【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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市場への上陸

SIDE:ピーカ・タニス・トーン=テキン

 

 雑な作りのお手製バイクに先導されてトーン09は「ドック」に入る。

 金属製フレームの檻めいた構造のドックは異常に安っぽくピーカは不安になったが、十分な整備能力があるというトーロンの言葉を受け、そのまま厄介になる事にした。

 檻の内部にはクレーンやレーザートーチを装備したアームもぶら下がっているのが見え、トーロンの見立てを裏付けている。

 機関停止したトーン09を檻状フレームから伸びたドッキングアームが固定すると、ビールチューブめいた移譲用簡易スロープを人力で引っ張って軽宇宙服の作業員が近づく。

 作業員たちはトーン09のエアロックに簡易スロープをセットし、「市場」への上陸準備を整えていった。

 

「それでは、僕は整備用データの作成に入ります」

 

 留守番を買って出たトーロンが、ドックの入力用データを作成を開始する。

 データ入力を行えばドック内のアームが整備、今回の場合は前方追加装甲とする護衛艦ブリッジ部分の増設作業を自動で行ってくれるらしい。

 

「お願いね、トーロン」

 

「こういう仕事ならいくらでもお任せを」

 

 戦場で泣き喚きながら操舵桿を握っていた時とは打って変わった落ち着きで微笑むトーロンに、ピーカは適材適所の重要性を身に染みて感じていた。

 彼は戦士としては下の下だが、メカニックとしてもナビゲーターとしても有能な、得難い人材だ。

 戦闘能力だけで判断しがちな氏族の傾向を変えていかねばならぬと、改めて肝に銘じながら外出準備を整える。

 

 ジョゼが作ってくれた海賊衣装はすっかりお気に入りだ。

 ボディラインを強調するぴっちりしたデザインを黒と赤のカラーリングで引き締めた結果、色気と威圧感を両立しているのが実に良い。

 姫の美意識(エロくて強そう)に沿った、実に注文通りの逸品である。

 そして、この格好は趣味だけではない、実益もある。

 

 敵を侮らせる効果だ。

 

 時代錯誤で派手な扮装を大喜びで見せびらかし、こちらをお飾りの馬鹿と思わせる。

 これから行う、交渉という戦場では馬鹿にされ、侮らせる事は大きなアドバンテージだ。

 

 マントを羽織り、アイパッチを留め直しながら上陸のお供をする部下へ目を向ける。

 

「ヘルメットは絶対手放すんじゃないぞ、お前らはオークと違ってすぐ窒息するからな」

 

 ジョゼとペールはカーツの指示で軽宇宙服の背中にヘルメットを括りつけていた。

 ぺらっぺらの遮断幕で構成された気密区画は、見るからに危なっかしい。

 ノーマルな地球系人類(アーシアン)もドワーフも、真空に放り出されて何分も生きていけるようなタフさは持っていない。

 カーツの指示に、ジョゼとペールは真面目な顔で従っていた。

 

 カーツ自身も用意したヘルメットを被っている。

 彼の場合は、窒息対策ではなく素顔を見せないようにという配慮であった。

 

 顔を隠すアイディアはカーツ自身の発案だ。

 このメンバーなら、カーツが顔を隠していれば普通の地球系人類(アーシアン)の一党と誤魔化せるかもしれない。

 

 同族からすれば異様なカリスマを発するオーククイーンだが、その存在は他種族にはほとんど知られていない。

 ジョゼが初対面の際に勘違いしたように、他種族からは妙に発育がよくて見目麗しい地球系人類(アーシアン)としか受け取られないのだ。

 ドワーフは強化人類ではあるが、船乗りとして地球系人類(アーシアン)の船に多く乗り込んでおり、警戒されるような種族ではない。

 

 姫、ジョゼ、ペールだけしか顔を出さないのなら悪名高いオークの船と思われず、交渉が上手くいくのではなかろうか。 

 先ほどの通信の際にカーツがブリッジの隅に引っ込んでいたのも、この発想からである。

 

 ちなみに、ノッコもオークの面子同様に通信に出ない方が良いと判断されていた。

 略奪者であるオークとは別方向で、フービットもまたトラブルメーカーとして悪名高い。

 

 カーツのプランを吟味するうちに、ふと、姫の胸に悪戯心が湧いた。

 

「カーツ! ちょっと思いついたんだけど」

 

 

 

 

SIDE:ステラ爆音隊(ボンバーズ)総長 ステラ

 

 ドックに納まった箱型輸送船と、寄り添うように停船する円柱型輸送船のエアロックにビニールチューブのような簡易スロープが外付けされる。

 手作業でスロープを取り付けた部下たちにステラは大きく手を振ると、小柄な体には大仰するぎる重装宇宙服のヘルメットを脱いだ。

 

「ふー……」

 

 筋力増強機能がない以外は軍用パワードスーツと同等の堅牢さを誇る重装宇宙服の安心感は無二のものだが、やはり息苦しさばかりは如何ともしがたい。

 遮断幕で区切られただけの気密区画にすら、爽快な解放感を覚える。

 

「ん……」

 

 重たいヘルメットを小脇に抱えたステラは金髪を刈り上げた首筋に僅かな風を感じて眉を寄せた。

 風がある、つまりどこかで気密が徹底されていないという事だ。

 簡易スロープの接続は往々にして空気ロスが発生するものだが、それにしても多すぎる。

 取り付けた部下の手際の悪さもだが、単純に人手が足りていない。

 

「もどかしいな。

 全部、私らが取り仕切れれば無駄なんか無くしてやるのに」

 

「おいっ!」 

 

 物理的にも精神的にも若干の寒々しさを覚える首筋を撫でるステラの耳に、苛立たし気な怒声が響く。

 ステラは小さく舌を打つと、外向けの表情、相手を小馬鹿にする生意気な笑みを唇に張り付けて振り返った。

 

「俺っちに何か用かい? 忙しいんだけどさあ」

 

「ふざけんなよ手前、ジャミングなんぞ掛けやがって!」

 

 怒鳴りつけてきたのはステラ爆音隊(ボンバーズ)の商売敵、エディジャンガル・ファミリーの頭目の一人ジャンガル。

 ひょろりとした長身の銀河放浪者(アウタード)で、頭の真ん中から右側の頭髪を剃り落とした奇抜な髪型をしている。

 地肌が剥き出しになるまで反り上げられた彼の右側頭部は、顔面同様に怒りで赤く染まっていた。

 ジャンガルは自分のファミリーの若い衆を四人も引き連れており、彼らもまた頭目同様に憤怒の色を浮かべている。

 ステラは、重装宇宙服のヒップホルスターに入れたレーザー拳銃(レイガン)を意識しつつ、大仰に肩を竦めて見せた。

 

「ジャミング? 何の事かなあ? お宅の通信機が壊れてるだけじゃねえのー?」

 

「こ、このガキ……っ!」

 

「あのお客人はうちのドックでおもてなしするよ。

 あんたらにゃ出る幕なんざぁないぜ、さあ帰った帰った!」

 

「もてなすだぁ? けっ、巻き上げるの間違いだろうが」

 

「あんたらと一緒にすんじゃねえよ」

 

 これは演技でもなく、本気で吐き捨てる。

 下を見れば切りがない銀河放浪者(アウタード)だが、それでもある程度は弁えておかないと生きていけない。

 無法が過ぎれば回りまわって自分の首を絞めると、ステラは幼い頃から祖母に言い含められていた。

 

「格好つけてんじゃねえ、お前ん所だって台所寂しいんだろうが。

 なあ、俺らにもちょっと噛ませろよ、悪いようにはしねえからさ」

 

 ジャンガルは似合わない猫撫で声で譲歩のような言葉を吐く。

 その一方で彼の配下、エディジャンガル・ファミリーのトレードマークである逆モヒカン頭のむくつけき男たちがずいと前に出てくるのは威圧以外の何物でもない。

 

 だが、威圧要員はこちらにも居る。

 

「なんや、お嬢。 揉め事かい」

 

 辺境訛りのハスキーボイスと共に、輸送船に簡易スロープを取り付けてた部下の女が遊泳してくる。

 ステラの肩に左手を当ててくるりと回転すると、ファミリーの連中の前に立ちふさがった。

 これ見よがしに掲げられた右腕は、クロームの地肌丸出しの鉄の三本指。

 祖母から付けられた用心棒のレジィ=ギーブスだ。

 

「お嬢じゃない、総長」

 

「はいはい、総長総長」

 

 鉄の腕の女はやる気のなさそうな垂れ目の印象そのままな熱のない声音を、ジャンガルにも向ける。

 

「どうするん、ジャンガルさん。

 相方に相談なしでウチらとぶつかるん?」

 

「ちっ……保護者面するなら、ちゃんとクソガキの手綱取っとけよ」

 

 ジャンガルはレジィから露骨に顔を背け、輸送船に視線を向けた。

 ちょうどその時、箱型輸送船のエアロックが開き始める。

 

「お、お出ましだ……ほう!」

 

 半透明の簡易スロープの中央を悠然と遊泳してくる少女の姿に、ジャンガルが感嘆の声をあげる。

 コスプレのようなマントにアイパッチというふざけた格好をしてなお、その美貌は際立っていた。

 続いてスロープに現れた地球系人類(アーシアン)とドワーフも十分に美女の範疇だが、先頭の彼女は一段抜けている。

 

「いいねえ、ちっこいのにすげえ乳してやがる!

 なあステラ、やっぱり俺らも噛ませてくれよ、ありゃあ大した売りもんになるぜ」

 

「お客を売るわきゃねえだろう、馬鹿」

 

 やにさがったジャンガルに冷たい言葉を投げるステラだが、次に現れた人影に絶句した。

 長身に纏った軽宇宙服がはち切れそうな程に筋肉隆々の巨漢。

 その顔面は緑の素肌であり、唇からは牙が飛び出している。

 

「げえっ! オーク!?」

 

 思わず一党の総長として、あるまじき悲鳴が口を衝く。

 宇宙で生活する者にとって、一目でピンと来る危険種族だ。

 

「お、お前、なんて連中呼び込んでんだよ!?」

 

「し、知らないよ!?」

 

 だが、危険種族の登場はまだ終わりではなかった。

 もう一隻の筒型輸送船のエアロックも開き、そちらから四人のオークが姿を現す。

 一番最後に続く、半裸で髪を長い弁髪にしたオークの肩には、ちょこんと小さな人影が腰かけていた。

 

「げえぇっ!? フービットぉ!?」

 

 ステラにとって、オークよりも恐ろしい種族。

 彼女の実家であるフェンダー家が、この市場を放棄する原因となった劇薬のような連中だ。

 

「お嬢、どうすんの」

 

 青ざめるステラとジャンガルとは裏腹に、平静というよりも興味なさげな顔つきのレジィが無情に問いかける。

 

「ま、招き入れたんだから、相手するしかないでしょう……ないぜ!」

 

 素の口調を無理やり矯正すると、ステラは両手で自らの頬を叩いて気合を入れた。

 この市場でステラ爆音隊(ボンバーズ)の勢力を伸ばす為には、少しでも取引の実績を積み上げなくてはならないのだ。

 オークとフービットを引き連れた恐ろしい少女に、ステラは挑むような視線を向ける。




胃腸炎になってました。
ふぁっきん腹痛。
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