シノンに無理矢理ベッドに連れ込まれた翌日、少年はベッドから起き上がり一階の喫茶店に続く階段を降りる。
「おぉ、起きたか」
「あぁ。マスタートースト一つ」
「あいよ」
トーストが来るのを待ちながら少年は寝ぼけ眼に昨日の出来事を振り返ってみる。
ホロウ・エリアとは何なのか。
あそこから出ようとしない、もしくは出ることが出来ないオレンジプレイヤーの少女はいったい何者のか。
振り返れば疑問が次々に湧いてくる。
「よ!レイの字。隣大丈夫か?」
そんな最中、赤いバンダナをした野武士面の男が少年に話しかける。
「クラインか。あぁ」
少年が頷くとクラインが隣の席に座り少年の前にトーストが置かれる。
「にしても、ホロウ・エリアか・・・。お宝がじゃんじゃん眠ってそうだな!」
「・・・・・・だな。だが、その分ヤベェ敵もわんさか居るから行くならちゃんと準備してからいけよ」
「うぉ!マジか・・・。今日は覗くだけにしとくか」
「懸命だな」
少年がトーストを噛るなか隣で表情を次々に変えるクラインが立ち上がって店を出ていく。
「で、お前はどうするんだ?」
「これ食い終わったらまた行くよ。ホロウ・エリアをクリアするまでは攻略組としての黒夜叉も休業だな」
「そうか、前線が寂しくなるな」
「あのバカップルが居れば大丈夫だろ」
トーストを口に詰め込み、水を飲み干すと少年は席を立って転移門に向かおうとして走る足音が二つ聞こえてきた。
「「レイ(の字)坊!!」」
入って来たのはネズミペイントの情報屋と野武士面の男。
「ど、どうしたよ?全く予想も付かなかった異色のコンビで詰め寄ってきて」
「それがよ、レイの字!ホロウ・エリアなんて転移先何処にも存在しねぇぞ!?」
「んなアホな」
「レイ坊の事だからオイラに嘘つくとは思ってないけどレイ坊も確認のためについてきてもらうヨ」
少年は頷いて二人の後に続いて歩く。
それを眺めていた黒人のハゲ店主がハッとした顔で叫んだ。
「あの野郎、結局昨日も今日も代金踏み倒して行きやがった!」
転移門の前に着いてクラインが転移門に入って行く。
「転移!ホロウ・エリア!」
次の瞬間クラインは光に包まれて光が消えると共にクラインが現れる。
「な?こうなって俺っちも困りもんなんダ」
「・・・・・クライン、ちょっと退け」
「お、おう」
クラインを退けた少年が転移門に立つ。
「転移!ホロウ・エリア!」
少年が光に包まれ、消えていく。
「な!?」
「おいおい!レイの字が行っちまったぞ!どうなってんだ!?」
「レイ坊にしか行けない場所ってことダロ」
「んなの、ゲームとして良いのかよ!?」
二人が混乱していると再び転移門が光だし、光の中から少年が現れる。
「行けるじゃねぇか」
「レイ坊!」
少年がアルゴを見て見ると少年の目の前にパーティ申請が現れる。
「今度はオイラとパーティで行ってみてくレ。オイラ一人じゃ無理でもレイ坊と一緒なら行けるかもれないしナ」
少年がパーティ申請を承諾してアルゴとパーティになったのを承諾すると少年がアルゴに手を伸ばす。
アルゴはすかさず少年の手を掴み転移門に入る。
「「転移!ホロウ・エリア!」」
二人が光に包まれて消えていく。
ただ一人、絶賛彼女募集中の野武士面の男を置き去りにして。
管理区の転移門。
再び光だして少年と少女が現れる。
アルゴが転移門から出て管理区を見渡す。
「ここがホロウ・エリア?」
「あぁ。ここから出るならあそこから出れる」
「ほうほう・・・・。で、さっきからずっとレイ坊を睨み付けてるそちらのお嬢さんは?」
「昨日言っただろ?フィリアだよ、ってフィリア!?なんでそんなとこで座り込んでんだ!?」
少年がアルゴの言葉で後ろで座り込んで自分を睨む少女の存在に気付くとフィリアに駆け寄って背中を擦る。
「さっき来てくれたとき・・・、本当に来てくれたんだって思ったのに、またすぐに帰って、また来たと思ったら今度は女の子連れてて・・・」
「わ、悪かったって!俺も考え事しててよ、フィリアに気付かなかったんだよ」
「私って、それだけどうでもいいんだ・・・・」
「ああ!違くて・・・・」
「そうだゾ、レイ坊。男なら女の子泣かすなヨ」
「アルゴお前、面白がってない?」
フィリアを慰めようと四苦八苦している少年を見てケラケラ笑いながらちゃちゃを入れるアルゴを見てフィリアが首を傾げる。
「貴女は?」
「俺っちカ?オイラはアルゴ。そこのちび助とは昔っからの腐れ縁でナ。今日は一人じゃいつ死ぬか分からんソイツの助っ人って所だヨ」
「こぉら!テメェ!誰がちび助じゃ!俺より身長上だからって調子の乗ってんじゃねぇぞ!後俺は童貞のまま死なんわ!」
アルゴの言葉にキレ散らかす少年を尻目にフィリアはアルゴを眺める。
自分は隣にいる少年とこんな会話をしたことがない。
まぁ、会って一日も経っていないのだからだから当たり前なのだがそれでも少年とアルゴの関係を羨ましく思っていた。
そう考えている間も少年とアルゴのやり取りは続いている。
「だから、そんだけ童貞が嫌ならこの世界で良いならオネーサンが奪ってやるって何度も言ってるダロ?」
「俺はボンキュッボンのちょっと気が強い包容力のあるお姉さんに童貞を捧げるって決めてんだって昔から言ってるだろ?」
「高望みしすぎだヨ。オネーサンにしとけっテ」
「だいたい、んなムードもへったくれもねぇ誘い文句聞いたこともねぇよ!」
だいぶアダルトな内容の会話になってきていたが考え事をしているフィリアの耳には届かず更に言い合いが続く。
そして、ようやくハッとして二人の間に割ってはいる。
「落ち着いて二人とも!私はフィリア、よろしく!」
「お、おう・・・・」
フィリアの自己紹介に怯んだのか先ほどまで熱くなっていたアルゴも怯んでしまう。
「・・・・・・さて、ここの攻略を始めるか。で、全クリすればフィリアもアインクラッドに帰れるだろ」
「え・・・・・」
少年の不意の言葉にフィリアは呆然となる。
この少年は会って一日もしていない自分をこのホロウ・エリアから出そうとして再びこの地に足を踏み入れたのだ。
それがどれだけ無駄なことかも知らずに。
「よ、余計なお世話!お人好し!バカ!変態!」
「え?いきなり罵倒されたんだけど泣いても良いかな?泣いてもいいよね?」
「おー、泣け泣け。オネーサンの胸で泣き明かセ」
少年がアルゴを抱き締めて泣き真似をする。
「やっぱり変態・・・」
「ニャハハハ、レイ坊はちょっと情緒不安定でナ、まぁ、慣れろとしか言えないナ」
アルゴは少年の頭を撫でながらフィリアに笑いかける。
まるで小学生のような行動をしている少年を見ているとやはり少年に感じる何かは勘違いなんじゃないかとさえ思えてくる。
「ま、バカと短剣は使いようダ。レイ坊のジュニアは使い道は無さそうだけどナ」
「誰のジュニアが短剣だ!テメェ俺のジュニア見たことあんのかよ!槍くらいはあるわ!」
「ダガーナイフの間違いダロ?」
「アァァァァァァァァ!!!!!」
二人の言い合いはまだまだ続く。
続くったら続く。