仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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前回までのあらすじ

シドニアを逃れ、神聖アネスタ皇国へと匿われていたレイト達。「国内に蔓延する謎の病から人々を救って欲しい」というその依頼にこたえる事を決めるが、突如ディライトの力を狙って『仮面ライダーネメシス』と名乗る新たな仮面ライダーが急襲をかけた。戦いの最中、炎のパラディン・ローランが命を落としてしまい……。


Saga19 アネスタ~集う星々~①

◇◇◇◇◇

「取り返した……。先ずは、1つだ」

 

 冷たい夜闇に負けないくらいの酷薄な声音が、しかし何かを成し遂げた達成感を含ませて響く。声の主は驚く程に整った造作をした青年——否、正確にはそれも分からない。季節外れのオーバーコートに包まれた体は起伏に乏しく、それでいて驚く程に華奢だ。とてもではないが、先ほどこの国一の手練れの騎士を殺めた戦士には見えないだろう。

 

 青年——自らを“天罰(ネメシス)”と名乗る者の視線の先には、昼間の空に輝く陽星の様なオレンジ色の錠剤型アイテム——『ルーンドラッグ』が握られていた。

 

「『フレアルーンドラッグ』……。かつて勇者ディライトがこの世界の人間に与えた大いなる権能……神聖騎士の力そのもの……。こんな小さなモノがねぇ……」

「ステファニー、まだ起きてたのかい?」

 

 ネメシスが満足気に見つめるアイテムをひょいと取り上げたのは、金色の髪の少女だった。ネメシスとは逆に起伏に富んだプロポーションを包み込む黒の薄衣と、それと対照的な白い肌がまるで相対する者を闇へと誘う妖精の様でもある。

 

「あの偉そうな神聖騎士……いいえ、アタシ達が長年信奉してきた力の源がこんな小さなモノだったなんて……。なんだか拍子抜け」

「あんまり触らない方がいいよ。小さくても、君たち人間には過ぎた力だ」

 

 紋が刻まれたルーンドラッグをどこか憎々し気に見つめていたステファニーの手からそれをまた取り上げて、コートのポケットへと無造作に突っ込む。この世界そのものを見下げる様な発言にも聞こえるが、ステファニーは気にした様子もなく頷く。

 

「このユニバースの上位世界に存在すると言われる力の源……“石”を模した存在だからね。かつてディライトが持ち出してしまったが、少しでも残しておくとマルチバースの秩序に関わる」

「それは解ってるけどさ……あんな奪い方になって、アナタは大丈夫なの?」

 

 このルーンドラッグはその力の継承者——当代の炎の神聖騎士から奪い取ったものだ。『穏便に済むならそれに越した事はない』とネメシスは言っていたが、最終的にはあんな形になってしまった。ステファニーは気遣う様に訊くが、ネメシスは顔を上げる事なく「…問題ないさ」と言い切った。

 

「あそこまで意志が強固なら、どの道ああするしかなかった。君の話によれば、他の神聖騎士達も一筋縄ではいかないだろうね……」

「…ええ。神聖騎士なんて言うのは、どいつもこいつも“聖命”なんてものに酔っ払った連中だもの。きっとまた無意味に抵抗するんでしょうね……」

「それならそれで構わないさ。邪魔をするなら、同じ様に排除するのみさ」

 ネメシスが気にした風もなく、冷酷に宣言した。

 

「今のところ、所在が明らかになっているのは土と水、風の3人。光と雷はまだ解らないが……まァ、それも直ぐに見つかるだろう。この国で起こっている病を1つの前兆とするなら、“アレ”がもう目覚めの段階に入っている可能性が高いからね」

「…だとすると、この世は終わるの?」

「いいや、今の不完全なディライトでは止められないだろうけど……僕になら止められる。あんな英雄ごっこにこれ以上あの力を使われる前に、何としても天罰を下す……」

 

 鋭い双眸が夜の闇を貫いていく。常人には知覚できなくとも、その目は確かにこの世界に存在している、彼が対峙すべき敵を捉えている様だった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

『ローラン・デュランダール。炎の神聖騎士。

民の庇護者であり、理想郷の守り手』

 

 国の儀礼に則り、剣と盾を模した墓碑にはその様な文言が寄せられた。墓はデュランダール家の庭に作られた池の真ん中へと建てられ、彼が愛したこの地に咲く多くの草花が添えられている。

 

『神聖騎士なんてものを拝命した以上、いつどうなってしまうかは分からないからね。せめて死んだ時くらい僕のやりたい様にやらせて欲しいモノだなぁ』

 生前、酒の席でそんな事を語りながら、自分が入る墓についてかなり細かく注文を付けていた……と、アレステリスの石工は涙ながらに零していた。そんな洒落にならない事を冗談めかして日頃から言っていたところが何とも彼らしいと言えるが……まさかこんなにも早く現実のものとなってしまうなど、実のところ誰も想像していなかっただろう。

 

 15歳の時に神聖騎士として聖任を受け、それ以来アネスタを始め、多くの地を回りながら、その“聖命”を全うし続けた。各地を旅している時は『ランスロー・エレイン』を始めとして複数の名を使い分けていた為、その足跡を辿る事は容易ではないが、それでもシドニアやトンプソールの各地に赤銅の鎧を纏いし、炎の剣の使い手が力なき人々の為に尽力したという記録がしっかりと残されていた。

 

 両親を亡くしてからはここアレステリスの領主の地位も受け継ぎ、パラディンの聖命との両立でかなりの多忙を極めながらも、騎士としても領主としてもその温かな心を民に配り続けた。2つの大きな地位を与えられたにも拘わらず、気取りも驕りもなく、ただ出会った全ての人々は彼を『白の季節の陽』の様であったと形容した。

 そんな彼の人柄に触れた多くの人々がこの場所に集まり、彼の死を悼んでいる。

 

 享年は27歳。1人の人間の死としては早すぎるものだとしても、寄せられた嘆きの大きさは旅立つ彼への最大の賛辞とも言えるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

「…そうか。ローランは最期まで聖命を全うしたんだね……」

 レイトの正面に座る青銀の鎧を纏った女騎士——オリヴィエと名乗った女性はそう呟いて薄く微笑んでいた。向き合う者を柔らかく包み込む様な声だが、今のレイトには聖命という言葉がやけに重くのしかかって来た。

 

 ここアレステリスの領主であり、炎の神聖騎士でもあったローラン・デュランダールが正体不明の戦士の襲撃を受けて散華してから早くも3日が過ぎ去った。あまりに突然の訃報に領地の誰もが戸惑い困惑したが、丁度首都から到着したばかりの目の前の2人の神聖騎士が冷静に指示を出し、恙なく葬儀が済んだところだった。

 

 その場に居合わせた2人——レイトとアイリスは、あれ以来どこか渦中に放り込まれた様な気分で正直ここ数日間の記憶も断線した様に朧気だった。そんな彼らの心中を慮ってか、神聖騎士達も多くを問い質そうとはしなかった。それでも、3日が過ぎて多少気分も落ち着いてきたのか、彼らに問われるままあの日起こった全ての事を説明し、今に至る。

 

「『仮面ライダーネメシス』……狙いはローランと君だったのか……。そいつの正体になにか心当たりは?」

「…解りません……。デブリーターではないと言っていましたけど……それも本当かどうかは……」

 話す事が出来れば、何か喉の奥に詰まっているつっかえの様なものが取れると思ったが……やはり実のところは何も解らないままだった。

 

 突如としてレイト達の前に現れた単眼の戦士。

 一体何故ローランと自分が命を狙われたのか。

 まるで影を相手にしているかの様な、相手の能力は一体何なのか。

 

 そして何よりも……何故、『仮面ライダー』を名乗っているのか。

 

 当事者である自分でも整理がついていない話を聞かされるのは大変だったと思うが……目の前の彼らは眉1つ動かさずに最後まで話を聞いてくれた。それはレイトにとっては確かに救いであったが……やはり、気分が晴れてくれる事はなかった。

 

 ——ローランさんは、俺を庇って死んだ。

 ——出会って間もない自分の為に、何故そこまでの事が出来たのだろうか?

 ——ディライトを守るのが、パラディンの使命だから?

 

 ——…でも、俺にそこまでの価値なんてあったんだろうか……?

 

 あの日以来、そんな考えが病の様に染みついて消えてくれない。ローランは『自分を信じろ』と言ってくれたが、レイト——仮面ライダーディライトはあの仮面ライダーネメシスを名乗る存在に対して何も出来なかった。

 まるで影か幻の様に、一切に攻撃や分析が通じない敵の未知数の力。相対した時に感じた、あの正体不明の恐怖感。何よりも……自分の事を「許し難い」と言い切った時の、根源不明ながらも明らかな敵意。

 

 これまで相対してきた敵は、その敵意の根源は明らかだった。だが、あの仮面ライダーネメシスは違う。何故、仮面ライダーを名乗る存在にあそこまでの怒りを、嘲りを向けられなければいけないのか、この3日の間にどれだけ考えても皆目見当がつかなかった。

 それだけで動けなくなってしまう情けない勇者のどこにローランがそこまでの価値を見出してくれていたのか、結局それは分からずじまいのままだった。

 

「…アレステリスは、この後どうなるんでしょうか?」

 アイリスが尋ねる。今この地は領主が不在という状況だ。かつて同じ経験をした彼女には気になる問題だった。利己的な様だが……下手をすれば、この地に匿われている元リンネの住民達の今後にも関わってくるのだから尚更に。

 

「最終的には女王陛下が判断されるだろうが……それに関しては心配ないよ」

「安心しろ。我らがクリス様は賢明で懐の深いお方だ。デュランダール家にもここの住民達にもベストな選択をして下さるだろうよ」

 

 女騎士の後ろに控えていた黄土色のプレートメイルを纏った大柄な騎士——ジェラルドという名前だそうだ——が朗らかに笑って言った。豪放磊落という言葉が正に似合いそうなバンカラ声だが、沈み切った空気の中ではやけに温かく響いた。ずっと不安そうにしていたマヤ達もようやく安堵できた様に表情を緩めていく。

 

「…さて、気になる事は尽きないだろうが……そろそろ出発しなければね。あまりコーパーズの市民を待たせる訳にもいかない」

「…いいの?もう少しゆっくりお別れをしても……」

 ローランと同じデザインのプレートメイルに、会話から感じられる彼らの距離感。そして何よりも、彼らが共有している『神聖騎士』という立場。それだけで彼らとローランの間には特別な繋がりがある事が分かる。にも拘らず、彼らはここ数日は葬儀の為に奔走していた為、碌にお別れも出来ていない筈だ。だが、オリヴィエはやはり薄い笑みを崩さずに「いいんだよ」と頷いた。

 

「今の私たちの聖命は君たちを一刻でも早く首都『コーパーズ』まで送り届ける事だ。ならば、それを全うしなければ、神聖騎士の名折れだ」

「俺たちは与えられた使命……“聖命”を果たす事を何よりもの誇りとする。…ま、ローランに言ったら『頭が固い』って笑うんだろうけどな」

「アイツはきっと今でも笑っている。だったら、私たちが泣く訳にはいかない。そうでなければ、またアイツと笑う事も出来ないだろうから……ね」

 

 彼らがそう言うのならば、きっとそうなのだろう。ひと月にも満たない時間しか共有できなかったレイト達には今はそう思う事しか出来ない。止まってしまった針をいつまでもこのままにしておく訳にいかないのもまた事実だった。生前にローランから言い渡された任務……神聖アネスタ皇国で広がる謎の病を止める為に、レイト達はここを旅立たなければいけないのだった。

 竦む足を覚悟で無理矢理ムチ打ち、レイト達は纏めて荷物を持ってデュランダール邸の外へと出た。大型の馬車と共に待っていた2人の騎士が、改めて胸に手を当てて敬礼する。

 

「改めまして、水の神聖騎士『オリヴィエ・グロリアズ』、土の神聖騎士『ジェラルド・ルシアータ』。首都までの道すがら、勇者ディライト殿の護衛を務めさせて頂きます!」

 

 そうして馬車はアレステリスから首都コーパーズに向けて走り出していった。

 

「すまんな、どうも俺は馬の扱いは苦手で。狭いとは思うが、昼過ぎには首都に着くと思うから我慢してくれ」

 

 馬車内だとジェラルドの声は確かに響く。だが、彼の存在感を含めてもこの馬車は広いと思う。座席は革張りで柔らかく、3人で並んで座っていてもまだスペースに余裕がある。 扉裏にはワインとグラスまで備え付けてあり、恐らく有力な貴族家——若しくは彼らの背後にいるアネスタ王家御用達の車両なのだろうと思わせた。

 

 ローランも言っていたが、神聖アネスタ皇国は儀礼を重んじるお国柄だ。この馬車の用意も、あまつさえそれの護衛を神聖騎士自らが務めるというのも彼らなりの歓待の印と取るべきだろう。その分、かけられている期待も大きいとも言えるが……。

 

「飲むかい?20年もののロイデニヨンワインだそうだが……」

「…い、いえ……今はちょっと……」

「そうかい、ソイツは残念……と言っても、俺もワインは得意じゃないんだがね。よくローランの奴がトンプソール産のトウモロコシ酒をくれたが、やっぱりああいう辛口の酒のが俺には——…おっと」

「………………」

 ローランの名前が出た途端に、馬車内が重苦しい空気で満たされた。ジェラルドがこちらの気配を察して口を引き結ぶ……が出し抜けに、

 

「ローランは幸せ者だなぁ。こんなにも多くの人が嘆き悲しんでくれてさ」

 と、鷹揚に笑った。

 

「慣れないモノだよな、人が死ぬっていうのは。こんな仕事をしていると、愁嘆場に出くわすのはしょっちゅうだが、やっぱり慣れん。それが近しい者であるならば、尚更に」

「…すいません……」

「ん?なんで謝る?」

 突然のレイトの謝罪にジェラルドが眉を顰めた。

 

 レイトにとっても、咄嗟に口をついて出てしまったという感じだった。だが、ここ数日間で感じていた行き場のない感情に整理を付けようとするかの様に、たどたどしく口を開いていく。

 

「…俺、ローランさんがどういう人なのか……ちゃんと知りませんでした。あの人の事をよく知ってるお2人の方がきっと辛いだろうに……俺、自分の事だけで精一杯で……」

 

 彼がいつどの様に神聖騎士となり、どんな思いで戦ってきたのか。騎士として実力や領主としての人柄は表面的な部分は分かっていても、彼の実像を初めて聞かされたのは葬儀の中でだった。

 ローランと接したのは、実のところアレステリスで過ごした10日程しかなかった。それよりも多くの年月を共にしてきたであろう領民やジェラルド達の思いを完全に理解できる筈がないにも拘らず、レイトは未だに彼の死から立ち直れないでいる。そんな自分の弱さが限りなく嫌になってくる……。

 

「気負い過ぎない事だ、少年。パラディンだディライトだと言われても、俺たちはただの人間に過ぎない。今は自分の至らなさに向き合う勇気さえ持てれば、それでいいさ」

 

「…解ってます。絶対に、忘れません」

 彼が共にあった日々も教えられた事、託された物も。今自分が感じている悔しさも居たたまれなさも。全てを刻み付ける様にレイトが頷いた。

 

 ——ローランが言っていた通り、真面目なタイプだが……。

 ——己の仮面を、容易に外せない一面もあるな……。

 

 レイト……当代の勇者ディライトは確かに実直で生真面目な性質の様だが、10代の少年が背負うにしては多くの物を背負い込もうとし過ぎる。そんな彼の姿を頼もしく思うと同時に、微かな危うさもジェラルドは感じていた。

 

 アレステリスの周囲を覆う森を抜けると、馬車が俄かに加速を始めた。騎士が国の守りを司っているこの国においては騎馬による迅速な移動を行う為の街道が整備されているのだとジェラルドが説明してくれた。『騎士の道(リットウェイ)』と呼ばれるこの街道は一般人の通行が制限されているが、現代日本の様に石畳で舗装された道で——馬にも専用の蹄鉄を履かせる必要があるが——高速で移動するのに適している様だった。矢の様に過ぎ去っていく景色を眺めながら、確かにこれなら昼過ぎには首都に辿り着きそうだと思えた。

 

 移動から数時間が経過すると、窓から人々が暮らす村々などの光景が目に飛び込んでくる様になった。ステラスフィア山脈に近い国境付近に比べて心なしか気温も高くなり、木々も青々とした色合いがより強くなっていく。街道を走っていても湿地と岩場が多いシドニアとは見える景色も全く異なってくるものだ。シドニアが自然の試練が未だに残る世界だとするなら、こちらは正しくファンタジックなおとぎの世界という印象である。特に森を抜けた先に広がっていた一面の田園や果樹が広がる風景は、現代日本で暮らしていたレイトにもどこか懐かしいと感じさせる情景だった。

 

「おお……流石、三国最大の食糧生産国」

「ここら一帯……『サーズ・サテライト』は主に穀物類の生産が盛んな地域だな。これから赤の季節になっていくと、麦類や米の収穫が始まり———」

「えっ⁉米が採れるんですか⁉」

「お、おう……。やけに食いつくな……」

 引き気味のジェラルドの顔を見て、レイトは思わずしまったと口を噤んだ。懐かしの食材の名を聞いてついテンションが上がってしまった。まぁ、日本で食べられるジャポニカ米とは違って、ピラフやリゾットなんかで食べるのかもしれないが、それでも米である事に変わりはない。後で何としてもゴチになろう……と、調子のいい事を考えてみる。

 

「そう言えば、シドニアほど町の周りに防壁が張り巡らされてないんだね?」

 窓の外に広がる農村の風景を眺めながら、そう言えばと気付く。シドニアなら村の周囲を木や石の塀が覆っているところだが、ここら辺一帯はどこまでも広々とした畑が広がっているだけだ。レイトの疑問を受けて、アイリスが頷いた。

 

「壁で隔てると、どうしても土地が狭くなるからね。食料生産が主産業のアネスタでは、却って効率が良くないのよ。その代わり各村——『サテライト』を街道で繋いでどこにも騎士衛隊を配備する事で補ってるの……で、合ってます?」

「そうだね。最もこれはシドニアほどデブリスの数が多くないからやれる事ではあるし、それで完全に全てを守り切れる訳でない事も事実だけど……」

 オリヴィエの視線の先に各部が崩れて草木に埋もれかけた塔——恐らくタワーサイロ——が見えた。明らかにデブリスの襲撃を受けて崩壊したという風情だった。牧歌的に見えても、やはりそこにはデブリスという怪物の脅威と、それに抗しきれない人間の脆弱さがありありと現われている様だった。

 

「世界最強のパラディン騎士団なんて言うが、こんなものさ。特に歴史上、首都コーパーズはデブリスからの侵略に晒された経験が少ないから、今は余計に混乱が強い」

「首都を襲ってる病って……結局、どういうものなんでしょうか?ローラン様はあまりハッキリとは説明してくれなかったのですが……」

「アイツは直接症状を見た訳ではないからね。余計な予断を入れたくなかったんだろう……。だが、確かに言語では説明し辛い……何というか、名状し難い“症状”を伴うんだ。例えば最初の症例は今から三か月前、コーパーズの人気舞台女優だったエリス・マークニルの子どもが———」

 オリヴィエが解説の口を開きかけた、刹那の事。

 

 ドゴォン‼という轟音と共に、前方に見えていた朽ちた風車小屋が数棟、その基礎の部分から木っ端微塵に吹き飛ばされたのだった。

 

「なんだオイ⁈」

「……っ⁉アレは……⁉」

 

 濛気を突き破り、木々を薙ぎ倒して現れたのは巨大な人型——巨人だった。全身が死人の様な灰色の肌で覆われ、まるで歩く巨大な岩塊の様だった。しかもその胴体や足回りには、明らかに粗製のモノではあるが、金属でできた鎧まで身に纏っているではないか。

 

 巨人の視線の先には、数人の人影があった。剣や鎧で武装はしている様だが、全高6ハンズを超える超大型の巨人の前では人に爪楊枝を突き立てる様なものだ。明らかに逃げ腰で、とてもではないが相手にならないだろう。

 

「あの制服は……準隊士か。何故、あんな所に……?」

「さぁてな。だが、見捨てる訳にもいくまい。少年たち、首都到着前で悪いんだが……」

「分かってます。勿論、協力しますよ」

 オリヴィエ達に続いてレイトはディライトドライバーとライドラッグを、少女たちもそれぞれの武器を引っ張り出して、馬車を飛び降りて巨人の元へと駆け出していった。

 

「はぁぁぁっっっっ!」

「どぉっっせいぃっ!」

 オリヴィエが持っていた双剣をエックス字に振るうと、次の瞬間には無から水塊が形成され、それらが猛烈な速度で巨人の足を貫いた。その動きが止まった一瞬を逃さず、ジェラルドが戦斧を地面に叩きつける。次の瞬間、地面から針山の様な岩塊が隆起し、巨人の腹部を深々と貫いた。

 

「…あれが……本物のパラディン」

 アイリスが圧倒された様に呟く。ローランの戦いは僅かに目撃した事があったが、改めて見せつけられると確かにその力は圧巻だ。

 

『パラディンは様々な奇跡の技を行使できる』

 半ば虚実が入り混じって囁かれている話だが、それらは概ね真実だ。通常、人間がデブリスに有効なエレメントエネルギーを操るには対応したライドラッグを用いるしかないが、真の覚醒を遂げたパラディンはその身の内に宿る錬真力をエレメントへと変換する事が可能となるのだ。彼らはライドラッグもパワーストーンも必要とはしない。個別に与えられた特殊技能も併せれば、彼らの持つ戦力は一個師団にも匹敵すると言われている。

 

 だが、その並でない神聖騎士の攻撃を立て続けに喰らっても巨人が怯んだ様子はない。敵もまた並ではない証左だ。レイトも加勢するべくライドラッグをライドレンジアッパーに装填し、ベルトへと取り付けた。

 

〈ランド!アダマント!レ~ン・チン‼〉

「変身!」

〈サイバネティック・ハイパーチャンピオン!ランドマンレンジャー‼〉

 

「うおぉぉぉぉぉっっっっ‼」

「グゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッ⁉」

 

 ブースタースケルトンを装備した土属の剛力形態・『仮面ライダーディライト ランドマンレンジャー』の拳が巨人の腹部を強かに殴りつけた。両肩に取り付けられたバリアンスアタッカーがそのパンチの速度を更に加速させる為、全力で殴れば城塞都市の城門ですらその土台部分から根こそぎ吹き飛ばすだけの威力を持っている。呻きを漏らした巨人が吹き飛び、地面へと叩きつけられた。

 

 好機と見たディライトが上半身のオーバーグロウタービュラーを全開にして、無防備に広がる怪物の胸部を殴りつけるべく拳を振り上げた……次の瞬間の事だった。

 

 巨人の左腕に巻き付いていた粗製の鎖帷子が俄かに輝きだしたかと思うと……唐突に巨大な円形のサークルシールドへと変形し、ディライトの攻撃を防ぎ切ったのだった。しかも盾を横に振るう、所謂“パリィ”の動きでディライトの力を受け流してみせたのだった。

 

「あぐっ⁈」

「レイト、大丈夫⁉」

「おい、見たか?今の動き……」

「なんて奴……あそこまで技巧的に戦う事が出来るとは……」

 

 ゼオラが驚愕に震える。武器を扱う事の出来るデブリスは今までオーガやカリュードン等を見てきたが、彼らの様にただ力任せにそれを振るうのではなく、武器の特性や相手の力を理解して戦う事ができる目の前の巨人はこれまでのデブリスでは先ず見る事がなかった様な存在だ。

 

 それに何より、先程の光。あれは間違いなく……。

 

「…エレメントを従えシ、仮面の戦士……。そうカ、貴様が当代の勇者ディライトだナ?」

「うそ喋った⁈」

 マヤだけでなく、その場にいる誰もが驚愕に言葉を失う。オーガやリバーズの様なたどたどしい言葉遣いとは異なる、非常に流暢な人語。そんなものを操る事ができるデブリスの心当たりが、レイトとアイリスにはあった。

 

「…『ジェネラルクラス』……」

「如何にモ。我は『エルシングス』巨人(タイタン)クラスタ代表、『不動のアグリオス』。この様なところで我らガ魔王の宿敵に巡り合うとは……今日は何ト良き日か」

 

 将星級(ジェネラルクラス)

 彼らの言葉では、『エルシングス』と呼ばれる、高度な知能と恐るべき力を秘めた、強力なるデブリスの一種。

 長らくその存在は空想上の産物だと思われていたが、実際のところはその圧倒的な力で見るもの全てを葬り去ってきた為に、存在が不明確なだけだった。『歩く死』とも形容される、人類の敵対者の頂点に立つ存在の一角。

 

 巨人——ジェネラルギガースデブリス『不動のアグリオス』のサークルシールドが再び輝きを放つと……やがて再び形を変え、1振りの長大な曲剣……大太刀へと変化を遂げた。

 

「……っ⁉やっぱり……錬真術……!」

「この世の叡智ヲ使いこなせるのは貴様らだけデはない。我ラも常に進化をしていルのだ」

 

 宣言した後、アグリオスが大太刀を振りかぶると、ディライト達に向けて横薙ぎに振るった。ただ力任せな剣戟とは違う。足の踏み込みや手首の動き、それらを総合的に組み合わせた、完全なる達人の剣技だった。

 

「なんとなんと!何たる妙技!敵ながらアッパレ‼」

「感心している場合ですか⁈あのパワーに加えて、ここまでの剣技を併せ持つなんて……」

「確かに驚異的だけどね……。でも、余計な恐れはこちらの隙に繋がる。冷静に、相手の特性と弱点を見極めて戦う。そういう意味では、普段のデブリス戦と変わらないでしょう?」

 それはデブリス戦における基本の様なものだ。オリヴィエが周囲の仲間達を一瞥する。基本的には武器を持った巨人を相手にするのと大差はない。ただ、対処すべき事柄が多いというだけの事だ。それも、これだけの仲間達がいれば可能だろうと思えた。

 

 この中で唯一ジェネラルクラスとの戦闘経験があるレイトとアイリスも力強く頷いた。以前に戦った将星級デブリス『暗星のノクターヴ』を相手にした時とは状況が何もかも違う。仲間と自分達の実力を信じて結束する。小さな人間達にはそれが精一杯にして、最大の能力でもあるのだから。

 

〈BLADE LOADING……〉

 巌の様な巨人の顔をしかと睨み付けながら、アイリスが腰の錬結炉から長剣『レイヴァクロス・カスタム』を実体化させる。少しも怯まぬ少女の姿をアグリオスも見つめ返すと……唐突に「その意気やヨし!」とニヤリと不敵に笑った。

 

「我を前にしテ、少しも恐怖せヌとは面白い!益々もって、我ガ技の錆としてやりタクなったわ‼」

 

「上等よ。ここから先は———」

「俺たちのサーガだ‼」

 

 




読んで頂きありがとうございました。
前回はソーディア主役のスピンオフ回でしたが、今回から本編へと戻ります。舞台も正式に神聖アネスタ皇国へ移り、第3章もいよいよ始動です。これからキャラクター達も増えて行きますので、解らなくなった時は既に投稿してある『キャラクターデータⅡ』をご参照ください。
しばらくデブリーター達との戦いが続きましたが、ここに来て物語がデブリスとの戦いに再び舵を切りだしていきます。まぁ、それも新たな章らしくていいかな、と。

ご意見・ご感想など頂けると励みになります。
それじゃあまた。
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