【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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「くっ、殺せ!」

SIDE:戦士 カーツ

 

 球体の面積は4×半径×半径×πで求められる。

 外殻の厚みの分のズレは生じるだろうが、直径20キロのエルフ要塞の内部面積は1256平方キロメートルにも及ぶ。

 その昔、母なる星の人々を熱狂させたというベースボールのスタジアムに換算すると、実に26000個分以上。

 何だか逆に判りづらくなったが、トーキョードーム26000個分もの領域は広大すぎて、エルフ達の監視の目は行き届いていなかった。

 

「ここをキャンプ地とします」

 

 木々の絨毯が広がる要塞内部に点在するエルフの小拠点()から離れた一角で見つけた洞窟。

 植物で形作られた地盤なので、正確には木の洞と言うべき横穴は、巨体のオーク戦士を含む三人が寝転べるだけのスペースがあった。

 

「おぉー……。

 あたし、野宿って初めて!」

 

 珍しげに洞の内部を見回し歓声をあげる姫に、ペールは歯に物が挟まったような声音を向ける。

 

「あのぅ姫様、フィレンさんの事は……」

 

 ペールの言葉に姫の顔が曇った。

 未だに合流していない以上、フィレンの生存の目が無い事は二人も察している。

 姫はしばし瞑目の後、金の猫目を決然と見開いた。

 

「嘆くのも、悲しむのも後。

 まずはやるべき事をやらないと」

 

「やるべき事?」

 

「そう。生存と、脱出と」

 

 姫の視線が俺へ向く。

 俺はひとつ頷いて主君の言葉を引き継いだ。

 

「報復だ。

 やられっぱなしはこっちの面子が立たんし、あの世でフィレンに合わせる顔もない」

 

「こ、この状況で攻撃に出るんですかぁ!?」

 

 悲鳴を上げるペールに、俺たちオーク主従はニヤリと笑う。

 

「優勢な方こそ足を掬われやすくなるのさ、やりようはいくらでもある」

 

「それに、ここまで馬鹿にされて黙ってる訳ないでしょう?」

 

 姫の笑みが深まる。

 相当、頭に来ておられるようだ。

 

「あっちから殴りかかってきて、負けかけたら協力要請して、挙げ句の果てに騙し討ち?

 どこまでもふざけたやり口ね、全く」

 

 種族全体で略奪を生業とするオークであるが、その一方で約定に関しては厳格に守る一面もある。

 命が惜しくば積み荷を差し出せというのは略奪の基本フォーマットだが、ここで積み荷を奪った上に皆殺しにするような真似を繰り返していれば、誰もオークに降伏などしなくなってしまう。

 略奪の度に徹底抗戦されては、商売上がったりなのだ。

 戦に血を沸き立たせるのが性のオークとしては背水の陣の敵と戦うのもまた一興だが、補給を略奪に頼るライフサイクルではリソースは限られている。

 不要な戦闘はできる限り避けなくてはならない。

 言ってみれば生活の知恵から発祥した契約遵守の精神は、オーク氏族に広く根付いていた。

 新興のチンピラ氏族ならいざ知らず、古株の大手氏族であるトーン=テキンにとって、約定を反故にされての騙し討ちは最も腹が立つ行為であった。

 

「相手の指揮官格の間で、意思疎通が上手く行ってないのが原因みたいでしたけど……」

 

「それはエルフ側の都合だ、こっちの知ったこっちゃない。

 指揮官連中には纏めて落とし前をつけてもらおう」

 

 報復対象は指揮官の成人エルフども。

 能動的に動く気配のないちびエルフの方は所詮手足に過ぎないので対象外だ。

 指揮官エルフに命じられて邪魔するようなら、蹴散らすまでだが。

 

「明るいうちに、一度連中の拠点を襲撃するか」

 

 洞窟の外から中空の光源を見上げた。

 球形要塞の内部には北端から南端を繋ぐ太い芯が通されており、半透明なパイプのような芯は白く輝いている。

 要塞外で輝く恒星の光をプリズムの類で内部に導き入れた光源だ。

 巨大な蛍光灯のように輝く芯の三分の一は光を遮る覆い(シェード)が掛けられており、要塞の自転と共に動いた覆い(シェード)が光の届かない夜の部分を作り出していた。

 

「この明るさだ、ペールの目なら連中の拠点も見えるんじゃないか?」

 

「高い所からなら見えると思いますけど……もう仕掛けるんですかぁ?」

 

「晩飯もかっぱらってくる必要があるしな」

 

「また銀河棍棒(PSYリウム)を持ち出されたらどうするんです?」

 

「望むところ、と言いたいが対応策を思いついてないからな、離脱するよ。

 銀河棍棒(PSYリウム)は滅茶苦茶重たいと聞く、あのエルフも蔦で腕を強化しないと振り回せないと見た。

 蔦が腕に絡まった状態なら、こっちの逃げ足に追いつけんさ」

 

「うーん……」

 

 まだ反対の理由を探そうとゴーグルの上の細い眉を寄せているペールを、姫はぐいと抱き寄せた。

 

「ほら、カーツはちゃんと考えてるんだから。

 心配しなくても大丈夫よ」

 

 ぐりぐりと頭を撫でながら言い聞かされ、ペールは小さく溜息を吐いた。

 姫に抱き寄せられたまま、ペールはゴーグル越しにでも判るじっとりとした視線をこちらへ向ける。

 

「本当に気をつけてくださいよぅ、カーツさんが頼みの綱なんですから」

 

「ああ、任せとけ」

 

 

 

 

SIDE:兵卒 フィレン

 

「ぐぅ……」

 

 焼け付くような胸の痛みで、フィレンは失神から目覚めた。

 澱んだ意識を覚醒させようと頭を振れば、弁髪の端がちゃぽりと水音を立てた。

 

「ぬ……? 水の中……?」

 

 フィレンは己の体が顎の下まで液体に漬け込まれている事に気付いた。

 驚き、身を捩るが体は動かない。

 

「な、なんだ、これはっ!?」

 

 見れば四肢に満遍なく蔦が絡みつき、がっちりと固定していた。

 液体の中、絡んだ蔦で宙吊りにされた状態ではオーク戦士の剛力も振るいようがない。

 緑の蔦が絡むのは手足のみならず。

 フィレンの逞しい胸板には太い蔦が絡みつくどころか深々と刺さっている。

 呼吸に合わせて脈動する蔦が己の胸に突き立っている様は、豪胆なオーク戦士の中にすら怖気を掻き立てる光景であった。

 

「あら、もうお目覚め?」

 

 艶めいた声に顔を上げると、フィレンが液体ごと漬け込まれた半透明の容器を色黒のエルフが覗き込んでいる。

 

「貴様っ!」

 

 フィレンの怒声を217は気にした様子もない。

 

「流石はオーク、回復が早いこと」

 

 独り言のような217の言葉で、フィレンは自分が入れられているウツボカズラの捕虫袋めいた容器がエルフ流のメディカルポッドであると悟った。

 虜囚の屈辱にフィレンは牙を噛み締める。 

 

「くっ、殺せ! 貴様らに情けを掛けられる謂れなどない!」

 

「情け?」

 

 217は糸のような瞳をわずかに開き、その下の青い瞳を覗かせながら唇の端を吊り上げた。

 

「まだ使えそうなら、直して使うまでの事。 感謝も不要ですよ?」

 

「誰が感謝など! そもそも使うとはなんだ!

 貴様らに助力などせんぞ!」

 

「でしょうね、それでは予定通りに」

 

 217の言葉と共に、新たな蔦が容器内にぽちゃりと落ちる。

 フィレンの体を拘束する医療用と思しき蔦とは違い、微細な棘が無数に生えた茨のような蔦であった。

 

「な、なんだ……?」

 

 身動きできないフィレンへ向けて、刺々しいデザインの蔦はずるりと伸びていく。

 

「敵を知る事は兵法の常道、私達はバグセルカーの機能について詳しく調べています。

 どのように生物に寄生して、どのように生体脳を操るかまでも。

 疑似的に模倣する事も可能なんですよ?」

 

「や、やめろぉっ!?」

 

 首筋を這い上がって来る奇怪な蔦の感触に、フィレンは悲鳴を上げた。




・『気の強い騎士が囚われる』
・『触手に絡みつかれる』
・『くっ、殺せ!と言う』
以上の実績を解除しました。
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