最後には大きな出物も用意しているので、お楽しみに。
◇◇◇◇◇
「ティニーポンドを出せ!」
「俺達を騙してやがったのか⁉」
「説明しろ!」
「出て来やがれ、偽パラディン‼」
屋敷の外は、手に農具や松明を持った住民たちが大挙として押し寄せ、怒りの鯨波を噴き上げていた。いつの間にか村長だったドメニカ一家の殺害に加担させられ、それから4年近く苦しい生活を強いられ続けてきた。自分達を差し置いて
それが、今や偽りだったと判明した。自由の騎士を謳う男は身分を偽り、あまつさえ人の心を自由に操る事の出来るペテン師だった事が分かったのだ。今や住民たちの怒りの矛先は全て件の偽パラディンへと向けられている。
その光景が、彼が自ら指揮したドメニカ一家殺害事件の光景と酷似しているのは、皮肉が過ぎる気もする。
「くそっ…何だってんだ…!なんでバレちまったんだ…」
だが、焦慮に身を焦がすティニーポンドにそんな事を思い返す余裕はない。ここの住民たちは彼がいずれ貴族社会を打倒する為に戦う兵隊として育てていく予定だったのだ。それが何の準備も整っていないこのタイミングで暴動を起こすなど冗談ではない。
もし暴動が長引けば、周辺の都市部の衛兵たちに事態を知られる恐れがある。そうなれば計画は白紙だ。きっと地下の精製施設だって、見つかればタダではすまない…。
「オーガスタス!てめぇなにビクビクしてやがんだっ!」
「だ、だってよクラーク…。50人はいるぜ。雪崩れ込まれたらとても太刀打ちできねぇよ…」
「チッ…農具しかない痩せっぽち共にビビってんじゃねぇ。いざとなったら、このカゲマサで…」
汗ばんだ手で魔剣の柄を握りしめながら、正面玄関を勢いよく開ける。転瞬、松明を握りしめた民衆たちの怒号が一層強くなった。
「説明しろ、ティニーポンド‼」「パラディンってのは噓だったのかっ」「ふざけんな!お前の所為で何人が飢え死にしたと思ってんだっ」
知るかそんな事!と叫びだしたいのをティニーポンドはグッと堪える。ここで全員の心を操るのは簡単だが、それでは根本的な解決にはならない。カゲマサは刃を鞘に納めると力が解除されてしまうのだ。面倒だが、ここは上手く言葉で丸め込むよりない…。
「お、おい待ってくれよ。俺が偽物だって?誰がそんな事言い出したんだか知らないけど、全くの出鱈目だ。俺は本当に神聖教会の使者で、これは新たなる社会をつくる為の———」
「嘘おっしゃい!あんたの話は全部筒抜けだったんだからね!」
民衆たちに混じってそう宣言したのは、あの地下牢に閉じ込めた筈の少女だった。
少女———マヤ・フォルコが手に持っていた貝殻の様な道具を開閉する。するとそこから、
『お察しの通り、俺は偽物のパラディンさ。こんな紋章付けてるだけで、誰もかれもホイホイ信じちまうんだから、チョロいもんだぜ』
『俺はアイツ等の自由の為に戦ってるんだっ。バカな民衆どもがそれに対して、よぉっく感謝するのは当然の事だろうがっ‼』
『コイツは『魔剣 カゲマサ』って言ってな…。刀身から放たれる光を浴びた人間を…俺の意のままに操れるのさ!』
明らかにティニーポンドの声で、先程パラディンの少女達に話した内容を大音響で周囲に垂れ流し始めたのだ。ティニーポンドの顔から血の気が失せた。そんな様を見やり、マヤが満足げにニヤリと微笑んだ。
「ツールド・ファミリア、『ジャイロシェルフィー』だよ。あんたの声はリアルタイムでぜ~んぶダダ洩れだったってわけ♪」
「ふ、ふざけんじゃねぇっ!そんな事、ある訳ねぇだろうがっ!」
往生際悪く反駁する偽パラディンだったが、ジャイロシェルフィーからまたしても『ふ、ふざけんじゃねぇっ!そんな事、ある訳ねぇだろうがっ!』と声が響いた。どう見ても、言い逃れできる状況ではない。
「ふざけんなっ!」「この詐欺師めっ」「よくも俺たちを騙しやがったな‼」
村民たちが更に怒声を強め、ティニーポンドへとにじり寄って来た。もうどれほど言葉を尽くしたとしても、彼らを信じさせるのは無理だろう。少なくとも、ここで彼の計画は潰える事が確定となったと言っても良い。
だが。
「ふざけるな…。ふざけんなよこの愚民どもがぁっ‼」
ティニーポンドが鞘から魔剣カゲマサを抜き放った。こうなっても彼は計画の実現を諦めきれなかった。カゲマサの刀身がヌラリとと輝き、村民たちを包み込もうとする。
「てめぇらは大人しく…俺の計画の駒になってりゃいいんだよぉっ‼」
転瞬。
どこからともなく筒状の物体が村人達の足元にいくつも転がった。それらはボムッ!と小さな破裂音を響かせると、たちまち辺り一帯を黒い煙で包み込んでいった。
キャシャラやカブーラの夜目さえも封じられる超強力煙幕弾、その名も『
「みんな、逃げて!」
マヤの声に反応し、村人達は一斉にその場から逃げ去っていく。だが、黒煙を破って出てきた者もいた。
腰に既にディライトドライバーを巻きつけたレイトが。
右手にパーラケインを握りしめ、ウェイビングローブをはためかせるアイリスが。
手甲に包まれた指を鳴らすゼオラが。
ギンッ!と正面のティニーポンドを睨みつけた。
レイトの内奥に今のは弾けそうな怒りの火種が燻っている。フッカーの住民たちを騙し続けた事。嘘八百を並べ立ててドメニカ夫妻を殺した罪。そして、アイリスにしようとした事。どれを取っても、これ以上この男をのさばらせる理由はない。
「出るとこに出て、罪を残らず償って貰うぞティニーポンド。…変身!」
〈シェイキングチャンピオン!ランドマンナイツ‼〉
2つのライドラッグの作用を受けて、レイトの体がディライトへと変身する。ランドマンナイツの青い複眼が輝き、偽パラディンを睨みつける。「ひぃっ⁉」とティニーポンドがたじろぐのが分かった。
「エイジィ、お願いね」
マヤの命令を受けてマンタ型のツールド・ファミリア『エイジスランタン』が、その身をランタン型に変形させて、ディライトの手の中に納まった。ディライトが更にそこに錬真力を注ぎこむと、ランタンのグローブが開閉し、傘の様に前方へ大きく広がった。
その形状は正しく“盾”だった。盾越しに偽パラディンの男を睨みつけながら、ディライトは素早く前方へ突進していった。
「く、くそっ!なんだか知らねぇが、邪魔されて堪るもんかよ!止まりやがれっ‼」
ティニーポンドがカゲマサを構えてその刀身から操心の光を発した。光はディライトを包み込み、その動きを止める筈———だったのだが。
「せぇりゃぁぁぁぁっっっっ‼‼」
「な、なにぃぃぃっっっ⁉」
ところが、ディライトは動きを止める事はなかった。あっと言う間にティニーポンドへと肉薄したランドマンナイツが拳を振り上げ、カゲマサの刀身ごと殴りつけた。ディライトの猛烈なパワーを叩き付けられ、ティニーポンドが悲鳴を上げて吹き飛んでいった。
「な、何でだ⁉止まれ、止まりやがれってんだっ‼」
絶叫しながら、ティニーポンドがカゲマサを遮二無二振り回す。光は確かにディライトを包み込んでいるのだが、ディライトの動きは止まる事はない。そして、ティニーポンドは気付いた。ディライトが盾で顔全体を覆っている事を。
「ま、まさか…っ⁉光を見てねぇのか…⁉」
「悪いな。その能力は既に…対策済みだ!」
『心を操るカゲマサだけど、弱点はいくつかあるのよ』
地下牢で出会った、サクラ・ガーフィールドという女性の言葉を思い出す。
『1つは、カゲマサの光は目に入ることで、初めて効力を発揮するという事。つまりね、目を瞑るとか遮蔽物で顔を隠すとかすれば、簡単に防げるのよ』
『たったそれだけの事で…?』
『たった…って言うけど、視界を封じられて戦うのって結構なハンディキャップだからね。あとそれから2つ目。心を操る力なんて持たされてる所為か、カゲマサの切れ味はそこら辺のナマクラ刀以下なの。つまり…』
「お前は仲間から引き離してしまえば…ほぼ何もできないって事だ‼」
「ぐぎゃぁぁぁぁっっっ‼」
迫りくるディライトの拳をカゲマサの刃で何とかガードするが、ティニーポンドのへっぴり腰でそのパワーを消しきれる筈もない。またしても偽パラディンの体が吹き飛ばされ、地べたを転げまわった。
舐めるなよ…とティニーポンドは毒づいた。相手は盾で顔を覆い隠して戦っている。即ち、こちらの動きは正確には分からない筈だ。ティニーポンドは姿勢を低くして、ディライトの左脇腹へと回り込み、そこへ刃を突き立てようとするが———ディライトはそれを見越していた様に、盾を振り、ティニーポンドを殴りつけた。
「何でだぁぁぁっっっ⁉」
彼が知るところではないが、ランドマンナイツの特殊能力は非常に鋭敏な超感覚なのだ。例え顔を盾で隠して視覚を封じられていようとも、戦闘では何の支障もない。
「く、クラーク!ど、どうするよ、ブラット…?」
「決まってんだろ!加勢に行かなくてどうするん———」
偽パラディンの取り巻き——ブラットとオーガスタスが武器を構えて助勢しようと立ち上がるが、
「行かせると思うか?」
「あなたの相手は私たちよ」
アイリスとゼオラに行く手を遮られ、男たちは見る見る顔を青くする。戦う前からこれなのだから、この時点で勝負にもなる訳がない。
カゲマサの能力は通用せず、仲間の助けも得られないとあってはこの時点でティニーポンド一味の負けは確定したと言ってもいい。ディライトはベルトのエブリッションスターターに手をかける。生身の人間相手に必殺技を使用するのは気が引けるが、後顧の憂いを断つ為にもここでカゲマサを破壊しておきたい。ランドマンナイツの超感覚を頼りに力をコントロールすれば行ける筈…と覚悟を決める。
〈エブリッション!ヴァリアントクエイク‼〉
「これで…終わりだぁっ‼」
「ちょっと待ってちょっと待って話し合いで円満な解決を———‼」
「今更もう遅ぉいぃぃっっ‼」
周辺の土をエレメントに分解し、大型化した腕がティニーポンドへと降り注ぐ。魔剣でガードしたとしてもその衝撃を消しきる事はできない。最早悲鳴も声にすらならず、偽パラディンが数ハンズの距離を一気に吹き飛ばされた。力はかなり繊細にコントロールしたので死んではいないと思うが、戦意は完全に削がれた筈だ。
「お疲れ様、レイト。終わったの?」
「うん、何とか。アイツの取り巻きは?」
ゼオラが無言で後方を指差す。ティニーポンドの仲間たちが頭にコブを作って気絶していた。戦闘シーンすら全カットされるとはなんて哀れな奴ら。
一方、ティニーポンドが瓦礫の中から這い出してきた。まだ性懲りもなく刀を手放していないが、あれ以上は何もできないだろう。さっさと拘束して近場の憲兵隊にでも突き出すべきだ。一応、光が放たれる事を再度警戒しつつ、ディライト達がゆっくりと歩を進めていく。
だが。
「…っ⁉」
「な、なんだよコリャァッ⁉」
突如、カゲマサが紫色の光を放ち、カタカタと細かく震えだし始めた。また偽パラディンが何かしたのかと思ったが、当の本人も何が起きたか分からない様だった。転瞬、カゲマサから無数の触手が伸び始め、ティニーポンドの体を繭さながら包み込んでいった。「助けてくれぇっ!」と男が叫んだのが聞こえたが、直ぐに繭が肥大化を始め、その声をかき消してしまった。
やがて、繭から更に伸びた触手が密集し、その形を変化させていく。下側は蜘蛛の様な無数の足へ、そして側面部からはカマキリの様な鎌を携えた巨大な腕が形成されていく。全高がドメニカ家の屋敷を超えるほどまでに肥大すれば、それはもうクラーク・ティニーポンドではあり得なかった。
「何なのこれ…⁉」
アイリスの問いに答える者はいない。蜘蛛とカマキリが融合し、尚且つ全身が鉄の様な外殻で覆われた怪物が、金属が擦れ合う様な鳴き声を上げた。
◇◇◇◇◇
かつてクラーク・ティニーポンドだった巨大な怪物が、鎌状の腕を降り下ろす。巨体に違わぬ絶大なパワーがフッカーの粗末な家々なぞ瞬く間に粉砕していく。避難していた人々は、突如出現した巨大な怪物に慌てふためき、我先にと門外へ出ようとしていく。
「アイリィ、ゼオラ!避難誘導の支援をお願い!」
「分かったわ。レイトも気を付けて!」
その場から立ち去るアイリス達を逃がすまいとしたのか、怪物が鎌を振り上げる。だがやらせる訳にはいかない。ランドマンナイツは怪物めがけて跳躍すると、その顔面を勢いよく殴りつけた。金属同士がぶつかる様な乾いた音が周囲に木霊していく。
これがカリュードンであったら、怯んで膝をつく位はしそうなものだが、目の前の怪物は全く堪えた様子がない。まるで鬱陶しいハエでも追い払うかの様に鎌を横振りし、ディライトを跳ね飛ばした。
「ぐあぁぁぁぁぁっっっっ!!」
ディライトが距離にして20ハンズ程、一気に吹き飛ばされ、1つの建物の中へと突っ込んでいった。ランドマンナイツはディライトの全形態の中でも最大の防御力を誇る筈なのに、それでもダメージを消しきれない。受けたダメージに朦朧としながら周囲を見渡すと、そこは狭い研究室の様な場所だった。壁面にびっしりとならんだ本。机の上には試験管やビーカー、秤などが並んでおり、中央には大型のガスコンロの様な機械———ライドラッグの精製に使用する錬結炉が設えられていた。どうやら、錬真術の研究室か何かの様だ。随分昔から放置されているのか、かなり埃っぽい。
だが何故か…妙に心が揺さぶられる様な気がする。
「なんだここ…?どこかで見た様な…———っっ⁉」
突如。
頭の中に、光が溢れ出した様な感覚に襲われた。だが決して不快な感じはしない。まるで抜け落ちていた何かが再び埋まって行く様な———?
『だからさ、錬真術に関する新しい仮説なんだよ。勇者降臨伝は創作物だって話もあるけど、僕はそうだとは思ってない。デブリス出現の謎もこれなら解けるかもしれない…』
『やってみようよ。新しい可能性は、きっと希望になってくれると思うんだ』
『…ごめん、失敗だったみたい…。…でも、僕きっと約束する。マヤも他の皆も、幸せに暮らせる世界を作って見せるって!』
「…約束…。…そうだ…約束したんだ…。誰もが、小さな幸せを…重ねていける世界を…」
『レイト、起きて‼』
「…っ⁉」
ツールド・ファミリを介したアマヤの叫びに揺り起こされ、遊離しかけていた意識が急速に覚醒する。目前にはあのカマキリの様な怪物が、傲然と迫りつつあった。ディライトは再び体を起こすと、痛む体に鞭打って怪物へと殴り掛かった。何だか知らないが、ここを壊させる訳にはいかない。そんな気がした。
だが、やはり正面からの力のぶつけ合いでは怪物の方が勝る様だった。ディライトはまたしても地べたへと叩きつけられる事となった。
「レイト!大丈夫⁉」
「…大丈夫、何とか受け身とったから…。…それよりマヤ、俺昔の記憶が少し戻ったかも知れない…!」
「うそっ⁉どういう事?」
「なんかこう…完全に戻った訳じゃないんだけど…。昔の光景が浮かんで来たんだ。錬真術の仮説がどうだとか、約束がどうしたって———って、ヤバいっ‼」
一瞬、過去の記憶の様なものがフラッシュバックしてからというもの、妙に頭がボンヤリしている。だが、怪物はそんな事はお構いなしに鎌を振り下ろしてきた。マヤを抱え、ディライトは慌てて後方へと跳び退った。
「…取り敢えず、その話は後ね…。今はアイツをどうにかしないと」
「そうだね。それにしても、あのパワーにどう対抗するか…」
「むむ…。仕方ない、ぶっつけ本番で試すしかないか…。来て、リヤちゃん‼」
マヤがどこへともなく指笛を吹くと、次の瞬間、瓦礫を突き破りレイト達が普段乗っているリヤカーが傲然と走ってきたではないか。リヤカーはまるで意思があるかの様にクルリと上下反転する。そして側面部から8本の足が飛び出し、ハンドル部分が巨大な鋏へと変形した。車輪部が横に広がり、まるで目の様になったその姿はまるで———。
「カニ⁉」
「ヤドカリだよっ‼荷物運ぶんだから当然でしょ⁉」
そういう問題か?とか、そもそもカニもヤドカリも大して変わらない気がするのだが?とか言いたい事は色々あるが、何を言っても藪蛇になりそうなので止めておく。
「名付けて、椰子蟹型眷属乗騎『リヤカードリフター』!あ、通称はリヤちゃんね?そう呼ばないと反応しないから」
「また面倒そうな…。でもこれ…ユニオと合体出来そうだね…」
「お察しの通り、出来るよ。ユニオ!」
「おう、任せなぁっ‼」
呼びかけに答えて既にバイクモードに変形したマシン・ユニオンスティンガーが走って来る。ディライトが跨るとユニオンスティンガーは跳躍し、リヤカードリフターの上部へと合体した。
「名付けるなら、『ユニオンスティンガー ドリフトモード』かな?行くよ‼」
「おうよ!今回は出番が少なかったからなぁっ!思うさま暴れてやるぜぇ‼」
バイクのスロットルを全開に開くと、蟹型のファミリアがそれに応える様に前方へと突撃していく。怪物は鎌を叩きつけようとするが、その前にリヤカードリフターの鋏がその腕をがっつりと捕まえた。怪物は逃れようと腕を動かすが、リヤの握る力は相当に強いらしく、振り解けもしなかった。
鋼鉄製の腕もやがてミシミシと音を立て始める。リヤが腕を勢いよく振りぬくと、怪物の鎌が第一関節辺りから、バキリと音を立ててもぎ取られた。その隙を見逃さず、リヤが左手を猛烈な速度で回転させ始め、怪物のガラ空きとなった脇腹を勢いよく殴りつけた。回転する鋏が怪物の表皮を抉り取っていき、擦れる金属音がさながら怪物の悲鳴の様に周囲の空気を圧していく。中央の鎖帷子状の繭を削り取ると、リヤが意外と繊細な手つきで中のティニーポンドを救出した。
剣士を取り出されたのだから、これで目の前の怪物も止まるか…?と思っていたが、どうやらその目算は甘かった様だ。左腕をもぎ取り、胴部に風穴を開けられようと怪物はまだ動いた。前足を跳ね上げた、所謂ウィリー走行の様な姿勢でリヤカードリフターを頭上から圧し潰そうとした。刃状の前足がリヤカードリフターの装甲を踏みつけ、各部からスパークが上がり始めた。
「くそっ!なんなんだコイツは!不死身だっていうのか⁉」
「振り払えない。このままじゃ…!」
アクセルを吹かし出力を上げるが、のしかかった怪物の拘束からは逃れられなかった。このままではいくらリヤカードリフターの装甲が持たない。どうする?と焦りばかりが募っていくさなかの事だった。
「どうやら…助けが必要みたいだな」
声が響くと同時に、唐突に怪物が動きを止め、全身を細かく震えだし始めた。まるで、動作不良にでも陥ったかの様だった。
ディライトが声の方向を見やると、そこに2人の人間が立っていた。女の方は先程地下牢で出会ったサクラ・ガーフィールドだ。もう1人は背の高い精悍な顔立ちをした男で、身長ほどもありそうな長剣を怪物に向けて突き付けている。剣からは怪し気な光が発せられており、どうやら怪物の動きがいきなりおかしくなったのはアレが原因の様だ。
「誰ですかアナタは⁉」
「説明は後だ。ソイツは魔剣カゲマサの剣人体だ。どこかにカゲマサ本体がある筈だ。それを探して攻撃しろ」
「急いだ方がいいわよ。それを押さえておけるのは、今のうちだけだから」
サクラが呑気そうに言う。確かに怪物———『カゲマサ剣人体』は少しずつ力を取り戻していく様だった。彼らが何者であれ、勝負は今のうちに決める必要があるだろう。
「はぁ…後で説明して貰いますから…ねっ‼」
ユニオンスティンガーのスロットルを全開に捻り、リヤカードリフターとの固定が解除されたバイクがカゲマサ剣人体に向けて一気に加速する。前方に装備された衝角にエネルギーが充填され、剣人の体を貫いた。
「うおりゃあぁぁぁぁっっっっ‼ユニオ・スペシャルハイパースティングゥッ‼」
「変な名前つけるな!ライダーブレイクだろ‼」
「いや、どっちも大して変わらないよ…」
馬上の不毛なやり取りにマヤが冷静にツッコミを入れる。だが、必殺技名はともかく剣人の体が衝撃に大きく揺らいだ。その隙を逃さず、リヤカードリフターが怪物の脚をガッツリとホールドしてその場に固定する。その隙にディライトはランドマンセンスを起動して、カゲマサの位置を特定する。
見つけた。頭部だ。
バイクの座席を蹴り、更に跳躍したディライトはソードモードのトランスラッシャーを引っ張り出す。そして、シールドモードのエイジスランタンをランタンモードに戻し、持ち手の部分を上に引っ張り上げると、剣柄のライドラッグスロットへと合体させた。
モーフィングパワーが流し込まれると、全体の大きさが一回りほど伸展し、その形状を大きく変化させた。エイジスランタンと一体化させた、『トランスラッシャー メイスモード』である。カゲマサの本体が眠っている頭部目がけてディライトは下降を開始し、武器のトリガーを長押しする。
〈ヴァリアントグランドプレッシャー‼〉
エレメントエネルギーが充填されたメイスの頭部が、怪物の頭へと叩き付けられる。超質量の戦棍が剣人の頭部の固い外殻をも容易に砕き、内部のカゲマサへと達した。
カゲマサから伸びた無数の触手が怪物の各部へとその命令を伝えていた様だったが、それを断ち切られ怪物はその行動を完全に停止した。落下エネルギーも加わったメイスの一撃は剣人の巨体を文字通り圧殺した。
「終わった…んだよな…?」
「いや、まだだぜ」
振り返るとさっきの長剣の男が悠然と歩み寄ってきていた。右手に握った銀色の剣を転がったカゲマサに突き付ける。
「魔剣っていうのは使い続けると、持ち主の思いの様なものを取り込んで、あんな風に暴走する。止めようと思ったら鞘に戻すか———」
剣がカゲマサへと叩き降ろされる。次の瞬間、ランドマンナイツのパワーをもってしてもひび1つ入らなかったカゲマサが粉々に砕け散った。
「…破壊するしかない。よく覚えておくといいぜ」
「はぁ…そうですか。…で、あなた方は一体———」
何者ですか?という問いは残念ながら、声にならなかった。次の瞬間、フッカーの薄い木壁を打ち破り、村内に無数の馬車が———否、引いているのは大型の狼の様な生き物だから狼車か———雪崩れ込んできた。荷台から降りてきた人影は少なく見積もっても数十人近い。各々が手に剣や槍を握り、次々と人々へそれを突き付けていく。
そして目の前の男もまた、ディライトへ長剣の刃先を突き付けた。硬質な色合いを帯びた剣先がギラリと物騒な輝きを発する。
「抵抗はするな。俺たちは手荒な真似は好まないが…手向かえば容赦はしない。…変身を解除しろ」
男の顔に獰猛な笑みが広がっていく。その表情はまるで、触れるものを残らず斬り捨てる鋭利な刃の様だった。
次回予告
世の不条理を背負い、世界の影で生きる者たちがいる。
どれだけ汚濁に塗れ、強き者たちからの玩弄に晒されようとも、魂だけは譲らない。決して折れる事がない、彼らの矜持があるから。
彼らは自らを、誇りを持ってこう呼んでいる。
Saga9『ヒュペリオン~高みを行く者たち~』