https://www.youtube.com/watch?v=jU8-rc4j1zk
上記アーカイブの33分くらいから触れられております。
ヒシアマ姐さんの声優さんにタイトルを読み上げていただける喜び……!
SIDE:「残り火」のノッコ
戦士として生きてきて悔やむ事は、いくらでもあった。
その中でも最大の後悔は、自らを打ち負かした戦士ビルカンの死に立ち会えなかった事だ。
ビルカンに命じられ氏族船で留守番していたノッコだったが、同行していれば彼の戦死を回避できたのではないかという想いは今でも拭えないでいる。
そして今、ノッコの中で最大の悔恨が更新されようとしていた。
「近寄るなぁっ!」
力無く漂う「
寄せ集めパーツの塊である「
だが、バグセルカーシップもまた寄せ集め、まともな溶接などの接続加工も行われていない為、構造上脆い部分はいくらでもある。
接続の甘い箇所を熟練の観察眼で見抜くと、正確無比なパルスレーザーで撃ち抜き分断する。
それで沈む程バグセルカーシップはヤワではないが、基幹部品が脱落しては再接続するまで、まともに動く事はできない。
超絶技巧で次々にバグセルカーシップを行動不能に陥れていくノッコであったが、そうまでして護ろうとする男はすでに彼女の庇護を必要としていなかった。
「ノッコ、もういい。
早く戻るんだ」
「戻れる訳ないでしょう……!」
やけに静謐な主の声が、酷く不快だ。
モニターに捉えた「
露わになったコクピット内には泡のような血の球体が無数に浮かんでいるのが見て取れる。
脇腹に被弾したカーツが、体内に入り込んだ弾体を素手で引きずり出した痕跡だ。
ほとんど割腹のように傷口を大きく広げ周囲の肉ごと抉り出す緊急処置は常人なら即死の危険もある行為だが、オークの生命力ならば問題はない。
だが、今回に関しては生命体として強靭なオークの肉体が仇となった。
弾体摘出後、ごくわずかに残ったバグセルカーのナノマシンは血管に逃げ込んだ。
強力な心肺機能を持つオークの血流の勢いは強く、あっという間に体内に拡散してしまったのだ。
最早除去の手立てはない。
彼をこの状況に追い込んでしまったのは、自分のミスだとノッコは唇を噛んだ。
それなのに、当のカーツは責めもしない。
己の状態を冷徹に見定めた上で、効率的な指示を出してくる。
「連中がこっちに寄ってくるのは、俺を使ってヴィクティムカーゴを形成したいからだ。
ちょうどいい囮だ、その間に姫様を連れてジャンプしろ」
戦闘種族ならではの割り切りが、今は腹立たしくてならない。
「なんで怒らないの、カーツ」
「怒った所で状況は変わらんし、時間もないだろう」
「姫様も言ってたよね、女王様をトロフィーにしたかったんでしょう!
悔しくないの!?」
「……そこは口にしないのが、男の見栄って奴さ。
けど、個人的な心残りはともかく、陛下に任された仕事だけは放り出せない。
姫様を頼むぞ、ノッコ」
「判ったよ、判ったけど……!」
尚も未練を言い募ろうとしたノッコは、通信に混じる不規則な呼吸音に気付き、息を呑んだ。
平静を装えない程に、侵食が進んでいる。
「カーツ!」
応えの代わりに、牙を嚙み砕くような凄絶な奥歯の軋みが聞こえた。
コクピットのカーツは、ままならない我が身を縛り付けるかのように、両肩に指を食い込ませてうずくまっている。
侵食が早い、彼が彼で居られる時間は、もう僅かもない。
それならば、いっそ。
ノッコはパルスレーザーの照準を「
子を宿してもよいと思った、強き戦士の尊厳を汚させはしない。
だが、トリガーを絞る前に、凛としたソプラノボイスが割って入る。
「ノッコ! 待ちなさい!」
「姫様!?」
朱のブートバスター、カーツの本来の愛機『
SIDE:戦士 カーツ
ノッコとの話の途中で、不意に視界が切り替わった。
血の泡が浮かぶコクピットレイアウトは消え失せ、俺の眼下にはオレンジの常夜灯が淡く光る薄暗い部屋があった。
何だこれは。
俺は訝しむ呟きすら漏らせない事に気付いた。
今の俺には声を発する喉どころか、手も足もない。
小さな針を無数に突き立てられるような、己が苛まれていく悍ましい痛みも感じなかった。
ただ、どこかの部屋を高い視点から見下ろす視界だけがある。
拙いな。
声なき声で俺は呟く。
バグセルカーの侵食はついに俺の脳にまで及んだらしい。
脳が誤作動を起こしている。
今見ているものは、おそらく幻覚だ。
俺の脳内に記録したものをベースとした映像が再生されているに過ぎない。
実際、ライトグレーの壁紙など部屋のデザインは氏族船の船室に近い。
家具は大きなベッドがひとつだけ、光源は壁に取り付けられたオレンジの常夜灯のみと、やけにストイックなレイアウトではあったが。
見覚えが有るような無いような、そんな部屋のドアが音もなく開く。
入室してきた人物に俺の意識は、喉もないのに息を呑んだ。
常夜灯の光に白銀の髪を煌めかせる麗しき貴人。
愛しきマルヤー陛下だ。
彼女が歩を進めるだけで娘を遥かに上回る圧倒的なバストが艶めかしく揺れる様に、声も出ない。
これは未練だ。
彼女を手に入れようと望み、そして果たせなかった俺の未練が、陛下の幻を見せているのだろう。
その証拠に先日の謁見と私的な招待の際には確認できた膨らみが、この陛下の腹にはない。
メートル超えの山脈を思わせるバストとは裏腹に、一掴みに出来そうな程に絞られたウェスト。
そこから広がる骨盤は太母の豊かさそのものであり、強く健やかな子を育んできた実績がある。
白磁の素肌に黒い扇情的なネグリジェを纏った女王の姿は、俺が全てを手に入れ、子を宿させたいと望んだ陛下そのものであった。
彼女に触れたいのに、今の俺は声ひとつ出せない。
こんな今際の際に見た想い人の幻影は、俺への手向けの花なのか。
そんな切なく、身勝手な想いを、陛下に続いて現れた人影が微塵に砕く。
ヌッと戸口に現れた巨漢。
陛下に従って入室してきたのは身長2メートルを越す筋骨隆々のオーク戦士だ。
その顔は鼻から上にわざとらしい程の影が掛かり、人相が判別できない。
逞しい肉体も見覚えがあるようで、俺の知る戦士の誰の特徴にも当て嵌まらない。
不意に気付いた。
この空間が俺の脳にある知識から構成された映像である以上、全ては俺の知るもの、或いは想像できるものばかり。
この部屋も、実際に見たリビングの様子から推測された女王の寝室のイメージに過ぎない。
そして現れたオーク戦士は、ひとつの条件を基にピックアップされた戦士達のモンタージュだ。
即ち、陛下を孕ませた男達の複合体である。
それは、確実に存在すると知りつつも、敢えて目を反らし続けていた事柄。
陛下が何度となく子を産み続けている以上、彼女を懐妊させた者がいる。
俺が惚れた女を、孕ませた奴がいるのだ。
脳が軋む。
手も足も声も出ない、視覚だけの俺は奴を殴り飛ばすどころか、怒りに身を捩る事もできない。
モンタージュの戦士が意図する所は明白だ。
氏族カラーであるダークグリーンのツナギ型軽宇宙服の股間には、大口径マグナムの如きシルエットがえげつなく自己主張している。
奴はモデルとなった男達同様、陛下の中であれをぶっ放すつもりなのだ。
オーク戦士は先を行く陛下へ手を伸ばすと、優美な曲線を描く尻を撫であげる。
不埒な行いに半身振り返った陛下の顔に浮かぶのは、困ったように金の瞳を細めた慈母の笑み。
人差し指を伸ばすと、悪戯坊主を叱るように戦士の鼻を弾いた。
だが、相手は悪戯坊主というには余りにも生臭い雄であった。
指を伸ばした陛下の手首を掴んで引き寄せると、不遜にも唇を奪う。
野郎、ぶっ殺してやる。
激発する怒りが脳を駆け巡る。
しかし、今の俺は文字通り手も足も出せない。
激怒の叫びをあげる事すらできず、惚れた女が唇を吸われているのを見ているしかない。
オーク戦士は陛下の唇を奪いながら背に腕を回し、黒いレースのネグリジェに包まれた尻たぶを鷲掴みにした。
主張の激しい巨大なバストに比べるとインパクトに乏しいが、陛下のヒップは珠玉の曲線と豊かさを兼ね備えた極上の尻だ。
太い指が薄衣越しに柔肌に食い込み、無遠慮に揉みしだく。
やめろ、それは俺のだ、俺の女だ。
脳を焼くような怒りの中で悟る、これは攻撃だ。
最も見たくない光景を見せて俺の意志を挫き、脳の最適化を進めようというバグセルカーの精神攻撃は、非常に効果的だった。
何と言っても、この光景に近しいものが実際に行われたのは間違いないと、俺は知っているのだ。
見たくない、繰り返させたくない女王の夜の職務を、バグセルカーに誘導された俺の脳は再現してしまう。
オーク戦士が顔をあげると、女王の唇との間に糸のような唾液の橋が架かった。
陛下の顔にはいつのまにか影が掛かっている。
このような時の陛下の表情を俺は知らないからだろうが、それは逆に俺が見た事もないような表情を彼女が浮かべていたのだという事実にも至ってしまう。
陛下はオーク戦士のファスナーを下げると、幼子の頭を撫でるような優しげな手つきで軽宇宙服を脱がしていく。
緑色の逞しい背筋を晒したオーク戦士は両手を陛下の細い肩に掛けると、お返しとばかりに剥ぎ取るような荒々しい勢いでネグリジェを引き下ろした。
露わになる玉体は、俺の視点からはオーク戦士の影になって見る事ができない。
戦士は裸身の陛下をベッドに押し倒すと、性急な勢いで覆い被さっていく。
止せ、ふざけるな、それ以上はやめろ。
声にも出せない憤怒が堂々巡りで加熱していく。
俺の激怒を他所にオーク戦士が腰を落としきると、盛り上がった背筋を愛おしむかのように白い繊手が逞しい背に回された。
一切音の無かった光景で、かすかに陛下の吐息が聞こえた。
局部の描写なし、健全ヨシ!
ラジオで紹介された直後の更新がこれとかさあ。