【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:トーン=テキンのトロフィー ペール
一党のキャンプ地となった洞窟の中で、ペールは黙々と串を作っていた。
軽宇宙服付属のサバイバルキットに放り込まれていた十徳ナイフで、拾ってきた枝を削っていく。
光源は小さな焚き火ひとつだが、視覚に優れたドワーフである彼女には問題ない明るさを提供していた。
ぺきりと音を立てて削りすぎた串が折れる。
「あっ、また……」
問題はペールが不器用な事にあった。
そもそも未来の宇宙育ちに、鉛筆削りの経験などあるはずもない。
渋い顔のペールは折れた木切れを焚き火に放り込み、次の小枝を手に取る。
悪戦苦闘しているペールと違い、焚き火の向こうに座り込んだ主君の作業は順調だった。
ご機嫌に鼻歌を漏らしながら手を動かしている。
姫の手元では、まな板代わりの平たい石に載せられたニワトリっぽい鳥がモツを抜かれて解体中であった。
件の鳥は通常のニワトリよりも胴が太くて丸く、代わりに羽と足が短い漫画的にディフォルメしたかのような姿をしている。
エルフ要塞の中に生息していた鳥だが、野生動物として考えるとおそろしくトロくて警戒心のない生き物だ。
蔓を利用した簡単な括り罠であっさりと捕獲できてしまう。
鈍臭く空も飛べない鳥なので、同じく鈍臭いちびエルフ達でも捕獲できるに違いない。
虫などを食べる生態系の上位役として配置された鳥類で、エルフ達のタンパク源も兼ねているのだろうと、カーツは推測していた。
ニワトリモドキを解体していく姫の手際には迷いがない。
刃渡りが短く調理に向かない十徳ナイフとは思えない速度だ。
姫が捌いているニワトリモドキは、姫が手ずから仕掛けた括り罠で捕らえた獲物である。
首を落として血抜きをし毛を毟って捌いて食肉にする、その全ての工程を姫が担当していた。
それもかなり楽しそうに。
初回こそカーツの指導があったものの、数日を経た今ではすっかり熟練している。
データベースで学んだ狩猟の知識を伝授したカーツよりも、手際は上になっているかも知れない。
「いいんでしょうか、こういう事を覚えさせちゃって」
「んー? なぁにぃ?」
正確に一口サイズに切り分けた鶏肉をまな板石の上に並べていた姫は、ペールの呟きに鼻歌を止めて顔を上げた。
「いえ、こういう作業ってお姫様のやる事かなあって」
「だって、ペールは出来ないじゃない」
「そ、そうですけどぉ……」
グロ耐性がまるで無いペールは、モツがドロドロの解体作業をリバースの末リタイアしていた。
一方、箱入り育ちで有りながら姫の方はケロリとしている。
戦闘種族の面目躍如という所か。
「適材適所って奴よ、これも。 ペールは串を用意して、あたしはお肉を用意して、カーツが他の物を略奪してくる、それでいいじゃない」
軽く言ってのけた姫はわずかに小首を傾げると、にんまりと笑みを浮かべた。
「これ、ちょっと新婚さんっぽくない? 外で働く旦那さんを手料理で迎えるの!」
「……そーですね」
姫の妄言にペールは当人の胸元よりも平坦な声で応じた。
納得する一面も無いわけではない。
ノッコから聞いた話では姫の母親である女王に懸想しているらしいカーツだが、姫を憎からず思っている様子なのは傍から見ても判る。
船のジャンプドライブが直らず、ここにずっといる羽目になったという前提なら、カーツと姫が結ばれるのは確実だろう。
この適応力の塊のような姫ならば、ここでのワイルドそのものなサバイバル生活も苦にするまい。
そのまま、この要塞で新たなトーン=テキン氏族が発生するのだ、きっと。
二人をミニチュア化したような子供達に囲まれたカーツと姫の姿が脳裏に浮かぶ。
「はぁ……」
おそらく、その未来だと自分はそこに居ない。
この石器時代のような生活環境に長く耐えられるとは思えない、ペールは根っからの宇宙っ子なのだ。
ドワーフ少女の持つ宇宙船クルーの素養は、アウトドア生活では何の役にも立っていなかった。
明らかにお荷物になっている自分の体たらくに、気が滅入ってくる。
マイナス方面に傾きつつあるペールの精神状況は、ドワーフの持つ種族特性が悪い方向で発揮された結果であった。
戦闘種族であるオークは良くも悪くも大雑把な精神性を持っており、その分タフである。
一方、分類するならば斥候種族といえるドワーフは、その注意深さ故に心配性なタイプが多い。
ペールの場合、心配性に加えてシャープ=シャービング氏族の虜囚として過ごした過酷な日々で染みついた自己評価の低さも組み合わさっている。
自分は役に立っていない、お荷物は捨てられてしまう。
姫もカーツも、そんなに薄情ではないと思いつつも生じた不安はペールを苛んだ。
不意にカラカラと乾いた音が鳴る。
洞窟の入口に仕掛けた鳴子だ。
陰鬱に沈みかかったペールは喝を入れられたかのように顔を引き締め、姫と視線を交わす。
緊張が走る主従であったが、続いて響いた精悍な声に笑みを浮かべて立ち上がった。
「ただいま戻りました」
「カーツ!」
「お帰りなさい!」
戦利品の包みを抱えたカーツに姫と飛びつきながら、確かに新婚さんっぽいのも悪くないかも知れないと思い直すペールであった。
SIDE:F号要塞フォーティチュード
消火完了から数時間が経ちながらも、集落の中には燻られた生木特有の煙たさが残っている。
嗅ぎ慣れない臭いに顔を顰めながら465は周囲を見回した。
465率いる護衛隊が運んできたイモカボチャの配布にちびエルフ達が群がっている。
そのうちの何人かが目が合うのを恐れるように、そっと視線を逸らした。
指揮官の成人エルフがちびエルフ達に敬意や憧れの視線を向けられるのはよくある話だが、そういうのとはちょっと違うように思える。
逸らされた視線に自分を責めるような色を感じ、465は内心で怯んでいた。
「ふぅ……」
景気の悪い溜息が出る。
この数日、要塞を悩ましている略奪事件、その調査と後始末に護衛隊は奔走していた。
幸い人的被害はないが物資は強奪され、あちこちの施設が破壊されている。
荒事に縁のない後方のちびエルフ達には明らかな動揺が広がっていた。
襲撃犯はたった一人のオーク戦士。
そしてそれを招き入れる原因となったのは465だ。
465が余計な事をしなければ、この面倒事は発生しなかった。
その事を責められている。
ちびエルフ達の態度をそう感じるのは、465自身の負い目による疑心暗鬼だ。
実際の所、大多数のちびエルフはそこまで難しい話は考えていない。
頭にあるのは、落ち着かないので早く犯人を捕まえて欲しいなぁとか、もっとイモカボチャ持ってきてくれないかなぁ程度の事だ。
生き残った数少ない指導者の一人であるという自負と責任感が465を過剰に責め立て、駆り立てている。
この自負こそが無理な外部戦力の誘致など、彼女の行動を空回りさせている原因なのだが。
「貴女も来ていたの」
耳に甘い蠱惑的な声音に振り返る。
数少ない同格の指揮官、
色黒ちびエルフ達はイモカボチャの詰まった背負子を担いでいる。
「略奪に遭ったって聞いたから、食料を持ってきたんだけど。
被っちゃったわね」
「そっちも、一緒に、配るか?」
「ダメよ、余剰なんてないんだから」
217は真顔で首を振った。
「この物資は別の用途に使うわ」
「別の用途?」
首を捻る465に、217は艶然と微笑む。
「略奪者なら、物資が沢山あれば狙いたくなるかもしれないでしょう?」
「……そうかもしれんが、誘き寄せて、どうするんだ」
465は顔を顰めながら問う。
悔しいがあのオーク戦士に自分は及ばない。
奴を誘き寄せたとしても、取り押さえるのは無理だ。
「その為の手筈は準備してあるわ」
「
ホームグラウンドの要塞内とはいえ、どこでも使える秘技ではない。
「強化なしで使う方法を用意したのよ」
217が指を鳴らすと、大柄な人影が姿を現した。
「なっ!?」
ゆっくりと近づいてくる筋骨隆々のオーク戦士に465は驚きの声を漏らす。
465を圧倒したオークとは違う、弁髪の戦士は股間を僅かに覆うスパッツのみで逞しい肉体を晒していた。
その全身には制御と強化を担う蔦が幾重にも絡みついている。
緑の縄を掛けられたようなその姿は、古き知識を持つ者ならばこう評したであろう。
亀甲縛りと。
だが465が驚愕したのは、その装束ではない。
彼女の視線はオーク戦士の頭をぐるりと取り巻く、冠を思わせる茨に注がれていた。
茨から生える長すぎる棘は、虚ろな瞳のオーク戦士の頭蓋に食い込んでいる。
「洗脳したのか!?」
「仕方ないでしょう、反抗的なんだし」
「だからと言って、こんな手段は!」
217は溜息をひとつ吐き、ぐいと詰め寄った。
465の豊かな胸を、それ以上のサイズの217のバストが押し潰すほどの至近距離で、顔を覗き込まれる。
217の細い瞳の奥には明確な怒りの火が灯っていた。
「じゃあどうするって言うの? 元は貴女が引き寄せて不意打ち仕掛けたんでしょうに。
初手から穏当な手段を潰しておいて、今更」
言葉に詰まる465に、217は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「中途半端なのよ、貴女は」
吐き捨てて身を翻した217に、オーク戦士は機械的な動作で追従する。
「うぅ……」
自らの空回りを自覚し有効な手段を打ち出せない465は、217の所業に嫌悪を覚えつつも引き留める事ができなかった。
・『囚われた騎士に卑猥な衣装を着せる』
以上の実績を解除しました。
以前から頂いております書籍化の話ですが、ゆっくりと進行中です。
徐々に目途は付いてきているので、もうしばらくお待ちください。
ポシャってないよ!