仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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Saga11 誓い~アイリス・ルナレス:オリジン~⑤

◇◇◇◇◇

「さぁ、始めようぜ。ここからが……第2ラウンドだ‼」

 

 ヴェノムアラークへと接近したソーディアの新形態——『仮面ライダーソーディア ツヴァイハンド』の拳が、その胸板へと突き刺さる。装甲から火花を散らし、仮面の奥底からくぐもった苦悶の声が響く。

 

「貴様……!」

 ヴェノムアラークの背部の脚が稼働し、その鋭利な先端部がソーディアを貫こうと殺到する。だが、ソーディアは両腕のシールドを展開し、その攻撃の全てを受け止める。

 

「はぁっ!全然堪えねぇな‼」

 どれだけのラッシュが炸裂しようともツヴァイハンドの頑健な装甲はその全てを弾き飛ばしてしまう。そして、脚が刺さらなければ毒を注入する事も出来ない。ヴェノムアラークの攻撃に抑えようがない焦りが混ざり始めるのを、ハイルは見逃さなかった。迫りくる攻撃を正確に見極めると、両腕を一気に振り抜き、攻撃を弾き飛ばした。それと同時に、ヴェノムアラークの体勢が大きく崩れた。

 

 パリィ。相手の攻撃を正確に見極め、それを受け流す事によって相手に隙を生じさせる高度な戦闘技能の1つ。ほんの僅かではあるが、ヴェノムアラークの体幹が揺らぐの分かった。その一瞬でソーディアの左肩と左上腕のシールドが合体し、左腕全体が一振りの騎士槍の様な形状へと変化した。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!」

 裂帛の叫びと共にツヴァイハンドの左拳がヴェノムアラークの顔面を捉えた。ソーディア最強の突き技・ドラッグスターをも超える威力で放たれた拳撃に、ヴェノムアラークの脳髄が揺さぶられ、足元が大きくふらつく。この隙を逃さず、ソーディアは次々と拳を蜘蛛男の全身に叩き込んでいった。スピードはないが、一発一発が大砲並みの威力を誇る一撃によってヴェノムアラークの全身に火花が次から次へと咲き誇っては消えていった。

 

 首魁のピンチに反応したのか、3体のジェヴォールトが一斉にソーディアへと絡みついてその動きを封じようとする。だが、ドーピングされたデブリーターの力を持ってしても、今のソーディアのパワーを封じる事は出来なかった。

 

「しゃらくせぇんだよっ‼」

 

 ソーディアの拳が地面を勢いよく殴りつける。あまりの衝撃に3体のデブリーターが地面から浮き上がり、そこを狙ってデウスカリバーが一気に振り抜かれた。巻き起こった剣圧はさながら竜巻の如き暴風となって襲い掛かり、その衝撃に全身を揺さぶられたジェヴォールト達は今度こそ動かなくなった。

 

 一気に勝負をかける時だ。ツヴァイハンドは攻撃力は高いが、スピードが出ない為、ハイルの我流剣術の殆どが使用し辛いという欠点もある為、長期戦には不向きだ。デウスカリバーのアブレイシブスターターを足で踏む様にして発動させ、スイッチを押し込む。

 

〈フィニッシュ・アブレーション!〉

 ———魔剣開放、我流・デモリッション‼

〈テリフィング・フィニッシュ・バニッシュ‼〉

 

 抜き放った刀身を頭上に構えて、真っ向斬りの要領で一気に降り下ろす。ヴェノムアラークも負けじと脚を全て前方に結集させて防御の構えを取った。1本で自身の体重を支える事すらできる生体金属の脚から立ちどころに火花が上がるが———。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」

「な……!何だとっ……⁈」

 

 突如、その均衡が破られ、ヴェノムアラークが初めて感情的な声を上げる。我流剣術の中で最大の威力を誇る一撃技がヴェノムアラークの胴部を一気に引き裂いた。防御の為に結束させた脚も全て関節部から叩き折られ、苦悶の声と共にデブリーターの首魁が遂に地面へと倒れ伏した。

 

 やれやれ……とハイルが嘆息する。いい加減、戦い通しで疲れた……。魔剣術の行使は肉体にかかる負担も半端じゃなく大きいのだ。特にマッドスキッパー以来、ここまでほぼ休む事なく戦ってきた事もあって、そろそろ肉体も精神も疲労がピークに達しようとしている。このまま倒れ伏してしまいたい気分だが、まだ決着が着いたわけではない。せめてこの蜘蛛男の顔くらい拝まなくては。

 

 確かな手ごたえを感じた。間違いなく致命傷を与えていると思うのだが……と警戒しつつ歩み寄るソーディアだったが、突如ヴェノムアラークが起き上がり、猛烈な速度で城壁の上へと跳ね飛んで見せた。

 

「てめぇ……!いい加減、しつこいぞ‼」

「当たり前だ。計画の要たるデブリーターがそう簡単に負ける訳なかろうが」

 蜘蛛男が割れた胸部の装甲を抑えて、僅かに苦しそうに口を開く。剣が直撃したヴェノムアラークの胸部は、射出用の蜘蛛糸が積載されていた。強度と伸縮性に優れるそれがクッションとなって、ソーディアの一撃を僅かに軽減して見せたのだ。

 

 だが、それでも武器のほぼ全てを失い、今や満身創痍のヴェノムアラークに戦闘継続の術はない。仮面の向こうからこちらを睥睨するその視線に、消しきれない怒りの意思が感じられた。

 

「負け惜しみだな。やっぱり、組織のトップに向いてねぇなテメェは」

「…どうとでも言うがいいさ。だが、負け方を選ぶくらいは出来る……」

 そう言って、ヴェノムアラークが腰の装備帯から何か筒状の道具を取り出し、それを押し込んだ。転瞬、周囲のジェヴォールトから蒸気の様なものが上がり始めて———。

 

 この感触には覚えがある。ハイルの全身が総毛立つ感覚に襲われた。

 

「…それではさらばだ。縁があればまた会おう」

「……!テメェ……!待ちやが———」

 

 直後、ジェヴォールト達の体内に収められた、証拠隠滅用の高性能爆薬が一斉に起爆した。周囲を圧して広がった轟音に、ハイルの叫びがかき消され、そして消えていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 時は少し戻り、リンネ。ディライト達とデブリーター組の戦いは膠着状態に入っていた。

 ホロウリーパーというこの敵は、パワーとスピードの両面に優れ、おまけに絶対的な防御力を秘めている。その様は動く要塞の様だと思ったが、こうして相対してみるとそのシンプルさがどれだけの脅威なのかがよく分かる。

 

「くそっ……!何なんだコイツ、力の底が全然見えない……!」

「どうしたぁっ‼防戦一方だぞ、小僧‼」

 

 ワールドラーグの握る柳葉刀とレイピアが同時にディライトへと振り下ろされる。すんでの所で攻撃を避けるが、その隙をついて今度はホロウリーパーが斧槍を叩き落してくる。レイザードナイツの身軽さで後方へと跳び退り、反撃の放火を放つ。だがそれも、ホロウリーパーの体に阻まれるだけで終わってしまった。

 

 仮面の奥でレイトはグッと歯噛みする。先程からずっとこの調子だ。ただでさえ基礎的な戦闘能力が高いワールドラーグに加えて、ホロウリーパーが鉄壁の盾として立ちはだかり、あらゆる攻撃を無効化してしまう。なんとか致命傷を貰わずに戦いを凌いでいるが、こうも一進一退の状況が続けば、いい加減息が上がってくる。湧き上がる焦りを振り払い、ディライトは再度両腕の刃を構えて、敵を睨み据えた。

 

 ホロウリーパーがまたしても武器を振り上げて、躍動する。だが、その攻撃はディライトに到達する前に「させないわよっ‼」と割り込んだユニオによって防がれた。後足で器用に攻撃を受け止めると、そのまま頭部目がけて後ろ蹴りが炸裂する。金属同士がぶつかり合う乾いた音が周囲に広がった。

 

「やったか⁈」

「ダメね、全然手ごたえなし。幽霊かなんかなのコイツは……?」

 

 急所が密集する頭部を蹴りぬかれたにも関わらず、ホロウリーパーには全くもって堪えた様子がない。傷を付ける……とは行かないまでも、一切のダメージすら感じさせないとは……。改めて敵の恐るべき防御力を実感する。

 

「先ずはなんとしても、あの防御を突破しないとね……。とは言っても、どうしたもんかしら……」

「…アイデアはあるけど……。その為には大量の水が欲しいんだよな……」

「あら……それだったら、何とかなるんじゃないかしら?」

 ユニオが意味ありげに目配せし、足で地面をトントンと叩く。その瞬間、レイトの脳裏に閃くものがあった。

 

「そっか……!確かにそれなら———」

「何をくっちゃべってやがる‼」

 ワールドラーグとホロウリーパーが地を蹴立てて再び襲い来る。ディライトは後方へ手を伸ばし、精々慌てた風を装って攻撃を回避する。方針は定まった。後は、彼らに如何に目的を悟らせないか、だ。

 

「レイト‼」

「うん……!脱出…‼」

 左腕のノズルブラスタが開放され、勢いよく水蒸気が噴出した。蒸気は瞬く間に周囲一帯を覆いつくし、敵の視界を遮る。その隙にバイクモードに変形したユニオに跨り、ディライトは走り去っていった。

 

「逃がすと思ってんのか‼」

 怒声を上げながら、後方から2人の敵が追い縋ってくる。両者とも変形しているユニオンスティンガーに匹敵する様な速度だ。だがそれでいい。このまま引き離してしまっては、何の意味もないのだから。

 

 ディライト達が向かった先は、最初のジェヴォールトと戦った場所だ。そこには今でも井戸から水が噴き上がり続け、周囲一帯が川の様になっていた。

 

 よし、狙い通り!ディライトはバイクから飛び降りると、そのまま泥水の中へと着地する。

 

「ユニオ、足止めを任した!」

「おうさっ‼」

 

 ユニコーンモードに戻ったユニオが後ろ蹴りを放ちながら、デブリーター達を迎え撃つ。ユニオの装甲ならば暫くは大丈夫だと思うが、グズグズはしていられない。ノズルブラスタを頭上に掲げ、首元のエレメントタービュラーが青白く発光すると、周辺の水にディライトの錬真力が放出され始めた。

 

 力に触れた水がエネルギーとなってノズルブラスタへと吸収されていく。周囲の水分の多くが吸収された段階で、デブリーター達も異変に気付いた様だったがもう遅い。ベルトのエブリッションスターターに指をかけると同時に、ディライトが叫ぶ。

 

「避けろ、ユニオ‼」

〈エブリッション!ヴァリアントスプラッシュ‼〉

 

 ディライトの命令に応じて、ユニオが得意の駿足で後方へと跳び退る。彼が足止めしてくれた2体の敵に狙いを定め、エネルギーを臨界まで溜め込んだノズルブラスタを開放した。噴出口の口径を最小限まで絞り、猛烈な勢いとなった水が2体のデブリーターに向けて解き放たれる。咄嗟に自身の体を盾にしてワールドラーグを庇ったホロウリーパーだったが……。

 

「…………っっ⁈」

 ホロウリーパーが驚愕に震えるのが分かった。それもその筈、水流に触れた途端に今まで絶対不破を誇ってきた斧槍が容易く切断され、その鎧にも深い傷を与えたのだから。

 

 ウォータージェット加工という切断技術が存在する。およそ600Mpaの高圧をかけて噴射された水は、実に音速の3倍にも到達する。それだけの高速・高圧・高密度の三拍子を与えられた水は、なんと鋼鉄すら切り裂く程の切断力を発揮する。ディライトの錬真力を込めて放たれれば、如何に優れたホロウリーパーの防御力であっても耐える事は出来なかった。

 

 高圧力の水のエネルギーに晒され、崩れ落ちるホロウリーパー。「てめぇっ……!」とワールドラーグがいきり立つが、この隙を逃す術はない。ディライトは再度レイザードメイクを発動させ、敵の周囲に今も微かに漂うエレメントの残滓に形態変化を命じた。

 不可視の水蒸気の様になっていたエレメントが立ちどころにワールドラーグの体のエネルギーを奪っていき、その結果として表面が一気に霜に覆われていく。関節部まで氷結し、動きが鈍くなったワールドラーグに狙いを定め、ディライトは再度ベルトのスイッチを押し込んだ。

 

「これでも食ってろ……!」

〈ヴァリアントスプラッシュ‼〉

 

 氷杭を纏った拳が文字通り驟雨の如く、ワールドラーグを打ち据えていく。悲鳴も拳打の撃音にかき消され、今度こそワールドラーグが地面に倒れ伏すのが見えた。

 

 やったか……?とディライトは警戒を解かずに拳を構える。確かに手応えを感じたが、相手はあのタフなワールドラーグだ。下手に気を抜けば、逆襲される可能性もあり得る。靄の向こうに目を凝らすと、確かにワールドラーグが地に伏しているのが見えた。しかし、その体がゆっくりと黒い蒸気に包まれていき———。

 

「え………?」

 ワールドラーグがその変身を解除し、人間の姿へと戻っていた。褐色の肌と筋肉質な体を纏った若い男。濃い赤毛の下からこちらを睨み据える鋭い鷹の目を持つあの男は———。

 

「…ジェイクさん……?」

「なに……?何故俺の名を……?」

 ワールドラーグに変身していた男———ジェイク・アリウスが驚愕に目を開く。だが、それはこちらも同様だった。思わず、と言った風にディライトの変身を解除し、その姿がレイトへと戻った。ジェイクの顔が再び驚愕の色を帯びた。

 

「……⁈小僧……?なんでお前が……」

「そんな……!なんで……なんであなたが……?」

 

 ジェイク・アリウス。この世界で目覚めて間もないレイトをデブリスから救い、世界に関する様々な事を教えてくれた人。1人この世界で生きていかなければいけないレイトを不器用そうに激励し、「見返りを求めないから人助けってもんだ」と照れ臭そうに笑っていた、恩人とも言うべき人。そんな人が一体何故……?

 

 レイトと同じくらいに呆然としていたジェイクの顔が歪み、自嘲気味な笑いを零しだした。

 

「…そうか。『仮面ライダーディライト』の正体はお前だったのか……。…世界ってのは、つくづく残酷に出来てるもんだ……」

「…どう、して……?だって……あなたは……」

「おいおい、目の前の現実が見えないわけじゃぁ、ねぇだろ?どんなに冗談みたいな事でも、目の前にあるもの全てが現実……。戦士ならそれ位は憶えとけ」

 

〈DRAGON……‼〉

 ユラリ、と立ち上がったジェイクが左腕の注射器型のブレス———デブリシリンジャーにデブリドラッグを装填した。

 

「…錬身」

〈Dragon…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼〉

 噴き出した蒸気がジェイクの体を包み込み、その姿を変えていく。噴煙が晴れた時、その場にいたのはやはり、何度も戦場で相対したあの敵の姿だった。

 

〈…To Be Sick…〉

「…俺が、『ワールドラーグ』だ」

 

 それは揺るぎない、訣別の宣言。ワールドラーグの二振りの刃がレイトへ迷う事なく向けられる———その転瞬の事だった。呻く様な声と共に、地面に倒れ伏したデブリーターの兵士がもがき苦しみだしたのは。

 苦し気に首元を抑え込み、その体が赤熱化しながら白煙を漂わせ始める。まるで内部からエネルギーが膨れ上がっていくかの様に———。そして、レイトはあの状態が何を表すか知っていた。

 

「何だ、一体———?」

「いけない!逃げろジェイクさん‼」

 

 固まっていたワールドラーグが素早く身を引くのを確認し、レイトも後方へと下がった。ユニオと共に家屋の影へ身を隠したのと同時に、デブリーターの兵士が轟音と共に爆発した。

 

 このジェヴォールトデブリーターに変身するデブリーターの一般兵達には、証拠隠滅目的なのか高性能な爆薬が埋め込まれているらしい。後で知った事だが、ネイバーラントの戦いで退却を決定したヴェノムアラークがその装置を起動し、リンネの兵士達もその信号を受けて自爆させられた、という訳だったのだ。

 恐らく隠滅したいのはデブリーターの正体だけではない。それを打ち破った者も同様に抹殺する為に、敢えてこれほどまでに過剰な威力を与えられているであろう爆薬が地面を大きく抉り飛ばし、発生した炎の熱に晒されて周囲の水分が一気に靄となって広がっていった。

 

「クソッ……アンタらっ———‼」

「俺がやったんじゃねぇっ!…ヴェノムアラークの仕業か……⁉」

 苛立たし気に呟いたワールドラーグが倒れているホロウリーパーに近づき、その体を抱え上げた。

 

「悪いが今日は引き上げだ。…またな、小僧。次は万全の状態で相手してやる……」

「……っ!待て‼」

 言い捨て、ワールドラーグがデブリシリンジャーから煙幕を発射する。追い縋ろうするレイトだったが、既にその姿はどこにもいなくなっていた。

 

「クソ……!また逃げられた……」

「それよりレイト、あれ見て‼」

 ユニオが珍しく慌てた様な声を上げた。辺りを見渡すと、今自分達がいる箇所以外にも、黒煙が上がっているのが見えた。

 

 1つは先刻2体のジェヴォールトと対峙した場所から。そしてもう1つは、この場所からもよく見えるパニディエラ家の屋敷から———。レイトの全身が総毛立つのを感じた。

 

「しまった……‼アイリィ……‼」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 アイリスの剣がジェヴォールトβのククリナイフを弾き飛ばし、その胸板を貫く。デブリーターの兵士は驚愕していた様だったが、この短期間でこれだけの数を相手にしていればいい加減に対処法も身に着ける。ただの人間でしかないアイリスが、恐ろしい怪物や無法者達を相手に1年近く生きてこれたのも、こうした観察眼や戦い方の工夫を磨いてきたからだ。

 

 弱い者には弱い者なりの生き方や戦い方がある。それは人外の力に縋りつく様な者には決して分からない事だと思う。

 

「はあぁっっ‼」

 剣が閃き、ジェヴォールトの左腕の器具が切り飛ばされた。変身が解除され、露わになったガスマスクの顔に掌底打ちを叩き込んで気絶させる。そのまま身を翻して、残された最後の1体へと一気に肉薄する。

 

 パーラケインとサクラの片手直剣(ブロッサ改)が同時に煌めき、ジェヴォールトの体勢を一気に崩すと、止めと言わんばかりにジャンがその胸に棍棒を突き付ける。「離れて下さいっス!」と叫ぶと同時に棍の先端部の装置を点火。石火棍と呼ばれるこの武器は打突部に取り付けた爆弾をインパクトと同時に起爆する事で、相手にダメージを与える事が出来るのだ。巻き起こった小爆発を至近距離で浴び、吹き飛ばされたジェヴォールトは壁に叩き付けられ、その変身を解除させられた。

 

「ふぅい~~~……終わり終わり」

「コラ油断しない。また来るかもしれないでしょ。暫くは警戒を維持」

 サクラに頭を小突かれ、ジャンが「…ラジャっす」と小声で応答した。デブリーターの変身を解除された男達に歩み寄り、拘束するついでに革コートを剥ぎ取ったりしながら、その体を検分していく。

 

「『天空騎士団』の連中じゃなさそうね……。身なりからして……破落戸を雇いでもしたのかな?」

「そうかもしれないわね。訓練された兵士って感じじゃなかったもの」

 

 今回現れたジェヴォールトデブリーターは、通常タイプに比べてスピードでは勝っていたが、明らかにパワーは落ちていた。恐らく暗殺や不意打ちを得意とする設計になっているのではないか、とアイリスは推測している。そしてそこにこそ、彼らの敗因がある。

 もしスペック通りに不意打ちや闇討ちを狙っていれば、きっとアイリス達にも為す術はなかっただろう。だが彼らは真正面から突撃し、戦闘を挑むという真似をしてしまった。これでは本来の力など発揮できる筈もない。その事から、彼らは専門的な訓練を受けた兵士とは違うかもしれない……という結論を弾き出したのだ。

 

「…逆に言えば、そんな奴らでも変身するだけであれだけの力が手に入るって事っスよね……」

「ホントに……何が目的なんだろコイツら……?」

「…ま、それは後で尋問してみましょ。それよりサッサとここの片付け。あと怪我人の確認!」

 サクラの号令に従い、団員達があちこちに駆け出していく。よりにもよって避難民たちが集まる玄関ホールで戦闘が始まってしまった為、混乱が凄まじかった。ヒュペリオン達が筆頭になって直ぐに退避を手伝ってくれたが、直ぐに避難は出来ない子どもや怪我人達が今も隅に取り残されている。先ずは彼らの安否を確認しなければ……と思った矢先の事だった。

 

「………っ⁈」

「マズい……!皆、離れて……‼」

 

 騒然とした気配がホール中に広がっていった。振り返ると、今しがた倒したデブリーターの兵士達から白い噴煙が上がり、体が赤く輝き始めているのが見て取れた。マッドスキッパーでの戦いを経験していたサクラにはそれが何であるのかが直ぐに分かった。

 

「アイリィ逃げて!爆発する‼」

 

 爆発。サクラの言葉に触発されて、民衆達が一瞬で血相を変えて走り出していった。アイリスも走り出そうとした刹那、壁際に子どもが1人取り残されているのが見えた。脚に怪我を負っているのか、その場から動けないでいる様だった。咄嗟に子どもの傍に走り寄り、手を引こうとするが、その間に兵士達の体は臨界を迎えようとしていた。

 

 間に合わない……!と咄嗟に悟った。アイリィ!とこちらを呼ぶ声がどこか遠くに消えていくのを感じながら、アイリスは咄嗟に体ごと少女に覆い被さった。せめて、この子を助けなければ———。

 

 兵士達の首に巻き付けられたチョーカーから体に打ち込まれた薬液と、デブリーターに変身する為に投与される肉体強化用のドーピング剤は、混ざり合う事で爆発的な燃焼反応を起こす。それは兵士の肉体全てを瞬時に1つの巨大な爆弾へと変え、周囲一帯をも巻き込んで破壊するだけの威力を発揮する。ただの証拠隠滅用とは考えられない位の威力だが、こうして任務が失敗した際には敵をも巻き込んで消し去ることが出来る第二の矢として機能するのだから、ある意味では合理的と言えるのかもしれない。特に屋外ならいざ知らず、閉鎖された屋内環境ではその効果は絶大だった。

 

 巻き起こった爆発が瞬時に衝撃波を全方位に押し広げ、破壊の咆哮を上げた。衝撃に晒された床材や柱が細かい石杭となって、周囲一帯に無差別に襲い掛かっていく。奥の部屋の扉を固く閉ざし、屈強なヒュペリオンの団員達が体を張って抑え込もうとしたが、衝撃波によって扉そのものが吹き飛ばされ、黒煙に吸い込まれていった。巻き起こった衝撃は屋敷全体を揺るがし、人々の悲鳴と怒号を飲み込んでいった。

 

 爆音に晒された耳が感覚を取り戻し、黒煙が晴れて視界も戻ってくる。まだ心と体がどこか断線している様な感覚は残っているが、それでもどうやら自分は生きているらしい、とアイリスは理解した。

 

 痛みは……今は特に感じない。

 周囲の状況……それはまだ体の感覚が戻らなくて、充分に理解できない。

 そして、何より気がかりな腕の中の子どもの安否……大丈夫だ。震え切ってはいるが、どこにも怪我はない。

 

 良かった……と小さく安堵した刹那、アイリスは自分に何かが覆い被さっている事に気が付いた。瓦礫か何か……?いや、この柔らかく微かに温かみのある感触は……。

 

 …人?

 そう気付いた瞬間、アイリスは全身の血が凍りつく感覚に覆われた。急速に回復していく感覚が自身に覆い被さるものの正体を、しっかりと教えてくれた。

 

「…お父、様……?」

「……アイリィ………良かった、無事……だったかい……?」

 

 いつもと変わらず穏やかに、だが生気を絞り出すかの様な父の声。娘の無事を確認し、安堵したのかオーエンはそのまま床に崩れ落ちてしまった。

 

「お父様………‼」

 

 身を起こし、即座にオーエンの全身状態を確認する。体や服のあちこちが黒く薄汚れていて上手く判別が出来ない。だが、父の体を染めているのは煤煙だけではない。胸の辺りに触れた途端にアイリスの手をヌルリと濡らした感触は———血。

 

「お父様……そんな………!」

 

 飛散した礫からアイリス達を庇ったのだろう。オーエンの背中には無数の傷が弾痕の如く穿たれ、そこから夥しい量の血がとめどなく流れていた。中にはそのまま体を貫通している箇所まである。「いやぁっ‼」という悲鳴に近い声が辺り一帯に響くのを感じたが、それは他の誰かが発したのか、それともアイリスの口から飛び出たものなのかも分からない。

 

 血が川となって、石畳に広がっていく。アイリスは自分の服が汚れるのも構わず父に飛びつき、必死に声を上げた。まるで自らの体で血を堰き止めようとするかの様に。どこかへ飲み込まれようとしている父の意識を掬い上げようとするかの様に———。

 

 だが、そんな思いも空しく、血が流れ落ちていく度に、父の重みが増していく様な気配が感じられた。

 

「…アイリィ……僕は、この通り弱くて……ずっと君の力になれなかった………。本当なら……君には、もっと……心のままに……」

「お父様、もういいです!喋らないで———!」

「…いいんだ。もう………いいんだよ、アイリィ……」

 血に染まる口元を、それでも笑みの形に変えて。オーエンはしかと娘の顔を見つめた。

 

「…アイリィ……君を……誇りに、思ってるよ……。いつか、君が……この世界に希望を、広げてくれる事を……お祖父様と一緒に……」

「……違う……。違うのお父さん‼()()()()()———‼」

「アイリィ……()()()()()()

「………っ⁈」

 オーエンの言葉が、優しくアイリスを包み込む。それだけで、彼女には二の句が継げなかった。

 

「…大丈夫……。君が………なにも………ろうとしていても………どうか………心の……ままに…………」

 

 それきりだった。オーエンの手から力が抜け、血の海に沈んでいく。まるで時の中に取り残された様に、その顔には穏やかな、淡い笑みが浮かんだままだった。

 

 だが、逝ってしまった。

 その口はもう何かを語りかけてくる事はない。

 その目が娘の姿を映す事はもうあり得ない。

 どれだけ手を伸ばそうとも、優しかった父の一端に触れる事はもう叶わない……。

 

「…お父、さん………。お父さん……お父さん………‼いやぁ––––––––––––––––––っっ!!!」

 

 涙を帯びた少女の慟哭が、まだ熱で燻ぶる空気を掻きまわして木霊していった。

 

 




次回予告

消えた命があった。
また、誰かの胸の穴が広がった。
残された後悔の大きさに、誰もが行き場求めて彷徨い、それでも道を選ぶしかない。
レイト、アイリス、ゼオラ。それぞれが選び取る道はどこへ向かおうとしているのか。
だが、世界に混乱をもたらす敵は彼らの想像を絶するところで動き出していた。

Saga12『選択~ポイント・オブ・ノーリターン~』
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