今回でデブリーターが作られた目的が分かります。
ちょっとしたお知らせもありますので、最後までお付き合いください。
◇◇◇◇◇
荒れ果てた大地の真ん中。砂塵に塗れ、生命力の強い雑草に無秩序に覆いつくされている石塀や住家の残骸。かつての繁栄の跡はそこにはなく、ただ残酷なまでの真実———この世の不条理をレイトに突き付けている様だった。
この世界に流れ着き、怪物が渦巻く世界でも太く逞しく生きている人々の営みを目にしながら、一方でこの様な荒涼とした真実を見せられもしてきた。結局のところ、この世は1つの側面だけで構成される訳ではないという事だろう。忠義の裏に背信を隠していた少女の様に。気高い使命感の背後に偽る心を秘めていた少女がそうである様に……。
廃墟の入り口でユニオンスティンガーを停車させる。中を窺うまでもなく、開けた土地で焚火を起こしているジェイク・アリウスの姿が見えた。彼もバイクの地鳴りの音に気付いた様で、レイトを見遣りながらその顔がニヤリと笑った……様に見えた。
「レイト……悪いが、マズいと思ったら、容赦なく割り込ませて貰うからな?」
「分かってるよユニオ。…アイリィを助けに行かなきゃいけないんだ、ここで終わる気なんてないよ」
バイクのシートから地面へ降り立つと、そのままジェイクの元へと歩を進めていく。奇しくもなのか、それとも意図的にやっているのか、焚火の向こうでその火にじっと真剣な目を注いでいる彼の姿は、初めて出会った時の姿とそっくり同じに見えた。
瞬間、レイトは悟った様な気がした。あの瞬間から自分達はきっとこうなる運命だった。この世にどうしても分かたれてしまう明暗が存在するのならば、きっと自分と彼こそが———。
「よぉ、まさか本当に1人で来るとはな」
「…あなたがそうしろって言ったんでしょうが」
憮然と返しながら、レイトはジェイクから寄こされた文を取り出し———宣戦布告の様に焚火の中へ投げ入れた。
「すみませんが、あなたと長々話してる時間はないんです。…アイリィの居場所、教えて貰えるんですよね?」
「何度も言わせんな。聞けばなんでも答えて貰えると思うんじゃねぇ」
ジェイクがニヤリと口の端を歪ませ、獰猛な鷹の目をギラリと輝かせると、その左腕に注射器型のガントレットを巻き付けた。
「言いたい事は分かるよな?俺と戦え。お前との間に因縁を残しておくのはもう終わりだ」
「…いいですよ。もし俺が勝ったなら、宣言した事を全部守ってもらいますからね」
「…いいぜ?勝てたなら……な」
〈DRAGON……‼〉
〈ライト!シルバー!ファンタスティック!栄光のレシピ‼〉
ジェイクがデブリシリンジャーにデブリドラッグを、レイトが装着したベルトに光と銀の2つのライドラッグを装填する。超越的なパワーが両者を包み込み、周囲の空気を揺さぶっていく。やがて全ての準備が整うと……それが合戦の合図であるかの様に両者が宣言した。
「錬身‼」
「変身‼」
〈Dragon…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼…To Be Sick…〉
〈オールセット、ディライト!ライトアップブレイバー!ミスリックナイツ‼〉
噴煙の黒衣を引き裂き現れたのは、赤き暴竜の名を秘める戦士・ワールドラーグ。
相対するのは、勇者と英雄の名を継ぎし光銀の戦士・仮面ライダーディライト。
2人の視線が交錯し、不可視の火花を散らせる。そこに一歩たりとも引けない意志の強さを感じ取り———同時に裂帛の叫びを上げた。
地を蹴立て、その手に握られた刃がぶつかり合い、乾いた空気を圧して広がっていく。両者を阻んでいた炎が、その勢いに吹き散らされ、虚空の彼方へと消えていった。
ワールドラーグが握る柳葉刀——竜翼剣『サイドワイバン』と刺突剣の両刃が、空を切り裂いてディライトの目前まで迫る。対するディライトが持つのはトランスラッシャー1本のみ。だが、それでも一切の怯みなくトランスラッシャーを振り抜き、柳葉刀の刃を受け止めると、そのまま蹴りを繰り出し、レイピアの突進を弾き飛ばした。
ジェイクがほう、と息を吐く。重量があり威力の高いサイドワイバンはともかく、小型軽量な補助武装であるレイピアなら、力加減と装甲強度が許す限りギリギリ体術で弾けない事もないだろう。最もそれを思いきる為には卓越した勇気と戦闘経験が不可欠。目の前の少年も数々の実戦を経験して、それなりに成長しているという事だろう。
「やれやれ、なかなかどうして……楽しませてくれる様になったじゃねぇか‼」
「そりゃどうも‼」
トランスラッシャーで相手のメインウェポンを止めつつ、左拳を相手の顔面へ向けて繰り出す——が、いち早く体勢を立て直したワールドラーグが蹴りを放つ方が一瞬早かった。鞭の如き勢いで放たれた蹴撃がディライトの腹部を強かに打ち据え、足元が揺らぐ。その一瞬を見逃さず、鍔迫り合いか抜け出した柳葉刀がディライトの胴部へと振り下ろされる。だが、ディライトもそのまま地面を転がる様にして攻撃を躱し、そのまま跳ね起きる勢いでワールドラーグへ両脚蹴りを放った。
後方へと吹き飛び、そのまま建物の残骸へと突っ込むワールドラーグだったが、そのままやられてくれるような相手ではない。瓦礫を押し退け、尚も超然と佇む姿は、戦いの中でのみ己が生命の輝きを見出す生粋の戦士のものに見えた。
楽しむどころではない、こちらは相手の動きに追従するだけが精一杯だ。やはり接近戦という舞台においては未だに相手に一日の長がある事は否めない。だが、それで折れるほどの心なら最初からこの場に赴いたりはしない。ホルダーから取り出したパワーストーンライドラッグを銀の霊薬と差し替える。
〈オールセット、ディライト!ライトパワーストーン‼〉
奇跡の力を宿した琥珀色のボディのディライトが指をパチリと鳴らす。次の瞬間、体中から胞子状の光弾が無数に射出され、ワールドラーグへと殺到していく。弾の1つが胴体に直撃し、小爆発を引き起こす。威力自体は小さいが、数が多い上に1つ1つが速い。まるで光が雲霞の如くワールドラーグに纏わりつき、その体力を少しずつ刈り取っていく。
だが。
「くっ……!うっとおしいんだよぉっ‼」
〈DRAGON FIRE…INFUSING…!〉
ワールドラーグがデブリシリンジャーのブランジャーロッドを押し込み、デブリドラッグのエネルギーをチャージする。触れた者は全て炭の像に変えられてしまうと言われる程の焦熱の炎がパイプラインを通して、ワールドラーグの全身へとチャージされていく。
「はぁぁぁぁっっっっっ!!!」
「…………っ⁉」
叫びと同時にワールドラーグの全身から爆発の様な勢いで高熱波が解き放たれた。『アウトブレス』と呼ばれる全周を一気に焼き払う炎に晒され、光弾が全てかき消されるが、効果はそれだけではない。爆発的な閃光によってディライトの目が眩んだ一瞬をつき、ワールドラーグが再びブランジャーロッドを押し込み、駆け出す。刀を放り捨てたその右手に炎のエレメントが結集し、燃える爪撃『ブリムシュレッダー』を展開すると、ディライトの頭を掴んだ。
一瞬先には炎のエネルギーがディライトの眼前で弾ける……だがその前に、ディライトは素早くベルトのライドラッグを交換した。
〈ファイアアダマント‼〉
炎に強い耐性を持つ火炎のアーマムエレメントに、ディライトの中でも最硬強度を誇るアダマンタイトのマテリアメイルが装備され、岩をも砕く灼熱の衝撃を真正面から受け止める。読み通り効果は相当減衰され、レイトの意識はしっかりと保たれていた。チャンスとばかりにワールドラーグの体をしかと抑え込み、ベルトのスイッチを押し込んだ。
〈エブリッション!ヴァリアントファイア‼〉
「せりゃあぁぁぁぁぁっっっっっ‼」
「ぐはあぁぁっっ⁉」
ディライトの拳がワールドラーグの胸板へとめり込み、衝撃の火花が飛び散る。苦悶の呻きを上げたワールドラーグが地面へと叩き付けられた。全身の装甲からスパークが上がり、体をかけるケーブルも色を失っていた。
デブリーターシステムの詳しい仕組みは分からないが、それが錬真術によって作られた霊薬に支えられているシステムである以上、ディライトと同じ霊薬の総量にも限界があるのではないかと思っている。先程の攻撃でワールドラーグはかなりの霊薬を消費した筈だ。ならば今が決め時、とディライトがトランスラッシャーを構えてジリジリとワールドラーグへと近づいていく。
「…まさかあの時助けた小僧とこんな事になるなんてなぁ……。運も天も信じちゃいないが、世の中ってのは不条理にできてるもんだぜ」
「…そうですね。でもあなたのお陰で、生きてここまで来れました」
どういう理屈か、1人この世界に放り込まれ、右も左も分からなかった自分に、この世界の知識を教えて力強く生きていく様に言葉をかけてくれたのは、紛れもなく目の前の男だった。だからどれだけ先行きの見えない道であろうとも、『見返りを求めないから人助けってもんだ』という言葉を信じてここまで戦ってこられた。それなのに……。下手をすれば震えそうになる手を意志力を総動員して抑え込み、「あんたの負けだ」と宣言した。
「もう戦うだけのエネルギーは残ってないだろ。さっさとアイリィの居場所を———」
「…ハァ。だからお前はキレイ事が過ぎるんだよ、小僧」
転瞬、ワールドラーグの眼光が殊更に鋭く光り、強烈な闘気が再び湧き上がる様をレイトは幻視した。
「相手を征すれば戦いは終わりか?舐めた事を言ってんじゃねぇぞ。相手を墜とすか、自分が堕ちるか……それが、殺し合いってもんだ‼」
立ち上がったワールドラーグが1つのライドラッグを引っ張り出す。詰められたワインレッドの薬液が陽光を浴びてヌラリと輝く。薬瓶の側面のコックを押し込み、そのままデブリシリンジャーへと装填した。
〈Deep Dose……‼〉
デブリシリンジャーが赤く発光し、その先端部からマグマの様な深紅の噴霧が迸る。それがまるで火砕流の様にワールドラーグの全身を駆け回っていき、その外観を大きく変えていった。
全身のケーブルラインは霊薬と同じワインレッドに染まり、手足・胴体の各部にもマグマの様なオレンジの増加装甲が施されている。一番変化が著明なのは背部で、蝙蝠の羽にも似た鋭利な刃——否、翼が装備されていた。
〈…To Be Sick…‼〉
「ジェイクさん……!」
「言ったろ。まだ、終わりじゃないってな……」
ディライトの装甲越しにも伝わる程の高熱を発しながら、ジェイク———『ワールドラーグD2』がゆっくりと歩を進めてきた。
◇◇◇◇◇
「さて……どこから説明したものかな」
アイリスの対面に座りながら、アトラークが気障たらしくワインをくゆらせる。テーブルには相も変わらず贅を尽くした料理の数々が並べられているが、口にする気は全くない。アトラークとしてもこちらを歓待する気はなく、自らの持つ権力を誇示してこちら側を委縮させる意図があるのだろう。そのままテーブルを蹴倒してやりたい衝動に何度駆られたか分からないが、両脚が椅子に手錠で固定されている為、それも無理な話だ。屈辱に歪むアイリスの顔を見遣りながらアトラークがやれやれと肩を竦める。
「まったく、強情だね。僕たちは敵同士じゃないと分かってくれれば、君にそんな事をしなくて済むのだけれど?」
「バカを言わないで。デブリーターなんて組織を作って、多くの犠牲者を生み出してきた人間と協調する気なんてないのよ」
アイリスが強気に言い返す。何をされたとしても、この男の作り出した組織が多くの人々に不幸を齎してきたのは消せない事実だ。兄弟の間を引き裂かれたヴォールク兄弟や結果的に暮らす場所を失ってしまったカラバの住人たちに起こった悲劇をアイリスは忘れる事はない。しかし、怒りの視線に晒されながらも、アトラークは不遜な笑みを崩さなかった。
「仕方がない事さ。人に怪物の力を与える霊薬——『デブリドラッグ』とそれを用いた『デブリーターシステム』。これらを本格的に運用する為には、多くの
「…臨床……?あれのどこが———!」
「文字通りの意味だよ。全てはこの病める世界……デブリスの脅威に晒され続ける世界から人々を救済する為の……謂わば
救済。治療。そんな言葉に似つかわしくない程に、アトラークの顔は陶酔という薬に浸っている様だった。
◇◇◇
「ハッ、こいつはすげぇや。もう兵器って域を超えてやがるぜ」
クリーデンスという男の人間性は気に入らないが、それでも相変わらず仕事に関しては無駄に信用できる。新たな形態『ワールドラーグD2』が一歩を踏み出すごとに周囲の空気を一気に焙らせ、足元から土や草花が焦土となって消えていく。正しくワールドラーグの由来となった、焦熱の大地に暮らしていた悪竜そのものだとジェイクには思えた。
「クソッ……!待ってよジェイクさん!俺は———!」
「おい憶えとけ小僧。『待て』ってのは、戦場で一番言っちゃいけない言葉の1つだぜ」
今のワールドラーグの様子にただならぬ様子を覚えたのか、ディライトが制止の声を上げた。確かに体の奥底の部分がまるで高熱のマグマに晒され続けている様な気分になっているが、それでもジェイクの意志は揺らがない。元よりそんな心構えでは戦場に立つ資格などない。全ては堕ちゆく世界の為に———。胸中に唱えると、再びサイドワイバンを拾い上げ、一気に振り抜く。ワールドラーグD2の放つ熱気の余波を受け、その刀身が勢いよく燃え上がった。
「さぁ、今度こそ終わらせてやる……」
揺るぎない宣言と共に、ワールドラーグD2が地面を蹴立てて加速した。新しく追加の装甲が施されているにも拘わらず、その速度はこれまでのものとは比較にならない。まるでジェット噴射を噴かしたかの様な速度でディライトへと一気に肉薄したワールドラーグの火炎剣が猛烈な袈裟斬りを叩き込む。咄嗟に腕を引き上げてガードしたディライトだったが、刃はそれすらも弾き飛ばして装甲を一気に切り裂いた。
あの少年は仮面の下でさぞ驚愕の表情を浮かべている事だろう。最大の防御力とパワーを誇る形態がいとも簡単に破られたのだ。どれほど個人の力量が上がろうとも、本質はディライトの持つ能力に依存しがちで、それが破られると大きく動揺を晒す事になる。その未熟さは相変わらずという訳だ。
だが、戦場に立つ以上は互いの立場に関係なく、同じ戦闘単位の1つに過ぎない。であるならば、ジェイクにも容赦などという概念は存在しない。体勢が大きく崩れたディライトの胸板を思いきり蹴り飛ばし、後方へと吹き飛ばした。
本物の竜が放つドラゴンブレスは、石造りの巨大文明ですら3日で滅ぼす程の力を秘めているという。それには及ばないものの今のワールドラーグの攻撃は特区の巨壁ですらも一撃で破壊できるだけの力がある。最硬強度を誇るアダマンタイトと言えども、耐えられはしないと思うが、ディライトの能力はまだまだ底が知れない。吹き飛ばされたディライトは住宅跡へと突っ込み、巻き上がった砂塵によってその姿が見えなくなっている。油断する事なく、ワールドラーグがゆっくりと歩を進めるが———。
〈フリーズダウンスクラプター!レイザードナイツ‼〉
「チッ!やっぱりくたばってなかったか……!」
「そう簡単にやられると思うな!アンタへの特効薬はこの形態だ!」
建物を突き破り、水属のディライトが上空へと跳躍した。左腕のノズルブラスタが開き、形成された氷塊がまるで砲弾の様な勢いでワールドラーグへと向けて放たれた。
だが。
「甘いんだよ」
ワールドラーグは回避もせずに、その場で悠然と佇む。氷弾はそのままワールドラーグの体を押し潰そうと迫るが……それが果たされる事はなかった。その体から発する強烈な熱気に触れ、氷は一瞬でその形を失い、跡形もなく消え去ってしまったからだ。
「そんな……⁈」
レイトが驚愕する。炎の属性を持つ敵に対しては、それの対象属性——この場合は水属性で挑むのがセオリーだったが、目の前の敵にはそれが通用しない。ディライトは尚も銃と左腕の双方から水弾を発射するが、全てはワールドラーグへと到達する前に搔き消されてしまった。
「セオリー通り……悪くはねぇぜ。教え手がいい証拠だ。…だがな、それだけじゃどうしようもねぇ事はあるんだよ」
エレメントの対称性と優位性の関係は、常に固定な訳ではない。あまりにも激しい炎の前では水属の優位は崩れ去る事もあるのだ。精々いい勉強代だと思え……とほくそ笑んだワールドラーグの体が勢いよく跳躍した。ディライトは咄嗟に腕を伸ばしたスイング移動で回避するが……。
「だから!セオリーじゃどうにもならねぇと言ってんだろっ‼」
跳躍したワールドラーグの体が回避したディライトへ向けてグイと傾き、そのまま勢いを殺す事なく再び迫ってきた。両腕の剣がディライトを切り倒し、地面へと叩き伏せる。そんな様を満足そうに睥睨しながら……ワールドラーグの体がそのままゆっくりと上空へと飛翔した。
そう、『飛翔』である。
背部に備え付けられた翼は伊達や酔狂などではない。今のワールドラーグD2は本物の竜さながらに空を自由に舞う事が出来るのだった。
体に感じる浮遊感と同時に、まるで世界を丸ごと掌握した様な優越感をひとしきり確かめ、ワールドラーグはデブリシリンジャーのブランジャーロッドを押し込んだ。
〈Deep……DRAGON FIRE…INFUSING…!〉
体に貯まる熱エネルギーがリチャージされ、ワールドラーグの両脚へと収束していった。背中の翼を再度閃かせ、轟音と共に更なる上空へと飛び上がる。陽星を背にして自由自在に飛ぶ姿は、正しく空の覇者たる竜そのものだった。十分な飛行速度がついた段階で、ワールドラーグがディライトに向けて急降下を開始した。
ディライトが迎撃の銃火を放つが、それで止まる様なものではない。隕石の如き勢いでディライトへと肉薄したワールドラーグが両脚を振り上げ、延髄斬りの要領でその首筋を蹴り上げた。
キックが直撃した瞬間、ドォン!という爆音と共に激しい火柱がディライトを包み込む。落下速度と蹴り、そして爆発の3連撃を叩き付けられれば、如何にディライトの装甲が堅牢であろうとも無意味だった。
「うあぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!」
全身が炎に包まれたディライトが吹き飛び、地面に2度も3度も叩き付けられてからようやく止まった。あまりのダメージにベルトの安全装置が作動し、その変身が解除されてしまう。
「くっ……クソ……!まだっ———‼」
「全く……呆れるほど諦めの悪い奴だな、お前は」
近づいてくるワールドラーグを尚も睨みつけてくるレイトを睥睨しながら、呆れた様な嘆息が漏れる。この目をどこかで見た事がある……と思った刹那、この少年と出会った時にだと思い至った。
コボルトデブリスに襲われながら、恐怖で腰を抜かしながらも棒切れを掴みながら、諦め悪く挑みかかろうとしたこの少年の姿。骨の髄までデブリスへの恐怖と不条理への諦観が染みついたこの世界の住人達はそうそう持ち合わせていない素質だ、と思ったのだった。自らの“意志”で抗う事を決断した少年を助ける事は、ジェイクの“ルール”には違反しない。だからこそ手を差し伸べたのだったが……些か育ち過ぎだな、とジェイクは苦笑した。
この少年を救い出し、それが結果的に自分達に抗う存在となってしまったのは皮肉以外の何物でもない。ならば引導を渡すのが自分の役目……と剣を向けかけるが、レイトは尚も怯む様子を見せなかった。
柔弱そうに見えても、一度決めた事はここまで譲らないものか、と逆に感心する。それは今後の世界の為にもきっと必要な素質の1つだ……と思い、剣を担ぎ直した。
「この世界を変えていくんだって……お前は言ったな。なら、悪い事は言わねぇ。…レイト、俺と一緒に来い」
「…なっ……⁈なにバカな事を言ってんだよ……。誰がっ……!」
「意地を張るのも大概にしようぜ。デブリーターシステムはこの世に必要なサイクルの1つだって言っただろ。もしこの堕ちゆく世界を救いたいと思うんだったら……俺たちの目的は同じだ」
「目的が、同じ……?…ふざけるなよ……‼」
怒気も露わにレイトが吐き捨てた。
「アンタらの正体は知ってる……!この国の王子が……なんで自国の国民を怪物にして、苦しめる様な真似をするんだよっ⁈」
「…まぁ、確かに褒められた手段じゃないわな。だが、俺たちには手段を選べる程、時間も選択肢も多い訳じゃねぇ」
ジェイクが周囲をグルリと見渡した。荒涼とした大地に広がる、息づく者が何もいない不毛の土地。
「知ってるか?ここもかつては食糧生産を担っていた特区の1つだった。だが、デブリスの襲撃を受けてたった一晩でこのザマさ。今はペンペン草も生えやしねぇ。この世界には、こんな場所がゴロゴロしてる……」
どれだけの防壁を築こうとも、どれだけ錬真技術が発達しようとも、デブリスという脅威が健在である以上は必ず一定数で犠牲になるものは避けられない。明日が確実に来る保証など何処にもなく、この地はベアカンファーやビルハミル、そしてリンネの明日の姿かもしれないのだ。
「西部の開拓事業も進んじゃいるが……焼け石に水だろうな。人が生きていける場所は少しずつ、だが確実に切り取られて消えていく。そうならない為には……奪い取って来るしかないんだよ、この力でな」
◇◇◇
「この国の窮状を知ってるかい?湿原や岩場ばかりが多いシドニアは実りに乏しい不毛の土地だ。おまけに古くからの因習によって諸侯の権勢が強く、国家としての結束力は相当に弱い。…故に、三国最弱の国などという不名誉が罷り通っているんだ……」
シドニアは元々複数の小国が連なっていた地域で、それ故に纏まりに乏しく、デブリスという脅威を前にしても小規模な争いを繰り返していた歴史がある。それがドランバルド連合結成の折、あくまでも一諸侯に過ぎなかったシドニア家が各諸侯を纏め上げ、今のシドニア帝国が樹立する事となったのだ。
だが、長年続いた因習と対立の歴史がそれで帳消しになる筈もない。王家と神聖教会に権力の多くを集中させる神聖アネスタ皇国や、長年の伝統と武族達の力で国家を統率するトンプソール部族連合と比しても国家としての纏まりに乏しいシドニア帝国は、持っている資源の乏しさもあって三国のパワーゲームに於いては大きく後塵を拝する事となってしまっている。
「嘆かわしい事さ。デブリスという脅威を前にしても、この国の特権階級どもは未だに纏まる事もできない。あの怪物どもによって人の住む場所は益々減り、国家としての力は削がれていくばっかりだと言うのに……。…だがもし、そのデブリスの力を福音と出来るならば……どうだろうね?」
「…福音?それが、デブリーターシステムということ……?」
「その通りさ。世に蔓延るあの化け物どもを資源として活用する。どうせ奴らは腐る程いるんだ、これほど有用な事はないだろう?」
デブリスの体組織を錬真術の資源として活用する事は、随分昔から行われてきた事だ。ライドラッグにせよ、この世に溢れる様々な素材やマテリアルにせよ、全てはデブリスという存在がなければ成り立ちはしない。その点からもデブリーターシステムは既存の技術の発展形と言えるのかもしれないが……。「だからといって!」とアイリスは声を張り上げた。
「あなたの組織が一体どれだけの人々を犠牲にしてきたと思っているの⁈デブリスに対抗する為とは言え……そんな事が許される筈がない‼」
「『錬真術の叡智は民の為にあれかし』……という奴かい?ご立派だねぇ。だが大儀の前では小さな犠牲は仕方のない事さ。これから僕たちが被る血の量に比べればそれくらいは……」
血の量。あまりに酷薄なその言葉にアイリスの全身に怖気が走った。一体この男は何を言っているのだ?デブリスに対抗する為の力ではないと言うのだろうか?彼女の心境を察した様にアトラークの愉悦の表情がより強くなった。
「デブリスと戦う為だけのデブリーターシステムだと思うかい?とんでもない!目的は更に大きなものさ」
大仰に手を広げ、アトラークが部屋の端へと歩んでいき、壁際にかけられた三国同盟の地図へと手を伸ばす。
「今はデブリスの脅威に縮こまり、この三国で資源を分配し合っている状態だが……いずれはそれも尽きるだろう。ならばそれよりも早く、デブリス共の進出よりも早く外の世界へ飛び出し、他国を併合してどこよりも強大な国家を建造する!それがデブリーターが作られた真の目的なのさ‼」
今回はここまでです。少し短いですが、前回が長かったので。
第2章『昏迷世界編』は、謂わばデブリーター編とも言える章でして、ずっと長らく目的が不明だった彼らの目的が明らかになりました。
今までチマチマと書いて来ましたが、シドニアという国は湿地が多く、農業に向いてたり、人が住める場所が少ない土地柄です。ドランバルドという枠組みの中で何とか命脈を繋いできましたが、それもいつまでも続くと言う保証はない……。アトラークの中にはそんな恐怖があるのだと思ってます。
次回でこのサーガ14は終わりです。ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
それでは、お知らせをどうぞ。
前回少し言っていた新作についてです。
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遠き宇宙の彼方より、大いなる厄災がやって来る。
『仮面ライダーGENESIS CHRONICLE』
……鋭意製作中!