【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う   作:日野久留馬

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リアル事情&スランプでお待たせしております、申し訳ありません。


トラウマの対処

SIDE:戦士 カーツ

 

 氏族船の側、トーン=テキンに属する船舶が列を成して停泊する領域に見覚えのある艦が加わっていた。

 正確には見覚えのある破損痕と言うべきか。

 護衛艦(フリゲート)としては最大クラス、500メートルにも及ぼうかという巨体ながら、無残に船首を食い千切られた船。

 姫の乾坤一擲の(でたらめな)戦術で斬首に処された痕跡だ。

 

「シャープ=シャービングとかいうチンピラ氏族の船か」

 

 修繕が為されておらず破損痕も生々しい護衛艦(フリゲート)をメインモニター越しに睨みながら唸る。

 何でまたここにという思いとは別に、ブリッジ内には喫緊で対応しなくてはならない事態も発生していた。

 

「ひっ、はっ、はっ……」

 

 オペレーターシートから響く、不規則な異音。

 トラウマの船を目の当たりにしたペールが怯えきった顔でモニターを見上げ、不規則な荒い呼吸を繰り返している。

 過呼吸を起こしかけているペールに駆け寄った姫様が細い背中に手を当てた。

 撫でながら耳元で語りかけている。

 

「大丈夫よ、ペール。 あたし達が居る、何も怖い事はないよ」

 

 心因性の過呼吸への対策は落ち着かせる事が肝要。

 紙袋を被せて呼吸を制御する方法も有名だが、あれは息が詰まってしまう可能性もあって危険だ。

 意図的にゆっくりとした口調で囁きかける姫の声音が効果を発揮したか、ペールの荒い呼吸が和らぐ。

 俺はペールの背を撫で続ける姫と心配顔で覗き込んでいるイヨに指示を出した。

 

「姫、ペールをベッドで休ませてください。

 イヨはキッチンから水のボトルを持ってきてやってくれ」

 

「任せて。 ほらペール、行こう」

 

「ろー!」

 

 肩を抱いて気遣いながらペールを立たせる姫と、右手を上げて応じるイヨ。

 三人をブリッジから退室させた所で姫に代わってキャプテンシートに腰を下ろした俺は、唯一残ったスタッフであるトーロンに向き直る。

 

「トーロン、管制室(コントロール)に帰還報告を。 それとあの船の出所を確認してくれ」

 

「了解」

 

 トーロンは小さく頷くと、管制室(コントロール)への回線を開いた。

 ナビゲーターシートのモニターに映し出された管制担当のオークテックの姿は、巨大な主星ビッグレッドの放つ膨大な電磁波の影響でノイズ混じりに揺らいでいる。

 

管制室(コントロール)、こちらトーン09。トーン08共々帰還しました」

 

「お帰り、トーン09。出航前と船影が違っているけど、それは?」

 

「現地改修で装甲を追加したんだ。なかなかの使い勝手だよ」

 

「ほぅ、いいねえ!」

 

 感心した声をあげるオークテックへ、トーロンは逆に問い掛ける。

 

「こっちも聞きたいんだけどさ、見慣れない船が増えてるよね、あれは?」

 

「ああ、戦士ラフテルが鹵獲してきたんだ」

 

 漏れ聞こえた名に俺は思わず眉を寄せた。

 良い思い出があるとは、言い難い相手だ。

 一方、俺と違って戦士ラフテルと特に因縁もないトーロンは気にした様子もなく会話を続けている。

 

「戦士ラフテル? なんかパッとした印象のない人だけど……」

 

「あんまりそんな事言うもんじゃないよ、久しぶりに大手柄挙げて羽振りがいいんだから」

 

 懐が温もれば調子に乗る、昔と気質は変わっていないらしい。

 培養槽(バースプラント)生まれの培養豚(マスブロ)でもなければオーククイーンの血族でもない、ある意味どこにでもいる一般オーク戦士の典型のような中年戦士、ラフテル。

 その短絡的な頭の軽さもまた、オークの典型例と言えるだろう。

 そんな彼と俺は、極一時的にではあるが上司と部下という関係にあった。

 俺が戦士の位を得られた一件も、発端は彼にある。

 だからと言って、彼に恩義や友情を感じたりはしない。

 兵卒階級を単身敵艦に放り込んで鉄砲玉に使うような奴と、今更仲良くする気などなかった。

 

 

 

SIDE:トーン=テキンのトロフィー ペール

 

「着いたよ、ペール」

 

 姫に肩を貸されて自室に到着したペールは呼吸も整わない中、何とか礼の言葉を紡ぐ。

 

「ご、ごめい、わくを……」

 

「いいから、いいから」

 

 軽く受け流した姫は勝手知ったるとばかりに室内へ踏み込み、壁際にぶら下がる奇妙な塊に歩み寄った。

 

 無重力寝袋用のアタッチメントで壁に固定された布の塊の正体は、ペールお手製の寝床。

 神経質で枕が変わると安眠できない性分のドワーフ達は、各々の好みに沿って寝床を自作する。

 寝袋ふたつを冒険野郎御用達のダクトテープで切り貼りして内側に布切れの具をたっぷりと詰め込んだ結果、等身大の餃子を思わせる外観となった物体はペールにとって安全な巣穴そのものだった。

 姫の手が改造寝袋のジッパーを下げると、中を埋め尽くす古タオルや端切れの断片が覗く。

 

「さ、横に……いや、この場合、中に埋まってというべきなのかなあ。 まあいいや、休んで休んで」

 

「はいぃ……」

 

 勧められるまま、寝袋に足を入れる。

 もぞもぞと潜り込んで、寝袋餃子から頭だけ出した状態になると、安心感が押し寄せてきた。

 ジッパーを閉じると窮屈なくらいに圧迫されるのが心地良い。

 ペールの好みは軽い羽毛布団よりも抑えつけられるような重たい布団である。

 幼い頃、母に抱き締められながら眠った記憶が想起され、強張っていた頬がわずかに緩んだ。

 ぽん、ぽんと、ゆっくりとしたリズムで寝袋の上からあやすように撫でられ、とろとろと瞼が落ちかかった所でペールは危うく踏み止まる。

 年下の主君の思わぬ母性(バブ味)に陥落している場合ではない。

 

「も、もう大丈夫です、姫」

 

「あれ、ねんねはしなくていいの?」

 

「しません!」

 

 思わず高い声を上げるペールに、姫は喉を笑みで鳴らすと表情を改めた。

 

「大丈夫、うちの氏族で鹵獲した以上、中の掃除は終わってるよ」

 

「そう、ですね……」

 

 ペールは忌まわしい記憶そのものであるシャープ=シャービングの連中の事を思い返す。

 はぐれ者が寄り集まって生きてきた結果、変な拘りや掟の蔓延している偏屈な氏族だ。

 あの連中が、名の知れた大氏族であるトーン=テキンを前にして、大人しく船を明け渡すとは思えない。

 それなのにこの宙域にあの船があるという事は、抵抗した結果一人残らずトーン=テキンの別部隊に始末されたのだろう。

 

「……」

 

 ゴーグルの下で光彩が渦を巻く赤い瞳を細める。

 当然ながら、憐憫の情など全く湧かない。

 どうせなら自分を辱めた連中が叩き潰される所を、直接見たかったくらいだ。

 

「……なんだか、少し気が楽になりました」

 




戦士ラフテルに関しては書籍一巻を参照!(露骨な営業)
ドワーフの寝床に関しては書籍二巻のメロンブックス様の特典でちょっと触れてたり。
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