◇◇◇◇◇
『こっちのシェルターはもう一杯なんだ!24番と25番は使えないのか?』
『冗談じゃない……!デブリスどもが道に群がってて、とても進めません!』
『衛生兵はいないか!こっちは怪我人が多くて———!』
「こっちから回すわ!リナルト、ラナ、お願い」
『サクラ殿……かたじけない!』
そこかしこの混乱の声をジャイロシェルフィーが拾っては届けて来る。迫ってきたインプを斬り捨てながら、出来るだけ状況を把握し、送話口に声を吹き込む。
マヤの作ったものから自立行動機能をオミットして、通信機能だけに特化させた簡易版。戦場ではリアルタイムでの情報伝達は大きなアドバンテージになるだろうと量産され、騎士団員たちに配布されたのだが……状況に惑う準隊士達の声まで拾ってしまう為、正直言ってうざったい。
もうちょっと教育してから戦場に連れて来なさいよね……!と八つ当たり気味に思うが、それも無理からぬ事だろう。一時ほど前まで平和だった街が突如として戦火に包まれたのだ。如何に勇猛果敢で知られるアネスタ皇国と言えど、不意を突かれればやはり弱いものだ。
ふと視線を上に転じると、王城から市内全域に張り巡らせた騎士隊専用の高架通路『リットウェイ』に備え付けられたゲートが降ろされ、バザール地区と他のサテライトとの境界を封鎖状態にしていた。ああする事でデブリスの侵攻を食い止める様に出来ているのだ。この地区に配置された兵と自分達は可及的速やかに住民の避難を完了させ、デブリスを掃討する必要がある訳だが……。
「クソッ……!住民の避難、まだ終わらねぇのかよ⁈」
「終わらない……いや、終えていいのか判断できないんでしょうね。悪魔に変異した人間達もいるでしょうから、もう数の把握なんてとっくに出来なくなってるのよ……」
「…それじゃ、いつまで続くのさ⁉グズグズしてたら、他の奴らだって……」
解っている。サクラ達の背後にいる、未だシェルターに収容しきれない避難民たち。彼らの中から……否、自分達や騎士団の中からもデブリスへの変異者が出るかもしれない。そうなってしまっては、耐える事など不可能になる。サクラが歯噛みした刹那、ジャイロから『現場の兵士達に通達します』と凛とした声が響き渡った。
『今から王城の門を開放します。未だ避難が終わらない人々を急ぎそちらへ誘導して下さい』
『へ、陛下⁈しかし、それでは———!』
『問題は後で考えましょう。他地区の守備兵もそちらへ回しています。王城にデブリスが入らない様に、しっかりと防御をお願いします』
通信が切れるやいなや、ゴゴゴ……という地鳴りと共に、エルネスティナ城へと続く城門がゆっくりと開放されていった。王宮を避難所に使用する。確かに入り組んだ街のあちこちに配置されたシェルターに住民を避難させるよりは遥かに合理的だが、まさか本当にやるとは……。改めてクリスティン女王の豪気さを実感させられた。
「だけどナイス判断よ。ダスティンとカイラ、あそこの避難民たちの先導をお願い。一番隊と二番隊で周囲の捜索を———」
「ハぁぁぁぁッッっ⁈そうはイクかってェノっ‼」
サクラが振り返ると、避難民の中から男が3人ばかり立ち上がってこちらへのっそりと近づいてきていた。年代もバラバラだが、血走った瞳と壊れた様な笑い方には覚えがある。サクラが「いけない……退がって‼」と叫んだ刹那、男達の体が肉片となって吹き飛び、骸骨の様なリコンデブリスへと変化した。
低級のインプならまだしも、仮面ライダーですら手こずる中級悪魔の出現。考えられる限り、最悪の事態だ。これ以上パンデミックを広げる訳にはいかないのに……!歯噛みするサクラ達を睥睨しながら、悪魔達が狂った笑いを猛らせる。
「逃がシャしねぇヨォっ‼てめぇラ纏めて我らが王ノ糧ニナって貰わにゃ———って、フわぁっ⁈」
『そうはいかぬぞ、三下どもめ』
爪を振り上げて、人々に襲い掛かろうとしたリコン達が突如として空中高く浮かび上がり、そのまま近くの建物へと叩きつけられた。
金属が反響した様な声と共に、1人の少女の姿が空中よりフワリと降り立った。少女が両の掌を叩くと、キィィィン……!という金属音が鳴り、またしても悪魔達が吹き飛ばされた。
「ローザちゃ……じゃなかった、エクスちゃんか。随分と久しぶりね」
『…誰がエクスちゃんか。しばらく力を蓄えておって正解だった様だな。なかなか面白い事になっておるではないか』
「加勢してくれるのはありがたいんだけど……その体、ローザちゃんのだから、あんまり無茶しないでよね」
『偉そうに言うな。我を誰と心得る?』
ローザことエクスカリバーがその手を掲げると、瞬間そこらに散乱した剣や槍、果てはアーククロスの金属弓までもがフワリと浮き上がり、その切っ先を悪魔達に向けた。「ナっ……⁈こ、こいツはヤバ———!」とリコン達が逃げ出そうとしたが、その体はまるで強大な重力に押さえつけられた様に、ピクリとも動けなくなっていた。
「ぐぅっ……⁉なんナンだよこリャぁ———⁉」
『くたばれ、この
カァン!という撃音。同時に翼を得た武具の群れが、一斉にその切っ先を輝かせて、悪魔達に突き刺さった。全身を蜂の巣の様に穿たれた悪魔が絶叫と共に爆砕していく光景を眺めながら、サクラが深々とため息を吐く。
「…まったく、デタラメ過ぎるでしょ……。出来れば、もっと早く力を貸して欲しいところなんだけど?」
『そうもいくか。この娘への負担がデカ過ぎるし、今の様な状況では尚更——』
「へはっ……チョーシの乗るなヨ人間どもっ……」
突如リコンが炎の中から這い出してきた。既に体の半分が消失し、もう間もなく息絶えるだろうと言うのに、その口元にはハッキリと嗤いが浮かんでいる。
「…事はもう、マもなく起こるぞ……。恐怖の杯は、スデに満たされた……。後はっ……器の完成を待ツのみ……残念だっタな……」
『なんだとっ……?』
ハハハ……という余韻だけを残して、リコンの姿が黒い塵となって消える。残されたサクラ達が困惑した様に、「…どういう事なのよ……?」と誰にともなく尋ねる。
「…恐怖の杯?器が完成するって……一体どういう……?」
『…マズいぞ……。サクラ、ハイルは何処におる?』
「は、ハイル君?ハイル君なら街に侵入したエルシングスの迎撃に行ってるわ。…ホラ、剣の音が聞こえない?」
街中に時折響く激突音。サクラ達には耳慣れたデウスカリバーの剣戟の音で間違いない。だからこそ、彼の無事は疑っていないのだが……ローザはらしくもなく驚愕の表情を浮かべて、『なんだとっ⁈』と叫んだ。
『貴様らっ……!何故……何故あ奴を1人にした⁉』
「し、仕方ないでしょ!…そういう命令だったんだから……」
エルシングスの迎撃に向かうのはあくまでもハイルとレイトのみ。サクラ達は街の守備任務に当たり、援護すら許されなかった。そういう命令だった……言いながら、だが確かにそれは言い訳だと分かっていた。
ローランにジェラルド、オリヴィエ、ホルガー……多くの人々の死を目の当たりにして、仮面ライダー達は己の無力を突き付けられ、そして同時に他の仲間達まで失う事を恐れている。特に目の前で仲間を……ジャンを失ってしまったハイルは余計にだ。
「…解ってるわよ……今の状況が良くないって……。…でも今の私達じゃ……」
「…悪魔にも、あのネメシスにも、どうする事もできねぇ……。守りながら戦うのは、アンタが思ってるより簡単じゃねぇんだっ……」
『…まったく……どいつもこいつも……。…イヤ、止められなかったのは我も同じか……』
「…どういう事なのよ?ハイル君達になんの問題が起こるって言うの?」
『…解らん。だが、マキナカリバーすら取り込んだ今のあ奴ならば……』
言うや否や、駆け出したローザが駐車してあるエリアルファングへと取り付いた。
「ローザちゃん?」
『あ奴の元に向かうぞ。今ならまだ止められるかもしれん。最悪の事態になる前に……』
◇◇◇◇◇
人が消え、シンと静まり返った街に、肉を穿ち身を削り合う暴力の音が響き渡る。さながら世界の終末……といった具合だが、人がいないならば周囲の被害を気にする必要もないという事だ。ズキズキと全身を苛む痛みに耐えながら、ディライトが地面を蹴ってガームへ殴り掛かった。
ダークライドラッグの作用なのか、全身に恐ろしいまでの力が漲っている。ただ足を踏み出しただけで石畳が叩き割れる程だ。右前腕部に取り付けられた、闇のアーマムエレメントが形成する刃『ダインスランサー』の直撃をガームはなんとか躱す……が、直撃を受けた建物の壁が大きく穿たれ、次の瞬間にはガラガラと崩落していった。
恐るべき破壊力。だがそれでもガームは怯む事なく、寧ろ「いいねイイねぇっ‼」と愉悦の表情を濃くするばかり。
「最ッッ高じゃねぇか!ジュンチョーに化け物の道に進みツツある様だなコゾぉっ‼」
「ふざけるな……!誰が———!」
「闇属の力にノマれちまえば同じサァっ!そんなじゃディアバルサマとやりアウ前にお陀仏だぜ‼」
ガームの踵落しが地面を破壊し、衝撃波と土煙を撒き散らす。ディライトがこちらを見失った隙にガームは姿勢を低く落として下肢に力を込めて、勢いよく前方に跳躍した。更に全身のデブリス細胞が彼の意思に反応して変性を始めた。両腕が炎に包まれ、濛気越しでもその光を捉えられるがもう既に遅い。
「……………っ⁈」
「喰らイナぁっ‼地獄蛮拳・奥義、『
だが次の瞬間、すぐ傍の石壁が粉々に吹き飛び、ガームは吹き飛ばされる事になった。「誰だ邪魔をシヤがったのは⁈」と睨み付けると、シュっと細身の人影が彼の傍らに降り立つ。
「ぁンダ、メジューサかよ。スッカり満身創痍ってナリじゃねぇか」
「エぇ……予想以上にオそろしい相手ですよ、アの方は」
蛇の目が見つめる先、瓦礫の上から堂々とこちらを睥睨する仮面ライダーソーディアマキナの姿があった。
「ちょこまか逃げ回りやがって……!だが、揃ってくれたなら好都合だ。レイト!」
「ああ……ここで終わらせてやる……」
「楽しそうだねェ、僕も混ぜてはくれないかい?」
相対する4者の前に、静かな足音を響かせて1人の人物が闖入してきた。男とも女ともつかない端正な顔立ちと細身の身体。それとは対照的な無骨なデザインのベルト。ソーディアが激しく舌打ちをした。
「またお前か、ネメシス……!」
「ふざけるなよ……!今コイツらを止めないといけないって、解らないのかよ‼」
「解るさ。僕には関係ないって事がね」
指で弾いたルーンドラッグを掴み、「変身」の言葉と共にベルトに装填する。光と闇の輪舞に包まれた青年の体が、直ぐに漆黒の仮面ライダーネメシスのものへと変化した。
「なんナンだテメェはぁ?真剣ショーブの邪魔してんじゃ———」
「黙ってろ下等生物が」
「ぁんダトぉっ⁉」
「事実だろ。お前たちも所詮、ディアバルから切り離された肉片にしか過ぎない。あの出来損ないの、更なる出来損ないみたいなものさ。下等生物同士の潰し合いを真剣勝負だなどと……ギャグはそれくらいにして貰おうか」
「…テメェッ……!もう一遍言ってミヤがれコラぁっ‼」
怒りを漲らせて、ガームがネメシスへと殴り掛かる。が、ネメシスはいつもの不連続機動で攻撃を躱すと、ガームを後ろ蹴りで吹き飛ばしてみせた。相変わらず恐ろしい戦闘能力だ。先ほどの言動の真偽はさておき、大口を叩くだけの事はあると認めざるを得ない。
「レイト、あいつの相手は俺がしてやる。デブリス共は頼めるな?」
「…解った、任せるよ。…信じてるから、な?」
「へっ、なんだよ気色悪ぃ……。安心しろ。俺は死なねぇ……絶対だ」
少なくとも目の前にいる者達……仲間を害する者を討ち果たすその瞬間までは……。ソーディアが勢いよく地面を蹴り、ネメシスへと斬りかかった。
「…ハイル・ランドナー……君に用はないんだけどな‼」
「ハッ!負け惜しみは見苦しいだけだぜ、神様ごっこヤローが!」
「…貴様っ……!」
ネメシスの体から分離したサテライターズが先端部から光の刃を展開し、ソーディアへと斬りかかる。小型の攻撃端末の速度はそこらの剣や飛矢にも勝るが、ソーディアは動じる事なく2振りの剣で周囲を薙ぎ払う。剣圧が起こした突風に加えて、絶対破壊の力が周辺の空間をねじ切り、それが元に戻ろうとする時に発生する空間の歪みが、サテライターズの動きを鈍らせた。その一瞬を突かれて刃を叩き込まれたサテライターズが爆砕の炎を上げ、ソーディアの体を明々と照らし出す。さながら魔神といったその姿に戦慄しながら、ネメシスは努めて状況を冷静に分析する。
魔剣……デブリスの遺骸を元にして作られた刀剣。不可思議な力を秘める物も多いが、それが結局通常のデブリス……ディアバルの尖兵程度の存在から生み出された物であるなら、大した脅威にはならないだろうと分析していた。
だが、ディライトの力の作用もあるとは言え、それだけでここまでの力を出す事ができるものだろうか?ネメシスの超感覚が、目の前の仮面ライダーから何か想像を絶する力が膨れ上がっていくのを感じているが、果たしてこれは……?
——まさか?
——そんな事があり得るだろうか?
——だがそれならば、これ程の力にも説明がつく。
——しかし、だと言うならば……。
——今の状況は、非常にマズい……!
ソーディアの持つ驚異的な力。そしてこの状況でデブリス達が仕掛けてきた意味。度重なる悪魔の大量発生。それらが持つ意味……ネメシスがそれに思い至った刹那、「ハイル君‼」と背後で声が弾けた。
「レイト君も……!闇の霊薬は使うなって言われてたのに、なにやってるのよ⁉」
『戻れ、ハイル・ランドナー!このままではお前は———!』
「……っ⁈バッカ野郎が!なんで来やがった⁉」
10にも満たないであろう年齢には似つかしくない程に眼光の鋭い少女と、その背後には武器を握ったやはり歳若い少年少女たちが数人。ヒュペリオンと呼ばれるハイル・ランドナーの仲間達。それを見止めたガームの口の端がニヤリと確かに嗤い……眼前のディライトを振り払って、そちらへと跳躍した。
「飛んで火にイル夏の虫ィッ‼コレで
「………っ⁉…させるかこの野郎がぁっ‼」
仲間達に降りかかる暴威。瞬間、ソーディアが信じられない速度で加速し、ガームの前……仲間達を守る様に立ちはだかった。
「グッ……⁉まじカヨこイツ……‼」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっ‼」
〈ラフ・アブレーション‼ブレッシング・ラフ・ディストラッシュ‼〉
ソーディアの腕がガームの首根っこを乱暴に掴み、その胸元にマキナカリバーⅡの刃を叩きつけた。エルシングスの驚異的な防御力を持ってしても防ぎきれない衝撃に晒され、地面に崩れ落ちたガーム。それだけでは飽き足らず、ソーディアの刃が1発2発3発……と連続して叩き込まれていく。
明らかなる仲間のピンチ……にも拘わらず、ディライトの相手をしている穿慄のメジューサには動じる気配もない。それどころか今の状況をどこか好ましそうに見つめているだけだった。
「…お前、助けにいかなくていいのか?」
「エぇ、ソの必要はアりませんわ。全ては順調ソのもの……」
順調?どういう意味だろうか?痛みがズキズキと突き刺さる頭でレイトは考える。
…言われてみれば状況は何かおかしい。先ほどのサクラ達を狙った攻撃。あえなくソーディアに防がれてしまったが……どこか、意図的にハイルを怒らせようと動いていた様にも見えなかったか?よもやこの襲撃自体に、なにか別の狙いがあると言うのか?
そこまで考えたところで、ガームを打ち据えていたソーディアの攻撃が、唐突にピタリと止まった。それだけでなく、体が小刻みに震え、何かに耐える様な呻きが仮面の奥から漏れ出ている……。
「…ハイル?」
「ハイル君……どうしたのよ?」
『………っ!いかん、近づくなお前らっ‼』
ローザが叫んだ刹那。
ソーディアが高々と頭上にマキナカリバーⅡを振り上げ、切っ先を地面へと叩きつけた。
「……………っっ⁈」
落雷が直撃したかの様な轟音と衝撃が、ソーディアを中心とした周囲一帯に撒き散らされ、ディライトやネメシス、デブリス達はそれをもろに浴びる事になった。石畳が弾け、周囲の建物が粉微塵となって崩壊していく程の威力。ローザが咄嗟に手を掲げ、発生させた力場でどうにかサクラ達は守られた様だが……こんな仲間を平気で巻き込む様な攻撃を彼がするなど普通はあり得ない。信じられないものを見る様に、レイト達は目の前に立つソーディアマキナを見つめた。
「…ハイル……⁉一体何が……?」
『…遅かったか……』
「…遅かったって……どういう事よ⁈ハイル君になにが———!」
「時は来た」
金属を擦る様な冷たい声が響く。
そしてそれは驚くべき事に、ソーディアの仮面の奥から発せられたものだった。
「感謝するぞ眷族ども、そして人間たち。貴様らの求めによって、オレは再びこの世に顕現した。我が存在証明に従い……今をもってこの世界を破滅へと導く」
「ハイル……ッ⁉破滅って……なに言ってるんだよお前⁉」
「ハイル・ランドナーではない。残念ながら、な」
ソーディアは……否、“それ”は言葉を振り払い、自らの胸に手を当て、ただ酷薄に告げた。
「我が名は……『ディアバル』。無より生まれ、煉獄を統べ、ただ破壊を齎す者だ」
次回予告
友の顔で、友の声で、それは唐突に現れた。
破滅を齎す破壊の魔王、そしてハイル・ランドナーに秘められた秘密とは。
一方、目的達成を焦るネメシスはディライトへ決闘を挑んでくる。
ただ1人となった仮面ライダーに、為す術はあるのか……?
Saga24 『ザ・ライトスタッフ~輝きの絆~』
※すみません。来週もお休みします