リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第十四話 Tragic Affair

 DAの生活を始めて3年が経過し、二人はより大きくなり順調に成長していくと同時に生活に変化が訪れた。

 それが、本部からの転勤だ。

 詩音は数々の偉業を成し遂げ、史上最強のリコリスである錦木 千束に並ぶ存在として本部から高い評価を受けていた。

 しかし、彼女たちが接点を持つことは決してなかった。

 なぜなら千束は関東で、詩音は関西で活動していたからだ。

 

 今二人は、大阪の支部にいる。

 

 

 「それじゃあ、いってきます」

 

 「うん。気をつけてね」

 

 

 いつも通り詩音を見送る春陽。

 彼女からは『家から勝手に出ないこと』、『電話には必ず出ること』、『隠し事をしないこと』を口すっぱく言い聞かせた春陽はその言いつけをしっかり守っていた。

 その一方で、彼自身思うところがあったのだ。

 

 

 「詩音に守られてばかりじゃいられない。ボクももっと強くなって、ずっとそばにいてくれている詩音を今度はボクが守る存在になる!」

 

 

 そう意気込み春陽は独学でトレーニング方を編み出し日々汗を流している。

 その成果は体つきで現れ始め、細く弱々しかった春陽の体にはすっかり筋肉がつき見違えるほど逞しくなったのだ。

 

 しかし、その自信はすぐに打ち砕かれることとなる。

 

 夕飯の買い出しに行っていた最中、強面の男と肩がぶつかってしまい怒らせてしまった春陽は必死に謝り続けたが、許してもらえず路地裏に連れていかれリンチされてしまったのだ。

 それを救ったのは他の誰でもない詩音だった。

 電話に出ない春陽を心配してGPS機能を使い探し出したところその光景を見てしまった。

 かつて見せたことのない鬼の形相で男たちに暴行を加え、病院送りにしてしまったのだ。

 

 

 「ごめん、詩音………………」

 

 「私は良いの。それより、怪我してない?」

 

 「うん。なんともないよ」

 

 「本当に?たくさん殴られたんじゃないの?」

 

 「大丈夫。全然痛くなかったから」

 

 「そう………………もう、無理はしないでね」

 

 

 優しく春陽を抱く詩音。

 涙を流し本気で心配していた詩音とは対照的に、春陽は強い眼差しを彼女に向けある決意を口にする。

 

 

 「ねえ、詩音」

 

 「なに?」

 

 「ボクも詩音みたいになりたい。詩音を守れるようになりたい。だから……………リリベルに入って強くなりたいんだ」

 

 「……………ダメ。あなたは私が守るの」

 

 「嫌だ!これ以上…………弱い自分でいたくないんだ!」

 

 

 意志が弱く、何事も自分で決めることのできなかった義弟が初めて自分に意見した。

 そのことが、詩音にとってとても嬉しいと感じると同時に寂しさもあった。

 成長した春陽に対し、詩音はこれ以上否定はできなかった。

 

 

 「わかった。私から話は通しておくから。頑張ろう、一緒に」

 

 「うんっ!」

 

 

 翌日から春陽はリリベルに入隊することが決まり、同居生活も終わりを迎えた。

 互いの寮は距離が離れていて会うことは難しくなったが支給された携帯でどこにいても通話はできるし訓練する場所は同じだから休憩の合間を縫って少ない時間ながら会うことも可能だった。

 二人にとってなんの弊害もない。

 離れていても二人の絆は簡単に引き裂くことはできないのだ。

 

 

 そこからさらに数年が経過し、詩音はより一層成長を遂げ千束を超える活躍を見せた。

 しかし、それを遥かに上回る実績を残したのは春陽だった。

 入隊直後から頭角を現し最速でサードからセカンドへ昇格すると、射撃項目、そして身体能力においてこれまでのリリベル史上最も高い数値を叩き出したのだ。

 その噂は瞬く間に広がり、詩音の元へもすぐに届いた。

 

 

 「春陽も強くなったのね。誇らしいよ」

 

 「実感は全くないなあ。そんなにすごいことなのかな?」

 

 

 ある日の訓練の休憩時間に、二人は誰の目に留まることのない建物の影にあるベンチに腰を下ろしている。

 二人が義理の家族ということは、誰も知らない。

 

 

 「もっと自信を持って。春陽はすごいんだから」

 

 「詩音にそう言ってもらえるだけで嬉しいよ」

 

 「よしよしっ。春陽はすごいすごい!」

 

 

 和かに笑う春陽と誰よりも嬉しそうな表情を浮かべ春陽の頭を撫でる詩音。

 

 

 「ねえ春陽。メガネってかけた事ある?」

 

 「ないけど、それがどうかしたの?」

 

 「頭が良さそうな顔をしてるからメガネも似合うだろうなって思っただけよ。伊達でもいいからかけてみたらどう?」

 

 「検討してみるよ」

 

 

 春陽はオシャレだとかには興味がない。

 服もジャージばかりで変わり映えはないし、かつて施設にいた時も服を選んでいたのは詩音だったのだ。

 

 

 「初めての任務は明日だっけ?」

 

 「うん。大阪にいるリリベルの3分の1が絡む大きな任務らしいよ」

 

 「そっか〜。春陽もとうとう大人になるんだねぇ」

 

 「…………………」

 

 「どうしたの?」

 

 「ボクは……………人を殺したくない」

 

 「えっ?」

 

 「たとえ悪人だとしても、人は殺したくないんだ。もう二度と悪事に手を染めないように、多少の痛みを与えるだけで良い。殺す必要はないと思うんだ」

 

 「………………そうだね」

 

 「詩音は、人を撃つときどんなことを考えてるの?」

 

 

 春陽の追求に詩音は口を噤む。

 詩音にとって殺人とは、今や息をすることと変わりないものになっていた。

 悪人だとわかれば引き金を引き、一切の情けはかけない。

 そうして彼女が積み上げた死体の数は軽く500を超す。

 

 詩音は自分の白くて皺のひとつもない綺麗な手を見る。

 肌から見れば誰もが羨む、まるで降り積もった新雪のような美しさだ。

 しかし、彼女の目にはそんなものは映らない。

 決して拭うことのできない悪人たちの地で染まった汚くてドス黒い赤。

 耳からは銃声と、死に悶え苦しむ悪人たちの声が次々と聞こえてくる。

 

 何をしても楽しくない。

 なんの達成感も得られない。

 

 彼女は今や、DAにとっては非常に都合の良い殺人マシーンへと変わり果てたのだ。

 

 

 「………………春陽は人を殺す必要ないよ。あなたは慈愛の心を持って闘うの。でも、中にはあなたの思いから逸脱した人間が現れる。その時は、私を呼んで。あなたの代わりに私が撃つから」

 

 「詩音……………」

 

 「……………はいっ!湿っぽい話はもうおしまい!ほらっ、リリベルの友達の話聞かせてよ」

 

 「ボクも詩音の友達の話聞きたいなぁ」

 

 「私はいいの。春陽のことをもっと教えて」

 

 

 10分足らずというほんの短い時間。

 だが、2人にとって幸せな時間に変わりない。

 このまま更に大人になり、将来は寮を出て2人だけの家を手に入れずっと一緒にいる。

 そう、信じてやまなかった。

 

 あの事件が起きるまでは─────。

 

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

 リコリスとリリベルは普段共に任務をするような間柄ではないのだが、その任務だけは違った。

 

 それが、"刑務所襲撃事件" 。

 

 襲ったテロリストの他に、収容されていた極悪非道の罪人たちがテロリストと結託し暴動を起こしたのだ。

 リコリス、リリベル共に50人近くが出動しそれぞれの現場指揮官は詩音と春陽に委ねられた。

 彼は初任務以降、しっかりと功績を残しファーストへあと一歩といところまできていたのだ。

 そんな中での詩音との初めての共同任務。

 燃えないはずがなかった。

 

 司令部の作戦としては、リコリスが先陣に立ち敵の戦力を削ぎ外をリリベルが固めるといったもの。

 テロリスト及び罪人たちを1人残らず始末するためだ。

 次々と銃撃し暴動を鎮めるリコリスたちだったが被害は甚大だった。

 数で圧倒され始め手に負えない状況に、春陽が率いるリリベルたちも戦線に加わった。

 兵力の差で五分に持ち込んだが春陽と詩音以外は致命傷を負い、敵はまだ何十人と残る。

 主犯と思われる緑の髪をした男が先頭に立つ。

 

 

 「よお。おまえらがこの国のバランスを保ってる連中か?」

 

 

 フランクに話すこの男、真島は銃口を2人に向けながら話しを続ける。

 

 

 「よくもまあこんだけの人数を殺ってくれたな。仲間集めだって楽じゃないんだぜ?」

 

 「この…………!」

 

 「春陽。あの人とまともに会話しちゃダメ」

 

 「だって──────」

 

 「私に任せて」

 

 

 危険を察知した詩音は春陽を下がらせ真島の正面に立つ。

 

 

 「あなたの目的はわかってる。囚人を解放して仲間を募ろうとしたのでしょう?」

 

 「正解♪同じ思想を持った奴らがこんなところで燻ってるんだから、出さないわけにはいかないだろ?」

 

 「危険な思想ね。あなたこそ、この収容所にふさわしいんじゃないかしら」

 

 

 詩音も真島に銃口を向けた。

 

 

 「そこにいる囚人もろとも、あなたも牢獄(ここ)で永遠に眠っててもらうわ」

 

 「ハッ。やってみろ!!」

 

 

 真島は詩音に向かって発砲するが、それを鞄で弾く。

 反撃と言わんばかりに、詩音も数発真島へと発砲する。

 その最中、彼女は春陽にあること任せた。

 

 

 「あの男は私が捕まえる。春陽は残りをお願い。数は20。1人でも大丈夫?」

 

 「心配ないよ。詩音はそいつに集中してて。ボクがすぐに加勢にいくから」

 

 「お願いね」

 

 

 春陽に託し、詩音は真島と撃ち合いながら奥へと姿を消す。

 残った囚人たちは春陽に向かい戦闘体制をとる。

 

 

 「詩音からお願いされたからには絶対にやり遂げるので、大人しく捕まってくださいね」

 

 

 襲い掛かる囚人に対し、春陽は急所を確実に撃ち抜く。

 それでも動くやつには近接で打撃を見舞い戦闘不能にする。

 持ち前の俊敏さ(アジリティ)と射撃技術を生かし次々と敵を制圧する。

 

 全ての敵が倒れ、春陽は一目散に詩音の元へと向かう。

 

 

 (大丈夫。詩音なら……………!)

 

 

 春陽はそう信じてやまなかった。

 詩音なら犯人を必ず捕まえ待ってくれていると───────

 

 

 「よぉ。早かったじゃねぇか」

 

 

 春陽の目に映ったのは、首を掴み上げられ苦渋の表情を浮かべる詩音と関心するような目を向ける犯人だった。

 

 

 「ッ!!詩音から手を離せ!!」

 

 

 春陽は銃口を犯人に向ける。

 激昂する彼に対し、真島はあくまで冷静に詩音へ銃を向ける。

 

 

 「いいのか?お前が引き金を引いた瞬間、コイツの命は無くなるぜ?」

 

 「くっ!」

 

 「は………………るひ………………」

 

 

 真島の指示通り、春陽は銃を下ろした。

 

 

 「そうだ。それでいい」

 

 「お前の言いなりになるわけじゃない。彼女を助けるためだ」

 

 「それもお前の任務か?」

 

 「違う。使命だよ」

 

 「ハッ!カッコいいじゃねぇか。そういうの好きだぜ俺」

 

 

 1人興奮しながら話す真島。

 だが、佇まいからして一部の隙もなくどうすることもできなかった。

 引き金を引けば自らの命と引き換えに詩音を殺すだろう。

 詩音が傷付けばその時点でアウト。

 主導権は完全に真島が握っていた。

 

 

 「お前にひとつ訊きたいことがある。この世は皆平等だと思うか?」

 

 「…………ノーだ」

 

 「そう。俺も同じ意見だ」

 

 

 真島は詩音を掴み上げたままゆっくりと後退する。

 

 

 「金持ちと貧乏人。優等生と劣等生…………まあ、なんでもいい。この世は実にアンバランスだと思わないか?」

 

 「少なくとも僕は不自由と感じたことは一度たりともない」

 

 「『ボクにはこの女がいたからどんなことでも耐えることができました!』ってか!?ハッ、なんて自分勝手な奴」

 

 「キミだけには言われたくないね」

 

 「じゃあ訊くが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って考えたことはあるか?」

 

 「………………えっ?」

 

 「『楽しかった』、『嬉しかった』、『幸せだった』。それはあくまでお前個人の思いだ。コイツがそう感じてるとは考えられない」

 

 「………………バカなこと、言わないで!」

 

 

 真島の言葉に詩音は反発する。

 

 

 「ヘェ。結構痛めつけてやったはずなのにまだ動くか」

 

 「私も、春陽と同じよ………………大切で、大事な家族。あなたみたいな犯罪者なんかに、私たちの気持ちを踏み躙られるなんて我慢できない………………!」

 

 「美しい兄弟愛じゃねぇか。お前らを見てると、殺された仲間との時間を思い出す」

 

 

 真島は寂しそうな表情で空を見る。

 

 

 「寝食を共にし、この国で革命を起こそうと思想を共有し戦ってきた。結果、正義の味方面をしたクソガキたちに殺された……………大切な仲間を殺しやがって──────ゆるさねぇ」

 

 「お前だってボクたちの仲間を殺しただろ!」

 

 「一緒にすんなよ。俺が殺した奴らは()()()()()()()()()()()()()()()()()。重みが違う」

 

 

 真島は詩音の胸に拳銃を突く。

 

 

 「このままだとバランスが悪い。双方納得のいく結果にならねぇとなぁ!!」

 

 「やめろおおおお!!」

 

 

 春陽は堪らず引き金に指をかける。

 狙いはもちろん、犯人の頭。

 脳幹を狙えば即死し詩音を助けることができるのだが、春陽は誰よりも正確な射撃技術を身につけていてそこを狙い撃ちすることも可能だ。

 いつもどおり。

 訓練通りにポイントを合わせ引き金を引けば弾は勝手に犯人を殺すことができる。

 

 

 だが───────

 

 

 「……………!?」

 

 

 手にしていた拳銃は弾詰まりを起こし、発射されることなくその場に止まる。

 春陽の心はいつも通り冷静だった。

 しかし、その持ち物がいつも通りとは限らない。

 

 

 「くそっ!なんで!?」

 

 「あばよっ」

 

 

 パァァンッ!!!

 

 

 無情にも犯人の弾が詩音の体を貫き、その場にドサッと鈍い音を立て倒れる。

 

 

 「詩音……………詩音ーーー!!」

 

 

 春陽は一目散に駆け寄る。

 

 

 「これでバランスが取れた。また会ったら、互いの大切なものをかけて殺し合おうぜ♪」

 

 

 真島は笑い、背を向けながら手を振りこの場を立ち去る。

 

 

 「はる、ひ…………?」

 

 「詩音!詩音!!」

 

 

 出血がひどくがまだ息がある。

 輸血しきちんと縫合することができればきっと助けられる。

 春陽の頭の中にはこのことしか思い浮かんでいない。

 

 

 「こちらガンマ1!アルファ1が撃たれて重傷を……………至急救護を───────」

 

 

 春陽の手にそっと手を添える詩音はゆっくりと首を振る。

 

 

 「だめ。私はもう…………たすからない」

 

 「諦めちゃダメだ!詩音は…………絶対助ける!」

 

 「心臓を─────撃たれちゃった」

 

 「……………えっ?」

 

 「ごめんね………………私……………もう、ダメみたい………………」

 

 

 春陽はシオンの手をぎゅっと握る

 

 

 「死んじゃダメだ!!まだまだ一緒にやりたいことがある………………行きたいとこだって、まだ………………」

 

 「ごめんね、ごめんね………………」

 

 

 ポロポロと春陽の涙がこぼれ落ち、詩音もまた涙を流す。

 しかし、刻一刻と死は迫ってきていて、詩音の握る手に力が入らなくなる。

 

 

 「おかしいな………………目が、霞んで見えるよ……………春陽?いるの?」

 

 「あぁ。ここにいるよ」

 

 「また、独りぼっちにさせちゃうわね……………私、お姉ちゃん失格だ…………」

 

 「そんなわけない!詩音は、ボクの恩人だ。感謝しても仕切れない……………」

 

 「春陽は………………優しいね」

 

 

 にこやかな笑顔を浮かべる詩音。

 本来は苦痛でつらいはずなのに、義弟の前では一切の弱みを見せない。

 

 

 「可愛くて……………私だけの、優しくて、頼もしくて………………大好きな、私の春陽」

 

 「詩音………………?」

 

 「ずっと………………大好きよ………………」

 

 

 握っていた手に完全に力がなくなり、和かな笑顔のまま彼女は永遠の眠りについた。

 慈愛に満ちたその笑顔はまるで、今にも目を覚ますかのように清らかなものだった。

 

 

 「うわあああああああ!!!」

 

 

 発狂する春陽の元へ、応援要請を受けたリコリスたちが到着する。

 悲惨とも言える惨状を目にし、泣き叫ぶ春陽を見ればこの状況を理解するには十分だった。

 

 

 『……………こちら救護チーム。ガンマ1を残し、全員死亡』

 

 

 リコリスの1人が本部にそう伝え、各自散る。

 声を枯らし、気を失う頃には事件の全ては終わりを迎えており、春陽は病院のベッドの上にいた。

 むくりと起き上がり、あたりを見渡すも誰もいない。

 

 そばに置いてあった携帯の電源を入れると、事件から1週間ほど経過しており、彼はその間一切目覚めることがなかったのだ。

 

 

 「…………………」

 

 

 頭痛、めまいといった症状が彼を襲うが全く意に介さず近くにあった洗面所に立ち鏡の自分見る。

 虚となり、ハイライトの灯らない瞳。

 無気力で今にも死んでしまいそうな自分の姿を見て彼は嘆いた。

 

 

 「これは……………ひどいね」

 

 

 大切な人の死。

 それは、春陽にとって自らが死ぬことよりも辛く耐え難い苦痛となった。

 

 その後、治療を経て現場に復帰するも銃を握れなくなり役立たずとなった彼は東京へ送還されそこでも劣等生の烙印を押されてしまったのだ。

 

 

 

………………………

 

 

……………

 

 

 

 そして現在に戻る。

 悲しみに暮れながらもなんとか実戦復帰を果たした春陽は今、喫茶リコリコの店員たちと楽しく仕事をしている。

 

 そんな彼だが、配属して初めてミカに休暇を申し出たのだ。

 

 

 「あれ?春陽は?」

 

 

 いつもなら厨房にいるであろうその姿を、千束はキョロキョロと探す。

 

 

 「休みだ」

 

 「仕事一辺倒がめっずらしい」

 

 「確かにそうですね」

 

 

 あまりの珍しさにミズキも驚いた様子を見せる。

 

 

 「風邪でもひいたんでしょうか?」

 

 「いや、例の感染症かも」

 

 「どちらでもない」

 

 

 勝手に予想する面々に対しミカはキッパリと否定する。

 

 

 「なら、デートか?」

 

 「いやいやないでしょ」

 

 「ありえなくはないですよ。春陽は結構お客さんにも人気ありますし

 

 「ガールフレンド連れてきた日には私が締め上げてやる!」

 

 

 ミズキの冗談にみんなが苦笑いする中、ミカは改まったような表情で口を開いた。

 

 

 「………………まあ、お前たちになら言ってもいいだろう」

 

 「「「「えっ?」」」」

 

 「義姉さんのお墓参りだそうだ。今年で3回忌らしいからな」

 

 

 場面は移り春陽へ。

 毎年彼は大阪支部の近くにあるお墓に足を運んでいる。

 そこには殉職したリコリスやリリベルたちが役目を果たし眠りについているのだ。

 

 その一角にあるお墓に春陽は水をかけ、綺麗に手入れし線香に火をつけ手を合わせる。

 

 

 「久しぶりだね。詩音」

 

 

 そこに眠る義姉に声をかける。

 

 

 「天国(そっち)はどうかな?詩音はずっと働き詰めだったんだからちゃんと休むんだよ」

 

 

 まるで詩音が目の前にいるかのように近況を話す。

 

 

 「………………ここ最近はうまくやれてるよ。いい仲間と巡り会えてね、すっごく充実してるんだよ。これも、詩音のおかげなのかな?ふふっ。キミなら今頃、神になっていてもおかしくないからね」

 

 

 春陽は合わせた手を離しメガネに手をかける。

 

 

 「キミに似合うと言われたメガネ、似合うかな?」

 

 

 詩音が死に、部屋の片付けを行った際机の引き出しに『春陽へ』と書いた紙の上に一つのメガネが置いてあった。

 きっと彼に渡す予定のものだったんだろう。

 春陽はその日以降欠かさずメガネを掛け続け現在に至る。

 

 そのメガネは今も家に大切に保管している。

 

 

 「やっぱり………………寂しいね。詩音。もっとキミの─────側にいたかった」

 

 

 優しく撫でてくれる彼女はもういない。

 『大丈夫だよ』と励ましてくれるその声も今は聞くことができない。

 

 あの事件は、今でも春陽の心の中に負の記憶として刻み込まれている。

 

 

 「………………さて、そろそろ帰るよ」

 

 

 春陽は立ち上がり、再度墓を見る。

 

 

 「近頃また大きな事件が立て続けに起こってるからね。こんなボクでも力になれることがあるなら全力で頑張るよ。だから、天国で見守っててね」

 

 

 彼は背を向け歩き出す。

 そんな彼の携帯に一件のメールが入っていた。

 

 

 『緊急指令。至急連絡求む』




大切な人を失うとやっぱり辛いですよね。


過去編、長くなってしまいすみませんでした。
投稿も遅れすみませんでした
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