【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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フェイクハンド

SIDE:兵卒 フィレン

 

「はわわわわ……」

 

 トーン09のオペレーター席に座るジョゼは、モニターに閃く砲火の光を真っ青な顔で見つめている。

 ナビゲーター席で操船を担当するトーロンも同様の有り様だ。

 元々非戦闘員である二人には、こちらに攻撃が飛んでくるかもしれない状況がすでにストレスなのだろうと、フィレンにも想像ができた。

 軟弱なと叱りつけたい衝動を覚えなくもないが、手酷く痛い目を見た経験はフィレンに多少広い視野を与えている。

 オーク戦士にもトロフィーにもオークテックにも、それぞれ言い分と向き不向きがあるのだ。

 そして姫の座乗艦であり、後方要員達で運用されるトーン09は後方に待機しておくのが仕事。

 トーン09が戦闘に巻き込まれてしまった状況自体が不運であり、非戦闘員のクルーを激しく疲弊させるのも無理はなかった。

 

「ふむ……」

 

 オペレーターとナビゲーターが真っ青になっている一方で、シートに足を組んで座ったキャプテンは、動じた様子もなくモニターの戦況を見つめていた。

 

 先行していた戦闘艇(コルベット)は撃沈されたものの、その後方から護衛艦(フリゲート)が迫っている。

 ベーコ達のバレルショッターが砲撃を繰り返しているが、護衛艦(フリゲート)の装甲を貫けていない。

 戦闘艇(コルベット)よりも重装甲なのもあるが、すでに傭兵部隊の護衛艦(フリゲート)戦闘艇(コルベット)に続けて全力砲撃を行ったバレルショッターのコンデンサは枯渇寸前になっており、強烈な一撃が放てないのだ。

 リチャージには帰艦しての充電が必要になるが、この状況ではそんな余裕はない。

 カーツは敵のブートバスターと一騎打ち、ノッコは戦闘機隊との交戦中で、護衛艦(フリゲート)に対抗する手札が残っていなかった。

 

「ん-……。 よし、決めた」

 

 唇に指先を当ててしばし思案していた姫は小さく頷くと、涙目でモニターを見上げているジョゼに向き直った。

 

「ジョゼ、ジャンプチャージの進捗は?」

 

「え、あ、今90%くらい……。

 溜まったら逃げるの?」

 

「それじゃカーツ達を置いてっちゃうじゃない。

 あたし達で護衛艦(フリゲート)を何とかするよ」

 

「何とかって……近寄ったら撃たれちゃうよ!?」

 

「撃たれない、撃たれない。

 あいつらはあたしが欲しいんだもの、護衛艦(フリゲート)の砲で船を沈める訳にはいかない。

 それにトーン08と09のどっちに乗ってるかも判んないから、どっちにも撃てないよ」

 

 こう仕向けるためにわざわざ通信を入れたのだと嘯く姫の豪胆さに、フィレンは若干の呆れを覚えつつも感服していた。

 

「でも、このままじゃ接舷されて乗り込まれちゃう。

 その前に何とかしないと。

 こういう手筈で行こうと思うんだけど」

 

 姫が語る手筈を聞き、フィレンの内心で呆れの割合が感服を大きく上回った。

 

 

 

SIDE:「残り火」のノッコ

 

 追尾してくる三機の通常型戦闘機(ローダー)の乗り手は、即席の教え子達に比べてもかなり質が落ちるとノッコは判定した。

 フォーメーションを組んで追い込もうという気配はまったくなく、てんでに己が手柄を立てる為だけに突っ込んできている。

 

「だから、釣られる」

 

 敵の進路状に撃ち込むわずかな銃撃と数度の鋭角なターンを行う『包帯虎(バンディグレ)』を追う内に、シャープ=シャービングの戦闘機隊は「並べ」られていた。

 三次元機動ゆえ一直線というわけではないが、わずかながら明確に前後の距離が開くよう誘導されている事に戦闘機隊は気付かない。

 

「まずはひとつ」

 

 ノッコは目前の大きなデブリを回り込むように回避すると、機銃を短く発射。

 大きなデブリ、傭兵部隊の護衛艦(フリゲート)の残骸に撃ち込まれたパルスレーザーは、脱落しかけていた装甲板の根元を焼き切った。

 破片が飛び散り、装甲板が新手のデブリとして乖離する。

 ノッコを追う形で飛び込んでしまった先頭の一番手は、不意に出現した障害物に対し慌てて機首を返した。

 

 その反射神経の良さは流石オークと言わざるを得ないが、操縦桿を切った先が悪い。

 護衛艦(フリゲート)の残骸に翼端をひっかけつんのめった機体は、半回転しながら避けようとした装甲板に激突してしまう。

 機体をひしゃげさせた戦闘機は、そのまま新しいデブリと化した。

 

 後を追う二番手は目の前に増えてしまったデブリを大きく迂回して避ける。

 そこをパルスレーザーが貫いた。

 

「ふたつ」

 

 一対一になってしまえば、最早ノッコに負ける要素はない。

 程なく、最後のカウントが数えられた。

 

「みっつ、おしまい」

 

 

 

SIDE:戦士 カーツ

 

「おらあぁっ! 往生しやがれぇっ!」

 

夜明け(ドーン)』を突っ込ませながら、ブランダーバスをぶっ放す。

 爆発四散する戦闘艇(コルベット)の光に『鍵十字(スワスティカ)』は明らかな動揺を見せ、その回避運動は精彩を欠いていた。

 広がる散弾を躱しきれないと見たか、下側二本の腕を盾として弾幕に相対する。

 電磁加速された屑鉄の破片が『鍵十字(スワスティカ)』の装甲にぶち当たり、火花を散らした。

 貫通できる程の威力はない、だが、身動きできないよう釘付けにする効果はある。

 

「仕舞いだ! 一発必中……」

 

 止めの一撃を放とうとした瞬間、それよりも早く『鍵十字(スワスティカ)』の船体で推進炎が弾けた。

 生存本能が攻撃よりも回避を優先させ、『夜明け(ドーン)』はその場で側転するようなロールを打つ。

 ほんの一瞬前まで『夜明け(ドーン)』が居た空間を、砲弾とは比べ物にならない質量が通り抜ける。

 

「質量弾!? いや……!」

 

 そんな馬鹿でかい弾丸やミサイルなどブートバスターに搭載できるはずがない。

 

「手前っ! そういう手口かぁ!」

 

 答えは簡単、要らない腕を一本ぶっ飛ばしたのだ。

 強烈な推進機付きの武装腕だ、宙を翔ける鉄拳の構造はミサイルと一緒とも言えよう。

 今や三本腕となった『鍵十字(スワスティカ)』の姿に、一杯食わされた俺は怒声をあげる。

 

「元から扱いきる気なんかなかったんだな、こん畜生!」

 

 腕が増えるごとに加速度的に操作難易度が上がっていくのがブートバスターという機種だ。

 四本ともなれば、達人級の技量が必要になるだろう。

 ヴァインは最初に四本の腕を見せつける事で、自らの腕前を詐称したのだ。

 

 機体の製造などできないのがオークだ、あの機体とてどこかで入手した略奪品だろう。

 操縦難易度の高い四本腕の使い道にヴァインは相当悩んだに違いない。

 自分の腕を高く見せつけ、いざとなれば手に負えない部分を切り離す。

 それはひとつの戦術ではある。

 実際、俺も四本腕を最初に見た時には威圧されるものを感じてしまった。

 奴の目論見にまんまと嵌っていたのだ。

 

 俺の中に生じているのは、いわば恥辱にも近い怒りであった。

 相手の技量を見誤った、それも高く。

 拍子抜けと出し抜かれた不快感が混ぜこぜになり奥歯を噛む俺に向けて、『鍵十字(スワスティカ)』はもう一本の腕を射出した。

 

「ふざけんなよ、この野郎っ!」

 

 斥力腕(リパルサーアーム)がエンジン付きの鉄拳を弾いて逸らす。

 

「こんなもん、一度見ちまえば当たるかっ!」

 

 下側二本の腕を打ち出し、ありきたりな二本腕となった『鍵十字(スワスティカ)』へ、俺は腹立ちを込めてブランダーバスを乱射した。

 四本腕の推力でも躱しきれなかったのだ、操作難易度は下がったかもしれないが、散弾の範囲から『鍵十字(スワスティカ)』は逃れられない。

 散弾の雨の中、身を捩る機体の各部で小爆発が弾けた。

 せっかく扱いやすい姿になった『鍵十字(スワスティカ)』であるが、まともなマニューバを見せる事も許されずに半壊し、漂流を開始する。

 

「たばかりやがって……畜生め」

 

 推進機まで穴だらけになった『鍵十字(スワスティカ)』の有り様に多少溜飲が下がり、荒い息を吐いた。

 難敵と誤認した相手への過度の集中が緩み、狭窄していたような視野が広がっていくのを感じる。

 

「なっ!?」

 

 見る余裕もなかったレーダーサイトに、見落としてはならない情報が表示されているのを確認し、思わず目を剥いた。

 トーン09が一直線に護衛艦(フリゲート)へと突き進んでいる。

 

「何やってんですかっ、姫ぇ!」

 

 俺はヴァインに止めを刺す事も放り出し、慌てて機首を翻した。

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