【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:戦士 カーツ
バグセルカーシップの追撃をかわして、トーン09の格納庫に機体を滑り込ませた。
『
格納庫に入るサイズであれば、大抵の戦闘機を整備可能だ。
四方から伸びるアームが『
隣のブロックではフィレンが操る『
回避運動を行うトーン09の船内には加速による僅かな重力が発生しており、その中でぴたりと駐機させるのは少々難易度が高い操縦だ。
しかし、フィレンの滑らかな操作にはまったく危なげがなく、『
俺以外の操縦で精密に動く『
「あいつも腕を上げてるな」
即席キャノピー代わりのエマージェンシーシートを撥ね除けながら呟く。
フィレンの技量は、俺との決闘の頃に比べると格段に向上していた。
ノッコの指導にベーコ達との模擬戦三昧の日々が、彼の中に眠っていた資質を目覚めさせつつあるのだろう。
「そろそろ負けちゃう?」
俺の胸に縋りつくような姿勢で張り付いた姫様が、からかうような口調で囁いた。
「なんの。
よく頑張ったな、だがまだまだ精進が足りんって、張り倒してやるまでですよ」
それが隊長であり、兄貴分である者の役目だ。
まあ、それはそれとして。
「それで、なんでまだくっついてるんです、姫様」
姫はシートに座した俺の膝の上に、向き合うように腰を下ろしていた。
全裸で、その体格不相応に豊かなバストを俺の胸に押しつけながら。
今の俺は軽宇宙服の上半身を引きちぎっており、胸板に擦りつけられるめっちゃ柔らかいものの感触がダイレクトに伝わってしまう。
とてもまずい。
「嬉しいでしょ?」
頬を僅かに朱に染めた姫は、俺の顔を見上げてにんまりと笑った。
嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいのだが、同時に非常にまずい。
姫自身の顔と巨乳とで視界を塞がれて見えないが、姫は下着も何もないまま俺の腰の上に乗っておられる。
そして、俺の下半身はとても余人に見せられない状態になっている。
これはもう仕方ない、状況が悪い。
生物は命の危機になると、次世代を残そうとする本能が活発になる。
バグセルカーに侵食された俺は、まさに死の瀬戸際にあった。
その上、バグセルカーに見せつけられた幻影は想い人の艶姿だ。
心底腹立たしく、血潮が煮えくりかえるような幻影ではあったが、死に瀕した本能を大変に刺激されたのは間違いない。
そして、現実に戻ってきたら密着する姫様の柔らかな裸体だ。
大変にまずい事になっているのは判っているが、最早どうにかできるような状況ではない。
「ふぅん♡」
頬を朱に染めた姫は捕食者染みた笑みをうかべたまま、ぐるりと小さく円を描くかのように、尻を動かした。
胸のインパクトが強い姫の体型だが、実の所、下半身の肉付きも立派なものだ。
ズボン状に残った軽宇宙服の下半身部分ごしに、むっちりと育った柔らかな内股が俺のオークマグナムをファニングショットさせんとばかりに攻撃してくる。
姫は俺の首筋に頬を擦り寄せながら、吐息を漏らすように囁いた。
「ねえ、しようよ、カーツ」
雄の芯に直撃する色香、己の魅力を十全に理解した自負、それらを以てしても拒否されるのではないかという不安、そして一気に勝負を掛けるという意気込みと興奮。
諸々の要素を内包し、わずかな羞恥でトッピングを施された、熱く蕩ける声音が、俺の理性を猛烈に削っていく。
もうゴールしていいんじゃないかな。
何を馬鹿な。
俺の中に生じた弱い俺の呻きを、断固として叩き潰す。
俺が想いと純潔を捧げるはマルヤー陛下、他に目を移す訳にはいかぬ。
そも、姫は我が想い人の愛娘であり大事な預かりもの、俺自身が傷つけるなど罷りならん。
何を考えておるか、この軟弱者め。
あ、でも、超柔らかい。
「姫、お召し物です」
俺の貞操の危機を救ったのは、姫が諦めたわけでも俺自身の拒否でもなく、第三者の声だった。
畳まれた黒い軽宇宙服を手に無表情で『
「……今さぁ、すっごく良い所だって、判るよね、フィレン?」
「さて。
少なくとも、まだバグセルカーの危険から逃れられた訳ではないというのは判りますな」
わざとらしいほどに慇懃な口調のフィレンを、姫は一瞬火を噴くような目で睨むと、鼻息も荒くコクピットから飛び降りた。
もぎ取るような勢いで軽宇宙服を手に取った姫は、その場で袖を通し始める。
俺は高貴な柔肌が離れた事に安堵と若干の残念さを覚えながら、大きく溜息を吐いた。
「くくっ」
俺の様子に小さく笑いを漏らすフィレンを、照れ隠しも含めてギロリと睨む。
「なんだ、フィレン」
「これは失礼。
姫を袖にするとは、隊長は全く贅沢な御方だと思いまして」
「袖にされてない!」
軽宇宙服を着込みながらの姫の反論に、フィレンは慇懃に頭を下げつつも堪えきれないとばかりに含み笑いをしていた。
こいつ、こんなに笑い上戸だったか?と訝しむ俺に、なんとか発作染みた笑いを納めたフィレンが真面目な顔を向ける。
「改めまして、生還お慶び申し上げます、隊長。
正直なところ、今度ばかりはダメかと思っておりました」
「俺もだよ、全ては姫様のお陰さ」
「姫様のお力があれど、それまで持ちこたえたのは隊長の生命力が並外れていたからでしょう」
「なんだ? 随分持ち上げるじゃないか」
少々むずかゆくなってきた俺の言葉に、フィレンはニヤリと頬を歪めた。
慇懃さを投げ捨てた、獰猛な戦士の笑みだ。
「それはもう。
倒すべき相手が類まれな戦士であると再確認したのですから。
昂ぶりが納まりませんな」
妙に迎合するような事を言うので牙が抜けてしまったかと心配したが、どうも逆らしい。
舎弟の負けん気に、俺も嬉しくなる。
「いいぜ、何回でも挑んできな、その度叩きのめしてやらあ」
このままシミュレーターで一丁揉んでやるかという気分になりかけたが、艦内放送でペールの声が割って入った。
「ジャンプ準備整いました!
カウント省略で跳びますので、周囲の安全を確保してください!
行きます!」
そのタイミングじゃ安全確保の時間もないだろうと突っ込む間もなく、ペールはジャンプドライブを起動させる。
俺の三半規管がジャンプ特有の微細な揺れを知覚するも、すぐに異常に気付いた。
いつもよりも揺れの幅が大きく、妙に響く。
ジャンプミスの可能性が脳裏をよぎった途端に、ひときわ強い衝撃がオークの強靭な三半規管すら打ちのめし、俺は意識を失った。
開幕と言いつつストック微妙なので更新速度は鈍足です。