リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第十一話 Cool Off

 夏が本格的にやってきて、気温も日中は38℃を超える猛暑日が続いている。

 そんな中、喫茶リコリコはエアコンが壊れるという大惨事が起きてしまい営業が止まってしまったのだ。

 しばらく店ができないこともあり、暇を持て余した喫茶リコリコ一同はある場所へと来ていた。

 

 

 「おぉ〜!!海だ〜!!」

 

 

 腕を高々と上げ、全身で潮風を浴びる千束。

 そう、彼女たちは今、街から遠く離れた海へと遊びに来ていたのだ。

 

 

 「本当に綺麗ですね!」

 

 「私、初めて来ました」

 

 「僕は飛行機で何度も見たことあるぞ」

 

 「見るだけかい」

 

 「はははっ、喜んでくれて何よりだ」

 

 

 この提案をしたのは誰であろう、ミカである。

 エアコンが壊れたお詫びということでこの海での出費については全て支払うと自ら申し出たのだ。

 海に行く前に、水着、ビーチボールや水鉄砲などの娯楽品も購入した。

 早速と言わんばかりに、千束はビーチサンダルを脱ぎ捨て裸足で砂浜に足を踏み入れる。

 

 

 「うわっち!あっつい、あっついなあ!」

 

 

 足を交互にあげる千束。

 それを呆れながら見ていたたきなは脱ぎ捨てていたビーチサンダルを千束に渡し履かせた。

 

 

 「まったく、いくら何でもはしゃぎすぎです」

 

 「だってテンション上がるじゃん!海だよ!?夏だよ!?遊ばなくっちゃ!!」

 

 「子供ですね」

 

 「17歳はまだ子供なんですよ〜だっ!」

 

 

 淡々と突っ込むたきなに対し、千束は頬を膨らませる。

 

 

 「リコリスは自由がなさそうだもんな」

 

 「リコリスどころか、DA全体ね。休みなんてかけらもありゃしない」

 

 「そうなのか?」

 

 「ええ。リリベルも基本は任務と訓練で日程が埋まりますから」

 

 「つまらない人生を送っていたんだな」

 

 「そう言われても仕方ないですね」

 

 

 正直なところ、春陽にとってはそんなことをどうだっていい。

 大切な人がそばにさえいてくれれば───────。

 その存在を失ってからは色褪せた、まるで灰色の世界にいるような感覚に陥り淡々と日々を過ごしていた。

 喫茶リコリコのみんなが彼を変えたのだ。

 

 

 「時間も惜しいですし、みなさん着替えてきたらどうですか?」

 

 「はーい!行ってきまーす!」

 

 「除くなよ?」

 

 「しませんよ!」

 

 「私のエッロい水着楽しみにしとけよ♪」

 

 「ミズキの水着姿は誰も期待してないって」

 

 「何を言っとるか貴様!!」

 

 

 女性陣は更衣室へと向かい、男陣は既に下に着ていたため、場所を確保してから服を脱いだ。

 ミカは春陽の体つきを見て感心の目を向ける。

 

 

 「いい筋肉のつき方をしてるじゃないか」

 

 「えっ、そうですか?」

 

 「ああ。ちょっと触ってもいいか?」

 

 「ええ。もちろん」

 

 

 ミカは春陽のふくらはぎを触る。

 次は腹筋、背筋、上腕二頭筋と全身隈なくチェックする。

 元訓練官の血が騒ぐんだろう。

 

 

 「いい身体だ。これなら全身の力を100%発揮できる」

 

 「ミカさんに褒められるとやはり嬉しいですね」

 

 

 見た目の優しさとは裏腹に、強靭な春陽の肉体。

 8つに割れた腹筋を中心に、それぞれの筋肉も満遍なく鍛え上げ、適度に肌が焼けているため見劣りすることもなく完璧に仕上がっている。

 まさに理想と言える体つきだ。

 

 

 「ジムで鍛えてるのか?」

 

 「自前ですよ。DAでの訓練をそのまま家でも続けているだけです」

 

 「なるほど。相当苛め抜いたんだな」

 

 

 春陽のストイックさに再度感心するミカ。

 ビーチパラソルを立て、女性陣を迎え入れる準備を進めていると、小さな影が真っ先に姿を現した。

 

 

 「よお。待たせたな」

 

 

 中身は大人、外見は子供のクルミは店の服と同じ黄色のワンピース姿だ。

 もちろん、水に濡れても平気である。

 

 

 「可愛らしいですよ。クルミさん」

 

 「……………そうか」

 

 

 和かな春陽に対し、珍しく頬を赤く染め照れるクルミ。

 その様子を微笑ましく二人は見ていた。

 

 

 「おっ待たせ〜!」

 

 「すみません。準備に手間取ってしまって」

 

 「あらっ、二人ともいい感じじゃない」

 

 

 相変わらず高テンションの千束は、赤を基調としたオフショルダービキニ。

 長い黒髪を一つに束ねたたきなは、青のシンプルなリボンデザインの水着。

 ミズキは大人っぽさ満点の黒のレースアップ。

 それぞれの性格がそのまま現れていた。

 

 

 「どう?先生?」

 

 「ああ。似合ってるよ」

 

 「ちょっと千束〜。おっさんには刺激が強すぎじゃないかしら?」

 

 

 揶揄うようにミズキは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 「どっかの誰かさんみたいに男に見せびらかしたいだけの人とは違いますよ〜」

 

 「それの何がいけないのか教えてもらおうか?ええ〜?」

 

 

 二人は額が当たる寸前まで近寄り、再び喧嘩モードに突入する。

 

 

 「水着って思っていたより布が少ないんですね。私もクルミのようなデザインにすればよかったです」

 

 「ダーメだって!たきなは今のままの方が絶対可愛いんだから!」

 

 「そうですか」

 

 「残念だが、僕は幼児体型だからそんな水着は着れない」

 

 「まあまあ。クルミさんも似合ってますから」

 

 「………………そうか」

 

 「あっ、コイツ照れてやんの〜!いい年して一回り年の違う男の子に照れてんだ〜!」

 

 「うっさい三十路!!」

 

 「まだ20代だっつうの!!」

 

 

 ミズキもいつもに増して楽しそうだ。

 たきなは相変わらずだが、クルミもいつもと違った表情を見せ新鮮な気持ちにさせられる。 

 

 そして、残りの準備を全員で済ませてようやく海に入る。

 

 

 「一番、錦木 千束!参ります!!」

 

 

 一目散に駆け出し、海に飛び込む千束。

 それに続き、たきな、クルミ、春陽が続く。

 はじめて味わう海の感触、匂いは17に成長した子供たちにとって真新しい経験となった。

 

 

 「………………ぷは〜!あっはは!海ってしょっぱい!」

 

 「千束に続いたはいいものの、浅すぎましたね」

 

 「僕も砂まみれだ」

 

 「あははっ!楽しいですね」

 

 

 大はしゃぎする四人に対し、大人な二人はビーチチェアに腰を下ろしサングラスをかけその様子を眺めていた。

 

 

 「ミズキは行かなくていいのか?」

 

 「もう子供じゃないもの。それに、日に焼けたら私の美貌が半減しちゃうでしょ?」

 

 「……………そうだな」

 

 「それに私がここにきた1番の目的は()よ。今、声をかけられるのを待ってんのよ」

 

 「品のかけらもない」

 

 

 目当ての人間が来るわけがないと、ミカは心の中でそう確信する。

 

 

 「ねえねえ!何して遊ぶ!?」

 

 

 楽しそうな様子な千束。

 そのキラキラした瞳はまさに純粋な子供そのものだ。

 

 

 「私はなんでも」

 

 「僕もだ」

 

 「ボクもみなさんにお任せします」

 

 「えぇ、みんな適当だな〜…………それじゃあ、水鉄砲で遊ぼう!」

 

 「訓練ですか?」

 

 「んなわけないだろい」

 

 「おい千束。春陽は撃てないのにどうするつもりだ?」

 

 「ふっふっふ〜。そんなこともあろうかと、こんなものを用意してま〜す」

 

 

 ミカたちの元に戻り、カバンの中をゴソゴソとすると剣身のない、西洋剣のような形をした物を取り出した。

 それを春陽に渡し、残りのメンバーには水鉄砲を渡す。

 

 

 「千束ちゃん。これは?」

 

 「その名も、『ウォーターブレイド』!」

 

 「厨二クサいな」

 

 「名前はともかく、これすっごいんだよ?なんか、中の機械で水を凝固?させてそれを刀として使用できるらしいんだって」

 

 「そんなものまであるんですね」

 

 「それで、これでどうやって遊ぼうと?」

 

 「相手に水をぶっかけた人が勝ち!どう?単純でしょ?」

 

 

 ニッと白い歯を見せて笑う千束だったが、他の三人は微妙な反応を見せる。

 

 

 「それ、千束に有利すぎでは?」

 

 「銃弾を躱すようなやつに対して水をぶっかけるなんて不可能だろう」

 

 「まあフェアじゃないよね」

 

 「ちゃんとハンデもつけるから!お願い!」

 

 「仕方ないですね…………」

 

 「なら僕は審判をしよう。負けた奴は勝った奴に昼飯奢りで」

 

 「おおーいいじゃん。やってやんよ!」

 

 「本当にいいんですか?クルミさん」

 

 「僕は体を動かすのは嫌いだ。心配するぐらいなら、千束を倒してきてくれ。アイツに何か奢らせるんだ」

 

 「わかりました。精一杯頑張ります」

 

 

 クルミの激励を受け、春陽は立つ。

 ルールはこうだ。

・個人戦で行い、負けた人間は優勝者に昼飯を奢ること。

・銃は2丁まで使用可能。

・範囲は半径5メートルの円の中とし、外に出る、もしくは水に濡れたら失格。

・千束はその半分しか動くことができない。

・それぞれに500mlのペットボトルを1本渡し、リロードも可能だがそれを空にしても失格。

 

 

 「よぉ〜し。ファーストリコリスの力見せてやんよ」

 

 

 千束は一丁のみだが、少し大きめの威力と飛距離重視の水鉄砲を選んだ。

 本人曰く『カッコいいから!』らしい。

 

 

 「これ、結局は訓練ですよね?」

 

 

 たきなは二丁の小さめの水鉄砲を選んだ。

 普段自分の使っているものと同じ質量、同じ形で挑むそうだ。

 

 

 「そう考えていいと思うよ。ボクも負けるつもりは毛頭ないから」

 

 

 春陽は千束から受け取ったウォーターブレイド。

 薙刀より圧倒的に軽く違和感を覚えている。

 

 三者三様だが一番有利なのは、たきなだろう。

 千束のようなハンデもなければ、春陽のように近距離戦をしかける必要もない。

 この中で一番安定して戦える。

 逆に一番不利なのは春陽だ。

 彼の持ち味は類い稀なる身体能力による接近戦。

 しかし、この砂浜の上では機動力は落ち一番運動量が多くなる。

 ある意味男女のハンデを強いられていることになっているのだ。

 

 

 「それじゃあ始めるぞー。よーい…………始め!」

 

 

 クルミのスタート合図と同時に全員が一斉に動く。

 たきなは軽快な動きで縦横無尽に駆け回り春陽を狙い撃ちする。

 春陽はウォーターブレイドで全て防ぎながらたきなに斬りかかろうとするが、別方向から千束に狙われ思うように動けずにいる。

 

 最初はほぼ互角と言ったところだろう。

 

 

 「やるなあ、春陽」

 

 「千束のそれ、水鉄砲というより光線では?」

 

 「当たったらひとたまりもなさそうだね」

 

 

 数秒立ち止まった後、再び3人は交戦する。

 その様子を、売店で買ったアイスを齧りながらクルミは遠い目で見ていた。

 

 

 「目立ちすぎだろ、アイツら」

 

 「楽しそうでいいじゃないか」

 

 「ホンット、こんなところまで来て体動かすなんてバカな連中ね」

 

 「お前は目的を果たせたのか?」

 

 「ここにいることが何よりの証拠だよっ!」

 

 「気の毒に」

 

 

 ミカの言う通り、ミズキは未だ声をかけられていない。

 しかし、側からこの3人が揃うところを見ると、ミカは父親でミズキとクルミはその娘のように見え近づき難い雰囲気がある。

 ミカは始めからそれを予感していたが、ミズキが何も言わずにいるからずっと黙っているのだ。

 クルミも、この場に来てすぐ気づいたが彼女の性格上話すことは絶対にない。

 相手がミズキなら尚更だ。

 

 

 場面は切り替わり若い三人衆へ。

 15分ほど全員がノーダメージで動き回っていたが、ある人物の動きに異変が生じている。

 

 

 「はあ………………はあ……………」

 

 

 息を切らしながら戦い続けるたきな。

 普段は踏み慣れた地面で任務をこなすため、はじめて味わう砂浜の足場の悪さに体力を奪われたのだ。

 それにこの炎天下。

 灼熱の気温がさらに彼女を苦しめているのだ。

 

 

 「あらあら、もうバテちゃったのかな?たきなちゃんは?」

 

 「仕方ないよ。暑いもんね」

 

 

 それに対し二人はまだまだ余裕の表情。

 たきなも負けじと水を発射するが、全てをかわされ攻撃が当たらない。

 その攻撃がなくなった瞬間を狙い、春陽は一瞬でたきなとの距離を詰め足を斬った。

 もちろん水であるため外傷が出ることはない。

 この瞬間、たきなの敗北が決定した。

 

 

 「はぁ、はぁ………………参りました」

 

 「たきなちゃんの分も頑張って優勝するよ」

 

 「たきな〜!応援よろしく〜!」

 

 

 不服そうにたきなはクルミたちの元へ戻っていった。

 これで一騎討ち。

 勝つのはファーストリコリスか、身体能力お化けか。

 ここで春陽が提案を持ちかける。

 

 

 「千束ちゃん、そんなに狭かったら動きづらいんじゃない?」

 

 「そんなことないけど、どうして?」

 

 「ハンデなしでやろう」

 

 「おお、いいね〜♪その心意気、のった!」

 

 

 二人が正面を向き対峙する。

 半径5メートルの決闘。

 今再び、再開する。

 

 

 「どりゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 先手必勝と言わんばかりに、千束は水鉄砲の中に入った水をぶっ放す。

 たきなが光線と揶揄したその威力は、春陽のウォーターブレイドまでも貫通してしまうだろう。

 そう察知した春陽はその場に屈んで躱すと、そのまま千束に向かって走り出す。

 

 

 「まだまだあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 残りの水を全て出し切る勢いで千束は引き金を引き続ける。

 ファーストリコリスといえど射撃技術はたきなに劣るため、なかなかその姿を捉えられない。

 あっという間に春陽は千束まで残り数メートルまで迫る

 

 

 「ちょいちょいちょい!待っ…………!!」

 

 「終わりだよ!」

 

 

 それに構わず春陽は剣を振るおうとする。

 

 

 「…………………なーんてね」

 

 

 ニッと笑ってみせた千束は銃を手放し、胸の内に隠してあった水風船を二つ取り出した。

 

 

 「これでもくらえ!」

 

 

 投げつけられた水風船は春陽の顔に目がけて一直線に飛ぶ。

 一つは刀で上空に弾き、もう一つは割れないように優しく手で包みキャッチした。

 

 

 「ハッハッハ。こりゃ勝てねぇわ」

 

 

 万事急須、と言わんばかりに千束は両手をあげ降参のポーズを見せる。

 

 

 「そんなものまで隠していたとは驚きだったよ」

 

 「アンタの動きの方が驚きだわ」

 

 「クルミさんの頼みだからつい本気を出しちゃった。……………あっ、上部注意だよ」

 

 「えっ?……………うえっ」

 

 

 先ほど上空に弾いた水風船が綺麗な軌道を描き、千束の頭に命中した。

 本来奪った水風船でトドメを刺すつもりが、思わぬ形で決着がついた。

 

 

 「もしかして、狙った?」

 

 「フフッ。まさか」

 

 

 千束が疑うのも無理はない。

 だが、紛れもなく偶然である。

 

 

 「ちぇ〜、結局は春陽に奢りか〜」

 

 「ボクは大丈夫だよ。代わりに、クルミさんに奢ってあげて」

 

 「なんでクルミ?」

 

 「約束したからね」

 

 「……………はっは〜ん♪」

 

 

 顎に指をおき、何かを察した様子の千束。

 

 

 「さては貴様、好きだな?」

 

 「な、なにを!?」

 

 「大丈夫!照れなくていいって!千束お姉さんに任せなさい!」

 

 「ち、ちが……………!」

 

 

 春陽の言い分も聞かず、千束は大きな声でクルミを呼ぶ。

 

 

 「クルミ〜!王子様が奢る権利を譲りたいってさ〜!」

 

 「王子様?」

 

 「ちょっと、千束ちゃん!」

 

 「隠さなくたって………………うえっ!」

 

 

 開いた口を塞ぐように、春陽は持っていた水風船を千束の顔に向けて全力で投げた。

 怒った千束は春陽を裸絞で捉える。

 

 

 「いい度胸だな〜貴様」

 

 「ごめん…………不可抗力だったんだ…………」

 

 「何してるんだ?」

 

 

 状況が理解できず、首を傾げるクルミ。

 

 

 「ねえ、お昼何食べたい?私が奢るよ」

 

 「ん〜。春陽は?」

 

 「えっ?ボクですか。そうだな〜…………焼きそばとかどうですか?」

 

 「じゃあ僕もそれで」

 

 「はいはい、焼きそばふたつね。たきな〜!焼きそば買いに行くよ〜!」

 

 「わかりました!」

 

 

 四人で売店に行き、ミカとミズキの分も焼きそばを買い全員で味わった。

 その後も遊び続け、日が落ち車に乗り込んだ時には全員が眠りにつきそれをミカは嬉しそうに見つめていた。

 

 そして──────運転手であるミズキは血の涙を流していた。

 

 

 「結局誰からも声をかけられなかった……………ちくしょー……………」

 

 

 ミズキの結婚はまだまだ先になりそうだ。




現実の方もすっかり秋に差し掛かりましたね。

季節の変わり目はよく体調を崩すので、皆さんもお気をつけて。


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