【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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ドワーフ式アプローチ

SIDE:トーン=テキンのトロフィー ペール

 

 掛かった(フィッシュ)

 思わずといった具合でオーク戦士の口から零れた声音に、ペールは内心で快哉を上げた。

 

 ペールは自分のルックスがカーツ好みではないと分析している。

 常々、彼の視線が誰のどこを追っているかを観察すれば明白な話だ。

 その上で、攻勢を掛ける。

 最大の難敵である姫を拠点に残して二人だけの偵察行、こんな好機は早々ない。

 故に仕掛けるのだ。

 

 オークという種族は精強な戦士であると同時に、絶倫で性欲旺盛と広く知られている。

 そこに恵まれた体躯に比べて残念構造がデフォルトのおつむが組み合わさり、劣情に押し流されやすい宇宙蛮族という悪評が出来上がっているのだ。

 その一方で当人たちは、兵力補充の観点からか多くの子を為す事も誉の一環と捉えており、自分達の悪評になんら恥じる様子はなかった。

 妙にお硬いカーツを除いて。

 

(カーツさんは真面目だから)

 

 周囲の女に無関心な訳ではなさそうなのに手を出さないカーツの事をペールはそのように評価しているが、これは少々贔屓目が過ぎるというもの。

 二十一世紀の知識がもたらす感性の差もあるが、彼が身を律する最大の理由は純潔を想い人に捧げたいというロマンチスト成分の発露である。

 そんなカーツのオークらしからぬ欲望を律した態度は、彼を狙う女達にそれぞれ誤解されていた。

 前述のようにペールからは真面目であると。

 姫からは女王への硬派な忖度があると。

 それぞれの解釈は必ずしも間違ってはいないが、もっとも端的で近似なのはノッコの分析であった。

 すなわち女慣れしていない奥手なヘタレであると。

 カーツ本人が聞けば、どもりながら否定しそうな見立てであったが、ある意味核心を突いている。

 何にせよ、カーツがオークらしい本能に蓋をしているのは共通認識。

 その上で如何にして彼の理性を突き崩そうと、それぞれが暗躍している。

 哀れな培養豚の貞操は獰猛な獣達の牙に晒されんとしていた。

 

 

 

 カーツの視線が背中から腰のくびれ、尻の丸みに沿って滑るのを感じる。

 ドワーフは見る種族、自らの視力だけでなく他者からの視線にも敏感だ。

 視線を誘導し、見せるべき物にフォーカスして見せつければ勝算もある、はず。

 勿論、カーツの視線がよく追っている姫の過積載バストに真っ向勝負を挑むのは愚の骨頂、そこはフォーカスする部位ではない。

 そもそもドワーフは種族の体質的に華奢なのだ。

 それでも腰回りはそれなりに充実しており、豊かとまでは言えないものの十分に女性を感じさせる。

 儚さ、可憐さを宿して細く淡い曲線を描く尻は、狙い通りカーツの視線を惹きつける事に成功していた。

 後は次のステップ、彼の忍耐を決壊させる一手だ。

 並んで寝そべった姿勢の偵察拠点(ウォッチポイント)の中で身を擦り寄せていく。

 触覚と視覚の刺激で交互に攻める、波状攻撃だ。

 

「……ペール?」

 

 カーツの声に困惑の色が混ざる。

 硬派なカーツとて、狭い偵察拠点(ウォッチポイント)の中では距離を離す事もできない。

 それを良い事に脇腹にぴたりと張り付く。

 お互いが身に着けた軽宇宙服に阻まれてカーツの体温を感じる事はできないが、彼の腹斜筋の形状は堪能できる。

 

「ふふっ」

 

 くっつけた脇腹に伝わる逞しい筋肉の隆起に、思わず唇が緩んだ。

 実の所、ペールは筋肉質な男性に対して恐れを抱いている。

 シャープ=シャービング氏族に囚われた日々は、ペールの中に拭い難い傷跡を刻んでいた。

 そんなマッチョ恐怖症の唯一の例外がカーツである。

 戦場での勇猛さとは裏腹に知的で抑制の利いた平時のカーツの所作は、シャープ=シャービングの暴虐を受けたペールには覿面であった。

 彼の振る舞いは粗暴なオークにトラウマを持つペールを徐々に癒しており、吊り橋効果じみた初対面の好印象はすでに気の迷いというレベルではなくなっている。

 マッチョだけどカーツは別腹、恋する乙女はダブルスタンダード上等。

 こうして寄り添っているだけでもA10神経系が刺激されてドーパミンどっぱどぱの幸福感が押し寄せてくるが、それに浸りきる訳にはいかない。

 ピーカとノッコを出し抜くには、二人が居ない間にカーツを悩殺するしかないのだ。

 その為には恥も外聞もない手だって使う。

 

(よぉし……!)

 

 体の感触と曲線美、触覚と視覚の連携に続き、取っておきの切り札を投入する。

 後頭部に手を回すと、偵察の為ずらしていたゴーグルの留め金を外す。

 

「カ、カーツさん……!」

 

 紅い裸眼を曝け出したペールは、羞恥と興奮にどもりながら想い人を見上げた。

 視覚の種族ドワーフにとって最も重要な器官である瞳は、同時に最大の恥部でもある。

 だが、秘匿されたものには本来持ち得る以上の価値、言ってみればプレミアが付属されていく。

 瞳を隠す文化を育んだドワーフにとって、不用意に見せてはいけない裸眼は同時に最大のチャームポイントとなっていた。

 自ら裸眼を見せつけるペールの行為は、同族に見られれば痴女認定間違いなしの破廉恥全開な振る舞いである。

 

「……」

 

 それにも関わらず、カーツの反応は鈍かった。

 どこか困ったように眉を寄せる様子には、興奮の色はない。

 

(……あれ?)

 

 一世一代のセクシーアクションの前には、硬派なオーク戦士の理性も決壊するものと踏んでいたのだが、どうにも様子がおかしい。

 当てが外れるペールであったが、ドワーフ以外の種族からすれば無理からぬ事。

 光のみならず様々な波長を捉える広大無比な可視領域を誇るドワーフの瞳は、レンズが積層に組み合わさった複雑な造形をしており、至近距離で覗き込めば渦を巻いているかのように見える。

 それはそれで宝石のような美しさはあるのだが、硬質すぎて肉欲を煽る方向性には沿っていない。

 カーツからしてみれば、意外に柔らかなペールにドキドキはしていたのだ。

 そこを真っ赤なぐるぐるお目目で覗き込まれては、一気に萎えてしまう。

 ペールが自分の体の中で最も魅力的と信じる部分は、残念ながらカーツの劣情を掻き立てはしなかった。

 種族間の美的感覚の差がペールの敗因であった。

 反応の薄いカーツに、見上げるペールの頬がひくひくと引きつった。

 当人の感覚では露出狂のような真似までしたというのに碌に効果が上がっていない事実が、ドーパミンとアドレナリンどっぱどぱで暴走モードのペールの脳に徐々に染み込んできたのだ。

 何とも情けない表情になっていくペールから、カーツは居たたまれなさそうに視線を反らした。

 武士、もとい戦士の情けの一端である。

 

「ん? なんだありゃ」

 

 目を反らした先で奇妙な物体が視界に入る。

 宇宙港区画へと続く斜面を登っていく、茶色い車両が三台。

 

「エルフのマシンか……?」

 

 履帯が付いた巨大などんぐりのようにも見える車体は、要塞外で交戦したエルフ戦闘機と同系のデザインラインをしている。

 周囲のちびエルフ達との比較から推測すると全長は10メートルほど。

 

「戦車……いえ、重機でしょうか」

 

 ゴーグルを着け直したペールは先ほどまでの浮かれポンチモードとは打って変わったクールな声音で分析した。

 未だ真っ赤に染まっている耳と頬を見ない振りをしつつ、カーツも頷いた。

 

「結構馬力がありそうだな。 連中、あんなもんを引っ張り出して何する気だ」

 

 戦士の疑問にはすぐに答えが出る。

 三台のどんぐり重機は宇宙港に到着すると、ワイヤーを接続して何かを引っ張り始めた。

 やがて、ダークグリーンに塗られた巨大な箱が要塞内に姿を現す。

 完全に場違いな空間に引っ張り出されたトーン09に、カーツは大きく舌打ちした。




オーバーラップ広報室にて特典紹介のページを作っていただきました。
色々出るよ!

http://blog.over-lap.co.jp/tokuten_spaceoak1/

スペースオーク1巻、8/25発売です。
よろしくお願いいたします!
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