一の生者———依頼者のモニクだけだろう。静かに冥福の祈りを捧げた後、一同は霧に包まれた廃村を後にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

「…間違いありません。私が生まれた時に貰った人形です。まさかまだ持っていたなんて…」

 

 瓶に封じられた霊遺物———ドレスを着た人形を眺めながら、モニクが呟いた。

 やはり、と思う。少し額の広い顔の造作は、モニクと似ていなくもないと思っていた。

 

 レイト達は依頼者であるモニクの居所へ戻り、事の経緯を説明した。村にいたのはレイスであった事を。そしてそのレイスを退治したところ、これが残された事を。

 流石に、あまりにも残酷すぎる真実だけは伝えられなかったが…。

 

「…この一帯の地域では、生まれた時に人形を贈る習慣がありますね。人形は持ち主と多くの思い出を共有して、その一生を共にする…と聞きました」

「…ええ。でも私…家を出る時にこれを置いていってしまって…。…本当に…親不孝なものだわ…」

「…あと、ご実家でこれを見つけました。こちらは、妹さんのものですね?」

 彼女の生家で見つけた白いドレスを着た人形を手渡す。煤と泥で汚れていても、モニクは愛おしそうにその顔を撫でた。こうして2つを並べると、やはりその作りはそっくりだと思った。

 

「白いドレス…あの子は結婚するところだったのね…。それが…こんな事になってしまうなんて…」

「…今回討伐したレイスは、恐らく妹さんの思いが基となって生まれたものと推測します。でも、霊遺物となっていたのはモニクさんの人形でした。…きっと最期の瞬間までお姉さんを気にかけていらっしゃったのではないでしょうか?」

 慰めになるかはわからない。だが、人の心は誰にもわからない以上、残された思いの欠片にどう向き合っていくかは生者の自由だ。悲しみの絶えないこの世界で、例え僅かでしかなくても、希望を見出して前を向ければいい。それが依頼に向き合う時の、アイリス・ルナレスのスタンスでもある。

 

「…バカね。最期くらい、自分の事を考えればいいのに…」

 モニクが目を伏せる。泣き出すだろうかと思ったが、彼女は最後までアイリス達の前では涙を見せなかった。

 

「ケースに取り付けられたパワーストーンが、霊遺物に込められた思念を少しずつ浄化していきます。1年位は掛かりますので、その間ケースを割らない様に注意して下さい。何かあればまたギルドまでお願いします」

「はい。何もかもありがとうございました」

 モニクが深々と頭を下げる。

 

「…夫も死に、故郷もなくなってしまって…もう何の為に生きたらいいのか、正直途方に暮れていたんです。…でも、生きていけるかもしれませんね。あなた達の様な人に、巡り合えたのだから…」

 暮れゆく世界の中で、それでも彼女は晴れやかに笑ってレイト達を送り出してくれた。相も変わらず世界の酷薄さは変わらない。それでも人は生きていく。小さな喜びを繋いで、明日も日々は巡っていく。

 

 少しずつでもいい。綺麗事でも構わない。そんな世界を、人々の営みを守っていければいい。レイトは改めて小さな決意を宣言した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

「入団できないって…どういう事なんですか⁉」

 

 ギルド『グランメイターズ』の事務所にアイリスの怒声が響き渡る。彼女がこうも声を荒げるのをレイトは初めて見た。それは向こうも同じだった様で、少し気圧された様子で「アイリィ…少し落ち着いておくれ」と女主人のジョアンナが言った。

 

「確かに今回、以来を1人でクリアする事は出来ませんでしたけど…それはギルド側の調査不足が原因だから、試験は無効にするってそう言いましたよね?」

「…ああ、言った。それでその坊やの実力もよく分かったよ。…だけどねぇ、物事はそう単純じゃないんだよ…。…『ゴーツ&バリー』って知ってるかい?」

「…?…はい、あんまり評判の良くない討伐系ギルドですよね?」

「そ。噂じゃ密猟やかなり強引な仕事の受注もしてるって言う胡散臭い連中だ。そいつらが各ギルドにこんなものを配ってたんだ…。見な」

 

 ジョアンナから差し出された紙片を眺めたレイトとアイリスは、次の瞬間顔を驚愕に染める事となった。そこに描かれていたのはレイトの人相書きだったからだ。「なんですか、コレは⁉」とアイリスがまたも憤慨した。

 

「知るかよ。だがそこに書かれている通り…その男はうちのギルドの団員に重傷を負わせておいて今も逃亡中だから、見つけ次第引き渡せとのお達しだ。…なんか心当たりはあるかい?」

「…あります。多分、ツンベルクでの一件だと思います…」

 火を噴くコカトリス討伐時に起こったトラブル。当時まだディライトの力を制御できず、霊凱装(エレメイル)を纏ったエドガーという男に怪我を負わせてしまった。去り際に、「絶対許さない」と呪詛にも近しい憎悪をぶつけられたが…まさか、この様な形で報復を受けるとは…。

 

「あのー…これってもしかしなくても指名手配!的なやつ…?」

「いや、そんな大仰なもんじゃない…。まぁ…ギルド出禁!的なやつ…かね?」

「ジョアンナさん、それは誤解です!あれは相手側が私達に殺意を向けてきたからで、充分に正当防衛の範疇だと———」

「分かってるよ。誰も闇ギルドすれすれの連中の言う事なんか、真に受けやしない。…でもねアイリィ…私たちギルド間にも条約って物がある。こうしてギルド間での通達書が出回っちまった以上、それを大っぴらに破る事は出来ないのさ」

 ジョアンナは済まなそうに顔を陰らせつつも、レイト達から少しも目を逸らさずに、ただ頭を下げた。

 

「…もしあんたを雇ってしまったら、恐らく…いや、確実にG&Bと戦争になる。だから…申し訳ない…」

 そう言われてしまえば、レイト達にそれ以上は何も言えなかった。G&Bに引き渡されないだけマシというものだろう。未だ不満そうなアイリスを連れて、レイト達はグランドメイターズを後にした。

 

「まさかこんな事になるなんて…」

「仕方ないよ。ギルド同士の取り決めだって言うんなら、俺達にどうこう言える問題じゃないし」

「そうだけど…でも、こんなの理不尽だわ…」

 何だからしくない程、アイリスは落ち込んでいた。当のレイトはあまり気にしていないと言うのに…。見かねた様にゼオラが「どうします?」と口を開いた。

 

「ご命令とあらば、その不良ギルドに頼みこんで、人相書きを撤回させてみせますが?」

「いや、絶対頼みこむ気なんてないでしょ。指ボキボキ鳴らすの止めて」

 いざとなったら本当にやりそうで、実に恐ろしい。

 

「大体さぁ、そこまでしてギルドになんか入らなくて良くない?今までずっと何とかやって来た訳だしこれからも何とかなるよ‼」

 うんうんと1人で勝手に頷いて納得しているマヤ。いつもだったら「適当な事を言うな」とアイリスに窘められそうなものだが、彼女は「でも…」と力なく呟いた。

 

「ギルドの登録証明は…この世界では市民権と殆ど同義のものよ。国家間の移動も容易になるし、周囲の見る目だって変わってくる…。…私みたいな、根無し草になって生きる必要も…」

 

 その言葉にレイトとマヤは首を傾げた。

「…アイリィは、神聖教会公認のパラディンでしょ?根無し草って事はないんじゃないの?」

 尋ねても、アイリスの返答は「…あ…うん…そうなんだけど、ね…」とどこか歯切れが悪い。違和感を感じるレイトだったが、「とにかく!」とゼオラの声に遮られた。

 

「今後の目標を考えましょう。先ずはレイト———勇者ディライトの事を神聖教会に報告する必要があるのではありませんか?」

「でもさ、ゼオラ前に言ってたじゃん。デブリーターと教会が繋がってるかもしれないって。だったら迂闊に明かしちゃうのは危険なんじゃない?」

「…そうね。敵の手がどこまで伸びてるか分からない。少し慎重に行動しなきゃいけないわね…。となると…」

 アイリスの目が伏せられ、暫くの間黙考に沈んでいく。やがて何かを決意した様に顔を上げた。

 

「王都へ——『ダルウィン』まで行きましょう。そこに私を聖任して下さった司祭様がいるわ。あの人なら、信頼できる」

 アイリスの宣言に、マヤが「王都‼」と顔を輝かせた。

 

「ダルウィンは私達でも知ってるよ。それってここよりずっと大きい都市ってこと?」

「ええ、ここの2…いえ3倍はあるわ。きっと驚くと思う」

「そうと決まれば、食料品などの調達が必要ですね。レイト、買い出しに行ってこい」

 ゼオラが腰鞄からお金が入った小袋を取り出した。他の面子は誰も金銭感覚がいい加減なので、お金の管理は彼女が一括して請け負っている。

 

「…それと王都に行くんだ。お前はもう少しマシな装備を手に入れろ。ここのちょうど反対側に手頃な値段の武器屋がある。マヤ、いい物を見繕ってやれ」

「ここから反対側?遠いなぁ…」

「当たり前だ。王都までの道のりは長いぞ。無駄遣いはするな」

 お金を手渡され、レイトとマヤが街の雑踏へと駆け出していく。道のりが不透明になった感はあるが、それでもこれからもアイリス達と旅を続けられる事がレイトには嬉しくもあった。

 

「装備かぁ…どんなのがいい?やっぱりもっと勇者っぽく金ピカの鎧とか買っちゃう?」

「ヤダよ、そんな目立つの。…ここはもっとド定番に…ロングコートとか!」

「えぇ~…絶対ダサいよ、それ…」

 

 浮かれ気味の2人を見送ると、ゼオラは石畳に腰掛ける主人の少女に振り返った。レイト達を街の反対側まで使いにやらせたのは、少し彼女とだけ話したかったからでもある。

 アイリスの表情は何かに耐えている様に唇をギュッと引き結んでいる。よく見ると、肩や手も僅かに震えている様だった。できれば横に腰掛け、その肩を抱き寄せる事ができればと思うが…自分の立場でそれはできない。

 

「…あの通りです。レイトは気にもしてないでしょう」

 出来る事は、ただ主の心の傍らに寄り添う事だけだ。

 

「ああいう男です。大儀よりも人々の些細な幸せを優先する…。勇者としてはおかしいのかも知れませんが…やはり、あなたと目指す道は同じです」

「…わかってる。でも…だからこそ思ってしまうの…。彼を…私のワガママに付き合わせてるだけじゃないかって…」

 レイトが起こした傷害事件。あれはアイリスを守った結果だった。もし彼がアイリスに関わる事がなければ、今頃は勇者ディライトとして多くの人々の歓待を受けていたのではないか…と思う。レイトをこんな場所に留め置いてしまっているのは、自分の弱さが原因だ。その事が今のアイリスには、何とも言えず口惜しい。

 

「…レイトは、そんな事を望まないでしょう」

 懊悩するアイリスにゼオラはそっと跪き、その手を握りしめる。以前の自分ならしなかったかもしれない。だが旅の中で、立場というものなぞ歯牙にもかけないマヤやレイト達と関わる内に、彼女の中でも何かが変わり始めている。これ位なら、きっと問題はない。

 

「どれだけ曲がりくねっていようとも、最後まで途切れることなくやり遂げればそれは本物の道です。…やり抜いてやりましょう。私は、どこまでもあなたについていきます」

 

 だから1人で抱えないで欲しい。元より2人で始めた道行きだ。背負うものの重さに耐えきれないなら、どこまでも支える覚悟は出来ている。

 そんな思いを込めて、ゼオラはアイリスの手を握り続けた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 光の届かない暗闇の中、ヨロヨロと覚束ない足取りで進む者がいる。

 荒い息を漏らしながら、やっとの思いで本拠地へと帰り着いたワールドラーグだった。先の戦いで受けたダメージはあまりにも大きい。おまけに持ち帰れたのは、任務失敗という結果だけだ。出来る事なら、こんな状態で戻りたくもないのだが…。

 

「まぁた、負けたの?無様なもんだね」

 嘲る様な声が反響して、ワールドラーグの耳に届く。考えられる限り、今最も会いたくない相手だったが、無視するのも癪だ。後方を振り仰ぐと、案の定ニタニタ笑いを貼り付けた少年がこちらに歩み寄っていた。

 

「天下無敵のワールドラーグもこれで2連敗か…。もうアンタの時代は終わりって事かな、おじさん?」

「黙れや、ウォルター。デブリドラッグもない無駄飯食いが、口を挟むんじゃねぇ」

「あぁっ…?ケンカ売ってんの、アンタ?」

「売るどころかタダでバラ撒いてんだよ、ガキが」

 

「やめなさい、2人とも」

 一触即発の空気を漂わせる2人の間に割って入ったのは、黒い服を纏った女だった。興が削がれたワールドラーグは舌打ちを1つ飛ばし、女に向き合った。

 

「すまねぇな、パトリシア。お前が育ててたレイスを回収されちまった」

「…まぁいいわ、プラントは他にもあるし……と言いたいところだけど。私達にも納得できるだけの言い訳が欲しいわね。…誰にやられたの?」

 女———パトリシアの詰問にワールドラーグは「知るかよ」と投げやりに返答した。

 

「仮面で顔も分からねぇ…。自分の事を『仮面ライダーディライト』とか名乗ってやがったな…」

「はぁ?ナニソレ?」

「勇者ディライトだって言うの…?そんなまさか…」

 

「それは本当か?」

 またしても別の声が割り込む。酷薄そうな色を含んだ、冷たい声。いつ聞いてもどこかゾッとする声音だ。ワールドラーグ達が声の方向に目をやると、コツコツと音を立てて1人の人型が歩み寄って来ていた。

 

 ワールドラーグに近しい意匠を備えた怪人だった。黒いアンダースーツやボディーアーマーの上に這いまわる様な赤いパイプライン。顔貌には正面の赤い主眼に加えて、側面に複数の複眼が配置されている。背部にはいくつもの関節を備えた“足”がマント状に生えており、それがどこか威厳めいた印象を与えていた。

 

「陛下…来てらしたんですか」

「『ヴェノムアラーク』である。そう呼ぶのはやめい」

「…失礼しました」

 3人がヴェノムアラークに向って、恭しく膝をつく。それだけで彼らの上下関係が伺えるというものだった。

 

「お前を2度も敗退に追い込んだ者が、本当に勇者ディライトの系譜に連なる者であるのかどうか…それはどうでもいい事だ。我らに仇なそうとする者がいる…重要なのはそれだけだ」

 ヴェノムアラークの声色に、苛立ちの気配が強くなった。それはここに集う者全て同じだ。誰もが譲れないものがあり、ここに集っている。何者かは知らないが、計画を邪魔する者であるならば容赦するつもりはない。

 

「ウォルター、パトリシア…お前たちのデブリドラッグの完成を急がねばなるまいな…。その為にも、各地の実験データの回収を急げ。…これ以上、ぬかるでないぞ…()()()()

「御意のままに」

 

 膝をついたまま、ワールドラーグが左腕のブレスからデブリドラッグを引き抜いた。体を黒い蒸気が包み込み、晴れた時にはその姿は人間の男へと変わっていた。

 筋骨逞しい体つきに濃い褐色の肌、炎の様な鮮やかな赤い髪。

 ワールドラーグ——ジェイク・アリウスが面を上げる。鷹の様に鋭い双眸をギラリと光らせ、表情の獰猛さを一層際立たせた。

 

「全ては堕ちゆく世界の為に———。我らを阻む者は…全力で叩き潰す…‼」

 




次回予告

示された1つの光明。
レイトの隠されたルーツと、浮かび上がるマヤとの関係。
未だ形の見えぬ過去の記憶を、しかし土足で踏み荒らそうとする影があった。
零落の町で進む、恐るべき陰謀を暴き出せ!

Saga8『レムナント~邪剣の町~』
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