仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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どうも一週間ぶりです。
今回で水着回が終わりです。「エッッッッ⁉」な展開は続きます。
連載していた本作の劇場版も完結しました。まだの方はそちらも確認くださいませ。

『仮面ライダー GENESIS CHRONICLE』
https://syosetu.org/novel/324126/


Saga17 ユートピア~湖畔の秘め事~③

◇◇◇◇◇

「そぉれっ‼」

 

 響き手たちの威勢のいい声と共に、ドロロロロ……‼という太鼓の快音が村中へと響き渡て行った。それが祭りの始まる合図だった。湖面にいくつも並んだ花火台から一斉に火の花が打ち上がり、夜の帳が降りた空を幾重もの色に染めていく。

 村のそこかしこから夏の収穫物と肉類のスープ、パンや魚を焼く香ばしい匂いが立ち込める。行き交う人々は老いも若きもみなどこか浮足立っている様に見えた。

 

 異世界の祭りは、当然ながら異国情緒に満ちていたけど。

 夏の空気に浮かされて、いつもの日常から切り離された特別な空間。

 いつの時代も、どこの世界でも変わらないんだろうと思えるハレの時間。

 小さな幸せが降り積もって満ち溢れた、なんだか賞味期限の短そうな熱気がここにもある。それを知れただけで、やっぱりあのそわそわとした落ち着かない感情が掻き立てられる様な気がした。

 

「結局、今回の事件はどういう事だったの?」

 散っていく火の粉の跡を眺めながら、イーヴァがアイリスとレイトに尋ねた。

 

「巨大ガエルを倒したのはいいんだけど……まだ河童達は残ってるのよね?それは放置したままで構わないの?」

「う~ん……ちょっと事情が複雑なんだけど……」

 どう説明したものかな、とアイリスが思考を巡らせる。何せ、今回の事はまだ彼女の中でもハッキリと整理がついていない状態なのだ。レイトが説明を一部引き継いだ。

 

「切っ掛けはモウリの葉……強力な解毒作用を持つあの植物が、湖のデブリス毒を中和したんじゃないかって思ったんです」

「モウリ?あの繁殖力の高い蔓草ね?」

「はい。実際、湖の底に潜ったら大型の沢山のモウリが絡み合って、ケルプを作っている光景を見ました」

 水中だろうとお構いなしに根を張り、高い適応力で成長するのがモウリという植物の特徴だ。そして案の定、ウォートル湖の深部にも確かに息づいていた。

 

「でも、これまで湖がモウリに覆われてしまった事は1回もなかった。なら、それの管理を行っていたのは誰だったのか……そこでフッと思ったの。河童達じゃないかって」

「…まさか、デブリスが生態系の維持に一役買っていたという事?」

 

 アイリスが頷いた。河童は水草などを主食とする草食性デブリスだ。彼らが湖底のモウリを主食として、その繁殖が行き過ぎない様に管理していた……。可能性としては十分にあるだろう。

 

「河童は人間の言葉を話せた。それは彼らがこの地に長く住みついて、人々の生活を見つめていた証拠じゃないかって思ったのもあるしね」

「ええ。恐らく河童がこの地にやって来たのは、昨日今日の事じゃない。きっとずっと昔からこの湖の奥底に、人知れず生きてたんだと思います」

 

 デブリス。人々は彼らを見つけると真っ先に有害な侵略者だと思う。実際に大半がそういう存在なのも事実だ。

 

 だがもし、それだけでなかったとしたら?

 デブリスの存在が、生態系のサイクルに組み込まれる事が、あり得ないと言えるだろうか?

 

「河童がモウリを食べる事でその繁殖を一定値で留める。河童の出す毒はモウリの葉が浄化する。その事で湖の生き物にも人間にも、そして彼らにも理想郷と呼ぶべき環境が作られた。…潮目が変わったのは、やはりあのヴォジャノーイが現れたこと」

 

 別のデブリスがあの湖にいるのではないか?とアイリスが気付いたのは、子ども達が集団で中毒症状を起こした事が切っ掛けだ。恐らく河童程度の毒ならばモウリが浄化してしまうが、それよりも強い毒を持つ怪物がいるのだろうと推測したのだ。

 

 侵略的な怪物であるヴォジャノーイは人知れず湖に侵入し、その住人たる河童達を捕らえた。彼らを使役する事で、自らはその存在を悟られる事なく繁殖を行い、一気に地上を侵攻する腹積もりだったのだろう。河童はヴォジャノーイに命じられるまま、人々から家畜を奪ったりしつつも、人間を怪物の餌食にさせない為に湖に誰も近づかせない様にしようとしたのではないか……。それが、アイリスの出した結論だった。

 

 しかしねぇ……と、イーヴァはまだ釈然としなそうに首を傾げていた。

 

「デブリスが人間を守ろうとした……という事よね。そんな事ってあるかしら?」

「人間を……ではなく、人間も含めた生態系の維持を優先したのかもしれない。あくまでも自分達の理想郷を守る為に」

「…確かに。…もし、今の関係が壊れてしまえば……彼らが危険な存在になる可能性もある訳だよね」

 

 もし、モウリが根を張らなくなれば、湖はデブリス毒による汚染を受ける。

 

 河童がいなくなれば、湖はモウリによって覆いつくされてしまう。

 

 どちらが欠けても、今のウォートル湖を中心としたこの村の環境はきっと壊れてしまう。

 

 今は大人しい河童達も、もしそうなれば人間に対してどの様に振る舞うかは決して予測できない。この危うい綱渡りの様な状態を放っておくのが正しい事なのか、アイリスにも答えは出ない。だが同時に、それでいいのではないかとも思う。人の社会と自然、それらがどの様に絡み合い、影響し合っているのか……正確に知る者は誰もいないのだ。そういう意味では、今も昔もこの世は何1つ変わっていないと言える。

 

 ただ、今回新しく分かった事……デブリスが生態系の維持に関わる様になった事実と、それを守ろうとした河童達の賢さ。それが明らかになっただけでも、充分だと今は思えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 友人たちと合流すると言って離れていったイーヴァを見送りつつ、レイトとアイリスも露店を巡り、芝居小屋を見物したり……と、順当に祭りの空気を楽しんだ。そして花火が終わりかけた頃、その手に大きな紙袋や竹ひごを持って、2人は湖の淵へと移動した。

 

 人気のない浜辺で竹ひごを組み上げ、紙をその周囲に張り付けていく。仕上げに底部にロウソクを設置すると、子ども程のサイズもある大型のランタンが完成した。

 

 湖畔に響き渡る太鼓のリズムが止み、響き手たちが今度は管楽器のスローテンポなリズムを奏で始める。それを合図にロウソクに火を点けると、袋の中の空気が熱され、やがてプカリと音もなくランタンが浮き上がった。2人のものだけでなく、湖畔に集まっていた全ての人々が作り上げたランタンも一斉に空へと放たれ、200近い行灯が夜空に列をなしていった。

 

 風火灯篭と呼ばれる、ここアレステリスに伝わる風習の1つだ。湖の感謝祭の日、人々は灯篭に冥福や願いを祈念して空に飛ばす。幾百もの光が暗闇の空を照らし、透明度の高い湖に反射する光景は確かにこの世のものとは思えない程に美しかった。

 

「アイリィは何を祈ったの?」

「ん、お父さんの冥福。あと皇帝陛下と……一応アトラーク皇子にも。レイトは?」

「俺は……特になかったから、皆の幸せを……とかかな?」

 

 今は響き手を手伝っているマヤ。あちこちの露店の手伝いに駆り出されているゼオラ。初めてこの村の一員として祭りに参加しているリンネの人々。どこか遠い地で今も己が運命と戦い続けているハイルとヒュペリオン達。その他にもラウボー夫妻やラアド、旅の中で出会った多くの人々に理想の世界が訪れる日が来る事を願って……。

 

「……?…レイト、あれ見て」

 不意にアイリスが湖の中心を指差した。岸壁で覆われたトムス島。人が寄り付かない島の岸辺に座って空を見つめていたのは……間違いなく河童達だった。よく目を凝らすと、水中にも立ち泳ぎの様な姿勢で空を眺めている者もいた。

 

 その黒い瞳は風に流されていく風火灯篭をしかと見つめていた。黒目がちの双眸に強い好奇心の色を宿した、彼らはいつまでも飽く事なく上空の灯火の列を眺め続けていた。

 

「…もしかして……だけどさ」

 レイトが空を見上げながら、ゆっくりとアイリスに語りかけた。

 

「リバーズ達が人間を守ろうとしたのって……この光景を守りたかったから、じゃないのかな?夢想的すぎるかも知れないけど……」

「ううん、そんな事ない……と思う。私もそう思ったから」

 

 人間の世界やその文化に大きな関心を見せる事もある彼らの事だ。この光景を大切に思い、だからこそここに息づく人間達を守ろうとしたのだとしたら?もしかしたら、そんな可能性もあるかもしれない。無数の灯篭が煌めく空は、そんな可能性も感じさせてくれるくらい、物語の様な美しさを湛えていた。

 

 風に舞う火の星をいつまでも飽かずに見つめていると……不意にアイリスが、くしゅんと可愛らしいくしゃみをした。

 

「あ、ごめんね。少し冷えてきて……」

「…まぁ、そりゃね……。…あのさ……どうして、まだ水着なの?」

 

 遠目からだと白いワンピースを着ている様に見えるが、実は今のアイリスはパレオ付きの水着の上から白いチュニックを羽織っているだけだ。昨日の彼女は、話し合い中も戦ってる時も何故かずっとこの格好のままだった。昨日は単純に着替える暇がなかったのかもしれないが、依然としてこの姿のままというのは……正直言って、目のやり場に凄く困る。

 

 指摘されて、アイリスが「…そ、それはっ……」と顔を赤くしてモジモジすると……やがて意を決した様に、チュニックのボタンを外し始めた。

 

「あ、アイリィ……⁉」

「…き、昨日はその……一応仕事だったから、あまり浮かれ過ぎない様にしてたんだけど……。…ちゃんと、感想言って欲しくてっ……」

 

 チュニックの前身頃がゆっくりと開かれる。昨日と同じ白い三角ビキニ。だが、灯火の光に薄明と周囲の暗がりに彩られて、昨日よりもその抜ける様な白さがハッキリと際立っている。胸の谷間や可愛らしいおへその影も一段と……。

 

 レイトの心臓が機銃掃射の如く早鐘を打ち始める。が、それは彼女も同じだろう。恥ずかしそうに俯く顔と震える手を見つめながら、何かを言わなくては……と、言葉を探る。

 気の利いた事を言えたのなら、どれだけいいのかも知れないが……きっとそんな言葉で飾る事を彼女は求めていない。どれだけ陳腐で月並みでも、心から湧き出る言葉を……。

 

「…凄く、かわいい……」

「ん……ありがとう……」

 

 シンプルだが、しっかりと彼女には届いた様だ。空の星群にも劣らない光を湛えたアメシスト色の瞳がレイトを見つめて、切なそうに潤む。その星の重力に引かれる様に……レイトの腕がゆっくりと彼女を抱きとめていた。

 

「んっ……」

 レイトの胸に顔を埋めて、アイリスが吐息を漏らす。離れる事はしない。躊躇いながらも首筋に腕を回し返し、少しの体温も逃すまいとするかの様にレイトとの距離を縮める。頼りない薄衣に包まれた双丘が形を変える感覚が伝わってきた。

 

 互いの心音がまるでリズムの様に共鳴していくのが感じられた。背中に回ったレイトの腕がゆっくりと下り、チュニックの裾を捲ってアイリスの腰を軽く抱きしめる。柔らかく陶器の様に滑らかな素肌の感触を暫し味わうと、ウエストのくびれをなぞり、背中に回った。

 

「…んんっ……。はわっ……」

 アイリスがくすぐったそうに身を捩るが、腕の力を強めて離さない。背中を抱き寄せると、胸がひしゃげる感触がより鮮明に伝わってくる。背中下から肩甲骨周辺の肌、頼りないブラ紐を焦らす様に撫でると、アイリスの吐息と抱きつく腕の力がより強くなった。肌が僅かに粟立っているのは、きっと寒さだけの所為ではない……。

 

 首筋に埋まっていたアイリスの顔がゆっくりと離れ、しかとレイトの顔を見つめてくる。口は緊張した様に引き結ばれていたが、何を言いたいのかは不思議と分かる気がした。レイトがそっと髪を撫でると、アイリスもつられた様に目を閉じる。重力に惹かれ合う星々の運命の様に、2人の影が重なって融け合おうとする———。

 

 

 

 転瞬。

 

 

 

 ドォンッッ‼という大轟音と共に、丘の上から紅蓮の炎が噴き上がった。

 

 レイトとアイリスが体を離し、呆然と火の手を見つめた。あの方角は———。

 

「…ローランさんの家だ……!」

「……っ!…行くわよ、レイト!」

 

 レイト達が住まわせて貰っている、デュランダール家の家屋敷。そこから黒煙が噴き上がっている。それに気付いた瞬間、2人は総毛立つ思いでその場を駆け出していた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 屋敷の手前、広い園庭の真ん中で2人の人影が対峙していた。周辺には火が燻ぶり、生け垣や噴水も見事に破壊されている。それだけで、繰り広げられた戦いの激しさが分かるだろう。

 

「へェ……たかが人間のクセに、よく抵抗するじゃないか」

「ぐっ……!」

 

 いつもは飄々とした顔を珍しく苦悶に歪めながら、ローランが目の前の人影を睨み付けた。赤銅色のプレートメイルも胸甲や籠手が破壊され、彼自身も頬に大きな裂傷を負っていた。

 

 ——一体何者なのだコイツは?

 ——力の底がまるで見えない。

 

 村の中に得体のしれない気配を発する者がいる事は気が付いていた。それが目の前の人影——男とも女ともつかない、中性的な美青年だった。見た目は線が細く、病的までに華奢に見えるのに、その実力は恐ろしいまでに高かった。アネスタ最高戦力のパラディンであるローランが手も足も出ない程に……。

 

「ローランさん‼」

 騒ぎを聞きつけたのだろう、炎を掻い潜ってレイトとアイリスが走ってくるのが見えた。目の前の惨状と、相対する2人を見つめて驚愕の表情を浮かべる2人に、ローランは「来るなっ‼」と叫んだ。

 

「来るなレイト君!彼の狙いは僕と君だ!それにコイツはっ……只者じゃない……!」

 愛剣を杖の様に突き立て、ローランがノロノロと立ち上がる。そんな様を眺めながら、青年はまたしても「へぇ」と感心そうに——または小馬鹿にした様に嗤った。

 

「穏やかじゃないなァ。僕の狙いはあくまでも君の持つ、パラディンの力だ。それを大人しく明け渡すなら、これ以上は痛い目を見ないで済むよ?」

「ハハッ……お気遣いどうも。…だけど、そんなセリフは鏡を見てから言って貰おうか」

 表情を引き締め、ローランが剣を水平に構える。全身の筋肉と感覚が隙なく研ぎ澄まされ、尚も揺るがぬ闘志が全身から漲る。ローランが刃に指を宛がうと、体内の錬真力がそこから迸り、刃全体が炎に包まれた。

 

「この力は、この世界の人々に、希望を齎す為のものだ。それを託そうと思えるには……悪いが、君はあまりにも信用ならない。だから、お帰り願おうか‼」

 

 更に、ローランの全身から蒸気の様な煙が噴き出し始めた。炎の神聖騎士に与えられた特殊技能『沸血』。これが発動すると、一定時間あらゆる身体能力が強化されるのだ。ローランが地を蹴立てて加速した。重たいフルプレートメイルを纏っているとは思えない速度だ。炎を纏った剣が青年の胴体へと流星の如き速度で振り下ろされる———が、青年は慌てる事なく取り出した槍の様な武器で剣戟を捌いてみせた。

 

「無駄だよ。君如きでは、その力は使いこなせない」

 

 青年にはまるで剣の軌道が全て見えている様だった。青年が槍——前方に二又の刃が取り付けられた、マジックハンドみたいな形状だ——で攻撃の全てを受け止め、ローランの胸へとその切っ先を押し当てると……その先端から光り輝く衝撃波が迸った。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ‼」

 

 鎧を粉々に砕かれ、吹き飛ばされたローランが地面を転がって倒れた。レイトとアイリスは信じられない物を見る様な目で青年を見つめた。ローランは彼らが知る中でも指折りの実力者だ。剣の一振りでデブリーター達を撃退し、稽古をつけて貰っても未だにその身に近づく事さえ叶わない程に。

 

 そんな彼がこんなにもあっさりと……。青年の恐ろしいばかりの実力に、レイトとアイリスは戦慄した。

 やむを得ない。レイトは意を決して、腰にベルトを巻き付けた。

 

「ダメだ、レイト君っ……!君は逃げろ……っ」

「そんな事……出来る訳ないでしょう!変身‼」

〈ミスリックレンジャー‼〉

 レイトの身体がディライトの姿へと変わり、青い双眸が青年を睨み付けた。今まで無感情に振る舞っていた青年がディライトを見つめた途端……確かに不愉快そうに眉根を寄せ、舌打ちを漏らした。

 

「…それが、『仮面ライダーディライト』……。まさか、僕たちの力をごっこ遊びの道具にされるとは……。…許し難いな」

 しかとディライトを睨み付け、青年が着ていたコートを唐突に脱ぎ払った。露わになった青年の腰には……円形の大型のバックルが装着されていた。

 

Superior Driver(スペリオルドライバー)……〉

 

「ベルト……⁉…なんなんだよお前!デブリーターか⁉」

「違うよ。…そうだなァ、君流に言うならば……」

 

 青年が首に下げたペンダントからトップを外し、横合いのスイッチを押す。

 カシュッ……!という乾いた音と共に蓋が開閉すると、中からタブレット錠剤の様な円形が露わになった。青年がそれをゆっくりとベルトの中央部に嵌める。

 

〈Take……Dark Rune……!〉

〈On Your Mark……Get Set. On Your Mark……Get Set. On Your Mark……Get Set〉

 

 直後、雷鳴の様な4音のフレーズと言葉がベルトから響き渡る。扉を叩く運命に応える様に青年が左手が前方にスッと伸ばされ、やがてベルトの左から伸びた大型レバーに手を掛け……告げた。

 

「…変身」

 

〈Falling……〉

 

 天から光が降り注ぎ、青年を包み込む。光が闇を生む様に青年の身体が漆黒へと包まれ消失すると……転瞬、全く別の姿となって再び顕現した。

 

〈I am Nemesis.All I need is“SACRIFICE”……!〉

 

 漆黒の空に星を散りばめた様なアンダースーツ。

 それとは対比的な、骨の様に巻き付く白い装甲。

 顔には鳥の様に鋭角的な装甲が仮面となって張り付き、その継ぎ目からはマゼンタ色に輝く単眼が覗いている。

 

「…その姿は……?」

「『仮面ライダーネメシス』……。さァ、天罰の時間だ」

 

 冷酷な声音で決然と宣言すると……『仮面ライダーネメシス』が黒い霧を纏ってディライトへと歩み寄ってきた。…否、走ってきたのかもしれないが、それさえも判別できない。前触れのない夜の訪れの様に、ネメシスの移動には何の音もしない。ディライトの各種センサーが知覚するよりもずっと早く、懐へと肉薄したネメシスの槍——『ネメシスサイザース』が振り抜かれ、ディライトのライダークレストから火花が上がった。ブースタースケルトンとアーマムエレメント、マテリアメイルの三重装甲に守られているにも拘らず、消しきれない衝撃がディライトの全身に走った。

 

「ぐっ……!このっ……‼」

 ディライトがトランスラッシャーを抜き、反撃の一撃を振るうが……ネメシスの姿がヌラリと歪み、剣は虚空を切り裂くだけに終わった。躱された、と見るべきなのだろうが……それだけではない様な気がする。まるで、幻でも相手にしているかの様な……。

 

「…そんな訳、あるかっ‼」

 ディライトが尚も剣を振るうが、その度ネメシスの姿が歪み、刃は掠りもしない。レイトは「暖簾に腕押し」という言葉を思い出す。ならば、と足元のブースターを展開し、後方へ大きくスウェーバックすると、銃モードに変形させたトランスラッシャーを乱射した。光の速度で飛来する弾丸を避ける事は流石にできなかったのか、ネメシスはそれを甘んじて受け止める……が、どれだけの光弾を浴びようが全く怯む様子はなかった。

 

 何なのだコイツは。ディライトの全身のセンサーが展開し、敵の情報を探知し始める。兎に角、弱点を探り出さなければと思うが、数秒後、メイクハイヴィジョンに表示されたのは、

 

Unobservable(観測不能)

 という、無情な宣告だけだった。

 

 そんな事があり得るだろうか?どれだけセンサーを働かせても、目の前のヒト型からは熱も生命反応も探知できない。まるで空間が人の形に切り取られた様な、全くの空洞を相手にしているのと同じ……。

 

「無駄だよ。君は僕に、触れる事すら叶わない」

〈2 Knock Turn……〉

 驚愕するディライトをせせら笑い、ネメシスがベルト中央部のスイッチを押し込み、レバーを再度押し込んだ。

 

〈Nemesis Judgment……‼〉

 直後、ネメシスの左肩と右腕、両大腿部に装備されていた放熱板の様な装備——『サテライターズ』が分離した。それは流星の様にディライトの周囲を旋回しながら、ディライトの身体を滅多打ちにしていった。

 

「レイトぉっ‼」

「あぐっ……!…アイリっ…かはぁっ……!…ダメ、だっ……来———」

「さァて……遊びは終わりだ。昏く静かに、この世界から消えて貰う」

 

 ネメシスの宣告に従い、サテライターズから放出されたエネルギーがディライトの四肢を拘束した。磔の様に動けなくなったディライトへ、ネメシスが槍の先端を向けて突撃した。二又の槍の先が猛烈な勢いで加速し、ディライトの胸部を食い破るかに思えた刹那。

 

 何者かが、ディライトの面前に飛び出し。

 ズブリと鈍い音と共に、胸を貫かれた。

 

「なっ……………⁈」

「チッ……」

 

「…ローランさんっ‼」

 

 ネメシスが煩わしそうに舌打ちを鳴らすと、レイトの前に立ちはだかったローランから槍を引き抜いて飛び退った。ローランの傷口から夥しい量の血と一緒に赤いオーロラの様な光が溢れ出した。それがまるで彼の生命線であるかの様な気がしてディライトは必死で手を伸ばすが、空しく空を掻くだけに終わった。

 

 ネメシスが槍を振るうと、赤いオーロラがその先端へと吸い込まれていき、赤い錠剤の様なアイテムへと精錬された。それを満足気に眺めると、変身を解除し元の人間の姿へと戻る。槍に付着した血を冷たく見つめた後、3人を冷笑的に見つめた。

 

「ノルマは1つ達成……まァ、今日はこれ位でいいだろう。いずれ君たち全てに報いを受けて貰う。精々、首を洗って待っているんだね……」

 冷たく言い捨て、ネメシスの姿が闇に溶ける様に消えていった。

 

 レイト達はそれを追う事はしない。地面に仰臥する神聖騎士に縋りつき、傷口を衣服で必死に抑えて、その名を呼び続ける。だが無情にも、傷口から流れ続ける血は一向に止まらなかった。

 

「ローランさん……!…くそっ、なんでっ……なんで止まらないんだっ……‼」

「…やぁ、レイト君。無事、だった……んだ、ね……。…よかった……」

 ローランが囁く様な声で、呟いた。口元を血で濡らしながらも、いつもと変わらぬ飄々とした笑顔で……だが、残酷な現実を突きつける様に、顔色は急速に赤みを失いつつあった。そして彼の象徴だった目下の神聖騎士の紋も、風前の火の様に崩れて消えていった。

 

「ローランさん……!…待ってて下さい、今助けを———!」

「…いや……もう、無理だろうなぁ……。これは流石に……助からない……」

 

 ローランが静かに笑いながら、消え入りそうな声で呟いた。2人がグッと言葉に詰まる。レイトは己の身で、アイリスは父の身体で、同じ様な事態に遭遇した時がある。だからこそ、分かるのだ。

 

 これはもう助からない、と……。

 

 だが、そこから意識的に目を逸らし、「…そんな事……言わないで下さい‼」と、2人は必死にローランを呼び続けた。

 

「言ったじゃないですか!人々に希望を齎すって……!だったら、こんな所で諦めないで下さい!あなたがいなくなってしまったら———!」

「…そんな事、ないさ。…僕は、消えたりなんかしない……。だってここには……」

 ローランの指がレイトの心臓をゆっくりと指し示す。

 

 レイトはハッとした。先程の戦いで彼はなんと言っていただろうか?心の中にはいつもいる……等という事を言っているのではない。

 

 彼が言いたい事は……。

 

「…俺には……俺には出来ませんよ……。あなたみたいになんて、とてもっ……‼」

「…レイト君、前にも言ったぞ……。もう少し……自分を信じろって……」

 ローランの手が伸びた。目の輝きも殆どが失われ、きっと今は何も見えていない。終わりの瞬間を感じながらも、最後の使命を果たさんとするかの様に、少年達を見つめてその胸を軽く小突いた。

 

 託したぞ、と。

 消えゆく命の残滓を全て振り絞って静かに、だが雄弁と語った。

 

「ローランさん……」

「…負けるなよ。誰に……どんな運命にぶつかっても……君たちが最後まで貫きさえすれば……」

 それが、最後だった。重みを増した体が重力に引かれ、手が音もなくフワリと地面に落ち込んだ。いつもの様にどこか清々しそうな笑みを浮かべた表情は、しかしもう氷の彫像の様に動かなくなっていた。

 

「うぅっ……!ぅあぁぁぁっっ……!」

「…レイト……」

 震えるレイトの身体をアイリスがそっとかき抱くが、彼女の頬も流れ出る涙で濡れている。拭ってやりたいと心の底から思うのに、今は体が思う様に動いてはくれなかった。そんな自分の情けなさが、どこまでもいたたまれない……。

 

「うぅ……うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ‼」

 

 穿たれた心の穴から漏れ出した、無力の慟哭が空へと消えていく。答える者もいない夜闇の冷たさが、世の無常を突き付けているかの様だった。

 

 




勇者たちに訪れる、喪失と新たなる多くの出会い。
恐怖と混乱をを撒き散らす、新たなる影。
 
そして……それに楔を打ち込む者、『仮面ライダーネメシス』

舞台は神聖アネスタ皇国へ!
それはこの世の真実に至る戦いの始まりだった。

『仮面ライダーミスリックサーガ』
第3章『天地激突編』
近日公開
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