【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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諸々、お待たせいたしました。


偵察拠点(ウォッチポイント)

SIDE:戦士 カーツ

 

 エルフの生活圏は球状要塞の内側、すなわちオーバーハングに弧を描く空間に広がっている。

 そのため、特に高台を占拠しなくとも視界は通しやすい。

 ドワーフの視力が有効利用できる立地だ。

 

「見えるか?」

 

 木の枝をテント状に組み蔦と葉を絡ませて偽装を施した偵察拠点(ウォッチポイント)に身を伏せながら、隣のペールに囁く。

 俺と同じく腹這いに寝そべった姿勢で身を隠したペールは、ゴーグルを額にずらすと望遠鏡にも勝る視力で遠方を見据えた。

 

「五人一組の隊が十五。それぞれの隊は等間隔で移動しています」

 

「ちび共、ずいぶんと連携がいいな。 指揮官エルフは居るか?」

 

「あの465ってエルフが部隊に指示を出して回ってるみたいです」

 

「指揮官自ら伝令役か? 仕留めれるなら楽なんだが……」

 

「ごめんなさい、木々に隠れるのが上手くて捕捉し続けられません……」

 

 申し訳なさげなペールの報告に俺は小さく唸った。

 

「ここは連中のホームグラウンドだし、お前の本領は宇宙だものな、仕方ない。 あっちも本腰入れてきたって事さ」

 

 森に潜んだ寡兵が駆使するゲリラ戦術に対して最も有効な対策は何か。

 お手軽なのは隠れ場である森を焼き払う事だ。

 俺の中に刻まれた21世紀の知識でも、密林から襲い来る小国のゲリラ兵に手を焼いた大国が絨毯爆撃や木々を枯らす化学兵器など恥も外聞もない手段を採る羽目になった戦史が存在する。

 だが、この戦法はオークゲリラの度重なる襲撃に激怒していても、エルフ達には選択できない禁じ手だ。

 拠って立つ大地そのものが植物であるエルフ要塞での焦土作戦は、自分たちの命綱を焼き払う事に等しい。

 火に関する禁忌は大小問わずエルフの精神に深く刻み込まれているようで、この点に関してまったく心配しなくていいのはありがたい。

 焼き討ちが御法度である以上、彼らに摂れる手段はひとつ。

 数に任せたローラー作戦の山狩りだ。

 ゲリラが潜んで居そうな場所をひとつひとつチェック(ヨシ!)して追い詰めていく、地道極まりない作業である。

 

「まったく、手間暇かけて面倒な真似してくれるぜ」

 

 脳筋そのもののプランだが、数の利を活かされるのは単純に厳しい。

 俺たちの戦力は、実質俺一人だけだ。

 ペールは偵察兵としての素養がありそうだが気質的に荒事に向かないし、姫を戦場に出すのは能力以前の問題として論外。

 どうしても手数が足りない以上、人海戦術には後手に回らざるを得ない。

 特に厄介なのが、めちゃくちゃ数が多いちびエルフだ。

 子犬にも負けそうな戦闘力しかないちびエルフだが、警戒要員としてはその人数が物を言う。

 怪しい物に吠える事くらい、子犬にだってできるのだ。

 非常に鬱陶しいものの、こちらとしては彼らの視線を避けて身を隠し続けるしかない。

 

「カーツさんが蹴散らす訳にはいかないんですよね?」

 

「こっちの息が続かなくなるからなあ」

 

 五人一組のちびエルフ捜索隊のひとつやふたつ、一瞬で蹴散らす事自体は至極簡単ではある。

 だが、後の面倒を考慮すると、その手は取れない。

 あちらの戦力を想定するに子犬レベルのちびエルフ、は論外として、主力のコマンダー級も銀河棍棒の威力を加味しなければ恐るるに足らずいった所。

 あんなレガシーなブツが何本もあるとは思えないので、実質エルフ側に俺を殺しうる戦力は銀河棍棒を装備した大人エルフが一人だけだ。

 だが、たった一人分でも俺を討てる戦力があるのは大きい。

 こちらの戦士は最早俺一人だけ、俺が討たれては姫様の盾が無くなってしまう。

 

 どこで決戦戦力を投入するかの決定権は、数のアドバンテージを持つエルフ側にある。

 一度捕捉されてしまえば数で劣るこちらを疲弊させるべく、休む間もないハラスメント攻撃が展開されるだろう。

 ちびエルフが主力の襲撃部隊でも、銀河棍棒持ちの指揮官が潜んでいる可能性がある以上、気を抜けない。

 常に気を張らなくてはならないこの状況、間違いなく疲弊を強いられる。

 いかに俺の心に勇気の印(女王陛下への慕情)が燃えさかっていても肉体的な限界がある以上、24時間戦えますとは嘯けないのだ。

 コンディションを整えるために休息は絶対に必要、姫を預かる立場には疲れからの凡ミスなど許されない。

 だが、その大事な休息のための(ねぐら)である洞窟が炙り出されるのは時間の問題であった。

 

「捕捉される前に離脱だな、こりゃ」

 

 方針を固めた俺の言葉に、ペールは大きく溜息を吐いた。

 

「やっと慣れてきた所だったのに」

 

 伏せた腕を這い上がる蟻を指先で払い落しながら呟く声音は、彼女には珍しく尖っていた。

 宇宙船乗りの種族であるドワーフは同じ星に長居する連中ではないが、寝床である船には愛着を持つ。

 愛用の枕があれば長旅も平気だけど枕が変わると眠れなくなってしまう、そんな変な方向に神経質な生き物がドワーフだ。

 砲声轟く戦場のど真ん中でもゴロ寝できるオークからすると、少々贅沢にも思える。

 

「枯れ葉集めただけだ、そんなに拘るような寝床でもないだろ」

 

 苦笑する俺をペールは横目で見上げた。

 

「カーツさんが作ってくださった事に意味があるんですよ?」

 

 額にゴーグルを上げたままの赤い裸眼を意味深に細めると、寄り添うように身を擦り寄せてくる。

 

「む…」

 

 脇腹に押し付けられる細い体は意外なほど柔らかい。

 豊満とまでは言えないものの、初対面の印象から抱いていたガリガリ貧相ボディのイメージとは遠い感触に唸りが漏れた。




8/25にオーバーラップ文庫から書籍一巻が発売となります。
イラストを担当してくださったのはブッチャーU先生です、姫様可愛い陛下麗しい豚ちゃんかっこいい!

一部では特典付きの予約が始まっております、よろしければ是非!

メロンブックスさん
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2480982

ゲーマーズさん
https://www.gamers.co.jp/pd/10743161/

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