【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:戦士 ラフテル
状況が悪いからといって取るべき手段を間違えてしまった事はラフテルも自覚している。
こんな特大のケチがつくのならば、古来より氏族に伝わる清く正しく真っ当な襲撃方法を踏襲し、慎ましやかな略奪を心掛けるべきだった。
素っ裸のまま「
ラフテルの戦士としての評価は元より高いものではなかったが、ここの所は底値に近づきつつあった。
手下となる兵卒が集まらず、戦力が足りないため本格的な略奪行に出る事ができなかったのだ。
成果を上げれなければ評価が下がるのは、合法非合法を問わず実力主義の業界では当然の話である。
オーク兵卒どもが彼の元に居着かなくなった原因について、ラフテルは当たりを付けていた。
奴が頭角を現した頃から、質のよい兵卒はラフテルの手元に来なくなっていた。
あの男が悪評を流しているに違いない。
ラフテルはそう思い込んでいた。
「汚え真似しやがって」
憤るラフテルであったが、実際はカーツもそこまで暇ではない。
単純にラフテル自身の人望の無さが原因である。
オーク戦士の一党は兄貴分の戦士を長とする、小さな一家ともいえる集団だ。
舎弟達はこれぞと見込んだ兄貴の下に草鞋を脱いで仕え、兄貴の方でも舎弟達を遇し、導き、生き延びれるよう育成する。
こうして恩義を受けた兵卒が長じて戦士の座を得た際、独立せずに舎弟として一党に残り続けるケースは多い。
かくして戦士の一党は複数の戦士を抱え、強力なチームとなっていくのだ。
名を馳せる大戦士の一党の起こりはこういったものであり、故に兄貴分の戦士は舎弟のオーク兵卒との関係に気を配るものなのだが、ラフテルは違う。
この男、上には媚びるが下には酷薄で傲慢という、ある意味とても判りやすい性根の持ち主であった。
弟分のオーク兵卒に無理をさせ、使い潰しながら戦果を上げるような手口を一切恥じる事がない男である。
上がこんな輩では、舎弟の方もさっさと見切りをつけて逃げ出すのも当然の話。
こうして目端の利く舎弟に逃げられ、残ったのはどこの戦士にも不要と断じられるような不出来な連中ばかり。
クルーがこんな有様では手持ちの
ここに至り、ラフテルは禁じ手に手を染め始める。
作法破りだ。
トーン=テキンのような大氏族には略奪の作法がある。
根こそぎに全て奪わず、略奪対象が再起できるだけの余地を残しておくのだ。
完全に滅ぼし、未来の獲物を狩り尽くしてしまう事を防ぐための作法であったが、ラフテルにとってそんな先の事など、知った事ではない。
今を凌がねば、己の立場も守れないのだ。
こっそり他のチームの後をつけ、彼らが略奪を終えて立ち去った直後に襲撃を行う。
無論、残り物を漁った所で儲けは知れているが、被害者側は反抗の余力も無いのだから戦力に乏しいラフテル一党でも制圧できる。
防衛力も失われた被害者をさらに叩きのめし、明日のための僅かな物資を根こそぎにしていくのは楽な商売であった。
大漁こそないものの、そこそこの稼ぎを簡単に上げれる禁じ手はラフテルを調子づかせ、彼の内心を明確に変えていく。
作法を守るなど馬鹿馬鹿しい、こんなものに従わない方が稼げるではないかという負の実績は、氏族のルールへの軽視、ひいては氏族への忠誠心の低下となってラフテルの中に根付いていた。
そんな矢先に聞きつけたのが、姫の初陣の話だ。
しかも姫のお守りを担当するのは、あの生意気な
次の作法破りの対象をカーツ一党が狙う採掘星系に定めたのは、苛立ち紛れの鬱憤晴らしにすぎない。
カーツに自分の露払いをさせていると思えば、ちょっといい気分になれた。
だが、その結果が現状に繋がっていると思えば笑えない。
ちょっといい気分になったくらいでは、全く割に合わない。
カーツの一党がターゲットの採掘星系へ向かった後、半日の時間差をつけてラフテルの「
オークの略奪は疾風迅雷、短時間の攻勢が持ち味。
これまでの作法破りの経験から、半日もあれば略奪は完了しているだろうと読んだのだ。
幾度もの作法破りの成功体験はラフテル一党からなけなしの警戒心を奪い去っていた。
ジャンプ先の状況を確認せず無防備に踏み込んだ結果、カーツ一党と一戦交えた後なんとか生存者をまとめたシャープ=シャービング氏族の鼻先にジャンプアウトしてしまったのだ。
後は言うまでも無い。
元より戦う気構えもろくにない弱兵と、戦闘直後の熱気も冷めていない襲撃者。
まともな戦闘にもならない。
その結果が「
ラフテルの指定席であった場所に裸の生尻を下ろした筋肉達磨のオークキングは野太い重低音で問いを投げる。
「それで、女王の体調が戻るのはいつになると?」
「10日くらい掛かるんだとさ」
打てば響くと言わんばかりの従順さでラフテルは応じた。
すでに何度も痛い目に遭わされている。
暴力で判りやすく主従関係を叩き込まれていた。
「ぬぅ、そんなに待っていられるものか。 何とか忍び込めんか?」
眉を寄せるヴァインにラフテルは焦って首を振る。
「無茶言わんでくれよ大将、オークナイトが山ほど控えてんだぞ」
「ふん、有象無象の若造どもなど、女王を味わう前のオードブルに過ぎんさ」
喋っている内に気分が盛り上がってきたのか、キャプテンシートに座するヴァインの股間も大変雄々しく立ち上がってきている。
彼が股間の槍の赴くままに女王を求めて暴れ始めたら、一蓮托生のラフテルもオークナイト達に抹殺されてしまう。
ラフテルは必死でなだめに掛かった。
「いくらあんたが強くても、数の差は何ともならんだろ。 今は堪えてくれよ大将」
「我がシャープ=シャービングの精鋭をもってしても駄目か?」
ヴァインの言葉に「
彼らは拿捕という名目でトーン=テキンに持ち込まれた「マーゴ=ドレイン」の本来のクルーである。
ヴァインの手駒である彼らは「マーゴ=ドレイン」を明け渡し「
船のサイズが違うため、かなり乗員過多になっている上、シャープ=シャービングの漢達は裸がユニフォームの裸族ファイター揃い。
非常にむさ苦しく見苦しく暑苦しいのだが、ラフテルは彼らを制する立場にない。
それでもトーン=テキンの内情をリークできる身として、無茶な暴発を避けねばならなかった。
「元々、シャープ=シャービングよりトーン=テキンの方がずっと数が多いんだ。 一人一殺どころか十殺したって足りゃしねえよ。
だから最初の予定通り女王の身柄を押さえるのが先だ、そうすりゃ何とでもなる」
シャープ=シャービングとカチ合ったラフテルが生き延びているのは、偏にこの一手を成立させる為だ。
噂のトーン=テキンの女王だけでなくカーツ一党の真の首領ピーカ姫の存在を知り、オーククイーンへの強い執着を股間に刻み込まれたヴァインにしてみれば、腐ってもトーン=テキンの戦士であるラフテルの捕獲は渡りに船であった。
ラフテルの手柄を偽装して一夜を共にする権利を得た後、すり替わって手込めにする。
恐ろしく粗雑極まりないオーク的プランであったが、少なくとも真正面からオークナイトの防衛網に殴りかかって女王の身を狙うよりは成功の見込みがあった。
「……仕方あるまい、事を仕損じるよりはマシか」
不承不承頷くヴァインに、暴発を防いだラフテルは安堵の一息を吐く。
「10日も焦らされるとはな、その分を女王に注ぎ込むのが楽しみでならんわ」
ニタリと頬を歪めるヴァインの頭の中でどのような光景が描かれているのか、彼の男性特有兵器は臨戦態勢となっている。
麗しの女王が嬲りものにされる近未来図を連想しラフテルは密かに眉をひそめるが、それは氏族の頂点が汚される事への怒りや忌避感からではない。
自分が得られたかもしれない特大の報償が目の前をスライドしていく事への無念ゆえだ。
命惜しさに女王を売ったラフテルは、すでにトーン=テキンの一員ではなかった。