前回よりも「エッッッ!」度が増しています、お楽しみに。
◇◇◇◇◇
まさかの暴力反対という訴えから提案された、まさかの騎馬戦。
勝負を受けるかどうかは相当議論になったのだが、結局アイリスの鶴の一声で受ける事が決まった。
リバーズの総数が分からない以上、ここで彼らを殲滅しても根本的な解決にはならない……という話だったが、どうにも彼女には別の考えもある様な気がレイトにはした。
だが、それ以上にレイトもマヤもこの珍しいデブリスの真意がどこにあるのか、少し気になりだしていたのも事実だった。
「ルールは3回勝負。先に騎手の鉢巻きを取った方が勝ち。暴力行為はなし。…それで構わない?」
「オーケーダ。ソレジャワハジメヨウ」
騎手役のアイリスが手拭いを頭に巻き付けると、騎馬がスッと立ち上がった。陽光が照り付ける湖畔で両陣営の視線が強くぶつかり合い……。
「第一回戦!」
「クァイシィ(開始)ッ!」
リバーズの嘶きと共に、合戦が開始された。
とは言うものの、レイトが騎馬戦をやったのは小学生の時以来だ。しかも、足を取られる砂浜では予想以上に動きにくい。それはマヤもゼオラも同様で騎馬の姿勢はヨタヨタして一向に安定しない。その隙をついて、河童達の騎馬が一気に突撃を掛け……あっという間にアイリスの鉢巻きを奪い取ってしまった。
「クソ……何という事だ……」
「アイツら、陸に上がっても素早いな……」
『陸に上がった河童』なんて言葉があるが、デブリスである河童達はやはり身体能力は人間よりも遥かに高い。彼ら自身がこの競技を提案してきたという事は、彼ら自身この競技の相当自身があるという事だろう。決して油断していた訳ではないが……。
「…これはちょっと、分が悪かったかもね……」
「ああもう!作戦変更!みんなちょっと耳貸して!」
マヤが何かを思いついたのか、全員にヒソヒソと作戦を伝える。確かにそれなら行けるかもしれないが……。
「…それって卑怯じゃ……?」
「暴力じゃないし、ルールにはどこにも違反はなし。このまま負ける訳には行かないんだから」
確かに……と、全員が頷き、改めて隊列を組み直した。今度はマヤが騎手役、他の3人が騎馬だ。
「第二回戦!」
「クァイシィッ!」
合戦の合図と同時に騎馬役の3人が全力で砂地を蹴り上げた。幸い今日は風もそこそこに強い。舞い上がった砂があっと言う間に砂煙となって周囲に広がって河童達の視界を塞いでいく。
「クゥッ……⁈」
「ちょい右!そのまま突撃!」
戸惑う河童達に対して、人間側の騎馬は迷うことなく突っ込んできた。ダイロク器官を展開したマヤには如何に視界を塞がれていようと関係ないのだ。電撃的に河童騎馬の側面に取りついたマヤが素早く相手側の鉢巻きをすり取った。
「イェーイ!第二回戦、勝利ぃっ‼」
「グゥッ……シマッタ……!」
河童達が悔しそうに地団駄を踏む。兎にも角にもこれで一勝一敗。次の勝利で勝敗が決する。河童達も作戦を立て直すのか、隅に集まって何やらヒソヒソと話し出す。少し間を置き、両陣営が再び騎馬を組み直した。人間騎馬は今度はアイリスが騎手へと戻っている。
「第三回戦!」
「クァイシィッ!」
叫ぶと同時に、河童が空中に向けて勢いよく水を吹き出した。水が雨の様に降り注ぎ、砂地を濡らしてしまう。これなら砂煙を起こす事は出来ないが……アイリス達もそれは予測していた。相手は自分達の痕跡を隠すくらいには知能が高いのだ。同じ手は二度も通じないと思った方がいい。
勢いよく突っ込んでくる河童騎馬を、レイト達は動かずに迎え撃つ。どうせ正面からの機動力勝負では相手には敵わないのだ。ならば、動かずに防御に徹するべしと考えた結果だった。伸びてきた河童の手をアイリスが捌いて逸らし、河童の鉢巻きを手にかけた。
絶体絶命のピンチに河童は慌てて手を遮二無二動かすが、アイリスの手はビクともしない。このまま一気に鉢巻きを引き寄せかける……が、瞬間リバーズが手を手刀の形に変え、勢いよく振り下ろした。
暴力行為は反則だと分かっているのか、その手はアイリスの体には当たらない。だが、彼女の胸元……正確にはブラ紐に直撃し、切り裂いた。
「……………えっ⁉」
驚いたアイリスが体勢を崩し、そのまま騎馬は縺れる様に倒れ込んだ。絶好のチャンス……であるにも関わらず、河童達も騎馬を崩した。そのまま湖と倒れ込む人間達を交互に見つめる。
「ジカンガナイ……。サクセンBケッコウヲスル‼」
応と答えた他の河童達がマヤ達にも飛び掛かり……なんと素早く器用に少女たちのブラだけを奪い取ってそのまま砂浜を走り去っていった。
「このっ……待ちなさ———‼」
アイリスが慌てて彼らを追いかけようと立ち上がるが……。
「アイリィ、隠して‼」
「え……?…キャァッ‼」
自分の姿に気付いたアイリスが慌てて胸元を隠して蹲る。その直前、確かに重力と遠心力の影響を受けてたゆんと揺れた曲線がレイトの目にしっかりと見えた……いや、待て待て待て待てっっ‼
「違う違う違う見てません見てません全くもって———‼」
「いいからっ!早く追ってぇっ‼」
アイリスが悲鳴じみた声で叫ぶ。マヤもゼオラもその場に蹲っていて動けない。レイトはベルトを装着し、その場から駆け出した。
「何なんだよもう!変身!」
〈ウィンディアナイツ‼〉
風のディライトがそのエレメントを全開にして、砂塵を巻き上げて飛ぶ。ブラを持って逃走する怪物達と、それを追う仮面ライダー……という、シュールな絵面が展開される。
「こんな……こんなニチアサがあって堪るかぁぁぁぁっっっ‼」
〈エブリッション!ヴァリアントストーム‼〉
流石のリバーズでも猛スピードで飛行するディライトには敵わない。10秒もせずに河童達に肉薄したディライトが飛び蹴りの姿勢を取った。
「クェェェッッ⁉チョットマテエンマンニハナシャイヲ———‼」
「くたばれこのスケベ河童どもぉぉぉぉぉぉっっっっ‼」
ギャ––––––––––ス‼と悲鳴を上げて、河童達が湖の方に吹き飛ばされていった。そしてディライトの勝利を寿ぐ様に……ヒラヒラと降ってきたブラがその頭にストンと重なった……。
◇◇◇◇◇
村へと戻ったアイリス達は住人達に湖に河童が生息している事を報告した。身近な水源にデブリスが生息している、という知らせに多くの住人達は大いに慌てた。当然の様に王都から衛兵隊を呼んで殲滅作戦を実行するべきという意見も上がり始めるが……アイリスの中には拭いきれない違和感が残されていた。
「違和感?」
「ん……。河童って実は草食性のデブリスなのよね。主に水中で藻や水草を主食にしてるの」
確かに、それはおかしな話だ。それなら一体何の為に家畜を攫って行く様な真似をしたのだろうか。
「…家畜を攫って行ったのは、食べる為とかではない?じゃあ……何が目的で?」
「まさか、水の中で飼育しようとしたなんて事はないだろうし……」
「それは分からないけど……それに、彼らが人に危害を加えたという話も聞いた事がない。かなり、大人しい性質のデブリスなのよね。話によると、水辺で遊んでた人間の子どもを襲うでもなく、ジッと眺めてたとか……」
「なにそれ、カワイイ」
「人間の真似して、笹舟を作って遊んでたとか」
「カワイイ、カワイイ!」
「…まぁ、可愛くても追い払われるけどね。デブリスだし」
デブリスは基本、人間の住処近くに生息していれば、一も二もなく追い出されてしまう。彼らが人に害をなす生き物であれば致し方ない事だと思うが、今回の件に関しては違和感が多すぎる。家畜を攫うという明らかに人間の生活を脅かす行為をしたかと思えば、頑なに暴力を振るおうとしなかったり……。そこに何らかの意図が隠されているのではと勘繰ってしまうのは、ロマンチシズムが過ぎるだろうか?
「デブリスの行動に意味なんかないって言われたら、そうかもしれないけど……なんか裏がある気がする。そして、彼ら自身もその裏を隠したがっている様な———」
アイリスが言いかけると、扉がガラリと開き、ローランが「みんな、ちょっといいかい?」と問いかけてきた。
「村の子ども達がさっきから妙な症状を訴えているらしい。少しこっちに来て、手伝ってくれないか?」
「…妙な症状?分かりました、すぐ行きます」
ローランに促されて、アイリスはデュランダール家の玄関ホールへと向かった。そこには確かに十数人の子ども達が顔を青くして寝込んでいた。アイリスが子ども達1人1人に近づき、様子を確認していく。
「主な症状はみんな発熱と嘔吐……原因に心当たりは?」
「それが何も……。…ただ、湖にデブリスが出たって言うし、それが原因なんじゃないかって……」
親たちの危惧は最もだが……仮に湖の水が原因であるなら、この村の全員が同じ症状を訴えている筈だ。予断を持つ事なく、冷静に症状を分析していく。
「…あくまでも小規模な中毒症状……というところですね」
「そうだね。命に関わる事はないだろうけど……レイトくん、裏の倉庫からアレを持ってきて貰えるかい?」
「アレ?」
「モウリだよ。あれの葉には強力な解毒作用があるから」
ローランの指示に従って、倉庫に収められていた大量のモウリを運び出し、錬真術で薬へと仕立てていく。ただ葉をすり潰して水と混ぜ合わせていくだけの単純な薬だったが、効果は絶大だった。最後の子が飲み終える頃には、殆どの子ども達の症状が回復へと向かっていた。
「原因はやっぱり河童達なのかな?」
「確かに河童が出すデブリス毒はごく弱いんだけど……それにしても弱すぎる気がする。子ども達だけに症状が出たのも、免疫力の低さが原因だと思うし……」
普通に考えるならば、河童のデブリス毒が湖に溶けだし、それが原因で子ども達に中毒症状を引き起こしたと見るべきなのだが……言った通り、いくらなんでも効果が弱すぎる。ならば、中毒とデブリス出現は全く関連がないと見るべきなのかもしれないが、それもあまりにタイミングが良すぎる気がする。
「…あのさ、ふっと思ったんだけど……モウリと言えば———」
悩んでいたところに、レイトが呈した1つの疑問。それを聞いた瞬間、アイリスの中で今回の事件に纏わるいくつものパーツが組み上がっていった。かなり大胆な仮説かもしれないが……そう考えれば、色んな疑問が氷解していく。
「まさか……そういう事なの?」
——もし、これが正しいのであれば……。
——未だ類を見ない事態がこの地で起こっていたのかもしれない。
◇◇◇◇◇
ウォートル湖には中央部に『トムス島』という小さな小島が存在する。その付近の湖底は、深い所で90ハンズにも達する。日の差さない暗がりの水中を飛ぶように自在に泳ぐ影———河童の姿があった。水かきで覆われた手を伸ばし、1匹の魚を手掴みで捕まえると、そのまま大水草——カーテンの様に連なったモウリのケルプへと飛び込んでいった。
ケルプを掻き分けて進んでいった先にあるのは、大きな岩の様な塊。その塊から伸びる海藻の様な触手に何体もの河童が巻き付いていた。河童が塊に捕ってきた魚を差し出すと、鞭の様にしなった触手に一瞬で奪い取られた。塊は魚を飲み込むと、尚も大儀そうにその金色の目をゆっくりと開いた。その目はまだ足りないと訴えている様だった。それと同時に、触手がギリギリとその力を増し、捕らわれた河童達の間から悲痛な呻きが漏れる。
河童が触手に拘束されている仲間たちを見つめ、仕方なさそうに振り返った……瞬間、猛烈な勢いで別の影が飛び込んできた。
「…やっぱり、そういう事か」
青と青銅のボディーに機械的な外骨格を纏ったディライト——『レイザードレンジャー』が拘束される河童達と塊を睥睨すると、脚に取り付けられた『バリアンスアタッカー』から猛烈なハイドロジェットを噴射し、塊に向けて突撃していった。
左腕の『ノズルブラスタ・ネオ』とトランスラッシャーを振り、拘束されたリバーズ達を解放する。それに合わせた様にケルプの隙間から一斉に他のリバーズが飛び出してくる。
不思議なものでも見る様な顔つきでこちらを見つめる河童に、ディライトが分かってる、という意思をアイコンタクトで伝える。伝わったのか軽く頷き、傷つき弱った仲間を支えながら、河童達が暗闇の水中へと逃走していく。彼らを捕らえようと再び触手が閃くが、それらは全てディライトによって防がれた。塊が怒り狂った様に全身を震わせ、目の下の亀裂——否、口を展開した。その奥には鋭い牙が何本も輝いている。
「ゴォォォォォォォォォッッッッッッッ‼」
塊が吠え、口の奥から鞭の様な舌を繰り出してきた。だが、水中を自在に移動できるレイザードレンジャーは軽快に攻撃を躱し、左腕のブラスタを構える。周囲の水分を吸収し、細く長い氷の矢———ハープーンを形成し、そのまま塊に向けて射出した。
鋭いハープーンが塊の皮膚を深々と貫いた。痛みに震える塊だったが、何故かその場を一歩も動こうとはしない。ディライトが全身のセンサーを使って周囲の状況を分析すると、塊の下に無数の生体反応をキャッチした。
「…卵か。その健気さには感心するけど……させる訳にはいかない!」
ディライトが再び加速し、塊の下側へと回り込む。そうはさせじと必死で鞭が迫るが、水の覇者となったディライトを止める事は出来なかった。
〈エブリッション!メガ・ヴァリアントスプラッシュ‼〉
ディライトが両足蹴りの姿勢で塊を蹴り込む。転瞬、脚のバリアンスアタッカーが猛烈な水流を発し、塊を吹き飛ばした。
その勢いのまま水中から押し出された塊が地面へと叩きつけられる。そして、地上にはアイリス達がそれぞれの武器を携えて、それを待ち構えていた。
「『ヴォジャノーイ』……これが今回の事件の黒幕って訳ね」
焚かれた篝火の明かりに照らされて、塊——『ヴォジャノーイデブリス』の姿がハッキリと浮かび上がる。一言で言うならば、髭を生やした巨大なカエルだった。
「こいつがこの湖に棲みついて、河童達を人質にとった……。彼らはそれで仕方なしに命じられるままに家畜を奪ったりしたと?」
「多分ね。ヴォジャノーイがある一帯を支配して、そこの人間達を奴隷にしていたなんて報告もあるから」
思えば、リバーズ達は最初から人間が湖に近づかない様に警告を出していた。水着を奪っていったのも——やり方の是非はともかく——アイリス達を湖に近づかせない為にやったのではないかと思える。それに気付いた時、人間を害そうとするモノは彼らと別にいるのではないか?という結論に至ったのだ。
恐らく河童を捕らえたのは前哨戦に過ぎない。そのまま力を蓄え、この村全体に急襲をかけるつもりだったのだろう。河童とはまた違った方向で知恵が回る怪物だ。
計略を潰されたヴォジャノーイが怒ったように咆哮した。このまま村を潰す気でいるのだろうが、そうは問屋が卸さない。アイリスとゼオラがそれぞれの剣に弱点である炎のライドラッグを装填した。
「ガゥッ!」
怪物が口元の髭を起こし、鞭の様に放ってきた。アイリスとゼオラはそれを軽々と躱し、ヴォジャノーイの皮膚に剣を突き立てる……が、ヌメヌメした皮膚表面と肌の弾力に刃が弾かれてしまった。おまけにこのヌメリには炎のエレメントを打ち消す作用がある様だった。怪物は堪えた風もなく、蠅でも追い払う様にその剛腕を叩きつける。
「なら、これはどう⁉」
マヤが構えたのは大型の錫杖。その先端に取り付けられた宝玉がキラリと輝き、炎の
マヤは素早く杖のグリップを引き起こすと、シャフトを支えながら杖先を怪物へと向ける。その姿はさながら大型のライフルの様。トリガーを引くと、今度は杭状に精錬された炎が杖先から迸り、焼け爛れた表皮へと放った。皮膚を食い破られ、怪物が激しい苦痛の叫びを上げる。
スフィンクスタイプデブリーター『シェイプアンク』が使用していた、錬創錫杖『クエスチョナー』をマヤが自分なりのアイデアを盛り込み改造した、その名も『アンサーラー』である。電磁メスの機能はオミットした代わりに、収束率と命中率を高める『ライフリングモード』を搭載し、更にパワーストーンの搭載数を増加させる事で、エレメントの精錬精度・速度を向上させる事にも成功している。
「よぉし、いい感じ!」
実戦に投入するのは初めてだったが、期待以上の威力を発揮してくれている様だった。マヤが満足気にニンマリと笑うと、今度はスロットに別の霊薬を追加で装填し、『シャフティングモード』に戻した。複数のライドラッグを同時に装填可能にしたのもマヤが施した改造点だ。
パワーストーンが輝き、オレンジ色の火の粉の様な粒子がヴォジャノーイの周辺に展開された。マヤが再度杖を一振りすると、火球が勢いよく怪物に着弾し……大きな爆音と共に激しい炎に包まれた。
「…何をやったんだ?」
「ゴジアカイの花で作った燃焼促進剤。これならいくらあのデカブツでも———」
マヤが勝ち誇りかけた刹那、濛気を突き破って青白い液体が飛んできた。アイリスとゼオラは横合いに飛び退って躱したが、マヤは一歩間に合わず足先が捕らわれてしまった。
「マヤ⁈」
「ち、ちょっとナニコレ⁈」
足先に絡まった液体は恐ろしい程の粘性があり、地面とも絡みついて少女の動きを封じてしまった。身動きの取れなくなった獲物を追い詰める様に、全身が焼け爛れたカエルがのっそりと姿を現し……唐突に、その皮膚が破れた。
「噓でしょ……」
背中が割れ、そこから這い出てきたのは白磁の陶器の様な真っ白な腕。次いで、同様に白いカエルの頭が現れるが、なんとそのカエルは後足でゆっくりと立ち上がって見せた。背部に無数に備わったイボから触手が出現し、異様に赤い目が世闇の中で炯々と輝いていた。
ヴォジャノーイという怪物の見た目は無数の証言があり、ハッキリしない事がある。ある者は巨大なカエルだと言い、ある者はナマズ、またある者は人間の老人の様であったと言う。その理由としては、彼らが生きている内に何度も変体を繰り返すからだとアイリスは推測していたが、どうやらそれは正しかった様だ。
新たな姿となったヴォジャノーイの皮膚表面に無数のイボが浮き上がり、それが目玉の様にギョロリと動くと……やはり無数の粘液を発射してきた。ゼオラが慌てて木の上に飛び上がり、「な、なんだよコレは⁉」と叫んだ。
「大丈夫よ。ムチンっていう繊維質が含まれているだけで、毒じゃないから!」
「ムチンって……鼻水みたいなモノだろ!やっぱり汚い!」
「でも要するに……分解すれば殆ど水じゃない!」
マヤが足元の粘液にアンサーラーを押し当て、錬真力を流し込む。粘液が水に分解され、拘束から解放されると同時に散弾の様な火花を放ち、襲い来る粘液を蒸発させた。発生した大量の蒸気に紛れる様にマヤ達は近場の森林へと一時的に退却する。
炎のライドラッグのエネルギーがある限りは粘液は大して問題にならない。だが、斬撃が効かないのは厄介だ。槍やメイスならば有効打になるかもしれないが……生憎な事に、アイリスは前から使っていた装備の殆どを手放してしまった為、今は他に打てる手がない。…しかも、碌に準備をする間もなかったので、今は水着の上からチュニックを羽織っているだけだ。長引かせるには、些か心許ない。
ここは、攻撃をマヤに任せて表皮を破壊してから貫くしかないか……。そう思った刹那、怪物の触手が木の隙間を縫って襲い掛かってきた。
「……………っっ‼」
先程の髭よりも遥かに太い触手は一撃で斬る事は難しかった。触手は、アイリスの胴体と四肢に巻き付くと物凄い力でギリギリと締め上げてきた。
「…………………かはぁっ…!」
「ぐっ……放せコイツ……!」
見るとゼオラとマヤも捕まっていた。苦悶に歪む少女達の顔を眺めると、怪物の表情がグニャリとどこか満足気に歪んだ様に見えた。そのまま反応を楽しむ様に触手が蠕動し、アイリスの肌を這い進んでくる。
「やぁっ……!このっ……いい加減、にっ……‼」
必死に剣を振ろうとするが、手足に巻き付いた触手はワイヤーの様な剛直さでびくともしなかった。冷たい触手がアイリスの太腿や頬を嬲り、遂に衣服の淵まで達した。焦らす様にチュニックの胸元やショーツの隙間から徐々に侵略が始まる……。
だが転瞬、昏い湖面を破ってディライトが姿を現した。水流のエレメントを纏ったディライトの両腕が勢いよく伸展し、アイリス達を拘束していた触腕を一気に切断した。
「…遅いぞ、レイト」
「ごめん。でも、水中の卵は全部破壊したから。後はコイツを倒すだけだ」
〈サンダー!パワーストーン!レ~ン・チン‼〉
ディライトがライドレンジアッパーの蓋を開け、ライドラッグを装填し直した。
「再錬成!」
〈ブートアップ、ディライト!サイバネティック・ハイパーウォーロック!メイジングレンジャー‼〉
メイジングナイツの上から外骨格が装着され、更に両肩に取りついたバリアンスアタッカーからマニピュレーターが展開する。さながら阿修羅の様な見た目となったエレメント制御特化形態『メイジングレンジャー』。その4つの腕が怪物を照準し、指をパチリと鳴らした。4軸の雷柱が一斉に迸り、ヴォジャノーイの濡れた皮膚に直撃する。
水と粘液で濡れた皮膚に、電撃は効果的だった。発生した熱が粘液と一緒に表皮広範囲を抉り飛ばし、ヴォジャノーイの皮下組織まで一気に露出させた。
痛みに絶叫した怪物が反撃とばかりに触腕を発射してくるが、ディライトは前方広範囲に展開されたメイジングフィールドによってそれを防御した。同時にバリアンスアタッカーが肩から分離し、ヴォジャノーイへと突進した。怪物の腹部を強かに殴り据えた後、腕がその周囲を旋廻し———四方八方から、電撃の波状攻撃を浴びせかけていった。
そろそろ決め時だ。ディライトの意思に反応したバリアンスアタッカーがフィールドを拘束モードに切り替え、ヴォジャノーイの動きを固定した。ディライトはミキシングラッシャーを引っ張り出し、シリンダーに3つの霊薬を装填する。
〈トリプルミックス!!!マルチプル!ミキシングバースト‼〉
〈エブリッション!メガ・ヴァリアントスパーク‼〉
ミキシングラッシャーにエネルギーが充填されていくのと同時に、ベルトのスイッチを押し込むと、拘束フィールド内の電流が更に上昇し、ヴォジャノーイの全身を焼き尽くしていく。ダメ押しとばかりにミキシングラッシャーのトリガーを引き絞り……銃口から放たれたレーザーがその腹部を貫いた。
「グギャアァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!」
恐ろし気な断末魔を迸らせ、ヴォジャノーイの体が泥濘の中に倒れ込んだ。恐ろし気に光っていた目から赤みが抜けていき、黒いガラス玉へと変化していく。その様は怪物の強欲なまでの執念が抜け落ちていく様だった。
今回はここまでです。次回でSaga17は終わり。今回のエピソードの真相編と最大級の「エッッッッ⁉」が待ち受けていますのでお楽しみに!
何気なく示してますが、既に投稿している劇場版『仮面ライダー GENESIS CHRONICLE』はSaga16とSaga17の間の時系列に当たります。劇場版まで見ていると、ニヤリとするポイントがいくつか出てくるかもしれないですね!はい宣伝終わり!
ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
そんでは。