【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:戦士 カーツ
「こいつら、どういうつもりだ」
二隻に増えた棒切れのような船影のエルフシップを睨みつつも、困惑を抑えられない。
こちらがオークと知って攻撃してくるのならば理解はできる。
だが、それを警戒してペールと姫に通信を任せていたのだ。
連中がトーン09はオークの船だと、あらかじめ感づいていた可能性は低い。
その一方で単純な略奪狙いにしては、最初の様子見のような布陣が解せない。
そもそも、略奪狙いでこんな辺鄙な星系にジャンプしてくる訳がない。
入植者も居ない星系に飛んでくるほど、海賊だって暇では無いはずだ。
そうすると、あちらとこちらの間で関連性が有りそうな要素から連中の行動原理を推測するしかない。
「……狙っているのは、俺か?」
姫の御力により生還したとはいえ、一度はバグセルカーに侵された身だ。
バグセルカーの撃滅を
俺がターゲットだとして、どういう手段で追跡してきているのかは全く判らないが、そもそもがエルフという存在について手持ちの情報が少ないのだ。
「前に読んだ銀河百科事典でも、通り一遍のことしか書いてなかったしなあ」
数を減らした護衛機の攻撃を躱しつつ、辞典に書いてあったエルフの記述を思い出す。
エルフは銀河大航海時代の後期に誕生した、比較的新しい
その特徴は、対バグセルカー兵器という一言で現す事ができる。
当時、猛威を振るったバグセルカーに完全に優位に立てる
生体に対してバグセルカーが行う侵食は、ナノマシンを表皮に宿す事で対抗できる。
オークという前例から得られていたこの知見は、エルフの設計において基礎概念となったらしい。
同種の存在で有るナノマシンに対して、バグセルカーは侵食作用を及ぼせない。
ならば、バグセルカーに侵食されたくない部位、すなわち神経系とその中枢である脳をナノマシンで保護すれば良い。
外皮をナノマシンで覆ったオークに対し、内部をナノマシンで護る方向で作られたのがエルフである。
だが、生身ではバグセルカーが乗っ取った機械類に対抗できない。
バグセルカーに侵食されない戦闘マシンも、エルフという種族を構成する重要な要素である。
その観点から注目された素材が、木材を初めとする植物繊維だ。
生体脳とシリコンチップに特化した侵食能力を持つバグセルカーだが、植物素材に対してはその能力を発揮できない。
より正確には、眼中にないのだ。
木材は宇宙空間で使うには耐久性や耐用性が不足しており、施設にせよ宇宙船にせよ使用は最初から考慮されていない素材だ。
そのため、バグセルカーの採集対象資源に入っていない。
言ってみれば仕様の穴のような点にエルフの設計者は着目した。
通常の木材が宇宙で使えないなら、宇宙で使えるスーパー木材を作ればよい。
ともすればヤケクソのような発想の下、植物繊維を圧縮強化した新素材ハードセルロースを開発したのだ。
鋼鉄に匹敵する硬度を持つハードセルロースならば、宇宙船や空間施設にも十分使用できる。
ただし、コストパフォーマンスは恐ろしく悪い。
木材など植物繊維の入手は宇宙空間では難しいし、ハードセルロース化のための圧縮行程には溶鉱炉など比較にならない大量のエネルギーを必要とする。
ハードセルロースを用意するには、同じ重量の鉄の数十倍にも及ぶコストが掛かってしまうのだ。
このコスト問題にエルフの設計者達は、ほとんど丸投げの形で対応した。
エルフ用戦闘兵器を作る工廠をエルフの
20数台製造された完全自動エルフ生産施設、
銀河百科事典のエルフの項目を読んだ際、この辺りの説明に目眩がしたのを覚えている。
余りにも雑というか、放任が過ぎる。
おそらく、このやたらとコストの掛かるプロジェクトに予算的な掣肘が入ったのではなかろうか。
その為、細かい部分を煮詰める余地もなく、実戦投入されてしまったのだろうと俺は推測している。
彼らの
ある意味、この
バグセルカーに侵食されない戦闘マシンとその生産工場である宇宙植物製の
これがエルフという種族を構成するパッケージである。
広い銀河にほんの20数台しか設置されなかったエルフの
無人の星系に投入されたエルフは
与えられた設計図を元にハードセルロース製の戦闘マシンを作り、
百年単位で力を蓄えた各地のエルフはタイミングを合わせて
種族の全てを投じた決戦の末、各地の主要な集積地の撃滅に成功したのだ。
この結果、バグセルカーは中央星域から完全に駆逐され、諸国は数百年に渡ったバグセルカー戦役の終息を宣言する。
立役者となったエルフには、かつての幻想文学より取られた種族名に引っかけた尊称が与えられる事となった。
すなわち「
まあ、随分と格好付けた名前を与えられてはいるが、当のエルフ達は諸国から何か褒美を貰ったり支援を受けたりという訳でもない。
それでいて今現在も銀河辺境でバグセルカーの撲滅に励み続けている辺り、何ともボランティア精神が過ぎる種族だとは思う。
種族誕生時に与えられた
翻って考えるに、彼らの持つバグセルカー殲滅という強固すぎるアイデンティティが、俺の中の侵食の痕跡すら捉えているのだろうか。
「だとしたら、パラノイアってレベルじゃねえぞ!」
毒づきながら二隻目のエルフシップとの距離を測る。
二隻目が戦闘領域に到達するまで、おそらく30分ほど。
それまでに護衛機も含めて一隻目を沈黙させてしまいたい。
通信機のトグルスイッチを弾き、回線を開く。
「姫! 砲撃準備はよろしいですか?」
「待ってましたぁ! どこに撃つの?」
玩具染みたカラーリングのゲーム機用ジョイスティック型操縦桿を握った姫が、通信ウィンドウの中で鼻息を荒くしていた。
やる気満々な姫に苦笑しつつ、モニターに映した敵船の中心にマーカーを設定する。
船体中央、大抵の船で
流石にエルフの船は初見なので正確な所は判らないが、大きく外れている事はあるまい。
「雑魚は無視して敵船を叩きましょう、マーカーの位置に砲撃をお願いします」
「任せて!」
返答と同時に、トーン09の右舷レーザー砲が青い閃光を放った。
余程撃ちたかったのだろうか、逸る一撃はマーカーを僅かにずれて敵船の船腹に突き刺さる。
「偏差修正……これでどうだ!」
開きっぱなしの回線から姫の気負った声が響き、左舷のレーザー砲が発射された。
寸詰まりのシュモクザメめいたトーン09の「左目」から伸びる青い光はマーカーで指定したポイントに直撃する。
「こちらからも!」
間髪入れずにフィレンもレーザーランチャーを叩き込んだ。
大口径レーザーの連撃がハードセルロースの装甲板を灼くが、溶解はしない。
「ようし、仕上げだ!」
木目を思わせる茶色の装甲に付いた黒い焦げ目を狙って
余り物の適当なジャンクを転用した弾頭は、対戦闘機ならともかく装甲を持つ船舶には無力な代物だ。
本来ならば弾かれるはずの散弾が火花を散らすことなくエルフシップの装甲を抉ると、木目に沿うかのように表皮に罅が走った。
これがハードセルロースの構造的な弱点だ。
鉄に匹敵する剛性を持たされてはいるものの、結局の所は植物素材の代用品に過ぎず急激な熱の変化に弱い。
耐燃性はあるため炙られたらすぐに火が着くという程ではないが、大出力レーザーを浴びせられるような強烈な加熱を受ければ、構造が一気に劣化してしまうのだ。
レーザーやプラズマ系の武器の後に実弾兵器、これがハードセルロースの攻略法である。
だが、この攻略法とて文献で読んだ知識。
実際に試してみると、想定よりも効果が低い。
「思ったよりも装甲が割れてないな……」
装甲がひび割れ、剥離した範囲はそれほど広くない。
こちらの実弾兵装のパンチ不足が原因だ。
長期略奪行を想定したオークの襲撃隊ではレーザー系の武装がよくチョイスされる。
母船のジェネレーターが活きている限り充電可能なレーザー兵器は補給がおぼつかない戦場でも粘り強く戦う事ができるが、一撃の破壊力では大質量の実弾兵器に一歩譲らざるを得ない。
「レールガンが壊れてなけりゃなあ」
廃物利用のお手製武器にしては高い制圧力を備え使い勝手の良い
「フィレンの方のミサイルも対空用の小型弾だし、これじゃ埒が開かんな」
現状の俺たちの火力でも損傷は与えられている。
だが、このままでは二隻目が到着するまでに潰しきれない。
「大質量の実弾兵器が有れば……いや、有るじゃないか」
ふと思い至った俺は戦意に唇を吊り上げると、再度通信をオンにする。
「姫様! もう一度同じ場所に砲撃を!」
「いいの? あんまり効いてないみたいよ?」
「連中の装甲はレーザーで脆くなるんです、そこにデカい実弾をぶつけてやれば割れるんですが、俺らの手持ちの武器じゃちょいと足らない。
なので、『