遂に連載を再開いたします!
◇◇◇◇◇
『
光があれば影がある。国家という枠から締め出された場所であるからこそ、無法者や都市から追い出された住民達——所謂『ストラド』達の溜まり場となってしまっているのが実情だ。
だが、どれだけの危険が付き纏おうとも、国家からの干渉を受けず、自分達の力で生きていける世界は彼らにとってはある意味で楽園と呼べるかもしれない。そうやって自らに誇りを持って生きる者もいる事を知ってか、アネスタでは彼らの事を『アストレズ』を呼んでいるのだと、ローラン・デュランダールは説明してくれた。
そんなロストリスの一角であるシドニア帝国最西部の平原地帯。その空を小さな鳥が———否、とてつもない巨影が悠然と滑空していた。
「うひゃぁ……この距離であの大きさって……どれだけデカいのよ……」
「目測っスけど……全長25ハンズってところですかね。マヤちゃんの作ったリヤカードリフターの大体5倍くらい———」
「言わんでいい。気が滅入る……」
ジョシュがいらん事までベラベラと話し出すジャンをペチリと叩いた。彼に限らず、少年たちの間に気圧される様な気配が広がっていたが、
「ハッ。戦り甲斐があっていいじゃねぇか」
怯みのない声が頭上から響き渡る。彼らの頭目である、ハイル・ランドナーが相変わらず好戦的な笑みを浮かべて、空を飛ぶ標的を見つめていた。
「ラナ、エリアルファングは出せるか?」
「全機フィジカライズ完了です。追加装備の装着にもう少し」
ラナの目線の先、小高い丘の上に数十台のクラシックバイク『マシン・エリアルファング』がズラリと並んでいた。今はヒュペリオンの技術班が後部にオプション装備の追加を急いでいる。
「『
「文字通り地に叩き落してやりゃあいいじゃねぇか。その為のコイツだろ?」
ハイルが自分用にペイントしたエリアルファングに近づき、後部のユニットをポンと叩く。獰猛な形状の鈎針が陽光を浴びてギラリと輝いた。
ギィアァァァッッッ‼と、巨影が声を響かせた。こちらに気付いた……訳ではないだろう。ドラゴンは定期的に周囲に向かって吠える性質があるどうだ。それは自身を狙う相手や縄張りを侵す者への警告だと考えられている。
「よし、準備完了です」
「おうよ。全機搭乗」
ハイルの命に応えて、ヒュペリオンの戦闘班が一斉にエリアルファングへと跨り、イグニッションキーを始動させる。ブロロロロ……!と数十台の鉄馬のエンジンが一斉に嘶きを上げた。動力部から伝わる振動と熱、なによりこの轟音が人によっては心地悪く感じるだろう。だがハイルはこの感触が嫌いではない。腰に下げたジャイロシェルフィーを取り上げ、送話口を自身の顔の前に押し当てる。
「よし、それじゃ手筈通りだ。先ず俺と一番隊が先発。あのドラゴン野郎を引き寄せる。二番隊と三番隊で奴の翼の下まで回り込んで……墜とせ」
ハイルの命令に応えて、仲間達が応と答える。それを頼もしく思いながら、ハイルはバイクのスロットルに手を掛けた。
「発進‼」
ハイルの叫びと同時に、専用カラーで塗装されたエリアルファングが先陣を切って飛び出していき、他の車両もそれに追従する。最初こそ慣れない者も多かったが、今では戦闘班のメンバーは殆どがこれを自分の手足の様に乗りこなす事が出来る様になっていた。
バイクの爆音に引き寄せられ、上空のドラゴンがゆっくりと地上を睥睨した。狙い通りだ。一番隊のエリアルファングの後部に設置されていた箱が開け放たれ、中から十数発の球体がドラゴンの眼前に目がけて撃ち出され……閃光と爆音を上げて弾け飛んだ。
音響閃光弾『
…否、まるでではない。実際に金属なのだ。
頭上のドラゴンは正確にはデブリスの竜ではない。巨竜の遺骸を取り込みし魔剣『バルムンク』の成れの果て……剣人だからだ。
『ってコレのどこが
「今更だろ。バルムンクは竜殺しの魔剣だ。つまり、竜に出来る事なら大概の事はできる。ジグザグに走行して、奴に狙いを付けさせるな」
相手が竜であるならば、最も警戒するべきは……言うまでもない。バルムンクの口が地上のヒュペリオンに向けられ……無数の鉄杭を放ってきた。ハイルの指示通り、縦横無尽に走行するエリアルファングは華麗なテクニックで迫りくる攻撃を躱していく。
流石に『
「『蛇絞』発射。アイツを叩き落して、誰が空を統べる者か教えてやれ!」
右手のハンドル計器を操作すると、後部のボックスから今度は茶色の爆弾が一斉に射出された。バルムンクの眼前で弾けたその爆弾は、次の瞬間には内部の粘着物質を怪物に向けて解き放っていた。物質はドラゴンに纏わりつくと直ぐに硬化し、怪物の口や首周りに纏わりついた。バルムンクが苦悶の咆哮を上げようとするが、口が塞がっている為できないだろう。生物ならばこのまま窒息してしまうのだが、相手はあくまでも魔剣。呼吸は必要ないし、苦痛も生物的な動作を模倣しているだけに過ぎないのだ。
だが、幾度も攻撃を仕掛けてくる地上の小虫達にいい加減怒りを募らせたのは事実だろう。バルムンクの両腕が広がり、その先に生えた爪がギラリと輝いた。それで引き裂こうという腹積もりなのだろうが……そこまでは読み通りだ。地上へと高度を落としてくるバルムンクを見つめ、ハイルが獰猛に笑った。
「今だ!二番隊、三番隊突撃‼」
ハイルの指示に応えて、岩陰に隠れていたバイクの群れが一斉に飛び出してきた。事前の指示に従い、バルムンクの翼の真下の取り付くと、後部ユニットを杭を照準し……翼に向けて発射した。杭はワイヤーの尾を引き、そのまま猛烈な速度で竜の翼へと突き刺さった。杭の先端には
バルムンクは痛みを感じる事はないが、杭に取り付けられたワイヤーが一斉にその体を地上へと引っ張った。空中で体勢を崩したバルムンクがそのまま地上へと叩きつけられる……かに思えたが、そうはならなかった。落ちる瞬間にバルムンクは死に物狂いで翼を振り上げ、空中へと飛び上がろうとした。それに引っ張られたエリアルファングが後部タイヤを振り上げて空へと持ち上げられそうになるが、エンジンを吹かし必死で抵抗する。
『うおぅっ!ハイルさん!』
「仕方ねぇな……。変身!」
〈ソーディア、ライトブレード‼〉
ハイルが背中に背負っていたデウスカリバーⅡの剣先にソードラッグを装填、体が仮面ライダーソーディアへと変わった。バイクを限界まで加速させるとバルムンクの鼻先まで回り込み、後部のオプションから更に2つの杭つきワイヤーを放った。杭がバルムンクの鼻頭に突き刺さり、また苦悶に身を捩るが降りてくる様子はない。それでもソーディアは慌てずに剣先を怪物へと向けた。
「いいか、カウントと同時に俺が奴の動きを止める。その瞬間に一斉にニトロを使うぞ。行けるな?」
尋ねるまでもない。元よりこの程度の難事を乗り越えられない様な柔な輩はこのチームにはいない。応の唱和を聞きながら、ソーディアがデウスカリバーの力を刀身へと込めていく。
「行くぜ、3……2……1‼」
デウスカリバーⅡの先端から魔剣の力が解き放たれ、バルムンクへと注がれた。瞬間、竜がその動きをピタリと止めた。
魔剣の特性として、上位の物が下位の物の力を一時的に制御する事が出来るのだ。ランドナー家が遺した魔剣の中ではバルムンクはかなり上位に位置する筈だから、いつまでも止めては置けないだろうが……例え一瞬でもあれば、自分達には充分だ。ソーディアは急いで前方へ向き直ると右ハンドルに装備された赤いスイッチへと手を掛ける。合図をしている暇も惜しい。仲間達ならばタイミングは分かる筈だと信じて、スイッチを強く押し込んだ。
瞬間、車体に搭載されたタンクから亜酸化窒素が解き放たれ、エリアルファングのエンジン内部に注がれる。ニトロ——正確にはN(ナイトラス)O(オキサイド)S(システム)と呼ばれるこの機構は高濃度の酸素を含む亜酸化窒素をエンジン内部に解き放つ事で、燃料の燃焼速度を向上、爆発的なパワーを車体に与える。その結果が齎すものは……ソーディアですら引き剥がされそうな勢いでバイクが加速した。
勿論、ハイルの命令通りに他のエリアルファングも一斉にニトロを起動させ、加速する。その爆発的なパワーにバルムンクがグッと高度を下げる。空の王者の意地にかけて抵抗しようと試みたのだろうが……やはり抗しきれなくなり、遂に土煙を上げて地べたへと墜落した。
プライドを傷つけられたバルムンクが立ち上がり、ヒュペリオン達を睥睨する。が、度重なる攻撃とデウスカリバーの力の余波が残っているのか、その動きはやや鈍い。ソーディアは跨るバイクをターンさせ、更に再加速してバルムンクへと突撃する。エリアルファングの加速エネルギーを受けたソーディアが座席を蹴って空中へと飛び上がる。全高8ハンズはあろうかというバルムンクへの頭上にまで飛び上がったソーディアを、空の王者は信じられないものでも見る様に固まった。
——悪いな。終わりだ。
——俺の力の一部となって貰うぜ。
——魔剣開放、我流・デモリッション。
〈テリフィング・ミドル・ストラッシュ‼〉
増幅された魔剣の力が巨大なエネルギーとなって刀身に纏わりつく。刃が長大化した剣を振りかぶり、そのまま真っ向斬りの要領でバルムンクの頭上へと叩き落した。金属同士がぶつかり合う撃音と共に、ソーディアの落下エネルギーも加わった斬撃がバルムンクの頭部から足元まで一気に駆け抜け……そのまま怪物は体の半分から真っ二つに断ち切られ、ゆっくりと倒れ込んだ。
バルムンクの体が光の粒子となって崩壊していき、それらが自らを打ち破ったもの……デウスカリバーの刀身へと吸い込まれていく。バルムンクの力がやがて全て軍門に下ると、更なる力を得たデウスカリバーとハイルを称える歓声が、不毛の平原に響き渡った。
◇◇◇◇◇
狩りが終わった後は、なんだか祭りの後みたいな寂しさを感じる……らしい。前にハイルさんやジョシュさん達がそんな事を言っていた。
オイラことジャン・ヒュペリオンはどっちかと言うと頭脳派なんでそこまでの境地には至れない……けどまぁ、戦いで散々アドレナリンを出しまくった後だから、それを感じられなくなったら寂しくなるのはそりゃそうかな、とは思える。特にハイルさんなんて、昔は人の2倍くらい生き急いでる感じだったから余計に。
そんな寂しさを埋めようと思ったのか、生き急ぎ気味なハイルさんを少しでもこの世に留めようと思ったのか……理由はもう定かじゃないけど、狩りが終わった後のヒュペリオンはこうして皆で食卓を囲んでバーベキューをするって決まりがいつの間にか出来ていた。ここ暫くはデブリーターとの戦いでゴタゴタしていた所為で碌に出来ていなかったから、本当に久しぶりだ。
「カイラ!そこまだ焼き上がってない!網に戻せ!」
「えー、隣のブタもう焼き上がってんだからいいじゃん」
「良くない!鶏には鶏の、ブタにはブタの適切な焼き時間ってモノがあんの!んでそこ!スープを煮え滾らせ過ぎっス!」
「あ、悪い。つい目を離した隙に……」
「まったく……あまり煮立てると旨味が飛ぶってさっき散々———ってハイルさん!チビ芋に振る塩の量はちょっとでいいです!それじゃ振りすぎ!」
「なんだよ、いっぱい振ってあった方が美味いんじゃねぇの?」
「はぁぁぁっっこれだからシロウトは!人間の舌っていうのは味がまばらな方が旨味を感じやすくなるモンなんス!あんまりしょっぱくし過ぎるとこの時期の芋特有の旨味まで消えるで———」
「ジャン兄ちゃん、肉焦げてる」
「おぅふぅっ⁉しまったぁっ‼」
…まぁ、そんなこんなで慌ただしく準備をしながら、なんとか陽が沈む前には食卓を整えられた。サクラさんが手を叩きながら、遊んでた子ども達を卓につかせる。食べる時は
「さて、今日のお祈りの当番は誰だ?」
「一番のメインディッシュ焦がしたんだ。ジャンがやれ」
「はぁっ、オイラっスか⁉だったらエール10本も零したアルベリクがやったって———」
「いいからさっさとやれ。料理が冷めんだろ」
仲間達から次々と野次が飛んで、抗議が遮られた。こんな時にばっかり結束しおって……。でも、冷めると言われたら仕方ない。オイラは胸の前で掌をX字に組み合わせる。
「え~……神聖なる我らが主よ。今日の狩りの成功に感謝します。山盛りの御馳走と、優秀なバイクと、最高の家族達?を与えて下さった事にも感謝します。出来れば、彼らの口がもう少し良くなる様にお叱り頂けると———」
クスクスと笑いがしわぶきの様に起こっても、誰も口を挟んだりはしない。意外に思われるかもしれないが、皆は割にちゃんとした神聖教徒だったりする。勿論、こちとら無法者の集まりだから揉め事は頻繁に起こすし、毎日教典を熱心に読んだりもしない……が、こうして食事の前には皆でお祈りを捧げるくらいの事はする。
ここに集っていいるのは殆どが『壁の外の民』……蔑称で『ストラド』と呼ばれる少年たちだ。世の不条理というモノを幼い頃からイヤというほど見せられてきてる。そんなオイラ達だからこそ、神頼みがどれだけ無力かなんて分かってるんスけど……何かを呪い続けるのってエネルギーがいるのだ。それよりも実は嘘でもいいから感謝の念を持つ方が却って精神の安定にはいいのだと、ゲイナン先生が言っていた。まぁ、ハイルさんがそこまで考えてるのか知らないが、これだけのメンバーを抱えながらヒュペリオンの結束が強いのは、一重にそのお陰なのかも……とは最近思う様になってきた。
「最後に。どれだけ離れても繋がれる強き心を、我ら家族に与えて下さった事を、この祈りと共に感謝申し上げます」
長々と文句を述べた後、最後は全員で改めて感謝を祈念。そしたら待ちに待った食事だ。先程までの厳かな雰囲気はどこかにうっちゃらかして、目の前のパンや野菜、肉類にがっつき始める。何せ食べ盛りの少年少女がこれだけ集まっているのだ。飯はいつだって戦争なり。オイラも最近ようやく飲むのを許して貰ったエールを片手に、肉やサラダを取り分けていく。
自分で焦がした肉?勿論、除けて食べるっスけどなにか?
「ハイル君さぁ……前から言ってるけど、少しは野菜も食べなさいよ。子ども達に示しがつかないから」
「逆だろ。食っても鍛えてりゃ太らないって、いい見本じゃねぇか」
「ハイル君みたいな筋肉モンスターと一緒にしないで!ビタミンだって不足するとバカにならないんだから。四の五の言わずに食べなさい!」
「や、やめろコラ!てゆーかお前は俺のオカンか⁉」
嫌がるハイルさんにムリヤリ野菜を捻じ込もうとするサクラさんを見て、この2人もなんだかなぁ……と思う。この2人、実は男女の関係だった時期もある……というか、何度もくっついたり別れたりを繰り返していて、今が何度目かの倦怠期に当たるんス。
原因はまぁ……ハイルさんの生き方の問題っスよね。ローザちゃんを元に戻す為にデウスカリバーの力を振るって魔剣の力を取り込んでいく。そうすれば必然的に魔剣の力に飲み込まれて、人間としての意思を失っていく運命にあった。そんな彼の宿命を一番近くで支えてたのがサクラさんだった訳ですけど……いずれ終わる事が定められているからこそ、お互いに深く必要になる時期もあったし、離れなければいけない時もあったんじゃないかと思いやス。
でも今はそんな心配は無用。レイトさん——当代の勇者ディライトサマのお陰で仮面ライダーソーディアとして生まれ変わったハイルさんは、デウスカリバーの宿命からも解き放たれた。心なしか、前みたいに刹那的でギラギラしてた部分みたいなのが消えてきた様に思いやス。そうすりゃサクラさんとの関係だって遠慮する事だってなくなる。まぁ、だからそろそろ関係が再燃するんじゃないかって皆は見てるんスけど……カノジョいない歴=年齢なオイラにはちょいと目の毒だ。
イヤ、別にいいんスけどね?ハイルさんとサクラさん、お似合いだし。
ただ、オイラも今や16歳。十分に異性への興味が沸き起こっても仕方ない歳な訳だ。この組織は女子の比率も高いんだけども……オイラのどストライクはサクラさんとかアイリスさんみたいな、落ち着きのある大人の女性なんだよなぁ。
まぁ、だからと言って是が非でもこの2人を盗りに行くとかいう気もない訳だが。サクラさんには可愛がって貰ってるけど絶対に脈ないし、アイリスさんはどう見てもレイトさんにホの字だ。最初は美人過ぎて近寄りがたく思ってたけど、ラヴァンツェイルでの戦いの後はもうめっきりカワイクなって……。今頃どうしてるだろうなぁ、あの2人。アレステリスではお祭りも開かれるって言ってたし、その空気に当てられて絶対いい雰囲気になってそう……って、イカンイカン。考えてたら尊すぎてヨダレが……。
ああ、どっかにいないかなぁ。オイラの理想の女性……なんて益体もない事を考えてたら、不意に誰かが近づいてくる気配がした。
イヤ、マジに気配だけだった。地べたは砂利が堆積しているというのに、まるであらゆる音が夜闇に吸い込まれている様な……2本のスラリと伸びた長い脚が見えなければ、マジで幽霊だと思うところだった……。
闇夜の中をモデルみたいなウォーキングで歩いてきたのは、スラリと背の高い女性だった。トップスとボトムスが一体になった黒いレザー製のボディースーツが抜群のスタイルをこれでもかとばかりに引き立てていて、ショートカットでややボーイッシュな顔立ちだがそれでも隠し切れない色気が滲んでいて……。
…ヤベーコレは超どストライクな女。オイラは周囲とは別の意味でポカンとしちまったよ……。
「お食事中に失礼。あなたがハイル・ランドナー……仮面ライダーソーディアね?話があるのだけれど、構わない?」
女の人が上座に座っていたハイルさんに迷う事なく呼びかけた。その瞬間、団員達の間に緊張が走る。ハイルさんの顔と名前を知る者は限られている。それを知っていたなら、真っ先に敵——他の裏組織の存在か、デブリーターかを疑う事になる。
だが、ハイルさんはそんな空気を意に介さずに立ち上がる。まるで、楽しんでるみたいにその顔にはしっかりと笑みが浮かんでいた。
「ご指名どうも。だが今は生憎パーティー中でね……。テーブルを囲んでエール片手になら聞いてもいいぜ?」
「あら、それは魅力的な相談だけれど……なにぶん時間がないの。先ずは……お手並み拝見‼」
瞬間、驚くべき事が起こった。女の人が胸の谷間から小型のナイフを引っ張り出すと……次の瞬間には、それがハイルさんの身長ほどもありそうな巨大な剣に変化した。ハイルさんは横跳びに躱すが、剣が触れた地面はまるで隕石でも落下したみたいに大きく土煙を上げた。
あそこまで自由自在に大きさを変える剣……そんなモノは魔剣以外にあり得ない。確かアレは……。
「ハイルさん!ソイツは『グラム』っス!」
資料で見た事がある。バルムンクと同じ、滅竜の為に作られた魔剣の一振り。ただし飛竜に対抗するバルムンクとは異なり、大地を揺るがす巨竜を仕留める為に自身の何倍もの質量を発生させる事が出来るんだとか。だが、ハイルさんは「分かってら!」と答えて、襲い来る剣戟をヒラリヒラリと躱す。やっぱり、どこか楽しんでいる風だった。
「剛剣は確かに威力は驚異的だが、攻撃パターンは2種類しかねぇ。だから、最初の一撃で仕留めきれなかったら……終わりなんだよ」
ハイルさんはそのまま女の懐まで肉薄し、持っていたカトラリーナイフを剣を握る手首に叩きつけた。グラムが手から離れ、ガシャン‼と大轟音を立てる。そのまま女の手首を極めながら地面へと引き倒してしまった。
そのまま持っていたナイフで女の頸動脈を切り裂く……のかと思いきや、ハイルさんはそのまま女からスッと離れた。意外な成り行きにオイラ達は少し唖然とする。
「それで、話ってのはなんだ?当てる気もねぇ剣を振り回して、いきなり腕試しなんて今どき流行らないぜ」
「…そこまで分かってたの?流石ね」
…今の剣技、当てる気なかったのか……。どう見ても殺す気マンマンにしか見えなかったのに。
達人同士の領域、恐るべし。
「あなたに依頼があるのよ。ある村を怪物の魔手から救って欲しい。勿論、報酬は用意するし、今夜の宿を提供するわ。悪い話じゃないわよ?」
そう言えば、空気が湿ってきた。風も出てきている。こりゃ確かに一雨来そうだと思えた。シェルターを張るなんて重労働をこなして、雨の中でビバークなんて御免だから渡りに船ではあるのだが……最終的にはハイルさんがどう判断するかだ。
だが、正直に言ってハイルさんは断るだろうと思っていた。魔剣でいきなり斬りかかってくる女なんて明らかに怪しいし。フザケンナって言って、そのまま魔剣を破壊しちまうのが今までのハイルさんなんだけど……。
「…宿の提供と、依頼を受けるかは別で構わないのか?」
「ええ、そっちはサービスよ。小さい子たちもいるみたいだし、屋根のあるところがあった方がいいでしょう?」
「…オーケー。話を聞こうか。移動するぞ、お前ら」
…おお、意外な成り行き。女もそう思ったのか、自分で提案しといて少し面食らっている様だった。
「意外ね。魔剣狩りのハイル・ランドナーっていったら、私たちの間では有名だったのに……。どういう風の吹き回し?」
「別に。単なる暇つぶしだ」
そう言って不敵に笑ってるけど……きっとレイトさんの影響が強いんだろうなぁってオイラには思える。もう近づくもの全てを斬り捨てていたカミソリみたいなハイルさんじゃなくて、今はその刃を誰の為に振るうべきなのかしっかり分かってるって感じ。
それにハイルさんの事を仮面ライダーって呼んだ女は……余裕そうに見えてやっぱりどこか切羽詰まって見えた。きっとそんな人を見捨てるなんて選択肢は今のあの人にはないんだろな。仮面ライダーってのはそういうモンらしい。何なのかは相変わらずよく分からんけど。
でもオイラは———インヤ、ヒュペリオンの総員がきっとそんなハイルさんの変化を嬉しく感じてる筈だ。
のっけからの仮面ライダーソーディアが暴れ狂っておりますが、今回は彼のエピソードとなります。こういう感じも本家ニチアサではあまりやらないので、新鮮でいいのではないかと。
先日投稿した登場人物紹介に関しては、今後のレギュラー・準レギュラー予定のキャラを優先して載せました。今回登場した女性はあくまでもゲストなのですが……なかなか役割としては重要なポジションになります。
次の話で彼女の名前と依頼内容について明かされます。お時間がある方はもう1話連続でどうぞ。
それでは。