仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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Saga26は今回で終わりです。そろそろネタが尽きてくるころですな。
短いですが、今作の物語が根底からひっくり返るくらいに重要な設定が明かされます。
どうぞお楽しみに。


Saga26 ザ・クリエイター~恐怖の起源~②

◇◇◇◇◇

『勇者ディライトの時代以来、久方ぶりに光の神聖騎士が顕現した……。その事を鮮烈に知らしめませんとねっ♪』

 

 クリスが言っていた通り、かつてディライトが活躍していた時代より後には光のパラディンを受け継ぐ者は現れていなかった。物語の中でも勇者とは特に近しい関係にあり、デブリスと対の力を有する光のパラディンは民草からの人気も高い……からこそ、その復活を大々的に示して多くの人々に希望を示す……趣旨としては解らなくもない。

 

 ——…だからといって、ここまでとは思わなかったが……。

 

 ケープ型の新装備『セイリングローブ』は光のパラディンが放射する錬真力を受けて、体を浮遊させる効果を持つ。だが翼とは違い、文字通りの帆の様なもので、言ってしまえば凧に掴まっている様なものだ。少し制御を誤れば落ちてしまうから、見た目ほど優雅でも何でもない。

 

 だが……と、アイリスは思う。パラディンの実態が道化であれ、新装備の実験台であれ、そんな事は百も承知である。どんな形であろうとも、人々に希望を与えるというその使命に繋がるのであればそれでもいい。

 

 …まさか神聖騎士としての最初の相手が、かつて自分にそれを示した男になろうとは、皮肉でしかないが……アイリスはもう覚悟を決めていた。

 

 左手をスッと地上の標的——デイヴィラークへと定めると、手首に巻かれた籠手型の新型錬結炉が輝き、6本の小刀が現出させた。小刀はそのまま重力の定めに従う事なく、まるで羽が生えているかの様に飛翔し、デイヴィラークへと殺到していく。剣先に取り付けられた銃口から放たれた一条の火線がアームドコンクエスターを焼き切り、そのままネメシスを戒めから解き放った。

 

「何奴⁉」

 小刀が空を舞い、次々と襲い来る様に向こうは驚嘆しているだろう。『パラディンメイツ』と名付けられたこの武器は、オリヴィエの双剣と同様に錬真力の作用を受けて飛ぶ様に設計されているのだが、効果はそれだけではない。その柄部にはライドラッグが充填されており、そのエネルギーを駆使して遠近双方の攻撃を繰り出せるのだ。

 

〈BLADE LOADING……!〉

 錬結炉に新たなライドラッグを装填、無機質なガイダンスボイスと同時に一振りの長剣がアイリスの右手に出力された。名付けられた銘は『パーラケイン・ステラ』。彼女のかつての愛剣を打ち直し、長さや重量までその全てがアイリス専用に再設計された最新鋭の刀剣である。

 

 剣を構え、セイリングローブから力を放出するイメージで空中を蹴る。一瞬で翼の様にローブが広がり、アイリスが地上目がけて加速した。

 

「貴様かぁっ!」

「ジョーンズ司祭‼」

 

 正確に蛇腹状の関節部分に叩きつけられたパーラケインによって、左側のアームドコンクエスターも両断される。そのまま首筋目がけて剣を横薙ぎに払う……が、その直前にデブリシリンジャーの刺突剣によって防御される。鍔迫り合いになったらアイリスがパワーで勝てる道理はない。迷いなく後方へと跳び退るが、それだけで終わらせる気もない。パーラケインを指揮棒の様に振るうと、アイリスの周囲を旋回していたパラディンメイツが再びデイヴィラークへ光線をお見舞いした。霊薬の残量の問題から相手の装甲を貫くには至らないが、巻き起こされた無数の小爆発によってジョーンズが「グッ……!」と苦悶の声を上げた。

 

「コイツ……!よくも———!」

「マヤ、ゼオラ!」

 グリンファングとライティアウィドウが動きかけるのを察してアイリスが叫ぶ。刹那、彼らの直上の空が唐突にひび割れ、そこから無数の鉄杭が絨毯爆撃の様に降り注ぎ、デブリーター達の動きを牽制した。

 

「おーい、レイト!」

「マヤにゼオラも……その恰好は———?」

「う、うるさい!何も言うなバカモノ‼」

「そんなに気にする?格好いいと思うけどなぁ」

 

 マヤもゼオラもアイリスと同様に服装が変化していた。これまで着ていたリンクスの民族服の上に金属製の手甲や胸甲を纏うマヤに、陣羽織を思わせるバトルコートを身に纏っているゼオラ。神聖騎士の紋があしらわれた装備群は、彼女たちが正式にその地位を受け継ぐことを決意した証なのだろう。

 彼女たちに危ない事をして欲しくないという思いはまだあるが……彼女達が自ら選び決めた事であるならば、レイトはただそれを尊重するだけだ。

 

「いいじゃない。良く似合ってるし、カッコいいよ」

「…派手過ぎる……。もう少し、シンプルな方がいい……」

「装備も新しく用意して貰って、贅沢ばっか言うんじゃないよ。という訳で!これからはあたし達ももっと積極的に戦いに出るから、よろしくね!」

「頼もしいね、まったく!」

 強がりでもなんでもなく、今のレイトの本心である。1人で強くはなれず、1人では世界の悲哀を背負う事さえ出来ないのだから。新たに取り出した2つの霊薬をベルトに装填し、スターターを押し込んだ。

 

「再錬成!」

〈ライツアウト!セイクリッド!ブレイバー!ダーク……ミスリックナイツ‼〉

〈…Whenever continue evolving〉

 

「はぁっ‼」

 ディライトがダークミスリックナイツへと姿を変え、脚を止めているライティアウィドウ達へと斬りかかった。光と闇、7大エレメントの中でもとりわけ強力な2つが合わさったこの形態は幹部級デブリーターの両者をも凌ぐ様だ。両腕の武器の一撃だけでライティアウィドウとグリンファングが上空高くまで吹き飛ばされ、その生体装甲が火花を散らして砕けた。

 

 ディライトが素早く身を翻して、今度はデイヴィラークへと突撃していった。ドグラマシュレッダーが丸太ほどもある触腕を掴み取ると、そのまま力任せに振り回した。デイヴィラークが建物に叩きつけられると、アームドコンクエスターも関節部から破断。変身が解除され、元のライアン・ジョーンズの姿へと戻ってしまった。

 

「親父……!クソがっ……!なんてデタラメな力だよ……」

「闇の力を完全に制御化に置くなんて……。ジョーンズ、ウォルター!ここは退がるわよ」

「…黙れ……!あ奴を仕留めるまで儂は———‼」

「バカ!目的を忘れてんじゃないわよ!」

〈LA・LLORONA LIQUEFIED…INFUSING…!〉

 

 ライティアウィドウがデブリドラッグのエネルギーをチャージし、刺突剣を地面へ突き立てる。瞬間、ひび割れた石畳を突き破って泥水が間欠泉の様に噴き上がってデブリーター達を包み込んでいった。水流の勢いは強いが、攻撃に使えるほどではない。水柱が消え去ると、それを隠れ蓑にしてデブリーター達はまんまとその姿を消していた。

 

「あぁっ、逃げられた‼」

「仕方ないよ。あのまま捨て身で戦いを長引かせられるよりマシだと思おう」

「…ジョーンズ司祭、凄い剣幕だったね。どうしてあそこまで……」

 

 アイリスが複雑そうに俯く。あそこまで怒り猛る恩人の姿を見せられると、流石に覚悟を決めていたつもりでもショックは大きかった。そして同時に、その怒りこそが今回の戦争の根源である様にも感じられた。

 

 戦いが集結し、そこは流石アネスタの騎士団。救助活動に乗り出すのはとにかく早い。ここは一旦任せようと決めてディライトが変身を解除する。今は一刻も早く知りたい事もある。

 

「ネム、立てるか?」

「…あァ……すまなかったな……」

「謝罪は事情を聞かせてからにしてくれ。ディアバルを生み出したのがお前たちだって話……ちゃんと説明してくれよ」

 

 この世界に振り撒かれた厄災、それが齎す多くの悲哀に憤怒……その全てから決して逃れまいとするかの様に、ネメシスがレイト達を毅然と見つめ返した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

『広大なる多元宇宙(マルチバース)……その1つの世界の話になる。その世界の知生体……例によって人間達はその高度な知能をどこまで向上させるかというのを種の至上命題とする様になった。それは度重なる研究によって、自らの母星を生物が住めない環境にしようとも変わる事はなかった……』

 

 稲光が走る黒雲に覆われた星。その雲間を破って、いくつもの飛翔体が空へと上がっていく。

 

 

『この宇宙の何処かに存在すると言われる、全知全能の知性……“神”とも“スペリオル”とも呼ばれる存在への進化を彼らは夢見ていた。宇宙へ進出した彼らは、やがて肉体という檻すらも手放した。寿命、欲望、限界……知性の発達を妨げる全ての物を捨て去り、完全なる存在へと成る為に』

 

 漆黒の宇宙に建造された巨大な城塞。そこの中心部に運び込まれた無数の脳髄が壁面に埋め込まれていき、やがて施設に灯が点き始める。

 

 

 

『彼らの新たなる世界は『ラショナル』と呼ばれた。永遠が約束された終わりなき世界。我らの飽くなき探求の時間が始まったんだ』

 

 自らの優れた知性を発展させる事を存在証明とする彼らは、実体なき世界の中でこの世界のあらゆる事柄を解き明かさんと研究に明け暮れた。多くの原理や技術が彼らの手によって生み出されていった。『エレメント』と名付けられた世界を構築する未知のエネルギーの発見、マルチバース間の観測と移動を発見する技術の解明などが進められていくが、それでも彼らの知識の拡大欲は止まる事を知らなかった。

 

 

『どれだけの時間が経とうとも、スペリオルを観測するには至れない……そんな焦りもあったんだろう。そして、遂に禁断の領域へと彼らは手を伸ばしてしまったんだ』

 

 

『見つける事ができないなら、作ってしまえばいい。宇宙さえも作り出せる、完全なる生命体……後にディアバルと呼ばれる事になる怪物の創造に……』

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

『…おぉ……なんたる事だ……。我らが生み出したあの異形が、かの世界を死に追いやろうとしているとは……。アレを生み出した者の責務として、この事態を座して静観するだけなど出来るだろうか……?…イヤ、出来ない‼』

 

 スポットライトに照らされて、懊悩する1人の人物。ボール紙で作られた鎧の胸元にはデカデカと“勇者ディライト”と大書されていた。

 

『止めなければなるまい……!それこそが我らの指名……!』

『『『そうはさせぬぞっ!』』』

 てんでバラバラな格好をした兵士が飛び出して、“勇者ディライト”を取り囲んだ。

 

『あの世界の命運など、我らには関係ないのだ!奴を倒す為に我らの叡智の結晶を持ち出す事は許さぬ!従わねば、貴様は極刑に処される!』

『関係ないだと⁈それが叡智を極めし者の言う言葉か!自ら犯した事柄の責任も取らずに、スペリオルだなどと言えぬ!』

『『『ぐえぇぇぇぇぇっっっ‼』』』

 これまたボール紙の剣を一閃させると、兵士達がわざとらしく吹っ飛び、舞台の奥へとフェードアウトした。

 

『さぁ、いざ行かん!私はディライト……字に従い、全ての者に喜びを齎す為に‼』

 “勇者ディライト”が跳躍すると同時にスポットライトが消え、ステージが暗転。舞台は切り替わって、3人の村娘と全身真っ黒なタイツ姿の男が向かい合っている。

 

『グヘヘヘヘヘヘェェェッ!オレの名はディアバル!さぁ人間ども!恐怖を撒き散らしやがれでございま———撒き散らしやがれぇっ‼』

『き、きゃ~~~~~~……なんて恐ろしー怪物でしょー』

『ワタクシ達の力がなに1つ通用しないなんてー……(…なぁ、このセリフ分ける必要あるか?)』

『(ないよねー……)誰かー、お助け下さいませー』

 やけに棒読みな村娘たちの声に呼応したのか(?)、舞台の奥からスモークと共に先程のボール紙勇者が姿を現した。

 

『もう大丈夫!何故って?私が来た‼』

「おいボス、セリフが違うぜ!そこはちゃんとあっしが考えたカッチョイイ決め台詞を———」

『デトロ〇トスマァァァァァッシュ‼』

『ぎゃおんっっ‼』

 

 “勇者ディライト”のパンチで黒タイツディアバルが舞台端まで退場。勝利のポーズを決める勇者に村娘たちが(それはそれは不本意そうに)近寄って拍手喝采を浴びせる。

 

『きゃー素敵ですー。貴方様こそ真の勇者サマでございますー』

『(…俺を睨まれても困るんだけど……)ハハハハハッ!恐れる事はない!君たちとて決して奴に立ち向かえない訳ではない!さぁ!共にあの恐るべき魔王を打ち倒そう!』

 スポットライトを浴びて、勇者と村娘がカーテンコール。徐々にライトが消え去っていき、全ての幕が閉じる……。

 

「…よし。ちょいと駆け足だったが、こんな感じで間違ってねぇかネム?」

「…まぁ、大筋で間違ってはいないけど……」

 

 たった1人で観客席に座るネメシスが、感情の消えた目線でディアバル役(とは名ばっかりの黒タイツ)のジェイクを見据えると……。

 

「…これはなんの真似なんだ?」

 

「「「こっちが訊きたいくらいだっっっ‼」」」

 ステージに上がっていた出演メンバー達が揃って、こんな茶番劇の発起人たるジェイクを殴りつけた。

 

「痛ってぇっ‼ボスだってノリノリでやってた癖に———‼」

「やかましいわ!俺たちはディアバルが生まれた経緯を聞いてたんだぞ。それなのになんだよこの茶番は‼」

「だ、だってよぉ……『実体を持たない存在』だの『人工的に生み出された神』だのわけわからねぇじゃねぇスか。分かり易く翻訳してみようと思いやして……」

「…お前の翻訳がアレなのかよ……」

「う~ん……?でもゴメン……。実は私たちもよく解ってなくて……」

「知性を発揮する為に肉体を捨てるって……ハッ⁈ま、まさかゆゆゆ幽霊……⁉」

 顔を青ざめさせて部屋の端まで後退するゼオラに、ネメシスが呆れて「違う違う……」と手を振った。

 

「さっきから説明してるだろう。人の脳をスキャニングしてその知性と人格データをボトムアップ型AIとして再現。ラグランジュポイントに建造されたサイバースペースコロニー『ラショナル』と、そのサーバー内に保存される電脳パーソナリティ、それが僕たちだ。肉体もこの世界で活動する為に人工的に精製したナノマシンボディに過ぎない。…まぁ、失われた人類の記憶という意味では、ゴーストと言えるかもしれないが……」

「…ネム、それじゃ誰にも伝わらないから……」

 

 コイツ頭がいいのに妙に察しが悪い所があるからな……と、指摘するレイトに「あァ、それもそうか……」とネメシスが難儀そうに考える。

 …やっぱりナチュラルに上から目線なのは変わりないらしい。

「…レイトは理解できたの?」

「(ギクゥッ!)…い、いやなんとなく……かな?」

「…話をややこしくして悪かった。“僕たち”の事はどうでもいいんだ。重要なのはディアバルを創造したのが“僕たち”であるという事、そしてかつてこの世界に降り立ったディライトも、僕と同じ電脳パーソナリティの1つだという事だ」

 

『解るだろう、ネメシス。“アレ”は私たちの罪だ。命を弄んだ我らの業が、今もまた別の命を苦しめ続けている……そんな事が許されていい筈がない!』

 

 ラショナルのデータベースの中に永遠に保存される自分達にとって、時間という概念はもう存在していないに等しい。得た情報も全てがストレージに保存される為、どんな物事であっても記憶から消え去るという事はない。だからこそ、あの時の“親友”の責める様な声音が、ネメシスには今でも鮮明に思い出せる。

 

「自らの細胞を基に、周囲の環境を創造する力を持ち、且つ決して朽ちない肉体と魂を持つ、究極の生命体……そんな狂気じみたプロジェクトの一環として生み出されたのが、あのディアバルだった。僕とディライトも、その開発プロジェクトに参加していたんだ」

「ジークさんが言ってた『創造者』っていうのは、お前たちの事だったのか……」

「でも、ディアバルの力は予測を遥かに超えて、あなた達の手に負えなくなってしまった。だから、別の世界へ彼を追放する事になった……と?」

「…皮肉なものさ。神を気取ったつもりが、本物の神を作り出して、それに振り回されてしまうんだから……。僕たちの方こそ、とんだ茶番の道化だ」

 

 自分達の想像の範疇を超えた者が存在する。優れた知性を持ち、それこそが種の誇りと捉えたラショナルの人間達にとって、それは認めがたい事実だったのだろう。それから目を逸らさんとするかの様に、生み出された完全生命体は遥か果てのマルチバースへと追放される事になった。

 

「そのまま全てを忘れられたら、どれだけ良かっただろうな。だが、やはりそれは許されなかった。アンダーユニバースへと放逐されたディアバルがこの次元に出現し、暴威を振るっていると知ってしまった。開発に携わった者として、ディライトはそれを座視する事は出来なかったんだろう……」

 

『知性を……大いなる力を誰かの為に使わずして、一体私たちは何の為に存在していると言うんだ⁉』

 

『私は行く……。生きとし生ける者すべての“喜び”を守る為に……』

 

 科学者として……それ以前に人として、自らの行いのケジメをつける。そんなディライトのメンタリティを解する者は、しかしラショナルの中にはいなかった。寧ろ彼らを統合する最上位のマスターブレイン達は、異世界に自分達の技術を持ち出す事をよしとしなかったのだ。自らの行いの責任も取らず、無関係を決め込む彼らに対するディライトの失望は相当なものだっただろう。

 

「それでも彼は諦めなかったよ。活動用のナノマシンボディと、戦う為の装備を作成して、ディライトはこの地上へと降り立った……。そして、人々に希望と戦う力を残して……今も行方知れずだ。以降の動向はこちらでも把握しきれていない」

「…ディライトがその後どうなったのかは、どの文献にも記載がないんだ。でもやっぱり、彼は……」

「戻る気はなかった、だろうね。どの道、マスターブレイン達に逆らい、こちらの秘匿技術の多くを持ち出したんだ。戻った所でパーソナルの削除は避けられない。…彼は二度と自分の世界に戻れない事を覚悟で、それでも自らの責任を取ろうとしたんだ……」

 

 鎮痛そうに顔を伏せるネメシスだったが、すぐにこの世界の人々を真っ直ぐに見つめ返し、そして深々と頭を下げた。

 

「言い訳をするつもりはない。僕たちがした事は決して許されない事だ。このケジメは僕が命に代えても必ずつける。だからせめて、ディライトがどれだけの覚悟を持ってここに来たか、それは分かって欲しい。彼は———痛ッ‼」

 同じ罪を犯した同志……かつて“親友”であったディライトを庇うネメシスの額にレイトがデコピンを放って黙らせた。

 

「…許されるとか、許されないとかさ、そんな話は今更だろ」

「そうよね。時間は戻らないし、失った命も帰っては来ない……。だから、私たちは過去じゃなくて、この先の未来に手を伸ばしたいと思う。ディライトもそうだったんだろうし、そしてあなたもそうなんでしょう、ネム?」

「俺たちだってよ、色々間違いを犯して、でもその結果として今もここにいるんだ。死んだらそこで終わりだが、生きてりゃ何度でもやり直すチャンスは巡って来る。…まぁ、だからよ……簡単に命に代えてもとか言うんじゃねぇよ。俺は少し寂しいぜ、お前がいなくなったらよ」

「………………」

 

 つまりは、生きて償いをしろという事らしい。それは戦いの中で果てるよりも遥かに酷な道なのかもしれないが……同時にこれが人というものなのだと、ネメシスはハッキリと納得できた。受け入れる様に微笑む者も、まだ納得し難そうな複雑な表情を浮かべる者も、その全てに応える様にネメシスはしかと頷いた。

 

「…あのっ……アイリスさん、罪滅ぼしをしなきゃって訳じゃないんだけど……戦いなら、アタシも出来る限り協力するから」

「ステファニー……でも、あなたは———」

「別に流されて言ってる訳じゃないわ。確かに使命からは逃げたし、まだ戦えるかは解らないけど……手は多い方がいいでしょう?だったら、協力させて」

 

「いやはや、いやはや……なんだか結束も固まってきましたね。いい傾向です♪」

「クリス?」

 

 パチパチ、と拍手を響かせながら、アネスタ女王がニッコリと微笑んでいた。デブリーターの襲撃後、他の臣下達と対策を協議すると言っていた筈なのだが……。相変わらず行動が読めないというか、フリーダムな御仁である。

 

「対策会議は終わったんですか?」

「どうやらデブリーター……いえ、シドニア軍は国境付近まで撤退した様です。偵察部隊からの報告では、しばらく動き出す気配はなさそうですよ。その間にこちらも態勢を立て直さなくては、ですね」

「簡単に言いますね。数はこっちがまだ上ですけど、デブリーターは強力ですよ。なにか、秘策でも?」

「秘策……は、あるといえばありますね。その為にレイト、1つ頼まれごとをしてくれません?」

 クリスが背負っていたカバンの中から大きな地図を1枚取り出して、テーブルの上に広げてみせた。アネスタとシドニアの国境付近に1つの赤丸が記されている。

 

「デブリーター達は国境付近に広く展開している様ですね。よって国境に近い地域は軒並み戦争に巻き込まれる可能性が高い状況な訳ですよ。そこで、勇者ディライトにはここに赴いて、この地に暮らす人々を守って頂きたいのです」

「でもここって……ぎりぎりシドニア領ですよね?この地に何が———?」

 

「『マヌール』……⁉」

 

 地図には地名が記されていない。だが記されたその地を見て息を呑んだ者がいる。マヤだった。

 

「ここは、『マヌール』……。あたし達……リンクスが暮らしてる場所だよ!」

「なんだって……⁈」

 驚愕する一同にクリスが頷き、1つの書状を手渡した。

 

「勇者ディライトよ。これよりこの地に赴き、リンクス族の守護を命じます。これは今後の戦局を左右する極めて重要な任務……拒否も失敗も認めませんからね♪」

 

 




次回予告

シドニアとの戦争が始まる最中、クリスからレイトに下された1つのミッション。それは国の境に暮らすリンクス達を守る事。
世界からはみ出して生きる彼らの思い、デブリーターの力の一端、そして勇者ディライトに隠されたある秘密を巡って、大いなる戦いが幕を開ける。

Saga27『勇名編ⅰ~絶壁のカノン~』

※すみません、来週も私事都合でお休みです。
 その代わり図鑑関係と特別なエピソードを掲載します。
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