リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第十七話 Paradox

 会員制のバーにて。

 以前は喫茶リコリコの従業員たちに邪魔されてしまったが、今日は全員が何かしらの予定が入り尾行はされていない。

 ミカにとっては好都合だ。

 一人先にカウンター席へ座り人を待つ。

 

 

 「やあ。お待たせ」

 

 

 品のあるスーツを纏う男、吉松シンジは軽く手を挙げミカの隣に腰を下ろす。

 そして、バーテンがロックグラスへ見事に削った丸氷とウィスキーを入れ二人に手渡した。

 二人は目を合わせ、カチンとグラスを合わせる。

 

 

 「それで、話ってなんだ?」

 

 

 早速と言わんばかりにミカは話を切り出した。

 

 

 「"地下格闘技場賭博事件"。それを解決に導いたのは篠原 春陽だったそうだな」

 

 「ああ。私も、後から訊いた」

 

 「危険な相手だったそうだが、見事任務は遂行。さすが、身体能力においてリリベル史上最強の名は伊達じゃない」

 

 「今もDAで取り調べ中だ。多くは話さなかったが、色々あったんだろう」

 

 

 ミカからすれば、もしかしたら春陽を任務で死なせていたかもしれない。

 DAへの怒りは相当なものだろう。

 しかし、それ以上に春陽のことが心配でならないといった様子だ。

 

 

 「キメラ細胞に耐痛体質…………彼のことを実験動物(モルモット)と言っていた過去の自分が恥ずかしい」

 

 「子供はちょっとしたことがきっかけで大きく成長することができるからな。かつて、リコリスの訓練教官をしていた時のことを思い出す」

 

 「彼の場合、青星 詩音がまさにそうだったんだろう。死んだ彼女も同等の身体能力を有していたのだから」

 

 「失ったものを考えても仕方がない。春陽も今は前を向いて生きている」

 

 「強い子だな」

 

 「そうだな」

 

 

 まるで春陽の親のように感慨深い思いで話す二人。

 

 

 「おっと、話が逸れてしまったな。それじゃあ本題に入らせてもらう」

 

 「ああ」

 

 「篠原 春陽をアラン機関の用心棒として迎え入れたい」

 

 

 吉松の唐突な提案にミカは驚く。

 

 

 「用心棒って……………アラン機関は支援した人物へ接触することはできないんじゃないのか?」

 

 「我々は彼を支援していたつもりはない。だから、フクロウのチャームを渡していないんだ」

 

 「あくまで、いちリリベルとしてということか」

 

 「その通りだ。あのフィジカルに加えて耐痛体質となれば最強の矛、そして盾にもなり得る素晴らしいボディガードになれるはずなんだが」

 

 「それは私が決めることではない。春陽自身が決めることだ」

 

 「彼にその意志があるなら連絡してくれ。キミから話を通してくれると助かる」

 

 「自分で言わないのか?」

 

 「しばらく忙しくなるからな。今日ここへ呼んだのは、単純にキミと話がしたかっただけだ」

 

 「そうか。私もお前の顔が見れて嬉しかったよ」

 

 

 ウィスキーを全て飲み、二人は席を立つ。

 長話は無用。

 大人の会話はスマートに、そして端的なのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 場面は変わり喫茶リコリコへ。

 経営難から一転、たきなの策略により一気に黒字へと押し上げられ店は大忙しだ。

 彼女が考案した新メニューは見た目はアレだが、味は絶品。

 常連、新規関係なく客の列が途切れることがない。

 そんな中、春陽の携帯電話が鳴りそれに出ると彼にとっては嫌な人物が口を開いた。

 

 

 『任務ご苦労だった』

 

 「…………どうも」

 

 

 春陽を労う言葉とは裏腹に虎杖に感情の変化はない。

 できて当然、と言ってるようにすら感じる。

 

 

 「手短にお願いします。今、店が立て込んでいるので」

 

 『無論、そうするつもりだ。こちらも暇ではないからな』

 

 

 咳払いし虎杖は話を続ける。

 

 

 『以前キミと約束した望みを聞こうと思ってな。こちらで可能な限り用意するつもりだ』

 

 「なんだ、そのことでしたか」

 

 『何なりと言いたまえ。金か?地位か?キミの望むものを──────」

 

 「あなた方に望むものなんてありません」

 

 「…………なにっ?」

 

 

 虎杖の声色が変わった。

 

 

 「ボクは今の平穏無事な生活が気に入っています。リコリコのみんなと平和で自由気ままに暮らせればそれでいい」

 

 『それ以外は何も求めないと?』

 

 「はい。いくらあなた方でも、邪魔だてするなら容赦しませんよ」

 

 『そうか』

 

 「他に何か要件はありますか?」

 

 『─────では、月島 奏の話でもしようか』

 

 

 地下格闘技で一戦交えた男。

 骨折等の大怪我を負い全く動けない状態のはずだが、話を持ち出すということはここ数日で何か変化が起きたのだろう。

 

 

 『驚くべきことなんだが、傷はすでに完治している』

 

 「もうですか……………!?」

 

 『脅威的な回復能力だ。人間の域を超えているとしか言いようがない』

 

 

 彼も春陽同様、アランチルドレンの一人だ。

 どんな "才能" の持ち主か本人すら知らなかったが、思わぬところでその正体が判明した。

 そうともなれば非常に危険だ。

 DAから脱走する可能性が大いにある上、春陽に再戦を挑みかねない。

 それどころか、関係のない一般市民に危害を加えかねないほどの危険人物だ。

 一刻も早く対処しなければ取り返しがつかなくなる。

 

 

 「それで彼は今どこに?」

 

 『本部の地下に留置している。彼をいずれはリリベルにしようと言う案も出されたが、すぐに却下された』

 

 「当然でしょう」

 

 『あの暴君に勝ったキミならば言うことを聞くと思うのだが?』

 

 「可能性はゼロです。諦めてください」

 

 『仕方ない。彼は永久に牢獄に閉じ込めておくとしよう』

 

 

 月島奏は決して悪人ではないが、安心して野放しするわけにもいかない。

 本部の判断は妥当といえるだろう。

 

 

 「春陽〜!!はやく帰ってこーーい!!」

 

 

 厨房の奥にいた春陽をミズキが大きな声で呼び戻そうとする。

 はーい、と返事を返し、虎杖へと話を戻す。

 

 

 『これからもよろしく頼む』

 

 「ええ。こちらこそ」

 

 

 淡白に会話は終わり、春陽は厨房へと戻る。

 

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

 店のピークも過ぎ去ったころ、店に一本の電話が鳴った。

 本部の医師、山岸からだ。

 どうやら定期検診に行っているはずの千束が未だ来院していないという。

 不思議に思い、たきなは千束に電話をかけたが、急用で遅れる、とだけ言い残し電話を切ったらしい。

 元々病院に行きたがらない千束のことだからゴネて家に引きこもっていると確信したたきなと春陽は、店を二人に任せて千束の家へと向かう。

 

 

 「千束には振り回されてばかりですね」

 

 「まあ、それが彼女のいいところだからね」

 

 「どちらかというとマイナスの方が大きいです」

 

 「はははっ。たきなちゃんは厳しいなぁ」

 

 「春陽が優しすぎるだけです。もっと怒っていいんですよ?」

 

 「ボクは迷惑をかけられてると思ってないから。でも、山岸先生にはちゃんと謝らなきゃいけないね」

 

 「やっぱり春陽はいい人すぎです…………」

 

 

 呆れながらも小さく笑うたきな。

 

 

 「たきなちゃんもいい子だよ」

 

 「わ、私は別に……………」

 

 「最初の頃より柔らかくなったと思うよ。言葉も、顔つきも」

 

 「顔は余計です」

 

 「はははっ。接客のおかげかな」

 

 

 終始穏やかな空気。

 たきなはその空気にそぐわぬ話題をふっかける。

 

 

 「春陽は本部に戻りたくないんですか?」

 

 

 その質問に春陽は口を閉ざす。

 彼は本部の "闇" を多く見てきた。

 自分自身をリコリコへ左遷したことに感謝はしているが、今後本部に戻る気はないと考えている。

 本部へ返り咲こうと誰よりも奮闘しているたきなにそんなことを言っていいのか、春陽は考えているのだ。

 

 

 「ボクは本部より今の方が落ち着くから、このままでいいと思ってる」

 

 「ですが、仕事の内容が違いすぎます。私たちはカフェの店員でなければ、保育園や日本語学校の先生でもありません。殺人が許可されたエージェントなんですよ?」

 

 「逆に聞くけど、たきなちゃんは本部に戻って何がしたいの?」

 

 「それは……………」

 

 「国を守るのも立派な仕事だけど、今の平和な暮らしを守る方がボクは大切だと思うな。ミカさん、ミズキさん、クルミさん、千束ちゃん、そして、たきなちゃん────国よりもごく僅かだけど大切なものには変わりはない。今のボクにとって喫茶リコリコは何物にも変え難い大切な場所なんだ。これからもずっと、ボクはここを守り続けるつもりだよ」

 

 

 遠くを見つめながら話す春陽の意志は固い。

 たった5人だけれど、彼にとっては自らの命より大切な存在。

 誰であれあろうと、それを傷つけようとするのであれば一切容赦はしない。

 例えば相手が本部であっても。

 

 

 「春陽はやっぱり優しすぎです」

 

 「そうかな?」

 

 「もっと自分を大切にしてください」

 

 「善処するよ」

 

 

 二人で話していると千束のセーフティハウスへと着いた。

 インターホンを鳴らそうと指を動かしたその瞬間扉が開き、予想外の人物が何食わぬ顔で姿を見せた。

 過去に千束を襲撃した男、真島だ。

 たきなは一瞬動揺するも、すぐに戦闘態勢をとり銃を抜き引き金を引くが、真島は足払いをして銃弾を外させる。

 そのまま逃げるようにマンションの外壁を軽やかに伝い降りるが、春陽もその後を追う。

 

 

 「待てっ、真島!!」

 

 

 春陽の大きな呼び声に真島は動きを止めた。

 

 

 「なんだぁ?」

 

 「ボクのことを覚えているか?」

 

 

 その問いかけに真島は顎に指を置き考える仕草をとり数秒考えた後、答える。

 

 

 「さあな」

 

 「そうか。じゃあ───────」

 

 

 春陽はかけていたメガネを取り、再度真島を見る。

 

 

 「これならどうだ?」

 

 「……………ッ!その目!!目覚えあるなぁ」

 

 「詩音を殺された日からずっとお前を探していた。お前を……………殺すために!!」

 

 

 大きく目を見開いた春陽は真島の眼前まで近づき、顔面へ回し蹴りをするも間一髪かわされ、続く右ストレートもかすることなく空を切る。

 

 

 「おいおい。いきなり殴りかかるとは、血の気が多い奴だなぁ」

 

 「うるせぇ!!」

 

 

 たきなが上から援護射撃するも、右は左へ移動しながらそれもかわす。

 まるでどこへ撃つのかわかってるかのような身のこなしだ。

 

 

 「これじゃあまともに話せそうにないな。まあ、テメェの()()がわかればそれでいい──────かっ!」

 

 

 真島は閃光弾を足下に投げ、皆の目が慣れた時にはその姿はそこにはなかった。

 完全に見失ったと判断した春陽はメガネをかけ、たきなと千束のいるところへよじ登る。

 

 

 「ごめん。逃げられちゃった……………」

 

 「仕方ありませんよ。それより千束、あの男に何もされてませんか?」

 

 「あ〜、大丈夫大丈夫」

 

 

 手をひらひらと振り笑顔を浮かべる千束。

 

 

 「千束ちゃんは他のセーフハウスに移った方が良さそうだね」

 

 「それを言うなら春陽もじゃないの?」

 

 「ボクは大丈夫だよ」

 

 「いやいやそういう考えが命取りに─────」

 

 「とにかく!!二人とも安全なセーフハウスに移動すること!!いいですね!?」

 

 「「は、はい………………」」

 

 

 年下に怒られる歳上の二人。

 千束はその後、ずっと定期検診に行っていなかったことも含めて更に怒られたのであった。




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ご愛読本当にありがとうございます。


物語は終盤へ。
年内完結を目指します
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