【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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2024年最後の更新となります。
年の瀬ギリギリ滑り込みセーフ!
……ちょっとリアルがハードでマジ申し訳ない……。


起動(ウェイクアップ)

SIDE:F号要塞フォーティチュード 護衛官(ガーゼス)465

 

 要塞を運営する指揮官同士とはいえ、お互いに相性はある。

 そういう意味では傷ついたF号要塞フォーティチュードに残された三人の指揮官は元より反りの合わない面子であった。

 旧来のやり方に固執し消極的な560も、効率を重視する余り人道に外れた手段を厭わない217も、465は同胞ながら信を置けない相手と見做している。

 そんな彼女自身は他二人から短絡的な癖に何かをやり遂げる実行力は不足している中途半端と評されている辺り、この首脳陣の相互不信は根深い。

 

 故に465は捕虜を洗脳して手駒に使う暴挙に出た217を危ぶんで同行し、彼女を監視していた。

 お陰でオーク達の船が対艦レーザー砲をぶっぱなし要塞内に火の手が上がる状況にも素早く対応し消火活動に移れたのだ。

 なお、この時点で彼女の中の優先事項は217の監視ではなくなっている。

 監視対象である217に軽視される一因は、まさにこういった即物的な面であった。

 

 465はオークの輸送船を要塞内に引っ張り出した重機に駆け寄るとコクピットハッチを開く。

 緑の蔦のシートと焦げ茶の樹皮のコンソールで構成されたコクピットでは、パイロット担当の色黒ちびエルフが糸目を見開いて硬直していた。

 メインモニターに当たる覗き窓(サイトグラス)の向こうで激しく燃え上がる炎は、エルフにとって恐怖の象徴以外の何物でもない。

 完全に呪縛されてしまっている状況を見て取り、気付け代わりに肩を強く揺する。

 

「交代だ、お前は周りの皆と共に消火活動に当たれ」

 

「ろ、ろー!」

 

 本能的な恐怖と忌避感を煽る大火にパニックを起こしていたちびエルフは、直属ではないにせよ上位者からの指示に飛びつくように従った。

 465は明け渡されたコクピットに飛び込むと、ちびエルフ用にセッティングされたシートの位置を手早く調整する。

 次いで足の届かないちびエルフ用に取り付けられた脚部補助具、バンブー製では無いにも関わらず伝統的に竹馬と呼ばれている補助ペダルを蹴り飛ばすとシートに腰を落ち着けた。

 素早くコンソールに目を走らせる。

 エルフマシンの計器類は全て水圧計だ。

 半透明の蔦の中を通る樹液の位置と色合いで機体の状況を把握する設計は、他種族のマシンとの互換性など一切考慮されていない。

 

「よし…!」

 

 機体のコンディションを読み取った465は木の枝めいた操縦桿を握りペダルを踏みしめる。

 巨大などんぐりのような重機は無限軌道(クローラー)を唸らせて超信地旋回を行った。

 燃える森めがけて機首を向け、機体上部に跳ね上げられていたドーザーブレードを前方に降ろす。

 種族の設計コンセプトが独立独歩の要塞単独運営であるエルフは常にコストの問題を抱えている。

 専用マシンにも低コストで多用途に対応したいという設計思想が現れていた。

 どんぐり型のエルフマシンは小型宇宙機としての運用が基本だが、追加パーツで別用途にも使用できるマルチロール機である。

 ハードセルロース製のドーザーブレードとクローラーは重力下作業用のオプションパーツだ。

 

「まずは燃えている部分を切り離す!」

 

 ドーザーブレードを前方に構えたどんぐり重機は炎と木々の狭間に狙いを定めると、愛嬌のある見た目とは裏腹の力強い動作で突き進んだ。

 炎が燃え移る前の木々を圧し折り押し退ければ、ドーザーブレードの幅で一本の線が引かれて行く。

 可燃物と炎を隔てるラインだ。

 古来より大規模火災への基本対処法は、炎を隔離してそれ以上の延焼を防ぐ事。

 あらゆる危険から要塞内を守護する護衛隊(ガーゼス)には、エルフには縁遠い炎を制する知識も伝わっているのだ。

 

「まさか実践する事になるとは思わなかったがな」

 

 覗き窓(サイトグラス)の向こうで赤々と燃え上がる炎を睨みながら465は吐き捨てる。

 彼女とて炎に対する本能的な恐れはある、しかし恐怖を意思の力で押さえつける素養を持つのが指揮官個体だ。

 上に立つ者の誇りと責任感が、種族的な恐怖の源へ敢然と立ち向かわせていた。

 当然ながら余裕など欠片もない精神状態である。

 そんな中、ここの所の騒動の元凶であるオーク戦士が目に入ればどうなるか。

 

「あいつ……!」

 

 睨み合う二人のオーク戦士の姿を覗き窓(サイトグラス)の端に認めた465の頭の中で、損得勘定の天秤が激しく揺れ動く。

 火を消さねばならない、だが、強力なオーク戦士とはいえ生身の相手をマシンで一方的に攻撃できる絶好の好機。

 

「……今なら、殺れる!」

 

 彼のオーク戦士が生身の格闘では歯が立たないほどの難敵であるという事実が、465の脳内の天秤を傾けた。

 再度の超信地旋回を行い、強引に方向転換。

 どんぐり重機は作業モードで砲弾を搭載していないが、パワフルなドーザーブレードは十分な凶器だ。

 

「轢き潰してやる!」

 

 消火活動を完全に放り出し、諸悪の根源たるオークをドーザーブレードの錆とするべく突撃を開始する。

 本人にも判断理由の言い分はあれど、傍から見れば目先の目標に釣られたようにしか見えない。

 465が同輩達から軽く見られる理由がまたひとつ積み重なった。

 

 

 

SIDE:戦士 カーツ

 

「ぐうぅ……」

 

 渾身の頭突きをぶち込まれたフィレンは、よたよたと後ずさって片膝を着くと重たい銀河棍棒(PSYリウム)を取り落とした。

 その額を茨の冠のように一周していた棘付きの蔦は、べちゃりと潰れて茶色い樹液を零している。

 

 脳の防御を担当する頭蓋骨の中でも、正面装甲に当たる額は人体屈指の堅牢さが売りだ。

 さらにその表面を覆うのは、オーク自慢の生体装甲じみた緑の皮膚である。

 茨の蔦からすれば装甲車同士の正面衝突に挟まれたようなもの。

 ぺちゃんこにプレスされるのも当然であった。

 片膝を着いたフィレンの指先が細かな震えが止まらないアル中患者のような頼りない動きで上がると、額に張り付く潰れた蔦を掴む。

 

「ふんっ!」

 

 吐き捨てるような気合いと共に、蔦の残骸を引き抜いた。

 忌々しげに蔦を投げ捨て荒い息を吐くフィレンに声を掛ける。

 

「正気づいたか、フィレン」

 

「……お陰様で。 無様を晒して申し訳ありません、隊長」

 

「まったくだよ、後でノッコに説教してもらうからな」

 

「そいつは勘弁を」

 

 茨の棘が刺さっていた傷口から樹液と血が混ざる赤茶けた液体を垂らしながらも、何とか頬を歪めて笑おうとする舎弟の姿に内心ホッとする。

 ……あの液体、脳漿とか混ざってたりしないだろうな?

 ちょっと心配ではあるが、ここには精密検査をできるような施設も技術者も望めない状況だ。

 オークのタフさと鈍感さを信じるしかあるまい。

 

 それよりも新たな問題が発生している。

 フィレンが制御から外れたのを察したか、エルフの重機がこちらへ殺意を向けていた。

 ドーザーブレードを振りかざして、まっしぐらに突っ込んで来やがる。

 お目当ては俺だ。

 

「隊長!」

 

「トーン09まで下がれ、フィレン!」

 

「しかし!」

 

「膝が笑ってんぞ、お前!」

 

 自由を取り戻したとはいえ脳直結の洗脳ユニットをぶっこ抜いた直後だ。

 フィレンの動きは明らかに精細を欠いており膝に力が入っていない。

 あれでは足手まといになるばかりだ。

 だが、それだけで退けと言われても納得できまい。

 囚われ操られるという醜態を晒した直後だ、失点を取り返さねばと躍起にもなろう。

 だから理由を用意する。

 

「マシンにはマシンだ、格納庫の『騒ぐ亡霊(ノイジィファンタズム)』を取って来い!」

 

「くっ……お気をつけて!」

 

 俺の意図を悟ったか、フィレンは一瞬顔を歪めると身を翻した。

 ふらつく足取りながらトーン09へと走り始める。

 その後ろ姿を見送る余裕もなく、どんぐり重機に向き直った。

 流石に俺もあいつを素手で殴り飛ばせるとは思わない。

 だが。

 

「お誂え向きの対装甲兵器がある!」

 

 突っ込んでくる重機を飛び退ってかわしつつ、フィレンが取り落とした銀河棍棒(PSYリウム)へ手を伸ばす。

 

「うっ!?」

 

 素っ気もない銀の延べ棒めいたデザインのグリップに触れた途端、異様な熱感が生じた。

 触覚で体感できる温度はひんやりとした金属棒から燃えるような何かが手のひらに、更には皮膚の中のナノマシンを経て俺の中に浸透してくる。

 この感覚は、どこか悍ましい記憶に似ていた。

 

「こいつ、バグセルカーみたいな真似しやがって……!」

 

 ナノマシン越しに覚えのない知識が脳内に植え付けられた事を自覚し、思わず吐き捨てる。

 体のコントロールを奪うほど悪辣ではないにせよ、承認もなしに勝手にインストールするのはマルウェア染みていて腹立たしい。

 

「自前で取説完備とは恐れ入るぜ。 まるで押し売りだな」

 

 文句を垂れつつグリップを握りしめた。

 初めて手に取るのに慣れ親しんだ握り心地という奇妙な感覚も、フィレンとの交戦で左腕がへし折れてしまった今の俺には有難い。

 重たく扱いづらい銀河棍棒(PSYリウム)を万全のコンディションでないまま振るうにはどう構えればよいか、すでに俺の頭の中に根付いている。

 

「さっきのフィレンの真似みたいで癪だが、こいつが最善か」

 

 履帯を唸らせて迫るエルフの重機を睨みながら、右手一本で銀河棍棒(PSYリウム)を背負うように構えた。

 

「人の頭ん中に取説突っ込んでまで使わせようってんだ、役に立ってもらうぜ。

 『燃え盛る翡翠(ブレイジングジェイド)』、起動!」

 

 担いだ俺の肩の上で、銀河棍棒(PSYリウム)燃え盛る翡翠(ブレイジングジェイド)』が応じるように翠の燐光をその身に帯びた。

 




旧年中は大変お世話になりました。
お陰様で初めての書籍化という望外の幸運にあずかれる事となりました。
その一方で大動脈解離で死にかけてたりもするのでプラマイちょっとプラスくらい……?という感じでしょうか。生きてるから上等上等。
何とか諸々安定してきたので、更新ペースも戻していきたい所です。
来年の目標は、目指せ続刊で!
その為にもまだお手元に無い方は是非ともスペースオーク一巻をよろしくお願いいたします!

https://over-lap.co.jp//narou/824009104/
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