リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第十ニ話 Invitation

 「いらっしゃい。どうぞ中に入って」

 

 

 時刻は12時より少し前。

 春陽は大切な客人を迎え入れる。

 

 

 「お邪魔しま〜す!」

 

 「お邪魔します」

 

 「春陽の私服姿ってなんか新鮮だねー」

 

 「私服と言ってもただのジャージだけどね」

 

 

 千束とたきなは手土産を持ち、中へと入る。

 喫茶リコリコから歩いて5分足らずにある、とあるマンション。

 余計なものは置かないシンプルな1LDKの部屋で、汚れなど一切なく普段から掃除しているのがすぐにわかった。

 二人がリビングへと着いたと同時に、小部屋から小さな影が姿を現した。

 

 

 「よお。狭い家だが自由にくつろいでくれ」

 

 「はははっ。それをクルミさんが言いますか」

 

 

 まるで何年もこの部屋に住んでいるかのような落ち着きっぷりだ。

 

 

 「いやいやなんでクルミが既にいるの」

 

 「同棲を始めたんですね」

 

 「「違う(よ)!!」」

 

 

 二人して全力で否定する。

 

 

 「春陽にネット環境を整えてくれと頼まれてな」

 

 「クルミさんに任せたら間違いないですから」

 

 「ネットもなしにどうやって暮らしてきたんですか?」

 

 「人を原始人みたいに言わないでよ、たきなちゃん。まあこの家は就寝する時だけ使ってるようなものだからね」

 

 

 春陽にこれといった趣味はない。

 リコリコに来てからはお菓子作りを始めたが、それ以前までは本当に何もなかったのだ。

 その理由の一つとして、休みがなかったことが挙げられる。

 リコリスとは違い、隠密を極めたような部隊であるリリベルは訓練と任務に日々を費やす。

 そして全員が孤児な為帰る親元がない為、夏休みや正月休みといったものも存在しない。

 だからこそ強く、リコリスより重要な任務に就くことが多いのだ。

 

 

 「そんな人がなんで急にネットが必要になったの?」

 

 「前からちさとちゃんのやってるゲームが気になっててね。買ってみたんだ」

 

 「これだ」

 

 

 クルミが掲げたその手には、ちさとが閉店後によく遊んでいるVR射撃ゲームの本体とソフトが握られていた。

 それをみて千束は目を輝かせる。

 

 

 「おお〜!春陽もデビューか!?」

 

 「春陽まで染まってしまったんですね」

 

 「いざやろうと思ったけど、一人しかできなくて…………」

 

 「コイツ、本体があれば世界中の人間と対戦できると勘違いしてたんだ。これじゃあただの筋肉バカだな」

 

 「酷いですよぉ、クルミさん!」

 

 

 これも、リリベルにいた時の弊害といったところだろう。

 世間と隔離されているのでこういった娯楽とは無縁だ。

 

 

 「せっかくなのでみんなでやりましょう!」

 

 

 春陽の提案で個人戦を行うことになった。

 もちろんただのゲームコントローラーでの操作のため春陽も銃を扱えるはずだが、あえて近接主体の剣を選択した。

 ゲームといえど、プレイスタイルは一緒らしい。

 経験では千束が優っているが、クルミもなかなかの手練れだ。

 たきなは多少やったこと程度だが、センスはこの中で一番高い。

 誰が勝つか、全くわからない。

 

 

 「負けたらどうする?」

 

 「じゃあ全員にお昼ご飯作ろう!」

 

 「食材は私と千束が持ってきたので問題ないですね。賛成です」

 

 「僕もだ」

 

 「もちろんボクもOKです」

 

 

 四人全員が承諾したところでゲームは開始された。

 四隅に散らばった彼らが中央に会し、一斉に撃ち合う。

 混戦が期待されていたが、思わぬ人物が徹底攻撃を喰らっていた。

 

 

 「えーっと、このボタンが攻撃で………………これが防御……………」

 

 

 操作方法に躓き、あっという間にHPを削られた春陽が脱落となった。

 

 

 「あらら、負けちゃった」

 

 

 現実世界(リアル)仮想空間(バーチャル)では、やはり実力が噛み合わなかったらしい。

 

 

 「えっ!もう負けたの!?」

 

 「そう言いながら春陽を集中的に狙ってましたよね」

 

 「き、気のせいだよ〜」

 

 

 口を尖らせシラを切る千束。

 

 

 「安心しろ春陽。海の時の借りは必ず返してやる」

 

 「頼もしいですね。お願いします、クルミさん!」

 

 

 これもゲームの面白いところだ。

 現実とは立場が完全に逆転し、クルミの小さい背中がいつもより大きく逞しく見える。

 

 

 「くっ、やるなぁ」

 

 「まだまだこれからだぞ」

 

 「私も負けません」

 

 

 3人がそれぞれHPを削り合い一歩も引かない状況。

 長い決戦の末勝利したのはクルミだった。

 千束とたきなが撃ち合ってるとみるや一人静かに高所へと移動し、上から二人の頭を撃ち抜いたのだ。

 敵の目を掻い潜り戦うその動きは春陽そのものだった。

 

 

 「宣言通り、借りは返した」

 

 

 クルミは春陽の方を向き、ピースする。

 表情にはあまり出ていないが、約束を果たせて嬉しい様子だ。

 

 

 「さすがです、クルミさん」

 

 

 春陽は和かに答えた。

 

 

 「ちっきしょー!もう一回だ!」

 

 「キリがないので私はもう大丈夫です」

 

 「なに〜!ならクルミ!もう一度!」

 

 「僕に勝とうなんて100年早いわ!」

 

 

 千束の挑戦をクルミは真っ向から受け入れ再びゲームの世界へと舞い戻った。

 これは、話しかけても邪険にされるのがオチだろう。

 そう考えた春陽は何も言わず、冷蔵庫の中を開け何を作るか一人考えていた。

 

 

 「手伝いますよ」

 

 「ああ、大丈夫。座ってて」

 

 「ですが………………」

 

 「ゲームで負けたからね。ちゃんと守らないとフェアじゃない」

 

 

 頑なに断る春陽のそばで、千束が悔し声を上げクルミが高々に笑う。

 どうやらまたクルミの勝ったらしい。

 肉、魚、野菜、そして各調味料。

 豊富に揃った食材たちをみて、春陽が手に取ったメイン食材は肉と野菜。

 そして数多くの香辛料とラー油などなど…………どうやら中華料理を作るみたいだ。

 

 フライパンに油を引いて、火をかける。

 

 その様子をテーブルからたきなが覗いていた。

 

 

 「手慣れてますね」

 

 「一人暮らしを始めてから作るようになったんだ。寮は食堂があったから全然作らなかったんだけど」

 

 「なんで寮を出たんですか?」

 

 「そうだなぁ……………寮がリコリコから遠いっていうのもあったけど、転勤になったのを気に新しく私生活もスタートさせようと思ってね。今はそうしてよかったって思うよ」

 

 

 小さく笑みを浮かべながら話す春陽には一切後悔の念が見えない。

 二人で話している間も淡々た調理を続ける。

 

 

 「春陽はずっとDAにいたんですか?」

 

 「ずっとじゃないよ。ボク自身あんまり記憶にないんだけど、DAに引き取られる前まではある施設にいたんだ」

 

 「ある施設?」

 

 「今から10年は前かな。一つ上のお姉ちゃん、といっても血は繋がっていない仮の姉弟なんだけど、二人でそこで育ったんだ」

 

 「へぇ。そのお姉さんは今どこに?」

 

 「……………………」

 

 「…………………?」

 

 

 調理に集中、しているわけではなくたきなのその質問に口を閉ざした。

 一品目が完成しお皿に移すと同時に春陽は思い口を開いた。

 

 

 「………………死んだよ」

 

 「………………あっ」

 

 

 たきなは察したように口を開けた。

 春陽が暴走したその日の夜、眠りにつく彼のそばでミカからその悲しい過去を聞いたことを思い出したのだ。

 

 

 「すみません、私……………」

 

 

 深々と頭を下げるたきな。

 

 

 「いいんだよ。もう乗り越えたことだから。それに─────」

 

 

 完成した品をテーブルの上に置き、飾られた写真立てにそっと触れる。

 

 

 「彼女は……………詩音は、ボクの心の中でずっと生き続けている。なんて、ちょっとカッコつけすぎたね。あははっ」

 

 

 ごまかすように笑って見せる春陽。

 臭いに釣られてか、ゲームに夢中になっていたはずの二人もいつのまにか席についていた。

 

 

 「いや〜、こんな優男に思ってもらえるなんてお姉さんも幸せ者だな〜」

 

 「春陽。よかったらその話もっと聞かせろ」

 

 「わかりました。さあ、召し上がれ」

 

 

 テーブルの上に置かれたのは回鍋肉。

 焼かれた野菜と豚肉の香ばしい香りが食欲をそそる。

 三人は手を合わせ、一斉に食べる。

 

 

 「うまっ!」

 

 「美味しいです」

 

 「春陽〜。じゃんじゃん作れ〜」

 

 「かしこまりました!」

 

 

 その後も春陽特製の中華料理を味わい、堪能する女性陣。

 彼もまた、自分の作った料理で喜んでもらえて本望だと喜んだ。

 

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

 窓から外を覗くと、陽が完全に落ちようとしていた。

 あれからまた遊び尽くした四人だったが、腹が膨れ眠気の増したクルミとたきなが、すうっ、すうっ、と寝息を立てていた。

 その様子を微笑ましそうに二人は見ている。

 

 

 「全く、お子ちゃまなんだから」

 

 「クルミさんは特にそう見えるよね」

 

 「それ本人に言ったら怒るぞ〜?」

 

 「まさか。そんなこと言わないよ」

 

 

 千束と春陽は仕事を共にする間柄ではあるが、サシで話したことは実は少なかった。

 いい機会だ、と思った春陽はケトルで湯を沸かし、インスタントのコーヒーと馴染ませ、それを注いだカップを千束に渡す。

 

 

 「サンキュッキュッ〜♪」

 

 「インスタントで申し訳ないけど」

 

 「全然〜。私も家だと同じだし」

 

 

 二人はテーブルのそばに置いてある木椅子に腰を下ろす。

 

 

 「楽しそうに笑ってるね」

 

 

 千束は顔を写真たての方に向ける。

 

 

 「詩音がそばにいたらなんでも楽しかった。どこにいてもくっついていたからきっと彼女も困っていたと思う」

 

 「そんなことないでしょ〜。慕われるのって結構嬉しいことだからね〜」

 

 「千束ちゃんはずっとDAにいたんだよね」

 

 「そだよ。今私が生きていられるのは先生と、ヨシさんのおかげ」

 

 

 首にかけてあるチャームをぎゅっと握る千束。

 

 

 「……………………?」

 

 

 春陽はある違和感に気づく。

 

 

 「それ、よく見せてくれないかな?」

 

 「えっ?このチャーム?」

 

 「うん。お願い」

 

 「別にいいよ〜」

 

 

 千束はチャームを首から外し、春陽に手渡す。

 そのチャームを、写真立ての横に置いてある割れたチャームと並べてみる。

 

 

 「………………同じだ」

 

 

 ずっとなんなのかわからなかったその正体を知り、春陽の頭にある疑問が浮かび上がる。

 

 

 (もしかして……………ボクと詩音がいた施設って……………)

 

 「春陽?どったの?」

 

 「ねえ、千束ちゃん。これとこれ、どう見える?」

 

 

 二つを掲げ彼女に見せる。

 

 

 「あれ、同じだ。春陽も持ってたんだ」

 

 「いや、厳密にいえば()()()()()()()……………」

 

 「じゃあ誰の?」

 

 「………………詩音だ」

 

 

 死ぬ間際まで詩音が大事そうに持っていた遺品。

 春陽が回収する頃には既に半分に割れ、それがなんなのかはっきりとわからなかったのだ。

 これは、アラン機関が支援した人間の証。

 春陽と詩音が幼い頃いた施設とは、アラン機関が所有するどこかということになる。

 では、春陽もアランチルドレンの一人?

 だとしたらなぜ春陽はチャームを持っていないのか?

 謎が一つ明かされてから、次々と新たな謎が浮かび上がってくる。

 

 

 「ごめん、ありがとう」

 

 「どいたしまして〜」

 

 

 持っていたチャームを千束に返すと、彼女は再び首にかける。

 

 

 「じゃあ、春陽もお姉さんもアランチルドレンだったってわけだ。まさかこんなところに繋がりがあるとは驚きだな〜」

 

 「…………………違う」

 

 

 ひょうきんに話す千束に対して、春陽は重苦しい表情を浮かべている。

 

 

 「ボクは………………優秀なんかじゃない。詩音の方が、ずっと──────」

 

 「動くんじゃねぇ!!」

 

 「殺されたくなかったら、両手を後ろに組んで膝付け!」

 

 突如の出来事だった。

 鍵をしていたはずの扉が開かれ拳銃を所持した男二人が部屋に押し寄せてきたのだ。

 春陽と千束は驚いた様子を見せるもすぐに平常心へと戻り、春陽は片方の男の鳩尾を拳で殴りつけ、千束は男の肩を掴み顔を膝蹴りした。

 その場ですぐに拘束し、話を訊く。

 

 

 「一体何しに来たんですか?」

 

 

 春陽の問いにそっぽを向く二人。

 

 

 「答えないと、撃っちゃいますよ〜」

 

 

 和かな表情で非殺傷弾の入った拳銃を二人に向けると男たちは観念したかのようにポツリポツリと話し始めた。

 

 

 「依頼されたんだ」

 

 「誰に?」

 

 「さあ。名前も顔も知らねぇ」

 

 「嘘つくと、遠慮なく引き金引くからな〜小悪党」

 

 「本当だ!ただ、金に困ってるなら仕事を手伝えってネットの掲示板で募集してたからそれにのっただけだ。本当だ!!」

 

 

 必死に思いを伝える男たち。

 嘘を見破る判断材料がないと考えた春陽は二人の縄を解いた。

 

 

 「もう帰っていただいて結構です。そのかわり、あなた方の依頼主に伝えてください。次同じことをしたらこっちから仕掛ける、と」

 

 「わ、わかった。アンタらの言う通りにする」

 

 「約束ですよ?」

 

 

 二人の男はそそくさと部屋を出た。

 この一連の事件を知らずに、未だ二人は夢の中にいる。

 外はもう真っ暗だ。

 

 

 「どうする?夜も遅いし泊まっていく?」

 

 「えっ。まさか、私たちにあんなことやそんなことを?」

 

 「あんなことやそんなことって?」

 

 「そ、それは言葉通りよ」

 

 「よくわからないなあ」

 

 「乙女に下ネタ言わせるな!バカっ!」

 

 

 本気で理解できていない春陽に千束は顔を赤くして怒る。

 これもリリベルにいた弊害…………ではなく、ただ単に春陽が疎いだけだ。

 その後、無理やり起こされたたきなとクルミは眠そうな目を擦りにらそれぞれ家路についた。

 

 

 一方その頃ロボ太宅にて。

 真島とその部下と共にガラス越しにドローンで撮影していた映像を見ていた。

 

 

 「そうそうコイツだ。髪の白い方は」

 

 「もう一人に見覚えはないのか?」

 

 

 ロボ太の問いに、真島は思考を巡らせる。

 あの時対峙した男は、もっと殺気に溢れた狂人だったはず。

 確かにいい動きはするが真島が気にするほどではなかった。

 

 

 「何かタネがあるかもしれないな」

 

 「へっ?」

 

 「明日ちょっくら聞いてくるわ」

 

 「聞くってまさか、奴らと接触する気か!?」

 

 「ああ。いくらここで考えたところで所詮は机上の議論だからな。本人に聞いたほうが早い。てことでハッカー。援護頼むぜ」

 

 

 真島はそう言い残し、一人部屋を出た。

 




次回は過去編かな?

春陽の言う、詩音さんについて言及したいと思います。
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