今回でこのサーガが終了です。
そしていよいよ……。
◇◇◇◇◇
「レイト…!レイト、しっかりしてっ‼」
「…大丈夫よ、傷は深くない。レイト君?声は聞こえる?」
「…はい、大丈夫……。無事です……」
爆圧に全身を揺さぶられた反動か、少しの間落ちていたらしい。まだ微かに朦朧とする意識の中で、全身の状態を確認する。体のあちこちが傷むが、大きく損なった箇所はない。耳が少し聞こえ辛いが、これは爆発を間近で浴びた影響だ。視界にはこちらを心配そうに覗き込むマヤとサクラが見える。どうやら彼女たちも無事だったらしい。
「…状況は、どうなってます?」
「…取り敢えず、君のお陰でみんな無事……。ハイル君が今も戦ってるけど……」
サクラが言い淀む様に口を噤む。その視線の先を追うと、ウォークレイドと切り結んでいる怪人の姿が見えた。
全身に生えた棘状のスパイクと光を飲み込む様な灰色の体。更に背中から生えた翼の様な器官が更に全体の禍々しさを強調している。
その姿はまるで———悪魔。
「…あれが、ハイルなのか……?」
「…ええ。今は、まだ……」
サクラが悲し気に目を伏せる。怪物は剣を振るい、ウォークレイドと切り結んでいる。だが、発する声やその動きはまるで理性なき獣の様だった。彼女も何かを感じているのかもしれない。ハイルの体だけでなく、心までもが何か別のものに変わり始めようとしている事を……。
「…ここまでね。皆、ここから撤退するわよ」
沈鬱な空気を振り払い、サクラが決然と宣言する。団員達の間に驚いた様な空気が広がる。中には悲痛そうに目を背ける者もいたが、やはり誰も否を唱えはしなかった。「ち、ちょっと何でよ⁉」とマヤが声を上げた。
「ハイルが戦ってるんだよ⁈それを見捨てていくわけ?」
「…ハイル君からの命令よ。『いざって時は頼む』……。あれはこういう事態を想定しての命令なの」
戦いの前。大抵ハイルが下す命令は3つ。
「死ぬな」。
「這いつくばってでも生きろ」。
最後が「いざという時は、頼む」。
そしてそこにこそ、彼が自分たちを纏め上げてきた本当の理由がある。
「もし自分が志半ばで倒れた時……もしも心を失って怪物と成り果ててしまった時、私たちがその願いを引き継ぐ……。それが、ヒュペリオンが作られた本当の理由……」
「…………」
団員達が黙り込む。レイトとマヤも二の句を継げなかった。魔剣を使い続ければ、いつか怪物となってしまう事は自明の理。だからこそ、その時に彼の願いを引き継ぐ者たち——第2の刃が必要だった。ハイルに救われ、付いていくと決めた全ての者たちは、やがて来る終わりの時を覚悟していた。そして、その瞬間が今この瞬間なのだ……。
…だが。
本当にそうだろうか?
どれだけの覚悟を決め、相当な逡巡の末に出した答えであろうとも。
誰かが犠牲になるという道は、残した者と残された者の双方に大きな悲しみを、迷いを、そして後悔を残すのだ。
だからこそ、今ここで誰もが言葉を紡げないでいる。悲しみに咽ぶのも、努めて明るく振舞うのも全てが不誠実な気がして、行き場を求めて彷徨する魂たちがここにいる。
痛みを訴える神経を隅に押しやって、レイトはゆっくりと体を起こす。本当にここで終わらせていい筈がない。押し寄せる運命に抗って、今の状況を変えられる手はもうないと言えるだろうか?
これが最善だなんてどうしても思えない。何か手がある筈だ。考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ———。
『諦めるのは、まだ早い』
突如、そんな声が響き渡る。誰が発したのか、全員が周囲を見渡すが、その声は上から降り注いだ様でも、下から鳴り響いた様でもあった。どこか人間離れした、怜悧で硬質な刃の様な声の主は———?
「…ローザちゃん…?」
サクラが唖然とした声を上げた。見ると、ハイル・ランドナーの妹が宙に浮かびながら、こちらを睥睨していた。
『デウスカリバーの主は現在、遺骸の衝動に支配され、怒りでその心を塗り込めつつある。まだ剣の庇護が働いている状況ではあるが、やがて本当に魔の道へと……否、最悪魔王の器となり果てる可能性すらある……』
ローザが口を開かず語りかける。恐らく、テレパシーの様なものではないかと思える。周囲の戸惑いを他所に、レイトにはこの感覚は覚えがある。以前、メダリオンに秘められた勇者ディライトの声を聞いた事があるが、この声の感じはあの時のものに近い。恐らく今回もあれに近しい事が———ローザに宿るエクスカリバーの意思が語りかけているのではないかと思えた。
『…ディライトの後継者よ……』
「え?俺……?」
『貴様が頼りだ。奴の衝動を抑え込むには、鞘が必要だ。今の私には、もうその力は残っていない……。デウスカリバーの使命が尽きる前に、貴様の思い描く力で、奴を……』
そこまで伝えたところで、ローザの体が力尽きた様に地面へと倒れていく。サクラが慌ててキャッチしたが、少女は目を閉じて緩やかな呼吸音を返すのみだった。どうやらまた眠りの周期に入ってしまったらしい。
「…どういう事かな?何だか意味がサッパリ……」
「…俺も、全部は分からなかったけどさ……。少なくとも自分がしなきゃいけない事は、分かった気がする」
「え、ウソ⁈」
マヤの驚愕を他所に、レイトはゆっくりと立ち上がる。体は痛むが耐えられない程ではない。デウスカリバーの庇護、遺骸の衝動、鞘……投げかけられた言葉の1つ1つを噛み締め、レイトは己に出来得るたった1つの答えを探り当てた。
「賭けかも知れないけど……この手なら……。…みんな、もう少し手を貸して!」
◇◇◇◇◇
「どうしたぁっ‼だらしがないぞ、ハイルゥッ‼」
ウォークレイドとハイル剣人体の刀がぶつかり合い、刃を零し合うが如く、互いの身を引き裂いていく。既にダメージを負い過ぎているハイルの動きはいまいち精彩がない。相手の刀を捌くの精一杯で、攻め切る事は殆ど出来ない。ウォークレイドはそんな様を嘲笑うが、ハイルはどこか神経に障るその声を、遠くから眺める様な気分になっていた。
下手をすれば全身に痛みが走り、もはや立ち上がる事すら困難な脱力感に全身が覆われていく。無理もない。本来なら出血多量で死亡していてもおかしくない状態なのだ。それでも倒れない——否、倒れられない我が身の不可思議を一旦頭の隅に追いやり、呼吸を整えてから霞む目で前を見つめる。
心の奥底から何かが殺せ屠れと訴え、ハイルの心に侵食してくる様な感覚がある。それだけできっと終わりが近いのだという事は何となく察した。
分かってはいた事だ。魔剣を使い続ければ、いつか肉体も心も食われて怪物へとなり果ててしまう。そうすればきっとこの体の痛みも消えてなくなる。心なき1本の刀となって、何の憂いもなくこの男を討ち果たす事が出来るだろう。
もし出来なかったとしても……きっと、仲間達が残された願いを果たしてくれる。
湧き上がる衝動に支配され、もはやハイルの目には憎き敵の姿しか映らない。ずっとこの瞬間を夢見てきた……筈なのに、今は残された最後の心の一片が寂しいと訴えていた。
皆はどうしただろうか?命令通り、この場から逃げ果せているだろう。そして、いつか自分の願いを叶えてくれるだろうか?
…否、もうそれもどうでもいい。ただ、彼らには生き続けて欲しい。この残酷で不条理な世界でも滑り込む余地を見つけて、しぶとく頑強に生き抜いて欲しい。それだけの術はきちんと教えてきたつもりだった。
せめて、最後にみんなの顔が見たい。きっと再び巡り合えば、互いを互いとして認識し合う事はもう叶わない。そんな最後はあまりにも悲しすぎるから———。
その時だった。
「止まれ、ハイル‼」
ハイルの背後から、何者かが組み付いてきた。人の体の重みが、遊離しかけていたハイルの意識を強く引っ張ろうとするのを感じた。
◇◇◇◇◇
あの短い時間で策と呼べる様なものをそうそう思いつける筈もない。だが、今はこれが最善手だ。ハイルの背後の回り込み、あらん限りの力で彼を押し留める。その間、ウォークレイドの足止めはヒュペリオンの皆が上手い事やってくれる筈だ。それを信じて、レイトは恐らく消えかけているハイルの意識に必死で呼びかけた。
「止まれ、ハイル‼」
『レイトか…?ダメだ、離れろ!』
剣人体となったハイルの声が脳裏に直接響いてきた。
「ハイル…良かった、まだ意識は保ってるんだな……」
『ああ……だが…それももうダメそうだッ……。獣みたいな衝動が抑えられねェッ……。早く、ここから逃げろッ……!デウスカリバーの呪いが……俺やお前たちを殺す前に……』
「違う!そうじゃないんだよ、ハイル‼」
『…違う?何が———』
「お前が意識を失ってないのは、デウスカリバーがその使命をまだ守ってるからなんだ!主を絶対に守ろうとする……『絶対守護』の力で!」
『…何だと…⁈』
ハイルの声に驚愕の色が帯びる。それだけで、彼の意識の一部が引き戻されつつある事をレイトは確信した。
『絶対守護』。
デウスカリバーに与えられた特性は、主に神がかり的な身体能力を与えるものだ。だが、それは副次的な効果に過ぎない。デウスカリバーは持ち主を絶対に死なせない為に……あらゆる状況下でも生き残れるだけの力を授ける事がその本懐なのだ。
だが、魔剣の宿命からは逃れられず、デウスカリバーに封じられたデブリスの遺骸は容赦なくハイルの心を蝕み、衝動で満たそうとする。あの時、いつになくハイルの言動が荒れていたのはその衝動に支配されかかっていた所為だったのだろう。
ここからはレイトの推測だが、エクスカリバーがハイルを襲った様に見えたのは、その衝動に支配されかかっていた彼を止める為だったのではないか?そして、一度破壊——否、再分解されたデウスカリバーはハイルの心の鞘となる様に、彼の中へと封じられたのだと思われる。そして、今もなお衝動に飲み込まれんとしているハイルを必死で守ろうとしている……。
『デウスカリバーが……。俺の体がどんなに傷ついても立ち上がれたのは……!…うおぉぉぉぉぉっっっっっ‼』
ハイルの体が震え、狂った様な絶叫が口から漏れ出す。
これを語るのは実際賭けだと思った。憎んでいた魔剣の力によって、自分が生かされてきた……。その事をハイルが受け止められるかどうかは分からなかったが、レイトはそれを信じる事にした。怒りを増幅させ、人の心を塗り込めようとする衝動を克服するには、それを認めて乗り越える勇気が必要なのだと思えたから……。
そして、
「…そうだな……。
「…それ、正確じゃないかな。戦って行くんだよ……これからも……!」
暴風が吹き荒れていたハイルの心が徐々に凪いでいくのを感じた。
きっと今ならば、ハイルも魔剣の力を恐れずに真正面から受け止められる。そう確信したレイトは自身の思い描く力——錬真力をハイルに注ぎ込んだ。錬真力が触れたのは、彼の中に眠るデウスカリバーの欠片だ。
レイトの錬真力に触れ、一旦ハイルの体からデウスカリバーの力を宿した光の塊が抜き出された。人間に戻ったハイルの姿を見止めると、レイトは尚もその光に力を注ぎ込んでいく。
この魔剣を作り上げた人々——ハイルの一族達も、きっと誰かを傷付ける目的でこれを作った訳ではない。誰かの力になります様に、と。そんな精一杯の祈りと願いを込めて、この魔剣を送り出したのだろうと思う。一度は間違ってしまったかもしれない。だが、過ちは正していく事だって出来るのだ。
今度こそ、目の前の青年の願いを引き受け、誰かの力となれる様に———。
そんな願いを注ぎ込まれた光塊が、遂に実体のある何かへと変化した。
1つはかなりの長さを持つ、大型のライドラッグ。そしてもう1つは、複雑なディテールが施された長大な剣だった。錬真力を行使した所為で、レイトの体から急速に力が抜けてへたり込んでしまうが、その2つをしっかりハイルに手渡した。
「出来たぁ……。ほら、ハイル…お前のだ」
「お前のだって…コレは……」
「…あのさ、ハイル……。思うんだけど……多分その力は、決して呪いなんかじゃない。それがどんな力を持っていたって、それをどう使うのか……決めるのは自分自身なんだから……」
「…分かった分かった。もう喋るな……」
寝てろ、とレイトの頭を軽く小突くと、ハイルはベルトを受け取り決然と立ち上がった。そして今も果敢にウォークレイドの足止めを続ける仲間達を満足気に見つめると、「そこまで!」と叫んだ。命令を受けて、団員達が一斉にその場から退いた。
「すまない…迷惑をかけた……。後は…俺に任せろ……!」
ハイルの宣言にヒュペリオン達が一斉に快哉を叫んだ。そんな様を見つめながらウォークレイドがハッ!と鼻で笑う。
「何やら下手な小細工をしていた様だな。だが、今更貴様に何が出来る?」
「さぁな……。それはこれから試すところさ……」
不敵な笑みを浮かべながら、レイトから与えられた長剣を掲げて見せる。その手触りと重さが、今のハイルにはどこか頼もしかった。
〈デウスカリバーⅡ!〉
剣がまるで自らを誇示するかの様に叫ぶ。次いでレイトから渡されたもう1つ———長瓶型のライドラッグのスイッチを押し込み、長剣の先端部に開いたスロットへと装填した。
〈ライトブレード!テリフィック!閃光の魔剣‼〉
霊薬瓶が押し込まれた瞬間、剣が再度叫びを上げると同時に、まるで金属をハンマーで打ち鳴らす様な音が周辺へと広がっていく。
ハイルが剣を握りしめて、前傾姿勢で構える。ここに至るまで、支えてくれた仲間達と今後ろで倒れ込んでいる友に精一杯の感謝を念じると……。
「……変身‼」
〈スラッシュ‼〉
叫び、柄のスイッチを押し込みながら、一閃。刀身から発されたエネルギーに充てられてハイルの体が再び剣人体へと変化する。だがその体は、熱した鉄の様に赤く輝いていた。もう一度生まれ直そうとするかの様に、その体が不定形に揺れ、全身が硬質化する。それを振り払う様にもう一度剣を振り抜くと、石像の様な表面を打ち破り、新たな姿をした戦士が立っていた。
〈刀光剣影!ソーディア、ライトブレード‼〉
新しい戦士の誕生を寿ぐ様に、ベルトが高らかに宣言した。その姿を畏怖する様に、ウォークレイドの体が意味もなく震えだした。
「なんだ……!その姿はぁっ⁈」
「剣身一体となりて、悪を斬る……。俺は、仮面ライダーソーディアだ‼」
己の全てを受け止め、肯定する様に戦士——『仮面ライダーソーディア』が遂に爆誕した瞬間だった。
◇◇◇◇◇
ハイル・ランドナーが変身した新たな戦士——否、仮面ライダーはそう名乗った。前腕や膝には鮫のヒレの様な刃が配置され、ディライトと比べても非常に鋭角的なフォルムを多用する姿は確かに剣の化身と見えなくもなかった。
どこか静謐な佇まいを感じさせるソーディアは、しかし不遜に指をクイと折り曲げて挑発のポーズを取る。戦闘時のハイル・ランドナーのいつもの仕草だった。
「来な、第3ラウンド開始と行こうぜ」
「フン、負け惜しみを!姿が変わったくらいで今更なにが出来る‼」
ウォークレイドが右手に握った水鼓を振るい、氷の塊がソーディア目がけて殺到する。身じろぎ1つしないソーディアに氷塊が諸に直撃してしまう———が、靄が晴れるとソーディアは依然として悠然と佇んでいた。その体には一切の傷すらついていない。
「おのれ…!思いほか頑丈な様だな。ならば、これはどうだっ!」
左手の雷刃から雷撃が放たれる。最大出力ならば建物すら破壊できるエネルギーを誇る雷が尾を引いて迫る。だが、ソーディアは仮面の奥底で不敵に笑うと、臆さずにその体を加速させた。
———速い‼
甲冑を纏った騎士の様な見た目とは裏腹に、ソーディアの加速力は凄まじかった。風も雷さえもものともしない速度で前方に突進したソーディアが、迫りくる雷光に向かって右手の剣を一薙ぎする。
———頼むぜ、デウスカリバー!
ハイルの思いに呼応する様に、新たな姿で生まれ変わったデウスカリバーⅡの刃が輝きを増して雷撃を受け止める。剣に刻印された使命の力——『絶対守護』の力が発動し、まるで切り裂かれた様に雷のエレメントが霧散して消え去った。
自分が持つ最大の攻撃すらも防がれたのを見て、ウォークレイドの意思が恐怖を訴える。だが、その間にソーディアは一切スピードを落とさずに、敵の懐にまで肉薄していた。驚く暇すらも与えられない。腕の力に突進速度が上乗せされた強烈な斬撃がウォークレイドの胴部に直撃した。硬質な剣人の皮膚すらもデウスカリバーⅡの刃は深々と切り裂き、血と火花が周囲を赤く染め上げる。更に地面から打ち上げられたウォークレイドの体が地面に落ちきるより早くソーディアは地を蹴って飛翔する。剣を頭上に振り上げ、落下エネルギーを最大に込めた真っ向斬りがウォークレイドの頭に直撃した。
「グギャアァァァァァァァァッッッッッ⁉そ、そんなバカなっ…⁈」
地面に叩き付けられ、全身から血を流してウォークレイドが見悶える。
「き、斬られたぁぁぁっっっ⁉血が!血がぁっ!痛い痛い痛い痛い痛いぃぃっっ‼」
「誰かに斬られるのは初めてか?よくそんなんで、魔剣の王なんて名乗れたもんだな、ウォークレイド様よ」
呆れたと言わんばかりに、または心底軽蔑した様な口調でソーディアが睥睨する。その瞬間、身を焦がす程の屈辱に身を包まれたウォークレイドは「黙れ黙れ黙れっ‼」と叫んだ。
「許さん許さん許さんぞぉっっ‼キサマにはっ、絶対的に屈辱的な死を与えてくれるわぁっ‼」
第3の魔剣『煙羅』が輝き、ウォークレイドの体を煙へと変質させる。そのまま一気にソーディアへと肉薄すると、その体を煙で一気に包み込んだ。前回の様に、外野から攻撃されては堪らない。それを回避するべく、煙の展開範囲をソーディアにごく近い範囲だけに留める事にした。自分たちのボスを巻き込む可能性があるこの距離ならば、エアショック・カノンを使う事は出来まい。しかも狭い範囲に集中させる分、煙の成分は更に濃縮されるという利点もつく。
「クハハハハハッッッ‼どうだ手も足も出まい!煙に巻かれて抵抗も出来ずに死ぬがいいわっ‼」
ウォークレイドが勝ち誇った。この状態ならば、自分に物理的な攻撃は一切効かないのだ。自慢の剣すら役に立たず、しかも死因が窒息死とあっては、剣士としてはさぞ悔しかろう……とほくそ笑む。
だが。
「……はぁ…、しゃらくせぇ……なぁっ‼」
叫ぶと、ソーディアはデウスカリバーⅡを腰だめに構え直し、刀身に備えられたレバーをスライドさせて刀身を“砥”いだ。
〈ラフ・アブレーション!〉
レバー——『アブレイシブスターター』に砥がれる事によって、魔剣が秘める破壊のエネルギーが一気に活性化される。刀身に十分なエネルギーがチャージされたデウスカリバーのスイッチを押し込んだ。
〈テリフィング・ラフ・ストラッシュ‼〉
———魔剣開放、我流・ニトロ‼
さながら“居合斬り”の様な要領で、踏み込みと腕の動きによって急激に加速した剣が周囲一帯を薙ぎ払った。東国の剣術から着想を得た、ハイルが使う我流剣術の中でも最もスピードがあり、彼自身が最も得意とする技だ。転瞬、刀身から解き放たれた魔剣の力がソーディアを包んでいた煙を消し飛ばす。ビリビリと震える空気の音に混じって、ウォークレイドの絶叫が微かに聞こえた気がした。
一瞬で体を吹き散らされたウォークレイドが慌てて再度実体化する。これで氷・雷に次いで煙の能力も封じられた事になる。諦めきれない様にまだ剣を構えるが、持ち主の内面を反映するかの様に、剣たちの切っ先がブルブルと震えていた。
「手持ちの大道芸ももう終わりだな、ヒューバート。いい加減に諦めやがれ」
「だ、黙れぇっ!我は諦めんぞ……。一族の名誉を……魔剣の力を再びこの世に示すその時まではなぁっっ‼」
「へッ、折れないのは感心するが……そういうのは往生際が悪いって言うんだよ」
言い捨て、ハイルが再びデウスカリバー上部のアブレイシブスターターを3回コッキングする。
〈フィニッシュ・アブレーション!〉
デウスカリバーⅡが持つ、最大出力の発動がこれで可能になる。剣を正面で正眼に構え、スイッチを押し込んだ。
〈テリフィング・フィニッシュ・ストラッシュ‼〉
刀身から放たれたエネルギーがソーディアの体をも包み込んだ。増加していく力を肌で感じながら、一方で心は正しく研ぎ澄ましていく。
魔を追おうとすれば、自分もまた魔に堕ちてしまう。だからこそ、今ここで正しく勝たなければいけない。
自身への憎悪や宿怨を切り裂き、支えてくれた仲間と力を与えてくれた友の思いに報いる為にも———!
「…呪われた運命を…今ここで断ち切ってやる!」
———魔剣開放、我流・ヒール&トゥー‼
剣を担ぐ様な姿勢で、体を前傾に倒すとソーディアが一気に地を蹴立てて加速した。苦し紛れに放たれた雷撃も剣の一振りでかき消され、その猛進を止める事は出来ない。たった一息をつく間にウォークレイドの懐へと飛び込んだソーディアはその胴部を目がけて剣を振るう。
一閃、二閃、三閃……デウスカリバーが白銀の尾を引いて煌めき、ウォークレイドの硬い皮膚に次々と斬痕を刻み込んでいく。まるで旋風に巻き上げられる様に、ウォークレイドの胴体がフワリと浮き上がる。今こそが決め時と悟ったソーディアは突進速度を保ったまま、飛びまわし蹴りを叩き込んだ。
「グゥアアァァァァッッッッ!!!??」
ハイルの我流剣術のうち、唯一の剣術と体術を織り交ぜた技がウォークレイドの銅板を穿ちぬき、その全身に魔を滅却するエネルギーを注ぎ込んでいった。仮面ライダーソーディアは人と魔剣が一体となった状態であり、だからこそ剣に課された制約さえも飛び越え、いくらでも力を増す。その力に耐えかねた様に、3本の魔剣は遂にその耐久度の限界を超えた。
魔剣が崩壊し、まるで幻か何かであったかの様に、青い粒子となって消滅していく。そしてその瞬間こそが、ウォークレイドという虚飾の怪物の最後だった。強烈な蹴激を食らい、吹き飛ばされたウォークレイドの体が石畳に叩きつけられ、家屋の壁に激突してようやく停止した。
魔剣を失い、ただの人間へと戻ったヒューバート・ランドナーは全身に傷を負いながらもなんとか生きている様だった。そんな様を呆れ気味に見つめながらも、しかしハイルの心はどこか清々としていた。
ずっとこの怨敵の命を刈り取る事だけを目標に生きてきた。
だが、今はそんな自分を押し留めて勝利できた事を心から良かったと思える。
そんな自身を肯定するかの様に、背後から歓声が沸き上がるのが聞こえた。ソーディアの変身を解き、ハイル・ランドナーへと戻ると、改めて彼らと向き合った。
「よっしゃー!勝った、勝ったぜ!流石オレらのお頭だぁ‼」
「ハイルさん、超カッコ良かったッス!俺、感激ッス‼」
「やりましたね、ボス。悲願1つクリアです」
喚起に湧き上がる仲間たち。だが、1人だけ非難がましい顔をしながら、サクラが近づいてきた。
「……バカ。冷や冷やさせないでよね」
「…悪い。でも、勝てたのは皆のお陰だ……。…だから……ありがとな」
心からの言葉だった。業、怨嗟、宿命——そんな不浄を刀身に浴び続け、いつか零れ摩耗していった刃が、新たに生まれ直す事ができたのは、間違いなく彼らのお陰だった。頭を下げるハイルを囃す様な声があちこちから響くが、そんな鬱陶しさも今はなんだか心地いい。
そして、礼を述べなければいけないのはもう1人いる。疲れ果てた様に石畳の上に仰臥しているレイトの姿を見止めると、ゆっくりと近づいていく。
「…よぉ、勝ったぜ……。お前のお陰だ……」
「…そりゃどうも。お疲れ様。そして、ご愁傷様、だ。仮面ライダーを名乗った以上、もうそう簡単に戦いからは降りられないよ?」
「言われなくとも、降りる気もねぇよ。ところで、その仮面ライダーってのはなんなんだ?」
「…そうだなぁ……。まぁ、勇者でもなけりゃ騎士でもない……。強いて言うなら…
「ヒーローか……。まぁ、悪くねぇかもな」
ハイルの手が、レイトに向かって差し出される。
「…取り敢えず、今後も頼むぜ?仮面ライダーディライト」
「…うん、よろしく。仮面ライダーソーディア」
レイトもその手を掴み、やっとの思いで体を起き上がらせた、その直後の事だった。
バタバタバタ……!という足音と共にマッドスキッパーの街が騒然とした雰囲気に包まれた。ここ以外の場所から悲鳴の様な声まで上がり始めている。
「何だ……⁈まさか、敵の援軍?」
「さぁてな……。とにかく、ここから離れた方が良さそうだが……」
「動くな‼」
突如、剣呑な声が背後から響き渡り、レイト達が振り向く。そこに立っていたのはデブリーターでもなければ、無法者達ですらなかった。
「……シドニア帝国軍…?」
「それも王家直轄の『
数多のシドニア帝国軍においても、特に腕が立ち、王家への忠誠心が熱い兵士達で構成された、王家直轄の親衛隊。元々諸侯の力がかなり強い帝国内においては活躍の機会はかなり乏しいが、それでもその実力は折り紙付きだと言われている。
それが100人あまり、レイト達を取り囲んで弩弓を突き付けている。いくらシドニアが三国最弱の軍隊と揶揄されようとも、流石に今の状況は少し——否、かなりマズい。
「『ヒュペリオン』の首魁、ハイル・ランドナーだな?貴様に盗賊行為、騒乱、その他諸々の容疑が掛かっている。国王ガルシア・ザイン・シドニアの名のもとに貴様を拘束する。抵抗すれば——分かっているな?」
揺るぎない宣言と共に、ガチリ…!とアーククロスのボルトがヒュペリオン達へ一斉に向けられる。
有無を言わさない状況下に、ハイルが小さく臍を噛むのが伝わってきた。
次回予告
かつて少女は誓った。その刃が届く限り、その命が果てぬ限り、この世界の光明を信じて走り続ける事を。
それは栄光の道。されど、重い使命と責務を背負った、荊の道。
それでも少女は進む。彼女が信じる未来の為に。そして、手にした大切を手放さぬ為に———。
Saga11『誓い~アイリス・ルナレス:オリジン~』
◇◇◇◇◇
ここまで書いておいてアレなんですが、2週間ほどお休みします。流石に疲れたので……。
取り敢えず、5月20日に再開します。も少し早まるかもしれませんが、少なくとも遅くなる事は致しません!(宣言)
あと、休んでいる間も図鑑は更新するので、今後もご贔屓に!