【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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いいオークの日!
……お待たせしました。


ピッグファイト ラウンド2

SIDE:戦士 カーツ

 

 睨み合う彼我の距離は15メートル、一飛びに詰めるには遠く、かと言って飛び道具に専念するには近い、中途半端な間合い。

 特に俺の右手で回転する投石紐(スリング)は連射が効かない飛び道具、殴り合いの前に撃てるのは後一度といった所か。

 これを放てば俺は無手。

 そうなれば武器を持つフィレンが絶対的な有利を手にする、というのが一般的なセオリーだ。

 投石紐(スリング)にオークの生体装甲化した皮膚を貫ける程の威力があるのなら、それは正しい。

 残念ながら、投石紐(スリング)はそこまで強力な武器ではない。

 射程はともかく、威力だけなら腰の入ったオークパンチの方がよほど上。

 遠心力で加速した弾体を射出する投石紐(スリング)は、その仕様からして腕力の恩恵をあまり受けないのだ。

 フルチンボーイが巨大なタフガイのドタマをぶち抜いた逸話からして、非力な者が技巧を凝らして成果を上げる武器といえる。

 自慢の腕力が加算しにくくオーク向けではない武器を何故わざわざ作成したのかというと、蓄積した知識の実戦テストであった。

 

 投石紐(スリング)は射出物を挟み込めるだけの布地とある程度の長さの紐があれば簡単に作れる、安上がりな装備である。

 何なら手拭い一本でも飛び道具をでっちあげれるのだ。

 碌な装備もなく戦場に放り込まれるのが常の培養豚兵卒にとって、戦術の幅を広げてくれる遠距離武器はなんであれ欲しい所。

 しかも遠心力で加速された投石は、大抵の地球系人類(アーシアン)を一撃で昏倒させるほどの威力を秘めている。

 対戦車ライフルでも持ってこないとぶち抜けないオークの面の皮を相手にしないのなら、十分有用な装備だ。

 慣れるのにちょいとコツがいるのが難点ではあるが。

 それでも、こいつが培養槽出身の同胞達の生存率を上げる選択肢になるかも知れないとくれば、我が身を持って実戦テストを行う労も厭わない。

 溜め込んだ知識を試せるチャンスと趣味に走っている訳ではないのだ、決して。

 大抵のオークは投石紐(スリング)を使うより、そのまま腕力任せで石を投げつける方に走りそうなので、あまり使われないんじゃないかという話はしてはいけない。

飛距離は投石紐(スリング)の方が出るんだし。

 何にせよ、投石紐(スリング)の運用テスト自体は鶏もどきの狩猟や集落への襲撃を通じて、それなりの手応えを得て終了している。

 こいつじゃ銀河棍棒(PSYリウム)とは比べ物にならないという判りきった結論も含めて。

 

 実質、素手で銀河棍棒(PSYリウム)持ちを叩きのめして連れて来いというのが姫様のオーダーである。

 難儀な話だが、勅命とあらば是非も無し。

 武器の質では大敗していても、不利は不利なりにやりようはある。

 

 観察を行い操られたフィレンのレスポンスを探るのだ。

 先程、不意打ちの投擲をフィレンは銀河棍棒(PSYリウム)で防いだ。

 そこに色黒エルフからの指示はない。

 自由意志を奪われていながらフィレン自身が対応している。

 その反応自体は予想の範囲内だ。

 逐一指示を受ける必要があるのなら激動的に状況が変化する白兵戦などできたものではない。

 ただの条件反射か、あるいは限定的な判断能力を残されているのか。

 石礫を打ち落としたフィレンのアクションがどういう条件下で実行されたのかを見抜く必要がある。

 

「少なくとも飛び道具を警戒するだけの判断力は残ってるようだな」

 

 これ見よがしに右手の投石紐(スリング)を回転させながら呟いた。

 フィレンの両目は精気に乏しく、焦点が合っていない。

 だが、回転する投石紐(スリング)の位置に合わせて僅かに姿勢を変える様子は明らかな警戒モード。

 それも相当に反応が良い。

 

「確か散眼だったか? 味な真似をしやがるじゃねえか」

 

 あえて目の焦点を合わせない事で視野を広く取り、視界に入るもの全ての動きをあるがままに把握する技術。

 昔読んだ武術関連の書籍の受け売りだが、そういう境地を散眼と呼ぶらしい。

 俺も一時期体得できないかと努力してみたが、結局放り出した技術だ。

 この技術はオーク向けではない。

 ノーマルの地球系人類(アーシアン)を圧倒する反射神経と鋭敏な視力を併せ持つ強化人類(エンハンスドレース)であるがゆえの弊害、「視界に入るもの全て」が多すぎるのだ。

 入手できてしまう圧倒的な情報量に対して、オークの残念な脳みそでは処理が追いつかない。

 俺とて脳みその構造は他の同族と変わりない、思考法の差異でアドバンテージを得ているだけであり、叩き付けられる情報の波はとても捌ききれるものではなかった。

 だが、フィレンは違う。

 母方由来のフービットの特性、瞬時に複雑な航路計算を実行できる処理能力の高い頭脳がフィレンにも受け継がれている。

 普段、彼がその脳みそを活かしきれていないのはオーク由来の集中力の低さ、言うなればタフさ重視の鈍感さがボトルネックになっているのだ。

 皮肉な事に自意識を奪われ素の能力だけを使われる現状は、散眼との相性がいい。

 入ってくる情報の波に頭痛を覚える様子もなく、フィレンは悠然と身構えている。

 

 銀河棍棒(PSYリウム)を背負うかのように振りかぶる、明らかなカウンター狙いのその構えは中々堂に入っていた。

 短いくせに尋常ではなく重たい、扱いづらさ満点の武器の威力を万全に活かそうとする体勢だ。

 その構えのチョイスは、彼の身に叩き込まれた訓練の経験から導き出されたものか。

 

「ノッコのトレーニングの成果が出てるな」

 

 普段のフィレンならば仏頂面になりつつも唇の端を緩めて牙を覗かせそうな軽口に、今の奴は虚ろな表情を変えもしない。

 奥歯が軋むのを感じる。

 どうやら俺は俺自身が思っていた以上に、この舎弟の生意気な態度を楽しんでいたらしい。

 

「だけど、今のお前はつまんねえんだよ、フィレン」

 

 吐き捨てながら右腕を振り上げる。

 俺の指先で円盤の如く高速回転する投石紐(スリング)の動きの変化が虚ろな視野に入るや、フィレンの下半身が一瞬沈んだ。

 直後、わずかな溜めから生じたとも思えない踏み込みと共に巨躯が加速する。

 

 なるほど、反射か。

 

 アドレナリンの過剰な分泌で奇妙な程にゆっくりとした視野の中、ぐんぐんと拡大されていくフィレンの姿を見ながら、俺は得心した。

 ならば、こうだ。

 

「ふっ!」

 

 右手の投石紐(スリング)を解き放つ。

 石だけでなく投石紐(スリング)本体も合わせてだ。

 本来、遠心力を得て直進するだけの石が、包み込んだ投石紐(スリング)を尾のように靡かせて流星のように飛翔する。

 肩に担ぐように構えられていたフィレンの両腕が銀光と共に振り下ろされ、尾を引いて飛来する投石を迎え撃った。

 俺の予想通りに。

 フィレンにまともな思考能力が残っていれば、投石を無視して突撃を敢行していただろう。

 しかし、反射で動く今のフィレンは投石に付属する尻尾のような投石紐(スリング)にも過敏に反応してしまう。

 直撃すれば俺の石頭すら叩き割ったであろう銀河棍棒(PSYリウム)の一振りは、紐付きで目を惹く投石を迎撃するために振るわれてしまった。

 

「よっしゃあっ!」

 

 両手で握った銀河棍棒(PSYリウム)を振り下ろした姿勢のフィレンへ躍りかかる。

 遠い間合い、本来なら再度体勢を整える猶予もあろうが、星間合金アダマントイリジウム製ロッドのとんでもない重量はオークの剛腕にも些か厳しい代物だ。

 防御のために跳ね上げられようとする銀河棍棒(PSYリウム)には、重力を活かして振り下ろした時の速度はない。

 

「おぉりゃあっ!」

 

 飛びかかる勢いを乗せた鉄拳でフィレンの鼻っ面を殴り飛ばす。

 

「っ!?」

 

 ただでさえ低い所をオークパンチでぐっちゃり潰された鼻から鼻血と呼気を吹き出しながらも、フィレンは呻き声も上げない。

 並の地球系人類(アーシアン)ならそのまま首の骨がへし折れそうな一撃を無駄に頑丈な僧帽筋の太さで堪えたフィレンは、両足を踏ん張ったまま銀河棍棒(PSYリウム)を振り上げた。

 

「おっと!」

 

 アッパーカット気味のスイングをやり過ごし、お返しのフックを頬に見舞う。

 

「ぐっ!?」

 

 フィレンの口からようやく呻きのような音が漏れる。

 いや、これは口内の空気が殴られた衝撃で溢れただけか。

 

「痛いぐらいは言えるようにしてやるぜ、フィレン!」

 

 正気を取り戻すまで、ぶん殴る。

 壊れた機械を斜め四十五度のオークチョップで復調させる要領だ。

 

 コンパクトな踏み込みからのレバーブロウを脇腹にぶち込み、激しく揺さぶられた体幹と共に前に出る顎をエルボーでかち上げる。

 そのまま両手を組んで止めのハンマーパンチを叩きつけようとするも、フィレンもやられっぱなしではない。

 風を切る音も重々しく薙ぎ払われた銀河棍棒(PSYリウム)にバックステップでの回避を強いられ、俺の連撃は中断させられる。

 しかし、そのままフィレンの手番となる訳ではない。

 重たすぎる銀河棍棒(PSYリウム)は安易に振り回せば、勢いが付きすぎて己の態勢を崩す要因となってしまう。

 足を踏ん張り満身の力を込めて銀河棍棒(PSYリウム)の行き足を止める動作が必要であり、そうなれば追撃どころではない。

 

「そらぁっ!」

 

 何とか銀河棍棒(PSYリウム)の勢いを殺して構え直そうとするフィレンの顔面に俺のパンチがめり込んだ。

 ヘビー級のオーク戦士同士の戦いながら、得物の重さのお陰で明確なウェイト差が発生している。

 ここで物を言うのはテクニックと戦術眼なのだが、意思を縛られ反射神経のみで戦う状態のフィレンは翻弄されるばかり。

 威力は絶大なれど扱いづらく大きな隙が生じてしまう銀河棍棒(PSYリウム)は、考え無しに振るった所で当たるものではない。

 俺の方とて蝶のように舞うみたいな華麗なステップは踏めないが、オークパンチは蜂よりも断然手痛いのだ。

 こちらのペースのまま、押し切れば勝てる。

 しかし、ままならぬ戦況に業を煮やしたか、色黒エルフが口を挟んだ。

 

「何をやってるの! 銀河棍棒(PSYリウム)を起動しなさい!」

 

 指示に応じて銀河棍棒(PSYリウム)が翠の輝きを放つ。

 

「させるかよっ!」

 

 あのレーザー染みた光の刃は拙い、閃光が振るわれる前にけりを付けねば。

 勝算はある、翠の光で威力を増そうとも銀河棍棒(PSYリウム)の重さは変わらないのだ。

 俺のパンチの方が、速い。

 右腕を振り上げ全力で踏み込む。

 そして必殺の一打を放つ最中の俺は驚愕に目を見開いた。

 銀河棍棒(PSYリウム)は宿した閃光を撃ち放たず、輝きを纏ったまま振るわれている。

 その速度は先ほどまでの鈍重さとは一線を画すほどに早く、まるでレールガンの電磁加速を受けているかの如し。

 アドレナリンの分泌と極度の集中で加速した反射神経は、フィレンの一撃が俺の拳よりも速く到達する事を見極めた。

 

「このっ!?」

 

 殴りかかる態勢が崩れるのも構わず、左腕を差し上げる。

 翠の燐光を纏った銀のロッドが前腕に叩きつけられた。

 

「ぐっ……」

 

 軋む間もなく骨がへし折れ、左腕が歪に曲がる。

 明確なダメージに快哉を上げるでもなく、フィレンは機械的に止めを刺そうと銀河棍棒(PSYリウム)を振りかぶった。

 やはり、反射だけでは判断が悪い。

 奴は手札を間違えた。

 

「そこはなぁ、押し込むんだよぉ!」

 

 激痛を噛み殺しながら右腕でフィレンの肩を掴むと、こちらから押し込む。

 

「だぁりゃあっ!」

 

 フィレンの額を一周する冠めいた茨めがけて、頭突きを叩きつけた。

 




スペースオーク一巻発売中です!
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ブッチャーU先生が描かれるセクシーな女性陣もですが、精悍かつ愛嬌のあるカーツのデザインがお気に入りです。
御手に取っていただけると幸いです。
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