リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第十五話 The most dangerous man

 外はすっかり陽が落ちるのが早くなり、暗くなった街には危険な雰囲気が漂う。

 夜は悪人たちが顔を出す時間。

 平和な日本でもそんな輩は少なからずいる。

 

 

 「………………何の御用でしょう」

 

 

 背もたれの長い椅子に腰を下ろすDA上層部の虎杖に春陽は険悪な表情を浮かべ向かい合う。

 どうやら極秘の要件らしくミカにさえ伝えられないと言う。

 

 

 「キミの実力を評価してある仕事を依頼したい」

 

 「またボクを囮にしてリコリス殺しを捕まえる気ですか?」

 

 

 呆れたようにため息をつく春陽。

 模擬戦以降、彼は虎杖に対して苛立ちや嫌悪といった感情を抱くようになりそれを隠すことすらしなくなった。

 本来なら何らかの処分が下ってもおかしくないのだが、虎杖はその言動を咎めることはせず寛容な姿勢で話す。

 

 

 「囮などではない。DA内で最もキミに適任の仕事を依頼したい」

 

 「と言うと」

 

 「地下格闘技で無敗神話を打ち立て続けるチャンピオン。その男の抹殺だ」

 

 

 地下格闘技とは生きるか死ぬかを賭けたデスマッチ。

 勝った方には莫大の金が入り、負けた方には多額の負債を背負わされるというありきたりな違法のギャンブルだ。

 本来その地下格闘技に参加する選手は雇い主に首輪と手錠で繋がれる。

 その姿から "イヌ" と揶揄されているのだが、そんな男をどうして…………?

 春陽の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。

 

 

 「その男を殺害するに至った経緯を教えてください。極秘、なんて言葉で誤魔化すのは無しですよ?」

 

 「当然だ。男を殺すように我々に依頼してきたのは、その男の雇い主だ」

 

 「雇い主?」

 

 「強いが故に制御が効かず、自身も殺されかけたことがあるらしい。首輪に仕込んだ高圧電流を受けても平然と立っていられる男だそうだ」

 

 

 諸刃の剣、とはまさにこのことだ。

 男も真っ当な職につけば、英雄として讃えられていただろうに。

 才能をもつ者ほどその能力を無駄にする。

 

 

 「依頼主は、違法ギャンブルで得た全財産を渡す代わりに自分は見逃せと懇願してきた」

 

 「それをあなたたちは了承した、と…………やはり本部は腐りきってるようですね」

 

 「何と言われようと構わん。キミも将来わかることだ」

 

 「そんな汚い金に頼るほど、経済的に苦しんでいるのですか?もういっそのことこんな組織無くしてしまえばいい」

 

 「日本の平和が保たれなくなってもいいと言うのか?」

 

 「少なくとも、あなた方のような人間が志す平和をボクは望まない」

 

 「─────青星」

 

 「…………………っ!?」

 

 「そう、青星 詩音だ。大阪支部でファーストリコリスをしていたキミの家族というのは」

 

 

 突如虎杖の口から告げられたその名前。

 春陽は怒りをあらわにする。

 

 

 「あなたの汚らしい口で彼女の名を呼ぶのはやめてください!!」

 

 

 眉間に皺を寄せ、拳をぎゅっと握りしめる。

 これ以上余計なことを言えば春陽は間違いなくその拳を虎杖に振るうだろう。

 

 だが、年長者ということもあってか虎杖は冷静だ。

 

 

 「昔、彼女と会ったことがある。その時、私に対してこんなことを言っていた。『どんな手を使ってでも大切なものを守りたい』と」

 

 「詩音……………」

 

 「私たち本部の人間が大切にしているのはこの国の治安維持だ。彼女の考えと同じように、我々もどんな手を使ってでも守り通さねばならない。キミはそんな考えを否定するのか?」

 

 「………………詩音は、決して悪事に手を染めていない」

 

 「だが人を殺した。何百人とな」

 

 「それはあなた方が指示したからでしょう!?」

 

 

 バンッ!と強く机を叩き、虎杖をキッと睨みつける春陽。

 

 

 「彼女は死して尚、利用価値がある。キミを縛るには良い存在だ」

 

 「……………これ以上、詩音を侮辱するようなことを言えば……………あなたと言えど──────殺しますよ」

 

 

 殺意に満ちた春陽の表情は、メガネを破壊されたあの時に勝るとも劣らない迫力を見せる。

 

 

 「今回の依頼を成功したあかつきには、依頼主からの契約金の20%をキミに譲渡する」

 

 「そんな汚い金、あなた方のくだらない大切なものに使うといい。それが報酬だというのであれば交渉は決裂。2度とあなた方の依頼は引き受けない」

 

 

 春陽は虎杖に背を向け、この場をさろうとする。

 

 

 「……………そうか。キミがそのつもりならこちらも強硬手段に出なければならない」

 

 「強硬手段?」

 

 

 立ち止まり、顔だけを虎杖に向ける春陽。

 

 

 「キミの所属している部署だが、経営難に陥っているようだね」

 

 「………………それがなにか?」

 

 「キミたちの主な資金源は我々からの依頼によるものだ。錦木 千束のおかげで何とかやれているようだが、その供給が無くなればどうなると思う?それだけではない。仕入れ先の圧力だってありえる上に、口コミで悪評を流せばたちまちあの店は終わりを迎えるだろう」

 

 「自らの願望のために……………そこまでするのか!!」

 

 

 拳に力が入り、温厚な春陽の瞳に怒りが満ちる。

 

 

 「分かったか?キミの返答は "YES" 以外あり得ないのだ」

 

 「ッ……………」

 

 

 立場は完全に虎杖が上。

 嘘だと思いこのまま立ち去ることも可能だが、金を受け取る代わりに犯罪者をみすみす見逃すような連中だからこそやりかねない危険性がある。

 それだけではない。

 ライセンス剥奪ともなれば、千束やたきなの今後の進退にも影響を及ぼす。

 

 この極秘任務を引き受けたとしても、万が一失敗すれば春陽が死ぬだけでは済まない。

 あまりに不利で危険。

 春陽にとって何らメリットもない。

 

 

 「………………こちらがこの任務を受けるメリットは?」

 

 「キミの望みを二つ叶えてやろう。だが、あくまで常識の範囲内での話だ。本部に復帰するのもいい。依頼料の増額でもいい。成功したその時に聞くとする。考えておきたまえ」

 

 

 まるで7つの玉を集めたら出現する神の龍のような言葉だ。

 もちろん劣化版ではあるが。

 

 

 「わかりました。受けさせていただきます」

 

 「では、本題に入るとしよう」

 

 

 その後、虎杖から任務の概要を説明される。

 要約すると、春陽は地下格闘技に選手として出場し、リング上で男と対峙し確実に殺さなければならない。

 身体能力において最も優秀な数値を叩き出した春陽が選出されたのもこれが原因だ。

 銃が使えない他のリリベルがリングに立てば、たちまち殺されるだろう。

 

 

 「作戦は明日からだ。今日はゆっくりと体を休めるがいい」

 

 「わかりました」

 

 

 春陽は足早に部屋を出る。

 そのまま誰ともする違うことなく外へ出て、帰路に着く

 辺りはすっかり暗くなり、ヒューッと冷たい風が春陽を襲う。

 

 

 「……………まだ、死にたくないな」

 

 

 17歳の子供とは思えない重苦しい言葉。

 リコリスやリリベルの現役はせいぜい18歳であり、その歳を迎えるまでに9割以上が殉職する。

 いつ死ぬかもわからない人生。

 それを彼は今、喫茶リコリコの店員たちと共に謳歌しているのだ。

 

 まだ、死ねない。

 

 彼の意志はどんな石より堅い。

 

 

 

………………………

 

 

……………

 

 

 

 翌日、春陽は喫茶リコリコに向かうことなく本部から送迎される車に乗り込み、格闘機が行われる闘技場へと向かう。

 他の参加者と同様、彼にも首輪と手錠をつけられているが他と決定的に違うのは電流装置などの機能がないこと。

 歯向かえばどうなるかは春陽は十二分に理解しているためその必要がないと踏んだのだろう。

 その首輪の製造やコストがバカにならないからだ。

 

 受付を済ませ、案内人に連れられ更衣室へと入る。

 そこでは衣類は全て脱がされ上半身は裸、下は薄い短パンのみの格好にされる。

 そのままエレベーターで地下へ、さらに地下へと降りていく。

 エレベーターがたどり着いた先には、まるで牢屋のような空間が広がっていた。

 首輪を嵌められ、鉄の檻に閉じ込められた男たちが春陽を見る。

 

 案内人に指示された檻の中へ入り、地べたに腰を下ろす。

 その様子を見た春陽の前の檻にいる男は、ニッと白い歯を見せながら話しかける。

 

 

 「よぉ。見ねぇ顔だな」

 

 

 ジャラジャラと鉄が擦れる音を響かせ、男は立ち上がり檻の眼前に立つ。

 

 

 「新入りか?いい身体してるじゃねぇか」

 

 

 筋骨隆々と言った感じではないものの、無駄のない発達した筋肉が特徴的な逞しい身体。

 右肩に入れてある鳳仙花の刺青に加えて黒髪に入った金メッシュ。

 その男の風貌に春陽は見覚えがあった。

 

 

 「初めまして。不死身の暴君(チャンピオン)

 

 

 春陽の目の前に立つ男こそ、地下格闘技において無敗を誇りターゲットでもある人物。

 名を月島(つきしま) (かなで)

 不死身の暴君という異名を持つ、最強で最恐、そして最悪の男だ。

 

 

 「なんだ、オレを知ってるのか?」

 

 「ボクの雇い主から聞きました。ボクは、あなたの対戦相手の篠原 春陽です」

 

 「へぇ、オマエが。お互い命があるといいな」

 

 「ええ。そうですね」

 

 

 これから殺し合う二人は笑って返し合う。

 春陽はこれまで社会に害を成す人間には敵意を向けていたが悪人であるはずの奏に対してはそんなそぶりを見せることもなく普通に話しているのだ。

 春陽自身この複雑な感情に理解できないでいるが、深く考えず思いのままに会話しようとする。

 

 

 「ボクの雇い主はお喋りなのであなたのことを何でも教えてくれました。色々と知ってますよ?」

 

 「面白いこと言うな。教えてくれよ」

 

 「月島 奏。19歳。元々は街の不良で、喧嘩において敵なしだったところを今の雇い主さんに実力をかわれ今に至る。とか」

 

 「クククッ、大まかだが合ってるな。ついでにこれも付け加えておけ。"月島 奏はアランチルドレンだ" ってな」

 

 「………………えっ!?」

 

 

 アラン機関。

 全く予想だにしていなかったその言葉に春陽は動揺した。

 その様子を見て奏はケラケラと笑い、その場に再び腰を下ろす。

 

 

 「流石にこれは知らなかっただろ?」

 

 「え、ええ………………」

 

 「誰にも言わなかったからな。このことを知ってるのはオレとオマエだけだ」

 

 「どうしてボクなんかに話したんですか?」

 

 「はあ?理由なんざねェよ。話したくなったから話した。それだけだ」

 

 

 奏も春陽同様、本心で話を進める。

 

 

 「アランチルドレン──────あなたにもきっと素晴らしい才能があったんでしょうね」

 

 「さあな。それを知る前に施設の人間を全員ぶっ殺したからな」

 

 「全員……………」

 

 「別にそれが初めてじゃねぇよ。ガキの頃から盗み、騙し、殺してきた。『日本は平和で安全。世界で最も優れた法治国家』なんて謳っちゃあいるが、陰はただの()()国家だ」

 

 

 月島奏は間違いなく悪人だ。

 しかし、彼の話を聞いて春陽は否定的な気持ちを持っている。

 任務として漫然に人を殺すリコリスやリリベルとは違い、彼らは生活の為に殺意を向ける。

 温室育ちのボクは表の人間とは違い奏は言わば、裏の世界の住人。

 話のような惨状を目の当たりにしてしまえば、彼もまた生きるために悪の道へと進んでいただろう。

 

 そんな彼に対し春陽は1番の疑問をぶつける。

 

 

 「人を殺すことは好きなんですか?」

 

 「別に。オレが暴力を振るえば勝手に死んでるだけだ。快楽のために人殺しをしてるわけじゃねェ」

 

 

 やはり、ただの悪人ではなかった。

 ホットしたのも束の間、奏は白い歯をニッと見せ楽しそうに口を開いた。

 

 

 「だが──────強い奴と拳を交えるのは大好物だ!」

 

 

 悪は悪でも、奏の心は真っ直ぐで純粋。

 ただ強い奴と生死をかけた喧嘩がしたい。

 今のこの環境は彼にとって楽園ともみて取れる。

 

 

 「なるほど………………わかりました。キミが楽しめるようこちらも全力を尽くします」

 

 「あぁ♪」

 

 

 一連の会話で春陽が感じたことは、月島奏は悪い人間ではないが()()()()()であるということ。

 状況次第では殺さず利用することも少なからず可能だろうが、この手の人間は話に応じることはないだろう。

 喧嘩をこよなく愛する純粋無垢の悪。

 気を抜けば殺られるこは春陽の方なのかもしれない。

 

 何があろうと外へ出してはいけない。

 例え彼を殺害してでもだ。

 




自分の執筆する作品のオリジナルキャラを登場させてみました。

あれとは全く別の世界線なので全く気にしないでください。


そちらの方も読んでいただけると嬉しいです。
感想、評価お待ちしてます。
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