仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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Saga20 ザ・コンジュリング~闇に呼ぶ声~③

◇◇◇◇◇

 その名は、滅び去った者の象徴。

 

 その名は、今や伝承の中にしか存在せぬもの。

 

 だが。

 

 その名は、未だ絶対的な恐怖として、人々に刻まれるもの。

 

「さァッ!恐れ竦みヤガレ人類共ォォォッッ!俺サマの名は『ディアバル』‼ここからはァっ、恐怖の時代の到来だァァァァァァッッッッッッ‼」

 

 シングルステア家当主・カルロス公の皮膚を食い破って生まれた漆黒の怪人は、自らそう名乗った。その場にいる誰もが息を呑み、中には腰を抜かしてその場にへたり込む者もいる。総じて恐怖に引き攣る人々の顔を睥睨しながら、怪人は「いイねイいネェッ‼」と表情の見えない髑髏状の面相を、しかし確かに喜悦に歪ませた。

 

「ソの恐怖!そノ絶望‼それでコソ俺サマの力も増すッテものだぜェェッッ‼」

 

 明々と輝く炎の照り返しを受け、怪人の姿が克明に浮かび上がる。人の皮を剥ぎとり、人体を醜悪に歪めた様な悍ましい姿は、正しく人が想像する悪魔の如し。

 …否、実際に悪魔なのだ。この目の前の怪人は。

 

 人間がデブリスに付けた7つの系統の中に、『悪魔系統』と呼ばれる種別が存在している。が、図鑑や関連書籍などにおいてもその存在について言及しているものは少ない。無理もない。デモニッククラスタに属する怪物達は、その目撃例や交戦記録も少なく、何よりも他のデブリスとも一線を画す存在だからだ。

 

 河童であろうとドラゴンであろうと、例え外見を宝箱に偽装しているミミックであろうと、デブリスにも他の生物と同様の生態情報——どこに分布するか、どの様な習性を持つか、何を餌とするか、などの情報——が必ず存在している。それらを知る事で、人間側でも彼らに不必要に彼らに接触せず、回避・防御を行う事が出来るのだ。

 だが、デモニック達は違う。記録が開始された段階からその存在に関しての記述があるにも拘わらず、彼らがどこから現れ、この世界でどの様に生きているのか……そうした情報の一切が白紙のままなのである。

 

 理由は単純明快。解らないからだ。多くの行動生態学者やハンター達が血眼になって探ろうとも、彼らが“生きている”という痕跡の様なものは一切発見できないのだ。どれだけ目撃例を辿ろうとも、彼らは最終的に煙の様に消えていなくなってしまう。まるで、初めから存在しなかったかの様に……。

 

 だが、彼らは間違いなく存在する。デブリスの中でも明確な意思を持ち、幾度も人の世に恐怖を撒き散らしてきた敵の姿を睨み据え、「…見くびるなよ」と最初に声を上げたのは、土のパラディン・ジェラルドだった。

 

「何がディアバルだ?甚だ図々しい。お前は『リコン』……ただの中等級悪魔だろうが。ぶった斬られりゃ死ぬ……ただのバケモノだ」

「…チッ……。クソ人間が……下等生物らしくブルってりゃ、ラクに殺してやったノニよぉ……」

「人間を舐めるなよ……!総員構えぇぇっっ‼」

 

 地鳴りの様なジェラルドの声に叩かれ、騎士団全員が慌てて応で答えて武器を構えていく。相手はもう正体不明の怪異ではない。『リコンデブリス』と呼ばれる、低級な悪魔系統の1体で、僅かながら人間との交戦記録も残っており、有効打となるエレメントも分かっているのだ。

 ジェラルドとオリヴィエに並び、レイト達も戦の先駆けとなるべく前へと進み出た。少女たちは各々の武器を構え、そしてレイトも腰にディライトドライバーを巻きつけ、更に2つの霊薬を装填したライドレンジアッパーを取り付けた。

 

〈ライト!シルバー!レ~ン・チン‼〉

「変身‼」

〈ブートアップ、ディライト‼サイバネティック・ハイパーブレイバー‼ミスリックレンジャー‼〉

 光に包まれたレイトの体が一瞬で仮面ライダーディライトの姿へとチェンジした。瞠目する騎士団員達を尻目にソードモードに変形させたトランスラッシャーを構え、リコンデブリスへの距離を一瞬で詰める。

 

「はっ!」

「甘いンだよ!」

 

 カルロスが握っていた宝剣は今や全身がリコンの体組織と似た物質に覆われ、トランスラッシャーの一撃を受け止めてもビクともしない。鍔迫り合いが一瞬で解かれ、唸る波の様な剣捌きがディライトの装甲に次々と火花を咲かす。苦悶の呻きを上げたディライトが脚部のブースターを展開し、後方へとステップすると、それと入れ替わる様にオリヴィエとジェラルドがそれぞれの武器を怪物へと振り上げていた。

 岩をも砕く斧槍・ディアレストベル。

 自在の切れ味を誇る半弧の双剣・オートクレールとグローリーユーズ。

 国家最強の2大神聖騎士の連続攻撃は、今までどれだけの大型デブリスが相手であっても、敗ける事はなかった。

 

 だが、再び「クひゃひゃひゃひゃッッ‼」と癇に障る嗤いを上げて、リコンは流れる様な剣捌きで彼らの攻撃を受けきって見せた。デブリス由来の桁外れのパワーはあるにしても、とてもそれだけでは説明がつかない。これだけの芸当がこなせるのは、磨き上げられた一流の剣術があってこそだ。

 

「グッ……!これは……師匠の技か……⁉」

「そーサぁっ!ナンせアイツの頭の中身は全部俺サマが頂いちマッてるからナァ‼」

「……っ⁈…貴様……!ふざけるなぁっ‼」

 

 師の命を奪い、数々の非道な悪行を働き、そればかりか彼が人生を懸けて紡いできたものを我が物顔で振るうとは!許し難いという熱量がオリヴィエの脳を沸騰させ、剣速が更に加速する。

 だが、怒りは冷静な状況判断を狂わせる。実際、オリヴィエはジェラルドに歩調を合わせる事なく突出し過ぎていた。前に出過ぎれば、大振りなディアレストベルでは援護できない瞬間というものが必ず生まれる。哄笑しながらもその瞬間を冷徹に見極めていたリコンの脚が素早く振り回され、オリヴィエの胴部脇を強かに蹴り上げる。体勢を崩した彼女の首筋に目がけて、真っ直ぐに斬撃の光が煌めき———。

 

「ぬんっ‼」

 転瞬、ジェラルドの体躯がオリヴィエに覆い被さり、土のパラディンの権能『塊壁』の力で攻撃を受け止めた。絶対防御の障壁に阻まれ、リコンの刃が呆気なくへし折れた。

 

「なんダとぉうっ⁈」

「よぉしっ!任せたぞお前らぁぁっっ‼」

 ジェラルドの叫びに応えて、ディライトとアイリスが彼らとスイッチして飛び出した。

 

〈メガワット‼〉

「はぁっ!」

 ディライトの下肢のオーバーフライタービュラーが展開し、怪人のインファイトの距離まで一気に肉薄した。そしてアイリスの胸のレインクリスタも輝きを放つ。リコンの弱点属性である水のエレメントがレイヴァクロスとウェイビングローブの動きに連動、まるで踊る飛竜の如き動きで怪人を切り裂いていく。

 

「テンメェッッ……!ガキンチョの勇者ごっこゴトキがチョーシコイてんじゃ———!」

「もうヒーローごっこじゃない!必ずお前らの恐怖から、この世界を解き放つ……そう誓ったんだ‼」

〈メガ・ヴァリアントフラッシュ‼〉

 

 アイリスのウェイビングローブとロープ状に精錬された水エレメントがリコンの四肢を拘束して自由を奪うと、胴部目がけて鋭い切り上げを放つ。浮かび上がったリコンに更に追い打ちをかけるかの如く、ディライトがキックでその体を上空へと蹴り上げた。

 

「ガハァァッッ……‼バ……カな……!コンくらいで、俺サマが——‼」

「頑丈だなぁ……。それならっ!」

 後方に控えていたマヤが錬創錫杖『アンサーラー』のスロットに風と銀の霊薬を装填する。錬真力の作用を受けてチャクラムの様に精錬された銀が風を纏ってリコンへと殺到する。更にゼオラの投げた大型炸裂弾『星雷』から撒き散らされた金属片と併せて、悪魔の体をズタズタに引き裂いた。

 

〈ミキシングバニッシュ‼〉

「これで、終わりだ!」

 苦悶の叫びを上げて地面へと倒れ伏したリコンに止めを決めるべく、ディライトがミキシングラッシャーを構えて走り出す。銃身下部に取り付けられた刃が破邪の光を帯びて悪魔の体を切り裂かんと迫る……が、その瞬間、怪人の口の端がニヤリと吊り上がり……。

 

「…や、やめてくれっ‼私はまだ生きている……!助けてくれ、ディライト様‼」

 

「………………っ⁈」

 

 刃が振り下ろされる転瞬、怪物の体が元のカルロス公の姿へと戻り、制止の声を上げた。動揺したディライトの体がピタリと止まる……が、その瞬間再びニヤリと笑ったカルロスの姿がリコンのものへと戻り、ディライトの胴体を思いきり蹴り上げた。

 

「甘いんダよぉっっ‼」

「ぐはぁぁっっ⁈」

「カルロスパパが戻って来たトでも思ったかイ?ゴシューショーサマァァッッ‼」

 

 指先の爪が容赦なくディライトの装甲に食い込み、火花と鋭い裂傷が上がっていく。ブースタースケルトンを食い破る程の衝撃と敵のあまりの悪辣さに、レイトの脳の一部が焦げ付く様な熱を発しているが、敵の猛攻に晒されて反撃の一手が出せない。好機と見たリコンの爪に自身のエネルギーが収束し、そのままディライトの仮面を食い破ろうと煌めいた。

 

 転瞬。

 

 目も眩む様な閃光と共に、球形の衝撃波が夜闇を引き裂いて飛翔し、ディライトとリコンの両者を纏めて吹き飛ばした。攻撃が飛来した方向にアイリスが目を向けると、2人の人影がゆっくりとこちらへと歩み寄って来ているところだった。

 

「あなた達は……」

「ディライトにパラディン、それにディアバルの下っ端悪魔……なかなかに千客万来ね、ネメシス?」

「そうだね。手間が省けて丁度いい」

「なンだテメェらはっ⁈この俺サマをイズれディアバルの器になりエル存在だと知った上で———‼」

 

 立ち上がった悪魔が、顔貌を精一杯の怒気に歪ませて叫ぶ。だが、ネメシスと呼ばれた青年はまるで臆した風もなく高笑いで応じた。悪魔への恐怖感も塗り込めてしまう程に、酷薄な笑い方だった。

 

「君がディアバルの器に……だって?それはムリだね。君みたいな出来損ないでは、格が違い過ぎる」

 

〈Superior Driver……〉

 ネメシスがコートを捲り、そこに円形のベルト——『スペリオルドライバー』を取り付ける。シュルシュルとベルトが巻き付くと、ペンダントトップのルーンドラッグを取り外して、中央部へと装填した。

 

〈Take……Dark Rune……!〉

〈On Your Mark……Get Set. On Your Mark……Get Set.〉

「変身」

〈Falling……. I am Nemesis.All I need is“SACRIFICE”……!〉

 

 漆黒のボディに、それとは対照的な白の装甲群。その姿はこの世ならざる力を宿した天使にも見えれば、二又の槍を振り上げて構える様はやはり命を刈り取る死神の様でもあった。再び姿を現した仮面ライダーネメシスの赤い単眼がギュオンと輝き、リコンを睨み付けた。

 

「さァ……天罰の時間、だっ‼」

「ふざケんな!たかが人間フゼーが俺サマを見下してんジャ———‼」

 

 ネメシスが相変わらず音もなくステップし、次の瞬間にはリコンの懐まで肉薄していた。漆黒のオーラを纏ったネメシスサイザースが振り上げられ、リコンの体を鋭く切り裂く。その威力以上に、更に想像を絶する痛みが悪魔の脳天から爪先まで突き抜けていき、その口腔から初めて本気の絶叫が漏れ出した。

 

「コレはっ……『闇属』の力ダトっ⁈ンなバカな……⁉たカガ人間如きに、この力をアツカえるなんて———‼」

「理解力がないなァ。だから君は出来損ないだと言うんだ」

 二閃、三閃……と槍が煌めき、どす黒い悪魔の血が撒き散らされる。周囲が絶句する程の猛攻に晒されつつも、リコンも負けじと爪を振るうが……その全てがネメシスの肉体を素通りするばかりで、傷1つ付けることが出来なかった。

 

「ソんなバカな……⁉」

「残念。全く効かないなァ」

 

 ネメシスがリコンの腕を掴み取ると、爪に向けて乱暴に槍を振り下ろした。破砕音と共に爪が手首ごと両断された。堪らないとばかりに翼を展開してその場から跳躍しようとするが、ネメシスが槍のグリップを押し込むと、先端部の刃が咢の様に開き、光弾がショットシェルさながら広範囲にばら撒かれる。

 体中から血煙を上げて倒れ込むリコンに追い打ちをかける様に、ネメシスサイザースが突き出される。刃が開き、リコンの体を鷲掴みにすると、そのままゼロ距離で光弾を解き放った。石畳の上に無様に転がったリコンを嬲る様に、ネメシスが一歩一歩と距離を詰めていき……。

 

「やめっ……やめてクれっ!…そうだ、この男はまだ人間に戻せるっ!俺サマをコロせば、それも出来ナク———!」

 

「へェ、そうかい。でも、それは僕には関係ない」

〈3 Knock Turn……〉

 

 ネメシスがスペリオルドライバー中央に装填されたルーンドラッグを3回押し込み、ベルト脇のグリップ『ギャラクシスハンドラー』を押し込んだ。ルーンドラッグに内包された闇属のエネルギーがネメシスの両脚へと収束していく。

 

〈Nemesis Execution……!〉

 

 ネメシスの右脚が振り上げられ、リコンの側頭部に強烈な回し蹴りが炸裂した。だが攻撃はまだ終わらない。その一撃の後に今度は左脚にエネルギーを込め、今度は胴部に向けて素早く後ろ蹴りが放たれる。蹴りの威力もさることながら、纏わりついた闇のエネルギーがリコンの全身を駆け巡り、その体に破滅的な破壊を齎していった。

 

「ギャアァァァァァァァァァァッッッッッッッッ??!!」

 絶叫するリコンの身体が炎に包まれて爆砕した。仮面ライダーネメシスは勝利の感慨に身を浸す様子もなく、ただ煩わしそうに首を鳴らす。

 

 悪魔の名を冠する怪物をあっさりと撃滅してみせた謎の戦士。兵士達の多くがその圧倒的な力に呆気に取られている中、ジェラルドとオリヴィエは己の武器をネメシスに突き付ける。不信と敵対心がその表情にはありありと浮かんでいる。

 

「貴様が、仮面ライダーネメシス……。ローランを殺したのは、お前だそうだな……」

「ローラン?…あァ、炎のパラディンか。正確には彼の力さえ奪えれば良かったんだ。殺してしまったのは……まァ、事故みたいなものさ」

 

 ネメシスが腰のホルダーからオレンジ色のルーンドラッグを取り出し、見せつける様に掲げる。炎を意味する紋様が刻まれたタブレット型の石。先の戦いでローランから簒奪した力を吸収したモノで間違いないだろう。挑発する様なネメシスの仕草に、ジェラルドが「貴様……!」と憤怒の形相も凄まじく吠えた。

 

「返せ!それは我らの祖先が勇者より賜った力だ。貴様の様な奴に———!」

「いいや、元を正せばコレは僕たちの力だ。君たちの力も含めて、全てあるべきところに返して貰う。…勿論、君のもだ」

 ネメシスが神聖騎士とディライトを指差して宣言する。だが勿論そんな言葉に従う者はいない。「ふざけるなよ……!」と反駁したディライトがダメージを押して立ち上がり、ミキシングラッシャーの切っ先をネメシスに向けて突き付けた。

 

「デブリスがいる限り、この世に多くの悲劇が齎される。それが分かっていても……この力を明け渡せなんて言うつもりか?」

「言ったろう?僕には関係ないってね」

「…………っ!…それなら、やっぱりアンタにこの力は渡せない。これ以上、そのふざけた名乗りもさせない!」

「…やれるモノならやってみなよ、借り物の英雄風情が」

 声音に明確な苛立ちを滲ませて、仮面ライダーネメシスがヌラリと影を纏って動く。迫りくる槍をディライトはオーバーフライタービュラーを展開し躱すと、ミキシングラッシャーを横薙ぎに振るった。だが、ネメシスはそれを読んでいた様に左手を振り上げてその一撃を弾き返す。

 

「……………っ⁈」

「躱すとでも思ったかい?君如き、真正面からでもねじ伏せてやれるんだよ」

「…そうかい。ならっ!」

〈ギガワット!〉

 

 ディライト上肢のオーバーグロウタービュラーが展開し、パワーを瞬間的に増強させる。ネメシスのガードが打ち破られ、ディライトの拳が胸部装甲へと火花を散らして激突する。ネメシスが後方へと吹き飛ばされると、ミキシングラッシャーのフォアエンドをスライドさせ、その銃口を突き付ける。

 ゴォン‼と、銃口から光弾が迸り、ネメシスへと殺到する。だが、ネメシスがベルトのルーンドラッグを1回押し込み、ハンドルに手を掛ける。〈Nemesis Trial……!〉の音声と共に、仮面ライダーネメシスの体が不意に輝いたと思うと……次の瞬間、その体がフッと煙の様にかき消えた。

 

「なにっ……⁈どこに———?」

「こっちだよ」

 

 ディライトの背後、そこに突如としてネメシスが出現し、サイザースの刃を叩きつけた。火花を上げて倒れ込むディライトだったが、その直前に反撃の一撃を振るう……が、またしてもネメシスの姿は消えてしまった。

 一瞬、瞬間移動かなにかかと思ったが、消失から再出現までには多少のラグがある。単に姿を消しているだけだと断じて、全身のセンサーを起動させる……が、ネメシスを捕捉する事は叶わなかった。またしても出現したネメシスが、今度はディライトの胴部にゼロ距離でサイザースの銃口を押し付けて、数発の火砕弾を発射した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっっっっ‼」

「瞬間移動……⁈そんな事が———」

「無駄だと言ったろう?君達では、僕を捉える事すらできない」

 姿を消したネメシスが一撃また一撃と、ディライトを少しずついたぶっていく。足音もなく、ただ金属同士の激突音だけが不気味に夜を彩っていく。

 

 さながら、その存在は影。

 あらゆる光を飲み込み、その全貌を掴む事もできない、闇の虚空。

 

 その力に、その場にいる誰もが果てしない恐怖を感じる。ネメシスはそれを仮面の奥で嗤うと、指をパチリと鳴らした。転瞬、前進に装備された放熱板の様なパーツが分離する。

 

 戦闘支援型衛星端末『サテライターズ』。その名の通り、ネメシスの周囲を飛び回る攻撃端末は、再度打ち鳴らされた指の音声に反応してディライトへと襲い掛かっていった。

 

「くっ……⁈」

 先端部に装備された砲塔から細身のレーザーが網の目状に放たれ、ディライトの周囲一帯を焼き払う。ハイレンジプレディクションがフル稼働している影響で何とか躱しきれているが、元々全身のブースター共々レンジャー形態の能力はレイトの体に大きな負荷をかける。先程から指先や脳髄に僅かな痺れの様な感触を覚えており、早いところ決めなければマズいと感じさせるが……やはり、仮面ライダーネメシスは能力・スペックの両面において、ディライトの上を行っているのは間違いない。

 

「レイト———‼」

「来るな!誰も……来るなっ‼」

 これ以上の犠牲者を出す訳にはいかない。ならば……最大出力で短時間の正面突破を試みるよりない。ディライトの手がライドレンジアッパーのダイヤルへと伸び、3回転させた。

 

〈テラワット!〉

 全身のブースターが展開し、ディライトの出力が限界まで強化される。ツインブレードモードのトランスラッシャーを左手に出現させ、ミキシングラッシャーの銃火を前方広範囲に一斉射した。直撃は全てあの分離端末が防いでしまったが、相手の視界を封じる事は出来た。トランスラッシャーのトリガーを長押しする。

 

〈ヴァリアントハリケーンスライサー‼〉

 両腕に刃を構えて、ディライトが一直線に加速した。土煙を蹴破り、トランスラッシャーの旋刃がネメシスの胴部へと達しそうになる……が、ネメシスは慌てる事なく、炎のルーンドラッグを取り出し、ベルトへと装填した。

 

「言ったろう?正面からねじ伏せてやるってね」

〈Take……Flare Rune……!〉

〈On Your Mark……Get Set. On Your Mark……Get Set.〉

 ネメシスがハンドルを押し込むと、その体が炎の様な赤い光に包まれた。

 

〈Falling……. I am Nemesis.The REGISTER will be go down in flames(その抵抗は、無意味だ)……!〉

 

 ネメシスの身体に纏わりつく装甲が赤とオレンジのグラデーションカラーへと変わり、周囲を飛び交っていたサテライターズがその背部に花弁の様な形で配置された。

 その姿は正しく太陽の神。驚愕するディライトの一瞬を突き、ネメシスサイザースと背部のサテライターズが一斉に赤い火線を解き放つ。光弾は着弾した先から爆発を巻き起こし、ディライトを包み込んでいった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ⁉」

「何をしようと無駄だよ。勝敗は既に決している」

〈1 Knock Turn……. Nemesis Trial……!〉

 ルーンドラッグのエネルギーが再チャージされると同時に、サテライターズが傲然と回転を始める。転瞬、そこから不可視のエネルギー波は照射され、ディライトを包み込んだ。

 

「なっ……⁈これは……⁉」

 肉体的なダメージはない……が、頭部のメイクハイヴィジョンにノイズが走り、各所のブースタースケルトンもスパークを上げて、次々と機能を停止し始めたではないか。重みに耐えかねる様にディライトの手がガクリと落ち込み、膝から倒れ込むと、その変身が解除された。呆然とするレイトに迫りながら、仮面ライダーネメシスが嘲る様に忍び嗤う。レイトが慌てて再変身を試みようとベルトに手を掛けるが……出来なかった。横のレバーをどれだけ押し込もうとも、ディライトドライバーはウンともスンとも応えなかった。

 

「この……!」

 異変を察したアイリス達が援護に出ようとするが、やはり握った武器類が尽くその機能を停止していた。

 

「…お前……何をしたんだ⁈」

「残念だったね。この形態——『フレアプラネッツ』のコロナストームを浴びたものは、その機能を停止する……。一時的でしかないのが難点だけどね」

 だが、例え一時であったとしても、変身できないただの人間を屠るのに大した手間は必要ない。そう嘲り笑ったネメシスの槍がレイトを貫かんと振り下ろされ……。

 

 

 

 

 転瞬。

 

〈ライトグラム‼〉

 ディライトの目の前に突如として影が飛来し、ネメシスサイザースの一撃を弾き飛ばした。両の手に2つの刀剣を握る青き姿は正しく……。

 

〈刀光剣影!ソーディアライトブレード‼〉

 

「ハイル‼」

「よぉ、待たせたな」

 

 ディライトを振り返らずに、青い戦士——仮面ライダーソーディアが2つの剣を振りかぶってネメシスへと突進した。左手に持っている幅広の剣は今まで見た事がない物だが、ソーディアの速度はかつてない程に速い。これにはネメシスも虚を突かれた様で、槍を振り上げてすんでの所で攻撃を防ぎきる。が、即座に右のデウスカリバーⅡの薙ぎ払いがネメシスの脇腹に叩き込まれた。

 

「…………っ!」

 仮面の奥を初めて苦悶に歪めたネメシスが即座に後方へと跳び、サイザースとサテライターズから火球を放つ。だが、ソーディアはデウスカリバーとグラムバスターの2振りを縦横無尽に振るい、全ての攻撃を防ぎ切った。

 

「…ハイル・ランドナー……仮面ライダーソーディアか。もうこの領域まで達していたとは……」

「へぇ、俺の事も知ってるのか。だったら、これも知ってるよな?俺を怒らせたら、どうなるのか……」

「…舐めるなよ。いくら高みに至ろうとも、たかが人間の君では僕のレベルまでは及ばない」

「そうかい。なら……試してみるか‼」

 デウスカリバーが勢いよく地面に叩きつけられる。瞬間、猛烈な勢いで煙が舞い上がり、周囲一帯へと広がっていった。

 

 土埃……ではない。仮面ライダーソーディアが取り込んだ魔剣『煙羅』の力である噴煙か。目晦ましのつもりだと言うのだろうか。バカバカしい。人間の目ならいざ知らず、サテライターズに内蔵された高感度センサーには関係がない。端末がネメシスの体から分離し、周囲を飛び回って濛気を払っていくが……そこには1人の姿もいなくなっていた。

 

「……っ⁈しまった……」

 

 事前の調査によると、ハイル・ランドナーという人間は仲間を傷付けられると激情に駆られる性格だと思っていたが……だからこそ、この状況下で撤退に走るとは思っていなかった。こちらの慢心を上手く利用された事を察し、ネメシスが激しく舌打ちを漏らす。

 ベルトからルーンドラッグを抜き出し、人間の姿へと戻ったネメシスに戦いの趨勢を見守っていたステファニーが走り寄って来た。

 

「上手いこと逃げられたわね……。ディライトの方はともかく、あのソーディアは油断がならない感じ……。早々と潰しておく?」

「…平気さ。僕を止める事は絶対に出来ない。奴の剣腕がどれだけ優れていようとも、人間の力には限界があるからね」

「大層な自信ね……。…ま、それでこそ私の天使様、だけど」

 

 天使か、とネメシスは微笑む。人間の信仰心など欠片も信じないが、確かに今の自分はそう言えるかもしれない。地に堕とされた怪物……奇しくも人々から悪魔だ魔王だと呼ばれる怪物と、“神”に反逆した堕天使に天罰を下しに降臨した存在。

 

 それは正しく人の思い描く天の使いという奴ではないか。

 

 ならば、さしずめ今は『最終戦争(アルマゲドン)』という訳か。“観測”の結果によると、この世に悪魔の病が蔓延る事、それこそがネメシスが追う怪物が蘇る証なのだから。

 

 もうあまり猶予は残されていない。悪魔を打ち倒そうとも、その残滓は消えずにこの地に残り続ける。それはやがて次なる連鎖を巻き起こすだろう。そしてそれがやがて……。焦りの表情を打ち消し、ネメシスの表情にいつもの超越的な笑みが戻る。

 だが、問題はない。何が起ころうとも全ては己の掌の内。残された時間を精々足掻いてみせる事だ……。炎の照り返しを受けて赤く輝く瞳には、そんな不遜と自信が満ちている様だった。

 

 




次回予告

世界に終焉を齎す悪魔系統デブリス。
謎を秘めて暗躍する仮面ライダーネメシス。
刻々と変化する状況に対処する為、戦士たちは進み続けるしかない。過去を振り返る暇は彼らにない。
…だが、それでも過去は力をくれる。思わぬ再会は、今を乗り越える力となり得るのか。

Saga21 『Cry in deep red ~君の名残りの中で~』

※来週はお休みします。
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