【二巻発売中!】スペースオーク 蛮族の戦士は夜明けの天を翔け女王を狙う 作:日野久留馬
SIDE:戦士 カーツ
「結局、褒美らしい褒美を貰ってないんじゃないの」
停泊中のトーン09に戻った俺の報告に、ピーカ姫は呆れたような声を上げた。
「いえ、そんな事はありませんよ。
姫の警護任務の継続に、ペールとイヨの身柄と『
「全部現状の追認じゃない」
俺の反論はぴしゃりと叩き落とされた。
キャプテンシートに座する姫は年齢不相応なサイズのバストを強調するかのように腕を組み、俺にじっとりと半目を向ける。
「本当、母様絡みだとカーツはダメね……」
「そ、そんな事は……」
「どうせ母様のおっぱいに釘付けだったんでしょ」
それは違う、釘付けだったのは御尊顔にもです。
流石に馬鹿正直に述べるのは憚られたので口を噤んでおく。
俺の無言の返答に、姫は大きく溜息を吐いた。
「まあいいわ。 それで、次はどうするの?」
姫の配置がトーン09の船長から変更にならなかった以上、彼女の今後の予定もカーツ分隊の行動に準じる事となる。
ひと仕事終えて帰還した略奪隊がどのように次へ備えるか、襲撃後のルーチンについてレクチャーをしなくてはならない。
「略奪品の提出と報告は終わってますからね。 次の略奪行の行程を立案と、出立の準備が必要です」
今後の大まかな流れを口にしつつ、ブリッジのすみであっち向いてホイに興じている舎弟達に視線を投げた。
「ベーコ、具体的には何が必要になると思う?」
不意に話を振られたベーコは目を丸くしながら返答する。
「え、えっと、メシと水と酸素の補充は絶対必要っす、あと戦闘機の推進剤も」
「じゃあ、それらはどこでオーダーすればいい、フルトン?」
「んー、オークテックのれんちゅーにまかせるんじゃ……?」
割と如才なく何でもこなすフルトンも、こういった裏方は把握しきっていないようだ。
「大筋合ってるけど、それじゃ合格点はやれんな。
どこの担当のオークテックに話を通せばいい、ソーテン?」
「……
「そうだ、物資の大半はそこで管理されている。 よく覚えてたな、偉いぞ」
俺の褒め言葉に、拳をぐっと握るガッツポーズで応えたソーテンは愛想のない顔をわずかに微笑ませた。
「とはいえ、物資の補充はちょっと先だな。 先に次の略奪行のターゲットを定めて計画を立てる必要がある。
どこを襲うかの情報を集めない事には、どれだけの物資を用意すればいいかも判らんしな。
それと今回に限っては船の整備も要る」
一通りの行動指針が出た所で、俺は姫に向き直った。
「今後のタスクはこんな所です。 手始めは……挨拶回りですかね」
SIDE:オークテック トーロン
「わざわざカーツさんが出向く事はないかと思うんですけど」
トーロンの言葉に隣を歩む雇い主は小さく首を傾げた。
「前からやってる事だしなあ。
姫様が乗り込んでいる以上、トーン09の整備は念を入れてやって欲しいし。
それに、久しぶりに爺さんの顔も見たいしな」
「まあ、長老も喜ぶとは思いますけどね」
手土産の酒瓶をちゃぽちゃぽと揺らしながら応じるカーツにトーロンは苦笑する。
まったくオーク戦士らしくない漢だ。
だが、内政区画まで直接足を運び、頭を下げて頼まれれば、働く方とて悪い気はしない。
カーツをそこらのオーク戦士と一線を画しているのは、こういった気遣いであるとトーロンは思っていた。
厳密に言うとトーロンはカーツ一党に所属していない。
ポーロウ翁を長とするオークテック衆から派遣された、外部要員だ。
オーク戦士一党は柱となる戦士とその舎弟である戦士階級、あとは彼らに付随するトロフィーが構成要素であり、オークテックはそこに含まれていない。
必要に応じて呼び出される助っ人の外様にすぎないのだ。
そして、オーク氏族全般の風潮同様に大概の戦士一党では外様のオークテックの扱いは悪い。
無理に呼びつけられて様々な雑用を押しつけられた挙げ句、感謝される所か戦士達の癇癪次第でぶん殴られたりもする。
そんな理不尽な目に遭わされるのがザラの界隈で、手土産持参で礼儀正しくスタッフ派遣の依頼を行い、派遣されたオークテックにも好みに合わせたボーナスを支給するカーツは異彩を放っていた。
大概のオークテックは戦士一党への出向を嫌がるが、カーツ一党は別腹。
希望したお駄賃である映画のデータを貰って活き活きと働いているトーロンの立場は、仲間内で密かに羨ましがられるものであった。
「カーツさんはオークテックの間じゃ一番人気ですからね。
船の整備の方もすぐに人が集まりますよ」
満更お世辞でもないトーロンの本音の言葉に、照れたような笑みを浮かべるカーツを連れ、ポーロウ翁の所へ向かう。
オークテック達の雑魚寝部屋として用いられている内政区画の奥の古びた倉庫、その更に奥がポーロウ翁の寝床だ。
「長老! カーツさんが来ましたよ!」
雑巾じみた仕切り布をかき分けて狭苦しいプライベートエリアに踏み込むと、ポーロウ翁はボロボロの古い無重力寝袋から身を起こした所だった。
無重力寝袋の上であぐらをかいたポーロウ翁は、欠伸をかみ殺しながら来客を迎える。
「おう、おかえりトーロン。 カーツ坊もよう来た、元気に活躍しちょるようじゃな?」
「爺さんも元気そうで何よりだよ。 ほい、お土産」
「おお! 気が利くのう!」
琥珀色の液体で満たされた酒瓶を受け取り、ポーロウ翁は顔の皺を深くして微笑む。
早速酒瓶を開け始めるポーロウ翁に、カーツは苦笑を浮かべながら依頼を伝えた。
「帰還後のメンテナンスを頼みたいんだ。
出先でトーン09に現地改修を加えたんで、剛性チェックを念入りにな」
「ほー、現地改修。 姫様を抱えとるのにようやるのう」
「姫様の発案だったんだよ」
タブレット端末に映し出された、現地改修後のトーン09の3D映像を指先でぐるぐる回して観察したポーロウ翁は小さく唸りながら酒瓶を一口呷った。
「んー、この追加装甲の部分……どっから持ってきた?」
「略奪先でカチ合った氏族の
艦本体の方は、ラフテルの野郎が拿捕したようだけど」
「やっぱりあの鹵獲船か、上手いことぶった切ったのう!」
「……あれね、姫様がやったんだよ……」
最前線の特等席で姫の狼藉に付き合わされたトーロンが、現場の状況を身震いしながら語る。
ひとしきり話を聞き終えたポーロウ翁はゲラゲラ笑いながら膝を叩いた。
「やるのう! 今代の姫様はとんだお転婆であらせられる! いや痛快、痛快!」
姫の武勇伝をつまみに酒が進む老オークテック。
無茶苦茶な突撃戦法に付き合わされて心底肝が冷えたトーロンとしては渋面にならざるを得ない。
一方のカーツは別の所が気になっていた。
「今代、ね。 先代の姫様はどうだったんだい、爺さん」
「んー、陛下の幼い頃か。 あんまりワシら下々の前に出てこられる方じゃなかったからのう……」
「深窓の令嬢って感じだったのかな……」
若き日の女王について言葉を濁すポーロウ翁であったが、カーツは勝手にイメージを膨らませている。
腕組みして何やら妄想に耽っている雇い主を見て見ぬふりをする情けが若きオークテックにも存在した。
常日頃から姫の露骨なモーションを袖にし続けているカーツの立ち振る舞いは、女王に懸想している故とトーロンは見抜いていた。
トロフィー制度や女王からの報償など、世間一般の恋愛模様とはかけ離れた文化を持つオーク氏族であるが、映画好きが高じて他種族の文化にも詳しいトーロンはカーツの価値観をある程度理解している。
随分と難儀な道を歩んでるなあと思いつつも、トーロンはカーツの恋路を内心応援していた。
目の前で演じられる他人の恋愛事など、まさに生の映画を観ているようなモンである。
彼が大願を成就するにせよ、恋破れるにせよ、その一幕をしっかり見届け、楽しむつもりであった。
ちなみに応援はあくまで内心であり、一切口出ししたり支援したりする気はない。
どう転ぶか判らない事が味噌の未見シナリオに自ら一筆書き加えるなど、観客として余りに無作法というもの。
一人の映画狂として、トーロンにはとても受け入れられない事柄であった。
「昔の陛下の事はともかく、あの鹵獲船の方じゃが」
何やら生暖かい目をカーツに注いでいるトーロンをいぶかしげに眺めつつ、ポーロウ翁は話を変えた。
「ワシらオークテック衆に修復を命じられとってな、あの艦首部分があると助かるんじゃが……」
「やらねえよ、あれもウチの戦果だ」
「じゃよねー。 まあ適当に穴塞いで装甲板貼っつけとくかのう。 剛性がかなり落ちるが仕方あるまいて」
カーツの拒否にポーロウ翁はあっさりと頷き、また一口酒瓶を傾けた。
酒精の混じる息を吐きながら、眉根を寄せる。
「あの船な、どうも気に食わんのよ」
「何が?」
「鹵獲されたにしちゃあ、中が綺麗すぎる。
戦闘の痕跡も碌にないし、死体どころか血痕すらないと来たもんじゃ」
「放棄された所を拾ったんじゃ?」
「まだ動く大型船をあっさり捨てるもんかね?」
「……爺さん、報告はしたのかい?」
「オークテック如きが戦士の報告にケチを付けるな!との有り難いお言葉を受付のナイト様からいただいてのう……」
「おぉう……」
頭痛を堪えるかのようにカーツは小さく頭を振る。
「……俺が代わりに報告した所でラフテルを妬んでるのかって切り捨てられそうだなぁ」
「カーツさん、ナイト様連中に嫌われてますからねえ」
「爺さんは、ラフテルはどうやってあの船を手に入れたんだと思う?」
「んー……」
ポーロウ翁は酒瓶を傾け強いアルコールをもう一口喉奥に流し込むと、声を潜めた。
「ワシャ、あの船は拿捕されたんじゃなく、買い取られたんじゃないかと見ておる」
「買い取る?」
「何かを代価に、件の小氏族からあの船を買い取ったんじゃないかのう。
それなら中が汚れておらんのも説明がつく」
「買い取った船を拿捕したと言い張るのは、ちょっと戦士として有り得ないですね。
あんまりにもプライドが無さ過ぎるでしょ……」
「ただまあ、何を代価にしたのかってぇのは判らんがのう」
ポーロウ翁の言葉に、若者二人は顔を見合わせる。
小氏族に取って切り札であったろう
何を支払えば成り立つ取引なのか、そもそもラフテルがそんな価値あるものを持っていたのか。
外野で頭を捻っても結論の出ない話であった。