【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:オークテック トーロン
戦士階級になれなかったとはいえトーロンもまたオーク、頑丈っぷりはそこらの
ピンボールの如く狭いダクトをあちこちにぶつかりながら転げ落ちても、たんこぶが数個程度で済んでしまう。
「あいたた……」
僅かな意識の断絶から回復したトーロンは、ぶつけた頭を擦りながら周囲を見回した。
船内ダクトのどん詰まりに転げ落ちて嵌まり込んだ形のトーロンの上には、置き忘れの工具や配管の隙間に放り込まれたゴミなどの雑多な物品が傾斜に従って降り積もっている。
ほとんどゴミ箱のような状況に顔を顰めたトーロンは不意に悟った。
「転げ落ちたって事は……傾斜がある?」
すなわち船体が重力下で傾いた姿勢にあるという事だ。
ほとんどの船は自重のバランスが崩れた状態に長時間耐えるほどの剛性は備わっていない。
いずれ無理が祟ってどこかが圧し折れてしまうだろう。
「拙いぞ、これ。早く状況確認しないと……ってタブレットどこいった」
トーン09の状態を早急に把握しなくては次の手も打てない。
後生大事に抱えていたにも関わらず手元からすっ飛んでしまったタブレットを探して周囲を見回す。
「あった、良かった!」
ゴミに半ば埋まっていたタブレットを安堵の吐息とともに拾い上げた瞬間、ごぉん!と船全体に浸透する重い金属音が響いた。
「次から次にぃ!なんだよもう!」
毒づきながらタブレットを操作し、船外カメラをオンライン。
その途端にまたも金属音が鳴り響き、トーロンは顔を顰める。
「ああもう、何なんだよ、この音」
耳障りな音に毒づきつつ船外カメラを操り、トーン09の状態を確認する。
斜めに傾いだトーン09は、深い腐葉土が積もる地べたに鼻面の船首増加装甲を埋めていた。
先ほどから鳴り響く異音の源は、まさにそこ。
荒縄の装束を纏ったフィレンの仕業であった。
「フィレンさん!?」
映像の中でフィレンが右腕を振り上げる。
逞しい腕が握る獲物は不壊金属アダマントイリジウム製のロッド、
掲げられた銀のロッドはフィレンの手の中で、うっすらと翠の燐光を放っていた。
幻想的とも言えそうな淡い輝きが、力強く振り下ろされる。
トーン09の隅々まで響き渡りそうな轟音と共に、打撃を叩き込まれた装甲がめこりと凹んだ。
「嘘ぉ!?」
如何にオークナイトの剛腕とはいえ、船舶、それも
続けて二発、三発と容赦なく
シンプルに振り下ろすだけの打撃が工業用カッターや溶接レーザー以上の速度で艦船用装甲を破壊していく有様に、トーロンの口から呆然とした呟きが漏れる。
「船もぶった切る凄い威力って、酔っぱらった長老の与太話じゃなかったんだ……」
てっきり晩酌の工業用アルコールでご機嫌のポーロウ爺さんが垂れ流す与太話とばかり思っていた
先代オークキングが手にした
余りに盛り盛り全開な話に、酔っぱらい特有の戯言とばかり思っていたのだが。
「いや、惚けてる場合じゃない、あれはとても放置できないぞ」
トーロンは表情を引き締めると、鋭い視線でタブレット端末を睨む。
普段の映画にかまける道楽者とは一味違う、熟練技術者の目だ。
人力とは思えない異常な作用を行う
「……光がフィレンさんに伝わってる?」
燐光は振り上げたフィレンの腕へ流れ込むと、輝度を増して彼の半身を淡く輝かせている。
「姫が舞われる時みたいだ。ナノマシンが高稼働状態になってる……」
オークは総身に葉緑素系ナノマシンを宿した
ナノマシン
「
トーロンの疑問はすぐに実証という形で解決される。
虚ろな瞳のフィレンが
インパクトの瞬間、翠の輝きはトーン09の外殻で波紋のように同心円状に広がり、仮にも戦闘艦艇を転用した装甲を穿つ。
鋭く細められたトーロンの目は、その一部始終を見届けた。
「……なるほど、体のエネルギー補助のためのナノマシンに、逆にエネルギーを吐き出させて威力を増加させてるんだな」
見聞した情報から、
頭脳労働に向かないオークらしからぬ推測の早さだが、これは偏に彼の特質にあった。
脳みその素の処理能力はオークの平均とさして変わらないが、好奇心だけは同族に比べて格段に強いのがトーロンだ。
普段は何事もそこそこ実直にこなし、興味を惹くものに出会えば全力で集中して調べ始めるタイプであった。
メカニックの構造に対して好奇心を刺激された事が、彼を腕利きオークテックに仕立て上げたのだ。
その一方で映画への好奇心のため、まだ見ぬムービーデータを入手すると途端に作業能率が落ちるという宿痾も付きまとっているのだが。
ともあれ、トーロンは
「明らかに有り得ない威力が出てる、足りない分のエネルギーをナノマシン越しにフィレンさんの体から吸い上げてるんだ」
本来エネルギー補助のために埋め込まれたはずのナノマシンが、逆に外部にエネルギーを流出させている。
戦闘艦の装甲すら破壊するほどのエネルギー、吸い上げられた方はどうなるか。
「このまま暴れさせとくと、フィレンさんが衰弱死しちゃうぞ」
長老ポーロウが語る与太話染みた先代オークキングの逸話でも、
壮健無比なオークの肉体ですら負荷が大きすぎる、欠陥武器であった。
「それにこのまま殴られ続けてたら、トーン09が叩き壊されかねない。やるしかないか」
トーロンは唾を吞むと、タブレット端末を操作した。
増加装甲部分に仕込まれた対艦レーザー砲の操作系にアクセスする。
本来ならジャンプドライブが回復してから行う手筈なのだが。
「船を護る為だから、カーツさんも納得してくれるよね……」
言い訳染みた呟きと共に、画面をタップ。
同時にシュモクザメの目玉のような配置で取り付けられた両舷のレーザー砲が同時に閃光を放った。
船首を半ば地面に突っ込んでいる状態なので、埋まった方の目玉から放たれたレーザーは周囲の腐葉土を焼却する程度に留まる。
生身で叩き込まれれば瞬時に蒸発確実の大出力レーザーに、ちびエルフ達が逃げ惑うのがタブレット端末ごしに確認できた。
一方、反対側の対艦レーザーは要塞内に広がる森を引き裂くように駆け抜ける。
主動力がアイドリング中ゆえコンデンサ内に蓄えられた電力だけの発砲だが、仮にも対艦兵器だ。
一直線に走る青い閃光を追うように、赤い炎が立ち上る。
難燃性の木々とはいえ、戦艦の装甲すら融解させる高熱にはひとたまりもない。
あっという間に火の手が延びていく。
「よ、よぅし、
タブレット端末に追加入力、動力炉を叩き起こして出航準備を開始する。
「えぇい、動かすにしてもこれじゃまどろっこしい、ブリッジに行かなきゃ……」
ナビゲーターシートのコンソールとは段違いの操作性の悪さに毒づくトーロンの耳に、再度鈍い金属音が響いた。
慌てて外部カメラを動かせば、フィレンが
しかも今度殴っているのはエアロック付近だ。
「火の手が上がってるんだから避難してよ、フィレンさん!?」
意思の感じられない瞳のフィレンにはトーロンの泣き言は通じない。
おそらく色黒エルフに船内を掃除しろと命じられたのだろう。
周囲が炎上しているにも関わらず、バッティングフォーム確認のような端正なスイングで
「ま、拙い、入ってこられたらどうしようもない……」
付け焼刃のトレーニングで以前よりは締まった肉体となったトーロンだが、本職の戦闘階級に敵うわけもない。
当然ながら逃げ場なんてない。
「ど、どうすれば……」
涙目でタブレットを見つめるしかないトーロン。
画面の中で単調にエアロックを殴り続けるフィレンが不意に
画面外から飛来した投石が銀のロッドを覆う翠の輝きに触れて砕ける。
フィレンは大きく飛び退ると、次々と投げつけられる投石の射線から逃れた。
投石が飛来した方向へカメラを回せば、燃える森を背負って仁王立ちする巨漢の姿。
片手でくるくると
「カーツさん!」
隊長の帰還にトーロンは思わず安堵の声をあげた。
スペースオーク1巻発売中です!
どうぞよろしくお願いいたします。
ブッチャーU先生のイラストがセクシーかつSFマインド全開で大変素敵です。
カラー口絵の三ページぶち抜き寝そべり女王陛下ですが、ラフをいただいた段階で「やっぱり口絵でマタニティモードはマニアック過ぎるかも、ノーマルモードでお願いしようかな」と編集さんに相談メール出した所、即電話掛かってきて「何ひよってんですか!」と怒られました。
スペースオークは作者以上に作品理解度の高いイラストレーターさん&編集さんに支えられております。 超頼もしい。
https://over-lap.co.jp//narou/824009104/
ラノベオススメをやってらっしゃるVチューバ―の久利大也さんにスペースオークを取り上げていただきました。
なんかべた褒めされてる……!
https://www.youtube.com/live/zSYyxfTRvYs