【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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お待たせしました。


白とか黒とか

SIDE:戦士 カーツ

 

 突如ジャンプアウトしてきた巨大要塞の存在は、エルフ達にとっても想定外だったらしい。

 465も通信ウィンドウの中の560も、糸目を見開いて呆然としている。

 

 そんな彼らを尻目に新たな通信ウィンドウが展開した。

 

「むっ……!」

 

 思わず瞠目し、感嘆の呻きが漏れる。

 

 ウィンドウに投影されたのは女エルフ。

 ただし、465や560とは違って褐色の肌を持ち、淡く翠がかった銀髪を太い三つ編みに編んでいた。

 いわゆるダークエルフという奴であろうか。

 彼女は465とは別の方向で、周囲のちびエルフ達とは一線を画すボディラインの持ち主であった。

 女性的なシルエットを持ちつつも戦士の精悍さを漂わせる465とは違い、その印象は嫋やかで円やか。

 ふくよかでありながら締まる所は締まった、見事なグラマラスボディだ。

 豊満と評するしかないその肢体は、樹木が暗示する豊穣の象徴の如し。

 

 だが、そのグラマーさ、少なくとも銀河じゃ二番だ。

 

 俺の胸の内に煌々と輝くあの御方の面影に比べれば、まあちょっと目を惹く程度でしかない。

 

「217! なぜ、フォートレス、動かした! 可否(ローニャック)!?」

 

「ニャック、217! フォートレス、動かす権限は、お前に、ない!」

 

 465と560が責めたてるように声を張り上げる。

 対する217と呼ばれた褐色のエルフは、艶やかな微笑みを浮かべて口を開いた。

 

「だって、権限者(コマーダー)が他に居ないもの。

 今、フォートレスに居る者で一番権限が高いのは私。

 あなた達は外に出ているものね」

 

 217の銀河共通語(ギャラクティッシュ)は、他のエルフとは違い流暢であった。

 

「だからと言って、フォートレスでジャンプ、するなど!」

 

「どれだけの、コストが、掛かると……」

 

「コストの心配はサーブスの私がする事、ガーゼスやローゼスのあなた達が考える事じゃないわ」

 

 柔らかく蠱惑的な声音とは裏腹の強い言葉で、217は二人のエルフの追求を切り捨てた。

 

「ジャンプのコストを支払う価値のあるお客様ですもの」

 

 217は糸のように細まった目をこちらへ向ける。

 

「465が無法なお招きをしてしまい申し訳ありませんわ、お客様」

 

「まともな謝罪を初めて聞いたぜ、エルフにゃ謝るって文化が無いのかと思ってた」

 

 俺の挑発的な言葉にも217は微笑みを崩さない。

 

「無骨なガーゼスや石頭のローゼスと、私たちサーブスは違います。

 まずはお詫びを、そして、実のあるお話をしたいと思います」

 

「ふぅん……」

 

 三人の成人エルフの中で一番常識的な対応を行ってきた217だが、正直なところ俺たちにはエルフに絡む義理はない。

 ジャンプドライブの不調も時間で解決するのならば、回復次第さっさと氏族船に戻りたいのだ。

 

 だが、そうもいかないらしい。

 

 モニターの中で糸目の目尻を下げてニコニコと微笑む217だったが、天井一面に外部映像を映すモニタの中ではフォートレスのあちこちから団栗めいたデザインのエルフ戦闘機が飛び出してきているのが見えた。

 数える気も起きなくなるほどの大編隊だ。

 

 これは拙い。

 流れを向こうに掴まれているのを感じ、内心舌打ちした。

 

 一機一機は雑魚としか言い様のない相手だが、雑魚の処理で手一杯になっている間にトーン09が狙われてしまう。

 手が足りない。

 真っ正面からのぶつかり合いで質より量の物量差が利いてくるのは、まさにこの一点である。

 そんな優位を見せつけつつ笑みを崩さない217は、何とも食えない女だ。

 俺は嘆息すると、通信ウィンドウの中の爆乳黒エルフに向き直った。

 

「判った、それじゃひとつ話をするとしようじゃないか」

 

 

 

 

SIDE:トーン=テキンのトロフィー ペール

 

「はわわわ……」

 

 メインモニターに映し出された直径20キロの巨大な球形宇宙植物を見上げ、ペールは驚愕と感嘆と怯えが入り交じった呻きを漏らした。

 もっと大きな人工天体をいくらでも知っているが、ジャンプ可能な代物でここまで馬鹿でかい存在は初めてお目に掛かる。

 星系間移動が可能な要塞の持つ軍事的優位を思えば、顔が引き攣ってしまうのを止められない。

 

 一方、同じくモニターを見上げていたペールの名目上の主は、ぼそりと見た目そのまんまな感想を呟いた。

 

「でっかい毬藻」

 

「そんな可愛いものじゃありませんよぅ……」

 

 姫の呑気な言葉に脱力する。

 エルフの巨大要塞は、形状だけなら球形に寄り集まった水草に似てない事もない。

 実際には内側で球形に張り巡らされたハードセルロースの枝から生い茂った、繊毛めいた葉によって、その毬藻めいた見た目を構成している。

 恒星の光を浴びてメタリックグリーンに輝く繊毛のような葉はソーラーパネルのような機能を備えており、要塞内のエネルギーを賄っていた。

 遠目に見ればキラキラと光って煌びやかな葉が、巨大要塞のジャンプに必要な膨大なエネルギーを生み出しているのだ。

 

「見た目は綺麗なのにねえ」

 

 金の猫目を輝かせて興味深そうに異形の巨大要塞を見つめる姫には、ペールと違い怯えの色はない。

 

「あの、姫様ぁ。 あれって、かなり危険な代物だと思うんですけど、大丈夫なんですかぁ……?」

 

「んー、まあ、流石にあんなのが出てきたのはびっくりだけど……」

 

 姫は艶やかな唇に人差し指を当てながら、あっけらかんと言葉を続ける。

 

「戦場に出たら、とんでもない大軍だの恐ろしい強者だのに当たってしまうのも、よくある話よ?」

 

「と、とんでもない相手に当たったなら、殺されても仕方ないって事ですかぁ!?」

 

 余りにもあっさりとした姫の物言いに、ペールは思わず高い声を上げた。

 

「仕方ないって事はないわよ。

 でも、それで死んでも文句は言えないって事。

 殺したり殺されたりは、あたし達オークの生き方に付きまとうものだから」

 

 もちろん大人しく殺される気はないけどと平静な顔で続ける姫に、ペールは絶望的な想いを抱く。

 オークとドワーフでは死生観の差が著しい。

 戦いの中で果てる事を理想的な末路のひとつとして捉えるオークと違い、ドワーフは基本的に臆病で危険を厭う種族だ。

 華々しい戦死など御免である。

 

 目元を覆うゴーグルで涙目は隠されているものの真っ青な顔でブルブルと震えるペールに姫は優しく微笑み、ふわりと抱擁した。

 背丈は大して変わらないにも関わらず圧倒的な豊満さを持つ柔らかな肢体に抱きしめられ、ペールはゴーグルの下の瞳を見開く。

 

「大丈夫、カーツが居るもの。

 そうそう拙い事にはならないわ」

 

「姫様ぁ……」

 

「まあ、カーツにも出来る事、出来ない事はあると思うけど」

 

「姫様ぁ!」

 

 なだめようとしているのか、からかっているのか、微笑みながら言ってのける姫の言葉にペールの情緒は激しく掻き回されていた。

 

「姫様、そのカーツさんがお戻りですよ」

 

 黙って控えていたトーロンは苦笑交じりの声音で報告すると、モニターの一角に映る『夜明け(ドーン)』を拡大表示した。

 エルフシップから離脱した朱のブートバスターは一直線にこちらへ向かってきている。

 

「戻ってくるって事は、何か話が纏まったのかな

 相手の要塞にも船にも動きがないし……」

 

 モニターを見上げる姫に抱きしめられながら、ペールは少しでも穏便に済むようにと願わざるを得ない。

 それが儚い願いだとしても。

 

 

 

 

SIDE:ピーカ・タニス・トーン=テキン

 

「エルフにモテても、全然嬉しくないんだけどなあ」

 

 トーン09に帰還したカーツがもたらした情報に、ピーカは豊かなバストを強調するように腕組みしつつ眉を寄せた。

 

「それに何? あたしの魅力にやられたって訳じゃなくて、あたしの中のナノマシンが欲しいだけって?

 随分ふざけてるわね」

 

 独断でバグセルカーに対する切り札を入手しようとした465の先走りは、カーツだけではなくピーカにも悪印象を与えていた。

 もっとも彼女の場合、襲われた事や自分の身柄が狙われた事自体はどうでもよく、相手の狙いが自分の中のナノマシンであったという点に腹を立てているのだが。

 

「有無を言わさず襲ってきておいて、負ければ要請などと。

 恥知らずの見本のような輩ですな」

 

 情報共有のため、カーツ同様に帰還しているフィレンも侮蔑したように鼻を鳴らした。

 

「で、でも、相手は要塞を持ってきてるんですよ、どうするんですかぁ……?」

 

 怯えた小動物のような挙動のペールは巨大な要塞の映るモニターとカーツの顔をきょときょとと見比べている。

 ピーカの側近筆頭戦士はペールの縋るような視線を受けて大きく肩をすくめた。

 

「要塞そのものよりも、腹に抱えた雑魚が多すぎるのが厄介だ。

 『夜明け(ドーン)』と『亡霊(ファンタズム)』が雑魚に纏わり付かれている間に、トーン09がやられるのは目に見えてる。

 なので、ここはあちらのお招きに応じる事にしよう」

 

 カーツもメインモニターを振り仰いだ。

 モニターの中心にでかでかと映し出される巨大宇宙毬藻の周囲には、無数の光点が浮かんでいる。

 要塞から発進したエルフの小型宇宙機だ。

 馬鹿らしい数の戦闘機群が要塞の前で整然と並んでいたが、その列には明確な隙間が作られていた。

 ここを通れと言わんばかりに用意された、トーン09のための花道だ。

 

「敵の腹の中で暴れ回る手ですか、隊長」

 

「最悪はな。

 だが、そこまでやらなくてもいい、こっちの目的はジャンプドライブが回復するまでの時間稼ぎだ。

 ジャンプ可能になり次第、トンズラさせてもらおう」

 

 要塞内でジャンプドライブを起動させれば、周囲の施設が抉り取られてえらい事になってしまうのは目に見えているが、エルフ相手にその辺を斟酌してやる必要は無い。

 

「幸い、こちらを招待しているのは、会話をしようという気のある奴だ。

 話をしながら時間を稼ごう」

 

「そのぅ、ジャンプドライブが時間を置けば回復するというのは、本当なんですかぁ……?」

 

「最初に襲ってきたエルフの証言だが、確度は高いと思う。

 ……ここで誤魔化しが言えるタイプなら、初手で殴りかかって来なかったろうし」

 

「そうかもね」

 

 カーツの見立てにピーカも同意する。

 

「その465……言いにくいな、465(シロコ)でいいか、465(シロコ)ってエルフと組むのは論外として、560……こっちは560(ゴロー)かな、560(ゴロー)の方はあたしを欲しがってないんでしょう?」

 

「そうですね、そいつはエルフ伝統のやり方でバグセルカーと戦う事に拘っているようです」

 

「ふぅん、エルフにも気骨のある人がいるのね」

 

 戦いという場で己の拘りを追求しようという頑固者は、オークの気質的に受けが良い。

 カーツと同じくピーカも560にはそれなりの好印象を抱いていた。

 

「それで最後の一人が……」

 

「217、要塞で待ち構えている会談相手です」

 

「217なら、217(ニーナ)かな……」

 

 勝手なニックネームを命名する。

 

「そっちはどんな感じ?」

 

「他二人は無骨な武闘派といった印象ですが、217は交渉慣れした食えない奴って感じですね」

 

「ふぅん」

 

 ピーカはメインモニターの中の巨大要塞を見上げると不敵に微笑んだ。

 

「いいわ、それじゃジャンプドライブが回復するまでの間、話し相手になってもらおうじゃない。

 トーン09微速前進、要塞に入港よ!」

  




ルビコンとか宇宙とか十三機兵とか色々あってね……。
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