スペースオーク 天翔ける培養豚   作:日野久留馬

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お久しぶりです、危うく死にかけておりましたが何とか生きております。
間が開いておりますので、仕切り直しに余話をお届けいたします。
時系列は「傭兵の晩酌」のちょっと前辺りになります。

なお、諸事情により、神聖フォルステイン王国の国名を神聖シャノイマン王国に変更いたします。


《余話》再起の宇宙騎士(テクノリッター)

神聖フォルステイン王国を神聖シャノイマン王国に変更

 

SIDE:宇宙騎士(テクノリッター)アグリスタ・グレイトン

 

 神聖シャノイマン王国、複数の星系に跨がる有数の星間国家。

 その頭脳中枢を務める王国評議会に、アグリスタは出頭していた。

 正確には、ホログラムアバターでの出席である。

 

 賊のオークとの戦闘でサイボーグボディの大半を損失するダメージを受けたアグリスタは、首星の工廠でメンテナンスを受診中。

 ほとんど再構築とも言えるほどの大規模メンテナンスで、工廠から出る事もできない。

 もっとも王国評議会にはアバターで参加する評議員は多く、彼女の行動は無礼には当たらなかった。

 広大な領域を支配する王国ゆえ、遠隔通話での会議参加は当然の事である。

 

 アグリスタに用意された評議会議席に表示されるホログラムアバターは、重厚な騎士鎧を思わせるサイボーグボディのデザインではない。

 愛らしく整いつつも気の強さを感じさせる金髪碧眼美少女の姿、すなわち機械化される前の生来の容姿だ。

 神聖シャノイマン王国最年少宇宙騎士(テクノリッター)であるアグリスタのアバターはあからさまな仏頂面を浮かべていた。

 このアバターを好んでいないのだ。

 

「まったく、何で今更生身の仮装など……」

 

 神聖シャノイマン王国はサイバネティクス技術に秀でた星間国家である。

 高性能な宇宙騎士(テクノリッター)を擁するだけでなく、その技術は民間にも恩恵をもたらしておりサイボーグ化を含めた高度な医療が広く普及していた。

 その一環として美容整形の分野も発達し、生来の姿から変化した者も数多い。

 余りにも手軽に現実の姿の変更が可能なため、逆に電脳世界においては本来の姿で応じるのがフォーマルであるという文化が生じていた。

 

 アグリスタの自己認識は完全に無骨なサイボーグボディが基本となっている。

 今更金髪吊り目ツインテール美少女なアバターを被せられても落ち着かない。

 だが、己の失態に対する問責の場にアバターで出頭するとあらば、王国に50人といない宇宙騎士(テクノリッター)とて礼儀に則ったフォーマルな装いをせざるを得ないのだ。

 

 問責会議が始まると、与えられた自席に立つように表示されたアバターへ追求の言葉が降り注ぐ。

 

「サイボーグ体だけでなく決闘機(ジョスター)まで全損状態とは……」

 

「君の修復に、国民の血税がどれ程必要になると思っているのかね?」

 

「勝敗は兵家の常とはいえ、負け方というものもあるのではないか?」

 

 評議会議員達のネチネチとした追求に、アグリスタのアバターは唇を噛む。

 彼らの言葉も一理あると理性では理解しているが、納得は別だ。

 批判と追求を受け、可憐な少女騎士の美貌は屈辱に歪んでいく。

 普段は面貌で隠しているだけに、アグリスタは表情を取り繕うのが下手であった。

 悔しげにしつつも反論できない美少女騎士のアバターに、議員達の舌鋒は鋭さを増していく。

 アグリスタの忍耐が限界を迎えるよりも早く、独特の電子音とアナウンスが議員達の言葉を断ち切った。

 

「新規ログインを確認、神聖シャノイマン王国永世国王エニアック256世陛下の御成りです」

 

 アナウンスに目を見張ったアグリスタのアバターは、その場で片膝をつき祭壇に向けて頭を垂れる。

 議員達も一斉に口を閉じると起立し、深々と腰を折る礼を行った。

 議長席の背後に置かれた祭壇にホログラムのアバターが出現する。

 映し出されたのは黒く四角い板、典型的なモノリス状のアバターであった。

 明らかに人間では無いアバターは神聖シャノイマン王国の文化からするとフォーマルからかけ離れたものであったが、「(それ)」は唯一そのアバターが許される存在である。

 まさにその通りの姿が「(それ)」の外見なのだから。

 神聖シャノイマン王国を永久(とわ)に導く永世国王エニアック256世、遙かな過去に誕生したコンピューターの始祖の偉大なる末裔である。

 

「顔を上げ、ご着席ください、皆さん」

 

 耳に優しく心を落ち着かせるように計算し尽くされた合成音声(マシンボイス)に従い、評議員達は顔を上げて着席する。

 本日の問責対象であるアグリスタのみ、片膝をついたままの姿勢で顔を上げた。

 その顔は叱責への緊張と怖れ、そして拝謁の喜びが混ざり合い、不器用に強張っていた。

 

「へ、陛下、このような些事にお出ましになられるとは……」

 

 恐縮した声をあげる議長に、電子の国王は否定の合成音声(マシンボイス)で応じる。

 

「いいえ。 宇宙騎士(テクノリッター)アグリスタは私の演算により選出された騎士。

 彼女の進退に関わるとあらば、私が顔を出さない訳には参りません。

 まあ、私にフェイスパーツはないのですが」

 

 完璧にして公正な為政者エニアック256世唯一の欠点と秘かに噂される下手なジョークを飛ばすと、国王のアバターはアグリスタへ向き直った。

 アグリスタのアバターは片膝をついた姿勢のまま、巨大なモノリス状の国王を見上げる。

 黒曜石の艶やかさを持つアバターは静謐な合成音声(マシンボイス)で問いかけた。

 

宇宙騎士(テクノリッター)アグリスタ、あなたはまだ戦えますか?」

 

「戦えます!」

 

 即答する騎士に、国王のアバターは表面を淡く発光させた。

 

「あなたを打ち倒した賊と再び対峙したら、どうしますか?」

 

「叩き潰し、裁きを与えます!」

 

「よいレスポンスです、心は折られていないようですね」

 

 満足げな合成音声(マシンボイス)を発し、モノリス状のアバターは議長に向き直った。

 

「アグリスタに雪辱の機会を与えましょう。

 サイボーグ体と決闘機(ジョスター)の修復を許可します。

 それと、海賊駆逐専任の部隊を設立しアグリスタに預けます」

 

「へ、陛下! それは余りにも温情が過ぎるのでは……!?」

 

 思わず口を挟む議長であったが、電子の国王は柔らかな口調を崩さずに続ける。 

 

「私の見出した騎士です、それだけの期待を掛けても良いでしょう。

 よろしいですね、アグリスタ?」

 

「は! お任せください、陛下!」

 

 愛らしいアバターの瞳を凶悪にギラつかせるアグリスタに、国王は優しげな声音で命じた。

「では征きなさい、私の騎士。

 我が国に仇為す賊を、尽く討ち果たすのです」

 

「御意!」

 

 王命を受けたアグリスタは一礼と共に王国評議会からログアウト、首都工廠内の機械の体に意識が戻る。

 上半身の再構築が進行中のサイボーグボディからは幾つものケーブルやアクチュエーターのワイヤーが垂れ下がり、とても稼働可能な状態ではない。

 アグリスタは溢れる戦意と動かぬ機体のギャップにもどかしさを覚えながら、作り物の美貌を獰猛な笑みに歪ませた。

 

「待っていろよ、トーン=テキンのカーツ。

 次は貴様がバラバラになる番だ」




活動報告に詳細を記載しましたが、1/4に大動脈解離を発症して死にかけておりました。
現在自宅療養のリハビリ生活で、まだまだ調子が戻り切っていない状態ではありますが、とりあえず三途の川からは遠ざかったようで一安心といった所です。

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