【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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スペースおねショタ

SIDE:戦士 カーツ

 

「そろそろ、あちらさんも焦れてくる頃合いですね」

 

 焚き火の前で姫お手製の串焼きを貪りつつ、エルフの出方を推測する。

 

「このまま襲撃を続けてると、罠でも張られるって事?」

 

 姫はスライスしたイモカボチャを焚火で炙りながら、小首を傾げた。

 

「また銀河棍棒(PSYリウム)を持ち出してくるかな?」

 

「でしょうね、狙い目だ」

 

 俺は次の串を手に取りつつ、牙を剥く。

 銀河棍棒(PSYリウム)の最も危険な点は意志の刃(ウィルブレイド)の長い射程だ。

 下手にトーン09の近くで振り回されては船をぶった斬られかねない。

 船と姫の安全さえ確保できているなら、銀河棍棒(PSYリウム)を持ち出されようとも何とかできる自信はあった。

 どうせなら、あの珍しい武器を頂いて行こう。

 

「お礼参りの略奪品としちゃあ、銀河棍棒(PSYリウム)くらいしか価値のある物がありませんからね、この要塞」

 

 文化の方向性が違いすぎるせいで、エルフは俺達が貴重と思う物品を碌に所持していない。

 

「このイモなんだかカボチャなんだか判んない植物くらいだものねえ、持ってきて嬉しい物って」

 

 姫はいい具合に炙られたイモカボチャの断片を口に放り込み、相好を崩す。

 

「んっ、甘い!」

 

 もぐもぐと口を動かしながら満面の笑みを浮かべる姫に、俺の頬も緩んだ。

 

「ペールは何か手に入ると嬉しい物ってあるか?」

 

 無言で食事を続けているドワーフ少女にも声を掛ける。

 もそもそと串焼きを齧っていたペールは、よく焼けた鶏肉に目を落しながら呟いた。

 

「お塩があると、嬉しいですねぇ……」

 

 

 

 

SIDE:「残り火」のノッコ

 

 カーツ達と逸れたトーン08のメンバーも無為に過ごしていた訳では無い。

 ランデブーポイントの小惑星帯に3日待機した後、トーン09に何らかのトラブルが発生したと判断、独自の行動を開始する。

 ドリルインストラクターのノッコと知恵袋のボンレー、歴戦の二人は意見交換の末、トーン09は何らかの故障で入植が行われていない無人の星系で遭難していると結論付けた。

 もしもジャンプアウト先で船が壊れてしまったとしても、開拓コロニーのひとつでもあれば略奪で船を確保するだろう。

 カーツならそれくらいやってのけて当然と、ノッコと舎弟衆は想定していた。

 安定の信頼感である。

 そのカーツが合流していないという事は、船を調達できない場所で動けなくなっているのだと仮定したのだ。

 ならば、迎えに行かなくてはならない。

 

 一旦状況を見定めれば、高速思考のフービットと果断なオークという戦闘種族チームだけに、次の行動決定は早い。

 星図を引っ張り出して、トーン09の民生用ジャンプドライブで届く範囲の無人星系をピックアップする。

 後は虱潰しのローラー作戦。

 万一のすれ違いを防ぐために置き手紙のメッセージビーコンを設置したランデブーポイントを基点とし、候補の無人星系へジャンプするのだ。

 ジャンプ後、すかさずジャンプエネルギーのリチャージを開始しつつ星系内をサーチ。

 トーン09の痕跡が無ければ次の星系へジャンプという、総当り脳筋戦法である。

 

 元々トーン08の操船を任されているボンレーと、おやつの差し入れに来たまま成り行きで乗り込む事になってしまったジョゼは2直体制で連続ジャンプのオペレートを行っている。

 促成の新米船員であるジョゼの負担が多いためノッコは手伝いを申し入れたが、戦闘機隊は万全でスタンバイしておくべきとボンレーは謝絶した。

 結果、大車輪の勢いで連続ジャンプ作業に従事するボンレーとジョゼに対して、ノッコと舎弟三羽烏は暇を持て余すという状況になってしまった。

 戦闘種族に暇を与えると、どうなるか。

 それはもう鍛錬しかない。

 

「うおぉっ!?」

 

 寡黙なソーテンの口から珍しい悲鳴が飛び出すと同時に、彼のバレルショッターは撃墜判定を受けシミュレーターから除外される。

 下手人のノッコの頭には、すでに彼の事はない。

 炯炯と光る青い瞳は次のターゲットであるフルトンの機体を捉えている。

 

「たまとったらーッスーっ!!」

 

 喚きながらレーザーキャノンを乱射するフルトン。

 威勢のよい叫びの割に後退しつつの砲撃だが、腰の引けたヤケクソの弾幕ではない。

 一発一発に注入するエネルギーを減らしてばらまく弾幕モードながら、ノッコを追い詰めようという意思の宿った光の投網だ。

 ノッコは『包帯虎(バンディグレ)』をひらひらと操り、照射スパンの短い光弾の隙間をくぐり抜ける。

 フルトンの狙い通りに回避運動を強いられる『包帯虎(バンディグレ)』へ、頭上から新たな閃光が浴びせられた。

 

「姐さん! お覚悟ーっ!!」

 

 ベーコ機がレーザーを撃ちまくりながら突っ込んでくる。

 こちらの動きをフルトンの弾幕が阻害し、ベーコが仕留めようというコンビネーションだ。

 

「悪くない」

 

 教え子の作戦にノッコは唇の端をわずかに吊り上げ、ミッションレバーをマキシマムに叩き込んだ。

 機首を跳ね上げスラスターを全開で吹かし、ベーコ機に向けてまっしぐらに突撃する。

 真っ向勝負のヘッドオン、最も互いを撃墜しやすい危険な体勢だ。

 この場合の対処について、ノッコが教え子たちに行った指導はたった一言だけ。

 

 びびるな、と。

 

「うおぉぉっ!!」

 

 雄叫びを上げながら突っ込むベーコの挙動には欠片も躊躇いはない。

 

「うん、それでいい」

 

 移り気でお調子者なベーコが示した愚直さにノッコは満足げに微笑むと、教え子に次の段階の戦闘機動(マニューバ)を披露した。

 小さな手のひらが操縦桿には精妙な微調整を、ミッションレバーには小刻みなシフトチェンジを入力する。

 

「なぁっ!?」

 

 ベーコの目の前で衝突寸前の『包帯虎(バンディグレ)』がくるりと縦に半回転した。

 進行ベクトルを維持したまま尻を向けた『包帯虎(バンディグレ)』が瞬くようにスラスターを吹かす。

 

「うわあっ!?」

 

 噴射炎に目を焼かれたベーコ機から、くるくると回転しながら離脱しつつパルスレーザーを一斉射。

 ベーコのバレルショッターのコクピットに赤い閃光が吸い込まれると同時に、スラスターが再点火される。

 何事もなかったかのように飛翔を再開する『包帯虎(バンディグレ)』の背後でベーコ機が爆散した。

 

「ありっスか、そんなのぉっ!?」

 

「戦場じゃあ『なし』な手なんてないんだよ」

 

 曲芸じみた戦闘機動(マニューバ)に悲鳴を上げるフルトン機を容赦なくパルスレーザーで穴だらけにした所で、シミュレーターは終了する。

 半球状モニターに点灯するYou Win!の表示に瞳を細めながら、ノッコはヘルメットを脱いだ。

 汗で湿り頭皮に張り付くベリーショートの赤毛を指先で掻きまわすと、シートのラックに放り込んでいたボトルを手に取る。

 飲み口チューブからちゅーちゅーと音を立てながらミネラルウォーターを吸っていると、戦闘の熱が徐々に冷えていく。

 

「ふー……」

 

 少し、気が静まった。

 トーン09と逸れて以来、ノッコの平たい胸の内には常に焦燥の火が燻っている。

 あちらに居るフィレンの心配、ではない。

 実の所、ノッコはすでにフィレンは自らの手を離れたと感じている。

 カーツ隊に配属以降のフィレンはメキメキと腕が上がり、視野も広くなってきた。

 ノッコの目から見ても一人前の戦士と言えるだけの成長を果たしている。

 今の彼なら不覚を取ってノッコに再教育を課せられるような事もあるまい。

 

 心配しているのはカーツの方だ。

 彼の腕に危惧を抱いている訳ではない。

 カーツの戦士としての技量には全幅の信頼を置いている。

 その上でノッコはカーツの事が気に掛かっていた。

 

 逸れる寸前のバグセルカーとの戦闘で、彼は死にかけた。

 それも、ノッコを庇った事が原因で。

 負い目がある。

 それと同時にノッコ自身不可解な事ではあるが、奇妙な胸の高鳴りも覚えていた。

 

 ノッコは誰かに護られた経験がない。

 独立独歩というよりも各々が牙を剥きあう狂犬の如きフービットどもは、ノッコ自身のようなごく一部の例外を除いて他人を助けたりなどしない。

 狂奔して吶喊する同族のフォローをした事は数多あれど、自らの面倒を見られた事はなかった。

 また、かつてのノッコの主であったビルカンとの関係はあくまでトロフィーに終始しており、共に戦場に出た事はない。

 偉大な戦士ビルカンへ今も敬意を抱いているノッコであったが、彼とは背中を預けあう間柄ではなかったのだ。

 

 その点、カーツは違う。

 女王からの御達しがあったとはいえ、トロフィーのノッコをごく自然に戦力として扱い、頼り、背を預ける。

 フービットにしては温厚で変わり者の部類であるノッコだが、戦闘種族の血には抗えない。

 戦士として頼られれば、この上ない充足を感じるのだ。

 

 ノッコの見る所、現時点のカーツは最盛期のビルカンの域に至っていない。

 しかし彼は年若く、未だ豊富な伸び代を有している。

 そんな成長途上の若き主が、自分を庇って傷つき、死に瀕した。

 ノッコにとって痛恨の不覚でありながら、瞬時に自分を超える速度で判断を下した主に驚きと喜びを感じる。

 敗北を喫したとはいえ総合力ではまだ自分の方が上だと見ていた主が、いつの間にか力を伸ばしていた。

 姫を預かるという重圧が、若き戦士を強く奮起させている。

 

 先達として導かねばならないと内心考えていた年下の主が示す想定以上の実力に、ノッコは驚き、瞠目し、胸を高鳴らせた。

 言うなれば「未熟な少年の男前な行動にキュンと来ちゃうお姉さん」の構図。

 スペースおねショタである。

 見た目の年齢差が実際とは逆な事など、些細な話であった。

 

「向こうがその気ならやぶさかじゃないって思ってたけど……こっちがその気になっちゃったな」

 

 ボトルのチューブを咥えたまま呟く。

 姫がカーツにご執心な事は知っている。

 そのアプローチが今ひとつ効果を発揮していない事も。

 頑張っている姫には悪いが、ここは横からかっさらわせて貰おう。

 お姉さんの手管は小娘とは一味違うのだ。

 

 ノッコの顔に肉食獣めいた微笑みが浮かぶ。

 自信満々なノッコではあるが、彼女もその方面の経験はビルカンだけ、それも相手に捕えられた結果なので熟練とはとても言えない。

 それでもフィレンという成果が存在する以上、アドバンテージは自分にあると考えていた。

 0と1の間には果てしない差があるのだ。

 

 一方、カーツに対するアプローチに思考を回し始めるノッコを他所に、教え子たちはオープン回線でデブリーフィングを行っていた。

 より正確には消沈した愚痴大会である。

 

「まーたーまけたっスー……」

 

「テンミニッツチャレンジならずか、惜しかったなあ」

 

「何それ」

 

 知らない単語が耳に入り、ノッコは口を挟んだ。

 

「姐さんとの模擬戦で10分生き延びれるかってチャレンジっす。 今んとこ、全敗だけど……」

 

「それ、成功して何か景品でも出るの?」

 

「なんにもないっス!」

 

「まあ、オレら三人でやってるお遊びっすからねえ」

 

「それじゃ、私が景品を用意してあげるよ」

 

「まじっスか!?」

 

 喜色の声を上げる教え子たちにボトルのチューブを噛みつぶしながら告げる。

 

「私とのマンツーマンレッスンの権利。 みっちりしごいてあげる」

 

「罰ゲームじゃないですか、やだー!」

 

「ふだんとあんまりかわんないっスー!」

 

 悲鳴を上げる教え子たちだが、銀河屈指の戦士であるベテランフービットの指導は、人によっては大金を積んでも受講したいレッスンであった。

 修了まで耐えきれる者はあんまり居ないが。

 

「えー、テステス」

 

 鍛錬後の師弟コミュニケーションの場であるオープン回線に、電子音と共に新たな入場者がログインする。

 

「あってーんしょーんぷりぃーず! ジャンプエネルギーのチャージが完了しましたー、本艦は只今よりジャンプに入りまーす。

乗員の皆さんはなーんかいい具合の体勢でジャンプに備えてくださーい」

 

「うっわ雑」

 

「ジョゼさん、つかれてないっスか…?」

 

「あっはっは、疲れてないわけないじゃなーい」

 

 通信ウィンドウに映るジョゼの顔には疲労の色が濃く、目元にはくっきりと隈が浮いていた。

 

「お姫とカーツさん達を見つけるまでは、疲れてても踏ん張らないといけないからねぇ。 それじゃ、行くよぉ!」

 

 カウントダウンもなしにジョゼはジャンプドライブを起動させた。

 モニターに映る星空が滲んで歪み、三半規管を搾り上げられるような不快感と共にトーン08は新たな星系へと転移する。

 途端にまばゆい白光を放つA型恒星が眼前に現れ、ノッコは目を細めた。

 

「あれ……?」

 

 通信ウィンドウの中のジョゼが、疲れた目を凝らした。

 

「レーダーに感有り! トーン09じゃないけど、なんか変なのがいる!」

 

 報告の内容は雑だが、すぐさまデータリンクで戦闘機隊にも情報共有を行う辺り、ジョゼのオペレーターとしての練度は上がってきている。

 戦闘指揮官代理としてジョゼの評価を上方修正しつつ、ノッコは転送されたデータを確認した。

 

「これは……エルフの要塞? なんでこんな所に」

 

 トーン08が出現したA型恒星の天頂点、宇宙においては至近距離といってもよい程の距離に巨大な球状物体が浮かんでいる。

 経験豊富なノッコは巨大要塞の正体を即座に看破したが、この宙域にエルフの要塞がいる理由までは判らない。

 

「姉さん、デカブツの方から船がこっちに向かって来てる!」

 

「接近まで、どのくらい?」

 

「えっと……この速度だと、15分くらい!」

 

「すぐにボンレーさんを起こして。 エルフと揉める理由はないけど、念のため」

 

「りょーかい!」

 

 二交代制のため休憩を取っていたボンレーが、連絡を受けブリッジに駆けつけてくる。

 

「エルフですか、これはまた珍しい」

 

 憔悴したジョゼとは違い、普段通りに落ち着いたボンレーの声音には疲労の影は見えない。

 

「我々オークが下手に顔を出すと、無駄に警戒させてしまいますね。 あちらとの通信はジョゼさんにお任せします」

 

 奇しくもトーン09の面々と同じような判断により、無難な見た目のジョゼが対応役に抜擢される。

 

「戦闘機隊は、そのまま待機を」

 

「了解」

 

 ノッコとボンレーはどちらもカーツの副官であるが、戦闘時担当と平時担当で役目を分割している。

 こういった分業は往々にして互いの職分で摩擦や衝突を生むものだが、どちらも戦闘種族の出自であるノッコとボンレーに関しては問題はほとんど生じていない。

 双方とも武力を起点としたシンプルな判断を行う為、意見の相違がないのだ。

 

「通信入りました、モニターに出します!」

 

 トーン09のメインスクリーンに通信相手が映し出される。

 色素の薄い金髪をおかっぱに切りそろえた、色白で細身の少女が画面外へ顔を向け、何やら指差して指示を出している。

 

「通信、まだ? 早く、繋いで。

 え、もう、繋がってる?」

 

 横合いから猫の鳴き声を思わせる声を掛けられた少女は、慌てて正面に向き直った。

 小さく咳払いして話し始める。

 

「私は、F号要塞フォーティチュード所属、護衛隊(ガーゼス)の840。 そちらは、どこの、所属か」

 

 ピーカ姫と同じ年頃のように見える少女は、ぶつ切りの単語を重ねたような言葉使いで誰何を行った。

 あらかじめの取り決め通り、ジョゼが対応を開始する。

 

「えー、こちらはテキン運送所属の輸送船、トーン08です、ジャンプの中継点で立ち寄っただけですんで……」

 

 相手の機嫌を窺うようなジョゼの言葉に、840と名乗った少女は眉を寄せた。

 

「テキン運送? トーン08? ……トーン=テキン!」

 

 少女の愕然とした叫びと共に、画面の向こうから「にゃーっ!?」と猫のような悲鳴が上がる。

 

「攻撃! 攻撃開始!」

 

「え、ちょ、ちょっと!? なんで!」

 

 いきなりの物騒な宣言に仰天するジョゼの言葉を待たず、通信は切れた。

 接近中のエルフシップが増速し、搭載戦闘機が飛び出してくる様がレーダーレンジに映し出される。

 

「えええ……なんでぇ……」

 

 呆然と呟くジョゼを他所に、歴戦のボンレーとノッコは落ち着いた様子で状況を分析する。

 

「ふむ、うちの氏族は古株なので、以前エルフと揉めた事もあるのかもしれませんが」

 

「カーツと姫様がこいつらに何かした可能性もあるね」

 

「ですな。 どうやら荒事は避けられません、ノッコさん、指揮権を移譲します」

 

「了解、任された。 戦闘機隊、出るよ」

 

 

 

SIDE:F号要塞フォーティチュード 護衛隊(ガーゼス)840

 

 840は幼体固定を解除され、指揮官(コマーダー)に成長中の元ちびエルフだ。

 半年前の大戦で失われた指揮官(コマーダー)の補充要員として抜擢された一人である。

 彼女を選んだのは上官である465、ちびエルフの中では珍しい向上心を買っての抜擢であった。

 

 選び出されて以来、培養槽に浸かって心身の成長促進を行っていたのだが、不十分な成長度合いで駆り出されていた。

 トーン=テキンの戦士を名乗るオークが要塞に入り込み、好き勝手に暴れているのだ。

 護衛官465はその対応に追われて、要塞内から目を離せなくなってしまった。

 要塞外のパトロールという護衛隊(ガーゼス)本来の任務は、培養槽から急遽引っ張り出された840に押し付けられる事になった。

 840に否やはない、むしろ誇らしい事と受け止めていた。

 上司である465を尊敬し、自分も立派な指揮官(コマーダー)足らんと志す840は、未熟な身ながら与えられた任務に全力で取り組んでいた。

 

 465の方も840が未だ指揮官(コマーダー)個体としては未完成で、本来頼れる状態ではないと判っている。

 それでも、要塞外の警戒を行うぐらいは可能だと評価していた。

 要塞内で跋扈するオーク戦士とやりあうより、よほどマシという判断だ。

 まさかオークのお代わりとオークと同じくらいヤバいフービットがやってくるなど、想定しているはずもない。

 

「トーン=テキン……ここで、仕留めないと」

 

 培養槽の中に居たので直接は相対していないが、トーン=テキンのオーク戦士の厄介さは聞いている。

 この連中は増援だろう、合流させてはいけない。

 ここでこいつらを倒す事は、尊敬する上司への援護になるはずだ。

 840は少女らしさを増した可憐な美貌を緊張で引き締めながら、初陣に挑む。

 

 

 

 

 そして、ぼっこぼこに負けた。

 

 

 

 

「それで? オークの戦士を捕らえたって?」

 

 ちびエルフよりはちょっと大きいといった背丈の女が、青い瞳でこちらの顔を覗き込んでくる。

 その口調は平坦で、それでいて明らかな怒りを抑えているのが明白だ。

 

「答えたくないの? それなら」

 

 唇を噤む840に対し、フービットの女は彼女の視界から消えた。

 

「ま、待って」

 

 首を捻って女の姿を追うが、それ以上は体が動かない。

 840は屈強なオーク戦士の小脇に、荷物のように抱えあげられていた。

 筋肉の塊のようなオークの腕で胴体を押さえられ、身動きもできない。

 

 ちびエルフ時代から更新されず寸足らずのミニスカワンピのようになってしまった貫頭衣の短い裾はまくり上げられ、840の尻はむき出しにされていた。

 フービットの女は異様にスナップの利いた平手を、白い尻に叩きつける。

 

「にゃーーーっ!?」

 

 激痛に840の口から原初の悲鳴が迸った。

 

「痛い目に遭いたくないなら、早く答えなさい」

 

 平手がもう一発。

 840が上げる悲鳴に、ブリッジの物陰に隠れたちびエルフ達はぶるぶる震えながら頭を抱えて丸くなった。

 

 840の命令で戦闘が開始されてから30分。

 すべての艦載機は撃墜され、乗り込んできたフービットとオークによってブリッジは制圧されていた。

 完膚なきまでの敗北である。

 そして、捕獲された840は尻叩きの拷問で情報を吐かされていた。

 

「にゃっ、にゃあっ、や、やめ、やめて」

 

「やめて欲しいなら答えなさい」

 

 背後で手が振り上げられる気配。

 

「オークの戦士、一人捕らえたって聞いた! でも、それだけしか、知らない! あとは、オークの戦士が、要塞内で逃げ回って、暴れてるって」

 

 糸目からぼろぼろと涙を零し、しゃくりあげながら840は知っている事を喋る。

 指揮官(コマーダー)候補とはいえ、元はちびエルフの840には激痛を受けた事もなければ我慢する訓練もしていない。

 白い尻が真っ赤になる前に、840は屈服していた。

 

「ふぅん、そう、捕まったの……。 そう……」

 

「あの、姐さん、なんか妙な気分になってきたんスけど、こいつ貰ってってもいいですか?」

 

 どこか剣呑な口調で呟きを漏らすフービットに、840を抱えたオークが何事か訴える。

 貰われるとどうなってしまうのか判らないが、何となくろくでもない気配を感じた840は涙でぐちゃぐちゃになった顔でフービットを見上げた。

 

「そういうのは後でカーツに相談して。 それよりも」

 

 フービットは840の顎を小さな手で持ち上げると、真正面から糸目を覗き込んできた。

 

「私たちも要塞に入る必要がある。 案内してね?」

 




旧年中は大変お世話になりました、来年はもっとペースを上げていきたいと思っております。



春くらいにはちょっとご報告できそうな感じらしいです(ふわっと感)
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