【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:戦士 カーツ
手柄にも質というものがある。
碌な装備もないバイト警備員の兄ちゃんをぶん殴るのと完全武装の
質という基準で客観的に判定するなら、
何でも勢いでぶっ壊してしまうオークにとって、運用可能な鹵獲品は非常に貴重な物なのだ。
そして同格の手柄とあれば、提出順に受理されるのは当然の話であった。
そう、当然の話ではあるのだ、くそったれな事に。
「でーおーくーれーたー……」
ほとんど心神喪失状態で女王の間を辞した俺の口から、魂ごと抜けていくような脱力しきった音が漏れる。
「シャキっとせんか。 陛下の御目が届かぬ場所とはいえ、御近くに居られるのだぞ」
扉の前に控える門番のオークナイトが俺の体たらくに苦言を呈する。
判っている、それは判っているのだ。
「下手に期待しちまうと、外れた時が辛いんだよ……」
今回の略奪行、俺個人のリザルトとしては功罪有れどプラマイちょいプラスといった所。
ことさらに大功と誇る気は無かったにせよ、物理的に埋まっていた陛下の胎の予定が空いているとなれば、頭の中の損得勘定など吹っ飛んでしまう。
そして「あわよくば……」なんて思いつつも割と本気全開の要望は、出遅れによりあっさりと叩き潰されるのであった。
他の褒美であるなら「それは俺が貰う!」と勇み立って決闘を仕掛けるのがオークの流儀であるが、クイーンに関わる事柄に於いては厳格に禁じられている。
かつて先代オークキングの御代、まだ幼いマルヤー陛下の身柄を巡って血で血を洗う大抗争が繰り広げられたという。
氏族分断の危機を経た結果、クイーン絡みの事柄に決闘を持ち出す事は御法度になってしまったのだ。
そうでなければ即座にラフテルの野郎をぶっ飛ばしに行ったものを。
最もこの禁令のお陰で、俺から姫の補佐役の座を奪おうとする有象無象どもと延々やり合う羽目にもならずに済んでいるのだが。
ともあれ、いわゆる上げ落としは俺の精神に大変な痛打を与えている。
大いに凹んでいる俺の有様に、門番のオークナイトは厳しく引き締まった唇を苦笑で緩めた。
「そう落ち込む事もあるまい。 姫を支えるお前なら手柄を立てる機会などいくらでもあろうよ、戦士カーツ」
「お、おう……」
持ち上げるような事を言うオークナイトに俺は思わず口籠る。
この男、ジャージンといったか、確か前も陛下の部屋の門番をしていたオークナイトだ。
ナイト様にしては、随分と「らしく」ない事を言う男である。
「意外だな、培養豚相手にそんな事を言って良いのかい?」
「使える培養豚もいれば使えんオークナイトもいる。 腕の冴えも忠も示した使える男に信を置かぬ理屈は無いな」
「……あんたの信を裏切らんよう努力するよ、オークナイト・ジャージン」
直接刃を交わさずとも潜在的な敵と見なしていた集団の中に、俺を認める者がいる。
些細な事柄がどうにも面映ゆく、口元が緩んだ。
自分でも意外な事に、俺もちょろい一面があったらしい。
彼の言葉に胸が温かくなるのを感じていた。
だが、そんなささやかな交流に邪魔が入る。
「ちょっとよろしいですかい、ナイトさん」
オークナイトに声を掛けるは、頭頂部がまだらになった薄毛の中年男。
180cmに届かない戦士としては寸詰まりな体躯に突き出た下っ腹と、なんとも風采が上がらないオーク戦士、ラフテル。
苛立ちの元凶とも言える男の登場に、俺の眉尻が跳ね上がる。
だが、俺が口を開くよりも早く、ジャージンがグローブのような手の平をあげて制止した。
流石オークナイト、いい反応速度をしていやがる。
「何用だ、戦士ラフテル。本日の陛下の御予定にお前との謁見は入っていないぞ」
凛とした声音で告げるジャージンに、ラフテルはへらりと愛想笑いを浮かべながら答える。
「いやあ、それは判ってんですがね。 俺ぁいつまで待機してりゃいいのか伺いたくて」
「陛下の体力が戻られるまでだが……これまでの例なら、あと十日ほどだな」
「十日、長ぇな……」
ジャージンの言葉にラフテルは顔を顰めた。
「異論があると言うのなら陛下に申し上げるが、どうする?」
「いえいえ、そこまでしていただく事ぁありません!」
パタパタと手を振って見せたラフテルは、ニタリとした笑みを浮かべた。
その視線はこちらを向いている。
「回ってくるのが確実なら、待つ時間も悪くないってもんですよ」
お前にゃ回って来ないけどな。
品のない笑みに歪んだラフテルの金壺眼が雄弁に語っている。
……殺るか?
内心で殺意が固まるよりも早く、ジャージンが鋭く横目で俺を一瞥する。
まったく、本当に勘のいい漢だ。
「そう思うならさっさと行け。
今のお前は妬まれる立場だ、面倒を起こす前に身を慎むのも手柄を挙げた者の心得だぞ、戦士ラフテル」
たしなめるようなジャージンの言葉に、ラフテルは軽薄な表情を引っ込め真顔になった。
「身を慎む、ですかい。 そりゃ確かに。
それじゃあ、大人しく自分の船に引っ込んでましょうかね」
へこりとオークナイトへ頭を下げると、ラフテルは身を翻す。
立ち去る彼の後ろ姿から目を離さぬまま、ジャージンはぼそりと呟いた。
「……駄目だぞ、戦士カーツ」
「何もしやしねえよ。 あんたが言ってくれたんじゃねえか、俺に信を置くって」
「……十日後に奴が拝領する報償に関しては、その言葉を取り消さねばならんか迷っている所だ」
じろりと横目で睨むジャージンの視線に、俺は肩を竦めて口内で呟いた。
「ご慧眼」
SIDE:戦士 ラフテル
謁見の間の前から離れ、
区画を警護するオークナイトを見かける度にへらりとした軽薄そのものの笑みを深め、へこへこと頭を下げる。
仮にも大手柄を立てた戦士とも思えぬ腰の低さに、すれ違うオークナイト達は或いは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、或いは露骨に含み笑った。
それらの悪意をラフテルは品のない笑みで受け流す。
だが、それも
宇宙服のヘルメットを被ってしまえば、声は外に漏れない。
ようやく、腹の内の本音を吐き出せる。
「何が身を慎むだ、畜生め」
オークナイトどもに見下されるのは慣れている。
だが、したり顔で忠告めいた事を言うオークナイトは殊更腹が立った。
こちらの都合も知らずに放たれる綺麗事には反吐が出る。
「慎む手柄なんかねえよ、糞が」
毒づきながら減圧したエアロックの外部ハッチを開け、腹立ちに任せるように床を一蹴り。
床を蹴った勢いをスラスターの噴射で微調整し、
腹の内に怒りを抱えていても動作に澱みが無いあたり、彼もまた生粋の宇宙の男であった。
「とんだ疫病神に関わっちまった」
横目に睨む先は鹵獲した
破損部位の修復のためオークテックのチームが乗り込んで作業中なのだ。
いずれ氏族の戦力となる頼もしい姿であるはずの船影は、ラフテルにとって諸悪の根源に他ならない。
「糞、戻りたくねえなあ……」
彼の持ち船、200メートル級
それでも、他に行き場などない。
そもそも与えられた持ち船が有る以上、そこがオーク戦士の居室なのだ。
戻りたくなくても、
憂鬱な溜息を吐きながら「
与圧し内部ハッチを開けて一歩踏み出したラフテルの側頭部に銃口が突きつけられた。
ぎくりと立ちすくむラフテルの耳に、ねっとりとした囁きが入る。
野太い
「お・か・え・り☆」
「……やめてくれよ、大将。心臓に悪い」
悪戯に成功した加害者は太い牙の飛び出た唇を笑みの形に歪めると、大口径レイガンをくるりと回して銃口を退けた。
ラフテルはエアロックの内部ハッチ脇で出待ちしていた加害者に恨みがましい視線を向ける。
「不審者が入ってきたら不味かろう?」
「この星系で一番の不審者はあんただよ!」
「違いない!」
思わず飛び出した本音の罵声も、諸肌脱ぎどころか全裸で逞しい筋肉を見せびらかしつつ大笑する不審者にはまるで効いていない。
笑いに釣られてぶらぶらと揺れる男性固有器官から目を背け、ラフテルは心底うんざりした声音で男に訴えた。
「大将、頼むから服は着てくれ。
うちの船のクルーだって誤魔化すにしても、裸じゃ無理だろ」
「ぬう、カモフラージュに必要であるか、ならば仕方あるまい……」
不承不承といった態で、男は頷く。
「隠さねばならぬほど不出来な体ではないと自負しているのだがなあ」
そう言う彼の肉体を覆う筋肉は実戦で高度に鍛え上げられ、戦士として一部の隙もなく練り上がっていた。
小なりとはいえ氏族の長の座に至った漢に相応しい偉容を誇っている。
彼の名はヴァイン。
シャープ=シャービング氏族が誇るオークキング、『
生活環境の変化で右往左往している内に半年以上過ぎておりました。
申し訳ありません。
さて、その間にこんな話が来てました。
https://sevenseasentertainment.com/books/space-orc-barbarian-raider-of-the-stars-aiming-for-the-queen-light-novel-vol-1/
なんとスペースオーク英語版です!
献本をいただきましたが、自分の文章が英訳されてるのを見るのはなかなか感慨深いものです。
……ネーミングに言葉遊びが多いので、その辺あちらの読者さんはどう感じるんだろうとかも思うけど。