【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:オークテック トーロン
オーク氏族において、大半のオークテックが怠惰でやる気のない役立たずと見下されがちなのは、彼らが与えられた仕事へ誇りと熱意を持てないからだ。
戦士の種族として生まれながら肉体的あるいは精神的に戦士に能わずとして弾かれた、出来損ないの落ちこぼれ。
上位階層である戦士達からそのように認識され、オークテック達自身もまた己を能無しの脱落者として卑下してしまう悪循環の中では、勤労意欲など湧こうはずもない。
そんな悪循環を正そうとしているのがマルヤー女王の改革であり、カーツ分隊にはそのモデルケースとも言うべき存在がいた。
カーツ自身が声をかけて引き抜いたオークテック、トーロンである。
映画好きが高じて余裕ができたと見ればすぐにタブレット端末で映画鑑賞を始める癖があるものの、仕事に対する彼の姿勢は丁寧で誠実。
技術者としての誇りも持ち合わせた、稀有なオークテックである。
誠実さは彼の生得の美点ではあるが、それが歪まずにいられたのは偏に良いお得意様と縁が出来たからだ。
トーロンの腕前を見込んだカーツは己が愛機の整備を一任し、さらには良い仕事ぶりだったからとムービーデータを始めとする嗜好品の差し入れまでしてくれる。
現金な話だが働きに対して目に見えやすいご褒美を与えられれば、勤労意欲も上がろうというもの。
ほとんどのオーク戦士はオークテックを無能者と見下し正当な代価すら支払わず、労働力を搾取して当然と思っている。
女王が求めるオーク戦士とオークテックの理想的なパートナーシップは、相互利益とリスペクトを欠かさない誠意あるビジネス関係が必須であったが、それを実践するには氏族内の差別意識が払拭されねばならない。
改革の道は未だ遠かった。
当人が知る由もないが女王からオークテックのモデルケースと見込まれているトーロンの現在地は、配管が這いまわるトーン09の天井裏。
ダクトフロアにて潜伏中である。
脅迫染みた招待でエルフ要塞に入港した際、トーロンは船内に残るようカーツに命じられていた。
専門のエンジニアではないにせよ不調に陥ったジャンプドライブの面倒を看るには、付きっきりの人員配置が必要だ。
ドライブが回復さえすれば、要塞内からの直接ジャンプで離脱する手も使える。
トーン09組の命綱を託されたも同然のトーロンであったが彼はその重圧に怯むでもなく、ある意味普段通りに過ごしていた。
配管の隙間にマットレスとクッションを持ち込んで居住性を高めると、ゴロ寝しながらタッチパネル端末で映画鑑賞。
時折片手に握ったカロリーバーを口に運ぶ様子は、イモだかカボチャだか判らない植物だの明らかに遺伝子操作の産物らしい鳥だので腹を膨らませているカーツ達に比べると優雅かつ怠惰極まりないスタイルであった。
無論、彼も
船内から回収した警報用センサー類を配置し、侵入者に備えている。
後はジャンプドライブの状態レポートをタブレット端末にリンクし、冷却が終了するまで待機モードだ。
やるべき事は終えたので、のんびり映画を見ているのだという言い分であった。
長期間の待機任務において適度な息抜きは必須であるが、それにしても野放図が過ぎる。。
直接砲火に晒される鉄火場では縮み上がるトーロンの肝っ玉だが、それ以外の局面では意外と図太かった。
彼の優雅な待機タイムを支える、お手製センサーに感有り。
「ん?」
古い映画を映していたタブレットにアラートが表示され、顔を引き締めたトーロンは素早く画面をタップし警戒システムを操作する。
「また、ちびちゃん達が見回りに来たかな?」
一応警備のつもりなのかトーン09の内部に時折やってくるちびエルフ達だったが、その見回りは余りにも雑な
彼らが幼体固定されて思考が幼いからだけでなく、他種族とまるで関わらないエルフ達には他所の船を調査するノウハウなどないのだろうとトーロンは推測している。
タブレット端末の表示がセンサーに連動した監視カメラからの映像に切り替わると、トーロンは両目を見開いた。
「フィレンさん!?」
トーン09しか着陸していない宇宙港フロアに現れたのは、黒い指揮官エルフに敗れた元オークナイト。
トーロンも彼が
あれで絶命したものと思っていたが、エルフが遺体を回収していった点が気になってはいた。
「生きてたのか、良かった……にしても、なんだろあの格好」
元々スパッツ一丁の肉体を誇示する半裸ファッションで過ごしていたフィレンだが、今の彼は一味違うお洒落オプションが追加されている。
緑色の荒縄のようにも見える太い蔦が複雑に絡み合って元オークナイトの逞しい肉体を絞るように縛り上げているのだが、その意図が読めない。
趣味の映画鑑賞で一般的なオークよりも多彩な知識を持つトーロンであったが、幸か不幸か彼の映画コレクションの中にはSM物アダルトビデオの類はなかった。
「拘束具かな? いや、それよりも」
トーロンはフィレンの背後で悠然と腕を組んでいる褐色爆乳エルフの姿に眉を寄せた。
己を打ち倒した怨敵が居るというのに、うつろな瞳で反応もしないフィレンの様子は明らかにおかしい。
「頭に着けられてる冠みたいなの、露骨に怪しいな……」
フィレンの頭をぐるりと一周する冠のような蔦からは伸びた棘が何本も額に突き立っている。
それが彼の意思を奪っているのか。
画面上のフィレンは217に何事か囁かれると、ゆっくりとした動作でカメラの視野から離れた。
「集音マイクも仕掛けておけば良かったなあ」
見回りのちびエルフ達から身を隠しながら有り物で作った警戒網だ、音声まではカバーできていない。
「大人しく従ってるって事は操られてるのか、洗脳されてるのかって所かな、フィレンさんが裏切る訳ないし……」
良くも悪くもプライドの高いフィレンだが、それだけに彼がカーツと姫を裏切るのは有り得ないとトーロンは踏んでいた。
呟きながらトーロンの指先は画面外へ消えたフィレンの行方を追って、警備カメラの映像を切り替えていく。
だが、フィレンを映し出す前に、物理的な衝撃がトーロンを襲った。
がくんと船全体が揺れ、小刻みな振動が続く。
「な、なんだ!?」
伝わってくる振動に慌てて画面を切り替えると、下手人が表示された。
要塞外で交戦した宇宙機を転用したと思われる、茶色い砲弾めいたデザインの重機がワイヤーをトーン09の着陸脚に括りつけて引っ張っている。
緩慢な動作のフィレンがちょうど三台目の重機にワイヤーを接続している所であった。
「要塞内に引っ張り入れようってのか?」
エルフ達の意図が読めず困惑するトーロンだったが、観察する余裕も考察する時間もない。
引っ張り出されたトーン09は宇宙港から内部に続く斜面をずるずると滑り落ちていく。
「う、うわわっ!?」
咄嗟に周囲のダクトにしがみつくトーロンだが、斜面の終点、低木が密集するブッシュに船首が突っ込んだ衝撃で吹き飛ばされ、ダクトフロアの中をピンボールの如く跳ねまわる。
宝物のタブレット端末を必死に抱え込んで庇ったトーロンは、激しく頭を打ち付け意識を失った。
書籍一巻、発売開始されました!
特設サイトも作っていただき、こんなに良くしてもらっていいのかなと嬉しいやら驚くやら
http://blog.over-lap.co.jp/site_spaceork/
どうぞよろしくお願いいたします!