仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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どうも一週間ぶりです。
前回もそうでしたが、今回も始めた時からずっとやりたかった回です。

某監督へのリスペクトを込めまして。
少し長いですが、ではどうぞ。



Saga15 祝福~僕たちが作ってくストーリー~②

◇◇◇◇◇

「王家に仇なす者は……我らが全て討ち滅ぼす‼」

 ヘヴンラウンズの兵士達が変身したジェヴォールトデブリーター達が、群れをなして王家に逆らう者たちへ襲い掛かっていく。相対する者が例え武器を持たぬ国民であろうとも彼らには関係ない。左腕の刺突剣や口腔の牙をギラリと輝かせ、集団で襲い来る様はさながら黒い波濤の様だった。

 

 だが、それでもディライトは怯む事はない。少女との約束がある。ならば、ここで臆する理由はどこにもなかった。迫りくる怪物の一群に向って駆けだすと、高らかに跳躍し、鮮やかに飛び蹴りを見舞った。蹴撃を受けたジェヴォールト数体が呆気なく吹き飛ばされた。更に止まる事なく、周囲を取り囲む数十体の怪物兵士達を相手取り、ソードモードに変形させたトランスラッシャーを振るい、華麗な回し蹴りを放っていく。

 

「悪いけど急いでるんだ……。遠慮なくいかせて貰う‼」

 光のアーマムエレメントから鋭い輝きを放たれると、向かってくる数体のジェヴォールトが痺れた様に動きを鈍らせる。ミスリックナイツに与えられた特質はデブリス細胞のみをピンポイントで攻撃可能である事。ならば、どれだけ荒っぽく戦ったとしても兵士達へのダメージは最小限で済む。そう考えられるくらいにはまだ頭の芯の部分は冷静を保っているが、かと言って手心を加えるつもりもさらさらない。

 

 ——せめて邪魔をする気が起きなくなるくらいには、叩きのめしてやる!

 

 過激な事を思考しつつ、迫りくるジェヴォールト達を一体一体確実に地に叩き伏せていく。レイトの思いに呼応する様にトランスラッシャーの刀身が光のエレメントを帯びて輝いた。恐るべき威力と速度を獲得した剣戟が怪物兵士達の装甲を軽々と引き裂き、黒霧と火花が辺り一面を激しく明滅させていった。

 

〈エブリッション!ヴァリアントフラッシュ‼〉

 

 ライトライドラッグのエネルギーが再チャージされ、文字通り光の速度で加速したミスリックナイツが迫りくるジェヴォールトの一塊にライダーキックを放った。巻き起こった爆発的な閃光を浴びて、ディライトのシルバーの装甲が美しく輝いた。

 

 だが、ジェヴォールト達もただやられっ放しで終わる訳にはいかない。増援の要請を受けて更に増加した怪物兵士が、ディライトを取り囲み、ジリジリと距離を詰める。このまま逃げ場を失くして文字通り針の筵としてしまおうという魂胆なのだろうが、ディライトは冷静にベルトのライドラッグを装填し直した。

 

〈ファイア!アイアン!ファンタスティック!闘魂のレシピ‼〉

「再錬成‼」

〈ヒートアップファイター!メタレイズナイツ‼〉

 

 ディライトの体が、炎と鋼鉄のファンタスティックヒットへと姿を変えた。瞬間、燃え滾る闘魂が爆発的なエネルギーとして放出され、周囲一帯を焼き尽くした。体中を炎に包まれて狼狽えるジェヴォールトに更に炎を纏ったディライトの拳が次から次へと炸裂していく。耐え切れずに数体のジェヴォールトが焔の華となって散っていく中、爆炎に包まれてもなおメタレイズナイツが悠然と歩み寄ってきた。全身を炎に包まれ、それでも揺るがぬその姿はさながら憤怒に猛る魔人と言ったところか……。

 

「ひっ……怯むなぁっ!敵はたった1体なんだぞぉっ‼」

「はぁ……しつこいっ‼」

〈ヴァリアントブレイク‼〉

 炎のライドラッグをアックスモードに変形させたトランスラッシャーへと装填する。幅広の刃に三日月状の炎が纏わりつくと、ディライトがそれを前方に素早く投擲した。ブーメランの様に回転しながら飛翔した手斧から発生した炎の渦が一帯のジェヴォールトを纏めて飲み込んで行った。

 

「もう一丁‼」

〈エブリッション!ヴァリアントファイア‼〉

 

 ディライトの拳に周囲の炎が吸い込まれ、エネルギーを増していく。そのまま、ひとまとめにされた怪物の一群に向けてディライトが勢いよく正拳突きを繰り出した。噴出された劫火が拳状のエネルギーとなってジェヴォールト達を纏めて吹き飛ばした。炎の拳はそのまま止まる事なく、砦の頑丈な正門に炸裂して打ち壊した。

 

 ——よし、道が開けた‼

 アイリスへと通じる道。ディライトは迷うことなくその穴の中へと飛び込んで行った。

 

 扉を潜った先は、全面に大理石が貼られた瀟洒な玄関ホール。だが、そんな雰囲気をぶち壊しにする様に、ここにも黒犬の大群が爪牙を剥き出しにしてひしめき合っていた。「行かせるなぁ!何としてもここで仕留めろっ!」と、階段の上から、そして吹き抜けの廊下にも取り付いているジェヴォールト達が一斉に左腕のニードルガンを放ってきた。

 

「チッ……邪魔するなって言ってるだろっ‼」

〈ウインド!オブシディアン!ファンタスティック!飛揚のレシピ‼〉

「再錬成‼」

〈ブロウアップニンジャ!ウィンディアナイツ‼〉

 

 ディライトが黒と緑の姿——飛翔能力を秘めたウィンディアナイツへと変わった。背中のエレメントタービュラーを翼の如く靡かせ、ディライトが疾風の速さで跳躍する。レイトの声に呼応して飛んできたトリーガアローをトランスラッシャーへと合体させ、上層へと通じる階段へと飛び込んで行った。

 

 この更に先にアイリスがいる。逸る心を暴風の如く迸らせ、両腕に握った両刃刀を竜巻の様な勢いで振るっていく。

 

〈ヴァリアントハリケーンスライサー‼〉

 

 トランスラッシャーが咆哮し、その刃に風のエレメントエネルギーが充填されると同時に、ディライトがウィンディアジャンプを全開で発動して飛翔した。立ち塞がるジェヴォールト達は余す事なく烈風の刃で引き裂かれ、四散していった。

 ここまで既に40体近いデブリーター達がこの仮面の戦士1人によって薙ぎ倒されてきた。怪物達がその面相の奥底で戦慄した様に息を呑むのが伝わってきた。

 

 ——これが、勇者……。

 ——これが、仮面ライダーディライト……‼

 

 兵士達の畏怖を一身に受けて、ディライトの複眼が炎の中で凄絶に輝いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 事前に客として砦へと招かれていたイーヴァが、ラヴァンツェイル内の簡単な情報を教えてくれていた。婚前式が行われる屋敷の侵入経路は前方の正面玄関と、更に後方に上層階へと直接エントリーできる階段があるとの事だった。特に示し合わせるでもなく、ディライトは前方から、ソーディアは後方から侵入しての挟撃を目指すものと思われたが……。

 

〈ラフ・アブレーション!テリフィング・ラフ・ストラッシュ‼〉

 ——魔剣開放、我流・ドリフト‼

 

 姿勢を低くして、地面を這う様に猛烈な速度で走り回るソーディアの刃が群がるジェヴォールト達を捕えて、次々と血煙へと変えていく。どれだけの敵を切り倒そうとも、その切れ味も速度も落ちる事なく、寧ろ鋭さを増していく。その様は正しく伝説で語られる魔剣そのものだと言えた。

 

 それでも主に命じられたからには、怪物兵士共も死に物狂いでそれに応えなければならない。狂った様に吠え猛りながら、ソーディア達がいる中庭に次から次へとジェヴォールトデブリーターが襲来してきた。

 皇太子の命令は、侵入者を1人残らず殺せ、だった。ならば、先ずは生身の人間であるヒュペリオン達や戦闘力など無いに等しいリンネの住人達を先んじて殺ってしまおうという腹なのだろう。戦術としては正しいかもしれないが……無法者の自分達はともかく、この国の民であるリンネの住人でさえ屠ろうとする、敵の心根のどす黒さには反吐が出そうになる。

 

「ったく、数ばかりゴチャゴチャと……。ゴキブリかテメェらは」

 群がるジェヴォールトを睥睨しながらソーディアが呟いた直後、猛烈な爆発と共に怪物達が吹き飛ばされた。

 

「何をしている?お前はレイトと合流して先に行け!」

「ゼオラ……⁉しかし、お前だって体調が万全じゃ……」

「舐めるな。こんな志もない奴らにやられるほど、ヤワな鍛え方はしていない」

「そうそう!それに私たちもいるしっ!」

 そう自信満々に答えたのは、リヤカードリフターに合体したユニオに跨るマヤだった。身の丈6ハンズはある馬上から敵に向けて矢を射かけ、時には爆弾を投擲して吹き飛ばしていく。

 

 更に、

「ハイル君、私たちの心配なら無用よ。リンネの人達は髪の毛一本傷付けさせはしないから」

「そうですよ。私たちがボスの期待に応えなかった事がありました?」

「先陣切ってこその頭だろ?さっさと大将首とって来いってんだ!」

 サクラやジョシュ、エミリといった部隊の隊長達が先頭に立ちながら、他の団員達も各々自分の出来る事に努めている。かつてない大舞台に誰もが色めき立ちつつも、その目は同じ一点を見つめて輝いている様だった。

 

 全員が仲間の為に、全力で命を張る。そんなハイルの理想が顕現した家族(ファミリー)たちを満足そうに見つめ、へッとソーディアが自嘲気味に笑った。

 

「ったく……頼もしくなりやがってよ……。だったらなぁ!死ぬな、這いつくばってでも生きろ!必ず、勝って笑うぞ屑鉄どもぉっ‼」

「おうよっ!」

「って誰が屑鉄っスかぁっ⁈」

「絶対アンタより先に死んでやるもんかバカ大将‼」

 仲間達の声を一身に纏って、まるで帆に風を受けて快走する船の様に、ソーディアが加速した。刀身のアブレイシブスターターを3回コッキングすると、刀身に破邪のエネルギーが最大までチャージされた。

 

〈フィニッシュ・アブレーション!テリフィング・フィニッシュ・ストラッシュ‼〉

 ——魔剣開放、真我流・ニトロフルスピード‼

 

 人の身では放つ事ができない、真の剣身一体となった今のハイルだからこそ放てる最大最速の居合斬りが10体近いジェヴォールト達を纏めて斬り飛ばした。更に空気が刃に弾き飛ばされる事によって生じた衝撃波によって、更に後方の敵も纏めて薙ぎ払われていく。

 

「マヤぁっ!アレをもう一発ブチこめぇっ‼」

「任して、リヤちゃん‼」

 

 剣戟によって生じた真空の穴へと飛び込み、みるみる姿を消していくソーディアを見送りながら、マヤはユニオンスティンガーのハンドル周辺の機器類を操作する。瞬間、リヤカードリフターの鋏が開放され、中から巨大な砲口がその姿を現した。リヤカードリフターに荷台部分に収納されたライドラッグのエネルギーがチャージされたその砲身を、屋敷の最上層部———鳥籠の如き尖塔へと向けた。

 

 フルエレメント・キャノン。

 5つのエレメントライドラッグのエネルギーを凝縮され、巨大な光の奔流となって発射された。打ち砕かれた尖塔が轟音と共に崩れ去り、中庭へと———正確にはそこにひしめくジェヴォールトデブリーター達の頭上へと降り注いできた。

 傲慢の象徴の様に周囲を睥睨していた塔が崩壊し、押し広げられた砂塵と衝撃がラヴァンツェイルの穢れなき白亜の石壁を穢していく。それはまるで来るべき崩壊の瞬間を暗示しているかの様だった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

「ひっ……ひいぃぃぃっっっ‼」

 鼓膜を聾する轟音と共に、ラヴァンツェイルの砦全体が強く揺さぶられた様だった。壁がたわみ、天井の梁が軋む音が大広間中に響き渡り、アトラークが何度目になるか分からない悲鳴を上げた。

 

 剣同士がぶつかり合う戟音に腹の底から絞り出された様な人の叫び。それら戦闘の音は今も外から鳴り響き続けている。式を彩っていた楽隊達は部屋の隅で身を寄せ合い、渦中が過ぎるのを今か今かと待っている様だった。王妃のシンシアは窓辺に近寄るのは危険と心得つつも、外の様子が気になるのかしきりにバルコニー周辺を落ち着きなさそうに歩き回っている。

 対してガルシア皇帝は流石と言うべきか、こんな時であっても泰然とした様子を崩さず、椅子に座り続けている。軋み音が響く度にその場で蹲って震えるしかできない息子とは大違いだ。

 

「失礼します。戦況についてご報告致します」

 広間の扉が開き、黒衣の兵士が跪いた。扉が開く音にすら慄いていたアトラークが、僅かに期待する様に顔を上気させる。

 

「おお、やったか⁉反逆者どもを打ち滅ぼしたかっ⁈」

「…はっ……それが……」

 だが、兵士はそれとは逆に苦み走った様な、恐れ戦いている様な表情を浮かべ、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「…敵は第二防衛ラインを突破……この屋敷内に既に侵入を果たしています。デブリーター部隊も既に三分の一が撃滅され、戦闘不能だと……」

「なっ…………⁈」

 アトラークの細面がいよいよもって青ざめた。目を飛び出さんばかりに剥き、口からはまるで末期の様なゴヒューゴヒューという息が吐きだされている。

 

「…バカなっ……!何故だ何故だ何故だぁぁぁぁっっっ‼何故、私のデブリーターがっ……あんな下賤なストラド共を止める事もできないっ⁈」

 

 地団駄を踏んで猛り狂うアトラークを意に介さず、アイリスは広間の大扉をジッと見つめていた。

 

 ——もう直ぐレイトが来る……。

 ——もう直ぐあの扉を破って、私を連れ出してくれる……。

 

「…何を……何を笑っているんだキサマァァァッッッ‼」

「きゃあっ‼」

 怒りに顔を歪ませたアトラークがアイリスの歩み寄り、平手打ちを喰らわせた。床に倒れ伏す彼女の腹部目がけて更に靴先がめり込む。かはぁっ、と少女の口から空気の塊が漏れ、あまりの痛みに眦から涙が零れそうだった。それでもアトラークは追撃の手を緩める事なく、アイリスの体を蹴り込んでくる。

 

「やぁっ……!やめてっ……やめ———‼」

「うるさいうるさいうるさいっっ‼せっかく、見初めてやったというのこのバカ女めっ!男なら誰でも腰を振るのかっ⁉これ以上調子に乗るなら、その体に恐怖と服従を刻み込ませて———!」

 

「止めぬかアトラーク‼」

 突如、静けさを保っていたガルシア皇帝が雷鳴の如き怒声を上げ、アトラークの胴体を錫杖で殴りつけた。またしても「ぅひぃっ‼」と悲鳴を上げて地面に倒れ込んだアトラークをどこまでも冷たい目で睥睨し、「このバカモノめ……」と吐き捨てた。

 

「取り乱して女子どもに手を上げるなぞ……王権に名を連ねる者のする事か‼…で、先程から申しておるデブリーターとやら……あの怪物兵の事だな?あれが貴様の言っていた、『新しいシドニア帝国の未来』という奴か?」

「…は、はい、その通りでございますっ‼我が国の新しい戦力『デブリーターシステム』!今回は婚儀に加えて、是非父上にその能力を見て頂きたく———」

「……っ!…この……大バカモノがぁっ‼」

 頬を上気させたアトラークが父親に縋りつかんばかりに捲し立てるが、再び振るわれた錫杖に横面を張られ、「がふぅっ‼」と声を上げてカーペットの上をゴロゴロと転がる羽目になった。

 

「人をあの様な怪物に変容させる事がこの国の未来だと……?答えよ、アトラーク!民を怪物化させる霊薬が存在している、という噂は儂の耳にも入っておる。根も葉もない出鱈目と思っておったが……まさか、それを主導しているのは貴様かっ⁈」

「な、何が悪いのですかっ⁈このシドニアをより強く、更なる繁栄に導く為に必要な事です!その為なら、下賤な民の命なぞ———」

「黙れ!空っぽの王座に座っておるつもりか貴様は‼民あってこその国、民あってこその王だという事が分からんのか⁉」

 床に伏せてのたうち回るアトラークに、ガルシアが容赦なく雷を浴びせる。怒りに打ち震えながらも、息子を見つめるその目には強い悲しみが浮かんでいる様だった。

 

「…思えば、昔から貴様は臆病であったな。王の位を目指す者が臆病風に吹かれて、民の生活を脅かすなど……恥を知らんかアトラークっ‼」

「…臆病……ですと……?」

「そうだ。それ故にデブリスを、そして他国を過剰に恐れ、あの様な面妖な技術に手を出したのであろうが!人を信じられぬ己自身の弱さを、他の者を虐げる事で忘れようとしている、それだけの事だ‼」

 

「…黙れ……。黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇっっっっっ‼」

「……………っ⁉」

 

 だが突如として激昂したアトラークが倒れ込んだままガルシアの足を蹴り払った。倒れ込むガルシアを、今度はアトラークが睥睨する番だった。その顔に銃器を突き付けながら、アトラークの顔が怒りとも笑みともつかない、狂気じみた色に染まっていく。

 

「臆病だの、弱いだのといつも好き勝手な事を……!僕がこんな思いをしなければいけないのも、全てこの国に碌な軍事力が備わっていないからじゃないかっ‼僕はこのデブリーターシステムで……アンタに出来ない事を成し遂げようとしているんだ。それを邪魔するなら……」

〈Debri-Syringer…‼〉

 アトラークが腕に注射器型のデブリシリンジャーを巻き付け、灰色のデブリドラッグを装填した。

 

「…ここで……アンタを殺す……‼」

〈Arachne…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼…To Be Sick…〉

 

 黒煙に包まれたアトラークの体が、蜘蛛の様な意匠を纏った黒色の怪人ヴェノムアラークへと変質した。背部のマントの様に連なった節足がユラリと動き、ガルシアに向けて次々と繰り出していった。皇帝が慌てて地面を転がって避けるが、脚の先端がマントの端を捕え、そのまま地面へと引き摺り倒される事となった。

 

「ぐおぉっっ……!や、やめぬかアトラーク———‼」

「この期に及んでまだ命令する気かぁっ‼どちらが上か……いい加減、思い知れこの老害めぇぇぇっっっ‼」

 叫びに呼応してヴェノムアラークの多脚が次々と皇帝の体へとめり込んで行った。鋼鉄すら貫く硬質な脚の先端に体中を穿たれ、ガルシアの口からゴフッ……!と血の塊が吐き出された。

 

「…ア……アトラーク……この……バカ者め……」

 弱々しく絞り出されたその声が、まるで最後の魂の抵抗の様だった。ヴェノムアラークへと伸ばされた血塗れの手は空しく空を切るだけに終わり、そのまま力なく崩れ落ちた。虚ろなガラス玉となった眼窩からも分かる、明らかな死。だが、それでもなおヴェノムアラークは狂った様に哄笑し続けるだけだった。

 

「ハハハハハハハハハッッッッ‼さようならぁっ!愛していましたよ父上ぇっっ‼」

「…なんて……なんて事を……」

「必要な儀式という奴ですよ母上ぇっ‼この国を更なる強国へと育てていく為のねぇっ‼」

 

 ヴェノムアラークの脚がまるで制御を失ったかの様に暴れ出し、届く範囲の調度品を次々と打ち壊していく。皇太子の乱心にいよいよ広間の恐慌は最高潮に達した。楽隊や給仕係が扉を破って次々と外へと逃げ出していく。そんな様をヴェノムアラークは満足そうに眺めると、不意にアイリスの方へと顔を向けた。横に連なる赤いガラスの目玉に射竦められ、アイリスの体中に恐怖が迸った。

 

「分かるかいアイリィ……これが、僕たちの目指す世界の……最初の一歩なんだ……」

「…いやっ……!やめてっ……!来ないで……」

「…まだ理解できないのかっ……。…まぁ、いいよ。心を操る毒も作り出せない訳じゃない……」

 逃げなければいけないと理解しているのに、まるで腰が抜けた様に———否、体と心を繋ぐ神経が断裂してしまったかの様に、体が全くいう事を聞いてくれなかった。首を振ってジリジリと後退る事しかできないアイリスを嗤いながら、ヴェノムアラークの脚がゆっくりと持ち上がっていき———。

 

 直後、ガシャン!という音が響き渡り、ヴェノムアラークの背部に陶磁器の壺が叩きつけられた。意に介した風もなく「あぁん⁉」と蜘蛛男が背後を振り返ると、怒りに顔を紅潮させたイーヴァが仁王立ちしていた。

 

「私のっ……!私の娘に手を出すな、このバケモノ‼」

「貴様ぁっ……」

「目指す世界?笑わせんじゃないわよ!夫婦ってのはね、赤の他人同士が同じ未来を夢見て一緒に走っていく、そんな尊い関係なのよ!アンタみたいな度量の狭い、底抜けのチキンヤローなんかに誰が娘を渡すもんですか‼そんなに嫁が欲しけりゃ———」

「……っ!お母さん、ダメ……‼」

 

「お似合いの虫けらとでも結婚なさい、このクソ野郎‼」

 叫びながらイーヴァがドレスのひだから筒状の爆弾——吸着弾『鉤蜂』を取り出して、ヴェノムアラークに向けて投げつけた。合計3発の爆弾が張り付くと同時に轟音を立てて起爆し、ヴェノムアラークを黒煙の中へと飲み込んで行った……。

 

「…王にこの様な暴挙……。先に死にたいらしいなぁぁぁっっっ‼」

 だが、蜘蛛男の体には傷1つ付いていなかった。全身から憤怒のオーラを漂わせ、ヴェノムアラークが左腕のレイピアをイーヴァ目がけて繰り出した。だがイーヴァは咄嗟に横に転がって躱すと、テーブルの下を潜り抜け、散乱していた食器やカトラリーを次々と投げつけていった。

 

「お母さん‼」

「アイリィ、これを!」

 ヴェノムアラークの猛攻から逃れつつ、イーヴァが何かを投げつけてきた。狙い違わずアイリスの足元に落着したそれはアイリスがいつも腰に付けていたベルト——小型の錬結炉と数本のライドラッグだった。中心部の炉芯に彫られたディライトの紋章は、教会に聖任されたパラディンの証。それを見た瞬間、アイリスの指が硬直した様に動かなくなった。

 

 ——私がこれを手に取ってもいいんだろうか?

 ——だって、私は何者でもない。

 ——こんなところで、恐怖に竦んでいるしか出来ない、ただの……。

 

「アイリィ!いつまでそうしてるつもりっ⁈」

「…お母さん……」

 いつになく鋭い母の声が、部屋中に響き渡る破砕音の中でもやけにはっきりと聞こえた。

 

「レイト君の言った事は正しいわ。立場は嘘だったかも知れないけど……あなたの心は嘘なんかじゃなかった!今ここで立ち上がってくれた皆の存在がその証拠よ。だからあなたも……最後まで貫いて見せなさい‼」

 

 瞬間、アイリスの心に天啓の様な光が迸った気がした。

 かつてゼオラから言われた言葉。そして、1人罪過に震えながら、それでも唱え続けたお守りの様なあの言葉……。

 

 ——どんな曲がりくねった道でも。

 ——最後まで途切れずにやり遂げられたなら。

 

 ——それは、本物の道……。

 

「何をゴチャゴチャ言ってるんだ貴様らぁっ‼」

 ヴェノムアラークの多脚が躍動し、大理石の床を抉り飛ばした。広範囲に飛び散った細かい石材が体を打ち据えられ、イーヴァがその場に転倒した。好機、と見たヴェノムアラークはそのままイーヴァに覆い被さり、左腕の細剣をその喉元に突き付けた。

 

「新しい世界でのルールを教えてやろう……。王に逆らう者は……全て処刑だぁぁぁぁっっっ‼」

 怪物の面相の奥底で狂笑を放ちながら、ヴェノムアラークの刃がイーヴァの体を穿ち抜く———と思われた瞬間、猛烈な速度で飛来した鉄杭がその横面を抉り、蜘蛛男は広間の壁へと叩きつけられる事となった。

 

 そのまま壁へと突き刺さった鉄灰色の槍———黒帝槍アイロンピアーズ。

 

 まさか……!と槍が飛来してきた方向に目を転じると、そこには腰に錬結炉を巻き付けたアイリスがゆっくりと立ち上がっていた。

 

「貴様ぁぁっっ……‼」

「…そうね、どうかしていたわ……。あなたの望む世界の住人なんて……真っ平ごめんよ」

 

 ——悪い夢を見ていた気がする。

 ——怪物の王に攫われた、恐怖に震えるお姫様。

 ——きっとそれが、偽る事のない本当の自分。

 ——でも、自分が目指した道はそんなものだっただろうか。

 

「…私は、アイリス・ルナレス。パラディンでなんかなくても……」

〈BLADE…LOADING……!〉

 

 ベルトにライドラッグを挿し込むと、無機質なガイダンス音声と共に中心部が輝き、1本の眩い銀剣———神聖剣パーラケインがローディングされた。長い間、刻苦を共にした愛剣を軽く振りつつ、刃をドレスの腰辺りに宛がうと、そのまま足元まで一気に切り裂いた。ヒールも脱ぎ捨て、腰ほどまで裂けたスリットからスラリとした白い脚を覗かせながら、それでもアイリスは堂々と佇んでいた。

 

「覚悟しなさい、ヴェノムアラーク。ここから先は、私のストーリー……‼」

 

 凛々しく、堂々と、聖鐘の様な高らかな宣言と共に、アイリス・ルナレスが地を蹴立てて戦場へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 このラヴァンツェイルも元を正せば、国家間戦争時代の砦の1つだ。だから内部は侵入者を進行を阻む為に複雑に入り組んだ構造になっている。おまけに中に入ったとしても、周囲は黒犬の群ればかり。ハイルでなかったとしても、いい加減ため息の1つくらい吐きたくなるというものだ。

 

「いい加減、お前らの面も見飽きた……。一気に押し通らせて貰うぜ‼」

〈弩張剣伐!ソーディア、ツヴァイハンド‼〉

 

 裏庭の温室から侵入を果たしたソーディアに、ジェヴォールト達が一斉にニードルガンの掃射を放ってきた。だが、ツヴァイハンドに変化したソーディアの堅牢な装甲はその全てを弾き返してしまう。慄然とするジェヴォールト達にソーディアが仮面の奥底でニヤリと笑うと、不意に右手のデウスカリバーを怪物兵士に目がけて全力で投げつけた。剣先に刺し貫かれたジェヴォールト数体が纏めて吹き飛ばされ、周囲を巻き込んで一気に爆砕する。

 

 こんな狭いところでギュウギュウに隊列を組んでいるからだバカめ、と内心で呟く。近年、ヘヴンラウンズの急速な戦力増加が進められているという噂は裏社会にも入って来ていたが、デブリーターの兵士として使う為だったのだろうなと思えた。

 

 だが、どれだけ頭数を揃え、王家への忠誠心を植え付けようとも、兵士としての練度がまるで伴っていない。あの皇太子の事だから徹底的な恐怖支配を強いていた可能性もあるが、それで出来るのは短期的に育成した格好だけの兵隊ばかりだ。

 

「確信した。やっぱり頭って柄じゃあねぇな、バカ皇子‼」

〈フィニッシュ・アブレーション!テリフィング・フィニッシュ・バニッシュ‼〉

 ——今すぐその面を破りに行ってやる。

 ——魔剣開放、真我流・ウィリーチャージ‼

 

 ソーディアの左肩と腕のシールドが合体し、一対の巨大な槍——否、破砕槌『デウスブリーチャー』へと変わり、その先端がジェヴォールト達に向けて放たれた。城門を破壊する攻城兵器の名に恥じぬ威力の拳撃が怪物兵士の群れに直撃し、ガラスの天井を破って吹き飛んでいった。天に穿たれた穴の先———城の周囲を取り巻く渡り廊下を見つめて、「あそこを行った方が楽そうだな……」と呟くと、そのまま天に向けてその体を跳躍させた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

〈ランド!アダマント!ファンタスティック!豪傑のレシピ‼〉

「再錬成」

〈シェイキングチャンピオン!ランドマンナイツ‼〉

 

 ディライトの中でも最大のパワーと最硬強度を誇る形態の拳が壁を破壊し、その向こうのジェヴォールトデブリーターごと粉砕した。大理石の欠片1つ1つがディライトのモーフィングパワーに触れ、無数の鉄杭となって階段ホール全体に展開していた兵士達に纏めて殺到し、爆砕していった。変身を解除され、地面へと横たわる兵士達を飛び越え、ディライトはその先の渡り廊下へと飛び出した。ランドマンセンスで大広間の場所は捕捉し続けている。ここを抜けて最後の昇降ホールを抜ければ目的地はすぐそこだった。

 

 だが、敵もそう簡単には行かせてくれないらしい。ドアを開け放った瞬間、猛烈な勢いで飛来したバスタードアークの矢が壁に深々と突き刺さった。

 

「止めろぉっ!何としてもここで食い止めるんだっ‼」

 

 渡り廊下の向こう側から十数体のジェヴォールトデブリーターが群がり、大弩弓をこちらに構えていた。次の瞬間には、石壁すら穿つ大矢がディライトに向けて一斉に射出された。遮蔽物もなく避ける程の広さもないここではディライトに逃げ場はない。ドゴォン‼という破砕音と共に、ディライトが濛気の底へと沈んでいった。ジェヴォールト達は「やったか⁉」と快哉を叫びそうになるが……。

 

〈デンキショックウォーロック!メイジングナイツ‼〉

 

 ファンファーレの様な叫びが響き渡り、次の瞬間には目が眩む程の燐光が廊下中を塗り潰していった。自身の周囲に絶対無謬の盾メイジングフィールドを展開し、全ての矢を防ぎ切ったディライトがその腕に握ったロングライフルモードのトランスラッシャーを構えた。

 

〈ヴァリアントブリッツブラスト‼〉

 スコープ越しに無数の怪物兵を捉え、引き金を引き込む。銃口から放たれた一条の電撃の帯がやがて無数のレーザーに分裂し、渡り廊下中に展開したジェヴォールト達を一斉に撃ち貫いていった。

 

 爆砕の炎を突っ切り、ディライトが昇降ホールへと踏み込んだ。ここまで来るのに討ち果たした敵の数は既に120体近い。そろそろ終わりが近い筈だが……と思うと、ディライトの前に10体程の敵がスッと音もなく降り立った。

 ジェヴォールトデブリーター・タイプβ。『アサシン』の開発コードで呼ばれるスピードタイプのジェヴォールトが小振りなククリナイフを構えて、ディライトを睨みつけてきた。

 

 譲れないものがあるのはそちらにもあるのだろうが……それはこちらも変わらない。レイトは冷静にベルトの霊薬を再度取り換えた。

 

〈ウォーター!オリハルコン!ファンタスティック!躍動のレシピ‼〉

「再錬成‼」

〈フリーズダウンスクラプター!レイザードナイツ‼〉

 

 ——アイリィは、もうすぐそこにいる。

 ——この世界に来て、心から守りたいと思った人にもうすぐ手が届く。

 ——だから。

 

「そこをどけぇぇぇぇっっっっ‼」

 

 ディライトとジェヴォールトの叫び、そして刃同士がぶつかり合う音だけが、シャンデリアが彩る吹き抜けの空間に強く木霊していった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 ヒュッ!と気が抜ける様な音と共に突進してきたヴェノムアラークの細剣を、横薙ぎに斬り払ったパーラケインで弾き飛ばす。デブリーターの力は生身の人間よりも数段上だが、それも力の入れ方次第だ。見かけのおどろおどろしさに惑わされてはいけない。自らの技量と剣が振るわれた結果のみを信じれば、何も恐れるに足らず。旅立ちの前に散々叩き込まれた戦いの基礎だ。金属同士がぶつかり合う戟音と火花で煌々とヒートアップする戦場においてもアイリスの頭の芯は不思議と冷静だった。

 

 こうして改めて剣を交えてみると分かる。ヴェノムアラークの力と防御力は確かに驚異的だが、それを除いた戦士としての技量は必ずしも脅威とは言えない———と言うか、完全なる素人のソレだ。恐ろし気な怪物の面相の下にあるのは、やはりあの度量の狭い皇太子という訳だ。なぜこれをあそこまで恐れていたのかな、とアイリスは内心で嘆息した。

 

「おのれっ……!ならばこれはどうだっ‼」

「…甘いわ」

 

 ヴェノムアラークの多脚の1本が素早く振り下ろされるのが視界の端に捉えられた。剣で捌きつつ、素早くスウェーバックで範囲外から逃れる。あの8本の脚が一斉に襲い掛かってこられれば脅威だが、アイリスが普段使うウェイビングローブがそうである様に、ああいった兵器は扱うにもそれなりの集中力を要する筈だ。おまけにあの破壊力とリーチでは、インファイトの距離ではそうそう使っては来られまい。相手に考える暇を与えず、かと言って踏み込み過ぎもせずに……。難儀ではあるが、決して超えられないと思える様なものでもない。改めて剣を握り直し、姿勢を低くしてアイリスは再度ヴェノムアラークの懐へと踏み込んで行った。

 

〈SHIELD LOADING……〉

 

 ベルトから五角形の鉄製カイトシールドが出力される。アイリスの戦法には合わなかった為、長らくホルダーの隅で埃を被っていたが、神聖教会で造られた特別製だけあってその強度は一級品だ。ヴェノムアラークの右手の小銃から発射された蜘蛛糸を全て弾き返すと、今度は盾をその顔面に向けて思いきり投擲した。回転しながら飛翔したシールドがヴェノムアラークの顎に直撃し、その上体が僅かに揺らぐ。アイリスは滑り込む様に脚元へと潜り込むと、その大腿を表面に表出したケーブルごと斬り裂いた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁっっっっ⁈」

 血飛沫とパイプ内の循環液が飛び散り、ヴェノムアラークが悲鳴を上げながら膝から崩れ落ちそうになった。思った通りだ。ヴェノムアラークはワールドラーグと比しても上半身に装甲や装備が集中している。扱いやすさを重視しての事なのだろうが、その分の重量を2本の脚だけで支えている為、どうしてもバランスが悪くなるのだ。

 

「…き、貴様ぁぁぁっっっ……」

「たかが人間如きが、とでも思っていたんでしょうけど……そんなだから足元をすくわれるのよ、アトラーク・シドニア」

「だ、黙れぇっ!この程度で勝ち誇るなよ、小娘がぁっ‼」

 

 痛烈に言い放ったアイリスに怒りの視線を向け、再びヴェノムアラークが飛び掛かってきた。確かに傷は浅いらしい。しかも先程の一撃で一応学んだのか、上半身を前傾姿勢にして容易に下肢へと取り付けない様にしている。8本の脚を前面に展開して突進してくる今の蜘蛛男に突っ込むのは確かに危険……だが、手が出せないと思ったら大間違いだ。アイリスは素早く後ろへと下がると1つのライドラッグをベルトに読み込ませた。

 

〈FLAG LOADING……〉

 ベルトが輝き、神聖騎士の紋が描かれた1本の旗———正確には旗槍が出現した。身の丈3ハンズを超える長大な旗槍はその重量も半端なものではない。握った瞬間から体が持っていかれそうになるのをグッと堪え、体全体をバネにして一気に横薙ぎに振り抜いた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ‼」

 

 ビュンッ‼としなる勢いで薙ぎ払われた旗槍がヴェノムアラークの多脚をすり抜けて、その横面を強打した。元はパラディンの意志を誇示したりする時に使う旗だが、そのリーチと重量からこうして武器として使う事も十分に可能だ。またしても体勢を崩したヴェノムアラークに向けてアイリスは再び地面を蹴立てて突進した。

 だが、それに気付いた蜘蛛男が脚を自身の前面に展開した。どうやら防御に徹するつもりなのだろうが———それを見越していたアイリスはベルトにもう1本の霊薬を装填した。

 

〈BLADE LOADING……〉

 

 出力されたのは対人用の非殺傷武器、打壊鉄剣ルーナブラウド。パーラケインを一度腰背部に納めると、ルーナブラウドを両手でしっかりと握り、一気に振り下ろした。殺傷力を削ぐ為に刃渡りを金属製のカバーで覆っているのがこの剣だが、それはあくまで力を微細にコントロールすればこそだ。全身の力を込めて思いきり殴りつければ、その威力は通常の剣など比較にならない。しかもアイリスは正確に多脚の関節部を狙って、剣を打ち下ろしていた。構造的に脆弱になりやすい可動部が剛剣の直撃を受けて、ミシリと微かにひび割れた。行ける……!と確信を強くし、更に一撃、二撃……と連撃を叩き込んでいく。

 

 度重なる剣戟を叩きつけられ、遂に脚の1つが半ばからへし折れ、その機能を停止した。だが、その瞬間がルーナブラウドの最期でもあった。耐久の限界を迎えた刃が圧壊し、飛散した金属片がどこか弔いの花弁の様でもあった。ありがとう、と最期まで使命を全うしてくれた愛剣に心から感謝し、再び背部からパーラケインを抜き放った。

 

 先程の結果から分かった事が1つある。如何に堅牢なデブリーターの装甲であろうとも完全ではない。既存技術の組み合わせである以上は、必ず付け入る隙があるのだ。ならば狙うべきは一点、装甲と装甲の隙間だ。脚を破壊され、動揺するヴェノムアラークの胸部装甲に向けてパーラケインの切っ先が加速———しかけた矢先、その装甲部が急速に展開するのが見えた。中から覗く砲口を見遣り、マズい……!と気付いた時にはもう遅かった。

 

 ヴェノムアラークの胸部チェンバーに内蔵された蜘蛛糸が束ねられ、さながら砲弾の様な塊となって射出された。咄嗟にパーラケインを引き上げて防御するが、それでも消しきれない衝撃がアイリスの全身を叩きのめし、そのまま後方へと弾き飛ばされた。

 地面へと叩きつけられ、衝撃を諸に受け止めた手がビリビリと痺れる。それでも剣を手放さず、体の各部の無事を確かめて立ち上がろうとするが、それよりも早くヴェノムアラークが体にのしかかってきた。アイリスの周囲を逃げられない様に脚で覆い、喉部を極めて顔に細剣を押し付けてきた。

 

「…ぁはぁっっっ……‼」

「舐めた真似をし腐ってくれたな、小娘がっ……!このまま殺してやりたいところだが……啼いて命を乞うなら赦してやろう、どうだ?」

 アイリスの喉輪に絡みついた指がグッと力を増す。息の根を締め上げられ、目前に迫った死の恐怖を受け止めつつも、それでもアイリスは「…する訳ないでしょう……」と、目前の蜘蛛男の双眸をキッと睨みつけた。

 

「…さっきも言ったわ……。絶対に……ごめんよ」

「…舐めるなと言ったろ。殺さんでも二目と見られん姿にしてやるくらいは出来る……」

 そう言って細剣がアイリスの鼻に押し付けられ、先程とは違った恐怖が全身を駆け抜けた。肌に押し付けられた金属剣の冷たさを感じながら、せめて目だけは閉じてやるものか……と覚悟を決めた刹那の事だった。

 

 ドォンッ‼という大音響が大広間全体に木霊し、爆発的に広がった衝撃と濛気がアイリスとヴェノムアラークを包み込んだ。

 

 霞む視界の中、天井を打ち破って巨大な影が大広間に降り立つのが見えた。怒った様に鋏を振り上げる巨影———リヤカードリフターの上にマヤとゼオラ、ユニオの姿が見えた。その着地の衝撃に晒され、ヴェノムアラークの体が微かに傾ぐ。

 

 更にバルコニーに通じる引き出し窓が粉々に砕け散ったかと思うと、乱反射する光を纏って立つ仮面ライダーソーディアの姿が見えた。剣を水平に構えたソーディアが地面を蹴立ててヴェノムアラークへと肉薄すると、その胴部に思いきり剣を叩きつけた。悲鳴を上げて吹き飛ぶ蜘蛛男が壁へと叩きつけられるのが見えた直後、倒れるアイリスの傍らにまた別の影が降り立つのが見えた。

 

 冷たく硬質な金属の装甲を纏いながらも、まるで光輝の具現化の様に輝く1人の人影。その存在を間近に感じた瞬間、アイリスの胸の奥から彩り豊かな感情が奔流となって溢れ出そうになった。まだ霞む視界の中、その目をしかと見つめて、やっと結実した言葉を絞り出した。

 

「…レイト……。…会いたかった……!」

「うん、俺も。…お待たせ、アイリィ」

 

 無機質な仮面に覆われながらも仮面ライダーディライト———レイトがそう言って、確かに微笑んでくれているのが分かった。

 

 




今回はここまで。

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