仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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ウダウダと陰鬱な展開が続きましたが、今日で仕舞に出来そうです。
ご意見・ご感想など頂けると励みになりますのでどうぞよろしく(クソウザ)。


Saga24 ザ・ライトスタッフ~輝きの絆~③

◇◇◇◇◇

 何故歩き続けているのだろうか?

 

 肉体が激痛に苛まれる中、意識の奥底からそんな言葉が浮き上がっては、全身に繋がる神経にズブズブと針を突き立てていく様だった。どれだけ痛みに耐え続けているのか、それももう解らない。ただ重油の底に浸されているかの様に重い体は、まるで血の池の底で藻掻いているかに思えた。

 

 ——否、これ自身が罰という事なのかもしれない。

 

 ——己の過ち、己自身の傲岸そのものへの……。

 

「チィッ……!いい加減に鬱陶しい!」

〈Nemesis Trial……!〉

 

 仮面ライダーネメシスがベルトのハンドルを1回コッキング。解放されたダークマターが全身を覆い、その姿を完全に消し去る。こうなると音も気配すらも完全に断ち切れるため、居所を探知するのは不可能になるが……ディライトがすかさず左腕の爪を地面へと突き立てる。注がれた闇のエネルギーがそのまま地表へと爆発的に表出し、十数本の爪が出現する。

 

 ネメシスの居所を特定できないならば、広範囲を一気に薙ぎ払ってしまえばいい。爪が一気に振り下ろされ、目論見通りディライトの背後で攻撃を喰らったネメシスが吹き飛ばされるのが見えた。

 

「まだ立つのかっ……!潰れろぉっ‼」

「そうは行くか‼」

〈Fire Consecrate…….Hell or Heaven……!〉

 

 炎を纏ったネメシスサイザースがディライトへと叩きつけられる。ディライトの黒いアーマムエレメントが不定形に蠕動し、防御フィールドとして展開される。闇のエレメントエネルギーは攻撃などのエネルギーを無へと変換する力を持ち、それ故に最強の盾とも矛ともなり得る。が、所詮向こうが使っているのはエネルギーを詰めただけのライドラッグ。それ自体がエネルギーを無限に生み出せるルーンドラッグとは力の差が根本的に違うのだ。ネメシスが力を込めると炎がそれに呼応する様に肥大化し、ディライトの防御を突破してその胸板に明々と火花を散らさせた。

 

「ぐあぁぁぁぁっっっっ……‼」

「泣かせて……イヤ、笑わせてくれるじゃないか。そんな程度の力で僕やディアバルを降す事が出来るとでも思ってたかい?借り物の英雄風情が!」

 

 槍が叩きつけらる衝撃。全身を苛む薬の副作用。心を切りつけられる言葉……。そんな痛みに晒されながら、尚も倒れられないのは何故だろう?もういいのではないか?歩みを止めてしまえば、楽になれるだろうに……。

 気を抜けば滲んでくるそんな言葉を振り払う様に、「黙れ……!」とディライトが虚空に叫んだ。

 

 歩みを止められる筈などない。

 

 仮面ライダーという名の責任。

 

 散っていた多くの命と、託された物。

 

 守らなければならない人達。

 

 それらを思い浮かべると同時に、ライドラッグから再び泥の様なエネルギーが迸り、ディライトの全身を包み込んでいった。

 

「もういい加減気付いているだろう?君ではその力は使いこなせない。ディライトとパラディンの力をさっさと引き渡せば、代わりに僕がディアバルを始末してやる……。悪い話じゃないと思うんだけど?」

「…だとしてもっ……そしたら、お前はハイルごと殺すだろ‼」

「悪いかい?たった1人の人間の命と世界……天秤にかける間でもないと思うけどね」

 そんな事も解らないのか?と言わんばかりに、ネメシスが肩を竦める。

 

「そもそも君にそんな事を気にする資格があるとでも?今の事態が引き起こされた責任は、君自身にあるんだからな」

「…………っ⁉」

「違うとでも?ハイル・ランドナーという人間の中に潜んでいた心の闇……攻撃性や魔性。そんなものに気付かず、力を与えたのは君だ。君の英雄気取りの振る舞いが、あの怪物を更に強大なものへと変えてしまったんだ」

「…うぅっ……!うあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ……‼」

 

 地を蹴り、ディライトが尚もネメシスへと向かって行く。恐ろしいものを振り払わんとするかの様に……だが、その拳は残酷にもはっきりと彼の心の迷いを写すかの様に震えていた。

 

 違うと、そう言えたらどれだけいいだろうか。だが、エクスカリバーから真実を聞かされた時よりレイトの心にずっと巣食ってきたのは……恐れと罪の意識だ。

 ハイル・ランドナー……昏い裏の社会で生きる、猛き刃の如き男。しかし同時に誰よりも温かく、人の心を惹きつける。過去の血の宿業に自らの身を削り、刃と化して戦う彼の力になりたいと……レイトは力を与えた。それこそがソーディア……レイトが認め、選んだもう1人の仮面ライダーだった。

 

 だが、それは本当に正しかったのか?

 彼の心の闇に気付かず、ディアバルの器となる者に、力を与えてしまったのだとしたら……。

 

 …そもそも、レイトにとっての仮面ライダーとは何であったのだろうか?

 ネメシスが言う通り、無力で誰一人守る事が出来ない、こんなちっぽけな自分が仮面ライダーなどと……。

 

 体と心を苛む痛みが、自分という境界が曖昧になっていく様な恐怖感が、傲岸で無力な日比野玲人という存在への罰なのだとしたら……。

 

「あぐぅっ……!ぐぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ…………!!!」

 痛みもいよいよ耐え難くなり、1秒先の思考すらも明瞭にならない。薄れゆく意識の中、今すべき事……目の前の仮面ライダーネメシスを倒す事だけに全身全霊をかけて、ベルトのエブリッションスターターを叩き込んだ。

 

〈エブリッション!ヴァリアントブリンク‼〉

 

「潰すっ……!俺自身がどうなってもっ……お前だけはぁっ‼」

「…死にたがりめ。そんなにお望みなら……!」

 

 ネメシスも迎え撃つ様に炎の槍を構えて走り出す。ベルトから放たれる闇のエネルギーがディライト右腕のダインスランサーへと収束していく。脳裏にチカチカと迸る火花に焼かれて、視界も徐々に暗い靄に覆われていく様だった。残された最後の意識の残滓が、どこかで自らの終わりを告げている様にも感じられる。それでもディライトは立ち止まらず……最期の使命を果たさんと、1つの影となって走り抜けた。

 

 ——何を目指して、歩き続けていたんだっけ?

 ——もう、なにも思い出せない……。

 

 ——都合のいい夢を、見ていたのかもしれない。

 

 ——こんな無力な自分が、最高のヒーローになるまでの物語?

 ——でも、それがどんなモノだったのかも、もう思い出せない。

 

 ——だからせめて、今の俺の命を使ってできる最大限の事を……!

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ‼」

 

 邪な色に満ちた矛が、ネメシスの胸板へと加速していく……その刹那。

 

 ぶつかり合いそうになる刃と刃の間に、突如として眩いばかりの光の塊が飛び込んできた。光輝の奔流に圧倒されてよく見えなかったが、光はディライトの刃を受け止めると、そのまま光のエネルギーで相対するネメシスを吹き飛ばした。光を払おうとディライトが腕を遮二無二動かすが、抵抗も空しくやがて闇に覆われたディライトの全身を光が覆いつくしていき……。

 

「———ッ……レ……トッ……落ち———レイ……!……」

 

 …だが、恐怖は感じない。光に包み込まれる程に、全身から薬に苛まれた痛みが消えていく様だった。暗黒に潰された視界や聴覚も少しずつ感覚を取り戻していく。まるで、自分という存在がまた生まれ直しているかの様で……。

 

「……レイト‼」

 

「…………っ‼」

 ベルトからライドラッグが抜き取られ、ディライトはレイトの姿へと戻った。一気に明度を取り戻した世界の中、涙を浮かべて自分を見つめる少女の姿は……。

 

「…アイリィ……」

「…レイト……良かった……」

 

 安堵した様に自分を見つめて微笑む少女は、間違いなくアイリスだった。青みがかった銀色の髪に、アメシストの様な紫の瞳。この世界に来てからいつも目で追っていた少女の変わらぬ姿が、しかし今は一段と輝かしく見える。それはきっと気のせいなどではない。レイトは気付いた。少女の右の肩口に、広がる翼の様な紋章が輝いている事に。

 

「…アイリィ……それって……⁉」

「うん、今度は偽物じゃないよ。私、本物のパラディンになったみたい」

 

 まだ実感が沸かないけどね、とアイリスが照れ臭そうに笑う。実際に極めて唐突な事だったのだ。金の錬合金属を生み出す実験の最中、急に立ち眩みの様な症状に襲われ、気が付いた時にはこのパラディンの紋章が出現していたのだ。

 

 今までただの憧れでしかなかった、神聖騎士の証。覚醒した影響なのか知らないが、確かに今の彼女は普段よりもずっと輝いている様に見えた……が、彼女の背後。そこにいる仮面ライダーネメシスの姿を見止めた途端、引いていた恐怖が再びレイトの中に去来した。

 

「…それじゃっ……どうして来たんだよ……⁈アイツの前にいたら危ないんだ……!だから、出てきちゃダメだって———」

 

「…レイト……バカなこと言わないで‼」

 ネメシスがアイリスの身に宿る力を奪おうとすればどうなるか……それを恐れるレイトの気持ちは痛いほどに解る。それでもアイリスは毅然と彼に否を突き付けた。

 

「どうして来たですって?そんなのあなたと一緒に戦う為に決まってるじゃない!理由なんてそれだけで沢山よ!」

「……っ!…でもっ……もうっ……自信がないんだよ……。誰も、犠牲になんかしたくない……だけど、今の俺の力じゃ……!仮面ライダーがっ……勇者が、こんな事言っちゃいけないと思ってもっ……どうしても……っ‼」

 

 そうだとしても、恐れが拭い去れる訳ではない。ローラン、ジェラルド、オリヴィエ、ホルガー、ハイル……己の無力の所為で手が届かなかった人々があまりにも多すぎる。今までお守りの様に燦然と輝いてきた仮面ライダーの名も、今はただの重石の様にのしかかって来るだけだった。そんな姿があまりにも恐ろしくて、悔しくて、情けなくて、ただそれを目の前の少女にだけは知られたくなかった……。

 

「…レイトは……私がパラディンだったから助けてくれた訳じゃないでしょう?」

「……………っ」

「私も同じ。あなたがディライトだから、仮面ライダーだから助けたいんじゃない。声を上げて、立ち向かって、一緒にいてくれた……そんなレイトだったから、一緒に戦いたいって思ったの」

 

 何を取り繕うでもなく、ただ真っ直ぐとレイトを見つめて、アイリスが笑った。初めて会った時から、ずっと傍らで笑ってくれた彼女の笑顔があまりにも眩しくて、ただ近づきたいと願って、レイトは思わず少女に手を伸ばす。

 アイリスも躊躇いはしなかった。レイトの手を握り、彼をそのまま、やや強引に立ち上がらせた。

 

 ——…どうして、忘れていたのだろう?

 ——世界も、使命も関係なく。

 ——ただ彼女の傍にいたいと願ったから、俺は……。

 

「…ごめんアイリィ……俺が間違ってたんだな……。1人じゃ何もできないって、最初から解ってたのに……」

「私もよ、レイト。私たちは皆、こんなにも無力で……でも、だから出会って、手を取り合うのよ。いつか1人じゃ出来ない事を成す為に……」

「…うん。きっとそこにこそ……」

 

「…貴様らっ……!いつまで茶番をやっている⁉」

 ダメージから立ち上がったネメシスが、こちらにサイザースを向けて怒鳴る。天罰を司る死の鎌を向けられても、今のレイトには不思議と恐れが沸いてこなかった。ただ傍らに、一緒に立ち向かってくれる人がいるというだけの事で……。

 

「茶番なんかじゃない……。自分の無力を知って、誰かの無力を支えて……そうやって人は初めて強くなれるんだ。それはきっとお前の天罰なんかよりも確かな、俺たちの真理だ‼」

「そうね……。行くわよレイト。1人でも無理なら、2人で!」

「…2人でも無理なら、もっと大勢で‼」

 

 宣言と同時に、何かに引き寄せられる様に、レイトは握ったライトライドラッグを、アイリスはシルバーライドラッグを繋ぎ合わせる。転瞬、両者の間で結びついた錬真力、そしてアイリスのパラディンとしての権能が合わさる様に迸った。

 

 2人の力、心、思い……それら全てが2つの霊薬を束ねていき……1つの大型のライドラッグへと変化する。光と銀……2つの霊薬瓶を時計の様な機械装置で繋ぎ合わせた様な、既存の物とは全く異なる形状をしている。まるでレイトとアイリスの心が結び付いて1つとなった様な……。

 

「…ありがとう。それじゃ……行くよ、アイリィ!」

「ええ!」

 

 …否、錬真力が繋がり合った瞬間、彼女が自分の為に必死に走ってくれた事を理解した。その事がレイトに恐怖を圧して立ち上がる強さをくれた。今ならば……。レイトは懐から新たなダークライドラッグを取り出し、臆さずにベルトのスロットへと装填した。

 

〈ダーク……!〉

 

 次いで、左手に握った大型霊薬中央の時計の様なパーツを回転させ、中心部のスイッチを押し込む。

 

〈爆発変化‼〉

 ゴボゴボ……!と2つの霊薬が混じり合う音が響き、霊薬が励起状態に入る。レイトはその霊薬を本来マテリアルサイドとなる左のスロットへと装填した。

 

〈ミスリックバーン‼ネオ・ファンタスティック‼〉

 ベルトが起動し、肉体を蝕む力を秘めた闇のアーマムエレメントがレイトの周囲を飛び回る。が、それと同時に天の陣から降り注ぐ光がまるで彼を守護する様に包み込んでいった。

 

 いつしか、伝説のレジェンドライダーに言われた事がある。ライトライドラッグは、心に秘める希望の灯りそのものなのではないか、と。その可能性が真実なのだと、今は強く実感できた。自分を見失わない様に、いつでも道を照らしてくれるアイリスの……否、仲間達の思いそのものだと。

 ありがとう……と、心の底でしっかりと告げ、レイトは今ひとたび誓いの言葉を叫んだ。

 

「変身‼」

〈オールアップ、ディライト‼〉

 

 レイトの全身が銀のマテリアメイルへと変換され、更に闇のアーマムエレメントが各部へと合着していく。だが、変化はそれでは止まらない。大型の霊薬——『ミスリックバーンドラッグ』に込められたもう1つの力、光のエレメントがマテリアメイル全体に広がり、その輝きを纏わせる様に……鮮やかな金色へと変えた。

 

 闇のエレメントの強大な力による肉体への負荷が、光のエレメントが展開する事によって緩和される。それによってディライトドライバーによって意図的に抑え込まれていた闇属の力も更に解放され、背部全体に大型の黒い翼の様なエレメントタービュラーが展開される。最後に黒い仮面の下、ディライトの複眼がまるで意思を取り戻したかの様に赤く輝き、変身が完了した。

 

〈ライツアウト!セイクリッド・ブレイバー‼ダーク!ミスリックナイツ‼〉

〈…Whenever,Continue evolving〉

 

「…その姿は……⁉」

 

「仮面ライダーディライト……『ダークミスリックナイツ』。ここから先は、俺たちのサーガだ‼」

 闇と光。対極の力を宿した黒と金色の仮面ライダーディライトが、宣言と同時に地面を蹴ってネメシスの懐へと飛び込んだ。

 

「………っ⁉速———‼」

「はぁっ‼」

 

 ダークミスリックナイツとなったディライトの速度は、レンジャー形態の比ではない。僅か一刹那の間にダインスランサーがネメシスの胸部装甲へと突き刺さった。しかも、同じ闇属の力を持つ為、ネメシスの不連続機動すらも無効化できる。ディライトとネメシス、両者の攻守が完全に入れ替わった瞬間だった。

 

「ぐあぁぁぁっっっ⁉」

「俺はもう、闇に呑まれたりしない!今はこの力の全てが、思いのままにできる!」

 大腿部にまで広がったアーマムエレメント——『ストーミングローブ』が尻尾の様に変形し、ネメシスを滅多打ちにしていく。更に遠心力を利用して急突進、両足踵に出現したカッターがネメシスを脳天から切り裂いた。

 

「くぅっ……!」

 なんとか透明化能力を発動させたネメシスが後方にスウェーバックしながら反撃の砲火を放つ……が、ディライトが左手のドグラマシュレッダーの掌底部を向けると、そこから発生した力場にそのエネルギーが吸い込まれて消えていった。

 

「なんだとっ……⁉」

「エネルギー変換……“力”のイメージ‼」

 エネルギーを取り込み、まるでマグマが煮え滾る様にドクドクと赤黒く発光していた左腕のアーマムエレメントが、レイトの意思を反映する様に槍状に姿を変えた。槍は更なる攻撃をものともせずに突進し、ネメシスに叩きつけられた。

 

「ネメシス⁉こんの———っ‼」

 あのネメシスが圧倒されている。ステファニーが援護に入ろうと駆け出すが、そこにヒラリと舞い降りた人影が彼女の行く手を遮った。

 

「…アイリス・ルナレス……‼」

「行かせないわ。あなたの相手は私だって言った筈よ」

 

「……っ!アンタ達はっ……そうやっていつもいつもっ‼」

 

 彼女の肩口に輝く紋章は眩いばかりの金色、即ちかつてステファニーが覚醒した闇の力とは正反対に位置する存在という訳だ。溢れんばかりの光輝に彩られて剣を構える姿は、まさしく物語の中にしかいない様な、神聖なる姫騎士……といった風情。パラディンに覚醒した直後は、力の負荷に体がまだ耐えられない筈なのに……。

 

「選ばれた者は違うってわけ⁉お高く止まってんじゃないわよっ‼」

「誰がっ‼」

 ステファニーの爪撃をアイリスが片手の剣で受け止め、薙ぎ払う。彼女のレイヴァクロスは鞘にはまったまま。つまりは相手にこちらを殺傷する気はないという事だ。それを侮りと受け取ったステファニーは怒りに震えてベルティドイェーガーのオーバードライブを作動させた。

 

「……っ!そんなにっ……パラディンが嫌いなの⁉」

「ええ嫌いよ!アンタらの綺麗事も、そんなのに縋ってのうのうと生きてる奴らも!…どいつもこいつもっ……全員ディアバルに滅ぼされればいいっ‼」

「そんな身勝手!」

「身勝手⁉何も知らない癖にっ‼」

「知る訳ないでしょう!言われもしないんだから‼」

 

 歪んだ人間や大人の計略に巻き込まれて、神聖騎士になる事を強いられてしまったステファニー。だが彼女がこの世を呪うほどの怒りに身を焦がす理由を、アイリスは知らない。

 

 もし知ったとしたら、どんな顔をするだろうか?

 

 使命を強制されても、それでも精一杯の誇りを振り絞っていた事。

 それでも拭いきれない恐怖と孤独。

 力が覚醒して動けなくなった時、手を差し伸べて貰った嬉しさ。

 それも直ぐに返されて、数人がかりで組み敷かれた恐怖と屈辱。

 無我夢中で抵抗し、熱い血を被った瞬間。

 無理矢理絞り出したなけなしの誇りすらも崩れ去った事。

 暴走したパラディンの力がデブリスを呼び寄せたのか、直ぐに悲鳴に包まれた村から命からがら逃げだしたあの瞬間から、この世はただ呪わしいものへと変わった。

 そんな胸中の汚泥を、その清廉潔白な顔に叩きつけてやったら、どれだけ溜飲が下がるだろう……?

 

 だが。

 

「…言ってやらない。理解なんかされたくない!アタシはアンタの英雄ごっこに付き合ってなんかやらない‼」

 この世の不条理に帰る場所を奪われた。頼るべきものも何もない。八つ当たり?そんな事は百も承知だ。だがそんな自分の中の怒りを、無力感を、激情を、お仕着せの様な美辞麗句で締めくくられて堪るものか!

 

「精々思い知りなさい!アンタらがどれだけ綺麗事を並べたって、アタシは———!」

「…救えないって言いたいの?それなら———」

 オーバードライブの刃をアイリスは真正面から直剣とウェイビングローブだけで受け止めた。だがどちらも神聖教会製のものよりも強度は数段劣る筈だ。長く保つ訳がない。実際、耐久の限界迎えた刃が白い光に包まれ溶け落ちていく……刹那、アイリスの胸のブローチが眩く輝き、ステファニーの視界を塞いだ。

 

 光のパラディンの権能かと警戒したが、しかし攻撃ではない。少なくともたった一瞬だけ視界を塞がれただけに過ぎない。だが、やはりただの虚仮威しでもなかった。その一瞬の隙をつき、アイリスがステファニーの懐へと飛び込んできたのだった。しかし、剣もウェイビングローブも殆どが先程の攻撃で失っているというのに……。

 

「アンタッ……一体どういう———⁉」

「それはね……こうするのよ!」

 戸惑うステファニーをアイリスはしかと睨み据え……なんと徐に拳を放ってきた。正拳はものの見事に彼女の腹部辺りへと命中し、ステファニーが声を上げて吹き飛ばされる事になった。

 

「い、いきなり殴るっ⁉パパにも殴られた事ないのに‼」

「良かったじゃない。恵まれた人生を歩んできたのね!」

「…コイツっ……!バカにすんなぁっ‼」

 

 ステファニーが腰のウェイビングローブを刺突形態に変えて放つが、アイリスは軽い脚運びだけで躱すと、再び拳を繰り出す。今度は彼女の顎にまともに直撃した。

 

「パラディンにはきっとあなたを救えない……そうなんでしょうね。でも生憎、私はそんなに諦めが良くないわ。来なさいよ。あなたを見なかった人たちの分だけ、私が全力で相手してあげるわ」

 アイリスが挑発する様に指を曲げて構える。武器も持たず、パラディンとしての権能を発動する気配もない。なんの力もないただ1人の人間として、ステファニーと戦うと……そういう事か?そんな彼女の姿に思わず気圧されかけたが、それでも歯を食いしばって怒りを捻り出す。

 

「…うるさいっ……!そういうの……余計なお世話って言うのよ!」

「知ってるわよ、それくらい」

 

 ステファニーがどれだけ立て続けに攻撃を繰り出しても、アイリスは軽々と避けながらまた攻撃を繰り出してくる。攻撃、防御、見切り、体力を考えたペース配分すらも間違いなく彼女が上だった。

 

 それはアイリスが自らの道を行く為に、彼女の理想を体現する為に、長く地道に磨いてきた修練の結果だった。余計なお世話と後ろ指を指されたとしても、世の無常に何度押し潰される事になろうとも、その果てに彼女の力や言葉を必要とする人が必ずいるのだと信じて。

 

 ——対して、アタシはどうだろうか?

 

 パラディン達の影を知り、誰もが彼らの守る秩序で生きている。そんな世界が心底嫌になって、世界の秩序を打破してくれるネメシスに協力した。だが、結局それだけの事だ。パラディンの道から逃れられなかったみたいに、また流される様に道を選んだだけの事で……。

 

「…それでもっ……もうどうにも出来ないのよ!もう、パパもお兄ちゃん達もいないっ……。こんな世界で……アタシ1人でどうしたら……」

「…1人なんかじゃない。私たちがさせない。何度余計なお世話だって言われても……」

 アイリスがステファニーの懐に飛び込む。拳は握らない。疲れた様に倒れ込む彼女を、抱きとめて両の腕でそっと包み込んだ。

 

「…1人じゃ見つけられない事が、この世界にはあり過ぎるから」

 届いたかどうかなど解らない。だが、ステファニーの頬に涙の痕が一筋走っているのを見つけられた。それを拭い去る事はきっと今の自分には出来ない……けど、見つけたのならば、この手を放す事はすまいとアイリスは誓った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 その頃もう一方、仮面の奥で舌打ちながらネメシスがディライトに向けてサイザースから火線を放つ。だが、あらゆる攻撃はディライトが一撃を放つ度に虚空に吸い込まれる様に掻き消されてしまう。そしてその度にディライトの攻撃は更に威力を増していくのだった。

 

 ダークライドラッグに秘められていたファンタスティックヒットの特殊能力、『イクリプスミスト』は夜闇が光を飲み込むかの如く、自身に降りかかるあらゆるエネルギーを吸収し、逆に自らの力へと変換してしまう力である。闇のエレメントが周囲のエネルギーを次々と吸収しようとした結果、メモリージングシステムがその膨大な情報量を制御できずに力を操れなかった。

 だが今は違う。闇の中に輝く光が道標となってレイトを導いてくれている様だった。

 

 ディライトが吸収した力の一部を機動力として放出すると、瞬きする間もなくネメシスの懐へと出現し、両腕のブレードと爪の連撃を叩き込んでいった。

 

「ぐっ……⁉そんなバカな……人間がこれ程までの力を出せる訳が———!」

「俺1人の力じゃ出来なかったさ!だけど、皆が繋ぎ止めてくれた。今までもずっとそうだった……。俺だけの力じゃ仮面ライダーにはなれない……。でもだからこそ!仮面ライダーは誰かの為に強くなれるんだ‼」

 

 ローランを始め、多くの人々の死を目の当たりにして、自分がどれだけ無力であるかをさまざまと見せつけられた。しかし、託されたものの重みに耐えきれず、仮面ライダーという名の重責に押し潰されそうになり、レイトは自らの無力から逃げた。1人で戦えると信じていれば、己の仮面の下の虚飾に向き合わずに済むから。

 だが……自分に限らず、きっと誰もが無力である事など当たり前なのだ。無力だからこそ、他の誰かと繋がり、力や知恵を尽くして、いつか自分だけでは出来ない事を成していく。それを思い出させてくれたアイリスに……そしてその背後にいるであろうたくさんの仲間達に感謝しつつ、ディライトはベルトのエブリッションスターターを押し込んだ。

 

 今ここで、全ての終止符を打つ為に。

 

〈エブリッション!ネオ・ヴァリアントブリンク‼〉

 

「このっ……!調子に乗るなぁ‼」

 ネメシスがサイザースにグラビティルーンドラッグを装着させる。そこに秘められた力を受けて数十本まで分身した槍が重力から解放されて飛び、ディライトへと殺到する。が、ディライト背部のエレメントタービュラーが黒い羽根となって周囲を薙ぎ払った。

 

 上空にまで展開した闇のエネルギーが蝕によってできる影——本影の様に周囲一帯を覆い尽くす。その影へと捕らわれたネメシスはまるでブラックホールに吸い込まれるが如くその中心点へと巨大な力で引っ張られていった。

 

「せぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ‼」

 

「……………っっ⁈」

 流星となったディライトの飛び蹴りがネメシスの胸部装甲へと直撃。闇のエネルギーをまともに浴びたネメシスの体各部からスパークが上がり、遂に爆砕した。その光に噴き散らされる様に周囲を覆う闇が消えていく。まるで長き苦渋の時が終わったかの様に……。

 

「レイト!」

「アイリィ……!…その……ゴメン。俺が……」

「もうっ、今はいいから。…本当に良かった……」

 

 変身を解除して少し気まずそうに微笑む姿は、生真面目な彼らしい。少し潤んだ視線と視線が交錯し、それだけでお互いの想いがはっきりと感じ取れる様だった。このまま強く抱きしめ合いたい……ところではあるが、今はまだ予断を許さない状況である。互いの手を取り合って、地面に伏すネメシスへと目を向けた。

 

「そんなっ……この僕が……?…あり得ない……!スペリオルである僕がこんなっ……!」

 こちらを憎々し気に睨み付けるネメシスだったが、全身に傷を負い、満足に立ち上がる事も出来ない様だった。ミスリックフラッシュを使っている為、そんなに人体へのダメージは多くない筈なのだが……。

 

「…まったく……何をしたらあんなに嫌われるんだか……」

「さぁ?それは本人に訊かないと解らないでしょうね。このまま捕らえるわよ」

 度重なるパラディン殺害の真意に加えて、彼が知っていると思しきディライトとディアバルに関する情報。何としても白状して貰わなければなるまい。捕縛用のロープを錬成し、レイト達がネメシスに近づいた……その刹那の事だった。

 

「面白い事になってんな。オレも混ぜてくれよ」

 

 どこか懐かしい、だが明らかに異質な声が頭上から降り注ぐと同時に、ネメシスの傍らに黒いコートを纏った青年……ハイルが舞い降りた。

 

 …否、ハイルではない。彼の身体に憑りつく異なる者……ディアバルがデウスカリバーⅡにマキナカリバーソードラッグを装填し、振り抜いた。

 

「変身」

〈マキナ……ブレッシング……‼魔穿……!鐡剣……!ソーディア・マキナ‼…Just bring it……!〉

 

「…ディアバル……!貴様っ……‼」

「うるせぇな。エセ神様にはいい加減に消えて貰おうか」

 

 先刻と同時にソーディアマキナがマキナカリバーⅡを高々と振り上げ……ネメシスの背中にその刃を深々と突き立てた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ⁉」

 

「いい気味だ、天国に召されても元気でな。さて……」

 血で濡れた剣先が、今度はレイトとアイリスに向けられた。仮面で表情は見えない……が、その声から目の前の魔王が今の状況を楽しんでいる事は明確だった。

 

「この日が来るのを待ってたぜ、ディライト……今は仮面ライダーだったか。さて……今のお前は、どれだけオレを滾らせてくれるんだ?」

 

 




次回予告
自らの闇を乗り越えたレイトは、ディアバルという存在の正体と、その悲しき宿命を知る。
だが、争いは避けられない。どちらかが消えるまで終わる事のない対決が迫る中、それぞれが自らの決断を下していく。

「倒すぞ……ディアバルを‼」

Saga25『スペリオル~天の意思、人の意地~』
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