仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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どうも一週間ぶりです。
今回はかなり短めですが、前回との温度差が……な話になります。


Saga20 ザ・コンジュリング~闇に呼ぶ声~②

◇◇◇◇◇

 全身を締め付ける、形の見えない圧迫感。

 振り払おうと藻掻いても、まるで思い通りに動かない四肢の感覚。

 薄れかけていた思考中枢が纏わりつく異常事態を捉え、意識の急速な覚醒を促す。目を見開き、汗で濡れる皮膚が体の芯を冷やしていく感覚を味わいながら、カルロス・シングルステアの意識は暫し自分が何者かも思い出せない空白を彷徨う事となった。

 

「……ッ、……ッ、…何だったのだ一体……?」

 肩で軽く息をしながら、徐々に暗がりに慣れ始めた目で周囲を見渡す。目の前に見えたのは、こけた頬でギョロリとした目を剥いている男の顔……。ギョッとしたのも束の間、それが窓に映った自分の姿だと気付いた。

 なんだバカバカしい……と、安堵の息を吐きながらも、やはり心の奥底にへばり付く不穏な気分は消えてくれなかった。何せ、今のカルロスは寝ていた筈のベッドから這い出し、部屋の窓際まで歩いていたのだから。

 

 寝惚けた?いや、まさか夢遊病の類か?脳内にそんな想像が駆け巡る。この頃は歳相応に体の衰えを実感しつつあったが、それでも生まれてこのかた健康状態や意識に関する不安を感じた事など皆無である。ましてや、自分の体が何者かに乗っ取られた様に動いた事など……。

 不意に足元から這い上がってきた怖気を振り払う様に、カルロスは頭を振った。

 

「…疲れている……のだろうな……。あんな所から戻った後では……」

 

 そうに違いないと自分に言い聞かせる。慣れない風邪を引いただけでは飽き足らず、未知の病を疑われて病棟へと隔離される日々が続いたのだ。どれだけ心を鍛えようとも、気が滅入ってしまうのは無理からぬ話だろう。額に浮き出た汗を拭い取り、ベッドまで戻ろうと歩き出した刹那、足先に何かゴトリと硬い感触が伝わってきた。

 

 それはいつも壁に懸けてある、シングルステア家の宝剣だった。名がつけられる程の名剣でもなければ、名の知れた刀工の策でもないが、代々家の当主が受け継ぐ、一族の誇りが込められた剣。それを無造作に床に放置するなど、自分は絶対にしてこなかった。一体何故……?と、また正体不明の怖気が這い出しそうになって来るが、何の事はない、きっと何かの拍子で床に落ちる事もあるだろうと言い聞かせて、剣を拾い上げるが……。

 

「………………っ⁈」

 

 刃がルネアの灯りを帯びると、そこにヌラリと纏わりつくものがハッキリと見えた。粘性を帯びた赤黒い液体。どう見ても血液だった。

 バカな……?という呟きは結局言葉にならず、口内を何度も跳ね上がって湧き出る唾を次々と吸い取っていく。逸る頭を必死に働かせて体の各部を確認するが、どこにも傷など見当たらない。

 

 ——では、一体これは誰の血だ?

 ——そもそもいつの間にこんなものが付いたのか?

 

 疑問ばかりが次々と浮かぶが、こんな所で突っ立っていても解決などする筈もない。先ずは家族の安否を確認しなければと部屋を飛び出そうとする……が、ドアノブに手を掛けようとした刹那、

 

『動くナ……』

 そんな声が脳髄の底から全身に反響する様に響き渡り、カルロスの体が金縛りの如く動かなくなった。

 

「……っ⁈…なんだっ……コレは……⁉」

『オイオイ、シカトしてンじゃねェよ。今お前に命令しテいる俺サマに対するツッコミはナシか?』

 

 またしても、声が脳内に響き渡る。先程よりもハッキリと“それ”はカルロスに話しかけてきた。だが、そんな事はあり得ない。この部屋には自分以外の存在はいないのだ。ありもしない声が聞こえるなど、何よりも正気を逸している証左だ。幻聴を無視し、奥歯に力を込めて脚を進ませようとしたが、『動くナって言ってんダロがっ‼』と、“それ”が更なる大声で叫んだ。その声量に部屋中の剣や盾類が一斉に鳴動する。そこに来て、ようやくカルロスは気付く事になった。

 

 ドア脇の鏡にもハッキリと映し出されていた。

 “それ”の声は脳内に響く幻聴ではない。自分自身の口から発せられている事に。

 

「…バカ……な……!お前は、何者だっ……⁉」

『ナニモノか……ねェ。クゥッヒヒヒッ……いいゼ、教えテやるよ。…俺サマは、()()()()()

 

 愉悦を帯びた声で、“それ”が答える。ガラガラとくぐもった耳障りの悪い声。とてもではないが、自分の声帯から発せられたものとは思えない……が、“それ”が声を発する度に顎の骨が鈍い痛みを訴えて動くのもまた事実だった。

 

『信じらレネぇってか?だが、俺サマはお前の事なら何デも知ってンダぜ?家族にも言えネぇテメェの秘密……心の闇にツいてもなァ……』

「心の闇……?分からん!お前は何を言って———⁈」

『とボけてんじゃねぇヨ。家族の元ニ戻れて良かった、ダ?よく言ったモンだぜ。こんなシミッタレの家に戻りてェなんて思ってもイねぇんだろ?』

「ふざけるな!私を……我が家族を愚弄する事は許さんぞ!」

 

 嘲り笑う声にカルロスが怒りの声を上げる。やはりこいつは自分などではない。人の誇りを踏み躙らんとするただの侵略者だと断じて、全身に力を込めるが、やはり万力で抑えられたような体はピクリとも動かない。可笑しくて堪らないと言わんばかりに、“それ”がまた『クゥッヒヒヒッ!』と笑った。

 

『おキレイなフリは止せって。お前がどンな思いで娘にあんナ名前を付ケたのか……チゃぁんと知ってるんだからナァ……』

「……っ?…な……何を言っている……?」

『言って欲シイのか?リンディってのは、昔お前が懸想してたオンナの名前ダロ?…まァ、四等爵なんてチンケな生まレの所為で相手にもされなかったけどな!』

 

 頭を殴られた様な衝撃が、カルロスの全身に走る。足はふらつき、猛烈な目眩に襲われながらも倒れ込む事すらできない。カラカラに乾いた口を動かし、否定の言葉を述べようとしても、出てきたのは激しい息継ぎの音だけだった。

 

『クッヒッヒ……アワれ~なカルロス……。チ~ッポケな家に生まれタばっかに、決してイチリューにはなれヤしない。愛するリンディに振り向イて貰おうト騎士団に入ったのニィ~~……結局ダメ!全部パー!しか~たなく、ソコらの女でダキョーしましたっとさァっ!』

「…黙れ……」

『騎士だってナァ……ビンボーな下級貴族出身なんテ、どんなにドリョクしたってムダムダム~だ。デブリス何体切った?盗賊何人殺したっケ?あンなに頑張ったノに、殆ど出世もナシ!残ったモンはこんなボロッちい道場だけ!弟子の方が出世して偉くナラレルってどんな気分?』

「…黙れ……黙れっ……」

『娘にイトシのリンディチャンの名前なんか付けちゃってイチズな奴!いい齢にナったら〇ァックしてヤル気でもあっタか?ならねェよなァッ‼アイツもお前と同じで、トンだデキ損ないだ———‼』

「黙れと言っておるだろうがぁぁぁぁっっっっ‼」

 

 耐え難い怒りが金縛りを打ち破ったのか、カルロスの体が動き出し、突き出した剣が鏡を突き破った。だが、次の瞬間にはカルロスの体にも猛烈な衝撃が襲い掛かり、その体を部屋の隅まで吹き飛ばしてしまった。

 

『認めチまえよ。ラクになるぜ?』

 壁に叩きつけられたカルロスの体が、まるで操り糸に吊られた様な不自然な姿勢で立ち上がる。そのまま魅入られる様に刀身を覗き込むと、口の端が耳元まで裂ける程に持ち上がる……。

 

『俺サマはよ~くシってんだぜ?お前はこノ国で、他に比肩する者がイナイ程の剣士ダ。恐れるコトなんざ何もネェだろ?その剣腕で……あらユルモンをぶった斬れ』

「…しかし……そんな事は……」

 

『リセットしちマうんだ。妥協品のオンナも出来損ないの娘も、役立たずのシヨー人共も、全部放り捨テてラクになっちまえ。…お前を見下した世界ヲ、破壊しろ』

 

「…………………」

 

「…あの……旦那様?」

 コツコツとドアがノックされ、迷う様にゆっくりと開く。シングルステア家に泊まり込みで働いているメイドのサッシャが立っていた。カルロスの眠っている筈の部屋から物音が聞こえた為、気になって様子を見に来たのだった。

 

「失礼いたします。先程、何かがぶつかる様な音が聞こえたものですから———」

 サッシャがランプを掲げ、カルロスの部屋全体を照らし出す。窓際を向き、何故か剣を覗き込んでいたカルロスの姿が浮かび上がり……。

 

「…ヒッ……⁉」

 

「…サッシャ……ダメじゃなイか。主人の部屋に、許可も得ズに入ってシマってはァ……」

 

 主人らしからぬ空気漏れの様な低い声に囁かれ、メイドが息を呑んだ。カルロスが身に纏っていたローブは、まるで細かい金属片がいくつも突き刺さったかの様に引き裂かれている。それだけでなく、部屋中には腐った肉の様な臭いが充満していた。それだけでも異常事態だというのに、更に今度はカルロスがこちらへと向き直り……否、()()()()()()()()1()8()0()()()()、サッシャを睨み据えて嗤った。

 

「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ??!!」

 

 メイドの悲鳴と獣の様な咆哮、次いで肉を断ち切る異音。

 それが悪夢の様な夜を彩る、最初のメロディーとなった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 何故歩き続けているのだろうか。

 いつもの言葉が内奥から染み出して、浅い眠りに包まれていたレイトの意識を揺り動かした。目覚めた先に見えたのはルネアの灯りが差し込む、無闇に高い天井だった。

 

 せっかく眠りかけていたところだったのに……と、しょぼくれた目を擦りながら少し汗ばんだ肌着の襟元をはためかせて、眠っていた部屋の中を見渡した。

 

 レイト達に与えられた家屋敷——シットラス邸の一室だった。ジェイクとまさかの再会を果たした後、ジークバルドの作った簡単な夕食を味わい、風呂にも浸かって、こうしてベッドに潜り込んだ訳だが……どうにも居心地の悪さを感じてしまっていたのだ。

 

 多分、この部屋が無意味に広い所為だ。窓の高さなどレイトの身長の1.5倍はありそうだし、更にその奥には専用のバルコニーまで備え付けてある。置かれたベッドと机、衣装箪笥も装飾が見事な品だったが、他の家具などはまだ配置されていない為、却って寒々しさを増してしまっているのも事実だ。新たなシットラス邸の主にと与えられた部屋がここだったのだが、現代日本の住宅や狭い宿屋の部屋に慣れ切ったレイトには、却って落ち着かなかった。贅沢を言っている様で申し訳ないのだが、こればっかりは染みついた性根だからどうしようもない。その内、慣れてくると思えばいいのだろうが……そんな未来図はどうしても想像できない。

 

「…イヤ、これはそれだけの器の男になれって言ってるのかな、あの女王様は……」

 

 もし落ち着かないなどと申し上げてみたら……『あらあら、当代のディライト様は男としての器が小さくていらっしゃるのですね♪』と嬉々として笑いそうだ。今日初めて会っただけの人物なのに、何故かそれに関しては確信を持って思えた。そう考えると何だか癪で、再びベッドに横たわるが……やっぱりこれだけ広いベッドなのに、妙な息苦しさを感じてしまう。

 

 …否、逆に広すぎるのだろう。流石に大袈裟な天蓋付きベッドとまではいかないが、人間なら2人……いや、3人くらいなら横になれそうだ。最もそんな貧乏くさい発想しか持てない辺り男の器が……とまで考えたところで、急に同じ屋根の下で暮らしている少女たちの顔が思い出されて、頬が急速に熱くなった。

 

 何を考えているんだ何を。急に一軒家の主になったからと言って、そんな発想に至るのはどうかと思う。男の器とはそういう意味ではないし、大体今はそんな事を考えている状況では……と、ひとしきり懊悩した刹那、唐突に「レイト、急いで起きて‼」という声がドアを叩く音と共に聞こえた。

 

「アイリィ?」

 先程まで不埒な妄想に陥りかけていた後ろめたさもすっ飛ばして、レイトは勢いよくベッドから跳ね起きた。この状況には既視感がある。あの時の彼女の声も、今と同じく強い焦りを帯びていた。床の放り出していた衣服を急いで羽織り、扉を開ける。

 

「アイリィ、何かあったの?まさか……」

「…まだ、詳しい事は分からないの……。ただ、フォルスの一角から火の手が上がってるのは事実で……。…ジークの話だと、シングルステア家じゃないかって……」

「…………………っ⁉」

 

 アイリスの話を聞いた瞬間、レイトは急いで駆け出し、ドアを蹴破る勢いで館の外へと飛び出した。シングルステア家の屋敷は周囲の農村地帯の中では目立つ方だ。それに、当主のカルロスが謎の病から回復したばかり。何の確証もないが、嫌な予感だけはひしひしと感じられた。

 

「ユニオ‼」

「なぁによ、騒々しいわね」

 庭の隅に建てられた木製の小屋を押し開けると、中にいた金属製の一角獣が大儀そうに身じろぎをした。庭の一角にかつて馬小屋として使われていたスペースがあった為、彼の住まいとして使う事になったのだ。

 

「しっかし私の出番もかなり久々よねぇ。いくらニチアサ的にはバイクが出し辛いからって、一応はキャラクター化してる存在をこんなに放っといていいのかしら?」

「訳の分かんないコト言ってんじゃねぇ!いいから乗せてけ!」

 はいよ、とユニオが小屋から進み出て、僅かに姿勢を低くする。鐙に足を掛けるとそのまま鞍へと一気に跨る。ハンドルを握りしめ、前進の意思を伝えると、夜道をユニコーンが全力で走り出した。見通しはかなり悪いが、眷族器であるユニオにはこの程度では関係がない様だ。後方ではマヤ達もマシン・エリアルファングをフィジカライズさせ、ユニオに追従する形で走り出した。

 

 フォルスの中心地点であるカトルス区から多くの悲鳴や怒号が聞こえてくる。中には女性や子どもを中心に逃げ出していく人々の姿もあった。アネスタでは対デブリス襲撃を想定した避難や兵士の対応訓練がよく行われているという話だったが、やはり実際に事が起こるとそう簡単にはいかないのだろう。

 …若しくは、今回の襲撃があまりに唐突だったのか。飛行タイプのデブリスなどが襲撃をかけて来たのだとしても、比較的内地寄りのフォルスが最初に襲撃されるというのはどうもおかしい。普通はもっと外側のフィルやシクスのサテライト都市が最初に攻撃されるのではないだろうか?それにここから見る限り、燃えているのはシングルステア家の屋敷だけの様だ。デブリスだとしても、一体どこから侵入し、何を目的にしているのか……。様々な謎を抱えたまま、家屋敷前の広場でユニオを停止させると、炎を取り囲む様に複数人の騎士達が武器を構えて立っていた。その中に見慣れた鎧姿を発見する。

 

「ジェラルドさん!」

「おう、レイト君か……。すまないな、初日から大変な事が起き続けで……」

「構いませんよ。それより、どういう状況ですか?カルロス公やリンディ達は———」

 レイトの言葉を遮ってジェラルドが無言で前方を指し示す。その先に、炎の逆光に彩られて複数の人影が蠢いているのが見えた。

 

「お父さんっ!やめて……やめて下さいっ‼」

「師匠っ……!どうして、こんな事を———⁈」

 剣を構えたオリヴィエ・グロリアズと、その背後で血と煤煙で汚れたネグリジェを纏っている2人の女性、リンディと恐らくその母親だろう。リンディは背後に母親を庇いながら、戦場でも握っていた長剣を前方へと突き付けている。震えるその先にいた人影は……。

 

「……っ!カルロス公……何でっ……⁈」

 

 2人以上に体中を血で染め、両手に剣と火のついた松明を握っている男……それは間違いなくリンディの父親である、カルロス公で相違なかった。だが、全身を血で染めていなくとも信じ難かった。娘たちに注ぐ目は瞳孔が引き絞られて異様に炯々と光っており、口元も口角がせり上がって異様な笑みを浮かべていた。返り血から覗く地肌もやけに土気色に染まっており、夕刻に出会った時の様な紳士然とした面影はどこにもなくなっていた。

 

 それに何より決定的なのが……カルロスの足元に土饅頭の様に積み上がった、屍の群れ。服装からして、恐らくシングルステア家に仕えていた家令達ではないだろうか。ある者は全身を滅多切りにされ、またある者は首や腕があらぬ方向に折り曲げられている。そのあまりの行状に言葉を失くす一同をカルロスは満足そうに見やると……まるでこちらを嘲る様に脚元の遺体に剣を勢いよく突き立てた。ズブズブという肉が引き千切れ、内臓が潰される音と、噴水の如く噴き上がった血、猛烈な死臭が周囲一帯に広がり、リンディの母が「ひぃっ⁈」と悲鳴を上げてその場で失神してしまった。それを見たカルロスが捻じれた口角を吊り上げると……ゴボゴボという気味の悪い笑いを迸らせた。

 

 明らかな人格変容に、人間離れした膂力。更に以前の面影を感じさせない程に変容した顔つき。もはや疑いようがなかった。

 

「あれが……例の病?」

「…でも……カルロス公は治っていた筈だろ?それがどうして———?」

 

「あァ?そんなモン、決まってんダロが」

 

 カルロスが顔中をニヤケさせ、振り返った——否、地面に頭が着くくらいまで体をそっくり返した、所謂ブリッジの姿勢でこちらを見遣って来た。口腔内からどす黒く長い舌が蛇の様に這いだし、レイト達を挑発する。マヤが怯えた様にレイトの背後に姿を隠した。

 

「二度と会エないと思ってたパパが帰ッテきた!ナのに、そのパパが家族ミンナをコロしちゃいました‼その方がお前ラをヨッポド恐怖させらレるってなもんだゼッ‼」

「…何なのだ、それは……!貴様!やはり師匠ではないな⁉」

「違う!…とでも、言って欲シイか?ざぁん念っ!そのトーリッッ‼」

 薄汚い唾を撒き散らしながら、カルロス——否、“それ”が嗤う様に言い放った。

 

「病気が治った振りをして、家族の元に戻ったというの……?…こんな事をする為に……?」

「オウよ。ナカナカにいい趣向だろウ?光明が見えタト思ったら、キノセイでしたァっ‼てな。俺サマってばなんてカシコイ!」

「…ふざけるな……ふざけんな‼あんた何者なのよ⁈お父さんを返してよっ‼」

「…っ!リンディ、待ちなさ———!」

 

 踊り狂う“それ”に怒鳴りつけたのはリンディだった。口元は恐怖に震えていても、橙色の瞳に精一杯の怒気を込めて、“それ”に斬りかかっていった。だが、“それ”は怠そうなため息を1つ吐くと、適当な横薙ぎだけで彼女の剣を弾き飛ばしてしまった。

 父に鍛えられた剣技が、まるでそれを冒涜する様な一撃だけで弾かれてしまった。驚愕と屈辱に歪むリンディの胸倉を“それ”の手が掴むと、そのまま引き千切る程の勢いで彼女の体を投げ飛ばした。

 

「きゃあぁぁっっ‼」

「リンディ⁈」

 

「返せ……ネェ。なかなか泣かせるジャねぇカ。ソンならお望み通り……」

 

 “それ”が呟くと、右手に持った剣をゆっくりと自身の額に押し当て……そのまま勢いよく股座まで一気に切り裂いた。傷口から勢いよく噴出した血が、しかし瞬時にどす黒く染まり、一対の“腕”へと形状を変化させた。その腕が乱暴に傷口へと挿し込まれ……オリヴィエが制止の声を振り上げるが、構わずに左右へと思いきり切り裂いた。

 

「クゥゥゥッッヒヒヒヒヒヒヒッッッッ‼ようヤく、実体化できたゼェェェェェェッッッッッッ‼」

 

 哄笑と共に一体の怪物がその場に顕現した。骸骨の様な頭部に、蛇にも似た切れ長の瞳。背後には蝙蝠の様な羽根を生やしているが、あの小ささでは飛行できるかも怪しい。人の骨組みに筋繊維が張り付いた様な漆黒の身体の足元に、2つに裂けた人間の皮が何かの冗談みたいに転がっていて……。

 

「…いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!」

 

 皮だけになった、かつて父だった遺骸を見せつけられたリンディが遂に鋭い悲鳴を上げて、その場で失神した。あまりに凄惨な光景に若い騎士団員達の何人かもその場で蹲って嘔吐している。

 

「…そんな……あれは……『デモニッククラスタ』……!」

 

「…なん、だとっ……⁉アレが……」

 

 その光景を眺めて嬉しそうにステップを踏む怪物を見つめながら、アイリスが震える声で呟く。彼女のその言葉にその場に居合わせた全員が身を固くし、表情を引き攣らせた。

 

 悪魔系統(デモニッククラスタ)。それはデブリスに関わる者にとっては最悪の言葉だ。未だにその多くが謎に包まれているが、極めて強力な力と毒性、悪辣な知性の限りを尽くして、多くの人類を恐怖に包んできた。何よりも、その名を冠する者が生まれるという事は……。

 

「さァッ!恐れ竦みヤガレ人類共ォォォッッ!俺サマの名は『ディアバル』‼ここからはァっ、恐怖の時代の到来だァァァァァァッッッッッッ‼」

 

 




という訳で、今週は以上です。

ずっと語ってきた病……なんとなく予想してきた方もいると思いますが、悪魔系統デブリスの仕業でした。怪物図鑑などでその存在をずっと匂わせていましたが、遂に満を持して出せました。
今までのデブリスとはまた毛色が大きく異なる存在になります。まだ言えない事もありますが、取り敢えずはエルシングス級の強さを持っている存在と思って下さい。
…因みに、今回かなり映画『エクソシスト』のオマージュを入れてます。悪魔憑き系のホラー映画って凄く好きなので、今後その手のオマージュがかなり入って来ると思います。

それでは、また来週っ
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