仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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どうぞ最後までお付き合いください。


Saga13 ブートアップ~逆襲の勇者~②

◇◇◇◇◇

 ソーディアの拳がマンティコアの胸板へと直撃した。パワーに優れたツヴァイハンドの拳撃はまともに当たればデブリスの骨すら砕くほどの破壊力を持つが、全身が筋肉の塊である目の前のデブリーターにはさほどの効果も持たないらしい。まるでゴム革でも被せた鉄塊を殴りつけた様な手応えのなさが拳に伝わってくる。

 その感触の通り、マンティコアは全く勢いを落とす事なく、反撃とばかりにソーディアに向けて両手の爪を振り下ろしてくる。咄嗟に両腕を振り上げ、シールドで攻撃を防ぐ。巻き上がった火花が、両者の姿を明々と照らし出した。

 

 ステラスフィアの山の端が少しずつ、だが確実に暗さを増していく。そろそろ夕刻———つまり、レイトにとってのタイムリミットが迫りつつあるのだ。もたついている時間は与えられない。ここは一刻も早く目の前の怪物を降し、体内の毒を採取しなければならないのだが……。

 

「くっ……!いい加減、倒れやがれってんだ‼」

 ——魔剣開放、我流・ウィリー‼

 

 身を屈めてマンティコアの攻撃を躱すと、逆手に構えたデウスカリバーⅡを一気に振り上げた。飛び上がる力も加わった切り上げ技が直撃し、マンティコアが胴部から流血を撒き散らしながら地面へと倒れ伏す……だが、それも一瞬の事に過ぎなかった。一切のダメージを感じさせずにマンティコアは即座に立ち上がり、双爪と尻尾の毒針を構える。どうやらあの薬物投与されたジェヴォールト達の様に一切の痛みを感じないらしい。

 更に、血で汚れたその体には、しかし一切の刀傷すら負っていなかった。あの僅か数秒間の間で傷を再生させた様だった。

 

「クソが……。本当に、人間じゃなくなっちまったのかよ、ゼオラ……‼」

 

「残念ながら、その通りだよ。…いや、喜ばしいと言うべきかな?」

 後方から不愉快な笑いを含んだ男の声が答える。見遣ると背が曲がり、土気色の肌をした不健康そうな中年の男が顔にニタニタとした笑いを貼り付けて、ハイル達を睥睨していた。今まで戦いを静観していたジェイクが不機嫌そうに舌打ちを漏らす。

 

「お初にお目にかかるよ、ハイル・ランドナーくん。私はイカボッド・クリーデンス。デブリーターシステムを創った人間……と言えばいいのかな?」

「なんだと……?それなら訊くが……ゼオラをこんなにしやがったのはテメェか?」

「ぼう、それを訊くかね?答えは……その通りっ‼」

 ハイルの問いにクリーデンスと名乗った男は顔の笑みを一層強くし、絶叫した。よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの態度にハイルの怒りが一層強くなる。

 

「人間と怪物の融合が私の研究のテーマだが、彼女はその中でも最高クラスの被検体だったよ!その娘はデブリスの体組織とかつてないレベルでの融合を果たしている。かつての実験体とは比べ物にもならんくらい、強いよ?…まぁ、制御が出来ん様なので、失敗作である事に変わりはないがね」

「…っ⁈…ふっざけんじゃねぇっ‼」

 被検体。失敗作。まるで人を実験動物か何かの様に語る言葉や、何よりも人を人とも思っていない様なその目線が気に入らない。マンティコアの攻撃を捌きながら、ソーディアが仮面の奥からクリーデンスを睨みつける。

 

「テメェが何者かなんざ興味ねぇ。だが、テメェは俺の家族(ファミリー)に手を出しやがった‼ただで済むと思うなよ‼」

「ハハハッ!君たちを裏切った小娘をまだファミリーと呼ぶのかね?泣かせるお涙頂戴劇じゃないか、ハイル・ランドナー!」

「黙れっ‼これを終わらせたら、次はテメェだ!首を洗って待ってやがれ‼」

「おう、怖い怖い。…という訳で、さっさとソイツも殺してしまいたまえよ、ゼオラ・ユピター?」

 

 クリーデンスの命令に従ってという訳ではないだろうが、マンティコアの持つ最大の必殺武器——猛毒の針が鎌首をもたげてソーディアへと襲い掛かってくる。毒針は不規則な軌道を描いて迫り、その攻撃を読みきる事は困難だ。だが、ハイルは攻撃を敢えて紙一重で躱すと、その尻尾をしかと捕まえた。

 

「うおぉりゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!」

 

 思いきり尻尾を引っ張られ、マンティコアが地面へと引き倒される。そのままツヴァイハンドのパワーに任せて、頭上高く振り上げてから再度地面へと叩き付けた。全身を衝撃に揺さぶられたマンティコアが苦悶の叫びを上げるが、攻撃はそれだけでは終わらない。ベルトからデウスカリバーⅡを引き抜き、伸びきった尻尾へと一気に叩き付けた。

 

 肉が裂ける音と共に、マンティコアの尻尾が途中から抉り取られた。血と共に石をも溶かす毒液が辺り一面に撒き散らされるが、ツヴァイハンドの堅牢な装甲ならばこの程度は問題ない。

 切り落とした尻尾と地面の上をのたうち回るマンティコアのそれぞれを、ソーディアが睥睨する。あくまでも自分が求めているのは中和剤の製作に必要な毒液のサンプルなのだ。ならば切り取ったこれだけありさえすれば、何の問題もないのだろうが……。

 

「クソ……!やっぱこのままにはしておけねぇか……」

 先程、あのクリーデンスという男はこのマンティコアデブリーターを失敗作と呼んでいた。このまま逃げ出してしまえば、ゼオラは彼らによって処分され、二度と会う事は叶わなくなってしまうかもしれない。それではきっとレイトが助かったとしても完全な勝利とは言えない。非合理な道ではあるが、きっとレイトやハイルが選んだ道というのはそういうものなのだろうと思える。

 つくづく損な生き方だ…と思うが、その道を否定する気もなかった。デウスカリバー刀身のアブレイシブスターターをコッキングする。

 

〈ミドル・アブレーション!テリフィング・ミドル・ストラッシュ!!〉

 ——耐えろよゼオラ……。必ず連れて帰ってやる!

 

 破邪のエネルギーがチャージされた刀身を振りかぶり、魔剣術・デモリッションの構えをとる。ソーディアの技の中でも最大威力を誇る一撃斬りがマンティコアの脳天へと打ち込まれそうになるが———。

 

「…ワールドラーグ。君は手助けをしてはくれないのかね?」

「生憎、今の俺はオフなんでな。アイツにもアンタにも手を貸してやる義理はねぇ」

「やれやれ……しかし貴重なサンプルだ。ここで失うだけは惜しいか……」

 クリーデンスが気怠そうに呟き、その腕にデブリシリンジャーを巻き付けた。

 

〈Gevault…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼〉

「錬身」

〈…To Be Sick…〉

 

 煤煙の様なガスにその体が包まれた後、クリーデンスの体がジェヴォールトデブリーターへと変化した。だが、その体色は従来の黒とは異なり、全身が燃え滾る炎の様に赤く染まっており、その右腕には大型の鋸の様な刃が取り付けられている。

 

 ジェヴォールトデブリーター・タイプγ。

 組織内での開発コードでは『エクスキューショナー』とも呼ばれており、パワーに優れたジェヴォールトの上位タイプとして位置づけられる。

 本来はクリーデンスが自身の為に開発しているものとは異なるのだが、今ある手持ちのものではこれが一番強力だ。右腕の鋸——ブレイクソーに雷のライドラッグを装填すると、刃が轟音を立てて猛然と回転し始めた。目を満足そうに細めると、そのままジェヴォールトはソーディアへと向けて跳躍し、鋸刃をその背中に叩き付けた。

 

「ぐあぁぁぁぁっっっ⁉」

 ソーディアの強固な生体装甲が、火花と共に切り裂かれた。想定通り——否、それ以上の威力だ。ジェヴォールトが愉快そうにせせら笑う。

 

「ハハッ!どうかね、ブレイクソーの威力は⁉コイツは刃に部分的なアダマンタイトコートを施してあって、やろうと思えば岩石さえも切断でき———!」

「ゴシャゴシャうるせぇんだよ口先野郎がっ‼」

 

 ソーディアがデウスカリバーⅡを振り回して、クリーデンスの口自慢を遮った。だが、その刃はブレイクソーに受け止められた。怪物の顔貌の奥底でクリーデンスはニッと笑うと、更にブレイクソーの回転速度を上昇させる。デウスカリバーの刀身から火花が散り始める。無論、最強の魔剣がこの程度で破壊される筈もないが、鎖鋸の振動によって力を籠める事が出来ないでいた。

 更にブレイクソーの刃から徐々に紫電の様な火花が立ち昇り始めるのが見えた。瞬時にマズい…!と判断したハイルは地面を蹴って一気に後方へと引き下がった。

 

「クソが……!けったいなモン作りやがって……」

「当然だろう?これからの戦場を統べるのは最新の錬真武器とデブリーターシステム……つまり私の才能だよ。魔剣の様な時代遅れの遺物なぞもう用なしなのだよ。…で?貴様はいつまでそうして倒れているつもりだね?」

 

 尾を斬り飛ばされ、地面に力なく横たわるマンティコアをジェヴォールトが無感動に睥睨すると———その背中にスパークが飛び散る鋸刃を突き付けた。体中に強力な電流が流し込まれ、マンティコアが苦悶の叫びを上げた。だが、それによって全身の細胞が活性化されたのか、千切られた尻尾がたちどころに再生したと同時に、更に両腕の爪も更に長大化する。より怪物的に、より戦闘生物としての能力を強化させたマンティコアを眺め、クリーデンスが哄笑した。

 

「ハッハッハッ!それでいい、それでいいのだよゼオラ・ユピター!今の君はまさしく人の手で生まれた真の怪物!美しい……実に美しいじゃないか‼」

「…ふざけた事を、ヌかすんじゃねぇって言ってんだろ‼」

 激情の叫びを上げて、ソーディアが地面を蹴立ててマンティコアとジェヴォールトγに斬りかかる。

 

「これ以上、テメェのイカれた研究に付き合わされて堪るか!さっさとソイツを返して貰うぞ!」

「涙ぐましいねぇ。だが……そいつは出来ない相談だねぇっ‼」

 ブレイクソーが閃き、デウスカリバーとぶつかり合う。雷を纏って超振動する刃の衝撃が腕全体に広がり、デウスカリバーを跳ね飛ばしてしまう。その隙を見逃さず、マンティコアの爪がソーディアの胸甲に叩きつけられた。苦悶の呻きを漏らすソーディアに一切の斟酌もなく、マンティコアが口部からノイジーハウリングを発射する。威力を最大まで高められた叫声は地表面すらも抉り飛ばし、ソーディアの全身を打ち据えて後方まで吹き飛ばした。

 

「ぐはぁっっ……!」

「かつてないレベルでの融合と言っただろう?人にも怪物にもなれない貴様の様な半端者とは質が違うのだよ。それに何より……どうせこの娘はもう助からんよ」

「…なんだと……、どういう事だっ?!」

「ハッ!言った通りの意味さ‼」

 クリーデンスの声色が嘲弄の笑みを帯びる。

 

「高レベルでのデブリス細胞との融合を果たす為に、デブリドラッグはこの小娘の体内に埋め込まれておる!つまり、たとえ倒せたとしても小娘を元に戻す術なんかないと言っているのだよぉっ‼」

「…………っ?!」

 

 ソーディアが驚愕に身を竦ませた。レイト達の話によれば、通常デブリーターはデブリドラッグを体内に注入するか、ヴェノムアラーク達が使うあの注射器の様なブレスレットを使用する事で、その身を人間から怪人へと変化させる。確かに先ほどゼオラは特に何も使用せずに、その身を変化させていたが……。

 

「分かるかね?戦ったところでこの娘はもう助からないのだよっ!それとも君が彼女に引導を渡してやるかね?」

 

 ハイルがグッ…!と押し黙る。これが普通のデブリーターであれば、倒す事で目の前の怪物をゼオラに戻す事は出来るだろう。だが、そこまで高レベルな融合を果たしている状態の彼女に安易に必殺技を打ち込んでしまうとどうなるのだろうか?デウスカリバーの破邪のエネルギーに触れれば、全身のデブリス細胞もろともゼオラが消滅してしまう可能性もないだろうか。だが、このまま彼女を怪物の姿のままにしてしまっていいのだろうか……?

 

 懊悩するソーディアをクリーデンスが、満足そうにせせら笑った。

 

「決められないかね?全くそうして何も捨てられないから君たちは愚かしいのだよ……。さぁ、考える時間は終わりだ。やるんだ、マンティコア」

「グラアァァァァァァァッッッッッッ!!」

 

 クリーデンスの命に従い、マンティコアデブリーターが再びソーディアへと突撃する。爪撃を躱し、地面に落ちたデウスカリバーを拾い上げて攻撃を受け止める。見た目では分かりにくいが、筋力もかなり強化された様だった。パワーに優れている筈のツヴァイハンドですらも受け止めきれない程の衝撃が全身を襲う。圧倒的なパワーでソーディアの動きを封じると、マンティコアの尻尾の毒針が迫りくる。咄嗟に右腕のシールドで弾き返すが、その速度も狙いの精度も先程よりかなり向上していた。このまま戦闘が長引けば、恐らく確実にやられてしまうとハイルは直感した。

 

 ならばどうするか。

 答えは単純に1つだ。自分の目標はこの怪物の毒を持ち帰り、レイトを一刻も早く治療する事である為、今はこの場から逃走するより他にない。その為には目の前のデブリーターを撃退する必要がある。考えるまでもない事だ。もう戻れないというのならばいっその事———と、どれだけ思っても剣が鈍る感触は消えてくれない。

 

「グッ……!やめろって言ってるんだろうが、このバカ……!」

「グアァァァァァァァッッッッ!!」

 ハイルの必死の抗弁も空しく、マンティコアの攻撃が止む事はない。両腕のシールドが弾き飛ばされ、がら空きになった胸倉に更に追い打ちの爪撃が何発も炸裂する。堅牢なツヴァイハンドの装甲が遂に耐え切れなくなり、鋭い裂創が幾筋も刻み込まれていった。

 

 止めをさそうと尻尾が躍動するのが見える。紙一重で回避する事に成功はしたが、尻尾はそれを見越していたかの様にソーディアの首筋へと巻き付き、一気に締め上げた。そのまま恐るべき膂力でソーディアを持ち上げると、遠心力で振り回し、近場の家屋へと叩き付けた。

 

「よぉし、その調子だよマンティコア!一気に止めを刺してしまいなさいっ!!」

 無様に地へと転がり、更にマンティコアによって追撃を喰らうソーディアを見つめながら、クリーデンスが快哉を叫ぶ。だが、それとは対照的にジェイクの胸には不快感がこみ上げてくるばかりだった。

 

「…やってられるかよ、全く……」

 

 少女の罪悪感につけ込んで怪物へと変えてしまう非道も、相手の反撃の手段を封じた上で精神的にも肉体的にも追い詰めていくクリーデンスの悪辣さも、今は酷く居心地が悪い。どれだけ守るべき一線——“ルール”を己に課そうとも、ジェイク自身もいくつもの悪行に手を貸してきた。今更それを言い訳する資格などないと分かっている……にも関わらず、だ。

 どれだけ醜悪な光景だろうとも、これは全てジェイク自身が繰り返して光景の一部でしかない。堕ちゆく世界の為に……と言い訳を重ね、この病める世界で繰り返される不条理の一端でしかないと自分に言い訳を重ねて戦ってきた。だが、それが他の者の手によって自分の目の前で再演される時、これほどまでに醜悪に写るとは……。それに気付いた時、ジェイクは己の矮小さがつくづくイヤになった。

 

 マンティコアの爪によって胴部を深く抉られ、遂にダメージの限界を迎えたソーディアが地面を転がり、その変身を解除させられた。泥に塗れたハイルへマンティコアとジェヴォールトがゆっくりとにじり寄ってくる。

 

「さて、ここで君の万策も尽きたという訳だ。…全く、こんなどうしようもない娘の為に命を捨てる事になるとは……。君も実に悔しかろう?」

「…はぁ……。テメェの頭には腐った残飯でも詰まってんのか?たわけた事、言ってんじゃねぇぞタコオヤジが」

 だが、それでも尚、ハイルの顔は凄絶な凄みを湛えて笑っていた。

 

「…どんなにどうしようもない奴であっても……仲間の為なら、1人1人が命を張って戦う……。それが俺たち、ヒュペリオンだ。…誰が倒れようが、ここで俺が果てようが、また仲間達がテメェを潰しに来る……!俺たちはしつけぇぞ。ざまぁ見やがれだ……」

 

「ハン、負け惜しみなど痛くも痒くもないのだよ。話は終わりだ、マンティコア。ソイツに止めをさしなさい」

 マンティコアの尻尾がユラリと持ち上がり、苦し気に上下するハイルの胸元へと突き立てられる———その直後の事だった。

 

 ガァン!!という破裂音が霧に包まれた重たい空気を掻き回して響く。それと同時に、マンティコアとジェヴォールトの体が小爆発を上げて、後方へと吹き飛ばされた。

 

 一体誰が……?そこにいる誰もが思った疑問に答える声はない。だが、空気が震える様な轟音と共に1台の鉄の塊が村へと飛び込んできた。白銀のボディに3つの動輪を備えた車体——マシン・ユニオンスティンガー。そしてそれに跨る人影は勿論……。

 

「…レイト……⁈」

「ごめんハイル、待たせた。…後は、俺がやる!」

 ガンモードに変形させたトランスラッシャーを構え、レイトがその場にいる全ての者に宣言した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 地に倒れているハイルと、彼に相対しているのはチェーンソーの様な武器を装備する専用カラーのジェヴォールトとマンティコアデブリーター———即ちゼオラ。それだけでこの場の状況はレイトにも大体理解できた。

 

「マヤ、ハイルを頼む」

「うん、任せて」

 ユニオンスティンガーの後部座席から飛び降りたマヤが急いでハイルへと近寄る。頭のダイロク器官を展開して素早く状態を確認すると、指で丸を作ってレイトに合図する。毒には侵されていないという意味だろう。実際、ハイルの体には幾筋かの裂創が刻まれていたが、呼吸は規則的で顔色も決して悪くはない。

 それでも、負ったダメージは決して浅くはない筈だ。毒に侵されていた自分を助ける為に、命を懸けてくれた親友にレイトは心から感謝を込めて、「後は、俺がやる!」と宣言した。

 

「き、貴様……!なぜ生きておるのだ⁈マンティコアの毒を受けて無事でいられる筈が……!」

 ジェヴォールトがレイトを指差して問う。声が戦慄き、今にも地団駄を踏みそうに取り乱している。その姿からどうやら自分の事を相当に恨んでいそうだが、生憎聞き覚えのある声ではない。銃口を突き付けたまま、「さぁてね」と混ぜ返す。

 

「俺にもよく分からないよ。…強いて言うなら、日頃の行いって奴じゃない?」

「あ、あり得ん!貴様なぞがっ……貴様如きが私の計算を上回る筈が———!!」

「俺だけの力じゃない。皆の思いが、俺をこの世に繋ぎ止めてくれたんだ。…今度こそ、ゼオラを返して貰う」

 

 マンティコア———ゼオラの裏切りによって、体に致死性の猛毒を受けたレイトが何故助かったのか。一通りマヤ達から説明は受けたが、恐らくその全てを理解できたわけではない。ただ1つ分かった事は、ディライトの力を受け継ぎ、その力を誰かの為になる様にと使い続けて来た事が、どうやら実を結んだらしいという事だけだった。

 『一念岩をも通す』という言葉がある様に、強い思いは何物をも突き破って思いを結実する為の力となってくれる事もある。ただそう確信したレイトは揺るぎない意志を持ってジェヴォールトを睨みつけた。

 

 だが、ジェヴォールトはまるで自身の動揺を振り払う様に身を震わせて、「ハッ!バカバカしい!!」と嘲笑った。

 

「名前通り本物の勇者にでもなったつもりかね⁈だとしたら、とんだお笑い草だよ!まさか君はこの小娘に殺されかけたんだという事を忘れた訳じゃあるまい⁈もしあれが錯乱や洗脳によるものだとでも思っているのなら、良い事を教えてやろうっ‼」

 ジェヴォールトがレイトに向けて指を突き付けて叫んだ。

 

「不思議に思わなかったのかね?何故、君たちの拠点が我らに知られる事となったのか。その答えはただ1つだ!それは、この小娘が我らの内通者だったからなんだよぉっ‼」

 マヤの顔に驚愕が広がった。今までどこの誰にも知られていなかったヒュペリオンの拠点に、狙いをすました様にヒューバート・ランドナーは襲撃をかけてきた。あれは確かにあの場所を誰かにリークされたとしか思えない事態だった。まさか、あれは全てゼオラが仕組んだ事だったというのだろうか……?

 

「分かったかね⁈この女は君たちの情報をコソコソと流し、挙句の果てに殺そうとまでしたどうしようもない裏切り者さ‼身も心も怪物となって果てるのがお似合いというものだろう?そんな人間であっても、助けようなんて気になるのかね、勇者ディライトッ⁉」

 

 ジェヴォールトが可笑しくて堪らないとばかりに腹を抱えて笑い転げる。囚われの少女を助けに来たつもりでいたのだろうが、待ち構えていたのは彼女が裏切り者だったというまさかの真実だ。どんな絡繰りで蘇ったのか分からないが、さぞかし動揺しているに違いないと思うが———。

 

 だが。

 

「…勿論、助けるさ。何があったとしても」

 揺るぎない笑顔を浮かべたまま、レイトはゆっくりと、しかし決然と宣言した。

 

「な、何だとっ……⁉貴様を殺そうとした小汚い娘を助けるなどと……!それが勇者のする事かっ⁈」

「さぁね?おかしいのかもしれないけど……でも、それが『仮面ライダー』だろ」

 

〈ディライトドライバー‼〉

 レイトが腰にベルトを巻き付ける。

 

「…アンタは、ゼオラの何を知ってるんだ?」

「………⁈」

 

 傍から見れば、ゼオラは勇者を欺いた裏切り者という事になるだろう。事実、彼女はレイトに「アイリスを守る為に、ここで消えてくれ」と言ったのだ。それは明らかに何者でもない、彼女の意思そのものだったと思える。ゼオラは自らの意思で、レイトに向けて牙を剥いたのだろうとレイトの心は納得していた。

 

 では、旅に出てから、自分達と出会ってからの彼女はずっと背信を続けていたのだろうか。短くない付き合いの中で見た、いくつものゼオラの姿を思い浮かべる。

 

 金銭管理がいい加減な仲間達の代わりに財布を預かってくれていて。

 男勝りな性格の割に料理や針仕事が得意という一面もあって。

 冷静なくせに、幽霊が嫌いで。

 シビアな現実を誰よりも理解していて、いつも厳しい言葉をくれた。

 そんな彼女の姿が、全て噓だったなんて言えるだろうか?

 

 主としてアイリスを尊敬する姿も、妹の様にマヤの面倒を見る姿も、半ば呆れつつも根気強くレイトに付き合ってくれた姿も、全てありありと思い描ける。あれの全てが偽りだったと誰に言えるだろうか。レイトの心が、猛烈に否を突き付ける。

 

 「もう戻れない」「なればせめて」「お嬢の為」に、と打ち震えていた彼女こそ、きっと本当の———。

 

「…ゼオラ。前に言ったよね。『周りにどう言われても、最後まで貫けばそれは本物だ』って。あれは君自身の事だったんじゃないの?」

 

 前にディライトの力の扱いに悩むレイトに、ゼオラがくれた励ましの言葉。今にして思えば、あれは偽りの友を、偽りの仲間を演じながらも、精一杯それを本物にしようと足掻いていた彼女の在り様だったのではないか、と思える。そして、『それが出来たら甘ちゃんって言葉は撤回してやる』とも———。

 

 ならば。

 

「だったら俺も、貫いてみせるよ。仮面ライダーの道を。助けたいって思いも、信じる気持ちも、全部貫いて本物にしてみせる。だから……君もこんなことろで終わるな‼」

 

 レイトが腹の底から声を絞り出して叫んだ。そして、その思いに呼応するかの様に、ディライトドライバーの中央部が激しい輝きを放った。

 

錬真力(アーケミックレベル)第2段階への到達を確認〉

〈付加された制約の一部解除を承認する。更なる力を開放せよ〉

 

 久しく聞いていなかった、かつてディライトの力を受け継いだ時に響いたあの声が、レイトの脳裏に反響する。それと同時に、ドライバーのメダリオンコアから光の塊が形成されていった。眩いばかりの光輝が徐々に形を成していき、レイトの手の中に収まった。

 

〈ライドレンジアッパー‼〉

 

 レイトが手にしていたのは、灰銀色の四角い形状の器具だった。シンプルな形ながら、中央部にはスライド開閉可能な蓋が取り付けられ、更にアナログ風のメーターの様な意匠が見て取れる。

 

「…こんなところで、君を見捨てたりなんかしない。それが俺の……」

 アイテム———『ライドレンジアッパー』の蓋を開け放つ。中には2つのスロットが空いているのが見えた。レイトはまるでそこに導かれていく様に……否、メモリージングによって教えられた通りに、そこに光と銀の2つのライドラッグを装填した。

 

〈ワッツハップン‼〉

 蓋を閉じると、そのままライドレンジアッパーをディライトドライバーのスロット部へと取り付けた。

 

〈ライト!シルバー!レ~ン・チン‼〉

 

 転瞬、ベルトからいつも様に光のアーマムエレメントと、銀のマテリアメイルが射出成型される。だが更に加えて、レイトの足元にも円陣が浮かび上がり、いくつもの数式の様な文字列が中空に配列されていく。それはやがてアーマムエレメントと結びつき、新しい形状を精錬していった。

 

「変身‼」

〈ブートアップ、ディライト‼〉

 

 レイトがベルトのエブリッションスターターを押し込むと、眩い光と共にレイトの全身がディライトへと変わっていく。だが、光の渦の中に佇むその姿は、これまでのディライトとは違っていた。

 眩く輝く銀色のマテリアメイル。だが、そこに1筋のマットな質感の黒い線が配置されている。更に各部のアーマムエレメントは灰銀色の金属パーツと一体化した様な形状となり、その幻想的な形を覆い隠してしまう様だった。頭部もまた仮面の更に上からヘルメット状のプロテクターが取り付けられ、透明なバイザーが顔の前面を覆っている。

 

 この世界にはひどく不釣り合いな、メカニカルで機能的なフォルム。それこそ、新しいディライトの姿だった。

 

〈サイバネティック・ハイパーブレイバー!ミスリックレンジャー‼〉

 

「仮面ライダーディライト、ミスリックレンジャー」

 新しいディライトの腕がユラリと持ち上がり、前方の怪物へと据えられた。

 

「ここから先は、俺のサーガだ‼」

 

 




次回、戦闘開始。
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