仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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先週は休んで申し訳ありません。今回の話は同時に投降した方がいいと判断した為です。
仮面ライダー対エルシングスの戦いです。最後には、ちょっとした衝撃が待ち受けると思います。アイリスがパラディンでないというのがこの作品の第一の仕掛けだとしたら、これは第二の仕掛けとも言えます。
最後までお楽しみに。


Saga23 ジャッジメント・デイ~世界が終わる時~②

◇◇◇◇◇

「ダハハハハハハァァァァッッ‼行クゼ行くぜオラぁっ‼」

 

 闘獄のガームと名乗るデブリスの拳が空気を巻き込んで唸る。砲弾の様な一撃が騎士の構えた盾を砕き、更にその下の鎧ごと貫いて絶命させた。犬の顔をしかしハッキリと嗤いに染めて、ガームが再度地面を蹴る。獣の敏捷性そのままに街中を縦横無尽に駆け回り、その拳腕がただの一撃で人間の命を奪い取っていく。

 誰もそれが齎す暴力から逃れる事は出来なかった。一瞬で駆け抜け、命を奪い取っていくその姿は、まるで人と獣の形をとって具現化した“死”そのもの。累々と積み上がって行く死体の上で、全身に浴びた血をさながら勲章の様に輝かせながら、怪物が再び「ダハハハハハッッ‼」と哄笑した。

 

「ドウしたどうシタぁっ‼もっとホネのあるヤツはいやしねぇノカぁっ⁈」

「ひ、怯むなぁっ!遠距離攻撃で仕留めろ‼」

 中隊長の叫びに応えて、アーククロス隊が進み出る。十数発の銀矢が犬人間へと殺到する……が、その殆どが表皮に突き刺さる事もなく地面に転がる事になった。

 

「ダハッ!無駄無駄無駄ぁっ‼俺サマの鍛え抜カレたこの肉体には、テメェらの小賢しいレンシンジュツなんざ通用しねぇっ‼」

「ぐっ……‼このバケモノが———‼」

「痛くもカユくもねぇなぁぁぁぁぁぁっっっ‼ミットもねぇ負けザルの遠吠えなんかよぉぉぉぉぉぉっっっっっ‼」

 

「地獄蛮拳……『血之逝(チノイケ)』‼」

 

 ガームが腕を振り上げ、そのまま石畳を強かに殴りつけた。巻き起こった衝撃波が周囲一帯の家屋や人々に襲い掛かっていった。バザールの出店は元より、アネスタの石造りの家屋すらもいとも簡単に押し潰し、それに巻き込まれた人々の流血と阿鼻叫喚が撒き散らされた。

 

「…そ、そんなバカ……なっ……⁉」

 

 中隊長は絶句した。たったの一撃、たったの一瞬で周囲が壊滅状態となってしまった。長年デブリスと対峙し続けているが、こんな事は経験にない。廃墟となって土埃の底に沈んだ街並み、先程まで部下だった者の肉塊、まだ辛うじて生きて助けを求めている者の声……それら全てを遠くに感じながら、剣を引き上げようとするが……果たせなかった。

 冗談ではない!こんなバケモノに太刀打ちできるものか。長年の騎士の名誉や矜持など関係ない。命あっての物種ではないか。迫りくる圧倒的な恐怖には打ち克てず、その場から脱兎の如く逃げ出そうとした中隊長だったが……それすらも果たせず、直ぐにその場に倒れ込む事になった。

 

「…ぐぅっ……⁈ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッッッ……⁈」

 

 今まで経験した事のない程の激痛が全身に走ると同時に、“自分”の意識が急速に遠のいていくのが感じられた。巣食った恐怖がタールの如く心全土を塗り潰し、中隊長を形作っていたあらゆる物を虚無の彼方へと追いやっていく。やがてその暗い虚無から別のモノが這い出し……それと同時に中隊長の身体が崩れ去って異形な怪物へと変質した。

 

「ギリリリリリリリリッッッ……‼」

「ダハッ!いいぜいいぜぇっ!モッと生まれヤガれぇっ‼」

 昆虫の様な翅を羽ばたかせて怪物——インプデブリスが空へ飛び出していく。それを皮切りにしてバザールのあちこちで人々が怪物へと変質し始めて行った。恐怖による恐怖の拡大……『恐怖爆発(フライトパンデミック)』が遂に皇都の膝元でも起こったのだった。

 

 今まで守って来た人々、共に戦ってきた仲間……そんな人々が怪物へと変質していく光景を前にして、現場の騎士達はいよいよ混乱の極みに到達していた。もはや上からの指示など関係ない。個人個人がそれぞれの判断で状況に対処するしかない泥沼の戦場。その渦中には、あの不動のアグリオスとの戦いを目撃していた若き準隊士(コクーンリーガー)の姿もあった。

 

「おいおい……どうなってんだよ⁉敵は2体だけって話じゃなかったのか⁈」

「フライトパンデミックって奴ですよ、兄さん!この前、講習受けたばっかりでしょう」

「え……⁉それじゃ、この怪物達……もしかしてこの地区の人達なんですか⁉」

「ヒメナ、躊躇わない!もっと多くの犠牲が出るわよ‼」

 

 力強く宣言した赤毛の少女——リンディ・シングルステアが剣を抜き放って迫る悪魔をすれ違いざまに切り裂いた。リコンよりも更に下級のインプデブリスは言葉すら発さずに消滅していくが……悪魔である以上、元は人間。そこに言いようのない後味の悪さが残るのは避けられない。

 だが、それでもリンディは躊躇わない。ここで彼奴らを食い止めなければ更なる流血と恐怖を呼び、それは新たな悪魔達の苗床となる。彼女が経験した辛い体験を、もう誰かに味わわせる訳にはいかない。

 

 それに———。

 

『ウソ……ですよね……?ローラン様が……?』

『…本当だよ。ディライト殿を守って、命を散らした。…勇敢な最期だった、そうだよ……』

 

 勇敢な最期。パラディンとして名誉ある死。そんなお題目よりも、生きて帰って来て欲しかった。それは変わらない。だが、それを伝えてくれたオリヴィエやゼイバス司令も、ただそう納得させるしかないのだと思う。

 時間は巻き戻らない。消えた命も元に戻りはしない。ならば道は2つ。その場に踏み止まって泣くか、それとも乗り越えて前に進むか。リンディの答えは既に決まっている。

 

「負けて……堪るかぁぁぁぁぁっっっっ‼」

 裂帛の叫びと共に、3体のインプをほぼ同時に薙ぎ払う。子どもの頃より父から仕込まれた剣術は、しっかりとリンディに応えてくれる。もうこの世にはいなくとも、確かに自分の傍に父がいるのだと感じられる。今はそれだけで十分だった。

 

「リンディ……凄いじゃないか」

「そうですね。すっかり完全復活って感じでした‼」

「ハァっ‼フヌけばっかりだと思ったら、ちっタァやる奴もいるジャねぇか‼」

 嘲笑を帯びた声。振り返ると悠然と歩み寄る犬頭の人間が立っていた。

 

「デブリス……この騒動を引き起こしたのはアンタね⁈」

「オウよ‼魔王ディアバル様に仕えし最強の闘士、『闘獄のガーム』様タァ俺の事よ‼さぁ……俺を最ッッ高に滾らせてミヤがれぇぇぇぇぇっっっ‼」

 

 跳躍したガームの拳が赤毛の少女目がけて振り下ろされる。盾で受け流そうとしたリンディだったが、咄嗟に身の危険を感じ、後方へと跳躍した。その勘は正しかったと言える。落雷の如きガームの拳が石畳を大きく砕き、周囲の建物まで圧壊させる程の衝撃波が撒き散らされる事になった。

 自分達人間と体格が大きく違う訳でもないのに、これだけの力を出せるとは……。憶測程度で戦場を流れていた『ジェネラルクラス』という存在が、現実の実体として出現したのが感じられた。その力の差に気圧されたのか、ヒメナは顔を青くしてその場にへたり込んでしまった。

 

「…これが将星級の力……?…こんなの、どう相手しろって言うんですか……?」

「ひ、怯むなって言ってるでしょ!コイツが脅威だって言うなら、尚のことこの先に進ませる訳にはいかないじゃない……!」

「…だけど、リンディ……!僕たちにはホルガー様やディライト様みたいな力がある訳じゃないんだ……。ここは一旦退いて体勢を立て直した方が———」

「バカモノ、力の問題ではない!気合を入れないか‼」

 

「ダッハッハ‼強がった弱ぇヤツはキラいじゃねぇぜ?そういう奴の無様な命ゴイは、カク別な味がするカラなぁっ‼」

 哄笑を撒き散らしながら、ガームが足元の石畳を思いきり蹴り上げた。大小様々な石塊が矢の如き速度で4人の準隊士達へと降り注ぐ。「いかん!隠れろ!」と叫んだブルースがタワーシールドを構え、リンディ達もその背後に回り込もうとしたが……。

 

 轟音に混じって、か細く震える声が彼らの耳朶を打った。ジルバが振り返ると、混乱に巻き込まれて迷い込んだのか恐怖に震える子どもの姿があった。

 

「いけない———っっ‼」

 慌てた様に盾の影から飛び出したジルバが子どもに覆い被さる。石塊の驟雨によって鎧もろともジルバの五体が引き裂かれ……はしなかった。轟音と共に飛来した火線がすんでの所で彼を守ったからだ。

 

「あァン⁈」

〈サイバネティック・ハイパーブレイバー‼ミスリックレンジャー‼〉

 握った轟砲からたて続けに数発の火球をガームに放ちながら、仮面ライダーディライトが準隊士達を守る様に立ちはだかった。思わぬ邪魔をされたガームが憎々し気に犬歯を光らせて、ディライトを睨み付けた。

 

「ディライト様……⁉」

「…“様”はやめてってばリンディ。周辺住民と他の部隊にエルネスティナへの撤退命令が出てる。君たちも早くそこまで行くんだ」

 しかし……と反駁しかけたリンディだったが、確かにジルバが保護した子どもを放っておく事は出来ない。その場から撤退していく4人の気配を背後に感じながら、ディライトとケルベロスデブリスが改めて互いに睨み合った。

 

「テメェが当代のディライトだぁ?ワラわせてくれんぜ。ァンだよその悪シュミな仮面はよぉっ⁈」

「面に関して、アンタにどうこう言われたくない‼」

 

 これまでのエルシングスがそうである様に、おおよそのデブリスは人間のロジックが通じる様な相手ではない。ならば余計な問答は無用。地面を蹴って飛び出したディライトが、怪物の犬面目がけてミキシングラッシャーの刃を叩きつける……が、寸前でガームの腕が振り上げられ、その一撃を受け止めた。ガキィン‼という鈍い轟音と共に、周囲に衝撃波が舞う……が、ガームの体躯は小動もしなかった。そのままミキシングラッシャーを流すと、体の回転を利用してディライトの顔面へと左拳を浴びせてきた。

 

「……………っ⁈」

「まだまだダゼぇっ‼地獄蛮拳……『鉤疚(ハリヤマ)』ァッ‼」

 強烈な一撃を受けて怯んだディライトに向けて、ガームが更に拳を機銃掃射の如く連続して放って来る。ただ闇雲な乱打というのではなく、その全てが人体の急所を的確に狙ってくる。目の前の敵がただの力馬鹿ではない、一流以上の武術の使い手であるという証左だった。

 

「このっ‼」

「ぬおぅっ⁈」

 全身のブースターを目晦ましも兼ねて放射、そのまま後方へと跳び退る。ベルト脇のライドラッグケースから鉄と炎の霊薬を取り出すと、ライドレンジアッパーへと装填した。

 

「再錬成‼」

〈ブートアップ、ディライト!サイバネティック・ハイパーファイター!メタレイズレンジャー‼〉

 灼熱の闘士となったディライトが更に上肢のブースターを噴かしながらガームに鉄拳を放つ。攻撃自体は受け止められたが、メタレイズレンジャーは2段階の能力強化が可能な形態だ。相手の防御を力任せに打ち崩すと、そのまま顔面を殴りつけた。

 

 よろめいたガームだったが、全身の筋肉を総動員して耐えた。自慢の力と技を破られたにも拘わらず、犬の顔にはしっかりと好戦的な笑みが広がっていた。

 

「ダッハッハッハ‼いいぜテメェ‼シッかり楽しめそうだ‼」

「ふざけんな!遊びでやってんじゃないんだよ‼」

「おカタいこって!ダガもう遅ぇ。これだけの恐怖がミチれば、直にディアバルサマが蘇る‼おまいら人類滅亡マデの残りの刻限……精一杯タノしもうぜぇっ‼」

「ディアバル……⁉まさか———‼」

 

 魔王ディアバル。

 デブリスを束ねる首魁。かつてこの世に絶大な恐怖と滅びを齎しかけた、絶望の魔王。その程度の情報でしか語られない謎めいた存在だが、だが同時にそれはもうこの世に存在しない者の名……である筈だ。何故なら、それはかつて勇者ディライトによって討伐された筈なのだから……。

 

 ……否。

『…もうジき……我らが魔王が蘇ル……。その恐怖に……どこマで抗しキれるかな……』

 死の際に不動のアグリオスが遺した言葉。確か、アイリスが最初に対峙した暗星のノクターヴも同じ言葉を語っていたと聞いている。ただの負け惜しみ、もしくはブラフの様なものだと考える者が多かったが、もしそれが真実なのだとしたら……。

 

「…ディアバルが本当に蘇るって言うのか……?一体どうやって———⁉」

「ンナこたぁオレも知りゃしねぇ‼俺は強ぇヤツと戦り合えさえすりゃあそれでいいんダヨ‼地獄蛮拳……『燵末期(タツマキ)』ィッ‼」

 姿勢を低くしたガームが突進。そのままディライトの下肢に組み付き、恐るべき膂力で持ち上げると、そのまま猛烈な勢いで回転を始めた。

 

「さァテ!どんグラい耐えられるかなぁ勇者サマよぉっ‼イーチニィサンシィゴォロォク———‼」

「……………………っっっ⁉」

 猛烈な速度の地獄のジャイアントスイング。20カウントを超えたところでガームはその勢いを利用してディライトを投げ飛ばした。家屋に叩きつけられ、ブースタースケルトンを持ってしても消しきれない衝撃がディライトの全身を襲い、体の各部から噴き上がったスパークが土煙を青く彩った。

 

「ぐぅっ……!」

「安心しな!イズれみ~んなヒトしく地獄行きだ。てめぇもテメぇのお仲間も、一人残らズナぁっ‼」

「……っ⁈…そんな事……させると思うかっ‼」

〈アイアン‼ダーク……!〉

 機能不全に陥ったライドレンジアッパーを外し、代わりにベルトに装填したのは、禍々しい暗黒のライドラッグを装填した。闇のエレメントが肉体を侵食する痛みに耐え、ベルトのエブリッションスターターを押し込む。

 

〈オールセット、ディライト‼ダーク……アイアン……〉

 

「ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ‼」

 漆黒の力と鉄鎧を身に纏ったディライト——『ダークアイアン』が噴煙を破って飛び出した。脳髄すらも刺激する様な痛みに耐えながら、左腕のドグラマシュレッダーをガームの胸板へと叩きつけた。

 

「ダッハ‼いいゾイいぞっ‼星が滅びるマエに万物最強決定戦とイコうじゃねぇかぁ‼」

「…何が来ようと関係ないっ……!ディアバルだろうがなんだろうが……俺が全部滅ぼしてやる……!俺は———っ‼」

 

 勇者と怪物、互いの削り合う撃音だけが人気の失せた街の中に木霊していった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 ワンワンワン……!と無数の羽音が街中に降り注ぐ。まるで恐怖に慄く人々を嗤っている様でも呪っている様でもあった。いつの頃からか、世界の終末には虫が大量発生し、空を覆いつくして全てを喰らう……という謂れが囁かれている。ならば今がその戸口とも言うべきなのかもしれないが……冗談じゃない、と言い捨てて仮面ライダーソーディアは飛び回る下級悪魔を数体纏めて切り裂いた。インプというデブリスの行動パターンは至極単純で、爆炎や血に誘き寄せられ、また数体が集結して来る。

 

「いい加減に鬱陶しいな……!」

〈テリフィング・ミドル・ストラッシュ‼〉

 デウスカリバーの剣戟を浴びて、また数体のインプが爆炎の中へと還っていく。これでこのエリアのインプはあらかた片付けたのか、もう増援が寄って来る事はなかった。

 

 やれやれ、とようやく一息を吐く。悪魔系統という物騒な分類とは裏腹にインプなどの戦闘力は決して高い訳ではない。これは悪魔が元の人間の力や素養といったものをある程度継承するからと言われている。だが裏を返せば、それは彼らがただの人間であったという厳然たる事実を突き付けられるという事でもあり、戦いが終わった後の名状し難い後味の悪さはいつまで経っても消えてくれはしない。チッ……と舌打ちをまた1つ漏らしながら、周囲一帯を見て回る事にする。逃げ遅れた住民や取りこぼしたデブリスがまだ残っている可能性がある。

 

 すると。

 

「………っ⁈…なんだよこりゃ……?」

 

 街路のあちこちに何人もの人々が倒れていた……否、よく見ると人ではない。人の姿を象った石の彫像だった。

 地面に這い蹲ってでも逃げようとした一瞬を切り取ったもの。自分の手を見つめる様に固まったもの。一心に祈る姿を象ったもの。姿は様々だが、それらは全て一様に顔を恐怖に歪めている。とても趣味のいい創作物とは思えない。

 

 そもそも、この非常事態にこんな悪趣味な彫像を並べて回る者がいるだろうか?そんな事はあり得ない。だとしたらこれは……?

 

「オ気に召してイただけましたか?私の作品は」

 声が響いた。涼やかでありながらも、どこか冷笑的な音色に肌が騒めき立つのを感じた。ソーディアの剣先に女体に無数の蛇が蠢く髪を持つ怪物が佇んでいた。

 

「…ものを言うデブリスかよ……。これが噂に聞くエルシングスって奴か……」

「オ初にお目にかかります、剣人ソーディア様。私は『穿慄のメジューサ』。コうしてオ会いできた事、トても光栄で御座います」

「ふざけやがって……。作品と言ったな?なら、これはテメェの仕業か?」

「エぇ、コの通り」

 

 メジューサと名乗った怪物がマスクをずらして蛇の如き目を露出させる。瞬間、その双眸が輝き、赤い光がソーディアに向けて射出された。

 

 蛇人——人と蛇の様な見た目を持つ怪物は『エキドナ』や『ラミア』などが挙げられるが、その中でも『ゴルゴン』と呼ばれる存在だけが持つ恐ろしい力……それは浴びた者を石へと変えてしまう石化光線である。喰らえば必死確定の光を、しかしソーディアはデウスカリバーⅡを引き起こして受け止めた。光線がそのまま刃に弾かれ、石畳へと吸い込まれて消えると、メジューサが「アらら」とわざとらしく驚いてみせた。

 

「コれが『絶対守護』の力ですか……。マさか私の石化光線まで防いでシまうとは、驚きですわ」

「そういうこった。残念だったな」

「…イいえ。ムしろ期待通りです」

 謎めいた微笑を洩らしたメジューサが首元の牙状のアクセサリーを引き千切ると、2本の曲刀へと錬成された。逆手に持った刃を牙の如く構え、無数の蛇が威嚇する様にシュウシュウと啼く。ソーディアも左腕にグラムバスターを出現させると、迎え撃つ姿勢を整えた。

 

「イざっ‼」

「チッ、遊んでる暇はねぇってのに……!」

 

 両者が同時に地を蹴り、刃と刃をぶつけ合わせる。グラムバスターの能力によって強化された剛剣をメジューサはなんなく受け止めて弾き返した。華奢な見た目に合わず、大した膂力である。だが一方で、逆手に持った剣は守りに適していても攻めには不向きだ。こちらの剣を的確に捌く剣腕は大したものだが、受けるだけでは早々に……。

 

「…………っっ⁉」

 メジューサの懐へと飛び込んだ瞬間、人間でいう鼻翼に当たる部分に開いた僅かな穴がギラリと輝く。咄嗟に身を引いたハイルの判断は正しかった。そこから発射された赤い石化光線がそのまま空へと吸い込まれて消えて行った。

 

「アらら残念ですわ。自信満々で飛び込んでキたところを……ト狙ってましたのに」

「目以外からも撃てるのかよ……反則くせぇ……」

「フふふ……アまりエレガントではないので、ヤりたくはナいのですけどね」

 

 蛇は視力以外にも、『ピット』と跳ばれる器官で周囲の温度差を感知しながら世界を“視て”いると言われている。ならばそれも一種の目とも言える。通常のゴルゴンとは異なり、このジェネラルクラスはそのピットからも石化光線を放てる……という事だろうか。言葉にしてもなんとも無茶苦茶だが、デブリスとは元来がそういう非常識なものだ。その中でも遥かに上位クラスの存在ともなれば余計に。

 

「…まさか、その蛇どもも同じモンを撃てるとか言わねぇだろうな?」

「モちろん、ですわ。サぁて、遊びはコこまでです。ドこまで抗しきれますカしら?」

 シャァッ‼と頭髪の蛇たちが立ち上がり、一斉に赤い光を照射し始める。剣で弾くだけでは捌ききれない。ソーディアのスピードを生かして相手の後方へと回り込む……が、髪はどの方向にも火線を放てるのだ。どこまで走ろうとも、攻め込める場所など存在しない。

 

 だが。

 ソーディアにも、打つ手が決して存在しない訳でもないのだった。

 

「それならっ‼」

〈デウス・マキナ‼アンビテック・ストラスラッシュ‼〉

 デウスカリバーⅡにマキナカリバーソードラッグを装填し、トリガー。

 

〈マキナ……ブレッシング……‼魔穿……!鐡剣……!ソーディア・マキナ‼…Just bring it……!〉

 

 体の各部に黒と青色の装甲が取り付けられ、ソーディアマキナが顕現した。ソーディアマキナが力任せにマキナカリバーⅡを振り抜くと、刃に込められた『絶対破壊』の力が空間に裂け目を作り出した。虚空へと通じる裂け目は石化光線を飲み込みながら、メジューサに向けて前進していく。慌てて飛び退った事で生まれた一瞬の空隙。それを見逃さず、ソーディアマキナが一瞬でメジューサの懐へと飛び込んだ。

 

「おらぁっ‼」

「ぐっ……⁉」

 僅か一撃でメジューサの双剣が破壊された。あらゆるものを破壊する絶対破壊の力を防御する事などそもそも不可能なのだ。「ヤっかいですね……!」と毒づいたメジューサが後方へ飛びのくと同時に、口腔から紫色の靄を放射した。腐食性の毒らしく、防御が間に合わなかったソーディアの体からスパークが上がった。

 

「アらあら、ヤはり……。絶対破壊の力だなんて簡単に言いますけど、アなた様の身体に負荷がカからナい筈ないですものね。ドこまで保ち堪えられるデしょうか‼」

「うるせぇ……!リスクは元より承知……仲間を守る為ならなぁっ‼」

「…イいですね。モう少しアなた様の本気、ミせて頂きマしょうか‼」

 

 凄絶に笑んだメジューサがソーディアから距離を取り、石化光線や毒液を連続して放って来る。確かにマキナカリバーの持つ絶対破壊の力になんのリスクもない筈がない。力を使う度に襲いくる衝撃に体が悲鳴を上げる。絶対守護の力でも消しきれない反動。一体これを使い続けたらどの様な結末が待っているのか……。だが、心に湧き上がった不安を押しやってソーディアはそれでも剣を振るい続けた。

 

 消えていったいくつもの命。

 彼らの犠牲の上に立つ今の我が身。

 まるでそれらがハイルの心の中で、唱和した様に叫ぶのだ。

 

 立ちはだかるもの、全てを打ち滅ぼせ。

 それがお前自身を強くするのだ、と。

 

 宣言した通り、リスクなど端から承知の上だ。この力を手にした時に守りたいと誓った人々……彼らをこれ以上失う訳にはいかないのだから……。

 

 軋む体の痛み。ドクドクと脈打つ拍動。それに混じって、まるでほくそ笑む様な気配が胸中に広がっていくのに、ハイルはまだ気付かなかった。

 

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