【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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Died Set Done

SIDE:F号要塞フォーティチュード 補給官(サーブス)217

 

 外見こそ著しく違うが、エルフの設計には先行開発されたオークのデータが反映されている。

 オークで効果が実証された葉緑素ベースナノマシンを搭載し、バグセルカーの侵食を防ごうという基本設計思想がそれだ。

 しかし、汎用宇宙兵士型であるオークと純然たる対バグセルカー兵器であるエルフとではナノマシンとの共生方法が違う。

 外皮全体に広くナノマシンを宿したオークに対し、エルフは神経系のみを保護する形でナノマシンを付与されている。

 対バグセルカー戦における最大の弱点のみピンポイントでカバーし、同時に必要資材を減らしてコストカットも行えるという発想であった。

 個体としてのエルフは、オーク以上に安価な兵器なのだ。

 バグセルカーの寄生を受け付けない以外の取柄は、数で圧すべくひたすら安価に製造できるという点しかない。

 その為、同じくナノマシン共生者(キャリア)種族でありながらエルフの宿したナノマシンの能力は限定的で、オークのように酸素供給の補助機能などは望むべくもなかった。

 もっとも、虚空へ投げ出された217にしてみればナノマシンの性能の大小など些細な事。

 要塞が半ばまで切り裂かれ、大量の空気と内容物(・・・)が撒き散らされている状態では、レスキュー部隊の出動は間に合うはずもない。

 脳に供給される酸素が尽きるまで。

 彼女に残された時間はほんのわずかなものだった。

 

 どうしてこうなったのか。

 元を辿れば、半年前の対バグセルカー戦における大損害にまで遡る。

 辛うじて得た勝利の代償に、F号要塞フォーティチュードは戦力の大半と6人の指揮官個体を支払う羽目になっていた。

 その労苦に対して否やは無い。

 人界をバグセルカーの脅威から護る使命の為、命を張る事はエルフの誉れである。

 だが、その使命を如何に継続していくか。

 生き残った三人の指揮官個体は、そこで足並みを揃える事ができなかった。

 

 失った戦力の補充が必要という点では意見は一致していた。

 設計段階からエルフの遺伝子に刻まれた戦力拡充方法は、要塞の樹木を伐採可能なまで育ててハードセルロース化する気の長いプランだ。

 安い早い弱いと三拍子揃ったお手軽戦闘要員の培養ならともかく、樹木の育成は年単位で手が掛かる。

 専門家である生産部の指揮官個体が失われている為、ノウハウの一部も失伝している有様だ。

 気長にやるしかない。

 不承不承ながらも納得した217と560であったが、もう一人の指揮官個体465は諦めが悪かった。

 要塞が長期間の戦線離脱に陥る事を良しとせず手軽な代替戦力はないかと探し回り、ついに見つけてしまったのだ。

 バグセルカーが天敵とまで警戒する、特異な存在を。

 

 事後承諾する気満々の独断専行で件の「天敵」を回収しに行った465の思考は、付き合いが長いだけに簡単にトレースできる。

 数少ない生き残りの同僚である560は堅実を重視する性質でイレギュラーを好まない。

 どれほどの有効性があるか判らない「天敵」より、準備に長い時間が掛かっても成果の実績に裏打ちされたエルフ伝統の戦術を選択するのは明白だ。

 その一方で常に資材のやり繰りに頭を悩ませている補給官(サーブス)たる217なら、いざ「天敵」を入手してしまえば手元にある戦力の活用に反対しないと、あのお調子者は見切っていたのだ。

 

 問題は件の「天敵」に全てを御破算にする凄腕のボディガードが付いていた事。

 そして自分たちには他種族とのやり取りが無さ過ぎて、どこが相手の地雷なのか見抜くだけの経験がなかった事。

 次の機会があるのなら。

 

「もっと、交渉力を育てないとね」

 

 体内に残された最後の酸素の一息を使い、217は自嘲の呟きを漏らした。

 

 

 

SIDE:F号要塞フォーティチュード ちびエルフ1144

 

 見た事もないほど綺麗な光が柱のようにそびえ立ち、猛烈な勢いで振り回された。

 その途端、1144の知る世界は文字通りに斬り裂かれた。

 緑に溢れる森で覆われていた要塞内壁を侵略していく炎という異常も、山火事ごと大地が裂ける天変地異の前には些事でしかない。

 翠の光が通り過ぎた後に覗くのは、黒い虚空。

 木々も酸素も、炎すら貪欲に吸い込んでいく真空の片鱗。

 1144にとって、自分すら飲み込もうとする地獄の裂け目も同然だ。

 

「にゃあぁっ!?」

 

 暴風と化した凄まじい吸引力に抗い、1144は必死で手近の蔦にしがみついた。

 粗製乱造の極みのような、ちいさくてかよわい生き物でも一応は宇宙使用が前提の強化人類、ちびエルフにも宇宙生活に関する最低限の知識は刷り込まれている。

 生まれつきインプットされている知識曰く、生身で宇宙空間に出てはいけない。

 寒くて息苦しくて死ぬから。

 苦しいのは嫌だし、死ぬのは怖いので、危険な区域には不用意に近寄らないのがちびエルフ達の一般常識だ。

 要塞外へ出る必要のない生産隊所属の1144に与えられた知識など、その程度のものだった。

 それでも無駄な損耗を抑えるため臆病な基礎性格に設定されているちびエルフ達には、十分有用な知識である。

 その知識が告げていた、このままでは宇宙に放り出されて死ぬばかりだと。

 

「にゃー……」

 

 どこか、安全な場所はないものか。

 1144は裂け目に吸い込まれていく同胞達の悲痛な鳴き声から必死で意識を背けながら、生き抜くために周囲を見回した。

 急速に酸素が失われ徐々に勢いを弱めつつある炎に囲まれるように佇む、オーク達の船が視界に入る。

 この諸々の騒ぎの元凶である異文化の箱船。

 他のちびエルフなら構造も判らない鉄の塊など避難先の候補から真っ先に除外する所であったが、1144は調査役としてあの船に入った事がある。

 少なくとも、酸素を確保できる密閉された部屋がある事は実体験として知っていた。

 あそこに逃げ込めば、窒息だけは避けられるだろう。

 

「ろー!」

 

 決意の一声を発し、1144は強風に抗いながらオークの船に向かう。

 オークは恐ろしいが、それよりも死ぬ方がもっと恐ろしい。

 設計段階から刷り込まれた臆病さは、1144の中で命根性の汚さとして昇華されていた。

 

「にゃっく……」

 

 以前侵入に使った格納庫のハッチが閉ざされている事を見て取り、1144は小さく落胆の声を漏らした。

 だが、その傍で作業用と思しき扉が閉じ切らず、半開きになっているのが見えた。

 ちびエルフの体格なら何とか滑り込む事も可能だろう。

 強風に飛ばされないよう、地べたに這いつくばりながら作業用エアロックに近づいた1144は扉を見上げて首を傾げた。

 

「にゃ……?」

 

 荒縄で括られた二本のボンレスハムのような物体が半開きの扉から垂れ下がっており、1144の進路を邪魔している。

 エアロックへ続く軽合金の梯子(タラップ)の上に覆い被さる障害物は、スパッツ一丁に蔦が絡みつき緑のチャーシューを思わせる物体と化したオークの下半身であった。

 筋骨逞しいオークが上半身だけエアロックに押し込んだ状態で、うつ伏せに力尽きているのだ。

 生きているのか死んでいるのか、動く気配はないものの梯子の途中に居座らていては先へ進めない。

 

「ろー!」

 

 ここで怯えて迷っているわけにはいかない、1144は気合の声と共にタラップに飛びついた。

 冷たい軽合金の梯子を登り、筋肉でできた巨木のような太い足に手を掛ける。

 神木を飾る注連縄のように絡みついた蔦を頼りに、スパッツに包まれた硬い尻をよじ登る。

 手頃なザイルのような弁髪を手掛かりにごつごつとした筋骨隆々の背中を乗り越え、エアロックの小部屋に転がり込んだ。

 

「ふぃぃ……」

 

 強風吹きすさぶ屋外からなんとか屋内に逃げ込み一息吐く1144だったが、ここはまだ安全圏ではない。

 エアロックの扉の開閉を妨げている、筋肉の塊を何とかせねば。

 タラップを登る途中で力尽きたらしいオーク戦士は白目を剥いて身動き一つしない。

 気密を保つ為に閉じようとする自動ドアが腰の辺りに何度もぶつかっては空しい警告音を奏でていた。

 

「んー……」

 

 困り顔で唸りながら、1144は突っ伏したままのオーク戦士を観察する。

 オークの額には、頭をぐるりと一周する形で等間隔に棘の刺さっていたような傷跡があり、未だにポタポタと鮮血が零れ落ちていた。

 大量の出血で失神したのだろうか、完全に意識を失っている。

 外に放り出したい所だが、非力な1144の腕力では高密度の筋肉の塊を押し出すのは難しい。

 それよりも垂れ下がっている両足を一本ずつ引っ張り上げる方が、まだ実現性がある。

 幸いにしてと言うべきか、オーク戦士の体に絡みついている蔦が格好の持ち手となりそうだ。

 

「ろー!」

 

 気合の声を上げると1144は大木のような戦士の右足に両手を掛けた。

 持ちあがらない。

 足一本でも、1144の貧弱な腕には正に荷が重たかった。

 

「んんん……」

 

 顔を真っ赤に染めて何とかオークの足を持ち上げようと踏ん張る。

 1144の奮戦を嘲笑うかのように戦士の巨体は微動だにしない。

 オーク戦士の足一本にすら難渋する1144であったが、状況の変化が彼女に味方した。

 船全体を揺さぶるような激震が走り、オーク戦士の巨体が浮き上がる。

 必死に引っ張っていた1144の努力が実り、海老反りのような姿勢でオーク戦士はエアロック内に転がり込んだ。

 すかさずBEEP音で急かし続けていた自動ドアが閉じ、エアロック内の気密を確保する。

 

「にゃっく……」

 

 ようやく窒息の危機から完全に逃れた1144であったが、引っ張り込んだ弾みにオーク戦士の巨体に圧し掛かられ身動きを封じられていた。

 黄色い非常灯だけが灯る狭い小部屋の中、細かな揺れを感じながら1144は自由になる目玉を不安のままにきょときょと動かす。

 

「にゃー……」

 

 圧し掛かる態勢のオーク戦士の額からポタポタと落ちてくる血の雫に1144は顔を顰めた。

 

 

 

SIDE:ピーカ・タニス・トーン=テキン

 

 カーツが放った烈光が棒切れのようなエルフの船を両断し、勢いのまま要塞内壁を切り開いていく。

 ペールの天体望遠鏡よりも優れた拡大率を持つ瞳は、分断されてバラバラに落下していくエルフシップから飛び出した2機の戦闘機を捉えていた。

 片方の機影はありふれたカスタムのバレルショッターだが、継ぎ接ぎだらけのもう一機を見誤りはしない。

 喜色に弾む声で報告する。

 

「姫! ノッコさんが来てます! 『包帯虎(バンディグレ)』が見えました!」

 

「ノッコが?  エルフの船を乗っ取ったの?」

 

 同じく戦闘種族ゆえか、即座に銀河狂犬(フービット)の手口を察する姫。

 彼女に更なる判断材料を提供しようとペールは身を乗り出して目を凝らした。

 味方の機影に知らず浮かれたペールの隙を付くように、要塞の裂け目から生じた強風が彼女の姿勢を崩す。

 

「わわっ!?」

 

 薄っぺらくて軽いドワーフ少女の体は要塞内の酸素を纏めて外部に叩きだそうという暴力的な気流にさらわれ、浮き上がった。

 

「ペール!」

 

 咄嗟に飛び付く姫だが、こちらも肉付きはともかく身長はほとんど同じ軽量級、二人まとめて暴風に巻き上げられてしまう。

 

「わあぁっ!?」

 

「くっ……!」

 

 突然の空中遊泳に泡を食うペールと違い、戦闘種族である姫の対応は早い。

 掴んだペールの手を強く引き、抱き寄せる。

 

「しっかり掴まってなさい!」

 

 ペールを己にしがみつかせると、軽宇宙服のジッパーを勢いよく引き下ろした。

 目の前で解放された自分に備わっていない大質量が飛び出す様に、ペールは困惑の声を上げる。

 

「なんで脱いでんですかぁっ!?」

 

「光る面積を増やした方がノッコ達が見つけやすいでしょ!」

 

 言葉と共に白磁の肌に翠の燐光が漣のように広がった。

 樹木の断片と炎の飛沫が暴風に吹き散らされる中、エメラルドを溶かしたような淡い輝きは酷く目立つ。

 諸肌脱ぎのサービスで、姫の言葉通り仲間への誘導灯としては十分な光源だ。

 何かを探すかのように地表近くをふらふらと揺らめきながら旋回していたバレルショッターが派手に推進剤を撒き散らす鋭角的なターンを決め、こちらへ機首を向ける。

 

「あの落ち着きない機動はベーコかな? ほら、こっちこっち!」

 

「姫! はしたないですってば!」

 

 ぶんぶんと振られる両手に合わせて元気に弾むバストを睨みながら、ペールは苦言を呈した。

 あくまで臣下としての進言であり、我が身には望むべくもない豊かさへの嫉妬という訳ではないという建前である。

 

「おっと、もう脱いでる必要はないね」

 

 姿勢制御スラスターを吹かして相対速度を合わせようとするバレルショッターを見ながら姫は半脱ぎの軽宇宙服に袖を通した。

 

「姫様、お迎えに……あっ、もう服着てる!」

 

 バレルショッターのキャノピーが開き顔を出したベーコは、口上を述べ終えるよりも先に露骨な落胆の声を上げた。

 カーツが居れば拳骨を落としている所であるが、主君は鷹揚に大笑する。

 

「あはは、出迎えご苦労! サービスして欲しいなら、一杯手柄を立てなさい」

 

「へーい……」

 

 若干しょんぼりしたベーコの手を借りながら、姫とペールはバレルショッターのコクピットに入る。

 

「それで、状況は? ベーコとノッコだけが来たわけじゃないんでしょう?」

 

 パイロットの邪魔をせぬようシートの脇に滑り込みながら確認する姫にベーコは大きく頷いた。

 

「押忍、要塞の外にトーン08が待機してます」

 

「よろしい、通信機借りるよ」

 

 コンソールに手を伸ばし、トーン09との通信回線を開く。

 

「トーロン、出番だよ! トーン09を出して!」

 

「了解しました!」

 

 姫の指示でアイドリング状態だったトーン09の主機が本格的な稼働モードへ移行する。

 トーン09の様子を拡大表示していた半球形モニターに新たな通信ウィンドウが展開した。

 

「ベーコ、姫と合流できた?」

 

「ノッコ!」

 

 ウィンドウの中の銀河小人(フービット)は青い瞳を細めて頷く。

 

「久しぶり、姫様。 旦那はこっちで回収してるよ」

 

 ノッコの背後には両目を閉じてぐったりとシートに身を預けるカーツの横顔が見える。

 意識を失っている一の戦士の様子に、姫は眉根を寄せた。

 

「カーツは大丈夫なの?」

 

「疲れ切って寝てるだけ、心配ないよ」

 

「そう、じゃあさっさと脱出しましょ」

 

 姫の指がコンソールを走り、モニターの中の一点を拡大した。

 カーツの放った意志の刃(ウィルブレイド)が切り開いた裂け目が大写しになる。

 要塞の自己保全機能か、染み出した樹液が瘡蓋のように広がりつつある。

 空気の流出を防ぐ機構であろうが、ちゃちな瘡蓋もどきではハードセルロース製の外殻ほどの強度は望むべくもない。

 

「トーロン、あそこを突き破って。 トーン09の追加装甲ならぶつかっても大丈夫でしょ」

 

「了解!」

 

 トーン09のメインスラスターが点火される。

 本来、真空中での運用を前提としたスラスターは、山火事と暴風で荒れ放題となった要塞内壁に止めの如く激しい推進炎を浴びせた。

 最早エルフ要塞内にトーン09を阻むものはない。

 トーン09は瘡蓋を突き破り、裂け目を押し広げながら要塞を後にした。




リアルの不調で更新が滞り、申し訳ありません。

さて、この度、スペースオークの続刊が決定いたしました。
やったぜ二巻目!
発売日など詳細はまた後日ご報告いたします。
一巻をまだ購入されていない方も、この機会にご購入いただけると幸いです!

https://over-lap.co.jp//narou/824009104/

次もブッチャーU先生のイラストが楽しみ……!
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